説明

睡眠分析装置

【課題】 被験者にセンサを直接取り付けることなく、睡眠状態を分析できるようにした睡眠分析装置を提供する。
【解決手段】 エアマット1に横臥する被験者5の生体情報を検出するセンサ3と、センサ3の検出信号から、呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とを分離する生体信号分離部6と、分離された呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とから、睡眠段階を判断する睡眠状態判定部9を設ける。睡眠状態判定部9では、呼吸循環器系の生体信号によりノンレム段階の睡眠を判別し、体動信号又は呼吸循環器系の生体信号の変動率から、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の生体情報を検出し、その生体情報から睡眠状態を分析する睡眠分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の睡眠段階を判定する手段としては、睡眠ポリソムノグラフ検査(以下PSGと略記)の結果をRechtschaffen & Kales(ラクトシャヘン&カールズ)による睡眠段階国際判定基準に基づき実施していた(例えば、非特許文献1)。この手法では被験者に対して脳波センサ、眼球センサ、オトガイ筋センサ等から得られた信号から、脳波分析、急速眼球運動の有無、オトガイ筋筋電図の持続性・相動性要素などを評価することにより実施していた。人の睡眠段階は覚醒状態を含めて計6段階に分類し、高速眼球運動(REM)を伴う状態をレム睡眠、レムを含まない睡眠をノンレム睡眠に分類し、脳波の状態により、以下のように、4段階に分類する。
・覚醒(段階W):8〜12Hzのアルファ波と13〜40Hzの低振幅で不規則なベータ波がみられる。
・レム睡眠段階:覚醒時のような急速眼球運動(rapid eye movement:REM)が起こる。更に頤筋など抗重力筋の緊張が著しく低下する.
・ノンレム第1段階:アルファ波は消失し2〜7Hzの低振幅徐波が現れる.中心部には頭蓋頂鋭波(vertex sharp wave)と呼ばれる特徴的な波が出現する。半醒半睡状態あるいは入眠期と呼ばれる状態で、ゆっくりとした眼球運動(セム)がみられる。
・ノンレム第2段階:12〜14Hzで0.5秒以上の持続をもった明瞭な睡眠紡錘波が出現する。
・ノンレム第3、4段階:2Hz以下で75μV以上のデルタ波が出現する。判定区間に占めるデルタ波の割合によって、50%以上をノンレム第4段階、20〜50%をノンレム第3段階に分類する。
【0003】
図27は、上述のように睡眠段階を判定する従来の睡眠分析装置の一例を示す。図27において、脳波用電極101、オトガイ筋電極102、眼球運動電極103は、それぞれ人体の脳部、顎部、目周辺に配置し、その微弱な電圧変化を捉えるセンサである。センサインターフェース104a、104b、104cは脳波信号、オトガイ筋筋電信号、眼球運動信号それぞれ適度なレベルにまで増幅する機能を有し、A/D変換器105a、105b、105cはマイクロコンピュータなどの演算装置106への信号インターフェースとして機能する。
【0004】
図28は、図27によって得られた脳波信号、オトガイ筋筋電信号、眼球運動信号等の各信号を演算して、最終的な睡眠段階を判定するためのルールを記している。これは、Rechtschaffen & Kales(ラクトシャヘン&カールズ)による睡眠段階国際判定基準に基づくものである。
【非特許文献1】インターネット<URL:http://www.sleep-ukiha.syslabo.co.jp/cont071.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来手法である睡眠ポリソムノグラフ検査では、人の睡眠状態を判定する基準として、脳波、眼球運動、オトガイ筋を入力情報としているため、人体に脳波センサ、眼球センサ、オトガイ筋センサを直接取り付ける必要があり、被験者の寝返りや体動によりセンサが脱落して機能しなくなったり、センサの取り付け条件が変化して計測データの継続性に疑義が生じたりする問題があった。
【0006】
更にセンサが人体に直接取り付けられることにより、平常時とは異なる睡眠姿勢を強いられる、心理的緊張状態やストレス状態が継続する等、睡眠検査の実施自体が睡眠状態に影響を与えるという大きな問題があった。
【0007】
また、脳波分析等は医師のように専門知識がなければ判定は不可能であり、このことは事実上、睡眠ポリソムノグラフ検査実施時よりもはるかに遅れた時点で睡眠分析が行われることを意味しており、睡眠の状態を捉えて即時的かつリアルタイムに機器や環境を制御しようとする目的には利用できないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題を鑑み、被験者にセンサを直接取り付けることなく、睡眠状態を分析できるようにした睡眠分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明は、エアマットに横臥する被験者の生体情報を検出するセンサと、センサの検出信号から、呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とを分離する生体信号分離手段と、分離された呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とから、睡眠段階を判断する睡眠状態判定手段とを有し、睡眠状態判定手段において、ノンレム段階の睡眠判定は呼吸循環器系の生体信号により判行い、覚醒段階とレム睡眠段階との判別は体動信号又は前記呼吸循環器系の生体信号の変動率により行うようにしたことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、呼吸循環器系の生体信号の周期分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、体動信号を解析して体動頻度を求め、体動頻度と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、呼吸循環器系の生体信号の周期分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、同一の被験者の過去の基準値を基に閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析するようにしたことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、年齢に対する睡眠段階の占有率の情報を基に閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生体情報を検出するセンサと、センサの検出信号から、呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とを分離する生体信号分離手段と、分離された呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とから、睡眠段階を判断する睡眠状態判定手段とを有し、睡眠状態判定手段において、ノンレム段階の睡眠判定は呼吸循環器系の生体信号により判行い、覚醒段階とレム睡眠段階との判別は体動信号又は前記呼吸循環器系の生体信号の変動率により行うようにしている。このため、人体にセンサを直接取り付ける必要がない。したがって、被験者の寝返りや体動によりセンサが脱落して機能しなくなったり、センサの取り付け条件が変化して計測データの継続性に疑義が生じたりする問題が発生しない。また、被験者はセンサによって計測されているというストレスが生じないため、非計測時と同じ心理状態睡眠状態を計測できる。このことは計測データの信頼性の向上につながる。更に、脳波分析のように専門医による判定を必要としないため、被験者が自宅等どこでも計測が可能である。また、ノンレム睡眠段階の判定と、覚醒段階とレム睡眠段階の判定とを別々に行っているので、睡眠状態の判定の精度が向上される。
