説明

短繊維不織布

【課題】熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、成型性よく熱接着加工して得ることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、地合が良好で、通気性、嵩高性、柔軟性に優れ、衣類用パッドとして好適に使用することができる短繊維不織布を提供する。
【解決手段】スパイラル捲縮を有する短繊維を構成繊維の50質量%以上含有する不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAを含むことを特徴とする短繊維不織布。b/a≧0.05(mW/mg・℃)・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維とし、低融点でありながら結晶性に優れ、熱接着性に優れたポリエステルAを接着成分とする短繊維不織布であって、嵩高性や柔軟性、機械的特性、地合に優れた短繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
衛生材料等の分野において、バインダー繊維を用いて構成繊維を接着した短繊維不織布が種々提案されている。これらの短繊維不織布の多くはポリエステル系繊維からなるため、接着成分となるバインダー繊維もリサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなる繊維を用いることが好適である。
【0004】
例えば、このような短繊維不織布としては、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合短繊維をバインダー繊維とし、ポリエチレンテレフタレートからなる短繊維を主体繊維としたものが挙げられる。この短繊維不織布に用いるバインダー繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、鞘部のみが溶融して接着成分となり、芯部は溶融せずに繊維形態を保持するものである。
【0005】
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、得られた短繊維不織布を高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下したり変形するという問題があり、また、このバインダー繊維は熱収縮率が高く、熱接着処理の際の収縮が大きく、得られる短繊維不織布は地合が悪く、柔軟性にも乏しくなるという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するものとして、特許文献1に芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
【0007】
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、熱収縮率が小さく、不織布とする際の熱接着処理時の収縮が小さく、地合が良好で柔軟性にも優れ、また、高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れた不織布を得ることができる。
【0008】
しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着処理する際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0009】
一方、ブラジャーのカップ等の衣類用パッドとしても、短繊維不織布は使用されており、捲縮を有する繊維を主体繊維として構成された不織布等が提案されている(例えば特許文献2参照)。従来、このような用途においては、伸縮性や柔軟性が要求されることからウレタンやポリエチレンの発泡シートを用いたものが使用されてきた(例えば特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、発泡シートを用いたものでは通気性が悪く、体温の上昇により蒸れが生じるという問題があるため、最近では短繊維不織布が使用されはじめている。ポリエステル繊維を用いた短繊維不織布とすることで通気性を有するものとすることはできるが、ブラジャーのカップ等の衣類用パッドに用いる際には、肌に近い部分で使用するため、柔軟性や嵩高性も要求される。
【0011】
通気性、柔軟性、嵩高性の全てを有し、ブラジャーのカップ等の衣類用パッドに好適に使用することができる短繊維不織布は未だ開発されていなかった。
【特許文献1】特開2006−118066号公報
【特許文献2】特開2002−371405号公報
【特許文献3】特開2000−314011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、成型性よく熱接着加工して得ることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、地合が良好で、通気性、嵩高性、柔軟性に優れ、衣類用パッドとして好適に使用することができる短繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、スパイラル捲縮を有する短繊維を構成繊維の50質量%以上含有する不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAを含むことを特徴とする短繊維不織布を要旨とするものである。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の短繊維不織布は、スパイラル捲縮を有する短繊維を構成繊維の50質量%以上含有する不織布であり、接着成分として低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAを用いるものであるため、ポリエステルAを溶融させて主体繊維を熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、かつ主体繊維同士を点接着することができる。