説明

眼科用組成物

【課題】 ドライアイに対して治療効果を有する眼科用組成物を探索すること
【解決手段】 炭化水素類及び脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、顕著な水分蒸発抑制効果を有する。すなわち、(a)炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、涙液蒸発を抑制し、さらにはドライアイを治療することが期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイを治療するための眼科用組成物であって、(a)炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは目が乾く、ゴロゴロするという不快感程度の症状から始まり、悪化すると日常生活に多大な支障をきたす疾患である。ドライアイ患者数は、高齢化社会の到来やパソコンなどのVDT(video display terminal)作業の増大に伴い年々増加しており、米国内の推定患者数は1,000万人以上、わが国においても800万人以上と言われている。
【0003】
ドライアイの正確な疾病メカニズムについては明らかとなっていないが、その原因によって、i)涙液分泌減少型(tear deficient dry eye)及びii)涙液蒸発亢進型(evaporative dry eye)に分類される(非特許文献1)。液分泌減少型ドライアイでは、涙腺組織の障害で涙液分泌の減少が起こり、角結膜上皮障害を伴う乾燥性角結膜炎が生じる。一方、涙液蒸発亢進型ドライアイでは、角結膜上の涙液の安定性低下、閉瞼障害等によって、角結膜上皮障害を含むオキュラーサーフェスの異常が生じる。
【0004】
したがって、ドライアイの治療法としては、角結膜上へ水分を補充する方法、涙液蒸発を抑制する方法(角結膜の保湿を含む)等が有効とされ、前者としては人工涙液等の点眼が、後者としてはドライアイ眼鏡の使用等が知られている。なお、これらの治療法は、いずれも正常な涙液量の保持を目的とする点では変わりないため、涙液分泌減少型及び涙液蒸発亢進型といったドライアイの類型に関わらず、広くドライアイ治療に用いられている。また、ヒアルロン酸点眼のように、角結膜に水分を補充する一方で、涙液蒸発の抑制効果を併せ持つ治療法も存在する(非特許文献2)。
【0005】
また、油/水エマルジョンの点眼が涙液蒸発を抑制することも報告されている。すなわち、非特許文献3には、ヒマシ油/水エマルジョンの点眼により涙液蒸発が抑制されることが開示されている。さらに、特許文献1には、1%ヒマシ油を含む人工涙液の点眼が、ドライアイの自覚症状の改善、涙液層破壊時間(BUT)の増大、及び角結膜障害の治癒を導いたことが開示されている。一方で、非特許文献3には、ヒマシ油単独点眼では涙液蒸発の抑制が認められないことも記載されている。
【0006】
さらに、これらの治療法に加えて、最近では、ワセリン、流動パラフィン等の炭化水素類からなる眼軟膏基剤がドライアイ治療に有効であることが報告されている。例えば、非特許文献4には、0.3% オフロキサシン眼軟膏の眼瞼点入がドライアイ治療に有効であることが記載されており、当該治療効果は、白色ワセリン、流動パラフィン及びラノリンからなる眼軟膏基剤が涙液を安定化し、涙液蒸発を抑制したことによると考察されている。
【0007】
また、非特許文献5に開示されているように、米国では、ワセリン、流動パラフィン等の炭化水素類からなる種々の眼軟膏が市販されており、非特許文献6及び7には、これらの眼軟膏が、兎眼による夜間ドライアイの治療に有効であることが記載されている。一方、非特許文献6には、ラノリンが添加されている眼軟膏については、刺激性の観点からドライアイ治療に好ましくないことも示唆されている。
【0008】
以上のように、ドライアイの治療法としては種々のものが知られており、その一部は涙液蒸発を抑制することにより治療効果を示すと考えられている。しかしながら、従来の治療法では満足な治療効果が得られない重症ドライアイ患者も多く、また、既存のドライアイ治療薬については角結膜に対する刺激を訴える患者も存在する。したがって、治療効果に優れ、角結膜に対する刺激が少ない、新たなドライアイ治療法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平10−218760号公報
【非特許文献1】CLAO J., 21(4), 221-232 (1995)
【非特許文献2】Cornea, 12(5), 433-436 (1993)
【非特許文献3】Adv. Exp. Med. Biol., 506, 419-423 (2002)
【非特許文献4】Am. J. Ophthalmol., 142(2), 264-270 (2006)
【非特許文献5】Drugs Today, 34(5), 447-453 (1998)
【非特許文献6】Med. Today, 3(5), 87-90 (2002)
【非特許文献7】Clin. Eye Vis. Care, 11(1), 25-31 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、ドライアイに対して治療効果を有する眼科用組成物を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ドライアイに対して治療効果を有する眼科用組成物の探索の過程で、炭化水素類及び脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物が、顕著な水分蒸発抑制効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ドライアイを治療するための眼科用組成物であって、(a)少なくとも1種の炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル(以下、「エステル」ともいう)を含有する組成物である。
【0012】
また、本発明の別の態様は、涙液蒸発を抑制するための眼科用組成物であって、(a)少なくとも1種の炭化水素類及び(b)少なくとも1種のエステルを含有する組成物である。
【0013】
