説明

着色されたガラス繊維を用いた列車用内装布帛

【課題】 旅客列車の壁装材として、プラスチック製の化粧板が多く使われてきたが、冷たく廉価な印象を与えることから、織編物が表皮層として使われるようになってきたが、有毒ガスの発生のない不燃性壁装材への期待が高まっており、不燃性でありしかも火災時には有毒ガスの発生がなく、意匠性に富んだ、列車用内装布帛を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス繊維にシランカップリング剤処理を施すことにより、ガラス繊維が染料によって着色されることを見出し、列車内装材としての意匠性に優れたガラス繊維製織編物の列車用内装布帛にすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色されたガラス繊維を用いた、列車内の壁面や天井に用いる内装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旅客列車の壁装材として、プラスチック製の化粧板が多く使われてきたが、冷たく廉価な印象を与えることから、近年では暖かく豪華な雰囲気をかもしだす繊維からなる織編物が表皮層として使われるようになり、遮音性や、触感を柔らかくする為に、不燃性フェルト材等を織編物の裏面にラミネートして使われるようになってきている。
【0003】
しかしながら、前記の内装材では高々難燃性が付与できる程度のもので、火災にさいしては、結局は燃焼してしまい、しかも燃焼すると有害ガスを発生してしまうものであった。最近では、多くの人命の失われた鉄道火災事故の報道があり、有毒ガスの発生のない不燃性壁装材への期待が高まっており、安心して列車に乗車でき、しかも暖かく豪華な雰囲気をかもしだす織編物製の不燃性の壁装材の開発が待たれている。
【0004】
特開2003−276113号公報では、建築材料として、ガラス繊維織物の少なくとも片面に樹脂層を設けた不燃シート材が開示されている。しかしながら、該発明ではガラス繊維織物の通気性を押さえるべく制約のあることから、意匠性にも制限があり、色彩もなく、暖かく豪華な雰囲気をかもしだす列車用内装布帛としては不向きなものしか記載されていない。
【0005】
ガラス繊維織編物を列車用内装布帛として使用する以上は、製品は白色以外の色相も可能でなければならないが、従来は樹脂を用いた顔料プリントによる手段か、特開平8−74174号公報に開示されるような、顔料を含んだフッ素樹脂を被覆したガラス繊維を使用する方法しか無かった。また樹脂を用いた顔料プリントによる方法では、摩耗により樹脂が脱落したり、樹脂・顔料の付着量を多くすると粗剛な布帛となり、燃焼試験では、多く用いた樹脂が燃焼するので不燃性の評価を得られない、という悪循環から脱却できないでいた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−276113号公報
【特許文献2】特開平8−74174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、不燃性でありしかも火災時には有毒ガスの発生がなく、意匠性に富んだ、ガラス繊維製織編物の列車用内装布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、列車内装材としての意匠性に優れたものにするため、ガラス繊維にシランカップリング剤処理を施すことにより、ガラス繊維が染料によって着色されることを見出し本発明に到達した。前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]ガラス繊維製織編物にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維製織編物を表皮層とする列車用内装布帛。
【0010】
[2]ガラス繊維糸にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維糸を用いてガラス繊維製織編物とし表皮層とした列車用内装布帛。
【0011】
[3]ガラス繊維にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色するガラス繊維の着色方法。
【発明の効果】
【0012】
[1]の発明によれば、ガラス繊維製織編物にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維製織編物を表皮層とするので、要求される色調とすることができ、意匠性に富んだ列車用内装布帛とすることができる。ガラス繊維製織編物にシランカップリング剤処理を施すのでムラなく均一に着色される。また、ガラス繊維製織編物表面に樹脂や顔料の付着がないので、燃焼試験において不燃性の評価を得ることができる。
【0013】
[2]の発明によれば、ガラス繊維糸にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維糸を用いてガラス繊維製織編物とし、列車用内装布帛の表皮層とするので、織柄等の意匠表現が可能になり、列車用内装布帛として高級感のあるものとすることができる。
【0014】
[3]の発明によれば、ガラス繊維にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色するので、ムラなく均一に着色されるガラス繊維の着色方法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明に係る列車用内装布帛の一実施形態について図1をもとに説明する。2は織編物でガラス繊維からなり、3は紙シートで難燃性を有し、接着層4を介して織編物2と紙シート3は一体化している。前記紙シート3は、改修工事のとき、列車基材から剥がしやすく、また、織編物2を裁断するときに端縁がほつれないようにするものである。もちろんガラス繊維からなる織編物2を直接列車基材に接着層4を介して接着してもよい。