【0020】
また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別している。また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、呼吸循環器系の生体信号の周期分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしている。また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしている。このため、簡単な構成で、然も、高い精度で、ノンレム睡眠の段階が判定できる。
【0021】
また、本発明では、睡眠状態判定手段は、体動信号を解析して体動頻度を求め、体動頻度と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしている。また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしている。また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、呼吸循環器系の生体信号の周期分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしている。また、本発明では、睡眠状態判定手段は、呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしている。このため、簡単な構成で、然も、高い精度で、覚醒段階とレム睡眠段階とが判定できる。
【0022】
また、本発明では、同一の被験者の過去の基準値を基に閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析することで、リアルタイム処理が可能である。また、本発明では、年齢に対する睡眠段階の占有率の情報を基に閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析するようにすることで、リアルタイム処理が可能である。睡眠のリアルタイム分析が可能になる結果、睡眠状態に応じた機器や環境を制御する目的に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)睡眠分析装置の構成.
図1は、本発明の第1実施形態を示すものである。図1において、1はエアマットである。エアマット1にはエアホース2が接続されており、エアホース2には、圧力センサ3が取り付けられる。圧力センサ3は、エアマット1の圧力変化による信号を検出して、電気信号に変換する。
【0024】
被験者5がエアマット1上に横臥している間に、圧力センサ3からは、被験者5の種々の生体信号が得られる。すなわち、被験者5の心拍による圧力変化がエアマット1に伝わり、圧力センサ3で検出される。また、被験者5の呼吸による圧力変化がエアマット1に伝わり、圧力センサ3で検出される。更に、被験者5が動くと、その体動による圧力変化がエアマット1に伝わり、圧力センサ3で検出される。圧力センサ3からは、心拍信号、呼吸信号、体動信号等の生体信号が混合された状態で検出される。
【0025】
圧力センサ3の出力信号は、センサインターフェース4を介して、生体信号分離部6に送られる。生体信号分離部6は、圧力センサ3の出力信号から、心拍信号、呼吸信号、体動信号を分離するものである。
【0026】
生体信号分離部6は、例えば周波数分割により、各生体信号を分離するものである。生体信号分離部6は、バンドパスフィルタ7a、7b、7cにより構成されている。心拍信号は、心拍の基本信号(60Hz付近)又は心拍関連信号(10Hz及びその高調波)の周波数成分の信号を抽出するバンドパスフィルタ7aで分離される。呼吸信号は、呼吸の基本信号(0.3Hz付近)の周波数成分の信号を抽出するバンドパスフィルタ7bで分離される。体動信号は、(100Hz〜300Hz)の信号を抽出するバンドパスフィルタ7cで分離される。
【0027】
バンドパスフィルタ7a、7b、7cで分離された心拍信号、呼吸信号、体動信号は、レベル検波及び増幅を行う信号処理部8a、8b、8cを介して、睡眠状態判定部9に送られる。
【0028】
睡眠状態判定部9は、呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)及び体動信号を用いて、睡眠状態を判定する。つまり、呼吸循環器系の生体情報である血圧、呼吸、脈拍は睡眠の状態に応じて変化することが知られている。例えば、レム睡眠期では血圧や脈拍数は乱高下し、深い睡眠状態に移行すると血圧は下がり、脈拍数も減少する。よって、睡眠中の呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)を分析することにより、人の睡眠の深さ(ノンレム睡眠段階)を推定することができる。また、覚醒状態では体動頻度は大きいが、レム睡眠段階に入ると、体動頻度が小さくなる。よって、体動信号を分析することにより、覚醒段階かレム睡眠段階かが判断できる。また、覚醒状態では呼吸循環器系の生体信号の変動率は小さいが、レム睡眠段階に入ると、呼吸循環器系の生体信号の変動率が大きくなる。よって、呼吸循環器系の生体信号の変動率から、覚醒段階かレム睡眠段階かが判断できる。睡眠状態判定部9で、例えば、覚醒段階、レム睡眠段階、ノンレム第1段階、ノンレム第2段階、ノンレム第3段階、ノンレム第4段階の6段階に分けて、睡眠状態が判定される。この判定結果が出力端子10から出力される。
【0029】
以上説明したように、本発明の実施形態では、圧力センサ3により被験者5の種々の生態信号を検出し、この圧力センサ3からの生体信号から生体信号分離部6で心拍信号、呼吸信号、体動信号の生体信号に分離し、睡眠状態判定部9で、分離された心拍信号、呼吸信号、体動信号の生体信号を用いて、睡眠状態を判断するようにしている。
【0030】
本発明の実施形態では、被験者5はエアマット1で寝ているだけで睡眠状態が検出され、従来手法である睡眠ポリソムノグラフ検査のように、人体にセンサを直接取り付けることがない。このため、被験者の寝返りや体動によりセンサが脱落して機能しなくなったり、センサの取り付け条件が変化して計測データの継続性に疑義が生じたりする問題が発生しない。
【0031】
また、被験者5はセンサによって計測されているというストレスが生じないため、非計測時と同じ心理状態睡眠状態を計測できる。このことは計測データの信頼性の向上につながる。
【0032】
更に、脳波分析のように専門医による判定を必要としないため、被験者が自宅等どこでも計測が可能である。
(2)睡眠分析の原理.
