説明

眼機能検査薬およびそれを用いた眼機能測定方法

【課題】 房水流出や網膜細胞活性等の眼機能を、生体内において空間的(平面的ないし立体的)、高感度かつリアルタイムに測定することができる眼機能検査薬および非侵襲的かつ動物再利用可能な眼機能測定方法を提供すること。
【解決手段】 超短半減期放射性核種により標識された物質を含有することを特徴とする眼機能検査薬、並びに当該眼機能検査薬を被験体に投与する工程および被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする眼機能の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、房水流出や網膜細胞活性等の眼機能を検査するための検査薬、当該検査薬を用いた眼機能の測定方法および房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質などの眼機能調節物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障、高眼圧症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、白内障、加齢性黄斑変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症等の眼疾患においては、房水の流出障害による眼圧の上昇、網膜視細胞及び網膜神経細胞の障害、眼循環の障害、視野の狭窄、失明、水晶体の混濁等の様々な眼機能の変性、障害が生じており、眼疾患の様々な症状と関係している。
【0003】
したがって、このような眼機能を感度よく測定できれば、早期かつ高感度の眼疾患の診断に利用できると考えられ、また、疾患の発症原因研究、治療薬の作用機作研究、病態モデルの解析、治療薬開発等にも応用できると考えられる。
【0004】
現在、緑内障、高眼圧症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、白内障、加齢性黄斑変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症等の眼疾患の診断においては、眼圧測定、眼底検査、視野検査、隅角検査、視力検査、眼血流検査、細隙灯顕微鏡検査等が行われている。しかしながら、これらの方法を上記眼疾患の診断に用いる場合、例えば、空圧圧平式眼圧計を用いる場合、眼圧の変化だけでは、薬物の影響が房水産生率と房水流出率のどちらに影響したのか、また仮に房水流出率に影響を与えたとしても、その作用が主経路と副経路のどちらに影響を与えたのか区別できないし、更に、本件方法は技術的に難しいため高度な技術と熟練を要する上に、再現性に乏しい欠点がある。また、房水の流出抵抗を見る方法としてのトノグラフィを両眼に実施する場合、第1眼の測定が第2眼の測定に影響を及ぼすし、人為的に高い圧力をかけることによる眼への侵襲が避けられない欠点がある。さらに、これら従来の検査法は、眼疾患の症状を観察しているに過ぎないため、眼機能の状態や動態を調べることはできず、また、症状が進行してからでないと検出できないことが多いため眼疾患の早期発見には適さないものであった。
【0005】
一方、動物の眼中に蛍光物質を投与することにより、房水循環を測定する試みがなされている(非特許文献1、2、3、4および5参照)。しかしこの方法では、蛍光物質として、蛍光発色団を有する比較的分子量の大きな化合物を使用する必要があるため液体中での動態に制限があり、房水そのものの動態の絶対値を必ずしも反映しない。また、主経路と副経路の弁別のために、トータルの流出計測と副経路から特異的に流出される高分子物質(例えば、デキストラン等)やタンパク質(例えば、アルブミン等)に蛍光発色団を結合させたものを用いる計測を組み合わせる必要があるため操作が煩雑となり、生体内での房水の流れをリアルタイムで測定することが困難である。更に、蛍光を検出するために、持続的にレーザー等を用いて励起光を照射する必要があり、眼への侵襲が避けられないため、測定後動物を再利用できない、励起光およびそれによって発生されて生じる放射光の生体組織透過性は必ずしも十分ではなく計測感度が劣る、空間的(平面的ないし立体的)測定がしづらい等の課題があった。
【0006】
【非特許文献1】“エクスペリメンタルアイリサーチ(Experimental Eye Research)”,(英国),1978年,第27巻,p.135−142.
【非特許文献2】“インヴェスティゲイティブオプタルモロジー&ヴィジュアルサイエンス(Investigative Ophthalmology & Visual Science)” ,(米国),1993年,第34巻,p.606−612.
【非特許文献3】“カレントアイリサーチ(Current Eye Research)” ,(英国),1994年,第13巻,p.461−464.
【非特許文献4】“インヴェスティゲイティブオプタルモロジー&ヴィジュアルサイエンス(Investigative Ophthalmology & Visual Science)” ,(米国),1996年,第37巻,p.2671−2677.
