説明

着色膜付きガラス板及び着色膜付きガラス板の製造方法

【課題】可視光線透過率を低下させる領域と、赤外線透過率を低下させる領域とを併せ持つ美観に優れた着色膜付きガラス板を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス板の表面の一部に着色膜を備える着色膜付きガラス板であって、該着色膜付きガラス板は、前記ガラス板の表面に前記着色膜を備える第1領域と、前記ガラス板の表面に前記着色膜が形成されていない第2領域を有し、該第2領域のガラス板の表面に、赤外線カット微粒子を含有する無色透明な赤外線カット膜が形成されていることを特徴とする着色膜付きガラス板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色膜と赤外線カット膜を備えるガラス板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着色膜付きガラス板として、ガラス板の表面の少なくとも一部に金微粒子が分散した透明ないし半透明の着色膜を形成した着色膜付きガラス板が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2には、着色膜付きガラス板を自動車用ガラス板として用いることにより、着色膜をシェードバンドとすることが開示されている。また、自動車などの窓ガラスに赤外線カット膜を形成した赤外線カットガラスが知られている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【特許文献1】国際公開第96/31443号パンフレット
【特許文献2】特開平11−335141号公報
【特許文献3】国際公開第2004/011381号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/095298号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1及び2に開示される着色膜付きガラス板は、ガラス板の表面に美観に優れた着色膜(シェード)を形成することにより、着色膜を形成した領域においての可視光線透過率を低下させ、自動車の内部に侵入する可視光線を遮蔽する庇(ひさし)の役割とすることを目的としている。しかしながら、着色膜を形成していない領域においては赤外線の透過率が高いため、夏場の車内の温度上昇の要因となり、強いては車内の冷房負荷が高くなるという問題があった。
また、特許文献3及び4に開示される赤外線カットガラスは、赤外線をカットする機能を有するものの、可視光線を遮蔽する庇としての機能はなく、美観についても特に特長のないものであった。
本発明は、可視光線透過率を低下させる領域と、赤外線透過率を低下させる領域とを併せ持つ美観に優れた着色膜付きガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の課題を解決するために本発明は、請求項1に記載の着色膜付きガラス板として、ガラス板の表面の一部に着色膜を備える着色膜付きガラス板であって、該着色膜付きガラス板は、前記ガラス板の表面に前記着色膜を備える第1領域と、前記ガラス板の表面に赤外線カット微粒子を含有する無色透明な赤外線カット膜を備える第2領域を備えることを特長とする。
【0005】
請求項2に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1記載の着色膜付きガラス板において、着色膜は、金微粒子、シリカ及びバインダー樹脂を含有する膜であり、金微粒子は、着色膜中に分散されていることを特徴とする。
【0006】
請求項3に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1又は2記載の着色膜付きガラス板において、赤外線カット膜は、インジウム含有酸化スズ(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、錫ドープ酸化亜鉛、珪素ドープ酸化亜鉛、6ホウ化ランタン及び6ホウ化セリウムから選ばれる少なくとも1種を含む赤外線カット微粒子と、シリカを含有する膜であり、赤外線カット微粒子は、赤外線カット膜中に分散されていることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板において、第1領域の着色膜の表面上にさらに赤外線カット膜を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板において、第1領域の略全領域において、着色膜のみが形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板において、着色膜付きガラス板は、自動車用ガラス板であり、第1領域は、自動車用ガラス板を自動車に取り付けた際の上部であって帯状の領域であることを特長とする。
