説明

真菌類の鑑別方法、鑑別キット及びオリゴヌクレオチド

【課題】 真菌類の鑑別において、所属する高次分類群がケカビ目接合菌類であるか、あるいは、担子菌類であるかを、正確、迅速、簡便、かつ安価に鑑別する方法を提供すること。
【解決手段】 ケカビ目接合菌類用プライマーセット又は担子菌類用プライマーセットを利用することにより、純粋真菌株から調製した染色体DNAにPCR反応を実施すれば、その所属する高次分類群を鑑別でき、また、染色体DNAの混合サンプルにPCR反応を実施すれば、それに含まれるケカビ目接合菌類又は担子菌類に由来する染色体DNAを検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、門〜目レベルで真菌類を鑑別する方法に関する。より具体的には、真菌類のうちケカビ目接合菌類及び担子菌類を遺伝子レベルで迅速、簡便、確実かつ安価に検出して鑑別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌類は、大きくは担子菌類、子嚢菌類、接合菌類、ツボカビ類の4門に分類される(非特許文献1)。この分類は真菌類の有性生殖様式に依存した分類法であり、比較形態学的類似性に深く依存している。また、18S rRNA遺伝子の塩基配列等からの分子系統学的証拠も概ねこの門レベルの分類を支持している。
【0003】
生物の分類は階層構造となっており、主要な階級では上位から界、門、綱、目、科、属、種となっている(非特許文献2)。
【0004】
真菌類をカビ(molds)、キノコ(mushrooms)、酵母(yeasts)という外見的・便宜的に分類する方法もあり、直感的な理解のしやすさから、伝統的に使用されている。しかし、生物進化学的に真菌類を分類すれば、カビの範疇に入る真菌類は4門すべてに分布し、キノコの範疇に入る真菌類は担子菌類と子嚢菌類の双方に分布する。また、酵母は、1967年よりも前までは子嚢菌類のみであったが、それ以後は担子菌類と子嚢菌類の双方に分布している。このように真菌類をカビ、キノコ、酵母というように分類する方法は直感的に理解しやすいものではあるが、進化学的・生物学的に意味がないことから、分類学的には採用されていない。
【0005】
従来、酵母を除く真菌類の分類と鑑別はあらゆる分類階級において専ら形態学的観察による方法(形態法)を用いて行われてきた。しかし、この方法は相当の熟練度と観察のための時間を要するため、産業上利用しやすい技術ではなかった。
【0006】
細菌の分類と同定においては、形態観察の他に糖類の資化性等の生化学的検査も用いられ、これらの技術は酵母にも採用されてきた。しかし、これらを用いた検査はその検査項目が多く煩雑で手間がかかり、にもかかわらず正確で客観的な結果を得ることが難しかった。なお、これらの技術がカビやキノコに適用されることはなく、依然として形態観察が分類及び同定の拠りどころとなっていた。
【0007】
近年では細菌の分類学的再編が主に16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いた方法により行われており、真菌類もこれにやや遅れて、リボソームRNA等の遺伝子の塩基配列を利用した分類が行われるようになってきた。そのことを反映し、真菌類の同定も細菌を同定する場合と同様の遺伝子塩基配列を利用した方法(シークエンス法)が一般的になりつつある。
【0008】
真菌類を、系統進化を基礎とした分類に従って認識することは、そのものの本質を理解し、産業上の利便を図る上で重要である。例えば、病原真菌分野においてカンジダ アルビカンス(Candida albicans)とクリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)はともに重要な病原性酵母であるが、前者が子嚢菌類(子嚢菌系酵母)であるのに対し、後者は担子菌類(担子菌系酵母)であり、細胞壁の多糖類組成に相異が見られる。細胞壁の有無はヒトを始めとする動物の細胞と病原真菌の細胞の最大の相違点であるため、そこを標的とした抗真菌剤が存在する。細胞壁のβ-1,3-D-グルカン合成の阻害を作用機序とする抗真菌剤は、子嚢菌系酵母であるカンジダ アルビカンス(Candida albicans)に対する抗真菌活性は示すものの、担子菌系酵母であるクリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)に対する抗真菌活性は示さないという違いが出る場合がある。また、接合菌症でケカビが主要な原因真菌であり、かつ、クリプトコッカス症に有効な抗真菌剤が効かない場合もあるので、担子菌類かケカビ目接合菌類かを判断することが重要になる場合がある。
【0009】
このように、真菌の属や種に至る程度の詳細な同定をしなくとも門レベルまでの鑑別で十分な場合も多くある。
【0010】
前述したように、従来の形態法を実行するためには、作業者の熟練が必要であり、また、培養と形態観察に時間がかかるといった欠点や、鑑別を行うために必須の有性又は無性の生殖器官が形成されなければ、何ら威力を発揮しないといった欠点があった。
【0011】
一方、シークエンス法を行うためには作業者には基本的な分子生物学的知識と技能が要求されるが、操作そのものは容易であり、格別の錬度は要求されない。しかし、DNAシークエンサ(塩基配列解読装置)が必須であるため、イニシャルコスト及びランニングコストが大きく、利用可能なユーザーが限定されている。
【0012】
真菌類を門〜目レベル相当までの高次分類群まで鑑別する目的に対しては形態法及びシークエンスともに適応可能であるが、迅速性、正確性、経済性及び簡便性においてそれぞれの方法に対して優位である方法によって必要な情報を得ることができれば、その方が望ましい。
