説明

眼関連障害の治療用材料および治療方法

本発明は、動物への遺伝子産物の送達方法に関する。方法は、プロモーターに機能可能に連結し、遺伝子産物をコードする核酸配列を含む発現ベクターを投与し、眼細胞で核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。発現ベクターはアデノウイルスベクターであり得る。本発明は更に、少なくとも1つの眼関連障害に関する動物の予防的又は治療的処置の方法を提供する。方法は、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む発現ベクターを眼細胞と接触させることを含む。1局面では、方法は更に、核酸配列の転写のアップレギュレーションを含む。好ましくは、本発明の方法の2x10アデノウイルス粒子がマウスに投与される場合、核酸配列の発現のレベルは、投与後28日で、10分の1より多くは減少しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、眼障害の予防的処置又は治療的処置の方法、及び眼障害を処置するのに有用な材料に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
世界の人口の圧倒的多数は、一生の間にある程度の視力障害を経験する。視力障害は、年齢、人種、経済的もしくは社会的状態、又は地理上の位置にかかわらず、実質的に全ての人々に影響する。眼関連障害は、しばしば、生命を脅かすものではないが、罹患した個人の自立を台無しにするライフスタイルの変化を必要とする。視力喪失は、糖尿病性網膜症、増殖性網膜症、網膜はく離、毒素性網膜症、網膜血管疾患、網膜変性、血管異常、加齢性黄斑変性や他の後天性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、眼虚血、妊娠関連疾患、網膜腫瘍、脈絡膜腫瘍、脈絡膜疾患、硝子体疾患、外傷、白内障合併症、ドライアイ、及び炎症性眼ニューロパシーを含む殆ど全ての眼障害から生じ得る。
【0003】
重篤な視力障害と失明の主要な原因は、眼の血管構造が損傷を受けるか又は不十分に調節される、眼関連障害である。血管新生の局面を含む眼関連障害は多数あり、例えば、滲出性加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、角膜血管新生、脈絡膜血管新生、血管新生緑内障、毛葉体炎、ヒッペル−リンドー病、未熟児網膜症、翼状片、ヒストプラスモーシス、虹彩血管新生、黄斑浮腫、緑内障関連血管新生などが挙げられる。重篤な視力障害は、血管新生から直接的に生じるのではなく、網膜における血管新生の影響から生じると考えられる。網膜は、画像を受け取るデリケートな眼の膜である。網膜の中心近くは、黄斑(視感覚が最も鋭敏な網膜組織の楕円形の領域)がある。網膜は、中心窩(即ち、黄斑の中心に存在する中心の陥凹)で最もデリケートである。網膜の損傷、即ち、網膜はく離、網膜裂傷、又は網膜変性は、視力障害と直接関連する。網膜はく離、網膜裂傷、及び網膜変性の通常の原因は、種々の眼組織の異常な(即ち、制御不能な)血管形成であるが、これは常にというわけではない。加齢性黄斑変性、非増殖性糖尿病性網膜症、及び炎症性の眼の損傷と関連する萎縮性合併症は、血管新生とは関連しないが、治療をしなければ、重篤な視力障害を生じ得る。加齢性黄斑変性や糖尿病性網膜症などの、血管新生コンポーネントと萎縮性コンポーネントの両方に関連する障害は、広範な種々の合併症の発症に起因して治療するのが特に困難である。
【0004】
加齢性黄斑変性は、年齢65歳超の患者における失明の主要原因である。世界の高齢者の人口が増加するにつれて、加齢性黄斑変性の発生が劇的に増加することが予想され、2030年までに、米国のみでも、予測では750万の症例に到達する(Hymanら,Am.J.Epidemiol.,118,213−227(1983))。加齢性黄斑変性(AMD)は、初期に視力障害という結果が生じる眼の進行性の変性性疾患である。加齢性黄斑変性の進行と共に生じる合併症としては、萎縮性及び滲出性合併症が挙げられる。萎縮性合併症は、網膜色素上皮(RPE)の萎縮を生じる網膜色素上皮細胞喪失から生じる。滲出性合併症としては、円板状瘢痕(即ち、線維要素を含む瘢痕化)と血管新生が挙げられる。重篤な視力障害が血管新生として生じるか、又は萎縮が中心窩を妨げる(Bresslerら,Ophthalmology,102,1206−1211(1995))。最終的に、加齢性黄斑変性からの失明は、RPEの変性、及び、引き続いての光レセプターの死から生じる。
【0005】
同様に、糖尿病性網膜症は、典型的には、初めに起こる非増殖性段階と、増殖性段階とに分けられる。非増殖性糖尿病性網膜症と関連する視力障害は、血管漏洩から生じる網膜浮腫、特に糖尿病性黄斑浮腫から生じる。局所性及び散在性血管漏洩は、毛細血管異常、網膜内微動脈瘤、毛細血管閉鎖及び網膜出血の結果として起こる。血管漏洩の長期化は、最終的に、基底膜の肥厚並びに軟性白斑及び硬性白斑の形成に至る。非増殖性糖尿病性網膜症はまた、網膜周細胞の喪失によっても特徴づけられる。糖尿病性網膜症の増殖性段階は、網膜又は視神経から網膜又は円板の内表面にわたって、又は硝子体腔内への血管新生及び血管線維増殖(即ち、グリア要素と線維要素を含む瘢痕化)によって特徴づけられる。網膜血管新生は、増殖性糖尿病性網膜症と関連する視力障害の主要原因である。
【0006】
多くの眼関連障害に関して、現在、効果的な治療選択が利用可能ではない。レーザー光凝固は、眼の種々の領域にレーザーの焼灼を行うことを含み、多くの血管新生関連疾患の治療に使用される。例えば、局所黄斑光凝固は、黄斑の外側の血管漏洩の領域を治療するために使用される(Murphy,Amer.Family Physician,51(4),785−796(1995))。同様に、血管新生、特に進行性の増殖性網膜症は、散乱又は汎網膜光凝固によって通常治療される。しかし、レーザー治療は、治療した領域に対応する永久的な盲目スポットを生じさせ得る。レーザー治療はまた、持続性又は反復性の出血を引き起こし得るか、網膜はく離のリスクを増大させ得るか、又は血管新生もしくは線維化を誘導し得る。加齢性黄斑変性に関して、多数の患者は、治療したにもかかわらず、最終的に、重篤な視力障害を経験する。眼関連障害の他の治療選択としては、温熱療法、放射線療法、手術、例えば、黄斑トランスロケーション、過剰な眼組織の除去などが挙げられる。しかし、殆どの場合に、全ての利用できる治療選択は、治療効果が限定され、度重なる、費用のかかる処置を必要とし、そして/又は、危険な副作用を伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
眼関連障害の罹患率を考慮すれば、眼関連障害、特に、糖尿病性網膜症や加齢性黄斑変性などの萎縮性と血管新生の両方の合併症を伴う眼関連障害の、効果的な予防的及び治療的処置の必要性がある。従って、本発明は、非増殖性合併症及び増殖性合併症の治療を含む、眼関連障害の予防的及び治療的処置の材料及び方法を提供する。本発明のこの利点及び他の利点は、本明細書中に記載される詳細な説明から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
本発明は、眼関連障害の予防的処置又は治療的処置の方法を提供する。特に、本発明は、眼血管新生や加齢性黄斑変性などの、少なくとも1つの眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法を提供する。本方法は、眼細胞を、(a)血管形成阻害剤をコードする核酸配列及び神経栄養剤をコードする、同じもしくは異なる核酸配列を含む発現ベクター、あるいは(b)各々が血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む、異なる発現ベクターと接触させることを含む。血管形成阻害剤をコードする核酸配列及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列は発現され、それによって血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤が産生され、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する。好ましくは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列は、同じ核酸配列である。より好ましくは、核酸配列は、抗血管形成活性と神経栄養性活性の両方を含む因子をコードする。最も好ましくは、因子はPEDFである。
【0009】
更に、本発明は、色素上皮由来因子(PEDF)又はその治療用フラグメントをコードする核酸配列を含むウイルスベクターを提供する。核酸配列は、PEDF又はその治療用フラグメントの発現に必要な制御配列と機能可能に連結している。好ましくは、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターである。また好ましくは、ウイルスベクターは、PEDF又はその治療用フラグメント以外の治療用物質をコードする1つ以上の更なる核酸配列を更に含む。
【0010】
更に、本発明は、眼への遺伝子産物の送達方法を提供する。この方法は、動物の眼へ、プロモーターと機能可能に連結し、遺伝子産物をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを投与することを含み、その結果、この発現ベクターが眼細胞に形質導入し、核酸配列が転写される。この方法は、更に、眼細胞で核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。転写のアップレギュレーションはパイロジェンの投与を含まず、眼細胞を、生理食塩水、トレハロース、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド誘導体、ジクロフェナック ナトリウム及びミソプロストール(misoprostol)、ジクスルウレナック(dixlurenac)、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、ヒアルロン酸、第2の発現ベクター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、レチノイン酸、低温、光、放射線、マイクロ波、超音波、又は物理的損傷に曝すことを含み得る。
【0011】
本発明は更に、哺乳動物への遺伝子産物の送達方法を提供する。方法は、(a)アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠くアデノウイルスベクターであって、プロモーターに機能可能に連結し、遺伝子産物をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターを哺乳動物に投与することによって、このアデノウイルスベクターが宿主細胞に形質導入し、その核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生することを含む。この方法は、更に、(b)次いで、宿主細胞において核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。転写のアップレギュレーションは、パイロジェン、アデノウイルスベクター、又は放射線を投与することを含まない。
【0012】
眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法も提供される。この方法は、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物に投与することによって、この発現ベクターが、少なくとも1つの眼細胞に形質導入して、その核酸配列が転写されることを含む。この方法は更に、核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の発現はそれによってアップレギュレートされて、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する。あるいは、又は、更に、第1の発現ベクターは、細胞プロモーターに機能可能に連結し、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターである。2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、アデノウイルスベクターの投与28日後に、アデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写のレベルと比べて、10分の1より多くは減少しない。
【0013】
本発明は更に、哺乳動物への遺伝子産物の送達方法を提供する。この方法は、(a)(i)発現ベクターが宿主細胞に形質導入し、第1の核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生するように、プロモーターに機能可能に連結した第1の核酸配列、及び(ii)第2の核酸配列が宿主細胞において転写されて、レチノイン酸レセプターを産生するように、プロモーターと機能可能に連結し、かつレチノイン酸レセプターをコードする第2の核酸配列を含む発現ベクターを、哺乳動物に投与することを含む。この方法は更に、(b)引き続いて、哺乳動物にレチノイン酸を投与し、それによって、宿主細胞において第1の核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、少なくとも1つの眼関連障害についての、動物(好ましくは、ヒト)の予防的又は治療的処置の方法に関する。本発明はまた、眼関連障害の治療のための材料を提供する。本発明の材料及び方法を用いる治療に適切な眼関連障害としては、糖尿病性網膜症、増殖性網膜症、未熟児網膜症、網膜性血管疾患、血管異常、加齢性黄斑変性と他の後天性疾患、眼内炎、感染性疾患、炎症性疾患、AIDS関連疾患、眼虚血性症候群、妊娠関連疾患、末梢網膜変性、網膜変性、毒素性網膜症、白内障、網膜腫瘍、角膜血管新生、脈絡膜腫瘍、脈絡膜疾患、脈絡膜血管新生、血管新生緑内障、硝子体疾患、網膜はく離と増殖性硝子体網膜症、毛様体炎、非貫通性外傷、貫通性外傷、白内障後合併症、ヒッペル−リンドー病、ドライアイ、炎症性眼ニューロパシー、緑内障、黄斑浮腫、翼状片、虹彩血管新生、ブドウ膜炎、病的近視、手術誘導性疾患などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0015】
特に、本発明は、眼血管新生などの少なくとも1つの眼関連障害に関する、動物の予防的処置又は治療的処置の方法を提供する。本方法は、眼細胞を、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養剤をコードする核酸配列を含む発現ベクターと接触させることを含む。好ましくは、本方法は、眼細胞を、血管形成阻害剤をコードする核酸配列、及び神経栄養剤をコードする、同じ又は異なる核酸配列を含む発現ベクターと接触させることを含む。望ましくは、核酸配列は、少なくとも1つの血管形成阻害剤と少なくとも1つの神経栄養剤をコードする。本発明の方法によって治療される眼血管新生は、脈絡膜の血管新生であり得る。脈絡膜は、網膜下に存在する薄い血管性膜である。脈絡膜の異常な血管新生は、例えば、光凝固、前方虚血性眼ニューロパシー、ベスト病、脈絡膜血管腫、金属性眼内異物、脈絡膜非血流、脈絡膜骨腫、脈絡膜裂傷、細菌性心内膜炎、コロイデレミア、慢性網膜はく離、ドルーゼ、代謝性廃棄物沈着、内因性Candida眼内炎、鋸状縁での血管新生、手術用顕微鏡による火傷、点状内部脈絡膜症(punctate inner choroidopathy)、放射線網膜症、網膜低温傷害、網膜色素変性症、網膜脈絡膜欠損、風疹、網膜下排液、傾斜円板症候群(tilted disc syndrome)、Taxoplasma網膜脈絡膜炎、結核などから生じる。
【0016】
角膜の血管新生はまた、本発明の方法による治療に適切である。角膜は、眼の最外層である線維膜(fibrous tunic)の突出している透明部分である。角膜の最外層は結膜と接触し、最内層は前房の内皮細胞を含む。角膜血管新生は、例えば、眼傷害、手術、感染、コンタクトレンズの不適切な着用、及び、例えば、角膜ジストロフィーなどの疾患により生じる。
【0017】
あるいは、眼血管新生は、好ましくは、網膜の血管新生である。網膜血管新生は、多くの眼疾患及び眼障害(その多くは上記してある)に関連する症候である。好ましくは、本発明の方法によって治療される網膜の血管新生は、糖尿病性網膜症を伴う。網膜血管新生の通常の原因としては、虚血、ウイルス感染及び網膜損傷が挙げられる。網膜の血管新生は、黄斑浮腫、網膜下変色、瘢痕化、出血などに至り得る。網膜血管新生を伴う合併症は、新しく形成された血管の増殖、破断や漏洩から生じる。血液が硝子体腔を満たし、効果的に除去されないと視力は悪くなる。光の通過が妨害されるばかりではなく、過剰の血液と代謝物に対する炎症性応答が、眼組織に対する更なる損傷を引き起こし得る。更に、新しい血管は、線維性瘢痕組織を形成し、時間をかけて、網膜を妨げ、網膜裂傷や網膜はく離を引き起こす。
【0018】
本発明はまた、加齢性黄斑変性に関する、動物の予防的処置又は治療的処置の方法を提供する。本方法は、眼細胞を、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターと接触させることを含む。望ましくは、発現ベクターは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列を含む。より望ましくは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列は、同一の核酸配列である。好ましくは、加齢性黄斑変性は、少なくとも1つの滲出性合併症を伴う。滲出性合併症としては、例えば、円板状瘢痕(即ち、線維要素を含む瘢痕化)や血管新生が挙げられる。あるいは、加齢性黄斑変性は、少なくとも1つの萎縮性合併症を伴う。萎縮性合併症としては、例えば、ドルーゼや基底層沈着の形成、網膜色素産生性の異常、及びリポフスチン顆粒の蓄積が挙げられる。
【0019】
「予防的」とは、眼関連障害、特に眼血管新生又は加齢性黄斑変性に対し、全体的、又は部分的に防御することを意味する。「治療的」とは、眼関連障害それ自体の改善、及び更なる眼関連障害、特に眼血管新生又は加齢性黄斑変性に対し、全体的、又は部分的に防御することを意味する。当業者は、如何なる程度の眼関連障害の防御又は改善であっても、患者にとって利益があることを理解する。現在採用されている治療の有害な副作用無しに、治療剤を罹患した領域に直接に適用できるという点で、本発明は特に利点を有する。
【0020】
本発明の方法は、急性及び持続性の両方の、進行性眼関連障害の治療に有用である。急性疾患の場合、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターが、短期間内に、単回又は複数回の適用を用いて投与され得る。加齢性黄斑変性や糖尿病性網膜症などの持続性の眼関連障害については、発現ベクターの多数の適用が、治療効果を実現するのに必要であり得る。
【0021】
当業者は、当該分野で公知の多数の発現ベクターのいずれも、本発明の方法における使用に適切であることを理解する。適切な発現ベクターの例としては、例えば、プラスミド、プラスミド−リポソーム複合体、及びウイルスベクター、例えば、パルボウイルス−ベースのベクター(即ち、アデノ随伴ウイルス(AAV)−ベースのベクター)、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)−ベースのベクター、AAV−アデノウイルスキメラベクター、及びアデノウイルス−ベースのベクターが挙げられる。これらの発現ベクターはいずれも、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d edition,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989);及び、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons,New York,N.Y.(1994)に記載の標準的な組換えDNA技術を用いて調製され得る。
【0022】
遺伝子操作された環状の二本鎖DNA分子であるプラスミドは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列の眼細胞への送達のための、発現カセットを含むように設計され得る。プラスミドは、治療用核酸の投与のために記載される第1のベクターであるが、他の技術と比較して、トランスフェクション効率のレベルが低い。プラスミドをリポソームと複合体化することによって、遺伝子移入の効率は一般的に改善される。プラスミド−媒介遺伝子移入ストラテジーのために使用されるリポソームは、種々の組成を有するが、これらは、典型的には、合成カチオン性脂質である。プラスミド−リポソーム複合体の利点としては、治療用核酸をコードするDNAの多数を移入する能力、及び比較的低い免疫原性が挙げられる。
【0023】
プラスミドは、しばしば、短期間発現のために使用される。しかし、プラスミド構築物は、長期の発現を得るように改変され得る。パルボウイルス、特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)の逆方向末端反復(ITR)は、しばしば、AAVに関連する、高レベルの持続的な核酸発現の原因であることが最近見出された(例えば、米国特許第6,165,754号参照)。従って、発現ベクターは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子の長期及び実質的な発現を得るために、ネイティブのパルボウイルスITRを含むプラスミドであり得る。プラスミドは、本発明の方法における使用に適切ではあるが、好ましくは、発現ベクターはウイルスベクターである。
【0024】
AAVベクターは、遺伝子治療プロトコルでの使用のために特に興味深いウイルスベクターである。AAVは、ヒト疾患を引き起こすことが知られていないDNAウイルスである。AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(即ち、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)との同時感染、又はヘルパー遺伝子の発現を必要とする。治療用核酸の投与のために使用されるAAVベクターは、DNA複製とパッケージングのための認識シグナルを含む末端反復(ITR)のみが残るように、親のゲノムの約96%を欠失させている。これは、ウイルス遺伝子の発現に起因する免疫原性又は毒性の副作用を排除する。更に、所望するならば、AAV repタンパク質の送達は、ゲノムの特定の領域へのAAV ITRを含むAAVベクターの組み込みを可能とする。組み込まれたAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞増殖又は形態に何ら変化も示さない(例えば、米国特許第4,797,368号参照)。効率的ではあるが、ヘルパーウイルス又はヘルパー遺伝子の必要性は、このベクターの広範な使用にとっての障害であり得る。
【0025】
レトロウイルスは、広範な種々の宿主細胞に感染できるRNAウイルスである。感染の際、レトロウイルスゲノムは、その宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主細胞DNAと共に複製され、それによって、絶えずウイルスRNA及びレトロウイルスゲノムに組み込まれた任意の核酸配列を産生する。病原性レトロウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)を使用する場合は、毒性を除去するためにウイルスゲノムを改変する際に注意しなければならない。更に、レトロウイルスベクターは、ウイルスを複製不能にするように操作され得る。従って、レトロウイルスベクターは、インビボでの安定な遺伝子移入のために特に有用であると考えられている。HIV−ベースのベクターのようなレンチウイルスベクターは、遺伝子送達のために使用されるレトロウイルスの例である。他のレトロウイルスとは異なり、HIVベースのベクターは、非分裂細胞にパッセンジャー遺伝子を組み込むことが知られており、従って、眼関連障害の萎縮形態を治療するのに有用であり得る。
【0026】
HSVベースのウイルスベクターは、核酸を眼細胞に導入する発現ベクターとして使用するのに適切である。成熟HSVビリオンは、152kbのリニア二本鎖DNAからなるウイルスゲノムを包み込む正二十面体のカプシドからなる。大部分の複製欠損HSVベクターは、複製を妨げるために1つ以上の中期−初期遺伝子を除去する欠失を含む。ヘルペスベクターの利点は、長期間のDNA発現を生じ得る潜伏ステージに入る能力、及び25kbまでの外来DNAを収容できる大きなウイルスDNAゲノムにある。もちろん、この能力はまた、短期間の処置法に関しては不利である。本発明の方法における使用に適切なHSV−ベースのベクターの説明については、例えば、米国特許第5,837,532号、第5,846,782号、第5,849,572号、及び第5,804,413号、並びに国際特許出願公開WO91/02788、WO96/04394、WO98/15637及びWO99/06583を参照のこと。