また、本発明の別の態様は、ドライアイを治療又は涙液蒸発を抑制するための眼科用組成物であって、(a)少なくとも1種の炭化水素類及び(b)少なくとも1種のエステルを含有する組成物(以下、「本組成物」ともいう)であって、該炭化水素類が、ワセリン及び/又は流動パラフィンである組成物である。
【0014】
また、本発明の別の態様は、該エステルが、(i)脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル若しくはジエステル、(ii)脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル、又は(iii)脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル若しくはジエステルである本組成物である。
【0015】
また、本発明の別の態様は、実質的に水を含まない本組成物である。
【0016】
また、本発明の別の態様は、本組成物を製剤化してなる点眼剤又は眼軟膏である。
【発明の効果】
【0017】
後述するように、ワセリン、流動パラフィン及び脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、顕著な水分蒸発抑制効果を有する。すなわち、(a)炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、涙液蒸発を抑制し、さらにはドライアイを治療することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明おいて、「ドライアイ」とは、『様々な要因による涙液及び角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患』と定義づけられる。本発明におけるドライアイには乾性角結膜炎(KCS)が含まれ、また、涙液分泌減少型及び涙液蒸発亢進型のいずれの類型のドライアイも含まれる。
【0019】
涙液分泌減少型ドライアイは、シェーグレン症候群に伴うドライアイと非シェーグレン症候群型のドライアイに分類される。非シェーグレン症候群型のドライアイとしては、先天性無涙腺症、サルコイドーシス、骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD)等の涙腺疾患に伴うもの;眼類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、トラコーマ等を原因とする涙器閉塞に伴うもの;糖尿病、角膜屈折矯正手術(LASIK)等を原因とする反射性分泌の低下に伴うもの等が挙げられる。
【0020】
また、涙液蒸発亢進型ドライアイは、meibom腺機能不全、眼瞼炎等を原因とする油層減少に伴うもの、眼球突出、兎眼等を原因とする瞬目不全又は閉瞼不全に伴うもの、コンタクトレンズ装用による涙液安定性の低下に伴うもの、胚細胞からのムチン分泌低下に伴うもの、VDT作業に伴うもの等が挙げられる。
【0021】
本発明おいて、「ドライアイを治療する」とは、ドライアイに伴う全ての病的症状及び所見を改善することと定義づけられ、ドライアイに伴う眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)等の自覚症状の改善を意味するだけでなく、ドライアイに伴う充血、角結膜上皮障害等の改善も含まれる。
【0022】
本発明おいて、「涙液蒸発を抑制する」とは、何らかの原因により亢進した角結膜からの涙液蒸発を抑制することのみならず、涙液分泌が減少している場合には、正常な涙液蒸発をさらに抑制することにより角結膜上の涙液を保持することをも意味する。
【0023】
本発明において、「炭化水素類」とは、炭素原子と水素原子だけで構成される化合物と定義づけられ、具体的には、ワセリン、流動パラフィン、パラフィン、スクワラン、スクワレン、ゲル化炭化水素又はこれらの混合物を意味する。本発明における「炭化水素類」としては、ワセリン、流動パラフィン又はワセリン及び流動パラフィンの混合物が特に好ましい。以下に、本発明におけるワセリン及び流動パラフィンについて説明する。
【0024】
本発明において、「ワセリン」には、石油から得た炭化水素類の混合物を精製したものである『黄色ワセリン』及びこれを脱色した『白色ワセリン』の両者が含まれる。本発明のワセリンは、ワセリンとして市販されているものであれば特に制限されないが、例えば、Perfecta、Protopet Alba、Protopet White 1S、White Fonoline、Protopet White 2L、Protopet White 3C、Yellow Fonoline、Protopet Yellow 1E、Protopet Yellow 2A(以上、Witco社製)、Penreco Ultima、Penreco Super、Penreco Snow、Penreco Regent、Penreco Lily、Penreco Cream、Penreco Royal、Penreco Blond、Penreco Amber(以上、Penreco社製)、Perlatum330、Perlatum310/410、Perlatum320/420、Perlatum321、Perlatum325/425、Perlatum325/415(以上、IGI社製)、日本薬局方白色ワセリン(丸石製薬社製、日興製薬社製等)、日本薬局方黄色ワセリン(丸石製薬社製、日興製薬社製等)、クロラータムV(クローダジャパン社製)、サンホワイトP−1、サンホワイトP−150、サンホワイトP−200、サンホワイトS−200(以上、日興リカ社製)、ノムコートW(日清オイリオグループ社製)、プロペト(丸石製薬社製)等の製品を好適に用いることができる。
【0025】
