説明

知覚システム

【課題】新規な知覚システムを実現すること。
【解決手段】実施例1の知覚システムは、人や物体に取り付けられた励振器1と、励振器1から離間して設けられた電磁場変動検出器2と、知覚装置3と、を備えている。電磁場変動検出器2は、互いに離間して設けられた2つのアンテナ20A、Bを有し、励振器1からの電磁波をアンテナ20A、Bで受信して、受信した2つの電気信号の位相差を測定する。知覚装置3は、電磁場変動検出器2によって測定した位相差の時間変化を、人の知覚に訴える現象に置き換えて、人に知覚させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体や人の周囲の状況変化を検出し、それを音、振動などに変換して人に知覚させる知覚システムである。
【背景技術】
【0002】
人間の知覚には、感覚器官の特性などにより限界がある。そこで、人間の知覚を拡張させる技術が研究されている。非特許文献1には、ヘッドバンドに物体の距離情報を検知する赤外線センサを複数組み込み、赤外線センサの検出した信号を元にバイブレータを動かして人体に刺激を与える装置が示されている。この装置によると、赤外線センサを昆虫の触角のように動作させて、物体が皮膚に直接触れずとも触覚を得ることができ、たとえば視覚外である背後から物体が近づいてくる場合にも、その物体の接近を触覚として知覚することができる。つまり、人間の触覚を拡張させるような効果を非特許文献1の装置によって得ることができる。
【0003】
他方、人体を励振させて、人体表面に電磁場を伝搬させる技術が知られている(特許文献1、非特許文献2、3)。特許文献1には、送信機と受信機をそれぞれ人体の近傍に配置して、人体表面に電磁場を伝搬させることにより、送信機と受信機とでデータ通信を行う人体通信システムが示されている。また、非特許文献3のように、送信機の送信電極近傍にグランド電極を配置することで、局所的に人体表面に電磁場を伝搬させることも可能であることが示されている。
【0004】
また、人体以外の物体、たとえば車や家なども励振させることができることも知られている(特許文献2、3)。特許文献2には、車体を励振させて通信を行う通信システムが開示されており、特許文献3には、家を励振させて通信を行う通信システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4586618号
【特許文献2】特表2005−528848
【特許文献3】特表2004−523175
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alvaro Cassinelli, Carson Reynolds, Masatoshi Ishikawa, "Augmenting spatial awareness with Haptic Radar," Wearable Computers, 2006, 10th IEEE International Symposium on, pp.61-64
【非特許文献2】根日屋英之,”人体通信の最新技術”,電波技術協会報FORN−2010.1 No.272,pp.24−27
【非特許文献3】藤井勝之,伊藤公一,田島茂,”人体を伝送路として利用したウェアラブル送受信機の信号伝送状況の計算モデルに関する検討,”電子情報通信学会論文誌 B Vol.J87−B No.9 pp.1383−1390,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1のような赤外線レーダを用いた知覚システムでは、光の直進性によって以下のような問題が生じる。第1に、知覚範囲全体をカバーすることには多くのレーダが必要となり、システムの複雑化や高コスト化を招くこととなる。第2に、カーテンなどによって遮蔽されると、その先にある物体を知覚することができなくなってしまう。第3に、赤外線センサは物体からの赤外線の反射があるかないかを検出するため、デジタル的な間隔であり、アナログ的な感覚を伝えにくい。
【0008】
また、特許文献1〜3のような物体や人体を励振させる技術を、非特許文献1のような人体の知覚を拡張させるシステムに応用することは今まで試みられたことはなかった。
【0009】
そこで本発明は、物体や人体を励振させて人体に知覚させる新規な知覚システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、周囲の環境変化を人に知覚させる知覚システムにおいて、物体あるいは第1の人体を励振させ、その周囲に電磁場を伝搬させる励振器と、電磁場の変動を、離間して配置された2つのアンテナあるいは電極と、各アンテナあるいは各電極に接続する乗算器と、を有し、各アンテナあるいは各電極により受信した電気信号を第1乗算器により乗算することで、受信した2つの電気信号の位相差を測定する電磁場変動検出器と、位相差の時間変化を人の知覚に訴える現象に置き換えて、第1の人体あるいは他の第2人体に伝える知覚装置と、を備えることを特徴とする知覚システムである。