次に、生体信号分離部6で分離された心拍信号、呼吸信号、体動信号の生体信号により、睡眠状態判定部9でどのようにして睡眠状態が判定されるかについて説明する。
【0033】
前述したように、呼吸循環器系の生体情報である血圧、呼吸、脈拍は、睡眠状態により変化することが知られている。例えば、レム睡眠期では血圧や脈拍数は乱高下し、深い睡眠状態に移行すると血圧は下がり、脈拍数も減少する。したがって、心拍信号や呼吸信号等の呼吸循環器系生体信号を捉え、この生体信号の変化を分析すれば、人の睡眠状態を推定することができる。
【0034】
呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)の変化は、周波数分析して捉えることができる。また、呼吸循環器系生体信号の変化は、周期分析して捉えることができる。また、呼吸循環器系生体信号の変化は、振幅分析して捉えることができる。
(2−1)周波数変動帯域を用いて睡眠分析.
先ず、呼吸循環器系生体信号の周波数分析して睡眠状態を判断する例から説明する。
【0035】
図2(A)に示すように、時間と共に変化するような時系列の呼吸循環器系生体信号が得られたとする。この呼吸循環器系生体信号をFFT(Fast Fourier Transform)によりスペクトラムに変換すると、図2(B)に示すように、周波数変動帯域が検出される。この周波数変動帯域Δfは、呼吸循環器系生体信号の変動を反映するものとなる。すなわち、覚醒段階やレム睡眠にあるときには、呼吸循環器系生体信号の変動が大きく、このときには、周波数変動帯域Δfが大きくなる。深い睡眠に入ると、呼吸循環器系生体信号の変動が小さくなり、周波数変動帯域Δfは小さくなる。このことから、呼吸循環器系生体信号をFFTによりスペクトラムに変換し、このスペクトラムから周波数変動帯域Δfを計測すれば、睡眠状態が判断できる。
【0036】
図3は、呼吸循環器系生体信号を入力情報として睡眠深度(ノンレム1段階,ノンレム2段階、ノンレム3段階、ノンレム4段階)を算出するための関係グラフである。図3において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域を示す。図3に示すように、覚醒段階及びレム睡眠の段階では呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfは大きい。睡眠状態になると、睡眠が深くなるに従って、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfは小さくなっていく。この関係から、閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34を設定しておき、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfと、各閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34とを比較することにより、ノンレム4段階の中でどの睡眠段階にあるかが判断できる。
【0037】
このように、ノンレムの4段階については、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfから判断できる。しかしながら、覚醒段階とレム睡眠段階では、共に呼吸循環器系生体信号の変動が大きく、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかの判断は、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfだけで行うのは難しい。
【0038】
覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかについては、体動頻度又は呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率から判断することができる。
【0039】
つまり、図4は、体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率とを入力情報として、睡眠深度(覚醒段階、レム睡眠段階)を算出するための関係を示すグラフである。図4において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率を示す。図4に示すように、覚醒段階では、体動頻度が大きく、レム睡眠段階に入ると、体動頻度が小さくなる。また、覚醒段階では、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率は小さいが、レム睡眠段階に入ると、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率が大きくなる。このグラフから、体動頻度と閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。また、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率と閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。
(2−2)周期分散値を用いた睡眠分析.
次に、呼吸循環器系生体信号を周期分析して睡眠状態を判断する例について説明する。
【0040】
図5(A)に示すように、時間と共に変化するような時系列の呼吸循環器系生体信号が得られたとする。図5(B)に示すように、この呼吸循環器系生体信号の1周期毎の時間を計測し、この呼吸循環器系生体信号の1周期毎の時間の分散から、図5(C)に示すようなヒストグラムを作成すると、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtが求められる。この周期分散値Δtは、呼吸循環器系生体信号の変動を反映するものとなる。すなわち、覚醒段階やレム睡眠にあるときには、呼吸循環器系生体信号の変動が大きく、このときには、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtが大きくなる。深い睡眠に入ると、呼吸循環器系生体信号の変動が小さくなり、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtが小さくなる。このことから、呼吸循環器系生体信号の1周期毎の時間を計測し、周期分散値Δtを求めれば、睡眠状態が判断できる。
【0041】
図6は、呼吸循環器系生体信号を入力情報として睡眠深度(ノンレム1段階,ノンレム2段階、ノンレム3段階、ノンレム4段階)を算出するための関係グラフである。図6において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtを示す。図6に示すように、覚醒段階及びレム睡眠の段階では呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtが大きい。睡眠状態になると、睡眠が深くなるに従って、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtは小さくなっていく。この関係から、閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34を設定しておき、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtと、各閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34とを比較することにより、ノンレム4段階の中でどの睡眠段階にあるかが判断できる。
【0042】
覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかについては、体動頻度又は呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変動率から判断することができる。
【0043】
図7は、体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変動率とを入力情報として、睡眠深度(覚醒段階、レム睡眠段階)を算出するための関係を示すグラフである。図7において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変動率を示す。図7に示すように、覚醒段階では、体動頻度が大きく、レム睡眠段階に入ると、体動頻度が小さくなる。また、覚醒段階では、呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変動率は小さいが、レム睡眠段階に入ると、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動幅が大きくなる。このグラフから、体動頻度と閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。また、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率と、閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。
(2−3)振幅分散値を用いた睡眠分析.