また、本発明において、「流動パラフィン」とは、石油から得た液状の炭化水素類の混合物であり、常温常圧において液状のものと定義づけられる。本発明の流動パラフィンは、流動パラフィンとして市販されているものであれば特に制限されないが、例えば、Hydrobrite2100、Hydrobrite1000、Kaydol、Orzol、Britol、Gloria、Protol、Rudol、Ervol、Benol、Blandol、Carnation、Klearol、40oil(以上、Witco社製)、Drakeol5、Drakeol6、Drakeol7、Drakeol9、Drakeol10、Drakeol13、Drakeol15、Drakeol19、Drakeol21、Drakeol32、Drakeol34、Drakeol35(以上、Penreco社製)、Duoprime350、Duoprime400、Duoprime300、Duoprime200、Duoprime180、Duoprime90、Duoprime70(以上、Lyondell社製)、Superla35、Superla31、Superla21、Superla18、Superla13、Superla10、Superla9、Superla7、Superla6、Superla5(以上、Chevron社製)、日本薬局方流動パラフィン(丸石製薬社製、日興製薬社製等)、ハイコールM−52、ハイコールM−72、ハイコールM−172、ハイコールM−202、ハイコールM−352、ハイコールM−502(以上、カネダ社製)等の製品を好適に用いることができる。
【0026】
本発明において、「脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル」とは、脂肪族モノカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル、脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル又はジエステル、脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのモノエステル又はジエステル、脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル、脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル又はジエステル、及びこれらのエステルの混合物を意味する。
【0027】
以下に、本発明におけるエステルの構成成分としての脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び一価、二価又は三価アルコールについて説明する。
【0028】
本発明において、「脂肪族モノカルボン酸」とは、炭素数6〜22の飽和又は不飽和の炭化水素の一価のカルボン酸を意味する。具体例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、イソオクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸(ウンデシル酸)、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸(マーガリン酸)、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ノナデカン酸、エイコセン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0029】
本発明において、「脂肪族ジカルボン酸」とは、炭素数6〜22の飽和又は不飽和の炭化水素の二価のカルボン酸を意味する。具体例としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸等を挙げることができる。
【0030】
本発明において、「一価アルコール」とは、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基に1つのヒドロキシル基が結合したものを意味する。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ノナデシルアルコール等が挙げられる。
【0031】
本発明において、「二価アルコール」とは、炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基に2つのヒドロキシル基が結合したものを意味する。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ネオペンチルグリコール、へキシレングリコール、ヘプチレングリコール、オクチレングリコール、ノニレングリコール、デシレングリコール、ウンデシレングリコール、ドデシレングリコール、トリデシルグリコール、テトラデシルグリコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール等が挙げられる。
【0032】
本発明において、「三価アルコール」とは、炭素数3〜20の脂肪族炭化水素基に3つのヒドロキシル基が結合したものを意味する。具体例としては、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、ヘプタントリオール、オクタントリオール、ノナントリオール、デカントリオール、ウンデカントリオール、ドデカントリオール、トリデカントリオール、テトラデカントリオール、ペンタデカントリオール、ヘキサデカントリオール等が挙げられる。
【0033】
次に、脂肪族モノカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル、脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル又はジエステル、脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのモノエステル又はジエステル、脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル、及び脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル又はジエステルについて説明する。
【0034】
本発明において、「脂肪族モノカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル」とは、上記脂肪族モノカルボン酸1分子と上記一価アルコール1分子がエステル結合したものを意味する。具体例としては、リノール酸エチル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピル、リノール酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、オレイン酸デシル、イソノナン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソステアリル、イソオクタン酸セチル等が挙げられる。
