説明

石灰化組織の再石灰化

開示内容は、石灰化により、例えば白色化及び組織再建に作用させるための、歯などの組織の美容的及び治療的処置、該方法に使用するためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰化により例えば白色化や組織再建に作用させるために、歯といった組織の美容用及び治療用処置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン導入法は、イオン泳動チャンバーに加えられる小さい電荷を用いて、高濃度の電荷物質、通常医薬や生物活性剤を浴びせる非侵襲的な方法である。
経皮ドラッグデリバリーにおいてイオン導入法を使用することは公知である。また、イオン導入法は、象牙質過敏症を治療するためのフッ化物含有化合物と併用して用いられることが知られている。
Simone, J. L., et al, Iontophoresis: An Alternative in the Treatment of Incipient Caries? Braz. Dent. J, 1995, 6(2), 123-129は、とりわけ、フッ化ナトリウムによりイオン導入して歯の病変を治療することを記載しており、確認されてはいないが、フッ化カルシウムの形成により良好な再石灰化となることを主張した。
【0003】
CPP−ACPは、カルシウム及びリン酸塩が付加されたカゼイン由来のペプチドであり、具体的にはカゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウムである。CPP−ACPはカルシウム及びリン酸塩貯蔵部として働く。
従来は、CPP−ACPは、いくつかの溶媒、例えばチューインガム、うがい薬、歯みがき粉及び他の回復用材料中で歯の表面に供給される。
ゆえに、例えば、国際特許出願、WO02/094204は、歯回復用材料とカゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)複合体又はカゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸フッ化カルシウム(CPP−ACFP)複合体の有効量とを含有する歯回復のための組成物を記載する。
再石灰化なる用語は、本願明細書において使われる場合、処置前の領域に物質が不十分であるか否かにかかわらず、他の物質が加えられる領域の石灰化を意味するために用いる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様では、タンパク質及び/脂質を取り除くために組織を前処理し、そして別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら再石灰化剤を組織に適用することを含む、組織の再石灰化方法を提供する。
再石灰化剤はリン酸塩、カルシウム及び水の供与源であることが好ましい。
この方法は、低石灰化又は脱灰した歯の再石灰化を含むことが好ましい。
一態様では、方法は、歯の明色化又は白色化に関する美容処置である。
方法は、歯浸食の防止又は治療に関しうる。
【0005】
他の態様では、方法は、骨の再石灰化を含みうる。
再石灰化剤は、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)を含有してなるのが好ましい。
再石灰化剤は好ましくはフッ化物を含有する。このような再石灰化剤の例は、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸フッ化カルシウム(CPP−ACFP)である。
再石灰化剤は、一又は複数の再石灰化促進剤を含むのが好ましい。一般的に、再石灰化促進剤はカルシウムイオン及びリン酸イオンの供与源である。再石灰化促進剤の例には、限定するものではないが、脱水リン酸二カルシウム(DCPD)、鉱物ブラシャイト、無水リン酸二カルシウム(DCPA)、鉱物モネタイト;リン酸オクタカルシウム(OCP);α-リン酸三カルシウム(α-TCP);β-リン酸三カルシウム(β-TCP);アモルファスリン酸カルシウム(ACP);カルシウム欠失ヒドロキシアパタイト(CDHA);ヒドロキシアパタイト(HA又はOHAp);フルオルアパタイト(FA又はFAp);リン酸四カルシウム(TTCP又はTetCP)、鉱物ヒルゲンストキート(hilgenstockite)を含みうる。再石灰化促進剤はストロンチウムであるのがより好ましい。
【0006】