【非特許文献5】“ジャーナルオブオキュラーファーマコロジーアンドセラピューティクス(Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics)” ,(米国),1996年,第12巻,p.489−498.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、房水流出や網膜細胞活性等の眼機能を、生体内において空間的(平面的ないし立体的)、高感度かつリアルタイムに測定することができる眼機能検査薬および非侵襲的かつ動物再利用可能な眼機能測定方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該検査薬を用いた房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質などの眼機能調節物質のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記目的を達成するために、眼機能の測定のためのトレーサーとして陽電子放出核種等の超短半減期放射性核種に着目し、放射活性を画像解析装置で測定することにより、眼機能を生体内において、空間的(平面的ないし立体的)、高感度かつリアルタイムに検出できることを見出した。さらには、検出された眼機能を指標とすることにより、眼機能を促進または活性化する物質を選抜するスクリーニング方法を開発し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]超短半減期放射性核種により標識された物質を含有することを特徴とする、眼機能検査薬。
[2]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[1]記載の検査薬。
[3]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[2]記載の検査薬。
[4]眼機能検査が、房水流出の検査である、上記[1]〜[3]のいずれか一に記載の検査薬。
[5]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[4]記載の検査薬。
[6]眼機能検査が、網膜細胞活性の検査である、上記[1]〜[3]のいずれか一に記載の検査薬。
[7]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[6]記載の検査薬。
[8]緑内障診断薬である、上記[1]〜[7]のいずれか一に記載の検査薬。
【0010】
[9]超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬、および該検査薬を被験体に投与し、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定することができるか、あるいは測定すべきであることを記載した、該検査薬に関する記載物を含むキット。
[10]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[9]記載のキット。
[11]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[10]記載のキット。
[12]記載物に、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で経時的に測定することができるか、あるいは測定すべきであることが記載されている、上記[9]〜[11]のいずれか一に記載のキット。
[13]眼機能の測定が、房水流出の測定である、上記[9]〜[12]のいずれか一に記載のキット。
[14]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[13]記載のキット。
[15]記載物に、該検査薬を眼中に投与することができるか、あるいは投与すべきことが記載されている、上記[13]または[14]記載のキット。
[16]眼機能の測定が、網膜細胞活性の測定である、上記[9]〜[12]のいずれか一に記載のキット。
[17]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[16]記載のキット。
[18]記載物に、該検査薬を静脈内に投与することができるか、あるいは投与すべきことが記載されている、上記[16]または[17]記載のキット。
[19]記載物に、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムで測定できるか、あるいは測定すべきであることが記載されている、上記[9]〜[18]のいずれか一に記載のキット。
【0011】
[20]被験者の房室内の房水の放射活性が0.1MBq/10μL〜100MBq/10μLで非経口的に投与されるように調製された、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する房水流出検査薬。
[21]眼中投与用に調製されている、上記[20]記載の房水流出検査薬。
[22]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[20]または[21]記載の検査薬。
[23]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[22]記載の検査薬。
[24]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[23]記載の検査薬。
【0012】
[25]10MBq/kg体重〜200MBq/kg体重で非経口的に投与されるように調製された、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する網膜細胞活性検査薬。
[26]静脈内投与用に調製された、上記[25]記載の検査薬。
[27]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[25]または[26]記載の検査薬。
[28]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[27]記載の検査薬。
[29]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[28]記載の検査薬。
[30]緑内障診断薬である、上記[20]〜[29]のいずれか一に記載の検査薬。
【0013】
[31]超短半減期放射性核種により標識された物質を投与された被験者の眼機能を検査するための、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムの使用。
[32]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[31]記載の使用。
[33]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[32]記載の使用。
[34]房水流出の検査用である、上記[31]〜[33]のいずれか一に記載の使用。
[35]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[34]記載の使用。
[36]網膜細胞活性の検査用である、上記[31]〜[33]のいずれか一に記載の使用。
[37]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[36]記載の使用。
[38]緑内障診断用である、上記[31]〜[37]のいずれか一に記載の使用。