【0013】
近年、PCR法等の遺伝子増幅技術によって特定の真菌のみの遺伝子を迅速かつ特異的に検出し、それをもって該真菌の鑑別・検出となす方法が報告されている。この方法であれば安価な遺伝子増幅装置(PCRサーマルサイクラー等)を導入するのみでよいが、これまでになされたこの方法での真菌の鑑別に関する報告は、対象真菌がガノデルマ ボニネンセ(Ganoderma boninnense)のみであるもの(特許文献1)、カンジダ(Candida)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属及びアスペルギルス(Aspergillus)属のそれぞれ一部菌種のみであるもの(特許文献2)、カンジダ(Candia)属の5菌種のみであるもの(特許文献3)、カンジダ(Candia)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属の一部菌種に限定されるもの(特許文献4)、対象範囲が不明確なもの(特許文献5)、リゾクトニア(Rhizoctonia)属のみに限定されるもの(特許文献6)、担子菌類のうちマツタケ等の一部菌根菌に限定されるもの(特許文献7)、及び、一部のカンジダ(Candida)属、アスペルギルス フミガツス(Aspergillus fumigatus)とプネウモサイスティス カリニイ(Pneumocystis carinii)に限定されるもの(特許文献8)等であり、真菌類の高次分類群、即ち、門〜目レベルで真菌を鑑別・検出しようという発想及び方法は今まで無かった。
【0014】
真菌類の限定された属や種ではなく、門〜目レベルでの高次分類群を正確、迅速、安価かつ簡便に鑑別・検出できる手段が提供されることにより、上記の例に挙げた医療分野だけではなく、マイコフローラ解析等の環境分析分野や品質管理分野においても利用がなされるものと考えられる。
【特許文献1】特開2001-314199号公報「オイルパーム病害菌ガノデルマ・ボニネンセの検出法及び検出用プライマー」
【特許文献2】特開2002-142774号公報「真菌検出用核酸及びそれを用いた真菌の検出方法」
【特許文献3】特開2002-142775号公報「カンジダ属真菌検出用核酸及びそれを用いたカンジダ属真菌の検出方法」
【特許文献4】特開2004-201636号公報「病原真菌遺伝子の検出方法及び真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチド」
【特許文献5】特開2004-201637号公報「病原真菌遺伝子の検出及びそれに用いるオリゴヌクレオチド」
【特許文献6】特開平10-234381号公報「リゾクトニア属菌検出用の核酸配列」
【特許文献7】特開平5-252999号公報「菌根菌検出用DNAプローブ」
【特許文献8】特開平8-89254号公報「真菌の検出および真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチド」
【非特許文献1】Kirk, P. M. 他編、Ainsworth & Bisby's Dictionary of the Fungi, 9th Ed., 2001, CAB Publishing
【非特許文献2】八杉龍一他編、岩波生物学辞典第4版、1996、岩波書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
真菌類を高い精度で客観的に鑑別・検出をするためには遺伝子レベルでの比較・検出を行うことが望ましいが、このためには遺伝子の塩基配列を決定し、塩基配列データベースに対する相同性検索を行うことが必要不可欠であった。しかし、塩基配列を決定することは、当該真菌の純粋分離・培養後のゲノムDNA抽出、18S rRNA遺伝子等の領域の遺伝子増幅手段によるDNA断片増幅、塩基配列決定用サイクルシークエンシング反応及びDNAシークエンサによる塩基配列解読を行い、塩基配列を決定した後、国際塩基配列データベース等の塩基配列データベースに対してBLAST等の相同性検索手段を用いて検索を実行する必要があった。この方法(シークエンス法)ではDNA断片増幅のためのPCR反応に3時間程度、塩基配列解読の準備段階としてのサイクルシークエンシング反応に3時間程度、さらに塩基配列解読に3時間程度を要し、午前中に真菌検体を受領し夕方に結果を出すという迅速性を求められる需要に対応できなかった。
また、シークエンス法では広い範囲の真菌に対して同じプロトコールを適用する必要性から、PCR反応に使用するオリゴヌクレオチドプライマーは真菌類全般の遺伝子増幅が可能なものが使用されており、選択性が無い。そのため、真菌検体は純粋でなければならず、混合系で当該真菌が存在するか否かを検出することができなかった。
本発明の目的は、検体中に含まれる真菌類の18S rRNA遺伝子の塩基配列の違いを利用し、PCR反応を利用することにより、形態法によるよりも高精度、迅速、かつ簡便に、シークエンス法によるよりも迅速、簡便かつ安価に、ケカビ目接合菌類及び担子菌類を鑑別する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題解決のため、真菌類全般にわたる18S rRNA遺伝子の塩基配列に関し種々の検討を重ね、真菌類のうちケカビ目接合菌類に共通する塩基配列及び担子菌類全般に共通する塩基配列が存在することを見出した。
【0017】
