説明

眼の医学的症状の治療用組成物

【課題】網膜疾患、特に網膜変性疾患の治療用藻類抽出物の使用に関する。
【解決手段】9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンを含む、被検者の眼の医学的症状の治療用又は予防用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜疾患、特に網膜変性疾患の治療用藻類抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系の一部である網膜は自発的に十分再生することができないため、疾患又は外傷により生じた障害は、もしそれが細胞死につながるものであれば、視野の減少及び最終的には失明に至ることもある形態的及び機能的損傷を生じる。
【0003】
後天性疾患及び損傷に対する網膜の脆弱性に加えて、視覚サイクルは入り組んだ相互依存による一連の化学反応によることから、眼の働きは中枢神経系の他の部位に比較してより複雑なものとなっている。この一連の反応は、桿体外節中の(ビタミンAから生成される)レチナールと共有結合する(膜結合プロテインである)オプシンという発色団によって光子が吸収されることによって開始され、網膜神経細胞が活性化される。吸収によって、11-cis-レチナールデヒドからオール-trans-レチナールデヒドへの発色団の異性化が起こる。露光に続く発色団の再生には、その結合及び機能によって発色団に継続的に視覚能を付与する複雑な酵素経路が関与する。この経路の殆ど全ての段階における異常は、ヒト遺伝の網膜ジストロフィーの原因となる。
【0004】
網膜ジストロフィー異常は主に3つの機能的構造タイプ−光受容体の外節の脱離及び再生障害、視覚伝達カスケード欠陥、及びレチノールの代謝欠陥−に分類することが可能である。これらは視覚発色団の欠陥又は合成低下及び/又はオール-trans-レチナールデヒドに由来する細胞毒性生成物の蓄積を伴うものである。
【0005】
加齢性黄斑変性等の後天性レチナール変性には、光受容体の破壊及びディスク分解能の減少が関与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】Brown M, Marmor M, Vaegan, Zrenner E, Brigell M, Bach M (2006) ISCEV standard for clinical electro-oculography (EOG) 2006. Doc Ophthalmol. 113:205-212.
【特許文献2】Fishman GA, Chappelow AV, Anderson RJ, Rotenstreich Y, Derlacki DJ. Short-term inter-visit variability of erg amplitudes in normal subjects and patients with retinitis pigmentosa. Retina. 2005 Dec;25:1014-21.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、全てのタイプのジストロフィーを、例えばDunaliella BardawilといったDunaliella algae中に存在する発色団類似体を補充することにより治療することが可能であることが発見された。
【0008】
加齢性黄斑変性等の後天性レチナール変性は、同様の処置により阻止又は逆行させることが可能なプロセスである。
【0009】
この藻類の他の使用法としては、視サイクルに特別な基質を供給することによって、視力、特に夜間視力、を増強させることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンを含む医薬組成物は、眼の医学的症状を治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、正常人及び患者の治療前後の視野の平均偏差を示す棒グラフである。
【図2】図2は、正常人及び患者の治療前後のb波振幅最大応答を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の記載事項は、以下のような予備的臨床試験においてテストされ成功した。
被検者
正常人:年齢58.6±5.6才の眼科検診において何の病状もない5人の被検者に、約50%のオール-trans-β-カロチンと50%の9-cis-β-カロチン異性体とを含む市販のDunaliella Bardawil (DUNA)を毎日4カプセル(15mg)90日間与えた。被検者の視力、マイクロスコピカル眼圧及び網膜電位図(ERG)について試験前及び90日間の治療後に試験を行った。正常人及び(弱視を除く)患者の両目に対して治療の前後に視野中心24-2閾値テストを行った。
【0013】
患者:年齢32±11才の臨床的及び遺伝学的に先天性停在夜盲症(CSNB)と診断された5人の患者に、同様の市販のDunaliella Bardawilを毎日4カプセル90日間与えた。
【0014】