【0014】
[39](1)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する工程および(2)非ヒト動物の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする、眼機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
[40]眼機能を調節し得る物質が、房水流出促進物質である上記[39]記載のスクリーニング方法。
[41](1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にベヒクルを投与するかまたは投与しない工程、(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物の両眼の房室内に投与する工程、(3)非ヒト動物の前房内の放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の前房内の放射活性を比較する工程および(4)前記(3)の比較結果に基づいて前房内の放射活性を減少させる被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、房水流出促進物質のスクリーニング方法。
[42]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[40]または[41]記載のスクリーニング方法。
[43]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[42]記載のスクリーニング方法。
[44]放射活性を経時的に比較することを特徴とする、上記[40]〜[43]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
[45]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[40]〜[44]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
【0015】
[46]眼機能を調節し得る物質が、網膜細胞活性化物質である、上記[39]記載のスクリーニング方法。
[47](1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にベヒクルを投与するかまたは投与しない工程、(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する工程、(3)非ヒト動物の網膜における放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の網膜における放射活性を比較する工程および(4)前記(3)の比較結果に基づいて網膜への放射活性の集積を促進する被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法。
[48]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[46]または[47]記載のスクリーニング方法。
[49]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[48]記載のスクリーニング方法。
[50]放射活性を経時的に比較することを特徴とする、上記[46]〜[49]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
[51]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[46]〜[50]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
[52]超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬の投与方法が静脈内投与である、上記[46]〜[51]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
[53]画像解析装置が、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムである、上記[39]〜[52]のいずれか一に記載のスクリーニング方法。
【0016】
[54]超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を被験体に投与する工程および被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする、眼機能の測定方法。
[55]超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、上記[54]記載の測定方法。
[56]陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、上記[55]記載の測定方法。
[57]被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で経時的に測定することを特徴とする、上記[54]〜[56]のいずれか一に記載の測定方法。
[58]眼機能の測定が、房水流出の測定である、上記[54]〜[57]のいずれか一に記載の測定方法。
[59]超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、上記[58]記載の測定方法。
[60]投与方法が眼中投与である、上記[58]または[59]記載の測定方法。
[61]上記[60]記載の測定方法のための、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬の眼中投与方法。
[62]眼機能の測定が、網膜細胞活性の測定である、上記[54]〜[57]のいずれか一に記載の測定方法。
[63]超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、上記[62]記載の測定方法。
[64]投与方法が、静脈内投与である、上記[62]または[63]記載の測定方法。
[65]画像解析装置が、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムである、上記[54]〜[60]のいずれか一または上記[62]〜[64]のいずれか一に記載の測定方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の眼機能検査薬および眼機能測定方法により、房水流出や網膜細胞活性等のような眼機能を、生体内において非侵襲的に、空間的(平面的ないし立体的)に高感度かつリアルタイムに測定することができる。また、当該眼機能検査薬を用いることにより測定される眼機能を指標とした房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法が提供される。当該スクリーニング方法により選抜された物質は、眼疾患治療薬の候補剤または眼疾患研究のための有用なツールとして期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の眼機能検査薬は、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有することを特徴とする。また、本発明の眼機能測定方法は、当該眼機能検査薬を被験体に投与する工程および被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の対象となる眼機能としては特に限定はなく、例えば、房水産生及び流出、網膜細胞(網膜視細胞及び網膜神経細胞)活性、眼循環、水晶体透明度、視野、視力等のような、眼疾患(例えば、緑内障、高眼圧症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、白内障、加齢性黄斑変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症等)において変性、障害される眼機能が挙げられる。これらのなかでも、房水産生及び流出、網膜細胞活性、眼循環、水晶体透明度等を検査・測定するのに適している。
