説明

睡眠装置

【課題】複数の種類の刺激を提示して対象者の仮眠の時間をより短縮することが可能となる睡眠装置を提供する。
【解決手段】2種類以上の刺激を対象者Mに提示することにより、対象者の睡眠を誘発する睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mに提示を開始した刺激の内で、対象者Mの睡眠を誘発する効果が強いものから順に提示を終了する。一般に対象者Mの睡眠を誘発する効果が強い刺激ほど対象者Mを早く眠らせる効果が高くなるが、対象者Mの睡眠を阻害する可能性も高くなる。そのため、対象者Mの睡眠を誘発する効果の強い刺激ほど早いタイミングで終了させることで、対象者Mの睡眠を阻害する要因を低減することができる。これにより、対象者Mが提示した刺激で眠れないことを防ぎ、入眠までの時間を短縮することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠装置に関し、特には対象者に刺激を付与する睡眠装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象者に対して適切に仮眠を取らせるための装置が提案されている。例えば、特許文献1には、使用者の心拍を測定する手段とともに、使用者をリラックスさせて、睡眠状態に導く刺激を与えるリラックス誘導手段と、使用者の睡眠状態を維持する鎮静維持手段と、使用者の意識水準を高める刺激を与えるリフレッシュ刺激手段と、使用者に高い覚醒度を実現させる覚醒維持手段と、それらの手段を制御する制御手段とを備え、制御手段は、リラックス誘導手段Wをリラックス期間内で作動させた後、鎮静維持手段を鎮静維持期間内で作動させ、次に、リフレッシュ刺激手段をリフレッシュ期間内で作動させ、最後に、覚醒維持手段を覚醒維持期間内で作動させ、制御手段は、鎮静維持期間において、暗騒音以外の刺激がない状態を作り出す装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−200486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、対象者に対して提示する刺激の種類には光、音、振動、温熱、冷風及び匂い等の様々なものが考えられる。しかし、上記の技術では、複数の種類の刺激を効果的に提示する方法については開示されておらず、仮眠の時間を短縮するという点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような実情を考慮してなされたものであり、その目的は、複数の種類の刺激を提示して対象者の仮眠の時間をより短縮することが可能となる睡眠装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、2種類以上の刺激を対象者に提示することにより、対象者の睡眠を誘発する誘眠ユニットを備え、誘眠ユニットは、対象者に提示を開始した刺激の内で、対象者の睡眠を誘発する効果が強いものから順に提示を終了する睡眠装置である。
【0007】
この構成によれば、2種類以上の刺激を対象者に提示することにより、対象者の睡眠を誘発する誘眠ユニットは、対象者に提示を開始した刺激の内で、対象者の睡眠を誘発する効果が強いものから順に提示を終了する。一般に対象者の睡眠を誘発する効果が強い刺激ほど対象者を早く眠らせる効果が高くなるが、対象者の睡眠を阻害する可能性も高くなる。そのため、対象者の睡眠を誘発する効果の強い刺激ほど早いタイミングで終了させることで、対象者の睡眠を阻害する要因を低減することができる。これにより、対象者が提示した刺激で眠れないことを防ぎ、入眠までの時間を短縮することが可能となる。なお、本発明で「2種類以上の刺激」とは、必ずしも、光と音といった異なる系統のもののみならず、例えば、光と光といった同一系統の刺激の内で対象者の睡眠を誘発する効果の高いものと低いものという概念をも含むものである。例えば、光の場合は赤色光と青色光とであったり、1000ルクスと30ルクスとであったりする場合も、「2種類以上の刺激」に含まれる。
【0008】
この場合、刺激を対象者に提示することにより、対象者を覚醒させる覚醒ユニットをさらに備え、覚醒ユニットは、対象者の睡眠が深いほど、対象者に提示する刺激の強度を高めるものとできる。
【0009】
この構成によれば、刺激を対象者に提示することにより、対象者を覚醒させる覚醒ユニットは、対象者の睡眠が深いほど、対象者に提示する刺激の強度を高める。このため、睡眠の深い対象者を確実に覚醒させることができ、睡眠の浅い対象者を突然の刺激提示で驚かす等の不快感の発生を回避することが可能となる。
【0010】