次に、呼吸循環器系生体信号を振幅解析して睡眠状態を判断する例について説明する。
【0044】
図8(A)に示すように、時間と共に変化するような時系列の呼吸循環器系生体信号が得られたとする。図8(B)に示すように、この呼吸循環器系生体信号の1周期毎の振幅を計測し、この呼吸循環器系生体信号の1周期毎の振幅から分散を求め、図8(C)に示すようなヒストグラムを作成すると、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAが求められる。この振幅分散値ΔAは、呼吸循環器系生体信号の変動を反映するものとなる。すなわち、覚醒段階やレム睡眠にあるときには、呼吸循環器系生体信号の変動が大きく、このときには、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAが大きくなる。深い睡眠に入ると、呼吸循環器系生体信号の変動が小さくなり、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAが小さくなる。このことから、呼吸循環器系生体信号の1周期毎を振幅を計測し、振幅分散値ΔAを求めれば、睡眠状態が判断できる。
【0045】
図9は、呼吸循環器系生体信号を入力情報として睡眠深度(ノンレム1段階,ノンレム2段階、ノンレム3段階、ノンレム4段階)を算出するための関係グラフである。図9において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAを示す。図9に示すように、覚醒段階及びレム睡眠の段階では呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAが大きい。睡眠状態になると、睡眠が深くなるに従って、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAは小さくなっていく。この関係から、閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34を設定しておき、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAと、各閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34とを比較することにより、ノンレム4段階の中でどの睡眠段階にあるかが判断できる。
【0046】
覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかについては、体動頻度又は呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変動率から判断することができる。
【0047】
図10は、体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変動率とを入力情報として、睡眠深度(覚醒段階、レム睡眠段階)を算出するための関係を示すグラフである。図10において、横軸は睡眠深度を示し、縦軸は体動頻度及び呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変動率を示す。図10に示すように、覚醒段階では、体動頻度が大きく、レム睡眠段階に入ると、体動頻度が小さくなる。また、覚醒段階では、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変動率は小さいが、レム睡眠段階に入ると、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動幅が大きくなる。このグラフから、体動頻度と、閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。また、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率と、閾値SthWRとを比較することにより、覚醒段階にあるかレム睡眠段階にあるかを判断することができる。
(3)睡眠状態判定部の構成.
以上説明したように、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域、呼吸循環器系生体信号の周期分散値、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値を用いて、ノンレム4段階の睡眠段階が判断できる。また、体動頻度、又は呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変動率、呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変動率、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変動率を用いて、覚醒段階かレム睡眠段階かが判断できる。このような原理に基づいて、睡眠状態を判断する睡眠状態判定部9(図1)が構成できる。
(3−1)周波数変動帯域を用いた睡眠状態判定部.
図11は、睡眠状態判定部9の一例を示すものである。この例は、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域を用いてノンレム4段階の睡眠段階が判断し、体動頻度を用いて覚醒段階かレム睡眠段階かを判断するものである。
【0048】
図11において、入力端子21に、呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)が供給される。入力端子22に、体動信号が供給される。
【0049】
入力端子21からの呼吸循環器系生体信号は、FFT処理部23に供給される。FFT処理部23で、呼吸循環器系生体信号がスペクトラムに変換される。FFT処理部23の出力信号が分散値算出部24に供給される。分散値算出部24で、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfが算出される。分散値算出部24で算出された周波数変動帯域Δfは、比較器25a、25b、25c、25dに供給される。
【0050】
比較器25a、25b、25c、25dには、閾値生成部27から、閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1がそれぞれ供給される。比較器25a、25b、25c、25dで、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfと閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1とが比較される。比較器25a、25b、25c、25dの出力信号がノンレム睡眠段階判定部26に供給される。ノンレム睡眠段階判定部26で、ノンレム4段階の睡眠状態が判定される。
【0051】
入力端子22からの体動信号は、体動レベル正規化部31に供給される。体動レベル正規化部31で、体動頻度が検出される。体動レベル正規化部31で検出された体動頻度が比較器32に供給される。比較器32には、閾値生成部27から閾値SthWRが供給される。比較器32で、体動頻度と閾値SthWRとが比較される。比較器32の出力信号が覚醒/レム睡眠判定部33に供給される。覚醒/レム睡眠判定部33で、覚醒状態かレム睡眠の状態かが判定される。
【0052】
ノンレム睡眠段階判定部26の出力信号及び覚醒/レム睡眠判定部33の出力信号が総合睡眠判定部34に供給される。総合睡眠判定部34で、ノンレム睡眠段階判定部26の出力信号と、覚醒/レム睡眠判定部33の出力信号とから、6段階の睡眠状態が判断される。この睡眠状態の判断結果が出力端子35から出力される。
【0053】
なお、この例では、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度を用いて行うようにしているが、図12に示すように、変動率算出部36を設け、FFT処理部23の出力信号を変動率算出部36に供給し、変動率算出部36で、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変化率を算出し、この呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変化率を比較器37に供給し、比較器37で、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変化率と閾値SthWRとを比較して、覚醒状態かレム睡眠の状態かを判定するようにしても良い。
【0054】
また、図13に示すように、体動レベル正規化部31と変動率算出部36を共に設け、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度と、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域の変化率との双方を用いて行うようにしても良い。
(3−2)周期分析値を用いた睡眠状態判定部.