【0011】
「アンテナあるいは電極」とあるのは、励振器から放射される電磁波を受信する場合にはアンテナ、電磁場の変動を直接とらえる場合には電極を用いる意味である。励振器と電磁場変動検出器との距離が励振器の発振波長よりも十分に遠い場合にはアンテナを用い、十分に近い場合には電極を用いるのがよい。
【0012】
人の知覚に訴える現象とは、たとえば、視覚、聴覚、触覚、平衡感覚、などに訴える現象であり、視覚に訴える現象としては表示装置などによる表示、聴覚に訴える現象としては音、触覚に訴える現象としては圧力、風、振動、温度、または電気刺激などである。
【0013】
位相差の時間変化はすなわち周波数であり、人の知覚に容易に訴えることができる周波数となるよう、電磁場変動検出器は位相差を拡大変換するなどしてもよい。たとえば下記第2〜5の発明のようにして、人の知覚に容易に訴えることができる周波数となるようにしてもよい。なお、人の知覚に容易に訴えることができる周波数は、1〜1000Hzである。
【0014】
励振器が励振させる物体は、たとえば車両であり、第1の人体あるいは第2の人体は、たとえば車両の座席に座るドライバーである。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、励振器の発振波長をλとして、2つのアンテナあるいは電極は、λ/2以下の間隔で配置されており、電磁場変動検出器は、各アンテナあるいは電極と、第1乗算器との間に、それぞれ電気信号の位相をN倍(Nは1より大きい実数)する第1のPLL回路をさらに有し、位相差のN倍を測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0016】
第3の発明は、第2の発明において、位相差のN倍の時間変化が、1〜1000HzとなるようにNを設定することを特徴とする知覚システムである。
【0017】
第4の発明は、第1の発明において、励振器の発振波長をλとして、2つのアンテナあるいは電極は、λ/2より大きい間隔で配置されており、電磁場変動検出器は、前記励振器の発振周波数とは異なる周波数の電気信号を出力する第2のPLL回路と、各アンテナあるいは電極からの電気信号と、第2のPLL回路からの電気信号とを乗算して、電気信号の周波数をより低い周波数に変換する2つの第2乗算器と、をさらに有する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0018】
第5の発明は、第1の発明において、電磁場変動検出器は、前記励振器の発振周波数とは異なる周波数の電気信号を出力する第1のPLL回路と、各アンテナあるいは電極からの電気信号と、第1のPLL回路からの電気信号とを乗算して、電気信号の周波数をより低い周波数に変換する2つの第2乗算器と、第2乗算器と第1乗算器との間に接続された、第2乗算器からの電気信号の位相をN倍(Nは1より大きい実数)する第2のPLL回路と、をさらに有する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0019】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、知覚装置は、位相差の時間変化を表示、振動、音、圧力、風、または電気刺激に置き換えて、第1の人体または他の第2人体に伝える、ことを特徴とする知覚システムである。
【0020】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明において、電磁場変動検出器は、測定した位相差の情報を無線で送信する送信機を有し、知覚装置は、電磁場変動検出器からの位相差の情報を無線で受信する受信機を有する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0021】
第8の発明は、第1の発明から第7の発明において、励振器は、第1の人体に取り付けられ、その第1の人体を励振させるものであり、電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極は、第1の人体の動きを検出したい箇所に取り付けられ、電磁場変動検出器は、第1の人体の動きを位相差として測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0022】