上記の知見に基づいてなされた請求項1記載の本発明は、真菌類を鑑別する方法であって、鑑別対象の菌類のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、特異的な増幅産物が認められた場合に、その菌類をケカビ目接合菌類であると鑑別する方法である。
また、請求項2記載の本発明は、真菌類を鑑別する方法であって、鑑別対象の菌類のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、特異的な増幅産物が認められた場合に、その菌類を担子菌類であると鑑別する方法である。
また、請求項3記載の本発明は、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを少なくとも含んでなるケカビ目接合菌類を鑑別するためのキットである。
また、請求項4記載の本発明は、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを少なくとも含んでなる担子菌類を鑑別するためのキットである。
また、請求項5記載の本発明は、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドである。
また、請求項6記載の本発明は、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドである。
また、請求項7記載の本発明は、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドである。
また、請求項8記載の本発明は、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、形態法によるよりも高精度、迅速かつ簡便に、シークエンス法によるよりも迅速、簡便かつ安価に、ケカビ目接合菌類及び担子菌類の鑑別・検出が可能な鑑別方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の真菌類の鑑別方法において、鑑別対象の真菌類のDNAを調製する方法は特段制限されるものではなく、自体公知の方法で調製することができる。もちろん市販のDNA抽出キットを用いて調製してもよい。
【0020】
核酸増幅を行う際に用いるフォワードプライマーとリバースプライマーは、自体公知の方法で化学合成してもよいし、設計の由来となった真菌類の遺伝子から制限酵素等を利用して直接切り出すことも可能であり、また、それらの遣伝子をE. coli等のプラスミドにクローニングし、細菌の増殖の後にプラスミドを回収し、切り出して利用することも可能である。核酸増幅に用いるDNAポリメラーゼや反応条件は特段制限されるものでない。本発明においてプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドは、自体公知の種々の核酸増幅方法を利用するのに十分な長さを有するので、真菌類の門〜目レベルでの鑑別を短時間で精度よく行うことができる。核酸増幅を変性・アニーリング・伸長の三工程で行う場合、温度サイクル条件としては、例えば、90℃〜96℃で1秒〜60秒→50℃〜70℃で1秒〜120秒→65℃〜75℃で1秒〜120秒といった条件を標準的な条件として挙げることができるが、この条件に限定されるものではない。増幅産物の有無は、例えば、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いた電気泳動により行えばよいが、この方法に限定されるものではない。
【0021】
配列番号1に記載のオリゴヌクレオチド(5'-tcagttatgatctac-3')と配列番号2に記載のオリゴヌクレオチド(5'-rttygactacggacg-3')は、それぞれ、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子のpos.106-120とpos.637-623に相当する。配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いて核酸増幅を行うと、鑑別対象の菌類がケカビ目接合菌類の場合のみ特異的な増幅DNA断片(目的とする単一の増幅産物:以下同じ)を得ることができる。例えば、鑑別対象の菌類がケカビ目接合菌類のアブシジア コリムビフェラ(Absidia corymbifera)の場合は524bp、ムコル ヒエマリス(Mucor hiemalis)の場合は536bp、ムコル ラセモサス(Mucor racemosus)の場合は536bp、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)の場合は534bp、リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)の場合は533bp、リゾムコル ミエヘイ(Rhizomucor miehei)の場合は515bp、シルシノムコル シルシネロイデス(Circinomucor circinelloides)の場合は534bp、リゾプス オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)の場合は532bp、ムコル プルムベウス(Mucor plumbeus)の場合は537bpの特異的な増幅DNA断片を得ることができる。菌株により塩基配列及び塩基配列長に若干の相違があるため、おおよそ500〜550bpの特異的な増幅DNA断片が得られれば、鑑別対象の菌類をケカビ目接合菌類であると判断できる。
【0022】