【0010】
請求項7に記載の着色膜付きガラス板として、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板において、着色膜付きガラス板の第1領域における可視光線透過率は20〜60%で、日射透過率は10〜35%であり、着色膜付きガラス板の第2領域における可視光線透過率は25〜85%で、日射透過率は15〜40%であることを特徴とする。
【0011】
上述の課題を解決するために本発明は、請求項8に記載の着色膜付きガラス板の製造方法として、ガラス板の表面に、着色膜形成用溶液を塗布する工程と、着色膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱し、ガラス板の表面に着色膜を形成する工程と、少なくともガラス板の着色膜を形成していない表面に赤外線カット膜形成用溶液を塗布する工程と、赤外線カット膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱する工程とを有することを特長とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の着色膜付きガラス板によれば、可視光線透過率を低減するとともに、赤外線の透過率も低減することができる着色膜付きガラス板とすることができる。
請求項2記載の着色膜付きガラス板によれば、美観に優れ、透過率を低減し、且つ、耐摩耗性、耐酸性、耐アルカリ性及び耐煮沸性に優れる着色膜とすることができる。
請求項3記載の着色膜付きガラス板によれば、赤外線カット性に優れる赤外線カット膜とすることができる。
請求項4記載の着色膜付きガラス板によれば、着色膜を形成した領域を透過する赤外線を更に低下することができる。
請求項6記載の着色膜付きガラス板によれば、自動車用として好適である。
請求項7記載の着色膜付きガラス板によれば、着色膜を形成した領域を透過する赤外線を更に低下することができる。
請求項8記載の着色膜付きガラス板の製造方法によれば、本発明の着色膜付きガラス板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。
【0014】
図1は、本発明による着色膜付きガラス板を表す図であり、図2は図1の着色膜付きガラス板の断面図である。図1において、本発明の着色膜付きガラス板1は、自動車用のリアガラス板であり、自動車に取り付けた際に車内面側上部となるガラス板2の表面2aに形成された着色膜3と、着色膜3上を含めた車内面側に形成された赤外線カット膜4を備える。
【0015】
本発明を構成する自動車用ガラス板2は自動車用として用いられるガラス板であれば特に制限されないが、自動車用として一般的に用いられるソーダライムシリカガラスが好ましい。ソーダライムシリカガラスには、無色のガラス、グリーン色、グレー色、ブルー色などの有色のガラス、さらには、紫外線をカットする機能を有するガラスや、プライバシーを保つために可視光線の透過率を30〜70%程度に低く抑えたガラスなどがあり、これらは本発明のガラス板として用いる場合に好適に用いられる。
【0016】
着色膜は、平均粒径が10nm以下の金微粒子とバインダー樹脂とシリカを含有する膜であり、金微粒子は、着色膜中に分散されている。金微粒子の作用により、膜は可視光線に対して吸収性を有する膜となる。
上記バインダー樹脂としては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドバインダー、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ブチルセルロース等のセルロースバインダーを用いることができる。
【0017】
着色膜はさらにAl、Ti、Co等の金属の化合物を含有することが好ましい。Al、Ti、Co等の金属の化合物は金微粒子の成長の抑制及び金微粒子を固定化する作用を有する。またAl、Ti、Co等の金属の化合物を取捨選択する事により着色膜の色調を選択することができる。例えば、Tiの化合物を含有させることにより着色膜は青色系の膜となり。Coの化合物を含有させることにより着色膜は灰色系の膜となる。これらの金属化合物の含有量としては金微粒子に対するモル比で0.1以上であることが好ましい。
【0018】
赤外線カット膜4は赤外線カット微粒子としてITO(インジウム−スズ酸化物)微粒子とシリカを含有する。ITO微粒子は、赤外線カット被膜中に分散している。
【0019】
ITO微粒子の粒径は100nm以下、好ましくは40nm以下であり、より好ましくは1〜40nmである。これにより、赤外線カットの効率がよく、且つ微粒子の粒径が大きいことに起因するヘイズの発生を抑制することができる。