これにより、嵩高性と柔軟性に優れ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少ない不織布とすることができる。中でもスパイラル捲縮を有する短繊維と、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された短繊維をバインダー繊維として含有するウエブを作成し、これを熱接着処理することにより得られたものとすることで、不織布を得る際の収縮が小さく、接着性を向上させることができ、より柔軟性、嵩高性に優れたものとすることが可能となる。このように、本発明の短繊維不織布は、地合が良好で、通気性、嵩高性、柔軟性に優れ、衣類用パッドをはじめ、各種用途に好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の短繊維不織布は、スパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維とし、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、以下に詳述するポリエステルAを用いるものである。そして、本発明の短繊維不織布は、乾式不織布とすることが好ましいものであり、目付けは特に限定するものではない。
【0016】
まず、スパイラル捲縮を有する短繊維について説明する。スパイラル捲縮とは、コイル(螺旋)バネ状の捲縮であって三次元的な立体捲縮のことである。押し込み式クリンパー等の捲縮付与装置により機械捲縮を付与したものとは形状が異なり、スパイラル捲縮は不織布に加工した際にも捲縮形態のつぶれがなく、捲縮形態の保持能力が高いものである。
【0017】
そして、スパイラル捲縮を有する短繊維は、捲縮数と捲縮率が下記式(2)及び(3)を同時に満足するものであることが好ましい。
5≦捲縮数(個/25mm)≦20・・・(2)
10≦捲縮率(%)≦40・・・(3)
【0018】
捲縮数は、JIS L1015 8.12.1に基づき測定、算出したものであり、捲縮率は、JIS L1015 8.12.2に基づき測定、算出したものである。両数値の測定において繊維長が短い場合は、捲縮付与後、カット前の繊維において測定し、繊維長25mmあたりの個数に換算する。
【0019】
捲縮数が(2)式の数値より少なかったり、捲縮率が(3)式の数値より小さいと、短繊維不織布に嵩高性を付与することが困難となりやすい。一方、捲縮数が(2)式の数値より多かったり、捲縮率が(3)式の数値より大きいと、短繊維不織布に嵩高性は付与できるが柔軟性や伸縮性に乏しいものとなる傾向がある。
【0020】
本発明の短繊維不織布においては、ポリエステルAを接着成分とするものであるため、スパイラル捲縮を有する短繊維もポリエステルからなるものであることが好ましい。中でも、極限粘度の異なる2種類のポリエステルを用い、サイドバイサイド型に貼り合せた形状もしくは偏芯型とすることによりスパイラル捲縮を発現させたものとすることが好ましい。
【0021】
極限粘度の異なる2種類のポリエステルを用いる際には、極限粘度差を0.05〜0.25とすることが好ましい。極限粘度差が0.05未満であると、捲縮性能の発現が不十分となりやすく、一方、極限粘度差が0.25を超えると、複合紡糸を行った際、ノズルから吐出された糸状が高粘度ポリマー側に屈曲する、いわゆるニーリングが大きくなり、紡糸操業性を大きく損なってしまう。
【0022】
また、2種類のポリエステルの複合比率と複合形態は、捲縮性能を付与できるものであれば特に限定するものではないが、質量比30/70〜70/30でサイドバイサイド型に貼り合わされた形状のものが好ましい。
【0023】
さらには、ポリエステルの種類も2種類であれば特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)同士の組み合わせの他、一方をポリエチレンテレフタレート(PET)とし、もう一方をイソフタル酸(IPA)を共重合したPET、またはイソフタル酸(IPA)とビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体(BAEO)を共重合したPETなどを用いてもよい。
【0024】
上記したポリエステルの組み合わせで紡糸、延伸した複合繊維は、乾燥機等を用いて弛緩熱処理を施すことによりスパイラル捲縮を発現(顕在化)させることができる。
【0025】
本発明の短繊維不織布においては、スパイラル捲縮を有する短繊維を構成繊維の50質量%以上含有するものであり、中でも70質量%以上含有することが好ましい。スパイラル捲縮を有する短繊維の含有量が50質量%未満であると、十分な嵩高性と伸縮性を有する短繊維不織布とすることが困難となる。
【0026】
主体繊維としてスパイラル捲縮を有する短繊維以外のものを用いる際には、他の繊維を構成繊維として用いてもよい。
【0027】
また、本発明の短繊維不織布においては、後述するようにポリエステルAを繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された短繊維とし、バインダー繊維として用いることが好ましく、ポリエステルAと他の成分とからなる複合繊維とした際には、他の成分が熱接着処理時に溶融せず、繊維形態を維持する場合には、スパイラル捲縮を有する短繊維とともに主体繊維としてもよい。
【0028】
次に、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分となるポリエステルAについて詳述する。本発明の短繊維不織布においては、短繊維同士を接着する成分としてポリエステルAを用いるものであり、ポリエステルA以外の他の接着成分も含有されていてもよいが、中でも接着成分の50質量%以上、さらには90質量%以上がポリエステルAであることが好ましい。
【0029】