【0027】
アデノウイルス(Ad)は、種々の異なる標的細胞型にインビボでDNAを効率的に移す36kbの二本鎖DNAウイルスである。本発明の方法における使用に関して、このウイルスは、好ましくは、ウイルス複製のために必要な選択された遺伝子を欠失させることによって、複製欠損にされる。不要なE3領域はまた、しばしば、より大きなDNA挿入物のための更なる場所を許容させるために欠失される。このベクターは、高力価で産生でき、複製細胞及び非複製細胞に効率的にDNAを移すことができる。新たに移された遺伝子情報は、染色体上に留まり、ランダムな挿入変異のリスクを排除し、標的細胞の遺伝子型の永久的な変化を排除する。しかし、所望ならば、AAVの組み込み性質は、AAV−Adキメラベクターを構築することによって、アデノウイルスに付与することができる。例えば、アデノウイルスベクターに組み込まれたAAV ITR及びRepタンパク質をコードする核酸は、アデノウイルスベクターが哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれるのを可能とする。従って、AAV−Adキメラベクターは、本発明で使用する興味深い選択肢である。
【0028】
好ましくは、本発明の方法の発現ベクターは、ウイルスベクターである。より好ましくは、発現ベクターはアデノウイルスベクター(例えば、ヒトアデノウイルスベクター)である。本発明の状況下では、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスの任意の血清型から得ることができる。アデノウイルス供給源として使用できるアデノウイルスストックは、現在American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,VA)から入手可能なアデノウイルス血清型1〜51からか、又は、任意の他の供給源から入手可能なアデノウイルスの任意の他の血清型から増幅され得る。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18及び31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34及び35)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5及び6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22−30、32、33、36〜39及び42〜47)、サブグループE(血清型4)、サブグループF(血清型40及び41)、又は任意の他のアデノウイルス血清型であり得る。しかし、好ましくは、アデノウイルスは血清型2、5又は9である。しかし、非Cグループアデノウイルスは、眼細胞に抗血管形成因子及び/又は神経栄養因子を送達するための複製欠損アデノウイルス遺伝子移入ベクターを調製するために使用され得る。非Cグループアデノウイルス遺伝子移入ベクターの構築において使用される好適なアデノウイルスとしては、Ad12(Aグループ)、Ad7及びAd35(Bグループ)、Ad30及びAd36(Dグループ)、Ad4(Eグループ)、並びにAd41(Fグループ)が挙げられる。非Cグループアデノウイルスベクター、非Cグループアデノウイルスベクターの製造方法、及び非Cグループアデノウイルスベクターの使用方法は、例えば、米国特許第5,801,030号、第5,837,511号、及び第5,849,561号、並びに、国際特許出願公開WO97/12986、及びWO98/53087に開示されている。
【0029】
好ましくは、アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要な少なくとも1つの遺伝子機能に欠損があり、それによって、「複製−欠損」アデノウイルスベクターが生じる。「複製−欠損」とは、アデノウイルスベクターが、少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠くアデノウイルスゲノムを含むことを意味する(即ち、アデノウイルスベクターは、典型的宿主細胞で複製しない、特に、本発明の治療の過程でアデノウイルスベクターによって感染され得るヒト患者中の代表的な宿主細胞で複製しない)。本明細書中で使用する場合、遺伝子、遺伝子機能、又は遺伝子もしくはゲノム領域での欠損は、核酸配列が、全体的又は部分的に欠失した遺伝子の機能を損なうか又は消失させるのに十分なウイルスゲノムの遺伝子物質の欠失と定義される。ある完全な遺伝子領域の欠失は、しばしば、複製に必須の遺伝子機能の破壊に必要ではない。しかし、1つ以上の導入遺伝子のためにアデノウイルスゲノム内の十分なスペースを提供するために、ある遺伝子領域の大部分の除去は望ましくあり得る。複製に必須の遺伝子機能は、複製(例えば増殖)に必要であり、例えば、アデノウイルス初期領域(例えば、E1、E2、及びE4領域)、後期領域(例えば、L1〜L5領域)、ウイルスパッケージングに関与する遺伝子(例えば、IVa2遺伝子)、及びウイルス関連RNA(例えば、VA−RNA−1及び/又はVA−RNA−2)によってコードされる遺伝子機能である。より好ましくは、複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの1つ以上の領域の少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠くアデノウイルスゲノムを含む。この点に関し、アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能を欠く。E1領域での欠損に加え、組換えアデノウイルスはまた、主要後期プロモーター(MLP)中に変異を有し得る。MLPにおける変異は、国際特許出願公開WO00/00628において考察されるように、それが、プロモーターの応答性を変更するような、任意のMLP制御要素内にあり得る。より好ましくは、ベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能及びE3領域の少なくとも一部を欠く(例えば、E3領域のXbaI欠失)。アデノウイルスベクターは、E1領域に関して、E1a領域の少なくとも一部とE1b領域の少なくとも一部を欠損し得る。例えば、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの全E1領域とE3領域の一部の欠失を含み得る(即ち、ヌクレオチド355〜3,511及び28,593〜30,470)。単一欠損アデノウイルスベクターは、約ヌクレオチド356〜3,329及び28,594〜30,469(アデノウイルス血清型5のゲノムに基づく)の欠失であり得る。あるいは、アデノウイルスベクターは、約ヌクレオチド356〜3,510及び28,593〜30,470(アデノウイルス血清型5のゲノムに基づく)の欠失であり得る。欠失ヌクレオチド部分を規定する終点は、正確に決定するのが困難であり得、典型的にはアデノウイルスベクターの性質に有意に影響を与えない。即ち、各々の上記ヌクレオチド数は、±1ヌクレオチド、±2ヌクレオチド、±3ヌクレオチド、±4ヌクレオチド、±5ヌクレオチド、又は±10ヌクレオチドもしくは±20ヌクレオチドでさえあり得る。
【0030】
好ましくは、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターが、2つ以上の領域の各々でウイルス複製に必要な1つ以上の必須遺伝子機能を欠損していることを意味する「複数の欠損」である。例えば、上記E1−欠損、又はE1,E3−欠損アデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須遺伝子に更に欠損があり得る。完全E4領域が欠失したアデノウイルスベクターは、より低い宿主免疫応答しか発揮できない。E4欠損の場合、アデノウイルスベクターゲノムは、例えば、E1領域での欠失(例えば、ヌクレオチド356〜3,329又はヌクレオチド356〜3,510)及び/又はE3領域での欠失(例えば、ヌクレオチド28,594〜30,469又はヌクレオチド28,593〜30,470)に加えて、必要に応じて、ヌクレオチド32,826〜35,561(アデノウイルス血清型5のゲノムに基づく)の欠失を含み得る。複数の複製欠損がある場合、特に、E1とE4の領域の複製に必須の遺伝子機能の欠損の場合、アデノウイルスベクターは、好ましくは、単一複製欠損アデノウイルスベクター(特に、E1欠損アデノウイルスベクター)によって達成されるものと類似の相補細胞株におけるウイルス増殖を提供するためのスペーサー要素を含む。
【0031】
あるいは、アデノウイルスベクターは、E1領域の全て又は一部及びE2領域の全て又は一部(例えば、E2A領域)を欠く。しかし、E1領域の全て又は一部、E2領域の全て又は一部及びE3領域の全て又は一部を欠くアデノウイルスベクターも、本明細書で意図される。一実施態様では、アデノウイルスベクターは、E1領域の全て又は一部、E2領域の全て又は一部、E3領域の全て又は一部、及びE4領域の全て又は一部を欠く。適切な複製欠損アデノウイルスベクターは、米国特許第5,851,806号及び第5,994,106号、並びに国際特許出願公開WO95/34671及びWO97/21826に開示されている。例えば、適切な複製欠損アデノウイルスベクターとしては、E1a領域の少なくとも一部の欠失、E1b領域の少なくとも一部の欠失、E2a領域の少なくとも一部の欠失、及びE3領域の少なくとも一部の欠失を有するものが挙げられる。あるいは、複製欠損アデノウイルスベクターは、E1領域の少なくとも一部の欠失、E3領域の少なくとも一部の欠失、及びE4領域の少なくとも一部の欠失を有し得る。あるいは、又は、加えて、国際特許出願番号PCT/US02/29111に記載のように、VA1遺伝子及びVAII遺伝子などの、アデノウイルスゲノムの他の領域も欠失させ得る。複数の欠損ウイルスベクターは、このようなベクターが外来DNAの大きな挿入物を受け入れることができるという点で特に有用である。実際、ウイルスゲノムのパッケージングと複製に必要なゲノム配列のみを含む複数の欠損アデノウイルスベクターの例であるアデノウイルスアンプリコンは、約36kbの挿入物を受け入れることができる。
【0032】
従って、好適な実施態様において、本発明の方法の発現ベクターは、E1領域の全て又は一部、E3領域の全て又は一部、E4領域の全て又は一部、及び場合によっては、E2領域の全て又は一部を欠く複数の欠損アデノウイルスベクターである。この点に関し、少なくともE4欠損アデノウイルスベクターは、インビボで限られた時間の間、高レベルで導入遺伝子を発現し、少なくともE4欠損アデノウイルスベクターでの導入遺伝子の発現の持続は、とりわけ、HSV ICP0、AdpTP、CMV−IE2、CMV−IE86、HIVtat、HTLV−tax、HBV−X、AAV Rep78、HSV ICP0のように機能するU205骨肉腫細胞株からの細胞因子、又は神経成長因子によって誘導されるPC12細胞における細胞因子などのトランス−作用因子の作用により制御され得ることが観察されている。上記を考慮すると、複数の欠損アデノウイルスベクター(例えば、少なくともE4欠損ベクター)は、好ましくは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸の発現の持続性を調節するトランス−作用因子をコードする核酸配列を更に含む。あるいは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸の発現の持続性を調節するトランス−作用因子をコードする核酸配列を含む第2の発現ベクターと眼細胞を接触させる。好ましくは、トランス−作用因子をコードする核酸配列は、アデノウイルスE4領域遺伝子産物をコードしない。アデノウイルスベクターから発現されようと、第2の発現ベクターによって供給されようと、好ましくは、トランス−作用因子は、単純ヘルペス感染細胞ポリペプチド0(HSV ICP0)である。
【0033】
アデノウイルスベクターの異なる領域の欠失は、哺乳動物の免疫応答を変更させ得ることを理解すべきである。特に、異なる領域の欠失は、アデノウイルスベクターによって生じる炎症応答を減少させることができる。更に、国際特許出願公開WO98/40509に記載のように、野生型コートタンパク質に対する中和抗体によって認識されるアデノウイルスベクターの能力又は不能力を減少させるように、アデノウイルスベクターのコートタンパク質を改変し得る。このような改変は、持続的な眼障害の長期間処置のために有用である。
【0034】
複数の複製欠損、特にE1とE4領域の複製に必須の遺伝子機能において複数の複製欠損がある場合、アデノウイルスベクターは、好ましくは、単一複製欠損アデノウイルスベクター(特に、E1領域における欠損を含むアデノウイルスベクター)によって達成されるウイルス増殖に類似した相補細胞株におけるウイルス増殖を提供するための、スペーサー要素を含む。L5ファイバー領域が保持されている本発明の好適なE4アデノウイルスベクターでは、スペーサーは、望ましくは、L5ファイバー領域と右側のITRとの間に位置する。より好ましくは、このようなアデノウイルスベクターにおいて、単独で、又は、最も好ましくは、別の配列と組合せて、E4ポリアデニル化配列が、L5ファイバー領域と右側のITRとの間に存在することによって、保持されたL5ファイバー領域を右側のITRから十分に離し、その結果、このようなベクターのウイルス産生は、単一複製欠損アデノウイルスベクター(特に単一複製欠損E1欠損アデノウイルスベクター)のウイルス産生に近づく。
【0035】
スペーサー要素は、所望の長さ、例えば、長さにおいて、少なくとも約15塩基対(例えば、約15〜約12,000塩基対)、好ましくは約100〜約10,000塩基対、より好ましくは約500〜約8,000塩基対、より一層好ましくは約1,500〜約6,000塩基対、最も好ましくは約2,000〜約3,000塩基対、である任意の配列を含み得る。スペーサー要素配列は、アデノウイルスゲノムに関して、コード配列でも、非コード配列でも、そして、ネイティブでも、非ネイティブでもよいが、欠損領域に複製に必須の機能を回復させない。スペーサーはまた、プロモーター可変発現カセットを含み得る。より好ましくは、スペーサーは、更なるポリアデニル化配列及び/又はパッセンジャー遺伝子を含む。好ましくは、E4に関する不完全な領域に挿入されたスペーサーの場合、E4ポリアデニル化配列と、アデノウイルスゲノムのE4プロモーターもしくは任意の他の(細胞又はウイルス)プロモーターの両方がベクターにある。スペーサーは、E4ポリアデニル化部位とE4プロモーターとの間に位置するか、又はE4プロモーターがベクターに存在しなければ、スペーサーは、右側のITRに隣接する。スペーサーは、任意の適切なポリアデニル化配列を含み得る。適切なポリアデニル化配列の例として、合成最適化配列、BGH(ウシ成長ホルモン)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタインバーウイルス)、並びにヒトパピローマウイルス及びBPV(ウシパピローマウイルス)を含むパピローマウイルスが挙げられる。好ましくは、特にE4欠損領域で、スペーサーはSV40ポリアデニル化配列を含む。SV40ポリアデニル化配列は、複数の複製欠損アデノウイルスベクターのより高いウイルス産生レベルを可能とする。スペーサーの非存在下、複数の複製欠損アデノウイルスベクターのファイバータンパク質の産生及び/又はウイルス増殖は、単一複製欠損アデノウイルスベクターと比較して減少する。しかし、欠損アデノウイルス領域の少なくとも1つ、好ましくはE4領域でのスペーサーの含有は、ファイバータンパク質産生とウイルス増殖でのこの減少を妨げることができる。
【0036】
パッセンジャー遺伝子は、典型的には、アデノウイルスゲノムのE1欠損領域に挿入されるが、パッセンジャー遺伝子はまた、アデノウイルスゲノムのE4欠損領域でのスペーサーとして機能し得る。パッセンジャー遺伝子は、ベクターが収容できるフラグメントのサイズによってのみ限定される任意の適切な遺伝子であり得る。適切なパッセンジャー遺伝子の例として、pGUS、分泌性アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、B−ガラクトシダーゼ、及びヒト抗トリプシンなどのマーカー遺伝子配列;嚢胞性線維症膜貫通調節遺伝子(CFTR)などの所定の治療遺伝子;及び、B3−19K、E3−14.7、ICP47,fasリガンド遺伝子、及びCTLA4遺伝子などの潜在性免疫改変因子が挙げられる。理想的には、スペーサーは、グルクロニダーゼ遺伝子から構成される。アデノウイルスベクターでのスペーサーの使用は、例えば、米国特許5,851,806及び国際特許出願公開WO97/21826に記載されている。
【0037】
望ましくは、アデノウイルスベクターは、多くとも、複製(即ち、増殖)のために、アデノウイルスゲノムのE1、E2A、及び/又はE4領域の複製に必須の遺伝子機能の相補性を必要とする。しかし、アデノウイルスベクターが欠損したままであり、例えば、破壊された複製に必須の遺伝子機能をコードする相補細胞及び/又は外来性DNA(例えば、ヘルパーアデノウイルス)を用いて増殖できる限り、アデノウイルスゲノムは、実務家によって所望のように、1つ以上の複製に必須の遺伝子機能を破壊するように改変され得る。この点に関し、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域のみの、アデノウイルスゲノムの後期領域のみの、及びアデノウイルスゲノムの初期と後期領域の両方の複製に必須の遺伝子機能の欠損であり得る。アデノウイルスベクターはまた、基本的に全アデノウイルスゲノムが除去され得る。その場合に、少なくとも逆末端反復(ITR)とパッケージングシグナルはインタクト(即ち、アデノウイルスアンプリコン)なままであることが好適である。複数の複製欠損アデノウイルスベクターを含む適切な複製欠損アデノウイルスベクターは、米国特許第5,837,511号、第5,851,806号、第5,994,106号、及び第6,579,522号、米国公開特許出願2001/0043922A1、2002/0004040A1、2002/0031831A1、及び2002/0110545A1、並びに、国際特許出願公開WO95/34671、WO97/12986、及びWO97/21826に開示されている。理想的には、医薬組成物は、複製コンピテントアデノウイルス(RCA)汚染物が実質的に無い(例えば、医薬組成物が、RCA汚染物を約1%未満しか含まない)。最も好ましくは、医薬組成物は、RCAを含まない。RCAを含まないアデノウイルスベクター組成物及びストックは、米国特許第5,944,106号及び第6,482,616号、米国公開特許出願2002/0110545A1、並びに国際特許出願WO95/34671に記載されている。理想的には、国際特許出願WO03/040314に更に記載されているように、アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの別の領域の他の複製に必須の遺伝子機能における欠損と組合せてE1欠損である場合、医薬組成物はまた、E1復帰突然変異体を含まない。
【0038】
複製に必須の遺伝子機能をコードするアデノウイルス配列の改変(例えば、欠失、変異、又は置換)に加えて、アデノウイルスゲノムは、良性又は非致死性の改変、即ち、アデノウイルスを複製欠損にしない改変、又は、望ましくは、このような改変が、さもなければ複製に必須の遺伝子機能を含むアデノウイルスゲノムの領域にあっても、ウイルス機能及び/又はウイルスタンパク質の産生に有害な影響を与えない改変を含み得る。このような改変は、通常、DNA操作から生じるか、又は発現ベクター構築を容易にするのに役立つ。例えば、アデノウイルスゲノムで制限酵素部位を除去又は導入することは利点があり得る。このような良性変異は、しばしば、ウイルス機能に対する検出可能な有害な効果を有していない。例えば、アデノウイルスベクターは、VA−RNA−1転写と関連するヌクレオチド10,594〜10,595(アデノウイルス血清型5のゲノムに基く)の欠失を含み得るが、その欠失は、VA−RNA−1の産生を妨げない。
【0039】
同様に、ウイルスベクター(好ましくは、アデノウイルスベクター)のコートタンパク質は、可能性のある宿主細胞上のウイルスレセプターに対するウイルスの結合特異性又は認識を変更するように操作され得る。アデノウイルスに関して、このような操作としては、ファイバー、ペントン又はヘキソンの領域の欠失、コートタンパク質の部分に種々のネイティブもしくは非ネイティブのリガンドの挿入などが挙げられる。コートタンパク質の操作は、ウイルスベクターによって感染する細胞の範囲を拡張し得るか、又は特定の細胞型に対するウイルスベクターのターゲティングを可能とする。例えば、一実施態様において、発現ベクターは、非ネイティブのアミノ酸配列の導入によって、好ましくは、カルボキシル基末端もしくはその近傍に、野生型(即ち、ネイティブ)のコートタンパク質とは異なるキメラコートタンパク質(例えば、ファイバー、ヘキソンpIX、pIIIa、又はペントンタンパク質)を含むウイルスベクターである。好ましくは、非ネイティブのアミノ酸配列は、内部コートタンパク質配列の中に又はそれに代わってに挿入される。当業者は、非ネイティブのアミノ酸配列は、内部コートタンパク質配列内に、又は内部コートタンパク質配列の末端で挿入できることを理解する。得られるキメラウイルスコートタンパク質は、ウイルス(即ち、アデノウイルス)ベクターの細胞への直接的な進入を可能にする。このウイルスベクターは、キメラウイルスコートタンパク質ではなく、野生型ウイルスコートタンパク質を含むこと以外同一であるベクターの細胞への侵入よりも、より効率的である。好ましくは、キメラウイルスコートタンパク質は、野生型コートタンパク質を含むベクターによっては認識されない、又は僅かしか認識されない細胞表面に存在する新規な内因性結合部位に結合する。侵入のこの増大した効率の1つの直接的な結果は、ウイルス(好ましくはアデノウイルス)は、野生型コートタンパク質を含むウイルスが典型的には侵入できないか又はほんの少しの効率でしか侵入できない多数の細胞型に、結合又は侵入できるということである。
【0040】
本発明の別の実施態様では、発現ベクターは、真核細胞の特定の型に選択的ではないキメラウイルスコートタンパク質を含むウイルスベクターである。キメラコートタンパク質は、非ネイティブのアミノ酸配列の、内部コートタンパク質配列の中への又はそれに代わる挿入によって、野生型コートタンパク質とは異なる。この実施態様において、キメラウイルスコートタンパク質は、国際特許出願公開WO97/20051に記載のように、野生型ウイルスコートよりもより広範囲の真核細胞に効率的に結合する。
【0041】
アデノウイルスの所定の細胞への結合の特異性はまた、米国特許第5,962,311号で考察されるように、短いシャフトのアデノウイルスファイバー遺伝子を含むアデノウイルスの使用によって調節され得る。短いシャフト(short−shafted)のアデノウイルスファイバー遺伝子を含むアデノウイルスの使用は、その細胞表面レセプターへの、アデノウイルスファイバー結合のレベル又は効率を減少させ、その細胞表面レセプターへのアデノウイルスペントンベース結合を増大させ、それによって、アデノウイルスの、所定の細胞への結合の特異性を増大させる。あるいは、短いシャフトのファイバーを含むアデノウイルスの使用は、非ネイティブのアミノ酸配列の、ペントンベースもしくはファイバーノブ(fiber knob)への導入によって、アデノウイルスの、所望の細胞表面レセプターへのターゲティングを可能とする。
【0042】
もちろん、可能性のある宿主細胞を認識するウイルスベクターの能力は、コートタンパク質の遺伝子操作無しに調節され得る。例えば、ペントンベース−結合ドメインと特定の細胞表面結合部位と選択的に結合するドメインを含む二重特異性の分子とアデノウイルスとの複合体形成は、当業者が、ベクターを特定の細胞型にターゲティングさせることを可能とする。
【0043】
ウイルスベクター(特に、アデノウイルスベクター)に関する適切な改変は、米国特許第5,543,328号、第5,559,099号、第5,712,136号、第5,731,190号、第5,756,086号、第5,770,442号、第5,846,782号、第5,871,727号、第5,885,808号、第5,922,315号、第5,962,311号、第5,965,541号、第6,057,155号、第6,127,525号、第6,153,435号、第6,329,190号、第6,455,314号、及び第6,465,253号、並びに、米国出願公開2001/0047081A1、2002/0099024A1、及び2002/0151027A1、並びに、国際特許出願公開WO95/02697、WO95/16772、WO95/34671、WO96/07734、WO96/22378、WO96/26281、WO97/20051、WO98/07865、WO98/07877、WO98/40509、WO98/54346、WO00/15823、WO01/58940、及びWO01/92549に記載されている。同様に、多数の発現ベクターは市販されていることが理解される。発現ベクターの構築は、当該分野で十分に理解されている。アデノウイルスベクターは、当該分野で公知の方法(例えば、293細胞株、Per.C6細胞株、又は293−ORF6細胞株などの相補細胞株を用いる)、及び、例えば、米国特許第5,965,358号、第5,994,128号、第6,033,908号、第6,168,941号、第6,329,200号、第6,383,795号、第6,440,728号、第6,447,995号、及び第6,475,757号、米国出願公開2002/0034735A1、並びに、国際特許出願公開WO98/53087、WO98/56937、WO99/15686、WO99/54441、WO00/12765、WO01/77304、及びWO02/29388、並びに、これらの中で記載されている他の参考文献に記載される方法を用いて、構築及び/又は精製できる。アデノ随伴ウイルスベクターは、例えば、米国特許第4,797,368号及びLaughlinら,Gene,23,65−73(1983)に記載の方法を用いて、構築及び/又は精製できる。