【0020】
「房水産生」とは前房内を循環している房水が前房内へ産生・分泌されることである。緑内障(特に、原発開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障等)または高眼圧症等においては、房水産生を抑制することで眼圧が下降し、視神経線維が保護される。
「房水流出」とは前房内を循環している房水の眼外への流出である。緑内障(特に、原発開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障等)または高眼圧症等においては房水流出が障害され、眼圧が上昇する結果、視神経線維が障害される。したがって、房水流出を促進すれば、眼圧が下降し、視神経線維が保護される。
「網膜細胞活性」とは網膜視細胞または網膜神経細胞のエネルギー代謝活性をいう。生体において網膜細胞は、エネルギー代謝が活発な部位であり、網膜視神経細胞の機能を反映していると考えられる。緑内障、糖尿病性網膜症等においては網膜細胞が障害される結果、そのエネルギー代謝活性が低下するとともに、やがて死に至り、失明等の原因になる。
「眼循環」とは眼中の血流であり、異常が起こると網膜動脈閉塞症や網膜静脈分枝閉塞症など、視力に重大な影響を与える疾患になる。
「水晶体透明度」とは水晶体の透明性をいい、白内障では水晶体が混濁し、視力の低下をきたす。
【0021】
本発明の眼機能検査薬および眼機能測定方法は、眼疾患の早期発見、進行状況または治療効果の評価等の診断に利用することができ、特に様々な眼機能の障害(例えば、房水産生及び流出障害、網膜細胞活性低下、眼循環低下、水晶体透明度低下等)を引き起こす緑内障の診断薬および診断法として好適に使用することができる。
さらに、本発明の眼機能検査薬および眼機能測定方法は、眼疾患の発症原因研究、病態(病態モデル動物を含む)の解析、眼疾患治療薬の作用機作研究、臨床試験(前臨床試験を含む)の探索及び評価等の眼疾患治療薬開発等に応用することもできる。
【0022】
「超短半減期放射性核種」は、本発明の眼機能検査薬を投与する被験体への安全性確保のため、放射活性が短期間の内に消失する半減期を有する放射性核種であれば限定はない。当該半減期としては、2分〜16時間が好ましく、20分〜2時間がより好ましい。
本発明においては、超短半減期放射性核種をトレーサーとして使用することにより、高感度かつリアルタイムな眼機能の測定が可能となり、また、放射活性が短期間で消失するため、侵襲度が低く、被験体として用いた動物の再利用が可能になるという利点がある。
【0023】
このような超短半減期放射性核種としては、陽電子放出核種、単一光子放出核種等が挙げらる。中でも、半減期が短く(約2分〜16時間)、被爆線量が低く、高感度かつリアルタイムな測定が可能なことから、陽電子放出核種が好ましい。
【0024】
陽電子放出核種とは、陽電子崩壊により陽電子を放出する元素をいい、例えば18F、11C、13N、15O、68Ga、76Br、123I等の陽電子放出性同位元素が挙げられる。中でも、半減期が本計測の目的に適切で、各種評価用化合物への標識が容易な18F、11C等が好ましい。
【0025】
単一光子放出核種とは、ガンマーカメラ、SPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影装置)カメラに用いられる標識化合物の標識に用いられる核種であり、99mTc、123I等が挙げられる。中でも、標識の際に大きな分子量のキレート分子を用いる必要がないため、123Iが好ましい。
【0026】
「超短半減期放射性核種により標識された物質」とは、上記超短半減期放射性核種を分子内に含む物質であれば限定はなく、超短半減期放射性核種自体の単体またはそのイオンでもよく、分子内の元素の一部が超短半減期放射性核種で置換された化合物でもよい。
【0027】
「超短半減期放射性核種により標識された物質」としては、例えば[18F]フッ素イオン、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオン、[123I]イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]O、[15O]グルコース等が挙げられ、対象する眼機能を検査・測定するのに適したものを選択すればよい。
【0028】
例えば、房水流出の検査・測定のためには、眼内の房水循環を反映して房室から流出する物質が好ましく、例えば[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオン、[123I]イオン等が好ましく、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[15O]HO等がより好ましい。
【0029】
また、網膜細胞活性の検査・測定のためには、網膜視神経細胞のエネルギー代謝活性に応じて集積する物質が好ましく、例えば2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]O、[15O]グルコース等が好ましく、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[15O]グルコース等がより好ましい。
【0030】
上記で例示された超短半減期放射性核種により標識された物質は公知物質であり、自体公知の方法で製造することができる。例えば、常法の非ラベル化合物についての公知の合成工程の途中でラベル化する方法等により製造することができる。
なお、[11C]SCH23390は下式(I)で表される化合物であり、[11C]ラクロプライドは下式(II)で表される化合物であり、[11C]β−CFTは下式(III)で表される化合物である。
【0031】
【化1】

【0032】
超短半減期放射性核種により標識された物質は塩の形態であってもよい。そのような塩としては、無機塩基との塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩)、有機塩基との塩(例えばトリエチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩等の有機アミン塩)、無機酸付加塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、有機カルボン酸・スルホン酸付加塩(例えばギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等)、塩基性あるいは酸性アミノ酸(例えばアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との塩等の、塩基との塩又は酸付加塩が挙げられる。
【0033】