この場合、覚醒ユニットは、2種類以上の刺激を対象者に提示することにより、対象者を覚醒させ、対象者に提示する刺激の内で、対象者を覚醒させる効果が強いものから順に提示を開始するものとできる。
【0011】
この構成によれば、覚醒ユニットは、2種類以上の刺激を対象者に提示することにより、対象者を覚醒させ、対象者に提示する刺激の内で、対象者を覚醒させる効果が強いものから順に提示を開始する。このため、覚醒ユニットは、対象者を覚醒させる効果が強い刺激から順に提示することになり、対象者を効率良く覚醒させることが可能となる。
【0012】
また、誘眠ユニットは、対象者の睡眠の深さ及び対象者の刺激への反応の少なくともいずれかに応じて、対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するものとできる。
【0013】
この構成によれば、誘眠ユニットは、対象者の睡眠の深さ及び対象者の刺激への反応の少なくともいずれかに応じて、対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するため、個々の対象者の睡眠の深さや刺激への反応に応じて適切な刺激を提示することが可能となる。
【0014】
また、覚醒ユニットは、対象者の刺激への反応に応じて、対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するものとできる。
【0015】
この構成によれば、覚醒ユニットは、対象者の刺激への反応に応じて、対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するため、個々の対象者の睡眠の深さや刺激への反応に応じて適切な刺激を提示することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の睡眠装置によれば、複数の種類の刺激を提示して対象者の仮眠の時間をより短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る睡眠装置のハードウェアの構成を示す側面図である。
【図2】実施形態に係る睡眠装置のソフトウェアの構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る睡眠装置の動作を示す図である。
【図4】マッサージ刺激の呈示方法を示す図である。
【図5】マッサージ刺激呈示時間と睡眠深度との関係を示すグラフ図である。
【図6】マッサージ刺激呈示時間と閉眼から睡眠段階IIまでの時間との関係を示すグラフ図である。
【図7】マッサージ刺激呈示の有無による経過時間と体温との関係を示すグラフ図である。
【図8】嗅覚の評価値ごとの嗅覚の疲労特性を示す表である。
【図9】匂いの種類ごとの疲労特性を示すグラフ図である。
【図10】匂いの種類ごとの嗅覚疲労の回復特性を示すグラフ図である。
【図11】刺激の種類ごとの刺激の有無による閉眼から睡眠段階Iまでの時間を示すグラフ図である。
【図12】刺激の種類ごとの刺激の有無による閉眼から睡眠段階IIまでの時間を示すグラフ図である。
【図13】刺激の種類ごとの時間と刺激強度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る睡眠装置について説明する。本実施形態の睡眠装置は、車両等に搭載され、対象者に仮眠を取らせるための装置である。図1に示すように、本実施形態の睡眠装置10は、ハードウェア上の構成として、シート20、臀部ヒータ22、フットスツール24、バイブレータ26、スピーカ31、サイドウィンドウ40、サイドブラインド42、バックウィンドウ50、バックシェード52及びランプ60を備えている。
【0019】
シート20は、対象者Mが着座して仮眠を取るためのものである。シート20は、臀部ヒータ22、フットスツール24及びバイブレータ26を有する。臀部ヒータ22は、対象者Mの臀部に温熱による刺激を加える。フットスツール24は、対象者Mが仮眠と取る際に展開し、対象者Mの脚部を支持する。フットスツール24は、対象者Mの脚部に温熱による刺激を加えるヒータを有していても良い。バイブレータ26は、対象者Mの背部に振動による刺激を与える。また、シート20は、図4に示すような対象者Mの背部にマッサージによる刺激を与えるマッサージローラを有していても良い。あるいは、対象者Mの眼球に対して振動を与えるバイブレータを対象者Mに着用させても良い。
【0020】