【0035】
本発明において、「脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル又はジエステル」とは、上記脂肪族モノカルボン酸1分子又は2分子と上記二価アルコール1分子がエステル結合したものを意味する。ジエステルを形成する場合、二価アルコールの2つの水酸基に結合する脂肪酸モノカルボン酸は同一のものでも良いし、異なったものでも良い。また、モノエステルとジエステルの混合物も本発明の範囲に含まれる。具体例としては、モノカプリル酸エチレングリコール(ethylene glycol monocaprylate)、ジカプリル酸エチレングリコール(ethylene glycol dicaprylate)、モノイソオクタン酸エチレングリコール(ethylene glycol monoisooctanate)、ジノイソオクタン酸エチレングリコール(ethylene glycol diisooctanate)、モノカプリル酸プロピレングリコール(propylene glycol monocaprylate)(製品名:日光ケミカルズ社製 Sefsol−218等)、ジカプリル酸プロピレングリコール(propylene glycol dicaprylate)(製品名:日光ケミカルズ社製 Sefsol−228等)、モノカプリン酸プロピレングリコール(propylene glycol monocaprate)、ジカプリン酸プロピレングリコール(propylene glycol dicaprate)(製品名:日光ケミカルズ社製 PDD等)、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート(propylene glycol dicaprylate/dicaprate)(Sasol社製 Miglyol 840等)、モノラウリン酸プロピレングリコール(propylene glycol monolaurate)(Gattefosse社製 Lauroglycol登録商標 90等)、ジラウリン酸プロピレングリコール(propylene glycol dilaurate)、モノイソオクタン酸プロピレングリコール(propylene glycol monoisooctanate)、ジイソオクタン酸プロピレングリコール(propylene glycol diisooctanate)、モノステアリン酸プロピレングリコール(propylene glycol monostearate)、ジステアリン酸プロピレングリコール(propylene glycol distearate)等が挙げられる。
【0036】
本発明において、「脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのモノエステル又はジエステル」とは、上記脂肪族モノカルボン酸1分子又は2分子と上記三価アルコール1分子がエステル結合したものを意味する。ジエステルを形成する場合、三価アルコールの2つの水酸基に結合する脂肪酸モノカルボン酸は同一のものでも良いし、異なったものでも良い。また、モノエステルとジエステルの混合物も本発明の範囲に含まれる。具体例としては、カプリル酸モノグリセリド(glycerol monocaprylate)(製品名:花王社製 HOMOTEX PT)、カプリル酸モノ/ジグリセリド(glycerol mono/dicaprylate)(製品名:Sasol社製 IMWITOR 988等)、カプリン酸グリセリル(glyceryl caprate)(製品名:Abitec社製 Capmul(登録商標) MCM C10等)、カプリル酸/カプリン酸グリセリド(caprylic/capric glyceride)、モノラウリン酸グリセリル(glyceryl monolaurate)、モノステアリン酸グリセリル(glyceryl monostearate)、グリセロールモノステアレート/パルミテート(glycerol monostearate/palmitate)等が挙げられる。
【0037】
本発明において、「脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル」とは、上記脂肪族モノカルボン酸3分子と上記三価アルコール1分子がエステル結合したものを意味する。トリエステルを形成する場合、三価アルコールの3つの水酸基に結合する脂肪酸モノカルボン酸は同一のものでも良いし、異なったものでも良い。具体例としては、トリカプロン酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル(製品名:日本油脂社製 パナセート800、理研ビタミン社製 アクタ−M−2等)、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(caprylic/capric triglyceride)(製品名:日清オイリオグループ社製 ODO、Sasol社製 Miglyol 812、Sasol社製 Miglyol 810、日光ケミカルズ社製 トリエスタ−F−810等)、カプリル酸/カプリン酸/ラウリン酸トリグリセリド(製品名:理研ビタミン社製 アクタ−M−107FR等)、カプリル酸/カプリン酸/リノレン酸トリグリセリド(製品名:Sasol社製 Miglyol 818)、トリイソオクタン酸グリセリル(gryceryl triisooctanoate)(製品名:日清オイリオグループ社製 T.I.O.−M等)、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル(製品名:日光ケミカルズ社製 Trifat S−810)、トリカプリン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、パルミチン酸/オレイン酸/リノール酸トリグリセリド、トリオレイン酸グリセリル、トリリノール酸グリセリル等が挙げられる。