再石灰化剤には、少なくとも2つの再石灰化促進剤が含有し得、その促進剤の1つがカルシウムイオンの供与源であり、他方がリン酸イオンの供与源である。例えば、再石灰化剤は、カルシウムの供与源、例えば水酸化カルシウムとリン酸の供与源、例えばオルトリン酸を含んでもよい。再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率は、1:1から22:10であってよい。好ましくは、カルシウム:リン酸塩の比率はおよそ10:6(すなわち1.67)であり、これはカルシウムヒドロキシアパタイト中のリン酸イオンに対するカルシウムの比率を表す。あるいは、再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率は、9:6から22:10であってよい。あるいはやはり、再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率が1:1より大きいが3:2未満(すなわち1.0から1.49まで)であってよい。
【0007】
したがって、再石灰化剤は以下から選択されてよい:
i) Ca:P比率=1.67:例えばヒドロキシアパタイト:フルオルアパタイト。
ii) Ca:P比率=1.5−2.2(しかし1.67ではない):例えばα-リン酸三カルシウム;β-リン酸三カルシウム;アモルファスリン酸カルシウム;カルシウム欠失ヒドロキシアパタイト;リン酸四カルシウム、鉱物ヒルゲンストキート。
iii) Ca:P比率=1−1.49:例えば、脱水リン酸二カルシウム、鉱物ブラシャイト;無水リン酸二カルシウム、鉱物モネタイト。
【0008】
再石灰化剤は、(水溶液中で)イオン泳動的にカルシウムイオンを『打ち込み』、その後、2度目のイオン泳動により(水溶液中で)定めた『打ち込み』リン酸イオンの極性を変化させることによって成分から調製されうる。これによりカルシウムイオンとリン酸イオンは2度目のイオン泳動の間に病変内で『会い』、リン酸カルシウム鉱物(又は鉱物)として凝結する。生成されたアパタイトの水酸化イオンは水溶液から生じる。水溶性カルシウム含有薬剤は、例えば、カルシウムヒドロキシド、カルシウムクロリド又はカルシウムニトレートであり、水溶性リン酸塩含有薬剤は、例えば、オルトリン酸(HPO)、リン酸水素ナトリウム(又はカリウム)、リン酸二水素ナトリウム(又はカリウム)又はリン酸マグネシウムであってよい。カルシウム剤含有溶液は、リン酸塩剤含有溶液と異なっていても、1つの溶液中に組み合わされていてもよい。
【0009】
したがって、本発明の好適な方法は、i)組織を前処理してタンパク質及び/脂質を除去する、そしてii)別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら、カルシウム含有水溶液及び/又はリン酸塩含有水溶液を組織に適用するという工程を含む。場合によって、歯への放電量を測定することによって(間接的に)決定した、所定量のカルシウムイオンが浸入するための十分な時間が経過した後、再石灰化の第一段階を止め、表面のイオン泳動電極の極性を陰性に変える。また、再石灰化剤をオルトリン酸の水溶液に換え、歯にリン酸イオンを浸入させるためにイオン導入法を再施行する。先のイオン泳動極性の逆転により、リン酸イオンが歯へ移動するにつれて、歯に既に移動していたカルシウムイオンが表面に移動する。この歯内で水溶液中のカルシウムイオンとリン酸イオンが組み合わさることによって、歯内でのオルトリン酸塩の蓄積、つまり再石灰化が生じる。この第2段階のイオン導入は、所定のレベルの電流が歯に放電されたときに止める。
【0010】
したがって、本発明のさらに好適な方法は、i)組織を前処理してタンパク質及び/脂質を除去する、ii)別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら、カルシウム含有水溶液又はリン酸塩含有水溶液を組織に適用する、そしてiii)別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら、a)ii)の工程でカルシウム含有水溶液を用いた場合にはリン酸塩含有水溶液を適用するか又はb)ii)の工程でリン酸塩含有水溶液を用いた場合にはカルシウム含有水溶液を適用する、という工程を含む。
【0011】
再石灰化剤/イオン導入の適用の前に、イオン導入の適用の有無にかかわらず、前処理工程を行うのが好ましい。
好ましくは、前処理工程は酸、より好ましくはリン酸による処置を含む。
前処理工程は次亜塩素酸塩による処置を含むのが好ましい。
【0012】
本発明の好適な方法は、哺乳動物の齲蝕及び/又は歯のフッ素症の治療又は緩和に関する。