被検者に対して治療の前後にISCEVコンプライアント・プロトコールを用いたERG(LKC Technologies, Inc., ゲーサーズバーグ、メリーランド州)により両目の試験を行った。薄暗シングルフラッシュ刺激(0.023cd-s/m2)及び輝シングルフラッシュ刺激(2.44cd-s/m2)について暗順応応答を記録した。白色背景光(0.023cd-s/m2)に続く白色シングルフラッシュ刺激(2.44cd-s/m2)及び白色2.44cd-s/m2 30Hzフリッカーによる10分間の明順応を行った。暗順応ERGを30分間記録した後、患者を更に90分間暗順応させ(合計120分の暗順応)、その後に明順応させた。波形の振幅潜伏時間を測定し、処置後の応答からERG応答の基線を引算し、それぞれの眼の基線応答で割算することにより変化の割合を測定した。
【0015】
結果
治療の前において、視力が20/200の弱視である1人の患者を除いて、全ての正常人及び患者の両目の最良修正視力は20/20であった。
【0016】
治療前後の正常人グループの平均偏差は統計学上意味のある向上を示さなかった(T-テスト、p=0.291)。治療の前において、平均した患者の視野平均偏差は、−5.16±2.25であった。治療後、平均偏差は、−3.42±3.12と顕著に向上した(T-テスト、p=0.019)。
結果は図1に要約されている。
【0017】
網膜電位図
正常人:正常人のERGの応答変化パーセンテージは表1にまとめられている。平均分離桿体(rod)応答振幅は、治療前において199±57μVであり、治療後には184±49μV(p=0.340、T-テスト)であった。最大暗順応のa波及びb波振幅応答は、基線と相違がなかった。治療前の平均a波振幅は186±61μVであり、治療後は181±28μVであった(p=0.307、T-テスト)。治療前の平均b波振幅は361±61μVであり、治療後は370±79μVであった(p=0.615、T-テスト)。明順応条件におけるERGの応答は基線から有意な差を示さなかった。治療前の平均a波振幅は28±4μVであり、治療後は25±5μVであった(p=0.451、T-テスト)。治療前の平均b波振幅は106±24μVであり、治療後は108±26μVであった(p=0.797、T-テスト)。30Hzフリッカー応答は、治療前の平均振幅が73±12μVであり、治療後の平均振幅が86±16μVであって基線から有意な差がなかった(p=0.099、T-テスト)。しかしながら、1人の被検者は両目における30Hz応答が90%という臨床的に有意な向上を示した。この向上は被検者数の少ないこのグループにおいては統計的に評価することはできなかった。
【0018】
【表1】

【0019】
患者:CSNB患者の応答は表2にまとめられている。30分間の暗順応に対する最大暗順応ERG応答は基線から有意な変化がなかった(a波及びb波最大桿体応答は、それぞれ15%±55%及び42%±109%であった)。しかしながら、120分間の暗順応適合最大ERGのb波応答は2倍となり、a波及びb波最大桿体応答は、それぞれ17%±52%及び68%±63%に増加した。平均b波最大応答振幅は、治療前は194±56μVであり、治療後は300±52μVであった(p<0.001、T-テスト)。120分間の暗順応の後、平均分離桿体応答のb波振幅は、基線の86±40μVから治療後には184±105μVに向上した(p<0.001、T-テスト)。全ての患者は、b波差代及び分離桿体応答振幅において臨床的に有意な向上を示し、それはそれぞれの患者の両目において同様であった。明順応シングルフラッシュa波及びb波応答及び30Hzフリッカー応答(表2)は有意な差(0.11〜0.571)を示さなかった。
【0020】
【表2】

【0021】
結果は図2に要約されている。
【0022】
結論:藻類であるDunaliella bardawilの経口投与により少数の先天性停在夜盲症患者における暗順応機能が有意に向上した。
【0023】
本願発明による治療が提案される医学的状態:
【0024】
劣勢網膜色素変性症
優勢網膜色素変性症
X連鎖型網膜色素変性症
不完全優勢X連鎖型網膜色素変性症
レーバー先天性黒内障
優勢レーバー先天性黒内障
網膜色素変性症による劣勢後柱運動失調
RPEの下肢小動脈蓄積による劣勢網膜色素変性症
網膜色素変性症RP12
アッシャー症候群
感音難聴を伴う優勢網膜色素変性症
劣勢白点状網膜症
劣勢アルストレーム症候群
劣勢バルデービードル症候群
黄班性ジストロフィー又は網膜変性を伴う優勢脊髄小脳性運動失調
劣勢無β-リポ蛋白血症
黄班変性を伴う劣勢網膜色素変性症
成人性劣勢レフサム病
小児性劣勢レフサム病
劣勢増進s錐体症候群
精神障害を伴う網膜色素変性症
筋障害を伴う網膜色素変性症
劣勢ニューファウンドランド桿体錐体ジストロフィー
網膜色素変性症sinpigmento
扇状網膜色素変性症
局所的網膜色素変性症
Senior-Loken症候群
ジュベール症候群
【0025】
若年性シュタルガルト病
遅発性シュタルガルト病
優勢シュタルガルト型黄班性ジストロフィー
優勢シュタルガルト状黄班性ジストロフィー
劣勢黄班性ジストロフィー
劣勢黄色班眼底
劣勢錐体桿体ジストロフィー
X連鎖型進行性錐体桿体ジストロフィー
優勢錐体桿体ジストロフィー
錐体桿体ジストロフィー、グルーシー症候群
優勢錐体ジストロフィー
X連鎖型錐体ジストロフィー
劣勢錐体ジストロフィー
過剰桿体網膜電位を伴う劣勢錐体ジストロフィー
X連鎖型萎縮性黄班性ジストロフィー