【0044】
本発明の方法における使用のための発現ベクターの選択は、例えば、宿主、ベクターの免疫原性、タンパク質産生の所望の持続などの種々の因子に依存する。発現ベクターの各型は異なる性質を有するので、研究者は、本発明の方法を、任意の特定の状況に合わせる自由を有する。更に、2つ以上の型の発現ベクターが、眼細胞に核酸配列を送達するために使用できる。このように、本発明は、少なくとも1つの眼関連障害のための動物の予防的処置又は治療的処置の方法であって、眼細胞を、各々が、血管形成阻害剤をコードする核酸配列及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む異なる発現ベクターと接触させることを含む方法を提供する。血管形成阻害剤をコードする核酸配列及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列は発現され、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の産生が生じて、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する。
【0045】
好ましくは、発現ベクターの少なくとも2つの異なる型(即ち、プラスミドとウイルスベクター、又は2つの異なるウイルスベクター)を眼細胞に送達する。少なくとも1つの発現ベクターは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列を含み得る。同様に、少なくとも1つの発現ベクターは、神経栄養剤をコードする核酸配列を含み得る。実際、幾つかは、血管形成阻害剤をコードする配列を含み、そして、幾つかは、神経栄養剤をコードする配列を含む発現ベクターの混合物も投与できる。望ましくは、少なくとも1つの発現ベクターは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列を含む。より好ましくは、血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列は同一の核酸である。また好ましくは、血管形成阻害剤と神経栄養剤は単一因子である。好ましくは、眼細胞を、アデノウイルスベクターとアデノ随伴ウイルスベクターに接触させる。当業者は、眼関連障害を治療又は研究するために、複数の送達システムの有利な性質を十分に利用できることを理解する。
【0046】
本発明の一実施態様は、加齢性黄斑変性に関する動物の予防的処置又は治療的処置の方法を提供する。本方法は、加齢性黄斑変性を伴う眼細胞のような眼細胞を、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターと接触させることを含む。あるいは、各々の発現ベクターが、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む、少なくとも2つの異なる型の発現ベクターと、眼細胞を接触させる。加齢性黄斑変性は通常は高齢者が罹患するので、好ましくは、発現ベクターは、少なくとも55歳の動物(即ち、ヒト)に投与する。加齢性黄斑変性は、多数の眼組織を冒す広範囲の種々の合併症を伴う複雑な疾患である。加齢性黄斑変性と関連する眼細胞としては、神経起源の細胞、網膜の全ての層の細胞、特に、網膜色素上皮細胞、グリア細胞及び周細胞が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の方法における使用に適切な他の眼細胞としては、例えば、内皮細胞、虹彩上皮細胞、角膜細胞、毛様体上皮細胞、ミュラー細胞、アストロサイト、眼を囲んで付着する筋肉細胞(例えば、外側直筋細胞)、線維芽細胞(例えば、上強膜と関連する線維芽細胞)、眼窩脂肪細胞、強膜及び上強膜の細胞、結合組織細胞、筋肉細胞、及び小柱網細胞が挙げられる。小柱網は、眼の外への排液のための通過と関連する。種々の眼関連障害に関連する他の細胞としては、例えば、線維芽細胞や血管内皮細胞が挙げられる。大部分の網膜損傷は、浮腫、下に存在する膜の肥厚、及び代謝性副産物の増加の結果として起こる点で、好ましくは、発現ベクターは、血管漏洩の領域に投与される。
【0047】
核酸配列は、望ましくは、発現カセット、即ち、核酸配列のサブクローニングと回収を容易にする(例えば、1つ以上の制限部位)又は核酸配列の発現を容易にする(例えば、ポリアデニル化又はスプライス部位)機能を有する特定のヌクレオチド配列、の一部として存在する。核酸配列は、好ましくは、アデノウイルスゲノムのE1領域に存在する(例えば、全体的に又は部分的にE1領域を置き換える)。例えば、E1領域は、核酸配列を含むプロモーター可変発現カセットによって置き換わり得る。発現カセットは、好ましくは、3’−5’方向に挿入される、例えば、発現カセットの転写の方向は、周りの隣接するアデノウイルスゲノムの方向とは反対に方向付けられる。核酸配列を含む発現カセットに加えて、アデノウイルスベクターは、他の産物をコードする核酸配列を含む他の発現カセットを含み得、カセットは、アデノウイルスゲノムの任意の欠失領域を交換し得る。アデノウイルスゲノムへの(例えば、ゲノムのE1領域中への)発現カセットの挿入は、公知の方法、例えば、アデノウイルスゲノムの所定位置での固有の制限部位の導入によって、容易にすることができる。上記のように、好ましくは、アデノウイルスベクターのE3領域の全部又は部分を欠失させる。
【0048】
本発明によれば、核酸配列は、発現に必要な制御配列、即ちプロモーターに機能可能に結合される。「プロモーター」は、RNAポリメラーゼを結合させ、それによってRNA合成を促進するDNA配列である。プロモーターが核酸配列の転写をさせることができる場合、核酸配列は、プロモーターと「機能可能に連結」している。プロモーターは、それが機能可能に結合している核酸配列に対しネイティブ又は非ネイティブであり得る。
【0049】
任意のプロモーター(即ち、天然から単離されようと、組換えDNA技術もしくは合成技術によって産生されようと)は、核酸配列を転写させるために、本発明に関し使用できる。好ましくは、プロモーターは、真核(望ましくは哺乳動物)細胞で転写させることができる。プロモーターの機能は、ベクターに存在する1つ以上のエンハンサー及び/又はサイレンサーの存在によって変り得る。「エンハンサー」は、隣接の遺伝子の転写を刺激又は阻害するDNAのシス−作用要素である。転写を阻害するエンハンサーはまた、「サイレンサー」と言われる。エンハンサーは、いずれの方向でも機能し得、数キロ塩基対(kb)までの距離にわたって、転写領域の下流位置からでさえ機能し得るという点で、エンハンサーは、プロモーターでのみ見出される配列特異的DNA結合タンパク質のためのDNA結合部位(「プロモーター要素」とも言われる)とは異なる。
【0050】
真核生物で機能するプロモーター配列の比較は、保存された配列要素を示した。一般的に、RNAポリメラーゼIIによって転写される真核プロモーターは、約−25の位置に中心がある「TATAボックス」(転写の開始を正確に位置決めするのに必須であると考えられている)によって代表される。TATAボックスは、哺乳動物系統において、約30塩基対(bp)下流で、RNAポリメラーゼに転写を開始する。TATAボックスは、転写の開始の上流の約40bpと110bpに位置する、少なくとも2つの他の上流配列と一緒に機能する。典型的には、いわゆる「CCAATボックス」は、2つの上流配列の1つとして働き、他方は、しばしば、GC−リッチセグメントである。CCAAT相同性は、DNAの異なる鎖に存在し得る。上流プロモーター要素はまた、当該分野で記載されているシグナル、及び遺伝子の特定のサブセットを特徴付けると考えられるシグナルの1つなどの特殊なシグナルであり得る。
【0051】
転写を開始させるために、TATAボックスと上流配列は各々、これらの部位に結合する調節タンパク質によって認識され、RNAポリメラーゼIIがDNAセグメントと結合するのを可能とすることによって転写を活性化させ、適切に転写を開始させる。TATAボックスと上流配列の外の塩基変化は、転写のレベルに殆ど影響を与えないが、これらの要素のどちらかの塩基変化は、実質的に転写速度を減少させる(例えば、Myersら,Science,229,242−247(1985); McKnightら,Science,217,316−324(1982))。互いに対する及び開始位置に対する、これらの要素の位置及び方向は、幾つかの(全部ではないが)コード配列の効率的な転写に重要である。例えば、幾つかのプロモーター機能は、TATAボックスの非存在下良く機能する。同様に、RNAポリメラーゼIもしくはIII、又は他のRNAポリメラーゼによって認識されるプロモーターのための、これらの及び他の配列の必要性は異なり得る。
【0052】
従って、プロモーター領域は、長さや配列において異なり得、配列特異的DNA結合タンパク質のための1つ以上のDNA結合部位及び/又はエンハンサーもしくはサイレンサーを更に含み得る。エンハンサー及び/又はサイレンサーは、同様に、それ自体、プロモーターの外の核酸配列上に存在し得る。望ましくは、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーなどの細胞又はウイルスエンハンサーは、プロモーター活性を高めるために、プロモーターの近傍に置かれる。更に、スプライスアクセプター及びドナー部位が、転写を高めるために、核酸配列上に存在し得る。
【0053】
本発明は優先的にウイルスプロモーターを使用する。適切なウイルスプロモーターは、当該分野で公知であり、例えば、CMV前初期プロモーターなどのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HIV長末端反復プロモーターなどのヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター、RSV長末端反復などのラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、Lap2プロモーターもしくはヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなどのHSVプロモーター(Wagnerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,78,144−145(1981)、SV40もしくはエプスタインバーウイルス由来のプロモーター、p5プロモーターなどのアデノ随伴ウイルスプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、ウイルスプロモーターは、Ad2もしくはAd5主要後期プロモーターやトライパータイトリーダー(tripartite leader)などのアデノウイルスプロモーター、CMVプロモーター、又はRSVプロモーターである。
【0054】
あるいは、本発明は、細胞プロモーター、即ち、細胞タンパク質の発現を駆動するプロモーターを用いる。本発明で使用するのに好適な細胞プロモーターは、治療剤を産生するための所望の発現プロフィールに依存する。1局面では、細胞プロモーターは、好ましくは、眼と関連した細胞などの種々の細胞型で働く構成的プロモーターである。適切な構成的プロモーターは、転写因子をコードする遺伝子、ハウスキーピング遺伝子、又は真核細胞に共通の構造遺伝子の発現を駆動できる。例えば、Ying Yang 1(YY1)転写因子(NMP−1,NF−E1,及びUCRBPとも言われる)は、核マトリックスの固有成分である遍在性核転写因子である(Guoら,PNAS,92,10526−10530(1995))。YY1は、細胞環境での変化に応答する調節タンパク質である。従って、ウイルス感染過程は、YY1プロモーターの活性をアップレギュレートし、転写を増大させることができ、次いで、ウイルス構築物からタンパク質産生を増大させることができる。本明細書中に記載するプロモーターは構成的プロモーターとみなされるが、構成的プロモーターをアップレギュレートできることは当該分野で理解されている。基礎転写に重要な要素は、プロモーターから転写開始部位に対しYY1遺伝子の−277〜+475に存在し、そして、TATA及びCCAATボックスを含むことをプロモーター解析は示す。JEM−1(HGMW及びBLZF−1としても知られる)はまた、正常及び腫瘍組織で同定された遍在性核転写因子である(Tongら,Leukemia,12(11),1733−1740 (1998),及びTongら,Genomics,69(3),380−390(2000))。JEM−1は、細胞増殖制御と成熟に関与し、レチノイン酸によってアップレギュレートできる。JEM−1プロモーターの最大活性を荷う配列は、プロモーターの転写開始部位に対しJEM−1遺伝子の−432〜+101に位置していた。YY1プロモーターとは異なり、JEM−1プロモーターはTATAボックスを含まない。ユビキチンプロモーター、特にUbCは、幾つかの種で機能する、強力な構成的に活性なプロモーターである。UbCプロモーターは、Marinovicら,J.Biol.Chem.,277(19),16673−16681(2002)で更に特徴づけられている。
【0055】
上記プロモーターの多くは構成的プロモーターである。構成的プロモーターの代わりに、プロモーターは誘導性プロモーター、即ち、適切なシグナルに応答してアップ−及び/又はダウン−レギュレートされるプロモーターであり得る。例えば、制御配列は、眼血管新生又は加齢性黄斑変性が低酸素を伴う場合、活性である低酸素駆動プロモーターを含み得る。適切な誘導性プロモーター系の他の例として、IL−8プロモーター、メタロチオネイン誘導性プロモーター系、細菌lacZYA発現系、テトラサイクリン発現系、及びT7ポリメラーゼ系が挙げられるが、それらに限定されない。更に、異なる発生段階で選択的に活性化されるプロモーター(例えば、グロビン遺伝子は、胎児と成人でグロビン関連プロモーターから差示的に転写される)を使用できる。核酸配列の発現を制御するプロモーター配列は、外来性薬剤による調節に応答する少なくとも1つの異種の調節配列を含み得る。調節配列は、好ましくは、薬物、ホルモン又は他の遺伝子産物(理想的には、眼で産生される遺伝子産物)など(これらに限定されない)の外来性薬剤に応答する。例えば、制御配列、例えば、プロモーターは、好ましくは、グルココルチコイドレセプター−ホルモン複合体に応答性であり、次いで、それは、治療用ペプチド又はその治療用フラグメントの転写のレベルを増大させる。
【0056】
好ましくは、調節配列は、組織特異的プロモーター、即ち、所定の組織で優先的に活性化され、活性化された組織での遺伝子産物の発現を生じさせるプロモーターを含む。典型的に使用される組織特異的プロモーターは、筋細胞特異的プロモーターである。筋細胞特異的プロモーターの代表的なプロモーターは、ミオシン軽鎖1Aプロモーターである。本発明のベクターで使用される組織特異的プロモーターは、標的組織又は細胞型に基づき、当業者によって選択されることができる。本発明の方法で使用される好適な組織特異的プロモーターは、ロドプシンプロモーターなどのように眼組織に特異的である。ロドプシンプロモーターの例としては、GNATコーン−トランスデューシングアルファ−サブユニット遺伝子プロモーター(GNAT cone−transducing alpha−subunit gene promoter)、又はインターフォトレセプターレチノイド結合タンパク質プロモーター(interphotoreceptor retinoid binding protein receptor)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0057】
当業者は、各プロモーターが転写を駆動し、従って、産生されるタンパク質の時間と量に関して異なるようにタンパク質発現を駆動することを理解する。例えば、CMVプロモーターは、形質導入後直ぐに(即ち、形質導入後約24時間)ピーク活性を有し、次いで、素早く漸減することで特徴付けられる。ここで記載する細胞プロモーターは、治療因子の産生を最適化するために利用され得る異なる発現プロフィールを示す。UbCプロモーターとYY1プロモーターは、CMVプロモーターと比較して長時間、導入遺伝子の一定発現を駆動する。CMVプロモーターは、ベクターの投与1日後で観察される転写レベルと比較して、転写の急速な消失を伴う。1局面では、本発明のプロモーターは、好ましくは、約2x10粒子の投与量でマウスに眼内(例えば、硝子体内)に投与する場合、投与約1ヶ月(28日)後(好ましくは、投与の35日、42日、又は48日後)で活性の実質的な消失無しに治療因子又はそのフラグメントをコードする核酸配列の転写を駆動する。好ましくは、核酸配列の転写のレベル(理想的には、タンパク質産生が起こる)は、投与28日後で、投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、10分の1より多くは減少しない(例えば、7分の1以下)。より好ましくは、転写のレベルは、28日目で、発現(例えば、アデノウイルス)ベクター投与1日後での転写のレベルと比べて、5分の1より多くは減少しない(例えば、3分の1以下)。最も好ましくは、28日目でプロモーター活性の喪失は無い。理想的には、同一レベルの転写がヒトの眼で達成される。幾つかの細胞プロモーターは、投与1日後でのレベルと比べて、長時間にわたる発現の増大を示す。1日目のレベルは、活性の低い初期レベルを有し得る(即ち、初期発現レベルは最小限の上記バックグラウンドである)。例えば、JEM−1プロモーターからの初期発現は、バックグラウンドレベル近傍である。しかし、転写レベルは、転写の初期レベルと比べて、形質導入後14日で10倍まで増加し、ベクターの投与28日後でも上昇したままである。従って、プロモーターは、その活性の特定のパターンを、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子の発現の所望のパターンとレベルを合わせることによって、本発明の方法で使用するために選択できる。
【0058】
要するに、本発明は、眼関連障害に関する動物の予防的又は治療的処置の方法を提供する。この方法は、細胞プロモーターと機能可能に連結し、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターと眼細胞を接触させることを含み、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤が産生され、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置することを含み、但し、アデノウイルスベクターが投与量2x10粒子でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、アデノウイルスベクターの投与28日後に、アデノウイルスベクターの投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、10分の1より多くは減少しないことを含む。
【0059】
あるいは、複数のプロモーターの所望の局面を組み合わせたハイブリッドプロモーターを構築できる。例えば、CMVプロモーターの高活性とUbCプロモーターの活性の高維持レベルを組み合わせたCMV−UbCハイブリッドプロモーターは、本発明の方法の多くの実施態様での使用に特に好適である。研究者によって操作できる発現プロフィールを有するプロモーターを選択することも可能である。
【0060】
また好ましくは、発現ベクターは、核酸配列の発現を調節するシス−作用因子をコードする核酸を含む。好ましくは、シス−作用因子は、とりわけ、マトリックスアタッチメント領域(matrix attachment region)(MAR)配列(例えば、イムノグロブリン重鎖(Jenunwinら,Nature,385(16),269(1997))、アポリポタンパク質B、又はローカスコントロール領域(locus control region)(LCR)配列を含む。MAR配列は、ヌクレアーゼ消化と抽出とを組合わせた後の核マトリックスと関係するDNA配列として特徴付けられている(Bodeら,Science,255(5041),195−197(1992))。MAR配列は、しばしば、エンハンサー型調節領域と関係し、ゲノムDNAに組み込まれた場合、MAR配列は、隣接ヌクレオチド配列の転写活性を増大させる。MAR配列は、クロマチン構造のトポロジカル状態を制御する役割を有し、それによって、転写的に活性な複合体の形成を容易にすることが仮定された。同様に、LCR配列は、転写に許容的なドメインを確立及び/又は維持するように機能すると考えられている。多くのLCR配列は、関連する核酸配列の組織特異的発現を生じさせる。MAR又はLCR配列の、発現ベクターへの付加は、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子の発現を更に増大させることができる。
【0061】
本発明の発現ベクターに置かれるプロモーター、核酸配列、選択可能マーカーなどに関し、このような要素は、独立又は連関して、カセットの一部として存在し得る。本明細書で更に記載するように、「カセット」は、核酸配列のサブクローニングと回収を容易にするか(例えば、1つ以上の制限部位)、又は特定の核酸配列の発現を容易にする(例えば、ポリアデニル化部位又はスプライス部位)機能を有する特定の塩基配列である。
【0062】
発現に必要な調節配列に機能可能に結合した外来核酸の構築は、当該分野で周知である(例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.(1989)参照)。本発明の核酸配列の発現に関し、当業者は、例えば、転写、mRNA翻訳、及び転写後プロセシングなどの異なる遺伝子シグナル及びプロセシング事象は、細胞内の核酸及びタンパク質/ペプチドのレベルを制御することを知っている。DNAのRNAへの転写は、本明細書中に記載のように、機能性プロモーターを必要とする。
【0063】
タンパク質発現は、DNAシグナル、RNA安定性及びDNA鋳型のレベルによって制御されるRNA転写のレベルに依存している。同様に、mRNAの翻訳は、しばしば、まさに少なくともAUG開始コドンを必要とする。それは、メッセージの5’末端の10−100ヌクレオチド内に通常位置する。AUG開始コドンに隣接する配列は、真核リボソームによるその認識に影響を与えることが示されたが、完全なKozakコンセンサス配列に一致して、最適の翻訳を生じる(例えば、Kozak,J.Molec.Biol.,196,947−950(1987)参照)。また、細胞中での外来核酸の首尾良い発現は、得られるタンパク質の翻訳後修飾を必要とし得る。このように、タンパク質の産生は、DNA(又はRNA)がmRNAに転写される効率、mRNAがタンパク質に翻訳される効率、及び細胞が翻訳後修飾を行う能力によって影響され得る。これらは、当業者が把握し、かつ所望の最終結果を達成するために標準的手段を用いて操作できる全ての因子である。
【0064】
これらのラインに沿って、タンパク質産生を最適化するために、好ましくは、核酸配列は、核酸配列のコード領域の後にポリアデニル化部位を更に含む。また好ましくは、全ての適切な転写シグナル(及び、適宜、翻訳シグナル)は、核酸配列が導入される細胞内で適切に発現されるように、正しく配置される。所望ならば、核酸配列はまた、mRNA産生を容易にするように、スプライス部位(即ち、スプライスアクセプター部位及びスプライスドナー部位)を組み込むことができる。更に、核酸配列が、プロセスタンパク質又は分泌タンパク質であるタンパク質もしくはペプチド、あるいは細胞内で作用するタンパク質もしくはペプチドをコードする場合、好ましくは、この核酸配列は、プロセシング、分泌、細胞内局在などのための適切な配列を更に含む。
【0065】
特定の実施態様において、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子の発現を調節することは利点があり得る。核酸配列の発現調節の特に好適な方法は、発現ベクター上に部位特異的組換え部位の付加を含む。部位特異的組換え部位を含む発現ベクターをリコンビナーゼと接触させることは、組換え事象により、コード配列の転写をアップ−又はダウン−レギュレートし、又は同時に、1つのコード配列の転写をアップ−レギュレートし、別のコーディング領域の転写をダウン−レギュレートする。核酸配列の転写を調節するための部位特異的組換えの使用は、例えば、米国特許第5,801,030号、第6,063,627号及び国際特許出願公開WO97/09439に記載されている。