また、シート20は、対象者Mの睡眠深度の推定に必要な情報を取得するための脳波、心拍、血圧、呼吸、皮膚電位、体温、眼球運動等の生理指標を接触又は被接触で検出するためのセンサを備えている。これらのセンサは、例えば、シート20や車両のステアリングホイールに備えられた生理計測装置や圧電素子等とすることができる。また、シート20は、シート20の背もたれの角度や、シート20の圧力分布や、シート20の加速度を計測するセンサを備えていても良い。
【0021】
スピーカ31は、対象者Mに音による刺激を与える。スピーカ31は、後述するように、例えば、小川のせせらぎや小鳥の囀り等の音声を出力する。
【0022】
サイドウィンドウ40は、サイドウィンドウ40からの外光を任意の割合で遮断するサイドブラインド42を有する。バックウィンドウ50は、バックウィンドウ50からの外光を任意の割合で遮断するバックシェード52を備えている。なお、外光の遮断のために、シート20のヘッドレストの両側に遮蔽板を配置し、ヘッドレスト周辺から漏れてくるフロントガラスからの外光を遮断しても良い。
【0023】
ランプ60は、対象者Mに光による刺激を与える。ランプ60はLED(Light Emitting Diode)から構成することができる。ランプ60は、後述するように、対象者Mの誘眠時と覚醒時とで対象者Mに与える光を変更することができる。さらには、対象者Mに冷風あるいは温風を送風する送風機や、対象者Mに匂いを与える芳香手段が備えられていても良い。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の睡眠装置100は、ソフトウェア上の構成として、誘眠部110、睡眠状態コントロール部120、睡眠深度推定部122、睡眠深度制御部124及び快起部130を備えている。誘眠部110は、上記のランプ60等から、光、音、振動、温熱、冷風及び匂い等の2種類以上の刺激を対象者Mに提示することにより、対象者Mの睡眠を誘発する。
【0025】
睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの睡眠状態を制御する。睡眠状態コントロール部120は、睡眠深度推定部122及び睡眠深度制御部124を有する。睡眠深度推定部122は、仮眠時における対象者Mの睡眠深度を推定する。睡眠深度推定部122の睡眠深度の推定方法としては、学習ベース、確率モデル及びタイマー制御が行なわれる。
【0026】
学習ベースは、目的とする睡眠段階と分離特性の良い対象者Mの特徴量とから、例えばサポートベクターマシン(SVM)のような分離超平面を作成し、入力されたデータに対して対象者Mの睡眠段階を推定する。学習器としては、SVMの他に、ニューラルネットワーク(NN)、遺伝的アルゴリズム(GA)等が適用できる。
【0027】
確率モデルは、条件付確率モデルであり、今まで検証試験で蓄積したデータを基にツリー構造の分岐モデル構成を有する。条件付確率モデルには、他にFuzzyモデル等のルールベースモデルがある。確率モデルの長所は、正規分布に基づく一般的な対象者Mに対しては高精度に推定する可能性が高いことである。確率モデルは、学習モデルであるため、個々の対象者Mに適合し易く、環境条件、利用時間帯等の変化にも適応可能である。
【0028】
タイマー制御は、インテリジェントタイマーを用い、上記学習ベース及び確率モデルのフェイルセーフ的に用いられ、システムの安全性のために二重で用意される。タイマー制御の長所は、未知なデータにも必ず時間通りに結果を出力することが可能であることである。
【0029】
睡眠深度制御部124は、仮眠時における対象者Mの睡眠深度を制御する。睡眠深度制御部124の睡眠深度の制御方法としては、後述するように各種の刺激提示が行なわれる。刺激の強度及び種類は、睡眠深度や経過時間から決定することが可能である。刺激の強度は、刺激の周波数、振幅、提示時間、周期及び変化率について、エネルギー等により換算式を作成することが容易である。刺激の種類は、対象者Mの感覚器が感知可能なものは全て当てはまり、人間に入力されるものであれば種類によらずに実施が可能である。
【0030】
刺激の強度や種類は外部の環境に応じて変更しても良い。刺激の強度や種類は、個々の対象者Mごとに変更しても良い。対象者Mに提示する刺激は、対象者Mが知覚可能な刺激とする。刺激は、例えば、光、音、振動、温熱、冷風及び匂い等が適用される。刺激の強度や種類は、事前にマップとして設定しておいても良い。また、睡眠深度を従属変数とする関数により、刺激の強度や種類を決定しても良い。
【0031】
快起部130は、上記のランプ60等から、光、音、振動、温熱、冷風及び匂い等の2種類以上の刺激を対象者Mに提示することにより、対象者を覚醒させる。快起部130は、ハードウェア上又はソフトウェア上の構成において、その一部及び全部が上記の誘眠部110と共通していても良い。
【0032】