図14は、睡眠状態判定部9の他の例を示すものである。この例は、呼吸循環器系生体信号の周期分散値を用いてノンレム4段階の睡眠段階が判断し、体動頻度を用いて覚醒段階かレム睡眠段階かを判断するものである。
【0055】
図14において、入力端子121に、呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)が供給される。入力端子122に、体動信号が供給される。
【0056】
入力端子121からの呼吸循環器系生体信号は、周期計測部123に供給される。周期計測部123で、呼吸循環器系生体信号の1周期毎の時間が計測される。周期計測部123の出力信号が分散値算出部124に供給される。分散値算出部124で、呼吸循環器系生体信号の周期分散値Δtが算出される。分散値算出部124で算出された周期分散値Δtは、比較器125a、125b、125c、125dに供給される。
【0057】
比較器125a、125b、125c、125dには、閾値生成部127から、閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1がそれぞれ供給される。比較器125a、125b、125c、125dで、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfと閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1とが比較される。比較器125a、25b、125c、125dの出力信号がノンレム睡眠段階判定部126に供給される。ノンレム睡眠段階判定部126で、ノンレム4段階の睡眠状態が判定される。
【0058】
入力端子122からの体動信号は、体動レベル正規化部131に供給される。体動レベル正規化部131で、体動頻度が検出される。体動レベル正規化部131で検出された体動頻度が比較器132に供給される。比較器132には、閾値生成部127から閾値SthWRが供給される。比較器132で、体動頻度と閾値SthWRとが比較される。比較器132の出力信号が覚醒/レム睡眠判定部133に供給される。覚醒/レム睡眠判定部133で、覚醒状態かレム睡眠の状態かが判定される。
【0059】
ノンレム睡眠段階判定部126の出力信号及び覚醒/レム睡眠判定部133の出力信号が総合睡眠判定部134に供給される。総合睡眠判定部134で、ノンレム睡眠段階判定部126の出力信号と、覚醒/レム睡眠判定部133の出力信号とから、6段階の睡眠状態が判断される。この睡眠状態の判断結果が出力端子135から出力される。
【0060】
なお、この例では、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度を用いて行うようにしているが、図15に示すように、変動率算出部136を設け、周期計測部123の出力信号を変動率算出部136に供給し、変動率算出部136で、呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変化率を算出し、この呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変化率を比較器137に供給し、比較器137で、呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変化率と閾値SthWRとを比較して、覚醒状態かレム睡眠の状態かを判定するようにしても良い。
【0061】
また、図16に示すように、体動レベル正規化部131と変動率算出部136とを共に設け、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度と、呼吸循環器系生体信号の周期分散値の変化率との双方を用いて行うようにしても良い。
(3−3)振幅分散値を用いた睡眠判定部.
図17は、睡眠状態判定部9の更に他の例を示すものである。この例は、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値を用いてノンレム4段階の睡眠段階が判断し、体動頻度を用いて覚醒段階かレム睡眠段階かを判断するものである。
【0062】
図17において、入力端子221に、呼吸循環器系生体信号(心拍信号、呼吸信号)が供給される。入力端子222に、体動信号が供給される。
【0063】
入力端子221からの呼吸循環器系生体信号は、振幅計測部223に供給される。振幅計測部223で、呼吸循環器系生体信号の振幅が計測される。振幅計測部223の出力信号が分散値算出部224に供給される。分散値算出部224で、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値ΔAが算出される。分散値算出部224で算出された振幅分散値ΔAは、比較器225a、225b、225c、225dに供給される。
【0064】
比較器225a、225b、225c、225dには、閾値生成部227から、閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1がそれぞれ供給される。比較器225a、225b、225c、225dで、呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfと閾値Sth34、Sth23、Sth12、SthR1とが比較される。比較器225a、25b、225c、225dの出力信号がノンレム睡眠段階判定部226に供給される。ノンレム睡眠段階判定部226で、ノンレム4段階の睡眠状態が判定される。
【0065】
入力端子222からの体動信号は、体動レベル正規化部231に供給される。体動レベル正規化部231で、体動頻度が検出される。体動レベル正規化部231で検出された体動頻度が比較器232に供給される。比較器232には、閾値生成部227から閾値SthWRが供給される。比較器232で、体動頻度と閾値SthWRとが比較される。比較器232の出力信号が覚醒/レム睡眠判定部233に供給される。覚醒/レム睡眠判定部233で、覚醒状態かレム睡眠の状態かが判定される。
【0066】
ノンレム睡眠判定部226の出力信号及び覚醒/レム睡眠判定部233の出力信号が総合睡眠判定部234に供給される。総合睡眠判定部234で、ノンレム睡眠段階判定部226の出力信号と、覚醒/レム睡眠判定部233の出力信号とから、6段階の睡眠状態が判断される。この睡眠状態の判断結果が出力端子235から出力される。
【0067】
なお、この例では、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度を用いて行うようにしているが、図18に示すように、変動率算出部236を設け、振幅計測部223の出力信号を変動率算出部236に供給し、変動率算出部236で、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変化率を算出し、この呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変化率を比較器237に供給し、比較器237で、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変化率と閾値SthWRとを比較して、覚醒状態かレム睡眠の状態かを判定するようにしても良い。
【0068】
また、図19に示すように、体動レベル正規化部231と変動率算出部236とを共に設け、覚醒状態かレム睡眠の状態かの判定を、体動頻度と、呼吸循環器系生体信号の振幅分散値の変化率との双方を用いて行うようにしても良い。
以上、周波数変動帯域を用いて睡眠分析、周期分散値を用いて睡眠分析、振幅分散値を用いた睡眠分析について説明したが、睡眠分析は、これらの組み合わせで行うようにしても良いし、これら全て用いて行うようにしても良い。また、呼吸循環器系の生体信号としては、心拍信号又は呼吸信号のみを用いても良いし、心拍信号と呼吸信号の双方を用いるようにしても良い。
(4)リアルタイム処理について.