【0066】
好ましくは、本発明の方法の発現ベクターは、血管形成阻害剤をコードする核酸を含む。より好ましくは、核酸配列は、血管形成の複数の阻害剤をコードする。「血管形成阻害剤」とは、血管新生を防止又は改善する任意の因子を意味する。当業者は、血管新生の完全な防止又は改善は、治療効果を実現するために必要では無いことを理解する。従って、本発明の方法では、血管形成の部分的及び完全の両方の防止及び改善を意図する。血管形成阻害剤としては、例えば、抗血管形成因子、血管形成因子に特異的なアンチセンス分子、リボザイム、小干渉RNA(siRNA、RNA干渉分子)、血管形成因子のレセプター、及び血管形成因子のレセプターに結合する抗体が挙げられる。
【0067】
本発明での使用を意図する抗血管形成因子として、色素上皮由来因子、アンジオスタチン、バスキュロスタチン、エンドスタチン、血小板因子4、ヘパリナーゼ、インターフェロン(例えば、INFα)、メタロプロテイナーゼ3の組織インヒビター(TIMP3)などが挙げられる。このような因子は、新規血管の増殖を防止し、血管成熟を促進し、血管透過性を阻害し、内皮細胞の遊走を阻害することなどをする。種々の抗血管形成因子が、国際特許出願公開番号WO02/22176に記載されている。当業者は、任意の抗血管形成因子が、改変又は短縮化され得、抗血管形成活性を維持できることを理解する。従って、抗血管形成因子の活性フラグメント(即ち、血管形成を阻害するのに十分な生物活性を有するフラグメント)はまた、本発明の方法における使用に適切である。
【0068】
血管形成因子に特異的なアンチセンス分子は一般的には、阻害される血管形成因子をコードする核酸の少なくとも一部、好ましくは少なくとも約20個の連続するヌクレオチドに実質的に同一であるべきであるが、同一である必要はない。阻害効果が、核酸に相同性又は実質的な相同性を示す遺伝子のファミリー内の他のタンパク質に適用されるように、アンチセンス核酸分子を設計することができる。導入されるアンチセンス核酸分子はまた、1次転写産物又は完全にプロセスされたmRNAに対し全長である必要はない。一般的に、より高い相同性は、より短い配列の使用を補うために使用され得る。更に、アンチセンス分子は、同じイントロン又はエクソンパターンを持つ必要がなく、非コードセグメントの相同性は等しく有効である。アンチセンスホスホロチオタックオリゴデオキシヌクレオチド(antisense phosphrothiotac oligodeoxynucleotide)(PS−ODN)は、血管形成因子に特異的なアンチセンス分子の代表である。また、siRNAなどの他のRNA干渉剤が適切である(例えば、Chuiら,Mol.Cell.,10(3),549−61(2002)参照)。
【0069】
実質的に任意の標的RNAと特異的に対を形成し、特定の位置でホスホジエステル骨格を切断し、それによって標的RNAを機能的に不活化するようにリボザイムを設計できる。この切断を行う際に、リボザイムそれ自体は変化せず、従って、リボザイムは再使用でき、他の分子を切断できる。このことは、リボザイムを真の酵素とする。アンチセンスRNA内にリボザイム配列を含ませることは、アンチセンスRNAにRNA切断活性を付与し、それによって構築物の活性を増加させる。標的RNA特異的リボザイムの設計と使用は、Haseloffら,Nature,334,585−591(1988)に記載されている。好ましくは、リボザイムは、リボザイムの活性部位の各々の側に標的配列に相補的な、少なくとも約20個の連続的なヌクレオチドを含む。
【0070】
血管形成因子に特異的なレセプターは、細胞応答を促進できる機能的レセプターから増殖因子を隔離することによって、血管新生を阻害する。例えば、VEGF−レセプターキメラタンパク質と同様にFlt及びFlkレセプターは、血管内皮細胞上のVEGFレセプターと競合し、内皮細胞増殖を阻害する(Aiello,PNAS,92,10457(1995))。また、血管形成因子を中和するか、又は血管形成因子のレセプターと結合する増殖因子特異的抗体及びそのフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)及びFv)も意図される。
【0071】
本発明はまた、少なくとも1つの神経栄養剤(又は神経栄養因子)をコードする核酸配列の、眼細胞又は加齢性黄斑変性と関連した細胞への送達を意図する。神経栄養因子は、発達するニューロンの成熟や成人のニューロンの維持を担うと考えられている。従って、本発明の方法と材料を使用して、新生血管形成疾患と関連しない神経細胞の変性と死を阻害又は逆転できる。神経栄養因子は3つのサブクラスに分類される:神経新生サイトカイン(neuropoietic cytokine);ニューロトロフィン;及び線維芽細胞増殖因子。毛葉体神経栄養因子(CNTF)は、神経新生サイトカインの例である。CNTFは、毛葉体神経節ニューロンの生存を促進し、NGF−応答性である特定のニューロンを維持する。ニューロトロフィンとしては、例えば、脳由来神経栄養因子及び神経成長因子(恐らく、最も特徴付けられた神経栄養因子)が挙げられる。本発明の方法の核酸配列によってコードされるのに適切な他の神経栄養因子としては、例えば、トランスフォーミング増殖因子、グリア細胞由来神経栄養因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4/5、及びインターロイキン1−βが挙げられる。FGFやbFGFなどの血管形成と関連する神経栄養因子は、あまり好ましくない。本発明の方法の神経栄養因子はまた、ニューロン栄養因子(neuronotrophic factor)、例えば、ニューロンの生存を増大させる因子であり得る。神経栄養因子は実際に、ニューロンの分解を逆転させ得ると仮定されてきた。このような因子は多分、視力障害を伴うニューロンの変性を治療するのに有用である。神経栄養因子は、パラクリン及びオートクリンの両方の様式で機能する。このことは、神経栄養因子を理想的な治療薬とする。好ましくは、本発明の核酸配列は、血管形成阻害剤と神経栄養因子の両方をコードする。より好ましくは、核酸配列は、抗血管形成特性と神経栄養特性の両方を含む、少なくとも1つの因子をコードする。最も好ましくは、抗血管形成特性と神経栄養特性の両方を含む因子は、色素上皮由来因子(PEDF)である。
【0072】
アーリーポピュレーションダブリングファクター−1(early population doubling factor−1)(EPC−1)とも言われるPEDFは、セルピンという名のセリンプロテアーゼ阻害剤のファミリーに対する相同性を有する分泌タンパク質である。PEDFは、網膜色素上皮細胞によって主に産生され、身体の大部分の組織や細胞型で検出できる。PEDFは、網膜芽細胞腫細胞で分化を誘導することが観察され、ニューロン集団の生存を増大させる(Chader,Cell Different.,20,209−216(1987))。PEDFのように、不利な条件下でニューロンの生存を増大させる因子は、本明細書中に記載のように「ニューロン栄養性」と言われる。PEDFは更に、グリア細胞抑制活性、即ち、グリア細胞増殖を阻害する能力を有する。上記のように、PEDFはまた、抗血管形成活性を有する。PEDFの抗血管形成誘導体としては、WO99/04806で考察されたSLEDタンパク質が挙げられる。PEDFは細胞老化に関与するとも仮定されたきた(Pignoloら,J.Biol.Chem.,268(12),8949−8957(1998))。本発明の方法で使用されるPEDFは任意の供給源由来であり得、米国特許第5,840,686号、並びに国際特許出願公開WO93/24529及びWO99/04806において更に特徴付けられている。
【0073】
眼関連障害の予防的処置又は治療的処置の方法に加えて、本発明は更に、PEDF又はその治療用フラグメントをコードする核酸配列を含むウイルスベクターを提供する。この核酸配列は、PEDF又はその治療用フラグメントの発現に必要な調節配列に機能可能に連結している。この核酸配列は、任意の供給源(例えば、天然から単離された、合成的に産生された、遺伝子操作された生物から単離されたなど)から得ることができる。適切なウイルスベクターと調節配列は、本明細書で考察されている。天然において、PEDFは、ヒト胎児網膜細胞で産生される。本発明のウイルスベクターは、十分な量の組換えPEDFを産生するのに使用され得るか、又は研究もしくは処置の方法、例えば、本発明の方法で使用され得る。好ましくは、ウイルスベクターは、PEDFをコードする核酸配列を含む、本明細書中に記載のようなアデノウイルスベクターである。より好ましくは、アデノウイルスベクターは、配列番号1に示される核酸配列を含む。
【0074】
発現ベクター、例えば、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターはまた、少なくとも1つの血管形成阻害剤又は少なくとも1つの神経栄養因子の治療用フラグメントをコードする核酸配列を含み得る。当業者は、任意の血管形成阻害剤又は神経栄養因子(例えば、PEDF)が改変又は短縮化され得、抗血管形成活性又は神経栄養性活性を保持できることを理解する。従って、治療用フラグメント(即ち、例えば、血管形成を阻害又はニューロン生存を促進するのに十分な生物活性を有するフラグメント)はまた、発現ベクターに組み込むのに適切である。また、置換、欠失、又は付加を含むが、機能性血管形成阻害剤又は神経栄養因子、又は上述の任意の治療用フラグメントをコードする核酸配列は、発現ベクターへの組み込みに適切である。同様に、抗血管形成因子又は神経栄養因子又はその治療用フラグメント、及び例えば、ペプチドコンフォメーションを安定化する部分を含む融合タンパク質も、発現ベクターに存在し得る。機能性血管形成阻害剤又はその治療用フラグメントは、血管新生を防止又は改善する。機能性神経栄養因子又はその治療用フラグメントは望ましくは、ニューロン細胞分化を促進し、グリア細胞増殖を阻害し、そして/又はニューロン細胞生存を促進する。当業者は、血管新生の完全な防止又は改善は、治療効果を実現するために必要ではないことを理解する。同様に、ニューロン生存又は分化の完全な誘導は、利益を得るために必要ではない。従って、血管形成の部分的な防止と改善及び血管形成の完全な防止と改善の両方、又はニューロン生存の促進が適切である。当業者は、例えば、ニューロン細胞分化と生存アッセイ(例えば、米国特許第5,840,686号参照)、血管新生のマウス耳モデル、又はラット後肢虚血モデルを用いて、改変された治療用因子又はそのフラグンメントが神経栄養性治療活性と抗血管形成治療活性を有するかどうかを決定する能力を有する。
【0075】
同様に、当業者は、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養因子は、抗血管形成因子のレセプター又は神経栄養因子のレセプターに作用する因子であり、それによって所望の生物効果を生じ得ることを理解する。例えば、発現ベクターは、PEDFの生物活性の原因である一連の細胞内事象をシグナル伝達するPEDFレセプターと結合し、活性化する抗体又はペプチドアゴニストをコードする核酸配列を含み得る。同様に、発現ベクターは、PEDFレセプターと相互作用するペプチドをコードする核酸配列を含み得、生物効果を達成できる。例えば、PEDFレセプターを介し細胞シグナル伝達を構成的に活性化するドミナントポジティブタンパク質を構築できる。PEDFレセプターの考察については、例えば、Alberdiら,J.Biol.Chem.,274(44),31605(1999)を参照。
【0076】
本発明はまた、本発明の方法でキメラ又は融合ペプチドをコードする核酸配列の使用を意図する。組換えDNA技術により、科学者は、2つ以上のタンパク質を組み合わせたアミノ酸配列を含む融合タンパク質を産生できる。当業者は、2つ以上の因子の活性ドメインを融合し、所望の活性を有するキメラペプチドを産生できる。キメラペプチドは、2つ以上のペプチドの全体のアミノ酸配列を含み得るか、あるいは、2つ以上のペプチドの部分を含むように構築できる(例えば、10、20、50、75、100、400、500、又はそれ以上のアミノ酸残基)。望ましくは、キメラペプチドは、抗血管形成及び神経栄養性活性を含む。それは、ルーチンの方法を用いて、決定できる。
【0077】
本明細書中で考察されるように、本発明の方法の発現ベクターは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む。従って、この核酸配列は、複数(即ち、2つ、3つ、又はそれ以上)の血管形成阻害剤をコードし得る。同様に、この核酸配列は、複数(即ち、2つ、3つ、又はそれ以上)の神経栄養因子をコードし得る。好適な実施態様において、核酸配列は、PEDF及び毛葉体神経栄養因子(CNTF)をコードする。また好ましくは、核酸配列は、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び少なくとも1つの神経栄養因子をコードする。複数の血管形成阻害剤及び/又は複数の神経栄養因子は、異なるプロモーターに機能可能に結合できる。本明細書中で考察されるように、異なるプロモーターは、異なるレベルとパターンの活性を有する。当業者は、複数のプロモーターの使用を通じて異なるコード配列の発現を自由に決定することを理解する。あるいは、複数のコード配列は、ポリシストロン要素を形成するように、同じプロモーターに機能可能に結合できる。ポリシストロン要素は、眼細胞に形質導入された場合、単一mRNA分子に転写される。mRNA分子の翻訳は、各コード配列で開始され、それによって、複数の別々のペプチドが同時に産生される。本発明はまた、眼細胞又は加齢性黄斑変性と関連する細胞を、発現ベクターのカクテルに接触させることが意図される。各発現ベクターは、異なる血管形成阻害剤及び/又は神経栄養因子をコードする。発現ベクターのカクテルは、異なる型の発現ベクター、例えば、アデノウイルスベクターとアデノ随伴ウイルスベクターを更に含み得る。
【0078】
本発明の方法は、他の治療態様を含む処置レジメンの一部であり得る。従って、眼関連障害、即ち、眼血管新生又は加齢性黄斑変性が、多数の眼治療のいずれか、例えば、薬物治療、光力学治療、光凝固レーザー治療、汎網膜治療、温熱療法、放射線療法、又は手術によって治療された、治療されている、又は治療される予定である場合、それは適切である。好ましくは、手術は、黄斑トランスロケーション、網膜下の血液の除去、又は網膜下脈絡膜血管新生膜の除去である。発現ベクターは、好ましくは、薬物、手術、レーザー光凝固、及び光力学治療によって治療される加齢性黄斑変性又は持続的もしくは再発性眼血管新生の予防的処置又は治療的処置のために、眼内に投与される。
【0079】
哺乳動物(特にヒト)などの動物が、眼血管新生又は加齢性黄斑変性のリスクがある(予防的処置)又は眼血管新生又は加齢性黄斑変性を発症し始めた(治療的処置)ことが決定された後、できるだけ早く、発現ベクターを投与するのが好ましい。処置は、部分的に、使用される特定の核酸配列、核酸配列から発現される特定の血管形成阻害剤及び/又は神経栄養因子、投与経路、及びもしあれば、現実化した眼血管新生又は加齢性黄斑変性の原因と程度に依存しよう。例えば、全身投与又は両方の眼への投与は、黄斑変性の予防的処置には好適である。なぜならば、1つの眼が冒されると、他の眼もリスク(1年あたり最大19%まで)があるからである。
【0080】
本発明の発現ベクターは望ましくは、医薬として許容できる担体と発現ベクターを含む医薬組成物で投与される。任意の適切な医薬として許容できる担体は、本発明の状況下で使用でき、このような担体は当該分野で周知である。担体の選択は、部分的には、組成物が投与される特定の部位、及び組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定される。
【0081】
適切な製剤としては、水溶液及び非水溶液、等張滅菌溶液(これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図されたレシピエントの血液もしくは眼内液体と製剤を等張にする溶質を含み得る)、並びに、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、及び保存剤を含み得る水溶性及び非水溶性滅菌懸濁液が挙げられる。この製剤は、アンプルやバイアルなどの単位投与量もしくは複数投与量を密封した容器で提出され得、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存できる。即席の溶液と懸濁液は、上記の種類の滅菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製され得る。好ましくは、医薬として許容できる担体は、緩衝化生理食塩水である。より好ましくは、本発明の方法で使用される発現ベクターは、投与の前に損傷から発現ベクターを保護及び/又は安定化するように製剤化された医薬組成物で投与される。例えば、ガラス器具、シリンジ、ペレット、徐放デバイス、ポンプ、又は針などの、発現ベクターを調製、保存、又は投与するために使用されるデバイス上での発現ベクターの損失を減少させるように、医薬組成物は製剤化され得る。医薬組成物は、発現ベクターの光感受性及び/又は温度感受性を減少させるように製剤化され得る。この目的のために、医薬組成物は、好ましくは、例えば上記のものなどの、医薬として許容できる液体担体、並びに、ポリソルベート80、L−アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース、及びそれらの組合わせからなる群から選択される安定化剤を含む。1つの実施態様では、この製剤は、Tris塩基(10mM),NaCl(75mM),MgCl・6HO(1mM),ポリソルベート80(0.0025%)及び無水トレハロース(5%)を含む。このような医薬組成物の使用は、ベクターの保存寿命を延長し、投与を容易にし、本発明の方法の効率を増加させる。この点に関し、医薬組成物はまた、形質導入効率を増大させるように製剤化され得る。適切な組成物は更に、米国特許第6,225,289号及び第6,514,943号に記載されている。
【0082】
更に、当業者は、本発明の発現ベクター、例えばウイルスベクターが、他の治療薬又は生物活性剤を有する組成物中に存在し得ることを理解する。例えば、特定の適用症の治療に有用な治療因子が存在し得る。例えば、視力障害を治療する場合、例えば、眼の硝子体中の血液と血液タンパク質の分解を生じさせるために、ヒアルロニダーゼを組成物に加えることができる。イブプロフェン又はステロイドなどの炎症を制御する因子は、ウイルスベクターのインビボ投与と関連した膨潤や炎症及び眼の苦痛を減少させるための組成物の一部であり得る。炎症はまた、炎症過程に関与するサイトカイン(例えば、TNFα)の効果をダウンレギュレーションすることによって制御され得る。あるいは、炎症を制御するケモカイン(例えば、TGFβ)のアゴニストを含めることによって、炎症の有害な影響を減少させることができる。免疫系抑制剤は、ベクター自体に対する任意の免疫応答、又は眼障害と関連した任意の免疫応答を減少させるために、本発明の方法と組合わせて投与され得る。可溶性増殖因子レセプター(sflt)、増殖因子アンタゴニスト(例えば、アンジオテンシン)、抗増殖因子抗体(例えば、Lucentis(登録商標))、スクアラミン(アミノステロール)などの抗血管形成因子はまた、更なる神経栄養因子と同様に、組成物の一部であり得る。同様に、ビタミンやミネラル、抗酸化剤、及び微量栄養素が同時投与できる。抗生物質、即ち、殺微生物剤や殺真菌剤は、遺伝子移入方法や他の疾患と関連した感染のリスクを減少させるために存在し得る。甲状腺ホルモン、レチノイド、特定のプロスタグランジン、エストロゲンホルモン、グルココルチコイド又はそれらのアナログなどの核レセプターのリガンドは、組成物の一部であり得る。PEDFレセプターの小分子アゴニストも処方物に含まれ得る。このような小分子アゴニストは、本発明の方法の治療効果を増幅できる。製剤に含有される適切な薬物として、プロスタグランジンアナログ、ベータ−ブロッカー(通常、緑内障治療に使用される)、ヒアルロニダーゼ(例えば、Allerganから入手できるVitrase(登録商標))、ペグアプタニブ ナトリウム(例えば、Macugen(登録商標))、テトラヒドロゾリン塩酸塩(例えば、Visine(登録商標))、ドルゾラミド塩酸塩(Cosopt(登録商標)及びTruspot(登録商標))、及びアルファ−2−アドレナリンアゴニスト(例えば、Alphagan(登録商標))が挙げられるが、それらに限定されない。あるいは、これらの化合物は、動物に別に投与され得る。
【0083】
当業者は、発現ベクターが眼細胞に接触する、発現ベクターを投与する適切な方法(即ち、侵襲的方法及び非侵襲的方法)が利用できることを理解する。2つ以上の経路を、特定の発現ベクターを投与するために使用できるけれども、特定の経路が、別の経路よりも即時の、かつより有効な反応を提供し得る。従って、記載した投与経路は単に例示であり、決して限定的なものではない。
【0084】
本発明の方法は、動物(好ましくは、ヒト)に発現ベクターを投与する様式に依存せずに、所望の効果を達成する。従って、発現ベクターが適切な眼細胞と接触する限り、いずれの投与経路も適切である。本発明の方法で使用する発現ベクターは、注射、眼ローション、軟膏、インプラントなどの形態で適切に製剤化され、投与される。発現ベクターは、例えば、全身的、局所的、眼房内、結膜下、眼内、眼球後、眼周囲(例えば、テノン下(subtenon)送達)、網膜下、又は脈絡膜上に適用され得る。特定の場合には、発現ベクターへの眼細胞の十分な暴露を確保するために、複数の適用を投与し、複数の経路(例えば、網膜下及び硝子体内)を用いることが適切であり得る。発現ベクターの複数の適用も、所望の効果を達成するために必要であり得る。
【0085】
特定の場合に依存して、発現ベクターを患者に非侵襲的に投与することは望ましいかもしれない。例えば、複数の手術が行われる場合、患者は、麻酔薬に低い耐性しか示さない場合、又は他の眼関連障害が存在する場合、発現ベクターの局所投与が最も適切であるかもしれない。局所用組成物は、当業者に周知である。このような製剤は、皮膚への適用のために、本発明の状況下で適切である。パッチ、角膜シールド(例えば、米国特許第5,185,152号参照)、及び眼用溶液(例えば、米国特許第5,710,182号参照)、及び軟膏、例えば、点眼剤の使用はまた、当該分野の範囲内である。発現ベクターはまた、Bioject,Inc.から入手可能なBiojector 2000 Needle−Free Injection Management System(登録商標)などの針無し注射デバイスを用いて、非侵襲的に投与できる。
【0086】
発現ベクターは、好ましくは、眼用スポンジ(ocular sponge)、網(mesh−work)、メカニカルリザーバー、又はメカニカルインプラントなどの、発現ベクターの制御された又は持続した放出を可能とする、デバイス内又はデバイス上に存在する。インプラント(例えば、米国特許第5,443,505号、第4,853,224号、及び第4,997,652号参照)、移植可能デバイス(例えば、メカニカルリザーバー、眼内デバイスもしくは眼内導管を備える眼外デバイス)などのデバイス(例えば、米国特許第5,554,187号、第4,863,457号、第5,098,443号及び第5,725,493号参照)、又はポリマー組成物を含むインプラントもしくはデバイスは、発現ベクターの眼投与に特に有用である。本発明の方法の発現ベクターはまた、例えば、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、ビス−2−ヒドロキシエチル−テレフタレート(BHET)などのポリホスホエステル、又はポリ乳酸−グリコール酸を含む、徐放性組成物(例えば、米国特許第5,378,475号参照)の形態でも投与できる。
【0087】
あるいは、発現ベクターは、例えば、場合によっては硝子体切除によって行われる硝子体内注射又は網膜下注射、又は眼周囲(例えば、テノン下)送達などの侵襲的方法を用いて投与できる。発現ベクターは、眼の異なるコンパートメント、例えば、硝子体腔又は前房に注入できる。眼内注射が好ましいが、注射可能組成物は、筋肉内、静脈内、動脈内及び腹腔内にも投与できる。注射可能組成物のための医薬として許容できる担体は、当業者に周知である(Pharmaceutics and Pharmacy Practice,J.B.Lippincott Co.,Philadelphia,P A,Banker and Chalmers,eds.,p.238−250(1982)、及びASHP Handbook on Injectable Drugs,Toissel,4th ed.,p.622−630(1986)参照)。あまり好ましくはないが、発現ベクターはまた、微粒子銃(即ち、遺伝子銃)によってインビボで投与できる。
【0088】
好ましくは、発現ベクターは、眼の特定の領域に送達するための眼科用装置を介し投与される。特殊な眼科用装置の使用は、発現ベクターの正確な投与を確保し、隣接した眼組織への損傷を最小限にする。眼の特定の領域への発現ベクターの送達はまた、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養因子への、冒されていない細胞の暴露を制限し、それによって副作用のリスクを減少させる。好適な眼科用装置は、鉗子と網膜下針もしくは鋭い屈曲カニューレとの組合わせである。