【0038】
また、「脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル」には該トリエステルを含有する天然油脂も含まれる。具体例としては、ダイズ油(製品名:吉原精油社製 大豆白絞油、日清オイリオグループ社製 大豆油YM等)、ゴマ油、オリーブ油、ヒマシ油、アーモンド油、ババス油、ナタネ油(カノーラ油)、ココヤシ油、トウモロコシ油、綿実油、パーム油、ヒマワリ油、ツバキ油、サフラワー油等が挙げられる。
【0039】
本発明において、「脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル又はジエステル」とは、上記脂肪族ジカルボン酸1分子と上記一価アルコール1分子又は2分子がエステル結合したものを意味する。ジエステルを形成する場合、脂肪族ジカルボン酸の2つのカルボキシル基に結合する一価アルコールは同一のものでも良いし、異なったものでも良い。また、モノエステル及びジエステルの混合物も本発明の範囲に含まれる。具体例としては、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジエチル(製品名:日光ケミカルズ社製 DES等)、アジピン酸モノプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル(製品名:日光ケミカルズ社製 DIA等)、セパシン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、セパシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0040】
本発明におけるエステルとしては、脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル若しくはジエステル、脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル、又は脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル若しくはジエステルが好ましく、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、モノカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、カプリル酸/カプリン酸/ラウリン酸トリグリセリド、カプリル酸/カプリン酸/リノレン酸トリグリセリド、トリイソオクタン酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、ダイズ油、ゴマ油、オリーブ油、アジピン酸ジエチル、アジピン酸モノプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セパシン酸ジイソプロピルがより好ましく、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、アジピン酸ジエチル、セパシン酸ジイソプロピルがさらに好ましい。
【0041】
本組成物中のエステルの配合量(配合比率)は、使用するエステルの物性等に応じて適宜調節することができるが、炭化水素類に対して、重量比で0.001〜5.0が好ましく、0.005〜2.0がさらに好ましい。
【0042】
さらに、本組成物は、好ましくは実質的に水を含まない。
【0043】
本組成物の好ましい投与形態は眼局所投与であり、必要に応じて、製薬学的に許容される添加剤と共に、投与に適した剤形に製剤化することができる。眼局所投与に適した剤形としては、例えば、点眼剤、眼軟膏等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。
【0044】
なお、点眼剤及び眼軟膏は、炭化水素類及びエステルの配合比率を適宜調整することによって、調製することができる。
【0045】
以下に、実施例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
[水分蒸発率測定試験]
本組成物の水分蒸発抑制効果を検討するため、本組成物が生理食塩水の自然蒸発に及ぼす影響を検討した。
【0047】
(被験物の調製方法)
モノカプリル酸プロピレングリコール(製品名:日光ケミカルズ社製 Sefsol−218)、ジカプリル酸プロピレングリコール(製品名:日光ケミカルズ社製 Sefsol−228)、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート(Sasol社製 Miglyol 840)、アジピン酸ジイソプロピル(日光ケミカルズ社製 DIA)、セバシン酸ジエチル(日光ケミカルズ社製 DES)、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(製品名:Sasol社製 Miglyol 812)、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(製品名:日清オイリオグループ社製 ODO)、並びに白色ワセリン(製品名:Witco社製 Protopet White 1S)及び流動パラフィン(製品名:Witco社製 Kaydol)の混合物(重量比で2:8)を用いて、表1に示す組成の比較物1〜8及び被験物1〜7を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
(試験方法)
事前に重量を測定しておいた試験管に4mLの生理食塩水を入れた後、比較物又は被験物を0.4mL加え、これらをそれぞれ比較液1〜8又は被験液1〜7とした。約10分間遠心した後、油層と水層が二層に分離することを確認した上で、比較液又は被験液の入った試験管を40℃20%RHの条件で4日間保存し、各試験管の重量を測定した。同時に、生理食塩水のみを入れた試験管(コントロール)についても同様の操作を行った。保存前後での重量減少を、コントロールのそれと比較し、水分蒸発率(%対 生理食塩水)として、評価した。
【0050】
(評価方法)
式1に従い、各比較液又は被験液の水分蒸発率(%)を算出した。評価結果を表2に示す。
【0051】