上述のように、ノンレム4段階の睡眠状態の判定は、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域Δf、周期分散値Δt、振幅分散値ΔAと、閾値St hR1、Sth12、Sth23、Sth34と比較することにより行われる。また、覚醒段階とレム睡眠との判断は、体動頻度と、閾値SthWRとを比較することにより行われか、又は、呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域Δfの変化率、周期分散値Δtの変化率、振幅分散値ΔAの変化率と、閾値SthWRとを比較することにより行われる。人の睡眠段階を正確に判定するためには、被験者5の一晩の睡眠を計測した後でなければ、これらの閾値を正確に設定することはできない。
【0069】
しかし、即時的又はリアルタイムな睡眠段階の情報が必要な場合は、この閾値は暫定値を用いることができる。例えば、被験者が同一人物であり繰り返し生体情報を計測する場合、図20のような生体情報の変動値はほぼ一定と見なせるため、閾値もほぼ一定であると見なすことができる。つまり被験者が同一人物である場合、前日値又は過去における規則値あるいは平均値などを基準に閾値を仮決定して、リアルタイムに睡眠段階を判定することができる。
(5)閾値の設定について.
被験者5が本発明による睡眠分析システムにより計測する場合には、年齢別睡眠段階占有率を基準として閾値を絞り込むことが可能である。
【0070】
つまり、図21は、年齢に対する各睡眠段階の占有率を現すグラフである。図21において、横軸は年齢を示し、縦軸は各睡眠段階の占有率を示す。このグラフから、睡眠中に、覚醒段階、レム睡眠段階、ノンレム第1段階、ノンレム第2段階、ノンレム第3段階、ノンレム第4段階のそれぞれの占有率は、年齢と共に変化していることが分かる。簡単に言えば、年齢と共に睡眠が浅くなり、覚醒段階にある占有率が高くなる。
【0071】
この図21に示すグラフを用いて、6段階の睡眠段階を判定するのに必要な計5個の閾値を求める方法を示す。
【0072】
各閾値を以下のように定義するものとする。
SthR1:生体情報としての覚醒段階及びREM段階とノンレム1段階の閾値
Sth12:生体情報としてのノンレム2段階とノンレム3段階の閾値
Sth23:生体情報としてのノンレム3段階とノンレム2段階の閾値
Sth34:生体情報としてのノンレム4段階とノンレム3段階の閾値
各年齢における睡眠段階占有率を以下のように定義するものとする。
R_W:指定された年齢における覚醒段階の占有率
R_REM:指定された年齢におけるREM睡眠段階の占有率
R_1:指定された年齢におけるノンレム1段階の占有率
R_2:指定された年齢におけるノンレム2段階の占有率
R_3:指定された年齢におけるノンレム3段階の占有率
R_4:指定された年齢におけるノンレム4段階の占有率
(R_WからR_4までの総和は100%)
全睡眠時間をTとすると、指定された年齢におけるノンレム4段階の時間は、R_4*Tとなる。よって、ノンレム第4段階とノンレム第3段階とを弁別する閾値Sth34は、以下のようにして算出される。
Sth34をパラメータとして、Sth34≧S(t) を満たすtの総合時間T_Sleep4が
T_Sleep4=Σt=R_4*T
の条件を満たす時、Sth34がノンレム第4段階4とノンレム第3段階とを弁別する閾値となる。
【0073】
全睡眠時間をTとすると、指定された年齢におけるノンレム3段階の時間は、R_3*Tとなる。よって、ノンレム第3段階とノンレム第2段階とを弁別する閾値Sth23は、以下のようにして算出される。
Sth23をパラメータとして、Sth23≧S(t)>Sth34を満たすtの総合時間
T_Sleep3が
T_Sleep3=Σt=R_3*T
の条件を満たす時、Sth23がノンレム第3段階とノンレム第2段階とを弁別する閾値となる。
【0074】
全睡眠時間をTとすると、指定された年齢におけるノンレム2段階の時間は、R_2*Tとなる。よって、ノンレム第2段階とノンレム第1段階とを弁別する閾値Sth12は、以下のようにして算出される。
Sth12をパラメータとして、Sth12≧S(t)>Sth23を満たすtの総合時間
T_Sleep2が
T_Sleep2=Σt=R_2*T
の条件を満たす時、Sth12が睡眠段階2と1を弁別する閾値となる。
【0075】
全睡眠時間をTとすると、指定された年齢におけるノンレム1段階の時間は、R_1*Tとなる。覚醒段階及びレム睡眠段階と、ノンレム第1段階とを弁別する閾値SthWRは、以下のようにして算出される。
SthR1をパラメータとして、SthR1≧S(t)>Sth12を満たすtの総合時間T_Sleep1が
T_Sleep1=Σt=R_1*T
の条件を満たす時、SthR1が覚醒段階及びREM睡眠段階と睡眠段階1を弁別する閾値となる。
【0076】
覚醒段階とレム睡眠段階を弁別する閾値としては、呼吸循環器系生体信号の変動率から算出する場合には、SthWRをパラメータとして、SthWR≧S(t)>SthR1を満たすtの総合時間T_SleepREMが
T_SleepREM=Σt=R_REM*T
の条件を満たす時、SthWRが睡眠段階覚醒と睡眠段階REMを弁別する閾値となる。
【0077】
体動頻度から算出する場合には、SthWRをパラメータとして、S(t)>SthWRを満たすtの総合時間T_SleepWが
T_SleepW=Σt=R_W*T
の条件を満たす時、SthWRが睡眠段階覚醒と睡眠段階REMを弁別する閾値となる。
(6)睡眠状態判定部の閾値の設定.