【0089】
特に好適ではないが、発現ベクターは非経口的に投与できる。好ましくは、眼関連障害、即ち、眼血管新生又は加齢性黄斑変性の予防的処置又は治療的処置のために患者に非経口的に投与される任意の発現ベクターは、眼細胞を特異的に標的とする。本明細書中で考察されるように、発現ベクターは、可能性のある宿主細胞上のレセプターに対する発現ベクターの結合特異性又は認識を変化させるように、改変され得る。アデノウイルスに関し、このような操作は、ファイバー、ペントンもしくはヘキソンの領域の欠失、コートタンパク質の部分内への種々のネイティブもしくは非ネイティブのリガンドの挿入などを含み得る。当業者は、非経口投与が、適切な宿主細胞に発現ベクターを有効に送達するために、多くの投与量又は複数の投与を必要とし得ることを理解する。
【0090】
当業者は、投与量及び投与経路が、宿主の免疫系による発現ベクターの喪失を最小限にするように選択できることを理解する。例えば、インビボで眼細胞に接触させる場合、本発明の方法を実施する前に、宿主に空の発現ベクター(null expression vector)(即ち、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含まない発現ベクター)を投与することは、利点があり得る。空の発現ベクターの事前投与は、宿主において発現ベクターに対する免疫を産生するのに役立ち得(例えば、耐性)、それによって、免疫システムによって取り除かれるベクターの量を減少させる。
【0091】
本発明に従って動物、特にヒトに投与される発現ベクターの投与量は、適当な期間にわたって動物に所望の応答を生じさせるのに十分であるべきである。当業者は、投与量は、年齢、種、該当する病状、及び状態もしくは疾患状態を含む種々の因子に依存することを認識する。投与量はまた、発現される血管形成阻害剤及び/又は神経栄養因子、並びに眼関連障害によって冒されようとしているか、又は実際に罹患した眼組織の量に依存する。投与量の大きさはまた、経路、タイミング及び投与頻度、並びに特定の発現ベクターの投与に伴い得る何らかの有害な副作用の存在、性質及び程度、及び所望の生理的効果によって決定される。種々の状態又は疾患状態、特に慢性の状態又疾患状態は、複数の投与を含む長期間の処置を必要とし得ることは、当業者によって理解される。
【0092】
適切な投与量及び投与レジメンは、当業者に公知の通常の範囲決定技術によって決定できる。好ましくは、約10ウイルス粒子〜約1012ウイルス粒子が患者に送達される。換言すれば、約10粒子/ml〜約1012粒子/ml(約10粒子/ml〜約1012粒子/mlの範囲内の全ての整数を含む)の発現ベクター濃度、好ましくは、約1010粒子/ml〜約1012粒子/mlの発現ベクター濃度を含む医薬組成物が投与でき、典型的には、眼当たりこのような医薬組成物の約0.1μl〜約100μlの眼内投与を含む。場合によっては、注射は、医薬組成物を約0.5mL〜約1mLを含み得る。理想的には、眼当りアデノウイルスベクターの約1x10、約1x106.5、約1x10、約1x107.5、約1x10、約1x108.5、約1x10、又は約1x109.5粒子の投与量が、硝子体内注射により、患者に投与される。あるいは、本発明の方法のアデノウイルスベクターは、眼当たり約1x10、約1x105.5、約1x10、約1x106.5、約1x10、約1x107.5、約1x10、又は約1x108.5粒子が、網膜下投与される。眼周囲に投与される場合、投与されるアデノウイルスベクターの投与量は、好ましくは、眼当たり約1x10、約1x107.5、約1x10、約1x108.5、約1x10、約1x109.5、約1x1010、約1x1010.5、約1x1011、約1x1011.5、又は約1x1012粒子である。発現ベクターがプラスミドである場合、好ましくは、DNAの約0.5ng〜約1000μgが投与される。より好ましくは、約0.1μg〜約500μgが投与され、更により好ましくは、DNAの約1μg〜約100μgが投与される。最も好ましくは、DNAの約50μgが眼当たり投与される。もちろん、他の投与経路は、治療効果を達成するために、より小さな、又はより大きな投与量を必要とし得る。投与量と投与経路における必要なバリエーションは、当該分野で公知の日常的な技術を用いて当業者によって決定できる。
【0093】
幾つかの実施態様では、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養剤をコードする核酸配列を含む発現ベクターの2回以上(即ち、複数)の投与量を投与することは利点がある。本発明の方法は、眼血管新生又は他の眼関連障害を予防的に処置又は治療的に処置するために、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の複数の適用を提供する。例えば、外来核酸、例えば、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養剤をコードする核酸配列を含む発現ベクターの少なくとも2回の適用が同じ眼に対し投与できる。好ましくは、複数の投与は、バックグラウンドレベルを超えて遺伝子発現を保持している間に投与する。また好ましくは、眼細胞は、約30日又はそれ以上の間に、2回以上の適用の発現ベクターと接触させられる。より好ましくは、約90日又はそれ以上の間に同じ眼の眼細胞に2回以上の適用が行われる。しかし、遺伝子発現が起こり、眼血管新生が阻害又は改善される限り、3回、4回、5回、6回又はそれ以上の投与量を、任意の期間で投与できる(例えば、投与の間が、2日、7日、10日、14日、21日、28日、35日、42日、49日、56日、63日、70日、77日、85日又はそれ以上)。好適な実施態様では、PEDFをコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターは、3月に2回、又は6週に4回、同じ眼に投与される。
【0094】
治療用遺伝子の発現の調節は、動物で生物応答(例えば、治療的応答)に影響を与えるのに重要である。治療用因子の長期産生又は繰り返し投与は、単一ボーラス投与よりも、眼の進行性又は慢性疾患(又は身体の場所にかかわらず任意の疾患又は病気の状態)をより有効に治療できる。しかし、アデノウイルスの状況下で、CMVプロモーターの指示の下での多数の遺伝子の発現は、本質的に一過性であり、眼の硝子体と身体の他の場所への投与の後、約2〜4週間続くと報告されている。同様の効果が、アデノウイルスベクター骨格で他のプロモーターを使用して観察されている。治療用遺伝子の更なる又は引き続く発現は、以前には、標的組織(例えば、眼又は周囲の組織)に発現ベクターを繰り返し投与することによってのみ達成できた。しかし、驚くべきことに、インビボでアデノウイルスベクターの投与後、導入遺伝子発現は、増大又はアップレギュレートされ得、発現レベルが低下した後、再活性化され得ることが測定された。本発明は、発現ベクター、例えば、アデノウイルスベクターを繰り返し投与することなく、長期間、導入遺伝子発現(好ましくは、治療用導入遺伝子)を達成する方法を提供する。長期間発現及び好ましくはタンパク質産生は、発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与後、任意の時点で導入遺伝子の転写をアップレギュレートすることによって達成され、それによってタンパク質産生を再活性化する。
【0095】
従って、本発明は、眼への遺伝子産物の送達方法を提供する。この方法は、(a)プロモーターに機能可能に連結し、かつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物の眼に投与することによって、発現ベクターが1つの眼細胞(又は複数の眼細胞)に形質導入し、そして、該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生することを含む。この方法は更に、(b)眼細胞で核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。好ましくは、発現ベクターは、本明細書中に記載のアデノウイルスベクターであり、発現ベクターの投与後、転写はアップレギュレートされる。発現の活性化は、ウイルスプロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)をもつベクターに限定されず、例えば、EF1−α(伸長因子1−α)(これは、少なくとも部分的にjunとfosから構成される)、ユビキチンC(UbC)プロモーター、及びYing Yang 1(YY1)プロモーターなどの細胞プロモーターの使用に及ぶ。
【0096】
転写をアップレギュレートする方法は、眼関連障害の治療のために、本明細書中に記載の治療用因子などの治療用因子を眼に提供する際に特に有用である。眼関連障害の治療方法は、(a)血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物に投与し、その結果、発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入して、核酸配列が転写されることを含む。この方法は更に、(b)核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の発現をアップレギュレートし、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する。
【0097】
転写のアップレギュレーションにより、RNA転写物レベルの増加、タンパク質産生の増加、及び検出可能な遺伝子産物活性の増大が起こり得る。それらの全ては、ルーチンの実験室技術を用いて検出できる。細胞の環境を変更することによって、例えば、眼に外来性物質を投与することによって、及び/又は眼でストレス応答を誘導することによって、眼で転写がアップレギュレートされる。外来性物質は、眼に直接投与され得るか(それは、場合によっては、眼でストレス応答を誘導する)、又は眼以外の部位に投与され得る。投与の例示的経路は本明細書中に記載され、例えば、局所、結膜下、眼球後、眼周囲、テノン下、網膜下、脈絡膜上、又は眼内投与が挙げられる。例えば、眼周囲注射は、網膜へタンパク質及び/又は核酸の送達を可能とする。従って、徐放デバイスは、眼の種々の領域に物質を投与するために眼の周囲の空間に移植できる。外来性物質を、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、非経口、鼻内、経皮、全身、気管内投与することも適切である。外来性物質は、投与の任意の適切な経路のために製剤化できる。例えば、外来性物質は、例えば、レチノイン酸(例えば、trans−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸、NPB、又はLG100064の全て)の、眼への局所送達用の点眼剤、軟膏、経口送達用の組成物、又は全身送達用の非経口溶液に製剤化され得る。
【0098】
眼における核酸配列の転写のアップレギュレーションのために動物へ投与するのに適切な外来性物質として、生理食塩水、二糖類(トレハロースなど)、タンパク質、核酸、及び薬物(例えば、ホルボールエステルなど)などの本明細書中に記載の物質の任意のものが挙げられるが、それらに限定されない。タンパク質を投与する場合、タンパク質は、好ましくは、サイトカイン、血管形成阻害剤(例えば、可溶性flt(s−flt)又は色素上皮由来因子(PEDF))、神経栄養剤、ステロイド、酵素(例えば、ヒアルロニダーゼ)、又は抗体(例えば、抗VEGF抗体)である。核酸を投与する場合、好ましくは、核酸は、アプタマー、siRNA、又は二重鎖RNAである。転写のアップレギュレーションに適切な薬剤として、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、グルココルチコイド、又はSK506)、ステロイド誘導体、ジクロフェナックナトリウム及びミソプロストール(misoprostol)、ジクスルウレナック(dixlurenac)、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤(例えば、LY333531(Danisら,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,39(1),171−9(1998))参照)、チロシンキナーゼ(TK)阻害剤(Seoら,Am.J.Pathol.,154(6),1743−53(1999))、Cox−I阻害剤、Cox−II阻害剤(例えば、ネパフェナック)、抗炎症剤、アスピリン、又はヒアルロン酸が挙げられるが、それらに限定されない。あるいは、又は、更に、第2の発現ベクター(例えば、第2のアデノウイルスベクター)が動物に投与され得る。理想的には、第2のアデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムのE4領域によってコードされる全ての複製に必須の遺伝子機能を欠いている。より好ましくは、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての遺伝子機能を欠いている。理想的には、第2のアデノウイルスベクターは、第1の発現(例えば、アデノウイルス)ベクターに存在している核酸配列を含まない。第2の発現ベクターが、治療用タンパク質をコードする必要はない。
【0099】
転写をアップレギュレートするために投与するのに好適な化合物は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(これは、抗血管形成活性と抗癌活性を有し得る)、及びレチノイン酸である。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、HDAC1及びHDAC2、HDAC3、HDAC8、HDAC11、HDAC4及びHDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9、HDAC10、又はサーチュイン(Sirtuin)を含むが、それらに限定されない任意の哺乳動物クラスI、クラスII、又はクラスIIIのヒストンデアセチラーゼ酵素を阻害し得る。例示的なヒストンデアセチラーゼ阻害剤として、例えば、短鎖脂肪酸、ブチレート及びフェニルブチレート、バルプロエート、ヒドロキサム酸、トリコスタチン、SAHA及びその誘導体、オキサムフラチン、ABHA、スクリプタイド(scriptaid)、ピロキサミド、プロペンアミド、エポキシケトン含有環状テトラペプチド、トラポキシン、HC−トキシン、クラミドシン、ジヘテロペプチン、WF−3161、Cyl−1及びCyl−2、エポキシケトン非含有環状テトラペプチド、FR901228、アピシジン、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド(CHAP),ベンズアミド及びそのアナログ、MS−275(MS−27−275)、CI−994、デプデシン、及び有機硫黄化合物が挙げられる。同様に、全ての、trans−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸、NPB、及びLG100064などの、レチノイン酸の種々の機能的アナログが当該分野で公知である。レチノイン酸は、レチノイン酸レセプターの2つのファミリー(RAR及びRXR)の少なくとも1つと結合する。レチノイン酸レセプターへのレチノイン酸の結合の際、レチノイン酸レセプターは二量体化でき、それによって、レチノイン酸応答要素と相互作用する活性なレセプター複合体が形成され得る。
【0100】
好適な実施態様では、動物に投与する外来性物質は、リポ多糖(これは、多くの組織で炎症を引き起こし得る)などのパイロジェンではない。従って、本発明の方法は、望ましくは、転写の非パイロジェン活性化剤(本明細書中に記載の外来性物質など)を投与することを含む。同様に、幾つかの実施態様では、転写をアップレギュレートするために、アデノウイルスベクター(又は他の発現ベクター)を投与しないことが好適である。アデノウイルスベクターの繰り返し投与は、特に眼で炎症を引き起こし得る。アデノウイルス由来の外来性物質はまた、炎症を引き起こし得、場合によっては、転写をアップレギュレートするのに適切ではないかもしれない。放射線もまた、組織損傷を引き起こし得、場合によっては、好ましくはないかもしれない。炎症、もしくは免疫応答を引き起こすか、又は形質導入した細胞に損傷を与える外来性物質は、多くの場合に(特に、細胞保護が望ましい状況下で)適切ではないことが理解される。更に、発現ベクターが存在している限り、任意の時点で転写の再活性化が達成され得る。この点で、形質導入した細胞の除去は望ましくない。
【0101】
転写はまた、眼でストレス応答を誘導することによって、アップレギュレートされ得る。ストレス応答は、眼の穿刺、例えば、光線力学療法においてレーザーを用いる熱への暴露、低温への暴露、光への暴露、放射線(例えば、X線)への暴露、マイクロ波への暴露、超音波への暴露、又は物理的傷害(それらの全ては、眼の細胞環境を変えて転写を増大させ得る)によって誘導され得る。眼の細胞環境を変える代替方法は、緑内障検査の間に通常行われる、眼に空気の一吹きをあてることによる方法である。あるいは、ストレス応答は、核酸、脂質、薬物、及び本明細書中に記載の他のもの、又はストレス応答を誘導するか、又はそれ自体が、細胞ストレス応答における活性な関与物である上記のものの任意の組合せなどの外来性物質を投与することによって誘導され得る。
【0102】
アデノウイルスベクターから転写を再活性化する能力は、眼に限定されない。実際、本発明は、哺乳動物への遺伝子産物の送達方法を提供する。この方法は、(a)アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠き、そして、プロモーターに機能可能に連結し、かつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む、アデノウイルスベクターを、哺乳動物に投与し、その結果、該アデノウイルスベクターが、宿主細胞に形質導入し、そして、該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生することを含む。この方法は更に、(b)引き続いて、宿主細胞における核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。この方法では、転写のアップレギュレーションは、パイロジェン、アデノウイルスベクター、又は放射線の投与を含まない。転写のアップレギュレーションは、眼細胞に関し、上記と同じ刺激に宿主細胞を曝すことを含み得る。例えば、転写は、形質導入された宿主細胞の1つ以上を、転写をアップレギュレートする外来性物質、低温、光、マイクロ波、超音波、又は物理的傷害に曝すことによってアップレギュレートされ得る。
【0103】
転写は、実務家が望む発現プロフィールによって決定されるように、アップレギュレートされ得る。理想的には、この方法は、第1の発現ベクターの投与後に転写をアップレギュレートすることを含む。ウイルスゲノムが眼で安定であり(投与後、少なくとも1ヶ月間に検出されるのは、1日目のレベルの約20%)、そして1年以上維持されるという点で、アデノウイルスベクターは、繰り返し投与すること無しに、長期間にわたってタンパク質を送達する手段を提供する。実務家は、発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与と同時に細胞環境を変えて、初発の発現レベルを増大およびアップレギュレートできるが、好ましくは、転写は、発現ベクター投与に引き続いて、アップレギュレートされる。転写は、同じアデノウイルス骨格から数倍(即ち、2倍又は3倍)アップレギュレートされ得る。大部分のプロモーターは、ある期間後(例えば、2週間)活性を失う。1つの局面では、転写は、プロモーター活性の喪失に応答してアップレギュレートされ、導入遺伝子産物の発現を再活性化する。転写は、好ましくは、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも1日以内に1度、より好ましくは、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも7日以内に1度(例えば、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも14日以内に1度)、アップレギュレートされる。理想的には、転写は、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも21日以内に1度、好ましくは、少なくとも28日以内に1度、アップレギュレートされる。あるいは、転写は、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも35日以内、42日以内、又は48日以内に1度、アップレギュレートされる。より好ましくは、転写は、アデノウイルスベクターの投与の少なくとも3ヶ月以内に1度(例えば、4ヶ月又は5ヶ月)、より一層好ましくは少なくとも6ヶ月以内に1度(例えば、7ヶ月、8ヶ月、又は9ヶ月以上)、アップレギュレートされる。最も好ましくは、転写は、アデノウイルスベクターの投与の12ヶ月(即ち、1年)以内に少なくとも1度、アップレギュレートされる。動物の寿命に依存して、発現は、所望ならば、長い年月(即ち、10年又は20年)の後、再活性化され得る。実際、転写は、発現ベクターが宿主細胞に存在する(そして、形質導入した宿主細胞が機能する)限り、アップレギュレート又は再活性化され得る。従って、転写は、形質導入した宿主細胞の寿命に依存して、発現ベクターの投与の、約1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、又は10年又はそれ以上後に、必要な場合、再活性化又はアップレギュレートされ得る。
【0104】
第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与とコードされた導入遺伝子の転写のアップレギュレーション(例えば、本発明の方法の工程(a)と(b))との間の時間は、ケース−バイ−ケースで実務家によって決定され得る。望ましくは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与と転写のアップレギュレーションとの間の時間は、少なくとも1日(例えば、少なくとも4日、少なくとも7日、又は少なくとも14日)である。あるいは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与と転写のアップレギュレーションとの間の時間は、少なくとも28日(例えば、少なくとも48日、少なくとも60日、又は少なくとも3ヶ月)である。更に、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与と転写のアップレギュレーションとの間の時間は、少なくとも6月(例えば、少なくとも9ヶ月又は1年)であり得る。1つの実施態様では、転写は、初期の転写レバルが、2倍、5倍、又は10倍減少した後、アップレギュレートされる。
【0105】
更に、転写は、発現ベクターの投与後、何度もアップレギュレート又は再活性化され得る。転写は、例えば、1回〜約50回(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、20回、25回、30回、40回、又は50回)アップレギュレート又は再活性化され得る。
【0106】
本発明の方法による核酸配列の転写のアップレギュレーション(再活性化)は、試験した時点(即ち、発現プロフィールの同じ時点)で、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列のレベルに対して、転写の増大が起こる。好ましくは、転写のアップレギュレーション後の転写レベルは、発現プロフィールのどの時点で転写のピークレベルが生じたとしても、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列の転写レベルよりも大きい。驚くべきことに、アデノウイルス構築物の発現能力は、少なくとも28日間保持され、そして、本発明の方法を用いて、約10〜約100倍にアップレギュレートされ得る。従って、本発明の方法の核酸配列の転写レベルは、好ましくは、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列の転写レベルと比べて、少なくとも約2倍増大する。より好ましくは、核酸配列の転写レベルは、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列の転写レベルより、少なくとも約5倍(例えば、少なくとも約10倍、約20倍、約25倍、約35倍、約40倍、又は約45倍)大きい。より一層好ましくは、核酸配列の転写レベルは、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列の転写レベルより、少なくとも約50倍(例えば、少なくとも約55倍、約60倍、約65倍、又は約70倍)大きい。最も好ましくは、核酸配列の転写レベルは、転写のアップレギュレーションの無い核酸配列の転写レベルより、少なくとも約75倍(例えば、少なくとも約80倍、約85倍、約90倍、約95倍、又は約100倍)大きい。