【0020】
ITO微粒子の含有量は、赤外線カット被膜4の全質量に対して20〜45質量%が好ましい。含有量が20質量%以上であると十分な赤外線カット性能を得ることができ、45質量%以下であると赤外線カット被膜4の硬度を高くすることができる。
【0021】
赤外線カット被膜4の厚さを厚くすると膜中に分散しているITO微粒子の厚さ方向の含有量の総量を増加させることができ、よって赤外線カット性能の優れる膜を得ることができる。従って赤外線カット被膜4の厚さは、300nm以上が好ましい。しかしながら膜の厚さが厚くなると、膜の耐摩耗性、耐傷つき性が悪くなり、また自動車用ガラス板2上に赤外線カット被膜4を形成する際に、被膜にクラックが入りやすくなるといった不具合が発生する可能性がある、従って赤外線カット被膜4の厚さは3000nm以下が好ましい。
【0022】
赤外線カット被膜4は、赤外線カット微粒子としてITO(インジウム−スズ酸化物)微粒子を含有しているので赤外線をカットする。図3に厚さ5mmの紫外線吸収機能を有するグリーン色のソーダライムシリカガラス基板(紫外線吸収グリーンガラス)及び紫外線吸収グリーンガラスの表面に赤外線カット被膜4を形成した赤外線カット被膜形成ガラス板の波長300nm〜2500nmにおける光の透過率を分光高度計(島津製作所製:型番UV−3100PC)を用いて測定した結果を示す。図3において、赤外線カット被膜形成ガラス板の光の透過率を実線で、紫外線吸収グリーンガラスの光の透過率を波線で表す。赤外線カット被膜形成ガラス板及び紫外線吸収グリーンガラスの可視光線透過率及び日射透過率を測定した結果を表1に、赤外線カット被膜形成ガラス板及び紫外線吸収グリーンガラスの波長380nm〜780nmにおける波長10nm毎の光線透過率を測定した結果を表2に示す。ここで、可視光線透過率及び日射透過率は、JIS R3106に準拠した試験によりもとめた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
図3より明らかなとおり、赤外線カット被膜の形成の有無において、可視光線(波長380nm〜780nm)の光の透過率はほとんど変化していないのに対し、赤外線(波長780nm〜2500nm)の光の透過率は、赤外線カット被膜を形成することにより、透過率が低下している。これは、赤外線カット被膜が無色透明で赤外線をカットする被膜であることを表している。赤外線カット被膜が無色透明であると、ガラス基板の色調が変化しないので、着色膜付きガラス板のもつ美観を損ねることがなく好ましい。また表2より明らかなとおり、波長380nmから780nmにおける波長10nm毎の光線透過率において、赤外線カット被膜形成ガラス板の光線透過率と、紫外線吸収グリーンガラスの光線透過率との差は2%以下となっている。赤外線カット被膜形成ガラス板の光線透過率と、紫外線吸収グリーンガラスの光線透過率との差は赤外線カット被膜が無色透明であるとの観点から5%以下であることが好ましく3%以下であることが望ましい。
【0026】
波長450〜660nmの範囲の可視光線は他の波長の可視光線(波長380〜440nm及び波長670nm〜780nm)に比べ、目に入って視感覚を起こす割合の高い光である。従って波長450〜660nmの範囲の光における赤外線カット被膜形成ガラス板の光線透過率と、紫外線吸収グリーンガラスの光線透過率との差が小さいことは赤外線カット被膜が無色透明であるとの観点から好ましい。具体的には3%以下であることが好ましく、2%以下であることが望ましい。
【0027】
赤外線カット被膜形成ガラス板は、人体に対して熱暑感を与える波長1000〜2500nmの光の透過率を30%以下とすることが好ましく20%以下とすることが望ましい。
波長1000〜2500nmの光の透過率をより多くカットすることにより、人体への熱暑感を軽減することができる。また、赤外線カット被膜形成ガラス板を自動車用ガラスとして用いる場合、室内の温度上昇の抑制を行い、冷房の負荷を低減することができる。
【0028】
次に本発明の着色膜付きガラス板の製造方法について説明する。
【0029】
本発明の着色膜付きガラス板の製造方法は、ガラス板の表面に、着色膜形成用溶液を塗布する工程と、
前記着色膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱し、前記ガラス板の表面に前記着色膜を形成する工程と、
少なくとも前記ガラス板の前記着色膜を形成していない表面に赤外線カット膜形成用溶液を塗布する工程と、
前記赤外線カット膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱する工程とを有する。
【0030】