本発明の眼機能検査薬は、点眼、眼中投与(例えば、房室内、硝子体内への注入)、経口もしくは非経口(皮下、静脈内および筋肉内を含む)、吸入等の投与等に適した有機又は無機の担体又は賦形剤との混合物として含有する固形、半固形もしくは液状の剤形(例、液剤、乳剤、懸濁剤、エアゾール、吸入用粉末剤等)として使用することができ、対象する眼機能に適した剤形を適宜選択すればよい。
【0034】
本発明の眼機能検査薬は、当該分野における公知の製剤技術で製造することができ、超短半減期放射性核種により標識された物質と共に、例えば、液剤、乳剤、懸濁剤、エアゾール、吸入用粉末剤、等その他の使用に適した剤形に用いられる慣用の製薬上許容される実質的に無毒性の担体または賦形剤を配合することができる。さらに、必要に応じて助剤、安定化剤、増粘剤、着色料、および香料等を配合することもできる。
これらの担体、賦形剤等は必要に応じて無菌化処理を施したものを使用してもよく、また製剤化した後に無菌化処理を行うこともできる。
【0035】
本発明の眼機能検査薬においては、対象とする眼機能を検出できる量の超短半減期放射性核種により標識された物質を含有させればよく、例えば、0.1MBq/10μL〜100MBq/10μL、好ましくは1MBq/10μL〜10MBq/10μLの放射活性となるように含有させればよい。
【0036】
本発明の眼機能測定方法において、眼機能検査薬を投与する被験体としては特に限定はなく、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト等)が挙げられる。特にヒトを対象とした場合は、眼疾患、特に緑内障の診断法として有用である。
また、ヒト以外の動物においては、眼疾患の発症原因研究、病態モデル動物の解析、眼疾患治療薬の作用機作研究及び探索、前臨床試験の評価等の診断以外の用途に利用することができる。
【0037】
超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を被験体に投与する方法としては特に限定はなく、例えば点眼、眼中投与(例えば、房室内、硝子体内への注入)、経口もしくは非経口(皮下、静脈内および筋肉内を含む)、吸入等の投与が挙げられ、対象となる眼機能を測定するのに適した投与方法を選択すればよい。
【0038】
例えば、房水流出を測定する場合は、前房における房水の循環を観察する必要があるため、眼中への局所投与、具体的には、房室内への注入が望ましい。房室内へ注入する方法としては、例えば注射針を用いて角膜輪部より房室内に直接注入する方法が挙げられる。
また、網膜細胞活性を測定する場合には、経口投与または非経口投与による全身的投与が好ましく、具体的には静脈内投与が好ましい。
【0039】
眼機能検査薬の投与量は、対象となる眼機能を検出するのに適した量を、予備試験等を行い、適宜決定すればよい。例えば、房水流出を測定する場合は、房室内の放射活性が0.1MBq/10μL〜100MBq/10μLとなるように投与すればよい。また、網膜細胞活性を測定する場合には、放射活性が10MBq/kg体重〜200MBq/kg体重となるように投与すればよい。
本発明の検査薬は、上記投与量を投与するのに適した形態、例えば、アンプル等の形態で調製されるのが好ましい。
【0040】
ついで、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定することにより、眼機能を測定することができる。
例えば、房水流出の測定の場合は、前房内の放射活性を測定することにより行うことができ、対照(健常サンプル等)に比べ、眼機能検査薬投与後に前房内に残留する放射活性の減少が少ないと、房水流出が障害されていると判断できる。
また、眼における房水流出は、線維柱帯網を通りシュルム管経由で上強膜静脈に入る主経路と、虹彩根部および毛様体経由で脈絡膜循環に入る副経路があるため、流出した放射能を追跡することにより、いかなる経路により房水流出が障害されているかを調べることができる。
一方、網膜細胞活性の測定の場合は、網膜における放射活性を測定することにより行うことができ、網膜に集積した放射活性が大きいほど、網膜細胞活性が高いと判断できる。
【0041】
被験体に眼機能検査薬を投与した後放射活性を測定するまでの時間は、予備試験等を行い、測定する眼機能に応じて適切な時間を選択すればよいが、眼機能を適切に評価するためには、経時的に測定するのが好ましい。
放射活性を経時的に測定することにより、例えば房水流出においては、その流出速度を評価することができ、また、網膜細胞活性においては、活性の変動を観察することができる。
【0042】
さらに本発明は、上記眼機能検査薬を用いて測定される眼機能を指標とする、機能を調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
【0043】
対象となる「眼機能を調節し得る物質」とは、具体的には、房水産生及び流出、網膜細胞(網膜視細胞及び網膜神経細胞)活性、眼循環、水晶体透明度、視野、視力などの眼機能を促進(活性化)または抑制し得る物質であれば限定されないが、緑内障等の治療薬となり得ることから、房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質を対象とするのが好ましい。
【0044】
本発明のスクリーニング方法は、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する工程および非ヒト動物の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする。
【0045】
本発明のスクリーニング方法に用いる非ヒト動物は、ヒト以外の哺乳動物であれば限定はなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等が挙げられる。非ヒト動物は、予め麻酔薬、筋弛緩薬等を投与および/または拘束して、非動化しておくのが好ましい。
【0046】
本発明のスクリーニング方法において、「被験物質」は眼機能調節物質の候補となり得るものであれば特に限定されず、好ましくは、房水流出促進作用または網膜細胞活性化作用の有無を調べる目的で選択または調製された物質であり、新規物質以外に既知物質をも包含する。本発明のスクリーニング方法により房水流出促進作用および/または網膜細胞活性化作用などの眼機能調節作用があると認められる物質は、当該眼機能を改善することにより、眼疾患、特に緑内障等の治療薬の候補剤となり得る。また、眼疾患研究(発症原因研究、作用機作研究、病態モデル動物の解析、前臨床評価等)の有用なツールとしても期待される。
【0047】
被験物質を非ヒト動物に投与する場合、被験物質を製薬上許容される担体または賦形剤とともに配合した液剤として点眼するのが好ましい。
【0048】
対照としては他個体を用いてもよいが、高い精度で比較するためには、同一固体の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼を対照とするのが好ましい。
その場合、対照となる片眼は、特に何も投与する必要はないが、正確な比較を行うためには被験物質と同容量のベヒクルを投与するのが好ましい。ベヒクルとしては、被験物質を含有する前記液剤から被験物質を除いたもの、あるいは生理食塩水等を使用することができる。
【0049】
超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する方法は特に限定されないが、例えば、房水流出促進物質のスクリーニング方法の場合は、好ましくは房室内への投与、より好ましくは房室内への直接注入である。
また、網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法の場合は、好ましくは経口投与または非経口投与による全身的投与、より好ましくは静脈内投与である。