【0107】
一方、アップレギュレーション後に達成される転写レベルは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与1日後での転写レベルと比較され得る。ある場合では、発現ベクターの投与1日後での発現レベルは、転写のピークレベルである。好ましくは、転写アップレギュレーションの1日後での転写レベルは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与1日後での核酸配列の転写レベルの、少なくとも約20%(例えば、少なくとも約25%、少なくとも約35%、又は少なくとも約45%)である。より好ましくは、転写アップレギュレーションの1日後での転写レベルは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与1日後での核酸配列の転写レベルの、少なくとも約50%(例えば、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%)である。最も好ましくは、転写アップレギュレーションの1日後での転写レベルは、第1の発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の投与1日後での核酸配列の転写レベルの、少なくとも約100%である(例えば、100%よりも高い)。
【0108】
1つの実施態様では、哺乳動物への遺伝子産物の送達の本発明の方法は、(a)(i)発現ベクターが宿主細胞に形質導入し、第1の核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生するように、プロモーターに機能可能に連結した第1の核酸配列を含む発現ベクター、及び、(ii)プロモーターと機能可能に連結し、レチノイン酸レセプターをコードする第2の核酸配列(この第2の核酸配列は、宿主細胞で転写されて、レチノイン酸レセプターを産生する)を哺乳動物に投与することを含む。この方法は更に、(b)引き続いて、哺乳動物にレチノイン酸を投与し、それによって、宿主細胞において第1の核酸配列の転写をアップレギュレートすることを含む。第2の核酸配列は、第1の核酸配列と同じ発現ベクター中に存在し得るか、又は異なる(即ち、第2の)発現ベクターで提供され得る。理想的には、第2の核酸配列は、第1の核酸配列と同時投与されるが、同時投与は必須ではない。第2の核酸配列が工程(b)後に投与されない限り、第2の核酸配列は、第1の核酸配列の投与の前、間、又は後に投与され得る。レチノイン酸レセプターを外因的に産生することによって、転写は、レチノイン酸レセプターを発現しない細胞、又は転写アップレギュレーションの所望レベルを達成するのに十分なレチノイン酸レセプターを発現しない細胞において、レチノイン酸を用いてアップレギュレートされ得る。
【0109】
少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターが、所定の動物(特に、ヒト)から以前に取り出された細胞(好ましくは、眼細胞)にエキソビボで導入され得ることもまた、当業者によって理解される。動物又はヒトに再導入されるこのような形質導入された自己又は同種の宿主細胞は、インビボで少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子を直接発現する。1つのエキソビボ治療の選択は、生体適合性のカプセル(これは、眼又は身体の任意の他の部分に移植され得る)内への感染させた眼細胞のカプセル化を含む。当業者は、このような細胞が患者から単離される必要がなく、代わりに別の個体から単離され得、そして患者に移植され得ることを理解する。
【0110】
発現ベクター(好ましくは、アデノウイルスベクター)は、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする複数の核酸配列を含み得ることが理解される。例えば、発現ベクターは、PEDFコード配列の複数のコピーを含み得、各々のコピーは、異なるプロモーター又は同一のプロモーターに機能可能に結合している。
【0111】
上記に加えて、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子をコードする核酸配列が、1つ以上の他の導入遺伝子を更に含み得る。「導入遺伝子」とは、細胞内で発現され得る任意の核酸を意味する。望ましくは、導入遺伝子の発現は、眼細胞又は眼に対して有益である(例えば、予防的もしくは治療的に有益である)。導入遺伝子が、細胞に予防的又は治療的利益をもたらす場合、導入遺伝子は、RNA又はタンパク質のレベルでその効果を発揮し得る。例えば、導入遺伝子は、障害(例えば、眼関連障害)の治療又は研究に使用され得る、血管形成阻害剤又は神経栄養因子以外のペプチドをコードし得る。あるいは、導入遺伝子は、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、スプライシングもしくは3’プロセシング(例えば、ポリアデニル化)に影響を与えるタンパク質、あるいは、mRNAの蓄積もしくは輸送の速度の変化を媒介することによって、又は転写後調節における変化を媒介することなどによって、細胞内で別の遺伝子の発現のレベルに影響を及ぼすタンパク質(即ち、遺伝子発現は、転写の開始からプロセスタンパク質の産生を通る全ての工程を含むと広く考えられる)をコードし得る。導入遺伝子は、眼関連障害の併用療法のためのキメラペプチドをコードし得る。導入遺伝子は、血管形成阻害剤又は神経栄養剤とは異なる標的分子に作用する因子をコードし得る。実際、導入遺伝子産物は、血管形成阻害剤もしくは神経栄養因子の異なるシグナル伝達経路に作用し得るか、又は同じシグナル伝達経路の異なる点に作用し得る。好ましくは、治療用物質は、CNTFなどの神経栄養因子である。CNTFは、神経栄養因子の神経新生サイトカインのサブクラスに属する。CNTFは、毛葉体神経節ニューロンの生存を促進し、そして神経成長因子(NGF)−応答性である特定のニューロンを支持する。同様に、転写のアップレギュレーションのために外来性物質のレセプター(例えば、レチノイン酸レセプター)をコードする核酸配列は、発現ベクター、又は患者に投与される異なる発現ベクターに含まれ得る。
【0112】
あるいは、細胞分化と関連した因子をコードする1つ以上のさらなる核酸配列(例えば、導入遺伝子)が、発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)に含まれ得る。好ましくは、導入遺伝子は、Math1もしくはHath1などのatonal関連ペプチド、又は上記のいずれかの生物活性フラグメントをコードする。Math1は、転写因子のマウス塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスファミリーのメンバーであり、そしてDrosophila遺伝子atonalと相同である。Hath1は、Math1のヒト対応物である。Math1は、毛の発生に必須であることが示されており、そして耳において毛再生を刺激し得る。atonal関連ペプチドの神経栄養性活性と毛細胞分化特性との組合わせは、例えば、感覚障害の治療及び研究の強力なツールを提供する。Math1は更に、例えば、Berminghamら,Science,284,1837−1841(1999)及びZheng及びGao,Nature Neuroscience,3(2),580−586(2000)において特徴付けられている。
【0113】
発現ベクターは、少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子に加えて血管成熟因子をコードする核酸配列を含み得る。多くの眼障害は、血管を通じる血液産物の漏洩を伴い、これは、視力を曇らせ得、そして、眼の層内で免疫応答を誘導し得る。血管成熟因子は血管漏洩量を減少させ、従って、例えば、滲出性眼障害を治療するのに有用である。血管成熟因子としては、アンジオポイエチン(Ang、例えば、Ang−1及びAng−2)、腫瘍壊死因子−アルファ(TNF−α)、ミドカイン(MK)、COUP−TFII、肝増殖因子(HGF)、及びヘパリン−結合神経栄養因子(HBNF、ヘパリン結合増殖因子としても知られている)が挙げられるが、それらに限定されない。免疫抑制因子をコードするヌクレオチド配列もまた、眼関連障害又は発現ベクターの投与の結果として、眼内の任意の不適切な免疫応答を減少させるために、発現ベクターに組み込み得る。
【0114】
発現ベクターは、更なる抗血管形成物質をコードする1つ以上の更なる核酸配列を含み得る。上記のように、抗血管形成物質は、血管新生を防止又は改善する任意の生物因子である。当業者は、抗血管形成物質が、治療効果を達成するために、血管形成の部分的又は完全な防止及び改善をもたらし得ることを理解する。抗血管形成物質としては、例えば、抗血管形成因子、血管形成因子に特異的なアンチセンス分子、リボザイム、siRNA、血管形成因子のレセプター、及び血管形成因子のレセプターに結合する抗体が挙げられる。適切な抗血管形成因子としては、コンブレタスタチン(これは抗細管因子である)、及びエンドスタチンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0115】
導入遺伝子は、緑蛍光タンパク質又はルシフェラーゼなどのマーカータンパク質をコードし得る。このようなマーカータンパク質は、ベクター構築及びベクター移動の決定に有用である。マーカータンパク質はまた、所望ならば、治療の広範な領域を提供するように、発現ベクターの注射の間隔を効率的に空けるために、注射個所又は治療される眼組織を決定するのに使用され得る。あるいは、導入遺伝子は選別因子をコードし得る。これはまた、ベクター構築プロトコルにおいて有用である。所望ならば、導入遺伝子は、発現カセットの一部であり得る。
【0116】
本明細書中に記載した任意の核酸配列は、治療効果を増大させるために、ネイティブ形態から変化され得ることが理解されるべきである。例えば、治療用核酸の細胞質形態は、コードされた遺伝子産物にシグナルペプチドを組み込むことによって、分泌形態に変換され得る。少なくとも1つの血管形成阻害剤及び/又は少なくとも1つの神経栄養因子は、VP22とのペプチドの融合によって、隣接する細胞に取り込まれるように設計され得る。このことにより、治療用核酸を含む眼細胞は、哺乳動物内の多数の眼細胞に対して治療効果を有することが可能となる。
【0117】
本発明の方法はまた、他の医薬として活性な化合物の同時投与を含み得る。「同時投与」は、例えば、同じ処方もしくは別の処方で発現ベクターと組合わせて、事前に投与すること、同時に投与すること、又は上記のような発現ベクターの投与の後に投与することを意味する。本明細書中に記載の外来性物質、薬物、タンパク質などの任意のものが、アジュバント療法として発現ベクターと同時投与され得る。例えば、イブプロフェン又はステロイドなどの炎症を制御する因子は、発現ベクターの眼内投与と関連した膨潤及び炎症を減少させるために同時投与され得る。免疫抑制剤は、眼障害又は本発明の方法の実施に関連した不適切な免疫応答を減少させるために同時投与され得る。可溶性増殖因子レセプター、増殖因子アンタゴニスト、即ち、アンジオテンシンなどの抗血管形成因子も、神経栄養因子と同様に同時投与され得る。更に、本発明の方法の発現ベクターは、siRNA、アプタマー、又は、例えば、VEGFなどの血管形成因子を隔離又は不活化する抗体などの抗増殖性薬剤と共に投与され得る。同様に、ビタミン及びミネラル、抗酸化剤、並びに微量栄養素も同時投与され得る。抗生物質、即ち、殺微生物剤及び殺真菌剤は、眼方法及び幾つかの眼関連障害と関連した感染のリスクを減少させるために同時投与され得る。眼障害用の他の治療薬は本発明の方法と共に投与され得る。例えば、Visudyne(登録商標)(Novartis)、Macugen(登録商標)(Pfizer)、Retaane(登録商標)(Alcon)、Lucentis(登録商標)(Genentech/Novartis)、Squalamine(Genaera)、Cosopt、及びAlphaganは、第1の発現ベクターと共に処方され得るか、又は動物への第1の発現ベクターの投与の前、間、又は後で別々に投与され得る。
【0118】
本発明の発現ベクターは、血管新生コンポーネント及び加齢性黄斑変性を含む眼障害を含む、眼障害の研究又は治療に特に有用であるけれども、発現ベクターを用いて、広範な種々の動物疾患を研究し得、そして/又は予防的処置もしくは治療的に処置を行い得る。例えば、PEDF又はその治療用フラグメントをコードする核酸配列を含むウイルスベクターは、神経系、尿生殖器疾患、癌、感染疾患、及び心臓血管異常、並びにその他の健康妨害の研究又は治療に使用され得る。ウイルスベクターを用いて、例えば、睡眠障害、ALS(ルー ゲーリッヒ病)、アルツハイマー病、てんかん、多発性硬化症、パーキンソン病、末梢神経障害、精神分裂病、うつ病、不安、脊髄傷害、外傷性脳傷害、又は、急性、慢性、もしくは炎症性の疼痛を研究又は治療し得る。本発明の発現ベクターを用いて、例えば、良性前立腺肥大症(BPH)、インポテンツ、神経因性膀胱、尿失禁、腎不全及び、末期腎疾患を含む、尿生殖器疾患を治療し得る。発現ベクターは、例えば、膀胱癌、脳癌、乳癌、結腸直腸癌、食道癌、頭部及び頚部の癌、肝癌/肝細胞癌、肺癌、メラノーマ、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、精巣癌、子宮癌/子宮内膜癌、白血病、及びリンパ腫などの癌を治療するのに有用である。発現ベクターを用いて治療する感染疾患の例としては、クラミジア、ヘルペス、マラリア、ヒトパピローマウイルス(HPV)、AIDS/HIV、肺炎球菌性肺炎、インフルエンザ、髄膜炎、肝炎、及び結核が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、血管新生疾患、虚血、うっ血性心不全、冠動脈疾患、不整脈、アテローム性動脈硬化症、LDL/HDL比の増加、血管形成後再狭窄、もしくはステント内再狭窄、卒中、鎌状赤血球貧血、及び血友病などの心臓血管疾患は、例えば、肥満、器官移植/移植物拒絶、骨粗鬆症、脱毛症、毛髪喪失、関節炎、アレルギー(例えば、ブタクサ、花粉、及び動物の鱗屑に対する)、嚢胞性線維症、糖尿病、及び聴力喪失の緩和と同様に、治療又は研究され得る。当業者は、上記疾患状態の多くについて、動物モデルが存在することを理解する。
【実施例】
【0119】
(実施例)
以下の実施例で更に本発明を説明するが、もちろん、その範囲を限定するものとして解釈すべきでは決してない。
【0120】
(実施例1)
本実施例は、インビボ網膜で、アデノウイルスベクターから、抗血管形成活性と神経栄養性活性の両方を含む因子を発現させる好適な方法を説明する。
【0121】
アデノウイルスゲノムのE1、E3及びE4領域の1つ以上の必須の遺伝子機能を欠き、PEDF遺伝子を含むアデノウイルスベクター(Ad.PEDF)を、好ましくは、WO99/15686(McVeyら)に記載されるように構築する。しかし、本発明の方法は、使用したベクター構築の方法に依存せず、そして、ベクター構築の以前に記載した方法もまた適切である。
【0122】
眼血管新生の幾つかのインビボモデルが利用できる。網膜の血管新生は、例えば、新生児動物(即ち、新生児マウス)において、マウスを誕生後直ぐに低酸素条件に曝すことによって得られる。数日後、新生児マウスを、標準的な大気条件に曝して、網膜の虚血誘導血管新生を生じさせる。
【0123】
Ad.PEDFを、硝子体内注射を介して、例えば、ケタミン又はケタミンとキシラジンの組合わせを用いて麻酔した、少なくとも12日齢のマウスの右眼に投与する。注射は、眼の後部に導入部位を形成し、そして、Ad.PEDFを含む組成物の約0.1〜5.0μlを投与することによって行う。殆どの場合、発現ベクターの注射は、一つの眼のみに投与され、残りの眼は対照となる。マウスを、投与後の種々の時点で屠殺し、網膜におけるPEDF発現の程度と持続時間を測定する。各動物の右眼と左眼を摘出し、組織学的解析のために固定するか、又はPEDF発現解析のために調製する。PEDF DNA、PEDF RNA、又はPEDFタンパク質の検出は、PCRやブロッティング技術などの当該分野で周知の方法(例えば、Sambrookら,上記を参照)を用いて達成され得る。
【0124】
例えば、ヒトにおいて、インビボで血管新生に対するPEDFの効果を測定するために、網膜の間接的検眼鏡検査が理想的である。立体写真は、広範な血管新生を検出するのに有用であるが、細かい病巣を検出するのに適切ではない。
【0125】
(実施例2)
本実施例は、インビボで、脈絡膜において、アデノウイルスベクターから抗血管形成活性と神経栄養性活性との両方を含む因子を発現させる好適な方法を示す。以下の実施例は更に、血管新生に対するPEDFの効果を測定する方法を提供する。
【0126】
アデノウイルスゲノムのE1、E3及びE4領域の1つ以上の必須の遺伝子機能を欠き、PEDF遺伝子を含むアデノウイルスベクター(Ad.PEDF)を、WO99/15686(McVeyら)に記載のように構築する。
【0127】
脈絡膜血管新生のインビボモデルは、例えば、マウス又はウサギの眼の網膜をはく離し、そして、色素上皮の創面切除することよって得ることができる。脈絡毛細管再生を、処置眼と非処置眼の両方でモニターする。網膜色素上皮(RPE)の混乱前にAd.PEDFを投与して、脈絡膜血管新生の防止における本発明の方法の効果を測定する。もちろん、Ad.PEDFは、血管新生に対する本手順の治療効果を測定するために、網膜とRPEの混乱後に投与される。
【0128】
脈絡膜血管新生は、当該分野で通常使用される眼底撮影、フルオレセイン血管造影、及び/又はインドシアニン−緑色血管造影を用いてインビボでモニターされ得る。これらの方法を用いて、当業者は、新規血管の増殖及び血管新生にしばしば付随する血管漏洩を検出できる。研究目的のために、血管新生はまた、眼を摘出し、血管キャスト(vascular cast)を調製することによってか、又は走査型電子顕微鏡により眼組織を検査することによっても測定され得る。
【0129】
(実施例3)
本実施例は、眼に外来核酸の複数の投薬量を送達するためのアデノウイルスベクターの有用性を示す。
【0130】
ルシフェラーゼ遺伝子を含むアデノウイルスベクター(Ad.L)、又は導入遺伝子を含まない対照アデノウイルスベクター(Ad.null)を、C57BL6マウスの眼の硝子体内空間に注射した(0日目)。アデノウイルスベクターの注射1日後(1日目)、AdLを感染させた眼を摘出し、そして凍結した(1回目の投与)。Ad.nullを感染させた眼を3つの群に分けた。I群において、Ad.Lベクターを、14日目(Ad.nullの最初の投薬の14日後)に眼の硝子体内空間に注射した。アデノウイルスベクターの2回目の投与の翌日(15日目、2回目の投与)に、I群の眼を摘出し、そして凍結した。II群の眼は、14日目にAd.nullを硝子体内に注射し、Ad.nullによる最初の注射の4週間後にAd.Lベクターを硝子体内に注射した(28日目、3回目の投与)。次いで、アデノウイルスベクターの3回目の投与の翌日に、眼を摘出し、そして凍結した。III群の眼は、14日目と28日目にAd.nullを硝子体内に注射し、そしてAd.nullによる最初の注射の6週間後にAd.Lベクターを注射した(42日目、4回目の投与)。次いで、アデノウイルスベクターの4回目の投与の翌日、眼を摘出し、そして凍結した。ルシフェラーゼアッセイを眼サンプルに対し行い、ベクターの複数の投薬に伴う感染と遺伝子発現の効率を測定した。
【0131】
アデノウイルスベクターの1回目と2回目の投与後の眼細胞におけるルシフェラーゼ発現は、ほぼ等しかった。換言すれば、遺伝子移入ベクターの2回の投与後、遺伝子発現の喪失は検出されなかった。1回目の投与と2回目の投与からの遺伝子発現と比較して、アデノウイルスベクターの3回目投与からの遺伝子発現は、10倍〜100倍減少したが、なおバックグラウンドレベル(例えば、Ad.nullで形質導入された細胞で検出される)より上であった。アデノウイルスベクターの4回目の投与からの遺伝子発現は、3回目の投与の後に観察された遺伝子発現と比較して約3倍〜10倍減少した。しかし、4回目の投与後の遺伝子発現のレベルは、バックグラウンドレベルよりも上であった。
【0132】
本実施例は、眼細胞において外来核酸を発現させるために、眼に対するアデノウイルスベクターの複数の適用を行うことの実現可能性を示す。
【0133】
(実施例4)
本実施例は、脈絡膜血管新生(CNV)を阻害するための、抗血管形成特性と神経栄養特性の両方を含む因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターの能力を示す。
【0134】
標準的な技術を用いて、CMV前初期プロモーターと機能可能に結合したPEDFのコード配列を含む複製欠損(E1−/E3−欠損)アデノウイルスベクター(AdPEDF.10)を構築した。PEDFコード配列を含まない空バージョンのベクター(AdNull.10)も構築した。
【0135】
Harvardポンプマイクロインジェクション装置とプルドガラス(pulled glass)マイクロピペットを用いて、成体C57BL/6マウスにAdNull.10又はAdPEDF.10を硝子体内に注射した。10粒子のウイルスを含む1μlのビヒクルを、各眼に硝子体内注射した。あるいは、1μlのビヒクルに懸濁させた10粒子のウイルスを、各眼に網膜下に注射した。注射の5日後、マウスをケタミン塩酸塩(100mg/kg体重)で麻酔した。トピカマイド(1%)を用いて瞳孔を拡張し、次いで、ダイオードレーザー光凝固によってブルック膜を破壊した。ブルック膜の破壊は、脈絡膜の血管新生を誘導することが知られている。
【0136】
ブルック膜のレーザー誘導破壊の14日後に、脈絡膜フラットマウント(choroidal flat mounts)(Edelmanら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,41,S834(2000)に記載)を調製して、脈絡膜の血管新生の程度を観察した。要約すると、眼を被験体から取り出し、そしてリン酸緩衝化ホルマリンに固定した。角膜、レンズ及び網膜を眼杯から取り出し、眼杯を平らに取り付けた。次いで、フラットマウントを蛍光顕微鏡で検査し、そしてイメージを、コンピューターイメージ解析のために3色CCDビデオカメラ(IK−TU40A、東芝、東京、日本)を用いてデジタル化した。
【0137】
血管新生の大きな領域を、未注射の眼及びAdNull.10を与えた眼で観察した。コンピューターイメージ解析を用いて、網膜下又は硝子体内にAdPEDF.10を注射した眼は、対照と比較して、より小さな領域の血管新生を示した。
【0138】
上記結果は、臨床用動物関連モデルでの眼血管新生(即ち、脈絡膜血管新生(CNV))を阻害する本発明の方法の能力を示す。
【0139】
(実施例5)
本実施例は、虚血誘導性網膜血管新生を阻害する、抗血管形成特性と神経栄養特性の両方を含む因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターの能力を示す。
【0140】
標準的技術を用いて、CMV前初期プロモーターと機能可能に結合したPEDFのコード配列を含む複製欠損アデノウイルスベクターを構築した。PEDFをコードするE1−/E3−/E4−欠損ベクター(AdPEDF.11)と、PEDFコード配列を含まない空バージョンのベクター(AdNull.11)を構築した。
【0141】
虚血性網膜症を、以前に記載されるように(例えば、Smithら,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,35,101(1994))、成体のC57BL/6マウスで引き起こした。要約すると、7日齢のマウス(P7)を、5日の間、75+/−3%酸素の大気に曝した。P10で、マウスに、AdPEDF.11又はAdNull.11の10粒子を硝子体内に注射し、2日間酸素に戻し、次いで、室内大気に戻した。P17で、マウスを屠殺し、そして眼を素早く取り出し、そして最適切断温度包埋化合物(optimum cutting temperature embedding compound)(OCT;Miles Diagnostics,Elkhart,IN)中で凍結した。
【0142】
血管新生を検出するために、眼を切片にし、そしてビオチニル化グリフォニアシンプリシフォリアレクチンB4(griffonia simplicifolia lectin B4)(GSA,Vector Laboratories,Burlingame,CA)で組織化学的に染色した。次いで、スライドを、メタノール/H中で、4℃にて10分間インキュベートし、0.05M Tris緩衝化生理食塩水pH7.6(TBS)で洗浄し、そして10%正常ブタ血清中で30分間インキュベートした。次いで、スライドを、ビオチニル化GSAと共に2時間インキュベートし、TBSですすぎ、アビジン結合アルカリホスファターゼ(Vector Laboratories)と45分間インキュベートした。TBSでの10分の洗浄後、スライドをHistomark Redと共にインキュベートした。GSA染色した10μm連続切片を、Axioskop顕微鏡を用いて検査した。コンピューターイメージ解析のために、3色CCDビデオカメラ(IK−TU40A、東芝、東京、日本)を用いて、イメージをデジタル化した。