第9の発明は、第1の発明から第7の発明において、励振器は、第1の人体に取り付けられ、その第1の人体を励振させるものであり、電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極は、物体に取り付けられ、電磁場変動検出器は、第1の人体と物体との接近を位相差として測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0023】
第10の発明は、第1の発明から第7の発明において、励振器は、物体に取り付けられ、その物体を励振させるものであり、電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極は、物体の励振器の取付箇所とは異なる箇所に取り付けられ、電磁場変動検出器は、励振器と電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極との間にある物体近傍の領域の変動を位相差として測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0024】
第11の発明は、第1の発明から第7の発明において、励振器は、物体に取り付けられ、その物体を励振させるものであり、電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極は、第1の人体に取り付けられ、電磁場変動検出器は、第1の人体と物体との接近を位相差として測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【0025】
第12の発明は、第1の発明から第7の発明において、励振器、電磁場変動検出器のアンテナあるいは電極は、車両の外周に取り付けられ、電磁場変動検出器は、車両外周近傍の領域の変動を位相差として測定する、ことを特徴とする知覚システムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、励振器と電磁場変動検出器との間にマルチパスが存在する環境であることを利用している。励振器と電磁場変動検出器との間に人体や物体が存在すると、マルチパスの影響が変化し、電磁場変動検出器によって検出する電磁場の位相が変化する。本発明の電磁場変動検出器では、これを2つのアンテナあるいは電極によって位相差として検出し、知覚装置においてその位相差の変化を知覚に訴える現象に置き換えることで、人に励振器と電磁場変動検出器との間に何らかの環境変化があったことを知覚させている。このように、本発明は、いわば人の知覚を拡張させるようなシステムである。
【0027】
本発明は、励振器を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器を第1の人体の指、手、足などに取り付けることで、それらの箇所に何かが接近すると知覚として感じることができる。非接触でこのような知覚を得ることができるため、たとえば安全システムなどへの応用が可能である。
【0028】
また、本発明は、励振器を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器を第1の人体の指、手、足などに取り付け、第3者(第2の人体)の知覚へ訴えることで、第3者が第1の人体のどの箇所が動いたかをモニターすることができ、たとえばゲームや病人の監視などに役立てることができる。
【0029】
また、本発明は、励振器を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器を物体に取り付けることで、第1の人体への物体の接近を非接触で知覚することができ、たとえば安全システムなどへの応用に役立てることができる。
【0030】
また、本発明は、励振器を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器を物体に取り付け、第3者の知覚へ訴えることで、たとえば、第3者である第2の人体が、第1の人体への物体の接近をモニターすることができ、たとえば監視や物体への関心度のモニターに役立てることができる。また、励振器を物体に取り付け、電磁場変動検出器を第1の人体に取り付けた場合も同様に、物体への関心度のモニターに役立てることができる。
【0031】
また、本発明は、励振器を物体に取り付け、電磁場変動検出器を同じ物体に取り付けることで、たとえばその物体の関心の高さをモニターすることができ、マーケティングなどに応用することができる。
【0032】
また、本発明は、励振器を物体(たとえば階段や壁)に取り付け、電磁場変動検出器を第1の人体に取り付けることで、たとえば目の不自由な方に物体への接触前に物体の存在を知覚させることができ、目の不自由な方の誘導に応用することができる。