【0016】
この実施形態の布帛は、ガラス繊維からなる織物である。一般にガラス繊維は、長繊維の場合、ガラス繊維のもつ耐熱性、高強度、高弾性を生かし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に混ぜて、製品の強度や耐熱性の向上のために使用されることが多く、また短繊維の場合は、断熱性を利用して、住宅用の断熱材や、蒸気配管などの断熱材に使用されることが多い。いずれも他の材料と組み合わせその特徴を生かした使い方をするのが一般的であるが、本発明では、ガラス繊維のもつ耐熱性を生かしてガラス繊維のみからなる不燃性織編物として使用する。前記不燃性織編物を内装材布帛として使用することから、意匠性が求められ、染料により着色されたガラス繊維を使用するものである。
【0017】
ここで使用するガラス繊維糸は、高温下で溶融したガラスを細いフィラメントに溶融紡糸し、撚りをかけたものである。ガラス繊維の太さは7ミクロン以下、特に4ミクロン以下の場合に有機繊維と無機繊維の両者の特性を具備した性能をもつものとされ、無機繊維の欠点であった耐折強さ、結節強さ、引掛強さ等の機械的特性が改善され、有機繊維に近いものとなる。しかも、無機繊維特有の皮膚刺激性がなく、有機繊維に近いしなやかさや、風合を有するものである。
【0018】
ガラス繊維の太さ3〜6ミクロン、総繊度600〜2000デシテックスの糸を使い、目付250〜600g/mの織布にすることが、列車用内装布帛として好ましい。本発明では、不燃性織編物であれば、必ずしもガラス繊維のみの布帛に限らず、他の不燃繊維や難燃繊維、使用量によっては可燃繊維である金銀糸、光沢糸等とも組み合わせて不燃性布帛として使用することは可能である。また、織組織としては、特に限定されず、例えば織物において平織り、綾織、朱子織、あるいはこれらを組み合せ意匠性に富んだ変化織等が挙げられる。ただし、織物の目の粗いものや薄い布帛では、いかに織物自身が不燃性織物であっても、燃焼性試験において織物裏面に貼着される紙シートに炎や熱が容易に届き、列車用内装布帛としての燃焼性が不合格になることから、織物の目の粗くない、目付が150g/m以上の織布にすることが必要である。
【0019】
さらに、列車用内装材布帛として使用することから意匠性が求められ、着色されたガラス繊維の糸を使用するか、織編後に着色するのが好ましい。着色手段としては、シランカップリング剤を水希釈しガラス繊維に含浸乾燥させて染料と反応する反応基を導入し、糸染めもしくは織編後に反染めあるいはプリント工程を経て着色する手段が簡易であり、有効である。
【0020】
シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物で、分子中に無機質材料と化学的結合をする反応基と、有機材料と化学的結合をする反応基の2種以上の異なった反応基をもっており、通常では非常に結びつきにくいガラス繊維と染料を結ぶ仲介役をするもので本発明においては、染料と反応する反応基としてアミノ基やエポキシ基をもつシランカップリング剤が好ましい。
【0021】
また、染料としては特に限定されず、反応染料、酸性染料、含金染料、カチオン染料等好適に使用することができる。
【0022】
次ぎに紙シート3は、改修工事のとき、列車基材から剥がしやすく、また、織編物2を裁断するときに端縁がほつれないようにするものである。紙シートは公知のセルロース繊維を主体として、強度等必要に応じて合成繊維、無機繊維等を適宜配合し、難燃性とするために水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の難燃剤を混合したスラリーとし、慣用的な紗紙用薬剤を適宜添加し、通常の湿式紗紙法によって紗紙して製造することが出来る。セルロース繊維に対する難燃剤の配合量はセルロース繊維100重量部に対して5〜20重量部であれば十分な難燃性紙シートとすることができる。また紙シートの重量としては65〜100g/mが好ましい。65g/mを下回ると紙としての強度や厚さが不足し、また、紙シートの重量が100g/mを上回ると、価格の上昇だけでなく、改修時のはがし時に紙の層間剥離が起き、厚みのある紙層が壁や天井の基材側に残り、施工性か悪くなることになる。ガラス繊維織編物の目付が500g程度の重量があり、密度が充分にあって隙間が見えないものでは、難燃紙を使わず、通常の紙もしくはレーヨンやエステル製の不織布であっても充分不燃機能を満足させることができる。もちろんガラス繊維からなる織編物2を直接列車基材に接着層4を介して接着してもよい。
【0023】
また、本発明において、接着層4は特に限定しないがデンプン、セルロース糊、アクリル、EVA、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を適宜選択混合して使用することができる。紙シート3に接着層4を塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、サイズプレスコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の装置を用いることができる。接着層を紙シートに塗布した後に、ガラス繊維からなる織編物を積層し加熱乾燥することにより、本発明の列車用内装布帛とすることができる。もちろんガラス繊維からなる織編物2に接着層4を塗布し、列車基材に直接接着してもよい。