また、本発明の短繊維不織布における接着成分となるポリエステルAの割合は、短繊維不織布全体の10〜70質量%であることが好ましく、中でも20〜60質量%であることが好ましい。ポリエステルAの割合が少なすぎると、主体繊維となるスパイラル捲縮を有する短繊維同士を十分に接着することができなくなる。一方、ポリエステルAの割合が多すぎると、主体繊維となるスパイラル捲縮を有する短繊維が少なくなることから嵩高性や柔軟性に乏しい不織布となる。
【0030】
ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
【0031】
ポリエステルAのTmは、中でも110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、本発明の短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により主体繊維に与えるダメージも大きくなり、得られる不織布の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0032】
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0033】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0034】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0035】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0036】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0037】
そして、ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(1)式を満足することができるものとなる。
【0038】
本発明においては、ポリエステルAがこのように結晶性に優れるものであるため、流動性が高く、不織布全体に均一に浸透し、不織布を構成するスパイラル捲縮を有する短繊維同士の多くの交絡点を点接着することができ、得られる短繊維不織布は柔軟性や伸縮性に優れるものとなる。さらには、接着成分により主体繊維のスパイラル捲縮の形状を潰すことがないため、嵩高性にも優れたものとすることができる。
【0039】
さらに、本発明においては、ポリエステルAは繊維化してバインダー繊維とし、これを熱接着処理することにより接着成分としたものであることが好ましい。そして、ポリエステルAを用いたバインダー繊維とする際には、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された短繊維とすることが好ましい。
【0040】
ポリエステルAをバインダー繊維とすることで、主体繊維となるスパイラル捲縮を有する短繊維同士の接着を点接着することが容易となり、スパイラル捲縮を有する短繊維間の空間も大きくなることから、嵩高性もさらに向上する。
【0041】
ポリエステルAを用いた短繊維の形状としては、ポリエステルAのみからなる単成分のもの、ポリエステルAと他の成分(成分Bとする)とからなり、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維のものが挙げられる。複合繊維の形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、成分Bが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
【0042】
ポリエステルAを用いた複合繊維とする場合に、他の成分(成分B)をポリエステルAよりも高い融点又は流動開始温度を有するものとすると、ポリエステルAを接着成分、成分Bを主体繊維とすることができ、成分Bからなる繊維をスパイラル捲縮を有する短繊維とともに主体繊維とする短繊維不織布とすることができる。
【0043】
そして、ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することができない。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、ポリエステルAを繊維化する際に紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。また、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、ポリエステルAからなる繊維の乾熱収縮率も高くなる。
【0044】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0045】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0046】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0047】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0048】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0049】
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0050】
ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0051】
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mgで測定する。
【0052】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0053】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、主体繊維同士を点接着させることが困難となる。また、ポリエステルAを使用した繊維を溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。また、延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることができない。