【0033】
また、本発明は、車両の周囲に励振器、電磁場変動検出器を取り付けることで、たとえば車両の外周の環境変化を車両内のドライバーに知覚させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の知覚システムの構成について示した図。
【図2】励振器1の構成に示した図。
【図3】電磁場変動検出器2の構成について示した図。
【図4】実施例1の知覚システムの他の構成について示した図。
【図5】実験例1で用いた他の電磁場変動検出器2の構成について示した図。
【図6】励振器1および電磁場変動検出器2の取付位置を示した図。
【図7】電磁場変動検出器2の出力波形を示した図。
【図8】電磁場変動検出器2の出力波形を拡大して示した図。
【図9】電磁場変動検出器2の出力波形を拡大して示した図。
【図10】電磁場変動検出器2の出力波形を示した図。
【図11】実施例1の知覚システムの他の構成について示した図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
図1は、実施例1の知覚システムの構成について示した図である。実施例1の知覚システムは、励振器1と、電磁場変動検出器2と、知覚装置3と、を備えている。
【0037】
図2は、励振器1の構成を示した図である。励振器1は、発振器10と、バンドパスフィルタ11を介して発振器10に接続するアンテナ13と、によって構成されている。バンドパスフィルタ11は、発振器10の発振する電気信号の周波数帯のみを透過させるものである。これらバンドパスフィルタ11は必ずしも必要なものではないが、ノイズ等を除去して実施例1の知覚システムの知覚感度等を向上させるためにはこれらを設けることが望ましい。バンドパスフィルタ11からの電気信号は、アンテナ13より電磁波として空間に放射される。
【0038】
励振器1は、人体に何らかの変化を知覚させたい場所近傍の物体や第1の人体に設置されている。発振器10の発振周波数は、第1の人体や物体を励振して、人体表面や物体表面に電磁場を伝搬させることができる周波数であってもよい。ここでいう電磁場の伝搬は、電磁波として空間に放射されずに物体表面近傍にのみ伝搬している場合(準静電界が支配的なモード)である。ただし、準静電界が支配的なモードでの電磁場の伝搬を利用する場合には、アンテナ13に替えて電極を用いる。人体表面に準静電界が支配的なモードで電磁場を伝搬させるためには、発振器の発振周波数は1〜100MHzとすることが望ましい。
【0039】
図3は、電磁場変動検出器2の構成について示した図である。電磁場変動検出器2は、励振器1のアンテナ13から所定の距離離れた場所に位置し、かつ、互いに離間して設けられた2つのアンテナ20A、Bを有している。ただし、励振器1においてアンテナ13に替えて電極を用いている場合にはアンテナ20A、Bに替えて2つの電極を用いる。この2つのアンテナ20A、Bによって、アンテナ13からの電気信号を受信する。アンテナ20A、Bは、それぞれバンドパスフィルタ21A、B、増幅器22A、Bを介して乗算器23A、Bの入力側に接続されている。バンドパスフィルタ21A、Bは、発振器10の発振周波数帯のみを透過するものであり、増幅器22A、Bは、それぞれバンドパスフィルタ21A、Bからの電気信号を増幅するものである。
【0040】
また、乗算器23A、Bのもう一方の入力側にはPLL(Phase−locked loop)回路24が共通して接続されている。PLL回路24は、周波数が発振器10の発振周波数に近い信号を生成するものである。この乗算器23A、Bにおいて、アンテナ20A、Bからの電気信号にPLL回路24からの信号を乗ずることで、アンテナ20Aで受信した電気信号と、アンテナ20Bで受信した電気信号との位相を比較しやすい中間周波数の電気信号へとダウンコンバートしている。乗算器23A、Bの出力側は、それぞれバンドパスフィルタ25A、B、PLL回路26A、B、増幅器27A、Bを介して、乗算器28の2つの入力側に接続されている。バンドパスフィルタ25A、Bは中間周波数帯の信号のみを透過させるものであり、また、PLL回路26A、Bは、バンドパスフィルタ25A、Bからの電気信号の周波数をN倍(Nは1より大きい実数)して出力する。増幅器27A、BはPLL回路26A、Bからの電気信号を増幅させるものである。また、乗算器28は、増幅器27A、Bからの電気信号を乗じて出力する。この乗算器28から出力される電気信号は、アンテナ20Aで受信した電気信号と、アンテナ20Bで受信した電気信号との位相差のN倍を反映したDC値である。そして、乗算器28の出力側は、ローパスフィルタ9を介して知覚装置3側に接続されている。
【0041】