【0050】
眼機能検査薬の投与量は、指標となる房水流出または網膜細胞活性などの眼機能を検出するのに適した量を、予備試験等を行い、適宜決定すればよい。例えば房水流出促進物質のスクリーニング方法の場合は、房室内の放射活性が0.1MBq/10μL〜100MBq/10μLとなるように投与すればよい。また、網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法の場合は、放射活性が10MBq/kg体重〜200MBq/kg体重となるように投与すればよい。
【0051】
被験物質と眼機能検査薬を投与する順序は特に限定はなく、順次または同時に投与すればよいが、眼機能検査薬に含有される超短半減期放射性核種が短時間の内に消失するため、眼機能検査薬の方を後に投与するかまたは被験物質と同時に投与するのが好ましい。
【0052】
ついで、非ヒト動物の眼部における放射活性を画像解析装置で測定することにより、房水流出または網膜細胞活性などの眼機能を測定することができる。次いで、被験物質を投与した眼と対照となる眼における放射活性を比較することにより、房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質などの眼機能調節物質を選択することができる。
【0053】
具体的には、房水流出促進物質のスクリーニング方法の場合は、眼機能検査薬投与後の前房内に残留する放射活性の減少が大きいほど房水の流出量が多いと判断できるため、被験物質を投与した眼の前房内の放射活性が、対照より小さいものを房水流出促進物質として選択すればよい。
【0054】
また、網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法の場合は、網膜に集積する放射活性が大きいほど網膜細胞活性が大きいと判断できるため、被験物質を投与した眼の網膜における放射活性が、対照より大きいものを網膜細胞活性化物質として選択すればよい。
【0055】
眼機能検査薬を投与後、眼部における放射活性を比較するまでの時間は、例えば、房水流出または網膜細胞活性などの眼機能を測定するのに適した時間を、予備試験等を行い、適宜決定すればよいが、放射活性を経時的に比較するのが好ましい。すなわち、経時的に比較することにより、房水流出量の推移を比較することができ、また、網膜細胞活性の変動等を比較することができるので、より的確に房水流出促進物質または網膜細胞活性化物質などの眼機能調節物質を選択することができる。
【0056】
本発明の房水流出促進物質のスクリーニング方法の好ましい一態様においては、例えば、
(1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にベヒクルを投与する;
(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物の両眼の房室内に注入する;
(3)非ヒト動物の両眼の前房内の放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の前房内の放射活性を比較する、
(4)前記(3)の比較結果に基づいて前房内の放射活性を減少させる被験物質を選択する、
ことにより房水流出促進物質をスクリーニングすることができる。
【0057】
本発明の網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法の好ましい一態様においては、例えば、
(1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にべヒクルを投与する;
(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に静脈内投与する;
(3)非ヒト動物の両眼の網膜における放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の網膜における放射活性を比較する、
(4)前記(3)の比較結果に基づいて網膜への放射活性の集積を促進する被験物質を選択する
ことにより網膜細胞活性化物質をスクリーニングすることができる。
【0058】
本発明に使用される画像解析装置は、被験体の眼部の放射活性を画像化することにより、被験体の眼部局所における放射活性を測定し得るものであれば特に限定はなく、例えば、ポジトロンエミッショントモグラフィー(Positron emission tomography、以下PETともいう)測定装置、プラナーポジトロンイメージングシステム(Planar Positron Imaging System)、ガンマーカメラ、SPECTカメラ等が挙げられ、特にPETまたはプラナーポジトロンイメージングシステムが好ましい。
【0059】
PETは、被験体の生体内において、陽電子放出核種に崩壊により放出された陽電子が、電子との対消滅によって放出する一対のγ光子を検出することにより対消滅の位置を算出し、断層画像に画像化する装置であり、眼機能の指標となる放射活性を立体的に測定することができるという利点がある。
【0060】
プラナーポジトロンイメージングシステムは、PETと同様に陽電子放出核種による対消滅の位置を平面画像として画像化する装置である(特開2001−141827号公報、US4,929,835号明細書参照)。プラナーポジトロンイメージングシステムは、高いSN比の画像が得られ、PETより短いインターバルで経時的な測定が可能であり、また、装置が簡易かつ安価であり、より少ない放射能量で測定可能であるという利点がある。
【0061】
ガンマーカメラ、SPECTカメラは、単一光子放出核種から放出されたガンマー線を1方向または多方向から検出することで、標識化合物の集積している場所と量を計測する。
【0062】
さらに、本発明は、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬、および該検査薬を被験体に投与し、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定することができるか、あるいは測定すべきであることを記載した、該検査薬に関する記載物を含むキットも包含する。
【0063】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
1.房水流出の測定
雄性カニクイザル(Macaca fascicularis、体重5kg前後、日本クレア)を実験開始の2週間以上前に入荷し、一般状態等に異状の無いことを確認後に使用した。
【0065】
ケタミン(ケタラール50、三共) を5.0mg/kg 、およびアトロピン(硫酸アトロピン、田辺製薬)を 0.05mg/kgの用量で筋肉内注射することにより動物を非動化した後、気管内に人口呼吸用のカテーテルを挿管した。麻酔器(Cato、ドレーゲル)を使用して、亜酸化窒素:酸素(7:3)中の0.5−0.8%イソフルラン(フォーレン、大日本製薬)を吸入させると共に、臭化パンクロニウム(ミオブロック、三共) を0.05mg/kg/2hrで筋肉内投与して筋弛緩させ、PET計測中呼吸管理しながら一定の麻酔状態を維持した。PET計測はケタミンの効果が充分に消失するのを待つために、投与後2時間以上経過した後に開始した。
【0066】