【0143】
広範な網膜血管新生が、ウイルスを注射しなかった眼で検出された。AdNull.11を注射した眼は、未注射の眼よりも少ない血管新生を示したが、AdPEDF.11を注射した眼よりも有意により大きな網膜の血管新生を示した。AdPEDF.11を注射した眼は、最小量の血管新生を含んでいた。
【0144】
本実施例は、臨床関連動物モデルにおいて、眼関連障害(即ち、虚血誘導性網膜血管新生)を阻害する、本発明の方法の能力を明確に示す。
【0145】
(実施例6)
本実施例は、アデノウイルスベクターゲノムが、少なくとも28日間、眼に留まることを示す。
【0146】
アデノウイルスベクターにおけるCMVプロモーターの指示下の多数の遺伝子の発現は、眼の硝子体への投与後約2週間持続し、本質的に一過性であることが報告されている。発現の喪失は、眼からのベクターゲノムの消失、又はベクターゲノムからの発現の停止に起因するものであり得る。これらの可能性ある機構を扱うために、アデノウイルスベクターの硝子体内送達後、眼でのベクターゲノムの存在を測定した。E1、E4、及びE3(部分)アデノウイルス初期遺伝子領域を欠失した複製欠損アデノウイルスを、実施例5で記載したように、硝子体内注射によりマウスの眼に送達した。感受性及び特異的な定量的PCRアッセイを用いて、ベクターゲノム量を定量した。インビトロとインビボでのゲノムの用量反応は、qPCRアッセイの感度及び信頼性を示した。眼でのアデノウイルスベクターゲノムの量を、投与量及び投与後の時間の関数として定量した。投与1日後での眼におけるベクターゲノムのレベルは、投与したベクター粒子の量と直接的に関連した。ベクターゲノム量は、投与28日後に顕著に一定に留まるが、発現は急速に落ちることをこれらのデータは示した。
【0147】
アデノウイルスベクターからの発現の一過的性の性質は、発現停止に起因し、そして、眼組織からのアデノウイルスベクターゲノムの喪失に起因しないことを本実施例は示唆する。アデノウイルスベクターゲノムの量は、硝子体内注射後、少なくとも28日の間一定に留まった。
【0148】
(実施例7)
宿主細胞におけるストレス応答の誘導によって、細胞環境を変えることによる、アデノウイルスベクターからの導入遺伝子発現の調節を本実施例は示す。
【0149】
アデノウイルス血清型5のベクターの一部として、眼の硝子体空隙に送達されたマーカー遺伝子(即ち、ルシフェラーゼ遺伝子)の発現の時間経過を測定した。アデノウイルスベクターゲノムは、アデノウイルスゲノムのE1、E3、及びE4領域の1つ以上の必須の遺伝子機能を欠き、かつルシフェラーゼ遺伝子を含んでいた(AdL.11D)。CMV前初期プロモーターの制御下のルシフェラーゼ遺伝子を、アデノウイルスゲノムのE1領域と置換え、E4領域を、転写されないスペーサー配列と置換えた。
【0150】
合計1x10粒子ユニット(pu)を、C57BL/6マウスに硝子体内注射した。投与後の様々な日に眼を取得し、そしてルシフェラーゼ活性の相対レベルを測定した。ルシフェラーゼ活性の測定は、転写を研究する認められた方法である。図1に示すように、発現の最初の突発は、投与1日後に観察され、これは2週間までに7〜10倍減少した。発現のこのより低いレベルは、バックグラウンドシグナルの上に留まる。
【0151】
AdL.11Dのルシフェラーゼ遺伝子の発現を活性化するために、2x10puのAdNull.11D(導入遺伝子を発現しない同遺伝子型ベクター)を、硝子体内注射により眼に投与した。AdNull.11Dベクターを、1x10puのAdL.11Dと同時投与するか、又はAdNull.11Dを、1x10puのAdL.11Dの投与の7日後、14日後、又は28日後に投与した。このような実験の結果を図2に示す。AdNull.11Dによる誘導無しのAdL.11Dベクターからの発現は、実験の最初の2週間にわたって減少した。AdNull.11Dの添加は、28日の実験の存続時間の間に試験した全ての時点で発現を増大させた。AdNull.11Dの投与によって誘導される発現レベルは、1日目でAdL.11D単独で得られるピーク発現レベルよりも少なくとも10倍高かった。AdL.11Dからの発現が最低レベルにある場合、約100倍の最大誘導が、投与後の14日目と28日目に観察された。
【0152】
発現を活性化するAdNull.11Dの能力は、CMVプロモーターを含むアデノウイルスベクターに限定されなかった。野生型E4配列を有するAdL.11Dの同遺伝子型ベクターが構築された。ここで、CMVプロモーターを、EF1α細胞プロモーターと置き換え、AdEF.Lを産生した。AdL.11D又はAdEF.Lのいずれかの1x10puの投与量を、硝子体内注射を介して眼に投与した。AdNull.11Dの2x10puの投与量を同時投与した。投与1日後に眼を採取し、そしてルシフェラーゼ活性レベルを測定した。AdL.11Dからのルシフェラーゼ遺伝子の発現は、AdNull.11Dの非存在下の発現と比べて、AdNull.11Dの同時投与によって、約10倍刺激された。AdNull.11Dと同時投与した場合、同じく転写の10倍の誘導が、AdEF.Lについて観察された。
【0153】
眼におけるストレス誘導は、発現活性化の機構の1つの構成要素であると考えられた。合計で1x10puのAdL.11Dを、硝子体内注射を介して眼に送達し、次いで、AdNull.11D、ベクター希釈緩衝液、又は生理食塩水を3日後に注射した。あるいは、3日目に、物質の送達無しに、眼を単純に穿刺した。4日目に眼を採取し、そしてルシフェラーゼ発現レベルを測定した(図3)。空のベクターの投与無しでのAdL.11Dの発現レベルと比べて、AdNull.11Dによる誘導の陽性対照は、約100倍のオーダーで発現を誘導した。他の処置の3つ全て(緩衝液もしくは生理食塩水の投与、又は眼の穿刺)もまた、発現を誘導した。眼の単なる穿刺により、発現の20倍の増大が生じた。
【0154】
本実施例が提供するデータは、宿主細胞でのストレス応答の誘導による、導入遺伝子を含むアデノウイルスベクターの宿主細胞の形質導入後の任意の時点での発現の超活性化を示す。ベクター投与によって同時にストレス応答を誘導することによって、導入遺伝子の発現が増大し、そして発現は、試験した引き続く全ての時点で再活性化された。発現レベルは、非活性化対照で得られた発現の最高(ピーク)レベルより10倍高いレベルに増大した。発現レベルは、同じ時点で非活性化対照よりも100倍高いレベルに再活性化された。更に、空ベクターの投与は、導入遺伝子発現を駆動するのに使用されるプロモーターにかかわらず、アデノウイルスベクターからの発現を活性化した。このことは、残余のゲノムが、完全に発現能力を有したままであることを示す。ウイルス粒子の添加は、ストレスシグナルを更に高める可能性が最も高い。
【0155】
(実施例8)
眼への硝子体内投与後のアデノウイルスベクターでのUbC、JEM−1、及びYY1プロモーターの発現プロフィールを本実施例は詳述する。
【0156】
アデノウイルスゲノムのE1、E3、及びE4領域の1つ以上の必須の遺伝子機能を欠き、かつルシフェラーゼ遺伝子を含むアデノウイルスベクター(AdL.11D)は、実施例6及び7に記載されている。AdL.11DのCMVプロモーターがUbCプロモーター(AdUb.L.11D)、JEM−1プロモーター(AdJEM1.L.11D)、又はYY1プロモーター(AdYY1.L.11D)で置換された、アデノウイルス構築物を調製した。各アデノウイルスベクターの2x10puの投与量を、CD−1ヌードマウスの眼に硝子体内注射した。アデノウイルスベクターの投与後に種々の時点で眼細胞を単離し、そしてルシフェラーゼ活性をアッセイし、それによって、経時的な発現レベルの比較手段を提供する。UbC、JEM−1、及びYY1プロモーターの発現プロフィールを図4に示す。プロモーターの全てによって媒介される発現は、少なくとも28日にわたって安定であった。投与28日後で、UbC及びYY1プロモーターによって媒介される発現は、ピーク発現レベルと比べて、約10分の1より多くは減少しない。JEM−1プロモーターによって媒介される発現は、28日にわたって着実に増加した。
【0157】
(実施例9)
薬物による眼での導入遺伝子発現のアップレギュレーションを本実施例は示す。
【0158】
アデノウイルスベクターを、本明細書中に記載のように構築した。アデノウイルスベクターゲノムは、アデノウイルスゲノムのE1、E3、及びE4領域の1つ以上の必須の遺伝子機能を欠き、かつ緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする核酸配列を含んでいた(AdGFP.11D)。CMV前初期プロモーターの制御下のGFP遺伝子を、アデノウイルスゲノムのE1領域と置換え、他方、E4領域を、転写されないスペーサー配列と置き換えた。
【0159】
合計2x10粒子ユニット(pu)を、C57BL/6マウスに硝子体内注射した。アデノウイルスベクターの投与量の投与後の55日目に、レチノイン酸を、腿部の筋肉に注射した。アデノウイルスベクターの投与1日後に、発現の最初の突発が観察された。導入遺伝子発現は、55日までに検出不可能なレベルまで下がった。アデノウイルスベクターの投与後の56日目に(即ち、レチノイン酸の投与の1日後)、GFP活性を検出し、これによって、導入遺伝子発現の再活性化が示された。
【0160】
別の実験では、ルシフェラーゼ遺伝子を含むE1、E3、E4−欠損アデノウイルスベクター(AdL.11D)の1x10粒子ユニット(pu)を、C57BL/6マウスに硝子体内注射した。アデノウイルスベクターの投与後7日目に、レチノイン酸(100μl、50mM)をマウスに全身投与した。導入遺伝子発現を検出するために、1日目、7日目、8日目に眼を採取した。最初の導入遺伝子発現は、1日目から7日目までに約10倍下がった。レチノイン酸の投与により、遺伝子産物活性で測定して、ピークレベルまでの発現の回復が起こった。換言すれば、レチノイン酸は、アデノウイルスベクターの投与後の1日目で検出されたレベルに類似のレベルまで導入遺伝子発現の回復を促進し、その結果、転写の10倍の活性化が起こった。
【0161】
導入遺伝子の転写は、導入遺伝子をコードするアデノウイルスベクターの投与後、少なくとも55日で薬物の全身的投与によってアップレギュレートされ得ることを本実施例は示した。更に、転写は、ピークレベルまで再活性化され得る。
【0162】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、本明細書中で参考として援用されることが個別におよび具体的に示され、かつその全体が記載されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0163】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び同様の指示語の使用は、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含む(containing)」という用語は、他に特に明記がない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むが、限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に特に明記がない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に特に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることが単に意図され、そして他に特に主張されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に必須なものとして主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0164】
本発明の実施に関して、本発明者らが知っている最良の形態を含む、本発明の「好適な実施態様」を本明細書中に記載する。それらの好適な実施態様のバリエーションは、上記の説明を読むと、当業者に明白となるであろう。本発明者らは、当業者が適宜このようなバリエーションを用いることを予想し、そして本発明者らは、本発明が本明細書中に具体的に記載されたものとは別の状態で実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法によって許されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変物及び均等物を含む。更に、その全ての可能なバリエーションにおける上記要素の任意の組合わせは、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】図1は、ルシフェラーゼ活性(RLU/μgタンパク質)を、AdL.11D投与後の日数に関連付けたグラフである。
【図2】図2は、ルシフェラーゼ活性(RLU/μgタンパク質)を、AdL.11D投与後の日数に関連付けたグラフである。
【図3】図3は、AdL.11Dにおけるルシフェラーゼ遺伝子の転写から生じるルシフェラーゼ活性(RLU/μgタンパク質)と眼細胞におけるストレス応答の活性化方法を関連付けたグラフである。
【図4】図4は、ルシフェラーゼ活性(RLU/μgタンパク質)を、AdUb.L.11D、AdYY1.L.11D、及びAdJEM1.L.11Dの投与後の日数に関連付けたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は、(a)プロモーターに機能可能に連結しかつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物の眼に投与し、その結果、該発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入し、そして、該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生する工程、及び(b)次いで、眼細胞において該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程を含む方法であり、但し、転写をアップレギュレートする工程は、パイロジェンを投与することを含まない、方法。
【請求項2】
眼への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は、(a)プロモーターに機能可能に連結しかつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物の眼に投与し、その結果、該発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入し、そして、該核酸配列が転写されて、該遺伝子産物を産生する工程、及び(b)次いで、眼細胞を、生理食塩水、トレハロース、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド誘導体、ジクロフェナックナトリウム及びミソプロストール、ジクスルウレナック、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、ヒアルロン酸、第2の発現ベクター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、レチノイン酸、低温、光、放射線、マイクロ波、超音波、又は物理的傷害に曝すことによって、眼細胞におけて該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程を含む、方法。
【請求項3】
眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法であって、該方法は、(a)血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物に投与し、その結果、該発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入し、そして該核酸配列が転写される工程、及び(b)次いで、該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程を含み、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の発現をアップレギュレートして、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する、方法。
【請求項4】
核酸配列の転写をアップレギュレートする工程が、第1の発現ベクターの投与後、非パイロジェン活性化剤を投与することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は:
(a)(i)発現ベクターが宿主細胞に形質導入し、そして第1の核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生するように、プロモーターに機能可能に連結した第1の核酸配列を含む発現ベクター、及び
(ii)第2の核酸配列が宿主細胞において転写されて、レチノイン酸レセプターを産生するように、プロモーターと機能可能に連結しかつレチノイン酸レセプターをコードする第2の核酸配列、
を哺乳動物に投与する工程、及び
(b)次いで、哺乳動物にレチノイン酸を投与し、それによって、宿主細胞において第1の核酸配列の転写をアップレギュレートする工程、
を含む、方法。
【請求項6】
第1の発現ベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アデノウイルスベクターが複製欠損型である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は:
(a)アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠き、そして、プロモーターに機能可能に連結しかつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む、アデノウイルスベクターを、哺乳動物に投与し、その結果、該アデノウイルスベクターが宿主細胞に形質導入し、そして該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生する工程、及び
(b)次いで、宿主細胞において該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程、
を含み、但し、転写をアップレギュレートする工程は、パイロジェン、アデノウイルスベクター、又は放射線を投与することを含まない、方法。
【請求項9】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE1領域の、少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE4領域の、少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項7又は9に記載の方法。
【請求項11】
アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE1領域及び/又はE4領域の全部又は一部が除去されている、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
転写が2倍以上アップレギュレートされる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の1日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の7日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の14日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の28日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の3月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の6月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の9月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の12月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも2倍高い、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも5倍高い、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも10倍高い、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも20倍高い、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも50倍高い、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも100倍高い、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
転写のアップレギュレート1日後での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも20%である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
転写のアップレギュレート後1日での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも50%である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
転写のアップレギュレート1日後での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも100%である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
転写をアップレギュレートする工程が、眼細胞又は宿主細胞においてストレス応答を誘導することを含む、請求項1〜4及び6〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
転写をアップレギュレートする工程が、低温、光、放射線、マイクロ波、超音波、又は物理的傷害に、眼細胞又は宿主細胞を曝すことを含む、請求項1〜4及び6〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
転写をアップレギュレートする工程が、第2の発現ベクター、生理食塩水、トレハロース、タンパク質、核酸、及び薬物からなる群から選択される1つ以上の外来性物質を、動物に投与することを含む、請求項1〜4及び6〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
転写をアップレギュレートする工程が、二糖類を動物に投与することを含む、請求項1〜4及び6〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
外来性物質が第2の発現ベクターであり、そして、該第2の発現ベクターが核酸配列を含まないアデノウイルスベクターである、請求項1〜4、6、7、及び9〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
外来性物質がタンパク質であり、そして該タンパク質が、サイトカイン、血管形成阻害剤、神経栄養剤、酵素、又は抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
外来性物質が血管形成阻害剤であり、そして該血管形成阻害剤が、可溶性flt(s−flt)又は色素上皮由来因子(PEDF)である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
外来性物質が核酸であり、そして該核酸が、アプタマー又はsiRNAである、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
外来性物質が薬物であり、そして該薬物が、免疫抑制剤、ステロイド、ステロイド誘導体、ジクスルウレナック、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤阻害剤、チロシンキナーゼ(TK)阻害剤、Cox−I阻害剤、Cox−II阻害剤、抗炎症剤、アスピリン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、レチノイン酸、又はヒアルロン酸である、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
外来性物質が薬物であり、そして該薬剤が、プロスタグランジンアナログ、ベータ−ブロッカー、ヒアルロニダーゼ、ペグアプタニブナトリウム、テトラヒドロゾリン塩酸塩、又はドルゾラミド塩酸塩である、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