なお、乗算器23A、BとPLL回路24とを用いたダウンコンバートは、必ずしも必要ではない。励振器1の発振器10の発振周波数が低いものを用いる場合には、乗算器23A、B、PLL回路24を省略した構成(図11参照)としてもよい。また、PLL回路26A、26Bもまた、必ずしも必要ではない。アンテナ20A、Bで受信する電気信号の位相差の変化が十分に大きいのであれば、PLL回路26A、Bを省略した構成(図5参照)としてもよい。ただし、アンテナ20A、Bの間隔が発振器10の発振波長をλとしてλ/2以下である場合には、アンテナ20A、Bで受信する電気信号の位相差が非常に小さくなってしまう場合があるため、その場合にはPLL回路26A、Bを設けて位相差を拡大するようにするとよい。
【0042】
知覚装置3は、たとえば有線で電磁場変動検出器2に接続され、アンテナ20Aで受信した電気信号と、アンテナ20Bで受信した電気信号との位相差のN倍を反映したDC値を受信する。そして、そのDC値の時間変化、すなわち周波数に基づいて、表示装置への表示、スピーカーからの音声出力、送風機からの送風、アクチュエータによる皮膚への振動、圧力の印加、電気刺激装置による電気刺激などによって、第1の人体あるいは第3者である第2の人体に知覚させる。
【0043】
なお、図4のように、電磁場変動検出器2に送信機4、知覚装置3に受信機5を設けて、電磁場変動検出器2と知覚装置3とを無線で接続するようにしてもよい。無線通信の規格は任意であるが、たとえばブルートゥースなどを利用することができる。
【0044】
次に、実施例1の知覚システムの動作について説明する。
【0045】
まず、励振器1の発振器10によって電気信号を生成し、バンドパスフィルタ11を通すことでノイズ成分等を除去したのち、アンテナ13より電磁波を放射させて空間に伝搬させる。
【0046】
空間を伝搬する電磁波を、電磁場変動検出器2のアンテナ20A、20Bによって受信する。アンテナ20A、Bは離間しているため、励振器1のアンテナ13と、電磁場変動検出器2のアンテナ20A、Bとの相対的な距離に応じて、アンテナ20A、Bが受信する電気信号の位相は異なる。以下、説明の簡略化のため、電磁場変動検出器2のアンテナ20Aで受信する電気信号をcos(ωt+θA)、アンテナ20Bで受信する電気信号をcos(ωt+θB)として考察する。ωは2πfであり、fは発振器10の発振周波数である。
【0047】
アンテナ20Aで受信した電気信号cos(ωt+θA)は、バンドパスフィルタ21Aによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Aによって信号が増幅される。また、アンテナ20Bで受信した電気信号cos(ωt+θB)は、バンドパスフィルタ21Bによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Bによって信号が増幅される。
【0048】
増幅器22A、Bからの電気信号は、乗算器23A、Bにおいて、それぞれPLL回路24からの電気信号と乗算される。PLL回路24からの電気信号をsin(ωLOt+θLO)とすれば、乗算器23Aからの出力は、sin(Δωt+θA−θLO)の成分と、周波数がω+ωLOの成分である。ここで、Δω=ω−ωLOと置いた。この周波数がω+ωLOの成分についてはバンドパスフィルタ25Aによってカットされる。同様に、乗算器23Bからの出力は、sin(Δωt+θB−θLO)の成分と、周波数がω+ωLOの成分であり、周波数がω+ωLOの成分はバンドパスフィルタ25Bによってカットされる。
【0049】
バンドパスフィルタ25Aからの電気信号は、PLL回路26Aによって周波数、位相がN倍され、電気信号sin(N×(Δωt+θA−θLO))が出力される。同様にバンドパスフィルタ25Bからの電気信号は、PLL回路26Bによって周波数、位相がN倍され、電気信号sin(N×(Δωt+θB−θLO))が出力される。
【0050】
PLL回路26A、26Bからの電気信号は、増幅器27A、Bによってそれぞれ増幅されたのち、乗算器28によって乗算される。乗算器28からの出力は、cos(Nψ)の成分と、周波数が2NΔωの成分である。ここで、ψ=θA−θBとおいた。ψはアンテナ20Aで受信した電気信号とアンテナ20Bで受信した電気信号との位相差である。このうち、周波数が2NΔωの成分はローパスフィルタ29によりカットされるため、cos(Nψ)の成分のみが知覚装置3へと送出される。
【0051】