X連鎖型網膜分離
優勢黄班性ジストロフィー
加齢性黄斑変性
優勢放射状黄班ドルーゼン
優勢標的黄班性ジストロフィー
優勢蝶型黄班性ジストロフィー
優勢成人卵黄様黄班性ジストロフィー
優勢ノースカロライナ黄班性ジストロフィー
優勢網膜錐体ジストロフィー1
優勢嚢形黄班性ジストロフィー
優勢異型卵黄様黄班性ジストロフィー
foveo黄班性萎縮症
優勢ベスト黄班性ジストロフィー
進行性優勢ノースカロライナ黄班性ジストロフィー
貧毛を伴う若年性劣勢黄班性ジストロフィー
劣勢中心窩発育不全及び前区発育異常
劣勢錐体順応遅延
青錐体単色症における黄班性ジストロフィー
2型糖尿病及び難聴を伴う黄班性パターンジストロフィー
神鳥班点網膜
パターンジストロフィー
【0026】
優勢スティックラー症候群
優勢マーシャル症候群
優勢硝子体網膜変性症
優勢家族性滲出性硝子体網膜症
優勢硝子体網脈絡膜症候群
優勢新生血管炎症性硝子体網膜症
ゴールドマン-ファーヴル症候群
【0027】
劣勢色盲
優勢第三色盲
劣勢桿体単色症
先天的赤緑色盲、緑色盲、赤色盲、緑色弱、赤色弱
【0028】
Nougaret型優勢先天性停在夜盲症
Schubert-Bornschein型先天性停在夜盲症
劣勢小口病
優勢先天性停在夜盲症
劣勢先天性停在夜盲症
遅発性優勢黄班性ジストロフィー
劣勢白点眼底
X連鎖先天性停在夜盲症
不完全X連鎖先天性停在夜盲症
【0029】
劣勢脳回転状萎縮
優勢限局性萎縮
優勢中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー
X連鎖コロイデレミア
乳頭状中心性輪紋脈絡膜萎縮
優勢進行性二重焦点脈絡網膜萎縮
進行性二重焦点脈絡網膜萎縮
【0030】
優勢ドインの蜂巣状網膜変性(Malattia Leventinese)
エナメル質形成不全症
劣勢Bietti結晶性網膜角膜ジストロフィー
レーノー現象及び偏頭痛を伴う優勢遺伝性血管性網膜症
優勢ヴァーグナー病及びびらん性硝子体網膜症
劣勢小眼球症及び網膜症候群
劣勢小眼球症
劣勢遅滞、痙性、及び網膜変性
劣勢ボスニアジストロフィー
劣勢弾性線維仮黄色腫
劣勢バッテン病(若年型セロイド脂褐素症)
優勢アラジル症候群
マックシック−カフマン症候群
HARP症候群
劣勢ハレルフォルデン−シュバッツ症候群
優勢ソーズビー眼底ジストロフィー
オレゴン眼病
キーンズ・セイアー症候群
神経性異常を伴う発達性網膜色素変性症
Basseb Korenzweig症候群
フルラー病
サンフィリポ病
Scieie病
黒色腫を伴う網膜症
Sheen網膜ジストロフィー
デュシェーヌ黄班性ジストロフィー
ベッカー黄班性ジストロフィー
バードショット脈絡網膜炎
複数消失性白点症候群
急性帯状不顕性外網膜症
網膜静脈閉塞
網膜動脈閉塞
糖尿病性網膜症
網膜毒性
網膜傷害
網膜レーザー外傷
眼内異物金属
加齢性黄班変性
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンを含む医薬組成物を、眼の医学的症状の治療又は予防に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンを含む、被検者の眼の医学的症状の治療用又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
前記9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンが新鮮又は乾燥した藻類に由来するものである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンがDunallielaに由来するものである請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンがDunalliela Bardawilに由来するものである請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
眼投与用に配合された請求項1乃至4の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抽出物又は粉末を含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記9-cis-レチナール又は9-cis-β-カロチンが純粋物である請求項1乃至5の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
先天性停在夜盲症を治療する又は予防するための請求項1乃至7の何れか1項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263328(P2009−263328A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−270231(P2008−270231)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【出願人】(504277012)テル・ハシヨメル・メデイカル・リサーチ・インフラストラクチヤー・アンド・サービシズ・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】