図22は、図11に示した睡眠状態判定部9に、年齢別占有率表39を付加して、閾値を設定できるようにしたものである。図22において、閾値生成部27には、FFT処理部23から呼吸循環器系生体信号の周波数変動帯域Δfが送られると共に、体動信号が送られる。また、入力端子38に被験者5の年齢が入力されると、年齢別占有率表39から、年齢毎の睡眠段階占有率が出力され、この年齢毎の睡眠段階占有率が閾値生成部27に送られる。閾値生成部27により、上述したようにして、ノンレム4段階の閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34、及び、覚醒段階とレム睡眠段階との閾値SthWRが生成される。ノンレム4段階の閾値SthR1、Sth12、Sth23、Sth34は、比較器25a〜25dに送られ、覚醒段階とレム睡眠段階との閾値SthWRは、比較器32に送られる。
【0078】
なお、図12〜図19に示した睡眠状態判定部9についても、同様に、年齢別占有率表39を付加して、閾値を設定することができる。
(7)応用装置.
図23、図25に睡眠分析結果である睡眠段階を用いた応用装置を示す。本応用装置の例は、人の睡眠段階を知ることによって、睡眠状態に適したハードウェア機器(例えば炊飯器、給湯器、電話機など)の制御を行おうとするものである。
【0079】
人の起床時刻はいわゆる時刻によって決定されるべき場合と、人の睡眠状態から逆算的に決定して良い場合とが存在する。例えば、翌日が休日である場合、疲労回復を目的とする睡眠の場合、人に拘束されない自由な時間行動が可能な人の場合等は、いわゆる目覚めの良い時刻に起床することが理想的である。本応用例は、この主旨に則った応用例を示す。
【0080】
図23において、睡眠段階入力インターフェース51には計6段階の睡眠推定結果が入力される。演算処理ブロック52は、睡眠段階結果を用いて制御すべき外部機器の停止・開始・機能変更などを判定する手段である。リモートコントロールインターフェース53は、学習型リモートコントロールユニット54に命令を伝達するためのインターフェースである。リモートコントロールユニット54により、ハードウェア55が制御される。ハードウェア55は例えば電話機である。
【0081】
電話機の鳴動などの場合、人が深い睡眠状態にある場合、発呼音声そのものが睡眠の妨げとなるため、人の睡眠がノンレム睡眠1段階以上の深い眠りの段階では、鳴動そのものを停止させるようにリアルタイム制御する。図24のT1〜T2、T3〜T4、T5〜T6の期間が鳴動停止時間である。次に、応答メッセージ等を発呼者に伝達する付加機能を有する電話機の場合、鳴動を停止すると同時に、発呼者に対して理想的な発呼時間を知らせることが可能である。その過程は、人の睡眠周期は約90分周期で浅い眠りと深い眠りとを繰り返すことが医学的に判明している。(ウルトラディアンリズム)このウルトラディアンリズムを応用すると、睡眠のある状態から次の状態を精度良く予測することが可能となる。例えば、前々回の覚醒(T7)と前回の覚醒(T8)との時間間隔がΔt1であった場合、T10で電話が受信した場合は、睡眠を妨げないように鳴動を停止させると同時に、次の覚醒時刻T9=T8+Δt1=T10+Δt2を理想時間として予測することができる。この場合、『時刻T9にお電話ください。』あるいは『Δt2後にお電話ください。』といったメッセージを伝達することが可能である。
【0082】
次に、図25は、ハードウェア56として、炊飯器や給湯器を用いたものである。炊飯器や給湯器など、起床時にその役割を完了させていると便利かつ省エネルギー的効果が得られる機器の場合で、覚醒状態から逆算して動作を開始させる例を示す。人の睡眠周期は約90分周期で浅い眠りと深い眠りとを繰り返すことが医学的に判明している。(ウルトラディアンリズム)このウルトラディアンリズムを応用すると、睡眠のある状態から次の状態を精度良く予測することが可能となる。
【0083】
図26で、例えば、前々回の覚醒(T1)と前回の覚醒(T2)との時間間隔がΔt1であった場合、T2の時点で次の覚醒がT4であることが予想される。例えば炊飯器のように、機能開始させてから機能完了するまでの時間がΔt2である機器の場合、T2の時点で、機能開始させる最適時刻は、T2+Δt1−Δt2=T4−Δt2と算出できる。
【0084】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、人の睡眠状態を分析して、医学的に利用する他、睡眠状態に応じてハードウェアを制御するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明が適用された睡眠分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】周波数解析による睡眠段階の判定の説明に用いる波形図である。
【図3】周波数解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図4】周波数解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図5】周期解析による睡眠段階の判定の説明に用いる波形図である。
【図6】周期解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図7】周期解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図8】振幅解析による睡眠段階の判定の説明に用いる波形図である。
【図9】振幅解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図10】振幅解析による睡眠段階の判定の説明に用いるグラフである。
【図11】周波数解析による睡眠状態判定部の構成の一例を示すブロック図である。
【図12】周波数解析による睡眠状態判定部の構成の他の例を示すブロック図である。
【図13】周波数解析による睡眠状態判定部の構成の更に他の例を示すブロック図である。
【図14】周期解析による睡眠状態判定部の構成の一例を示すブロック図である。
【図15】周期解析による睡眠状態判定部の構成の他の例を示すブロック図である。
【図16】周期解析による睡眠状態判定部の構成の更に他の例を示すブロック図である。
【図17】振幅解析による睡眠状態判定部の構成の一例を示すブロック図である。
【図18】振幅解析による睡眠状態判定部の構成の他の例を示すブロック図である。