知覚装置3は、cos(Nψ)からNψを算出し、Nψの時間変化N*dψ/dt、すなわち周波数を算出する。そして、その周波数に応じて、表示装置への表示、スピーカーからの音声出力、送風機からの送風、アクチュエータによる皮膚への振動、圧力の印加、電気刺激装置による電気刺激などによって、人体に知覚させる。ここで、Nψの時間変化は、励振器1と電磁場変動検出器2との間に形成されるマルチパス環境の変化に対応して生ずるものである。マルチパス環境の変化は、励振器1と電磁場変動検出器2との間の領域での人体や物体の接近、離脱などによって生ずる。したがって、実施例1の知覚システムによれば、励振器1と電磁場変動検出器2間の領域の環境変化を非接触で人体に知覚させることができる。
【0052】
なお、人が感じる振動加速度の周波数範囲は0.1Hz〜500Hzと言われており、音については20Hz〜20kHzが可聴範囲である。また、音の時間分解能は、最短で1msと言われており、音の聞き分けには1kHz以下の変調とする必要がある。また、低周波治療器による電気刺激のパルス間隔は20ms程度であり、50Hz程度である。これらの知覚の事例を総合すると、Nψの時間変化である周波数は、1〜1000Hzの範囲であることが望ましい。この範囲であれば、電磁場変動検出器2からの出力を容易に知覚刺激へと変換することが可能である。また、Nψの時間変化である周波数が1〜1000Hzの範囲となるように、励振器1の発振器10の発振周波数およびPLL回路26A、BのNの値を設定することが望ましい。
【0053】
以下に実施例1の知覚システムの利用態様を列挙する。
【0054】
[利用例1]
励振器1および知覚装置3を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器2は第1の人体の動きを検出したい場所(たとえば指、手、腕、足など)に取り付ける。このようにすれば、第1の人体の動きを検出したい場所に何かが接近した場合に、非接触で第1の人体はその何かを知覚することができる。
【0055】
[利用例2]
励振器1を第1の人体に取り付け、知覚装置3を第3者である第2の人体に取り付け、電磁場変動検出器2を第1の人体の動きを検出した居場所に取り付ける。このようにすれば、第2の人体は、第1の人体のどの箇所が動いたのかを知覚によりモニターすることができる。これはゲームや病人の監視などに利用することができる。
【0056】
[利用例3]
励振器1および知覚装置3を第1の人体に取り付け、電磁場変動検出器2は物体に取り付ける。このようにすれば、物体が第1の人体に近づいてくるのを、第1の人体自身が非接触で知覚することができる。これは安全システムなどへの応用に役立てることができる。
【0057】
[利用例4]
励振器1を第1の人体に取り付け、知覚装置3を第3者である第2の人体に取り付け、電磁場変動検出器2は物体に取り付ける。このようにすれば、物体が第1の人体に近づいてくるのを、第2の人体は、知覚によりモニターすることができる。これは、第1の人体の監視や、第1の人体の商品の関心度のモニターなどに応用することができる。
【0058】
[利用例5]
励振器1、電磁場変動検出器2を同じ物体に取り付け、知覚装置3を第1の人体に取り付ける。このようにすれば、物体の周囲の変化を第1の人体は知覚することができる。これは、たとえば商品棚に取り付けることで商品の関心度の高さをモニターすることができ、マーケティングなどに応用することができる。
【0059】
[利用例6]
励振器1を物体に取り付け、電磁場変動検出器2、知覚装置3を第1の人体に取り付ける。このようにすれば、第1の人体は、物体の存在を非接触で知覚することができる。これは、目の不自由な方に壁や階段などに接触する前にその存在を知覚させることができ、目の不自由な方の誘導に役立てることができる。
【0060】
[利用例7]
励振器1を物体に取り付け、電磁場変動検出器2を第1の人体や、他の物体に取り付け、知覚装置3を第3者である第2の人体に取り付ける。このようにすれば、第2の人体は、第1の人体の動きや物体の周囲の変化を非接触で知覚することができる。これは、第1の人体の監視や、商品のモニターなどに応用することができる。
【0061】
[利用例8]
励振器1および電磁場変動検出器2を車両の周囲に取り付け、知覚装置3を第1の人体であるドライバーに取り付ける。このようにすれば、車両の外周の環境変化をドライバーが知覚することができる。これは、安全に役立つのみならず、車両とドライバーの一体感を高め、ドライブをより楽しくする効果が期待できる。
【0062】
次に、電磁場変動検出器2によって位相差の時間変化を取得できることを示すために行った実験例1〜3について説明する。
【0063】
[実験例1]