配列番号3に記載のオリゴヌクレオチド(5'-aggattgacagattgata-3')と配列番号4に記載のオリゴヌクレオチド(5'-tarcgacrggcggtgtgtac-3')は、それぞれ、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子のpos.1223-1240とpos.1646-1627に相当する。配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いて核酸増幅を行うと、鑑別対象の菌類が担子菌類の場合のみ特異的な増幅DNA断片を得ることができる。例えば、鑑別対象の菌類が担子菌類のプレウロツス ツベレギウム(Pleurotus tuberregium)の場合は424bp、18S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号5に記載のモニリエラ アセトアブタンス(Moniliella acetoabutans)の場合は441bp、配列番号6に記載のモニリエラ スアベロレンス(Moniliella suaveolens)の場合は447bp、配列番号7に記載のスポロトリクム プルイノスム(Sporotrichum pruinosum)の場合は424bp、配列番号8に記載のワレミア セビ(Wallemia sebi)の場合は427bp、アガリカス ビスポラス(Agaricus bisporus)の場合は423bp、フィロバシジエラ ネオフォルマンス(Filobasidiella neoformans)の場合は423bpの特異的な増幅DNA断片を得ることができる。菌株により塩基配列及び塩基配列長に若干の相違があるため、おおよそ400〜450bpの特異的な増幅DNA断片が得られれば、鑑別対象の菌類を担子菌類であると判断できる。
【0023】
また、本発明によれば、真菌類の検出において、調製した染色体DNAにケカビ目接合菌類及び/又は担子菌類に由来する染色体DNAが含まれることを正確、迅速、簡便、かつ安価に検出することができる。即ち、本発明によれば、ケカビ目接合菌類と担子菌類を特異的に鑑別できるため、複数種類の真菌類の染色体DNAの混合サンプル中に、ケカビ目接合菌類及び/又は担子菌類に由来する染色体DNAが含まれているか否かを判断できる。複数種類の真菌類の染色体DNAの混合サンプルは、複数種類の真菌類が存在する試料から染色体DNA調製手段を用いて調製されたものでもよいし、純粋分離した菌株から単独に染色体DNA抽出手段を用いて抽出した染色体DNAを混合して調製されたものでもよい。染色体DNAの調製に際しては「Genとるくん」(タカラバイオ)等の市販キットを利用することができる。また、PCR反応は「PCRビーズ」(アマシャムバイオサイエンス)等を利用して試薬調製を行うことができる。
【0024】
本発明はまた、真菌類の鑑別キットを提供する。このキットは、核酸増幅を行うためのフォワードプライマーとリバースプライマーを少なくとも含んでなるものであるが、その他に、DNAポリメラーゼ、dATP,dCTP,dTTP,dGTPの各溶液、バッファー等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0026】
実施例:ウーロン茶の製造工程における微生物フローラ検査例
ウーロン茶製造の各工程から採取した茶葉サンプルについて微生物の分離を行った。カビ・酵母の分離にはクロラムフェニコール添加PDA培地(以下PDA培地)を用い25℃で7日間培養した。生育してきたコロニーを分離し、純粋培養を行って8つの鑑別サンプルを得た。それぞれの鑑別サンプルについて、市販のキットを用いて純化したコロニーから染色体DNAを調製した。このDNAを鋳型とし、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号2に記載のオリゴヌクレオチド(4種類のオリゴヌクレオチドの混合物として使用)からなるケカビ目接合菌類鑑別用プライマーセットと、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載のオリゴヌクレオチド(4種類のオリゴヌクレオチドの混合物として使用)からなる担子菌類鑑別用プライマーセットを用いて、PCR反応を一般的な方法に従って行った。反応産物を電気泳動で確認したところ、ケカビ目接合菌類鑑別用プライマーセットを用いたPCR反応では、図1に示すように、サンプル4とサンプル6に約530bpのDNA断片の特異的な増幅が認められた。担子菌類鑑別用プライマーセットを用いたPCR反応では、図2に示すように、サンプル1とサンプル5に約400bpのDNA断片の特異的な増幅が認められた。従って、サンプル1とサンプル5の菌類は担子菌類、サンプル4とサンプル6の菌類はケカビ目接合菌類、これら以外のサンプルの菌類は担子菌類でもケカビ目接合菌類でもないことがわかった。なお、別途の28S rDNAのD2領域のシークエンス法による解析により、サンプル1の菌類はチャワンタケ目(Pezizales)(担子菌類)、サンプル4の菌類はムコル(Mucor)属(ケカビ目接合菌類)、サンプル5の菌類はタコウキン目(Polyporales)(担子菌類)、サンプル6の菌類はリゾプス(Rhizopus)属(ケカビ目接合菌類)であることを確認した。
【0027】
参考例:
図3は真菌類の代表的な菌種を記載した表である。
図4はケカビ目接合菌類に特異的な塩基配列を含む18S rRNA遺伝子の領域を示す図である。図中、(A)は子嚢菌類、(B)は担子菌類、(C)はツボカビ類、(Zm)はケカビ目接合菌類、(ZZ)はケカビ目以外の接合菌綱接合菌類、(ZT)はトリコミケス綱接合菌類である(図5〜図7も同じ)。ケカビ目接合菌類についての囲み部分は、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーの領域である。この領域はサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子の塩基配列の106→120に相当する。サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の下線部はプライマー位置に対応する塩基配列を示す。