手術台上で脳定位固定ホルダーに麻酔されたカニクイザルを固定し、右眼に1.2%のイソプロピルウノプロストン(レスキュラ、前藤沢薬品、現参天製薬)を50μL、また左眼に対照として同量の生理食塩水を点眼した。イソプロピルウノプロストン投与2時間後に、1〜10MBq/10μLの18Fイオンを含む生理食塩水をマイクロシリンジを用いて手術用実体顕微鏡下で左右の眼球の房室に注入し、直ちにPETの上下に配置された1対の検出器ブロックから等距離にある平面上に両眼の房室が位置するようにカニクイザルの頭部を固定して、0.5分 x 10、1分 x 55、3分 x 10の計測プロトコールで計90分間のエミッション計測を行った。
【0067】
計測終了後、左右の眼球の房室に関心領域を設定し、18Fに由来する放射能の経時的変化を求めた。18Fイオン投与直後の画像を図1、左右の眼球の房室内の放射能の経時的変化を示す画像を図2、その経時的変化を示すグラフを図3に示す。
図1、図2及び図3より、緑内障治療薬であるイソプロピルウノプロストンを投与した右眼の房室内の放射能は、左眼より低く推移し、イソプロピルウノプロストンにより房水流出が促進されていることが分った。
【実施例2】
【0068】
1.網膜細胞活性の測定
雄性カニクイザル(Macaca fascicularis、体重5kg前後、日本クレア)を実験開始の2週間以上前に入荷し、一般状態等に異状の無いことを確認後に使用した。
ケタミン(ケタラール50、三共) を5.0mg/kg 、およびアトロピン(硫酸アトロピン、田辺製薬)を 0.05mg/kgの用量で筋肉内注射することにより動物を非動化した後、気管内に人口呼吸用のカテーテルを挿管した。麻酔器(Cato、ドレーゲル)を使用して、亜酸化窒素:酸素(7:3)中の0.5−0.8%イソフルラン(フォーレン、大日本製薬)を吸入させると共に、臭化パンクロニウム(ミオブロック、三共) を0.05mg/kg/2hrで筋肉内投与して筋弛緩させ、プラナーポジトロンイメージングシステム計測中呼吸管理しながら一定の麻酔状態を維持した。プラナーポジトロンイメージングシステム計測はケタミンの効果が充分に消失するのを待つために、投与後2時間以上経過した後に開始した。
手術台上で脳定位固定ホルダーに麻酔されたカニクイザルを固定し、右眼に1.2%のイソプロピルウノプロストン(レスキュラ、前藤沢薬品、現参天製薬)を50μL、また左眼に対照として同量の生理食塩水を点眼した。イソプロピルウノプロストン投与2時間後に、100〜200MBq/kg体重の2−[18F]フッ化デオキシグルコースを含む生理食塩水を静脈内投与し、直ちにプラナーポジトロンイメージングシステムの上下に配置された1対の検出器ブロックから等距離にある平面上に両眼が位置するようにサルの頭部を固定して、0.5分 x 10、1分 x 55、3分 x 10の計測プロトコールで計90分間のエミッション計測を行った。
【0069】
図4に2−[18F]フッ化デオキシグルコース投与0から90分後のプラナーポジトロンイメージングシステムの画像を示す。2−[18F]フッ化デオキシグルコースが、網膜細胞活性を反映して眼部に集積してくることが分った。また、イソプロピルウノプロストンを投与した右眼の網膜の放射能は、左眼より高く推移し、イソプロピルウノプロストン投与により網膜細胞が活性化されることが分った。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】18Fイオン投与直後のカニクイザル頭部のPET画像である(実施例1)。
【図2】18Fイオン投与0から90分後のカニクイザルの左右の眼球における房室内放射活性の推移を示すPET画像である(実施例1)。
【図3】18Fイオン投与0から90分後のカニクイザルの左右の眼球における房室内放射活性の推移を示すグラフである(実施例1)。
【図4】2−[18F]フッ化デオキシグルコース投与0から90分後のカニクイザル頭部のプラナーポジトロンイメージングシステム画像である(実施例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短半減期放射性核種により標識された物質を含有することを特徴とする、眼機能検査薬。
【請求項2】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項1記載の検査薬。
【請求項3】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項2記載の検査薬。
【請求項4】
眼機能検査が、房水流出の検査である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の検査薬。
【請求項5】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、請求項4記載の検査薬。
【請求項6】
眼機能検査が、網膜細胞活性の検査である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の検査薬。
【請求項7】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、請求項6記載の検査薬。
【請求項8】
緑内障診断薬である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の検査薬。
【請求項9】
超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬、および該検査薬を被験体に投与し、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で測定することができるか、あるいは測定すべきであることを記載した、該検査薬に関する記載物を含むキット。
【請求項10】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項9記載のキット。
【請求項11】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項10記載のキット。
【請求項12】
記載物に、被験体の眼部における放射活性を画像解析装置で経時的に測定することができるか、あるいは測定すべきであることが記載されている、請求項9〜11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
眼機能の測定が、房水流出の測定である、請求項9〜12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、請求項13記載のキット。
【請求項15】
記載物に、該検査薬を眼中に投与することができるか、あるいは投与すべきことが記載されている、請求項13または14記載のキット。
【請求項16】
眼機能の測定が、網膜細胞活性の測定である、請求項9〜12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、請求項16記載のキット。
【請求項18】
記載物に、該検査薬を静脈内に投与することができるか、あるいは投与すべきことが記載されている、請求項16または17記載のキット。
【請求項19】
記載物に、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムで測定できるか、あるいは測定すべきであることが記載されている、請求項9〜18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
被験者の房室内の房水の放射活性が0.1MBq/10μL〜100MBq/10μLで非経口的に投与されるように調製された、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する房水流出検査薬。
【請求項21】
眼中投与用に調製されている、請求項20記載の房水流出検査薬。