[式1]
重量減少(g)=保存前の試験管重量−保存後の試験管重量
水分蒸発率(%)=(A/B)×100
A:比較液又は被験液での重量減少
B:コントロールでの重量減少
【0052】
【表2】

【0053】
(結果)
表2から明らかなように、生理食塩水に、白色ワセリン、エステル及び流動パラフィンの混合物を添加することにより、生理食塩水の自然蒸発率が顕著に低下することが示された。また、該蒸発率の低下は、エステルの種類又は配合比に関わらず認められた。一方で、エステルのみ又は白色ワセリン及び流動パラフィンの混合物のみの添加では、該蒸発率の低下はほとんど又は全く認められなかった。
【0054】
(考察)
以上、白色ワセリン、流動パラフィン及びエステルを含有する組成物は、顕著な水分蒸発抑制効果を有することを示された。一方で、エステルのみ又は白色ワセリン及び流動パラフィンの混合物のみからなる組成物では、該効果がほとんど又は全く認められていないことを勘案すれば、これは驚くべき結果である。すなわち、(a)炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、涙液蒸発を抑制し、さらにはドライアイを治療し得ることが示唆された。
【0055】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0056】
製剤例1 眼軟膏
100g中
ジカプリル酸プロピレングリコール(Sefsol−228) 10.0g
白色ワセリン 77.5g
流動パラフィン 12.5g
【0057】
容器に上記各成分を所定量投入し、約40℃に加温する。次いで、均一になるまで攪拌した後、攪拌しながら室温まで放冷する。上記処方で、ジカプリル酸プロピレングリコール、白色ワセリン及び流動パラフィンの配合量を変えることで、本組成物中のジカプリル酸プロピレングリコール濃度を適宜調整することができる。
【0058】
製剤例2 眼軟膏
100g中
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(Miglyol 812) 10.0g
白色ワセリン 77.5g
流動パラフィン 12.5g
【0059】
製剤例1と同様の方法により眼軟膏を調製することができる。上記処方で、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、白色ワセリン及び流動パラフィンの配合量を変えることで、本組成物中のカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド濃度を適宜調整することができる。
【0060】
製剤例3 眼軟膏
100g中
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(ODO) 10.0g
白色ワセリン 90.0g
【0061】
製剤例1と同様の方法により眼軟膏を調製することができる。上記処方で、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド及び白色ワセリンの配合量を変えることで、本組成物中のカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド濃度を適宜調整することができる。
【0062】
製剤例4 眼軟膏
100g中
ダイズ油(大豆白絞油) 10.0g
白色ワセリン 90.0g
【0063】
製剤例1と同様の方法により眼軟膏を調製することができる。上記処方で、ダイズ油及び白色ワセリンの配合量を変えることで、本組成物中のダイズ油濃度を適宜調整することができる。
【0064】
製剤例5 点眼剤
100ml中
モノカプリル酸プロピレングリコール(Sefsol−218) 10.0g
流動パラフィン 適量
【0065】
上記処方で、モノカプリル酸プロピレングリコール及び流動パラフィンの配合量を変えることで、本組成物中のモノカプリル酸プロピレングリコール濃度を適宜調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
炭化水素類及び脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、顕著な水分蒸発抑制効果を有する。すなわち、(a)炭化水素類及び(b)少なくとも1種の脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物は、涙液蒸発抑制効果及びドライアイ治療効果を有するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイを治療するための眼科用組成物であって、(a)炭化水素類及び(b)脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物。
【請求項2】
涙液蒸発を抑制するための眼科用組成物であって、(a)炭化水素類及び(b)脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルを含有する組成物。
【請求項3】
該炭化水素類が、ワセリン及び/又は流動パラフィンである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
該エステルが、(i)脂肪族モノカルボン酸と二価アルコールとのモノエステル若しくはジエステル、(ii)脂肪族モノカルボン酸と三価アルコールとのトリエステル、又は(iii)脂肪族ジカルボン酸と一価アルコールとのモノエステル若しくはジエステルである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
実質的に水を含まない、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項6】
請求項1又は2記載の組成物を製剤化してなる点眼剤又は眼軟膏。

【公開番号】特開2010−120856(P2010−120856A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293157(P2008−293157)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】