ガラス板の表面に、着色膜形成用溶液を塗布する工程において、ガラス板の表面に塗布する着色膜形成用溶液は、平均粒径が10nm以下の金微粒子、金微粒子を分散させる高分子(例えばナイロン11)、金微粒子成長抑制物質(例えばAl、Ti、Co等の金属酸化物)、ガラス骨格形成剤(例えば変成シリコーンオイル)、バインダー樹脂及び溶剤(例えばカルビトール、クレゾール)等により構成される。
【0031】
このような平均粒径が10nm以下の金微粒子を高分子材料中に分散させた複合材料を含むペーストを用いれば、このペーストを塗布したガラス板を単に加熱することにより、金微粒子を分散した状態でガラス板表面に容易に固定することができる。
【0032】
次に、着色膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱し、ガラス板の表面に着色膜を形成する、加熱は、120℃の温度で乾燥した後に600〜750℃の温度で加熱するのが好ましい。また600〜750℃の温度で加熱する際に、この加熱して軟化した状態のガラス板を自動車用等として要求される所定の形状に成形し、圧縮空気を吹きつけ急冷することにより着色膜を焼き付けると同時に、自動車用に適する強化ガラスとすることができる。このように着色膜を焼き付ける工程において行う成形処理、急冷処理は、所望の着色膜付きガラス板に応じて適宜選択的に追加して行うことができる。
【0033】
次に、着色膜を形成したガラス板の、少なくとも着色膜を形成していない表面に赤外線カット膜形成用溶液を塗布する。塗布方法としては、スプレー法、ディップ法、ロールコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、フローコート法などが挙げられる。曲げ形成しているガラス板に対して容易に塗布ができることからスプレー法、フローコート法が特に好ましい。
【0034】
赤外線カット被膜を形成した自動車用ガラス板は赤外線カット膜を硬化させるために所定の温度にて加熱(焼成)する。焼成温度は、赤外線カット膜形成用塗布液の特性に応じて適宜決定する。ゾル−ゲル法により被膜を形成する場合、加熱温度は100〜600℃程度が好ましい。前述したガラスが、風冷強化ガラス又は曲げガラスである場合、350〜600℃の温度で加熱を行うと、強化度が低下又は曲げ形状が変化してしまうおそれがある。従って風冷強化ガラス又は曲げガラスに対して加熱を行う場合は、加熱温度は100〜350℃が好ましい。
【0035】
前述した製造方法では、赤外線カット膜の焼成温度を100〜600℃としたが、600℃〜750℃であっても良い。この場合、120℃の温度で乾燥させた着色膜と赤外線カット膜を1回の加熱工程にて加熱処理し膜を形成することができる。また、ガラス板に同時に曲げ成形及び風冷強化を行うことも可能である。
【0036】
本発明の被膜を備える自動車用ガラス板において、赤外線カット微粒子をITO微粒子として説明したがITO微粒子に変えてアンチモン含有酸化スズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)微粒子、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)微粒子、錫ドープ酸化亜鉛微粒子、珪素ドープ酸化亜鉛微粒子、6ホウ化ランタン微粒子、6ホウ化セリウム微粒子等としてもよい。
【0037】
また、本発明の被膜を備える自動車用ガラス板において、赤外線カット膜中にITO微粒子、シリカ成分の他に、有機物などの添加剤を添加してもよい。有機物を添加することにより、ITO等の微粒子の分散性を向上させたり、薄膜をゾルゲル法により形成する場合は、膜にクラックを発生させないなどの効果を得ることができる。有機物の含有量としては特に限定されないが、薄膜の全質量に対して60%以下が好ましい。60質量%を超えると薄膜中の有機物の含有量が多すぎて十分な薄膜の硬度を得ることができない。有機物の含有量はさらに15質量%以下であることが好ましい。
【0038】
着色膜のペーストの調合に関しては、使用する有機溶剤、Co有機酸塩、シリコーンオイルおよびセルロース樹脂の種類と量は、着色膜が所望の色調や透過率になるように定めればよく、使用する溶剤や樹脂との相溶性がよいもの、或いは分散性がよいものであれば何れを使用してもよい。また、耐摩耗性向上のために、コロイダルシリカやシランカップリング剤等のSi化合物を添加してもよい。
【0039】
本発明最良の形態において本発明の着色膜付きガラス板を、着色膜上を含めた表面に赤外線カット膜を形成したガラス板として説明したがこれに限るものではなく、着色膜自体が赤外線をカットする場合は、例えば図4に示す様に赤外線カット膜を着色膜の形成している以外の表面に形成してもよい。
【実施例1】
【0040】