【0054】
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0055】
そして、ポリエステルAを繊維化すると、結晶性に優れるポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されているものであるので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、熱収縮率の低い繊維とすることができる。
【0056】
具体的に、ポリエステルAを用いた短繊維は、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも5%以下であることが好ましく、さらには4.5〜0.5%とすることが好ましい。
【0057】
ここで、乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(TmA−30)℃として測定するものである。なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維を用いて測定するものとする。
【0058】
(TmA−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、ポリエステルAを用いた短繊維をバインダー繊維として不織布を製造する際に、ウエブ等を熱接着処理する際の収縮が小さくなり、熱接着処理後に得られる不織布は、地合や均斉に優れるものとなる。一方、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、このような効果を奏することが困難となりやすい。
【0059】
従来のような明確な結晶融点を示さないポリエステルを用いて短繊維を製造すると、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生するとともに、延伸、熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解、膠着が生じ、実施が困難となる。したがって、延伸、熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は乾熱収縮率が高くなる。このため、このような短繊維をバインダー繊維として不織布を製造すると、ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られる不織布は熱接着処理前のウエブの面積と比較したウエブ収縮率が大きくなり、地合や均斉に劣るものとなっていた。
【0060】
なお、上記した本発明における短繊維不織布のウエブ収縮率は、次のようにして求めるものである。短繊維不織布を得る際に得られたウエブから、面積A0(タテ20cm×ヨコ20cm=400cm)のサンプルを切り取り、ポリエステルAの融点をTmとしたとき、このサンプルを(Tm+10)℃に設定した熱風乾燥機中に15分間放置し(熱接着処理を行い)、その後の不織布の面積をA1とし、下式により算出するものである。
ウエブ収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
【0061】
そして、本発明の短繊維不織布においては、ウエブ収縮率は10%以下、中でも9.5%以下であることが好ましい。ウエブ収縮率が10%を超えるものでは、不織布とする際の熱接着処理時の収縮が大きくなり、得られる不織布は地合や柔軟性に劣るものとなりやすい。
【0062】
本発明の短繊維不織布において、ポリエステルAを用いた短繊維がポリエステルAのみからなる単成分の場合は、スパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維、ポリエステルAを用いた短繊維(単成分のもの)をバインダー繊維としてウエブを作成する。そして、このウエブをポリエステルAの融点より10℃高い温度で熱処理することによりバインダー繊維(ポリエステルA)の全部を溶融させて、主体繊維となるスパイラル捲縮を有する短繊維同士を接着した短繊維不織布を得ることが好ましい。
【0063】
本発明の短繊維不織布において、ポリエステルAを用いた短繊維がポリエステルAと成分Bからなる複合繊維の場合は、スパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維、ポリエステルAを用いた短繊維(複合繊維)をバインダー繊維としてウエブを作成する。そして、このウエブをポリエステルAの融点より10℃高い温度で熱処理することによりバインダー繊維のポリエステルAの全部を溶融させて接着成分とし、スパイラル捲縮を有する短繊維と成分Bからなる短繊維とを主体繊維として、これらの繊維同士を接着した短繊維不織布を得ることが好ましい。
【0064】
なお、ポリエステルAを用いた短繊維がポリエステルAと成分Bからなる複合繊維である場合は、成分Bの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点よりも20℃以上高いことで成分Bを溶融させずに主体繊維とすることが可能となるが、ポリエステルAと成分Bとの差が大きくなりすぎると、紡糸操業性が悪化するため、その差は100℃以下とすることが好ましい。
【0065】
成分Bとしては、ポリエステルAとの相溶性を考慮すると、ポリエステルを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、成分Bの融点や流動開始温度を調整するには、次に示すような成分を共重合させることが好ましい。
【0066】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0067】
成分B中には、安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0068】