実験例1では、電磁場変動検出器2として、PLL回路26A、26Bを省略した構成のもの(図5参照)を用いた。図6のように、励振器1は、車両300の右側の側面300aの前方に取り付け、電磁場変動検出器2は励振器1を取り付けた側の車両300側面300aの後方に取り付けた。励振器1の発振器10の発振周波数は2.4GHzとした。また、電磁場変動検出器2のアンテナ20Aとアンテナ20Bの間隔は130mmとし、λ/2(λは発振器10の発振波長)より長くした。これによりアンテナ20Aで受信する電気信号の位相と、アンテナ20Bで受信する電気信号の位相との差を十分に大きくとれるので、PLL回路26A、26Bを省略することができる。また、PLL回路24の出力する電気信号の周波数は2.445GHzとし、乗算器23A、Bによって電気信号の周波数を45MHzにダウンコンバートするようにした。
【0064】
このような状態で、車両300の側面300aから6m離れた位置にいる人が、側面300aから20cm離れた位置まで歩いて移動し、その後Uターンして離れた場合において、データロガーによって電磁場変動検出器2の出力を測定した。図7はその結果を示したグラフである。図7のように、人の接近、Uターン、離脱に対応して、電磁場変動検出器2の出力する位相差も変動していることがわかる。
【0065】
また、図8は、図7に示した波形を拡大して示した図である。歩いて車両300に近づいた場合では、位相差の時間変化、すなわち周波数はおよそ7Hzであった。
【0066】
[実験例2]
実験例1と同様に車両に人が接近、Uターン、離脱する動作を、歩いてではなく小走りで行い、電磁場変動検出器2の出力を測定した。図9はその出力波形を拡大して示した図である。小走りの場合、位相差の時間変化、すなわち周波数はおよそ17〜20Hzであった。このように、歩いた場合と小走りの場合とで周波数に違いがあることがわかった。この実験例1、2の結果から、実施例1の知覚システムによれば、車両へ人が接近、離脱する様子を知覚することができることがわかり、人の接近、離脱する速度もおおよそ推定することができることがわかった。
【0067】
[実験例3]
実験例1と同様に車両300に励振器1および電磁場変動検出器2を取り付けた状態で、人が車両300から1m離れて車両300の外周に沿って位置A、B、C、D、Aと回って一周した。位置A〜Dは、図6に示す位置であり、位置Aは車両300の側面300aとは反対側の側面(車両300の左側側面)の中央付近、位置Bは車両300の前方中央付近、位置Cは車両300の側面300a(車両300の右側側面)の中央付近、位置Dは車両300の後方中央付近である。この場合の電磁場変動検出器2の出力波形を測定した結果を図10に示す。図10のように、側面300aを人が通った場合にのみ、位相差が大きく変動した。この結果から、側面300a以外の3面にも励振器1および電磁場変動検出器2のセットを設置すれば、車両300の外周全面において人の移動を知覚することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の知覚システムは、たとえば、自動車に右側から人が近づいてきた場合に、ドライバーに右側から音が聞こえるようにして知らせるシステムなどに応用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:励振器
2:電磁場変動検出器
3:知覚装置
10:発振器
11、21A、21B、25A、25B:バンドパスフィルタ
13、20A、20B:アンテナ
22A、22B、27A、27B:増幅器
23A、23B、28:乗算器
24、26A、26B:PLL回路
29:ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の環境変化を人に知覚させる知覚システムにおいて、
物体あるいは第1の人体を励振させ、その周囲に電磁場を伝搬させる励振器と、
前記電磁場の変動を、離間して配置された2つのアンテナあるいは電極と、各前記アンテナあるいは各前記電極に接続する乗算器と、を有し、各前記アンテナあるいは各前記電極により受信した電気信号を前記第1乗算器により乗算することで、受信した2つの電気信号の位相差を測定する電磁場変動検出器と、
前記位相差の時間変化を人の知覚に訴える現象に置き換えて、前記第1の人体あるいは他の第2の人体に伝える知覚装置と、
を備えることを特徴とする知覚システム。
【請求項2】
前記励振器の発振波長をλとして、2つの前記アンテナあるいは前記電極は、λ/2以下の間隔で配置されており、
前記電磁場変動検出器は、各前記アンテナあるいは前記電極と、前記第1乗算器との間に、それぞれ電気信号の位相をN倍(Nは1より大きい実数)する第1のPLL回路をさらに有し、前記位相差のN倍を測定する、ことを特徴とする請求項1に記載の知覚システム。
【請求項3】
前記位相差のN倍の時間変化が、1〜1000HzとなるようにNを設定することを特徴とする請求項2に記載の知覚システム。
【請求項4】