以下、本実施形態の睡眠装置10の動作について説明する。図3に示すように、本実施形態の睡眠装置10では動作が開始されると、対象者Mの睡眠を誘発するための誘眠演出を行なう誘眠期が実行される。この誘眠期では、臀部ヒータ22からは温熱が対象者Mに与えられ、フットスツール24が引き出される。また、誘眠期では、サイドブラインド42及びバックシェード52が外光を遮り、車室内が暗くされる。また、誘眠期では、スピーカ31から小川のせせらぎ等の音声が出力され、ランプ60から、鎮静用の光が対象者Mに照射される。
【0033】
対象者Mが眠りにつくと、睡眠深度推定部122のインテリジェントタイマーが稼動し、対象者Mの睡眠状態を制御する睡眠状態コントロール期が実行される。睡眠状態コントロール期では、睡眠深度推定部122により対象者Mの睡眠深度を推定する推定期と、睡眠深度制御部124による対象者Mの睡眠深度を制御する制御期とが実行される。
【0034】
対象者Mを覚醒させる際には、対象者Mを覚醒させるための覚醒演出を行なう快起期が実行される。この快起期では、バイブレータ26から振動が対象者Mに与えられ、フットスツール24が格納される。また、快起期では、サイドブラインド42及びバックシェード52が開かれ、車室内が明るくされる。また、快起期では、スピーカ31から小鳥の囀り等の音声が出力され、ランプ60から、覚醒用の光が対象者Mに照射される。
【0035】
以下、各動作について詳述する。本実施形態の睡眠装置10においては、対象者Mがシート20に着座し、睡眠を取得するための操作スイッチを操作することにより、睡眠装置10が誘眠期の動作を実行する。誘眠期においては、まず、車室内の光が遮断される。車室両側のサイドブラインド42と車室後部のバックシェード52が閉鎖される。また、シート20のヘッドレストの両側に遮蔽板が配置され、ヘッドレスト周辺から漏れてくるフロントガラスからの光を遮蔽する。これにより、車室内の光の照度が対象者Mの眼の位置で1000ルクス以下であり、色温度が2000K以下になるように調整される。
【0036】
誘眠期においては、車室内の光を遮断すると同時に以下のようにして対象者Mに刺激が提示される。ランプ60は、対象者Mに鎮静用の光を照射する。鎮静用の光は、対象者Mが眼を閉じた時でも光を感じる程度の照度とする。鎮静用の光は青色が好ましい。この光の照射は、最大で6分程度とする。なお、快起期において、ランプ60が対象者Mに照射する覚醒用の光は赤色が好ましい。
【0037】
シート20の臀部ヒータ22やフットスツール24に配置されたヒータは、対象者Mに温熱を与え、入眠を促進する。温熱の提示は、最大で6分程度とする。
【0038】
スピーカ31は、対象者Mに音による刺激を与える。音は、外部の環境のノイズマスキングを想定し、例えば、60dB程度の音量とする。音の種類は以下に示すいずれでも良い。
【0039】
例えば、スピーカ31は、ホワイトノイズ又はピンクノイズによる外音遮断を図ることができる。また、スピーカ31は、周期的な単調音により対象者Mの随意的機能遮断を図ることができる。スピーカ31は、数を読み上げる等の単純且つ単調な音声を流すことができ、これにより対象者Mの機能遮断により対象者Mのδ波の発生を誘うことができる。また、スピーカ31は、ヒーリングミュージックを流すことができる。例えば、スピーカ31は、クラッシック音楽や、波、風及び雨等の自然の音や、風鈴の音、鈴虫の音、小川のせせらぎの音等を流すことができる。音は提示開始から4分程度経過後に徐々に小さくしても良い。
【0040】
図4に示すように、シート20の背もたれに設けられたマッサージローラ27や、シート20の座面に設けられたマッサージローラ、あるいはエアバック等は、マッサージによる刺激を対象者Mに与える。マッサージによる刺激は、例えば、対象者Mの体幹部の脊柱起立筋等の筋を頭部から足先にかけて押しても良い。また、マッサージによる刺激は、マッサージローラ27を転がすことで、対象者Mの血流を良くしても良い。
【0041】
図4及び図5に示すように、マッサージローラ27は周期tで上下動させ、所定の刺激呈示時間T経過後、刺激の呈示を終了する。図6に示すように、閉眼から睡眠段階IIまでの時間を最短にするマッサージによる刺激の刺激呈示時間Tは4分であるデータが得られているため、マッサージによる刺激は4分程度行なわれる。図7に示すように、マッサージによる刺激により、図中楕円内に示すように、対象者Mの体温を放熱させ、対象者Mの入眠を促進する効果が期待できる。
【0042】
シート20の背もたれに設けられたバイブレータ26や、シート20の座面に設けられたバイブレータは、対象者Mに振動による刺激を提示する。振動の周波数は200Hz前後が望ましいが、100Hz以上であれば良い。