【0024】
また、本発明において前記紙シートの代わりに、熱可塑性樹脂からなるシートを貼着することで、さらに通気汚れのない、非透水性の列車用内装布帛とすることができる。熱可塑性樹脂としては特に限定しないが、接着改質されたポリオレフィン系、ウレタン、ポリエステル樹脂が、列車内装用としては好ましい。なかでも、加工性、施工性等の観点からポリエステル樹脂が好ましい。列車の基板に曲面がある場合には、平板にあらかじめ接着した後、熱プレスをかけて、曲面を有する内装布帛をラミネートした列車の基板を作成することもできる。
【0025】
燃焼性試験の方法としては、運輸省鉄道車両用材料燃焼試験「A−A」基準に準拠して測定した。即ち182mm×257mmのサイズに切り取った共試材を45°傾斜に保持し、燃料容器の底の中心が、共試材の下面中心の垂直下方25.4mm(1インチ)のところにくるように、コルクのような熱伝導率の低い材質の台にのせ、燃料容器に純エチルアルコール0.5ccを入れて着火し、燃料が燃え尽きるまで放置する。燃焼性判定は、アルコールの燃焼中と燃焼後とに別けて、燃焼中は共試材への着火、着炎、発煙状態、炎の状態等を観察し、燃焼後は残炎、残じん、炭化変形状態を調査し、表1の基準に合わせて不燃性、極難燃性、難燃性の判定をした。
【表1】

【実施例】
【0026】
<実施例1>
次に、この発明の一例として、700デシテックスのガラス繊維を用いて縦糸42本/2.54cm、緯糸32本/2.54cmの平織りで重量210g/mの織物を作成した。その後、アミノ変性シランカップリング剤10%溶液に浸漬、絞り後乾燥して前処理を行い、含金染料インクによりインクジェットプリントを行い加熱発色後、洗い乾燥を行った。一方、セルロース繊維100重量部に対して水酸化アルミニウムを15重量部を混合したスラリーを湿式紗紙法によって紗紙、製造した難燃紙シート、重量としては75g/mに接着層としてEVAを40g/m塗布し、その上に前記ガラス繊維製の織物布帛を貼り、150℃で10分乾燥し列車用内装布帛を製作した。この列車用内装布帛の燃焼試験の結果は、表2に示すように染色性に問題なく色彩豊かな、不燃という良好な評価であった。
【0027】
<実施例2>
実施例1において、アミノ変性シランカップリング剤10%溶液に浸漬、絞り後乾燥して前処理を行い、さらに含金染料液に浸漬し加熱発色後、洗い乾燥を行った以外は実施例1と同様にして列車用内装布帛を製作した。各試験の評価は表2に示すように色ムラなく均一に着色され、染色性に問題なく良好であった。
【0028】
<実施例3>
実施例1において、難燃紙シートなしで、列車基材であるアルミ板に接着層としてEVAを40g/m塗布し、その上に実施例1で作成したガラス繊維製の織物布帛を直接貼り、150℃で10分乾燥し列車用内装布帛を製作した。各試験の評価は表2に示すように良好であった。
【0029】
<実施例4>
実施例1において、アミノ変性シランカップリング剤に代えてエポキシ変性シランカップリング剤とした以外は、実施例1と同様にして列車用内装布帛を製作した。各試験の評価は表2に示すように良好であった。
【0030】
<比較例1>
実施例1において、ガラス繊維に替えてポリエステル繊維とし分散染料を用いて染色した以外は実施例1と同様にして列車用内装布帛を製作した。(シランカップリング剤はポリエステル繊維には不要)各試験の評価は表2に示すように難燃と評価を下げる結果となった。
【0031】
<比較例2>
実施例1において、含金染料インクによりインクジェットプリントを行う替わりに、アクリルシリコーン系樹脂を用いた顔料プリントを行った以外は実施例1と同様にして列車用内装布帛を製作した。(シランカップリング剤は顔料プリントなので不要)各試験の評価は表2に示すようにアクリルシリコーン系樹脂が燃焼し難燃性の評価となった。
【0032】
<比較例3>
実施例1において、シランカップリング剤による前処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして列車用内装布帛を製作した。各試験の評価は表2に示すように着色されなかった。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 列車用内装布帛
2 ガラス繊維からなる織編物
3 紙シート
4 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維製織編物にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維製織編物を表皮層とする列車用内装布帛。
【請求項2】
ガラス繊維糸にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色されたガラス繊維糸を用いてガラス繊維製織編物とし表皮層とした列車用内装布帛。
【請求項3】
ガラス繊維にシランカップリング剤処理を施した後、染料によって着色するガラス繊維の着色方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−92188(P2007−92188A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279730(P2005−279730)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】