【図19】振幅解析による睡眠状態判定部の構成の更に他の例を示すブロック図である。
【図20】生体情報の変化の説明に用いるグラフである。
【図21】睡眠段階占有率を用いた閾値の設定の説明図である。
【図22】睡眠段階占有率を用いた閾値の設定を行う睡眠状態判定部の構成の一例を示すブロック図である。
【図23】本発明による睡眠分析装置を使った応用装置の一例のブロック図である。
【図24】本発明による睡眠分析装置を使った応用装置の一例の説明に用いるグラフである。
【図25】本発明による睡眠分析装置を使った応用装置の一例のブロック図である。
【図26】本発明による睡眠分析装置を使った応用装置の一例の説明に用いるグラフである。
【図27】従来の睡眠分析装置の一例のブロック図である。
【図28】従来の睡眠分析装置の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 エアマット
2 エアホース
3 圧力センサ
5 被験者
6 生体信号分離部
7a、7b、7c バンドパスフィルタ
8a。8b、8c 信号処理部
9 睡眠状態判定部
21 呼吸循環器系生体信号の入力端子
22 体動信号の入力端子
23 FFT処理部
24 分散値算出部
25a、25b、25c、25d 比較器
26 ノンレム睡眠段階判定部
27 閾値生成部
31 体動レベル正規化部
32 比較器
33 レム睡眠判定部
34 総合睡眠判定部
35 出力端子
36 変動率算出部
37 比較器
38 年齢入力端子
39 年齢別占有率表
51 睡眠段階入力インターフェース
52 演算処理ブロック
53 リモートコントロールインターフェース
54 リモートコントロールユニット
55 ハードウェア
56 ハードウェア
101 脳波用電極
102 オトガイ筋電極
103 眼球運動電極
104a、104b、104c センサインターフェース
105a、105b、105c A/D変換器
106 演算装置
121 呼吸循環器系生体信号の入力端子
122 体動信号の入力端子
123 周期計測部
124 分散値算出部
125a、125b、125c、125d 比較器
126 ノンレム睡眠段階判定部
127 閾値生成部
131 体動レベル正規化部
132 比較器
133 レム睡眠判定部
134 総合睡眠判定部
135 出力端子
136 変動率算出部
137 比較器
221 呼吸循環器系生体信号の入力端子
222 体動信号の入力端子
223 振幅計測部
224 分散値算出部
225a、225b、225c、225d 比較器
226 ノンレム睡眠判定部
226 ノンレム睡眠段階判定部
227 閾値生成部
231 体動レベル正規化部
232 比較器
233 レム睡眠判定部
234 総合睡眠判定部
235 出力端子
236 変動率算出部
237 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアマットに横臥する被験者の生体情報を検出するセンサと、
前記センサの検出信号から、呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とを分離する生体信号分離手段と、
前記分離された呼吸循環器系の生体信号と、体動信号とから、睡眠段階を判断する睡眠状態判定手段とを有し、
前記睡眠状態判定手段において、ノンレム段階の睡眠判定は前記呼吸循環器系の生体信号により行い、覚醒段階とレム睡眠段階との判別は前記体動信号又は前記呼吸循環器系の生体信号の変動率により行う
ようにしたことを特徴とする睡眠分析装置。
【請求項2】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項3】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の周期分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項4】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値と閾値とを比較して、ノンレム段階の睡眠を判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項5】
前記睡眠状態判定手段は、体動信号を解析して体動頻度を求め、前記体動頻度と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項6】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を周波数解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の周波数変動帯域の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項7】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を周期解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の周期分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項8】
前記睡眠状態判定手段は、前記呼吸循環器系の生体信号を振幅解析し、前記呼吸循環器系の生体信号の振幅分散値の変動率と閾値とを比較して、覚醒段階とレム睡眠段階とを判別するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項9】
同一の被験者の過去のデータを統計処理して求められる基準値を基に前記閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。
【請求項10】
年齢に対する睡眠段階の占有率の情報を基に前記閾値を決定して、リアルタイムに睡眠状態を分析するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の睡眠分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2006−26302(P2006−26302A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213346(P2004−213346)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(500304132)株式会社ジェピコ (7)
【出願人】(591174911)
【Fターム(参考)】