ポリエステルAと成分Bの複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0069】
また、スパイラル捲縮を有する短繊維、ポリエステルAを用いた短繊維ともに、繊維長を25〜100mmとすることが好ましく、中でも30〜80mmとすることが好ましい。繊維長が25mm未満であると、カード機での開繊時に繊維の脱落が発生し、操業性が悪化する。一方、繊維長が100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布は均斉の劣るものとなりやすい。
【0070】
次に、本発明の短繊維不織布(乾式)の製造方法について一例を用いて説明する。
スパイラル捲縮を有する短繊維とポリエステルAを用いた短繊維(ポリエステルA単成分のもの)とを任意の割合で計量し、カード機を用いて混綿、解繊して乾式ウエブを作成する。得られたウエブを、連続熱処理機にてポリエステルAの融点(TmA)より10℃高い温度で熱接着処理を施し、ポリエステルAを接着成分とし、スパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維とする乾式短繊維不織布を得る。
【0071】
次に、スパイラル捲縮を有する短繊維の製造方法について一例を用いて説明する。複合紡糸装置を用いて極限粘度の異なる2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に張り合わせて複合紡糸し、紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いてリール等で引き取り、仕上げ油剤を付与後、100〜200℃程度の熱風乾燥機を通して弛緩熱処理を行い、2種類のPET成分の熱収縮差によるクリンプを発現させた後、目的とする繊維長にカットして短繊維を得る。
【0072】
また、本発明の短繊維不織布におけるポリエステルAを用いた短繊維(ポリエステルAと成分Bからなる複合繊維)の製造方法について一例を用いて説明する。まず、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、結晶核剤を添加して重縮合反応を行う。重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。次に、このチップ(ポリエステルA)と成分Bのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して、ポリエステルAが鞘部、成分Bが芯部となるようにして溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、目的とする繊維長にカットして芯鞘型の複合短繊維を得る。
【実施例】
【0073】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(d)ポリマー組成
得られた短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(e)ポリエステルAを用いた短繊維の乾熱収縮率(%)
前記の方法で測定した。
(f)捲縮率、捲縮数
前記の方法で測定した。
(g)短繊維不織布の評価
1.地合
得られた不織布表面の地合を目視にて判断し、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
2.柔軟性(風合)
得られた不織布の柔軟性を触感にて判断し、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)の3段階で評価した。
3.伸縮性(風合)
得られた不織布の伸縮性を触感にて判断し、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)の3段階で評価した。
4.嵩高性
得られた不織布を20cm×20cmに切り出してサンプルとし、そのサンプル10枚を重ねた上に25cm×25cm×5mmのアクリル板(370g)を載せ、その上に1kgの錘を載せてアクリル板の下面の4辺のそれぞれの辺の中央の高さを測定し、4点の平均値を求めた。平均値により以下のように3段階評価した。
○:高さが25.0mm以上である
△:高さが15.0mm以上25.0mm未満である
×:高さが15.0mm未満である
5.ウエブ収縮率
前記の方法で測定した。
【0074】
実施例1
〔スパイラル捲縮を有する短繊維〕
融点が256℃、極限粘度0.64のPETと、融点が256℃、極限粘度が0.52のPETを用い、通常の複合溶融紡糸装置を用いて紡糸温度290℃、吐出量237g/min、紡糸速度1200m/minの条件で、ホール数344の丸型断面のノズルで紡出し、質量比率1/1のサイドバイサイド型貼り合わせ形状を有する複合未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を11.9ktexのトウに集束した後、延伸温度65℃、延伸倍率2.80倍で第一延伸を行い、次いで延伸温度80℃、延伸倍率1.15倍で第二延伸を行い、トータル延伸倍率3.22倍で延伸を行った。その後、リールで引き取り、170℃の熱風乾燥機で連続的に弛緩熱処理し、2種類のPET成分の熱収縮差によりスパイラル捲縮を発現させた後、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスの短繊維(S−1)を得た。得られた短繊維の捲縮数は12.5個/25mm、捲縮率は18.5%であった。
【0075】
〔ポリエステルAを用いた短繊維(単成分)〕
ポリエステルAとして、極限粘度0.95、融点128℃、酸成分としてTPA100モル%、グリコール成分としてEG15モル%、HD85モル%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有するもの(A−1)を用いた。