前記励振器の発振波長をλとして、2つの前記アンテナあるいは前記電極は、λ/2より大きい間隔で配置されており、
前記電磁場変動検出器は、
前記励振器の発振周波数とは異なる周波数の電気信号を出力する第2のPLL回路と、
各前記アンテナあるいは前記電極からの電気信号と、前記第2のPLL回路からの電気信号とを乗算して、前記電気信号の周波数をより低い周波数に変換する2つの第2乗算器と、
をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の知覚システム。
【請求項5】
前記電磁場変動検出器は、
前記励振器の発振周波数とは異なる周波数の電気信号を出力する第1のPLL回路と、
各前記アンテナあるいは前記電極からの電気信号と、前記第1のPLL回路からの電気信号とを乗算して、前記電気信号の周波数をより低い周波数に変換する2つの第2乗算器と、
前記第2乗算器と前記第1乗算器との間に接続された、前記第2乗算器からの電気信号の位相をN倍(Nは1より大きい実数)する第2のPLL回路と、
をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の知覚システム。
【請求項6】
前記知覚装置は、前記位相差の時間変化を表示、振動、音、圧力、風、または電気刺激に置き換えて、前記第1の人体または他の前記第2人体に伝える、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項7】
前記電磁場変動検出器は、測定した前記位相差の情報を無線で送信する送信機を有し、
前記知覚装置は、前記電磁場変動検出器からの前記位相差の情報を無線で受信する受信機を有する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項8】
前記励振器は、前記第1の人体に取り付けられ、その前記第1の人体を励振させるものであり、
前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極は、前記第1の人体の動きを検出したい箇所に取り付けられ、
前記電磁場変動検出器は、前記第1の人体の動きを前記位相差として測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項9】
前記励振器は、前記第1の人体に取り付けられ、その前記第1の人体を励振させるものであり、
前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極は、前記物体に取り付けられ、
前記電磁場変動検出器は、前記第1の人体と前記物体との接近を前記位相差として測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項10】
前記励振器は、前記物体に取り付けられ、その前記物体を励振させるものであり、
前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極は、前記物体の前記励振器の取付箇所とは異なる箇所に取り付けられ、
前記電磁場変動検出器は、前記励振器と前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極との間にある前記物体近傍の領域の変動を前記位相差として測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項11】
前記励振器は、前記物体に取り付けられ、その前記物体を励振させるものであり、
前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極は、前記第1の人体に取り付けられ、
前記電磁場変動検出器は、前記第1の人体と前記物体との接近を前記位相差として測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の知覚システム。
【請求項12】
前記励振器、前記電磁場変動検出器の前記アンテナあるいは前記電極は、車両の外周に取り付けられ、
前記電磁場変動検出器は、前記車両外周近傍の領域の変動を前記位相差として測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の知覚システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−46156(P2013−46156A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181666(P2011−181666)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】