図5はケカビ目接合菌類に特異的な塩基配列を含む18S rRNA遺伝子のその他の領域を示す図である。ケカビ目接合菌類についての囲み部分は、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーの領域である。この領域はサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子の塩基配列の637→623に相当する。サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の下線部はプライマー位置に対応する塩基配列を示す。
図6は担子菌類全般に特異的な塩基配列を含む18S rRNA遺伝子の領域を示す図である。担子菌類についての囲み部分は、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーの領域である。この領域はサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子の塩基配列の1223→1240に相当する。サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の下線部はプライマー位置に対応する塩基配列を示す。
図7は担子菌類全般に特異的な塩基配列を含む18S rRNA遺伝子のその他の領域を示す図である。担子菌類についての囲み部分は、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーの領域である。この領域はサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(登録番号:J01353)の18S rRNA遺伝子の塩基配列の1646→1627に相当する。サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の下線部はプライマー位置に対応する塩基配列を示す。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、形態法によるよりも高精度、迅速かつ簡便に、シークエンス法によるよりも迅速、簡便かつ安価に、ケカビ目接合菌類及び担子菌類の鑑別・検出が可能な鑑別方法が提供される点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ケカビ目接合菌類用プライマーセットを用いたPCR反応の結果
【図2】担子菌類用プライマーセットを用いたPCR反応の結果
【図3】真菌類の代表的な菌種を記載した表
【図4】真菌類の18S rRNA遺伝子塩基配列の多重整列配列の中の、ケカビ目接合菌類において高度に塩基配列が保存されている領域で、配列番号1の塩基配列を与える位置を示す図
【図5】真菌類の18S rRNA遺伝子塩基配列の多重整列配列の中の、ケカビ目接合菌類において高度に塩基配列が保存されている領域で、配列番号2に相補的な塩基配列を与える位置を示す図
【図6】真菌類の18S rRNA遺伝子塩基配列の多重整列配列の中の、担子菌類において高度に塩基配列が保存されている領域で、配列番号3の塩基配列を与える位置を示す図
【図7】真菌類の18S rRNA遺伝子塩基配列の多重整列配列の中の、担子菌類において高度に塩基配列が保存されている領域で、配列番号4に相補的な塩基配列を与える位置を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌類を鑑別する方法であって、鑑別対象の菌類のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、特異的な増幅産物が認められた場合に、その菌類をケカビ目接合菌類であると鑑別する方法。
【請求項2】
真菌類を鑑別する方法であって、鑑別対象の菌類のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、特異的な増幅産物が認められた場合に、その菌類を担子菌類であると鑑別する方法。
【請求項3】
配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを少なくとも含んでなるケカビ目接合菌類を鑑別するためのキット。
【請求項4】
配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを少なくとも含んでなる担子菌類を鑑別するためのキット。
【請求項5】
配列番号1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号3に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号4に記載のオリゴヌクレオチド。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−174902(P2007−174902A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373592(P2005−373592)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】