(赤外線カット液の調合)
ポリエチレングリコール(PEG400:関東化学社製)0.036g、純水5.86g、高分子分散剤としてのポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(ソルスパース41000:日本ルーブリゾール社製)0.162g、変性アルコール(ソルミックス(登録商標)AP-7:日本アルコール販売社製(以下、「AP-7」という))12.44gを順に入れた溶液を1分間攪拌した後、濃塩酸(関東化学社製)を1質量%添加したAP-7(以下、「1質量%AP-7」という)3.00gを上記溶液に添加し、1分間攪拌した。
【0041】
その後、テトラエトキシシラン(KBE-04:信越化学社製、シリカ成分含有量=28.8質量%)6.25gを上記溶液に添加して室温で4時間攪拌した。この後、ITO微粒子とエタノールを質量比2:3の割合で混合して4時間攪拌することにより得られたITO分散液2.25gを上記溶液に添加して、30分間攪拌を行い、赤外線カット液を得た。また、ITO分散液中のITO微粒子として、直径が10〜20nm程度の微粒子を用いた。
【0042】
(着色膜形成用溶液の調合)
ガラス板の塗布するペースト(着色膜形成用溶液)は以下の配合量により調整した。
金微粒子−ナイロン11複合材料 5質量%
Co有機酸塩 15質量%
変成シリコーンオイル 2質量%
セルロースバインダー 28質量%
ポリアミドバインダー 28質量%
シリコーンオイル 0.1質量%
カルビトール 11.9質量%
クレゾール 10質量%
ここで、金微粒子−ナイロン11複合材料は以下の工程により製造したものである。即ち、ナイロン11をガラス基板の表面上に真空中(10-3Torr)で30μmの厚さに蒸着し、次に、このナイロン11蒸着膜上に金を真空中(10-5Torr)で0.5μmの厚さに蒸着し、更に、この金/ナイロン11積層膜を形成したガラス基板を空気中において120℃で10分間加熱することにより製造したものである。
【0043】
加熱後の金/ナイロン11積層膜を透過型電子顕微鏡で観察したところ、粒径が1〜10nmの金微粒子がナイロン11中に分散していた。
ここで、変成シリコーンオイルは、ペーストをガラス板に焼き付ける際にシリカとなって、金微粒子を分散保持するとともに着色膜に耐久性を与える。
【0044】
(着色膜の形成)
この着色膜形成用溶液をスクリーン印刷で厚さ5mmのガラス板(紫外線吸収機能を有するグリーン色のソーダライムシリカガラス)の上に塗布した。この印刷の際には、着色膜を形成する部分と形成しない部分とを外観上連続的に変化していくように見せるべく、境界部分を半径が連続的に変化するドット−ホールパターンとした。このような美感向上のための措置は、金微粒子を含む原料を上記のように所定の粘度を有するペーストとして調整し、また、スクリーン印刷を使用することにより可能となるものである。尚、このドット−ホールパターンの一例を図5に示す。
【0045】
次に、このガラス板を乾燥(120℃、10分間)、加熱(600〜750℃)の後、曲げ成形および風冷強化を行って、着色膜を焼き付けた自動車用強化ガラスを製造した。得られたグレー系の着色膜は、外観のムラが殆ど認められず、美感に優れた、ガラス板上のシェードバンド(第1領域)となった。
【0046】
(赤外線カット膜の形成)
次に、ガラス板のシェードバンド以外の領域(第2領域)に赤外線カット膜形成用溶液をフローコート法により塗布し、この赤外線カット液が塗布されたガラス板を室温で5分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに上記赤外線カット液を塗布した自動車用ガラス板を投入して10分間加熱し、その後冷却し、赤外線カット被膜を形成した着色膜付きガラス板を得た。
【実施例2】
【0047】
ガラス板のシェードバンドの領域及びシェードバンド以外の領域の両方に赤外線カット膜形成用溶液をフローコート法により塗布した以外は実施例1と同様の方法で赤外線カット被膜を形成した着色膜付きガラス板を得た。従って実施例1にて得られた着色膜付きガラス板では、シェード領域に赤外線カット膜が形成されていないのに対し、実施例2の着色膜付きガラス板では、シェード領域及び非シェード領域ともに赤外線カット膜が形成されている。
【実施例3】
【0048】
ガラス板を厚さ5mmのプライバシーガラス(LEGART(登録商標)35:日本板硝子社製へ変更した以外は実施例1と同様の方法で赤外線カット被膜を形成した着色膜付きガラス板を得た。
【実施例4】
【0049】
ガラス板を厚さ5mmのプライバシーガラス(LEGART(登録商標)35:日本板硝子社製へ変更した以外は実施例2と同様の方法で赤外線カット被膜を形成した着色膜付きガラス板を得た。
【0050】
(比較例1)