このポリエステルAのペレットを紡糸装置に供給し、紡糸温度220℃、吐出量307g/分、紡糸孔数518、紡糸速度850m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束してトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率2.62倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtex、乾熱収縮率4.3%の短繊維を得た。
【0076】
〔乾式短繊維不織布〕
上記のようにして得られたスパイラル捲縮を有する短繊維を主体繊維、ポリエステルAを使用した短繊維をバインダー繊維とし、混率を質量比50/50(バインダー繊維/主体繊維)としてカード機を通し乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブに連続熱処理機を用い、ポリエステルAの融点より10℃高い温度(138℃)、風量20m/分の条件で1分間の熱接着処理を行い、目付100g/mの乾式短繊維不織布(スパイラル捲縮を有する短繊維が構成繊維の100質量%である)を得た。
【0077】
実施例2
実施例1で得られたスパイラル捲縮を有する短繊維(S−1)を主体繊維、実施例1で得られたポリエステルA(A−1)を使用した短繊維をバインダー繊維として、その混率を質量比30/70(バインダー繊維/主体繊維)とした以外は、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0078】
実施例3
ポリエステルAとして、極限粘度0.98、融点130℃、酸性分としてTPA、グリコール成分としてBD20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有するもの(A−2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルA(A−2)を使用した短繊維(乾熱収縮率4.5%)を得た。
そして、この短繊維をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0079】
実施例4
スパイラル捲縮を有する短繊維の製造において、融点が256℃、極限粘度0.64のPETと、融点が256℃、極限粘度が0.43のPETを用いた以外は実施例1と同様にして捲縮数17.9個/25mm、捲縮率28.5%のスパイラル捲縮を有する短繊維(S−2)を得た。この短繊維を主体繊維とし、実施例3で得られたポリエステルA(A−2)を使用した短繊維をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0080】
実施例5
スパイラル捲縮を有する短繊維の製造において、融点が256℃、極限粘度0.64のPETと、融点が256℃、極限粘度が0.57のPETを用いた以外は実施例1と同様にして捲縮数9.8個/25mm、捲縮率13.5%のスパイラル捲縮を有する短繊維(S−3)を得た。この短繊維を主体繊維とし、実施例3で得られたポリエステルA(A−2)を使用した短繊維をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0081】
比較例1
スパイラル捲縮を有する短繊維に代えて、融点が256℃、極限粘度0.64のPETのみからなる(単成分の)ポリエステル短繊維(繊維長51mm、単糸繊度2.2デシテックス、押し込み式クリンパーで機械捲縮(捲縮数12.3個/25mm、捲縮率13.5%付与、N−1とする)を用いた。そして、この短繊維を主体繊維、実施例1で得られたポリエステルA(A−1)を使用した短繊維をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0082】
比較例2
イソフタル酸が33モル%共重合されたPETを紡糸装置に供給し、紡糸温度265℃、吐出量183g/分、紡糸孔数1040、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束してトウ状にした未延伸繊維を延伸しないで押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexの短繊維(100℃、15分での乾熱収縮率が29.8%)を得た。
ポリエステルAを使用した短繊維に代えて、この短繊維をバインダー繊維とし、実施例1で得られたスパイラル捲縮を有する短繊維(S−1)を主体繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0083】
実施例1〜5、比較例1〜2で得られた乾式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から明らかなように、実施例1〜5で得られた乾式短繊維不織布はウエブ収縮率が小さく、地合がよく、柔軟性、伸縮性、嵩高性ともに優れたものであった。
一方、比較例1の乾式短繊維不織布は、主体繊維としてスパイラル捲縮を有する短繊維を用いたものではなかったので、嵩高性と伸縮性に乏しいものであった。比較例2の乾式短繊維不織布は、ポリエステルAを接着成分とするものではなかったので、ウエブ収縮率が高く、地合に劣るものであり、またスパイラル捲縮を有する短繊維の捲縮形態が損なわれ嵩高性に劣るものであった。さらに主体繊維同士の接着が点接着とはならず、柔軟性、伸縮性にも劣るものであった。
【0086】
実施例6
〔ポリエステルAを用いた短繊維(複合繊維)〕ポリエステルAとして、実施例1と同様の(A−1)を用いた。成分Bとして表3のB−1のポリエステルを用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度280℃、吐出量520g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を16℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率2.91倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexの複合短繊維(AB−1)を得た。