転写をアップレギュレートする工程が、レチノイン酸を動物に投与することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
転写をアップレギュレートする工程が、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及びレチノイン酸を動物に投与することを含む、請求項39又は41に記載の方法。
【請求項43】
外来性物質が、局所投与、結膜下投与、眼球後投与、眼周囲投与、網膜下投与、脈絡膜上投与、又は眼内投与される、請求項32〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
外来性物質が、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、非経口投与、鼻内投与、又は気管内投与される、請求項32〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも1日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも4日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも7日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも14日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも28日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも48日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも60日である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも3ヶ月である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも6ヶ月である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも9ヶ月である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも1年である、請求項1〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
発現ベクター又はアデノウイルスベクターが、血管形成阻害剤をコードする核酸配列、及び神経栄養剤をコードする核酸配列を含む、請求項1〜55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列とが、同じ核酸配列である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
眼関連障害が、眼の新生血管形成である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
眼関連障害が、加齢性黄斑変性である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
眼関連障害が、網膜腫瘍である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
眼関連障害が、糖尿病性網膜症である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
眼関連障害が、黄斑浮腫である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
眼関連障害が、緑内障である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
眼関連障害が、網膜変性疾患である、請求項2〜4、6、7、及び9〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
プロモーターが、ウイルスプロモーターである、請求項1〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
プロモーターが、サイトメガロウイルス前初期プロモーターである、請求項1〜65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
プロモーターが、細胞プロモーターである、請求項1〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
プロモーターが、伸長因子1−α(EF1−α)プロモーター、Ying Yang 1(YY1)プロモーター、又はユビキチンC(UbC)プロモーターである、請求項1〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法であって、該方法は、細胞プロモーターと機能可能に連結しかつ血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターと眼細胞を接触させ、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤が産生され、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する工程を含み、但し、アデノウイルスベクターが2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、該核酸配列の転写のレベルは、アデノウイルスベクターの投与28日後に、アデノウイルスベクターの投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、3分の1より多くは減少しない、方法。
【請求項70】
アデノウイルスベクターが、血管形成阻害剤をコードする核酸配列、及び神経栄養剤をコードする核酸配列を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列とが、同じ核酸配列である、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
眼関連障害が、眼新生血管形成、加齢性黄斑変性、黄斑浮腫、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜腫瘍、又は網膜変性疾患である、請求項69〜71のいずれか1項に記載の方法。
【請求項73】
アデノウイルスベクターが、複製欠損型である、請求項69〜72のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
アデノウイルスベクターが、2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、発現ベクターの投与28日後に、投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、5分の1より多くは減少しない、請求項69〜73のいずれか1項に記載の方法。
【請求項75】
アデノウイルスベクターが、2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、発現ベクターの投与28日後に、投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、10分の1より多くは減少しない、請求項69〜73のいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
細胞プロモーターが、ユビキチンC(UbC)プロモーター、JEM−1プロモーター、及びYing Yang 1(YY1)プロモーターからなる群から選択される、請求項69〜75のいずれか1項に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は、(a)プロモーターに機能可能に連結しかつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物の眼に投与し、その結果、該発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入し、そして、該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生する工程、及び(b)次いで、生理食塩水、トレハロース、脂質、ジクロフェナックナトリウム及びミソプロストール、ジクスルウレナック、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、該核酸配列を含まない第2の発現ベクター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、エストロゲン、グルココルチコイド、グルココルチコイドアナログ、レチノイン酸、レチノイン酸アナログ、マイクロ波、超音波、二糖類、アプタマー、siRNA、免疫抑制剤、Cox−I阻害剤、Cox−II阻害剤、抗炎症剤、アスピリン、プロスタグランジンアナログ、ベータ−ブロッカー、ヒアルロニダーゼ、ペグアプタニブナトリウム、テトラヒドロゾリン塩酸塩、酵素、抗体、色素上皮由来因子(PEDF)、及びドルゾラミド塩酸塩からなる群から選択される外来性物質に、眼細胞を曝すことによって、眼細胞において該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程を含む、方法。
【請求項2】
眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法であって、該方法は、(a)血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含む第1の発現ベクターを、動物に投与し、その結果、該発現ベクターが少なくとも1つの眼細胞に形質導入し、そして該核酸配列が転写される工程、及び(b)次いで、生理食塩水、トレハロース、脂質、ジクロフェナックナトリウム及びミソプロストール、ジクスルウレナック、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、該核酸配列を含まない第2の発現ベクター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、エストロゲン、グルココルチコイド、グルココルチコイドアナログ、レチノイン酸、レチノイン酸アナログ、マイクロ波、超音波、二糖類、アプタマー、siRNA、免疫抑制剤、Cox−I阻害剤、Cox−II阻害剤、抗炎症剤、アスピリン、プロスタグランジンアナログ、ベータ−ブロッカー、ヒアルロニダーゼ、ペグアプタニブナトリウム、テトラヒドロゾリン塩酸塩、酵素、抗体、色素上皮由来因子(PEDF)、及びドルゾラミド塩酸塩からなる群から選択される外来性物質に、眼細胞を曝すことによって、該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程を含み、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤の発現をアップレギュレートして、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する、方法。
【請求項3】
哺乳動物への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は:
(a)(i)発現ベクターが宿主細胞に形質導入し、そして第1の核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生するように、プロモーターに機能可能に連結した第1の核酸配列を含む発現ベクター、及び
(ii)第2の核酸配列が宿主細胞において転写されて、レチノイン酸レセプターを産生するように、プロモーターと機能可能に連結しかつレチノイン酸レセプターをコードする第2の核酸配列、
を哺乳動物に投与する工程、及び
(b)次いで、哺乳動物にレチノイン酸を投与し、それによって、宿主細胞において第1の核酸配列の転写をアップレギュレートする工程、
を含む、方法。
【請求項4】
第1の発現ベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アデノウイルスベクターが複製欠損型である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物への遺伝子産物の送達方法であって、該方法は:
(a)アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠き、そして、プロモーターに機能可能に連結しかつ遺伝子産物をコードする核酸配列を含む、アデノウイルスベクターを、哺乳動物に投与し、その結果、該アデノウイルスベクターが宿主細胞に形質導入し、そして該核酸配列が転写されて、遺伝子産物を産生する工程、及び
(b)次いで、生理食塩水、トレハロース、脂質、ジクロフェナックナトリウム及びミソプロストール、ジクスルウレナック、コンブレタスタチン、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、該核酸配列を含まない第2の発現ベクター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、エストロゲン、グルココルチコイド、グルココルチコイドアナログ、レチノイン酸、レチノイン酸アナログ、マイクロ波、超音波、二糖類、アプタマー、siRNA、免疫抑制剤、Cox−I阻害剤、Cox−II阻害剤、抗炎症剤、アスピリン、プロスタグランジンアナログ、ベータ−ブロッカー、ヒアルロニダーゼ、ペグアプタニブナトリウム、テトラヒドロゾリン塩酸塩、酵素、抗体、色素上皮由来因子(PEDF)、及びドルゾラミド塩酸塩からなる群から選択される外来性物質に、宿主細胞を曝すことによって、宿主細胞において該核酸配列の転写をアップレギュレートする工程、
を含方法。
【請求項7】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE1領域の、少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE4領域の、少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE1領域及び/又はE4領域の全部又は一部が除去されている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
転写が2倍以上アップレギュレートされる、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の1日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の7日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の14日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の28日以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の3月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の6月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の9月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
転写が、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与の12月以内に、少なくとも1度アップレギュレートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも2倍高い、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも5倍高い、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも10倍高い、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも20倍高い、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも50倍高い、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
核酸配列の転写レベルが、転写のアップレギュレーション無しの核酸配列の転写レベルよりも、少なくとも100倍高い、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
転写のアップレギュレート1日後での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも20%である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
転写のアップレギュレート後1日での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも50%である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
転写のアップレギュレート1日後での核酸配列の転写のレベルが、第1の発現ベクター又はアデノウイルスベクターの投与1日後の核酸配列の転写レベルの、少なくとも100%である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
第2の発現ベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項1、2、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムのE4領域の全ての複製に必須の遺伝子機能を欠く、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
外来性物質が、局所投与、結膜下投与、眼球後投与、眼周囲投与、網膜下投与、脈絡膜上投与、又は眼内投与される、請求項1、2、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
外来性物質が、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、非経口投与、鼻内投与、又は気管内投与される、請求項1、2、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも1日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも4日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも7日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも14日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも28日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも48日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも60日である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも3ヶ月である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも6ヶ月である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも9ヶ月である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
工程(a)と(b)との間の時間が、少なくとも1年である、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
発現ベクター又はアデノウイルスベクターが、血管形成阻害剤をコードする核酸配列、及び神経栄養剤をコードする核酸配列を含む、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列とが、同じ核酸配列である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
眼関連障害が、眼の新生血管形成、加齢性黄斑変性、網膜腫瘍、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、緑内障、及び網膜変性疾患からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項46】
プロモーターが、ウイルスプロモーターである、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
プロモーターが、サイトメガロウイルス前初期プロモーターである、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
プロモーターが、細胞プロモーターである、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
プロモーターが、伸長因子1−α(EF1−α)プロモーター、Ying Yang 1(YY1)プロモーター、又はユビキチンC(UbC)プロモーターである、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する方法であって、該方法は、ユビキチンC(UbC)プロモーター、JEM−1プロモーター、及びYing Yang 1(YY1)プロモーターからなる群から選択される細胞プロモーターと機能可能に連結しかつ血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターと眼細胞を接触させ、それによって、血管形成阻害剤及び/又は神経栄養剤が産生され、眼関連障害に関して動物を予防的又は治療的に処置する工程を含み、但し、アデノウイルスベクターが2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、該核酸配列の転写のレベルは、アデノウイルスベクターの投与28日後に、アデノウイルスベクターの投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、3分の1より多くは減少しない、方法。
【請求項51】
アデノウイルスベクターが、血管形成阻害剤をコードする核酸配列、及び神経栄養剤をコードする核酸配列を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
血管形成阻害剤をコードする核酸配列と神経栄養剤をコードする核酸配列とが、同じ核酸配列である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
眼関連障害が、眼新生血管形成、加齢性黄斑変性、黄斑浮腫、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜腫瘍、又は網膜変性疾患である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
アデノウイルスベクターが、複製欠損型である、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
アデノウイルスベクターが、2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、発現ベクターの投与28日後に、投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、5分の1より多くは減少しない、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
アデノウイルスベクターが、2x10粒子の投与量でマウスに投与される場合、核酸配列の転写のレベルは、発現ベクターの投与28日後に、投与1日後での核酸配列の転写のレベルと比べて、10分の1より多くは減少しない、請求項50に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−516027(P2006−516027A)
【公表日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557447(P2004−557447)
【出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/038169
【国際公開番号】WO2004/050027
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(500129085)ジェンベク、インコーポレイティッド (13)
【Fターム(参考)】