ガラス板の表面に着色膜のみを形成し、赤外線カット膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にして着色膜付きガラス板を得た。
【0051】
実施例1乃至4及び比較例1にて得られたガラスの可視光線透過率、日射透過率をJIS R3106に準拠した試験によりもとめた。求めた結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例1乃至4及び比較例1の着色膜付きガラス板は、第1領域(シェードバンド)を備えているので、シェードバンドが庇としての機能を果たしていた。しかしながら表2からも明らかな通り、実施例1乃至4の着色膜付きガラス板の第2領域の日射透過率が40%以下であるのに対し比較例1の着色膜付きガラス板の第2領域の日射透過率は45.3%と高く、比較例1の着色膜付きガラス板は日射遮蔽性に劣ることが分かる。
【0054】
更に、本発明における赤外線カット膜は、無色透明な膜であるので、着色膜上に形成したとしても着色膜の色調をほとんど損ねることがなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による着色膜付きガラス板である
【図2】図1の着色膜付きガラス板の断面図である
【図3】赤外線カット被膜を形成する前後におけるガラス板の透過率を示す図である
【図4】図1の着色膜付きガラス板の別形態の断面図である
【図5】ドット−ホールパターンの図である
【符号の説明】
【0056】
1 着色膜付きガラス板
2 ガラス板
3 着色膜
4 赤外線カット膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の表面の一部に着色膜を備える着色膜付きガラス板であって、該着色膜付きガラス板は、前記ガラス板の表面に前記着色膜を備える第1領域と、前記ガラス板の表面に赤外線カット微粒子を含有する無色透明な赤外線カット膜を備える第2領域を備える着色膜付きガラス板。
【請求項2】
前記着色膜は、金微粒子、シリカ及びバインダー樹脂を含有する膜であり、前記金微粒子は、着色膜中に分散されていることを特徴とする請求項1記載の着色膜付きガラス板。
【請求項3】
前記赤外線カット膜は、インジウム含有酸化スズ(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、錫ドープ酸化亜鉛、珪素ドープ酸化亜鉛、6ホウ化ランタン及び6ホウ化セリウムから選ばれる少なくとも1種を含む赤外線カット微粒子と、シリカを含有する膜であり、前記赤外線カット微粒子は、前記赤外線カット膜中に分散されていることを特徴とする請求項1又は2記載の着色膜付きガラス板。
【請求項4】
前記第1領域の前記着色膜の表面上にさらに前記赤外線カット膜を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板。
【請求項5】
前記第1領域の略全領域において、前記着色膜のみが形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板。
【請求項6】
前記着色膜付きガラス板は、自動車用ガラス板であり、前記第1領域は、前記自動車用ガラス板を自動車に取り付けた際の上部であって帯状の領域である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板。
【請求項7】
前記着色膜付きガラス板の前記第1領域における可視光線透過率は20〜60%で、日射透過率は10〜35%であり、前記着色膜付きガラス板の前記第2領域における可視光線透過率は25〜85%で、日射透過率は15〜40%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の着色膜付きガラス板。
【請求項8】
ガラス板の表面に、着色膜形成用溶液を塗布する工程と、
前記着色膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱し、前記ガラス板の表面に前記着色膜を形成する工程と、
少なくとも前記ガラス板の前記着色膜を形成していない表面に赤外線カット膜形成用溶液を塗布する工程と、
前記赤外線カット膜形成用溶液を塗布したガラス板を加熱する工程と、
を有する着色膜付きガラス板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−277018(P2007−277018A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101520(P2006−101520)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】