【0043】
また、本実施形態では、対象者Mに匂いによる刺激を提示しても良い。匂いは、人間にリラックス及び沈静を促す効果があると言われている。嗅覚は順応しやすい感覚器であるため、提示時間と提示間隔が重要となる。例えば、図8及び図9に示すように、提示時間の経過とともに、人間の嗅覚は疲労のため鈍くなる。一方、図10に示すように、匂いの提示の中止から140秒経過後には、時間の経過と共に嗅覚の鈍化は抑制され、嗅覚は回復する。そのため、本実施形態では、匂いの提示は、提示時間を120〜220秒とし、提示間隔を140秒程度とする。
【0044】
匂いの種類としては、様々な効用が各種アロマオイル等で提唱されているが、匂わなければ心理的効果が無いという視点から、重要な点は上記の提示時間と提示間隔となる。匂いの種類は、森林浴の匂いとしてフィトンチッドやボルネオールの匂いが挙げられ、鎮静効果のある匂いとしてラベンダーやカモミールの匂いが挙げられる。
【0045】
以下、誘眠期と睡眠状態コントロール期において、対象者Mに対して提示する刺激の種類を決定する方法について説明する。もし、仮眠前に対象者Mに対して刺激の提示が可能であるなら、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、仮眠前に対象者Mに各種の刺激を提示し、その際の対象者Mの生理波形の変化、すなわち反応量から刺激の種類を決定しても良い。あるいは、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、仮眠開始後に対象者Mに各種の刺激を提示し、その際の対象者Mの反応量から刺激の種類を決定しても良い。刺激の種類は、上記説明した種類の中から少なくとも2種類以上が使用される。
【0046】
刺激の種類の選択方法として自動選定が行なわれる場合は、予め設定された2種類以上の刺激が提示される。
【0047】
刺激の種類の選択方法として、全ての刺激が順番に提示され、その反応量が比較されることにより、刺激の種類を選択する方法がある。この場合、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの生理波形の変化を抽出する。生理波形としては、対象者Mの皮膚電気活動の反応量、脳波の特徴脳波のスペクトル及び比率等を用いることができる。睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、これらの生理波形の加重平均で反応量を決定しても良い。
【0048】
睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、反応量の相対変化と絶対量とで比較しても良い。反応量の相対変化を用いる場合、刺激の種類の中で反応量の相対変化を比較して、変化量が上位となる種類の刺激から選定しても良い。また、反応量の相対変化を用いる場合、(測定された反応量/基準となる反応量)を刺激の種類同士で比較し、値が大きい刺激から選定しても良い。反応量の絶対量を用いる場合は、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、予めデータベース等で保持している反応量の情報と比較し、刺激の効果が低い場合は提示する刺激を変更しても良い。睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、1回のみ計測したデータの場合は所定の閾値として処理することができる。睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、複数回計測したデータの場合は平均値や統計検定等で判断することができる。
【0049】
刺激の種類の選択方法として、対象者Mが選択する方法もある。この場合、仮眠を取得する対象者Mがタッチパネル又は音声案内等のインターフェイスで刺激の種類を選択しても良い。この場合は、対象者Mの嗜好に合わせることで刺激の提示ができるため、刺激の提示の効果を高めることができる。また、対象者Mの嗜好が事前に分かることで不快感の低減も可能になる。
【0050】
なお、誘眠期と睡眠状態コントロール期において、対象者Mに対して提示する刺激の種類は、対象者Mの睡眠の深さ等の状態に基づいて定められても良い。さらに、誘眠期と睡眠状態コントロール期において、対象者Mに対して提示する刺激の強度も、対象者Mの反応や睡眠の深さ等に基づいて定められても良い。
【0051】