この複合短繊維(AB−1)をバインダー繊維、実施例1で得られたスパイラル捲縮を有する短繊維(S−1)を主体繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0087】
実施例7〜10
ポリエステルAを用いた複合短繊維の成分Bとして、表3に示すポリエステルを使用し、表2に示す紡糸温度で紡糸したこと以外は実施例6と同様にして芯鞘型の複合短繊維を得た。
これらの複合短繊維をバインダー繊維、実施例1で得られたスパイラル捲縮を有する短繊維(S−1)を主体繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0088】
実施例11
スパイラル捲縮を有する短繊維として実施例4と同様の短繊維(S−2)を用い、ポリエステルAを用いた複合短繊維として実施例6と同様の複合短繊維(AB−1)を用い、これらを主体繊維とバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0089】
実施例12
スパイラル捲縮を有する短繊維として実施例5と同様の短繊維(S−3)を用い、ポリエステルAを用いた複合短繊維として実施例6と同様の複合短繊維(AB−1)を用い、これらを主体繊維とバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0090】
実施例13
スパイラル捲縮を有する短繊維として実施例4と同様の短繊維(S−2)を用い、ポリエステルAを用いた複合短繊維として実施例9と同様の複合短繊維(AB−4)を用い、これらを主体繊維とバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0091】
実施例14
スパイラル捲縮を有する短繊維として実施例5と同様の短繊維(S−3)を用い、ポリエステルAを用いた複合短繊維として実施例9と同様の複合短繊維(AB−4)を用い、これらを主体繊維とバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0092】
比較例3
スパイラル捲縮を有する短繊維に代えて、融点が256℃、極限粘度0.64のPETのみからなる(単成分の)ポリエステル短繊維(繊維長51mm、単糸繊度2.2デシテックス、N−1とする)を用いた。そして、この短繊維を主体繊維、実施例6で得られたポリエステル複合短繊維(AB−1)をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0093】
比較例4
スパイラル捲縮を有する短繊維に代えて、融点が256℃、極限粘度0.64のPETのみからなる(単成分の)ポリエステル短繊維(繊維長51mm、単糸繊度2.2デシテックス、N−1とする)を用いた。そして、この短繊維を主体繊維、実施例9で得られたポリエステル複合短繊維(AB−4)をバインダー繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0094】
比較例5
バインダー繊維として、イソフタル酸成分を共重合したPET系共重合ポリエステルを鞘部、PETを芯部とする芯鞘型複合短繊維であって、単糸繊度2.2デシテックス、繊維長51mm、100℃、15分での乾熱収縮率が15.2%のポリエステル短繊維(ユニチカファイバー社製メルティ<3380>)を用いた。実施例1で得られたスパイラル捲縮を有する短繊維(S−1)を主体繊維とし、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
【0095】
実施例6〜14、比較例3〜5で得られた乾式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
表2から明らかなように、実施例6〜14で得られた乾式短繊維不織布はウエブ収縮率が小さく、地合がよく、柔軟性、伸縮性、嵩高性ともに優れたものであった。
一方、比較例3、4の乾式短繊維不織布は、主体繊維としてスパイラル捲縮を有する短繊維を用いたものではなかったので、嵩高性と伸縮性に乏しいものであった。比較例5の乾式短繊維不織布は、ポリエステルAを接着成分とするものではなかったので、ウエブ収縮率が高く、地合に劣るものであり、またスパイラル捲縮を有する短繊維の捲縮形態が損なわれ嵩高性に劣るものであった。さらに主体繊維同士の接着が点接着とはならず、柔軟性、伸縮性にも劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明におけるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル捲縮を有する短繊維を構成繊維の50質量%以上含有する不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAを含むことを特徴とする短繊維不織布。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項2】
スパイラル捲縮を有する短繊維は、捲縮数と捲縮率が下記式(2)及び(3)を同時に満足する請求項1記載の短繊維不織布。
5≦捲縮数(個/25mm)≦20・・・(2)
10≦捲縮率(%)≦40・・・(3)
【請求項3】
スパイラル捲縮を有する短繊維と単糸の横断面形状において、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された短繊維とを含有するウエブを熱処理することにより得られた請求項1又は2記載の短繊維不織布。


【図1】
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【公開番号】特開2009−263816(P2009−263816A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115565(P2008−115565)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】