【請求項22】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項20または21記載の検査薬。
【請求項23】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項22記載の検査薬。
【請求項24】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、請求項23記載の検査薬。
【請求項25】
10MBq/kg体重〜200MBq/kg体重で非経口的に投与されるように調製された、超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する網膜細胞活性検査薬。
【請求項26】
静脈内投与用に調製された、請求項25記載の検査薬。
【請求項27】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項25または26記載の検査薬。
【請求項28】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項27記載の検査薬。
【請求項29】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、請求項28記載の検査薬。
【請求項30】
緑内障診断薬である、請求項20〜29のいずれか一項に記載の検査薬。
【請求項31】
超短半減期放射性核種により標識された物質を投与された被験者の眼機能を検査するための、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムの使用。
【請求項32】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項31記載の使用。
【請求項33】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項32記載の使用。
【請求項34】
房水流出の検査用である、請求項31〜33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、請求項34記載の使用。
【請求項36】
網膜細胞活性の検査用である、請求項31〜33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、請求項36記載の使用。
【請求項38】
緑内障診断用である、請求項31〜37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項39】
(1)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する工程および(2)非ヒト動物の眼部における放射活性を画像解析装置で測定する工程を含むことを特徴とする、眼機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項40】
眼機能を調節し得る物質が、房水流出促進物質である請求項39記載のスクリーニング方法。
【請求項41】
(1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にベヒクルを投与するかまたは投与しない工程、(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物の両眼の房室内に投与する工程、(3)非ヒト動物の前房内の放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の前房内の放射活性を比較する工程および(4)前記(3)の比較結果に基づいて前房内の放射活性を減少させる被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、房水流出促進物質のスクリーニング方法。
【請求項42】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項40または41記載のスクリーニング方法。
【請求項43】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項42記載のスクリーニング方法。
【請求項44】
放射活性を経時的に比較することを特徴とする、請求項40〜43のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項45】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、[18F]フッ素イオン、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]ブタノール、[13N]アンモニア、[15O]HO、[68Ga]イオン、[76Br]イオンまたは[123I]イオンである、請求項40〜44のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項46】
眼機能を調節し得る物質が、網膜細胞活性化物質である、請求項39記載のスクリーニング方法。
【請求項47】
(1)非ヒト動物の片眼に被験物質を投与し、他方の片眼にベヒクルを投与するかまたは投与しない工程、(2)超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬を非ヒト動物に投与する工程、(3)非ヒト動物の網膜における放射活性を画像解析装置で測定し、被験物質を投与した片眼と他方の片眼の網膜における放射活性を比較する工程および(4)前記(3)の比較結果に基づいて網膜への放射活性の集積を促進する被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、網膜細胞活性化物質のスクリーニング方法。
【請求項48】
超短半減期放射性核種が陽電子放出核種である、請求項46または47記載のスクリーニング方法。
【請求項49】
陽電子放出核種が、18F、11C、13N、15O、68Ga、76Brまたは123Iである、請求項48記載のスクリーニング方法。
【請求項50】
放射活性を経時的に比較することを特徴とする、請求項46〜49のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項51】
超短半減期放射性核種により標識された物質が、2−[18F]フッ化デオキシグルコース、[11C]デオキシグルコース、[11C]メチオニン、[11C]SCH23390、[11C]ラクロプライド、[11C]β−CFT、[15O]Oまたは[15O]グルコースである、請求項46〜50のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項52】
超短半減期放射性核種により標識された物質を含有する眼機能検査薬の投与方法が静脈内投与である、請求項46〜51のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項53】
画像解析装置が、ポジトロンエミッショントモグラフィー測定装置またはプラナーポジトロンイメージングシステムである、請求項39〜52のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−199615(P2006−199615A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12147(P2005−12147)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】