以下、誘眠期と睡眠状態コントロール期において、対象者Mに対して刺激を提示するタイミングを決定する方法について説明する。本実施形態では、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、上記のようにして選択された数種類の刺激を仮眠開始時に同時に対象者Mに提示する。刺激の効果は高いものほど、対象者Mを速く眠らせる効果が高くなるが眠りを阻害する可能性も高くなるため、本実施形態では、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの睡眠を誘発する効果が強いものから順に一定時間後に提示を終了する。
【0052】
各種の刺激について、刺激により対象者Mの睡眠を誘導する効果についてのデータが図11及び図12のように得られているものとする。これらのデータは、各種類の刺激を一人の被験者に2回ずつ提示し、2回計測したものである。なお、図11及び図12中で誤差表示の無いものは、1回のみ計測したものである。図11に示すように、閉眼から睡眠段階Iまでの時間を短縮する効果の強さは、強い方から光、マッサージ・眼への振動、音楽及び温熱の順番となる。また、図12に示すように、閉眼から睡眠段階IIまでの時間を短縮する効果の強さは、強い方から音楽、眼への振動、光及び温熱の順番となる。そこで、本実施形態では、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、閉眼から睡眠段階Iまでの時間を短縮する効果を優先し、図13に示すように、光、マッサージ・眼への振動、音楽及び温熱の順番で刺激の提示を終了する。
【0053】
刺激の提示の終了は、対象者Mがうとうとする程度の睡眠段階である睡眠段階Iに到達後に上記順番で徐々に刺激を弱めることにより行なわれる。刺激の弱め方は、正弦波あるいはシグモイド状でも良い。また、ヴェーバー‐フェヒナーの法則に基づいた変化でも良い。あるいは、各種の刺激について、図11にそれぞれ示すような閉眼から睡眠段階Iまでの時間の経過後や、図12にそれぞれ示すような閉眼から睡眠段階IIまでの時間になったときに、睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、それぞれの種類の刺激の提示を終了しても良い。
【0054】
快起期においては、睡眠装置100の快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、誘眠期と同様に、例えば仮眠直前の対象者Mの状態から刺激の提示方法を決定することができる。本実施形態では、睡眠装置100の快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの眠りの深さが深いほど、対象者Mに与える刺激の強度を強める。具体的には、対象者Mの睡眠深度が深いほど、対象者Mを覚醒させる効果が強い種類の刺激から優先的に対象者Mに提示し、当該刺激の強度を強める。
【0055】
さらに本実施形態では、睡眠装置100の快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mに提示する刺激の内で、対象者Mを覚醒させる効果が強いものから順に提示を開始する。各種の刺激について、対象者Mを覚醒させる効果と、対象者Mを閉眼から睡眠段階Iに誘導する効果とが類似していると仮定すると、図11に示すように、覚醒の効果の強い方から、光、マッサージ・眼への振動、音楽及び温熱の順番となる。そこで、本実施形態では図13に示すように、光、マッサージ・眼への振動、音楽及び温熱の順番で対象者Mに刺激の提示を開始する。
【0056】
なお、覚醒時には誘眠時と異なり、刺激により対象者Mの眠りを妨げる可能性は考慮する必要がないため、睡眠装置100の快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、各種類の刺激の終了時はそれぞれ一致させても一致させなくとも良い。また、覚醒時における刺激の種類や強度や刺激の提示のタイミングの選択は、上記誘眠期と同様にして、覚醒時に固有の刺激の種類や強度や刺激の提示のタイミングの選択が行なわれても良い。さらに、必要な場合は、睡眠装置100の快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、覚醒時に対象者Mに対して選択された種類の刺激を同時に提示しても良い。
【0057】
本実施形態によれば、2種類以上の刺激を対象者Mに提示することにより、対象者の睡眠を誘発する睡眠装置100の誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mに提示を開始した刺激の内で、対象者Mの睡眠を誘発する効果が強いものから順に提示を終了する。一般に対象者Mの睡眠を誘発する効果が強い刺激ほど対象者Mを早く眠らせる効果が高くなるが、対象者Mの睡眠を阻害する可能性も高くなる。そのため、対象者Mの睡眠を誘発する効果の強い刺激ほど早いタイミングで終了させることで、対象者Mの睡眠を阻害する要因を低減することができる。これにより、対象者Mが提示した刺激で眠れないことを防ぎ、入眠までの時間を短縮することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、刺激を対象者Mに提示することにより、対象者Mを覚醒させる快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの睡眠が深いほど、対象者Mに提示する刺激の強度を高める。このため、睡眠の深い対象者Mを確実に覚醒させることができ、睡眠の浅い対象者Mを突然の刺激提示で驚かす等の不快感の発生を回避することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、2種類以上の刺激を対象者Mに提示することにより、対象者Mを覚醒させ、対象者Mに提示する刺激の内で、対象者Mを覚醒させる効果が強いものから順に提示を開始する。このため、覚醒ユニットは、対象者Mを覚醒させる効果が強い刺激から順に提示することになり、対象者Mを効率良く覚醒させることが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、誘眠部110及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの睡眠の深さ及び対象者Mの刺激への反応の少なくともいずれかに応じて、対象者Mに提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するため、個々の対象者Mの睡眠の深さや刺激への反応に応じて適切な刺激を提示することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、快起部130及び睡眠状態コントロール部120は、対象者Mの刺激への反応に応じて、対象者Mに提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定するため、個々の対象者Mの睡眠の深さや刺激への反応に応じて適切な刺激を提示することが可能となる。
【0062】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
10…睡眠装置、20…シート、22…臀部ヒータ、24…フットスツール、26…バイブレータ、27…マッサージローラ、31…スピーカ、40…サイドウィンドウ、42…サイドブラインド、50…バックウィンドウ、52…バックシェード、60…ランプ、100…睡眠装置、110…誘眠部、120…睡眠状態コントロール部、122…睡眠深度推定部、124…睡眠深度制御部、130…快起部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の刺激を対象者に提示することにより、前記対象者の睡眠を誘発する誘眠ユニットを備え、
前記誘眠ユニットは、前記対象者に提示を開始した刺激の内で、前記対象者の睡眠を誘発する効果が強いものから順に提示を終了する、睡眠装置。
【請求項2】
刺激を前記対象者に提示することにより、前記対象者を覚醒させる覚醒ユニットをさらに備え、
前記覚醒ユニットは、前記対象者の睡眠が深いほど、前記対象者に提示する刺激の強度を高める、請求項1に記載の睡眠装置。
【請求項3】
前記覚醒ユニットは、2種類以上の刺激を前記対象者に提示することにより、前記対象者を覚醒させ、前記対象者に提示する刺激の内で、前記対象者を覚醒させる効果が強いものから順に提示を開始する、請求項2に記載の睡眠装置。
【請求項4】
前記誘眠ユニットは、前記対象者の睡眠の深さ及び前記対象者の刺激への反応の少なくともいずれかに応じて、前記対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の睡眠装置。
【請求項5】
前記覚醒ユニットは、前記対象者の刺激への反応に応じて、前記対象者に提示する刺激の種類及び強度の少なくともいずれかを決定する、請求項2又は3に記載の睡眠装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−110528(P2012−110528A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262815(P2010−262815)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】