本発明のさらに好適な方法は、低石灰化又は脱灰した(齲蝕性)象牙質の再石灰化を含む。
また、本発明は、タンパク質及び/又は脂質を除去するための前処理を行った組織のイオン導入再石灰化処置に使用するための再石灰化剤を提供するものであり、この再石灰化剤はリン酸塩及びカルシウムの供与源であるものである。
再石灰化剤は、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)を含有することが好ましい。
【0013】
本発明はさらに、前処理用薬剤と再石灰化剤を具備する、組織のイオン導入再石灰化処置に使用するためのキットを提供する。
前処理用薬剤及び再石灰化剤は、適用に適する形態、たとえば液体又はゲルの形態でキット中にあるのが好ましい。
また、キットは、処置する部位に一又は各々の試薬を適用するための塗布具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】歯のイオン導入処置の際の前処理の効果を示すグラフである。この図は、作用と参照の対電極間の回路を達成するために生理食塩水パッドを用いて得た歯の電流−時間応答を示す。
【図2】再石灰化剤としてCPP−AVPを用いた処置の前及び後の1つの歯の2つの病変の比較を示す。
【図3】(a) いずれの処置を行う前の門歯、(b) 前処理を行った後の門歯、(c) イオン導入再石灰化法を行った後の門歯。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
上記のように、本発明は、低石灰化ないしは脱灰した歯を再石灰化する方法を提供する。しかしながら、この方法は、骨などの他の低石灰化ないし脱灰した組織の再石灰化に有用でありうる。
再石灰化剤の混合物を含み、様々な再石灰化剤が用いられうる。再石灰化剤は処置する組織に依存しうる。しかしながら、再石灰化剤は好ましくはリン酸又はカルシウムの供与源、好ましくはリン酸及びカルシウムの供与源である。特に好ましい再石灰化剤は、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)である。歯の再石灰化に用いるために、再石灰化剤は、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸フッ化カルシウム(CPP−ACFP)のような、先に記述されるフッ化物含有薬剤であってよい。他の再石灰化剤は、フルオロアパタイト、モネタイト、ブラシャイト、アモルファスリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイトなどといったリン酸カルシウム化合物を含みうる。さらに、本発明の再石灰化剤にはストロンチウムといった再石灰化効果を亢進する他の成分を含めることができる。
【0016】
低石灰化組織及び脱灰した組織なる用語は、石灰化のレベルが不完全である任意の組織を含むことを意図し、例えば齲蝕のプロセスの結果として(ゆえに齲蝕病変を含む)、又は酸浸食の結果として(ゆえに「表面が軟化した」エナメル又は象牙質を含む)実質的ないしは完全に脱灰されている歯などの組織を含むということは当業者は理解できるであろう。
【0017】
イオン導入法は、電圧、例えば一定の電圧又は電流、例えば一定の電流の適用を含みうる。あるいは、イオン導入法は電圧及び電流の混合、例えば電圧と電流の併用の適用を含み得、再石灰化を最適化するために特定の順序で応用されてよい。
【0018】
さらに、本発明の方法では、前処理工程はまた、再石灰化剤/イオン導入法の適用前に含まれる。前処理工程は変化してよいが、例えば、再石灰化剤/イオン導入法の適用前のタンパク質及び/又は脂質の除去を含んでよい。様々な前処理工程が用いられてよいが、好ましくは、前処理工程には様々な方法又は方法の混合が含まれうる。任意の適切なタンパク質除去薬剤が本発明の前処理工程に用いられてよい。この薬剤は、歯の上の外皮又はカリエス病変内の外因性タンパク質のような、処置すべき表面上に形成されるタンパク質性の障害を減少させるために必要である。前処理工程は場合によってイオン導入法の使用を含んでよく、様々な前処理用薬剤、例えばタンパク質除去剤が様々な組合せ及び/又は順序で用いられてよい。さらに、タンパク質層の破壊とその後の低石灰化ないし脱灰した組織からタンパク質性の物質を除去するために逆転されるイオン泳動の極性を最適化するためのイオン導入法によって、低石灰化ないし脱灰した組織、例えば齲蝕病変に任意の前処理用薬剤が押し出されうる。適切な薬剤の例には、漂白剤、界面活性剤、尿素のようなカオトロピック剤、高リン酸濃度、プロテアーゼの反応混液(例えばエンドペプチダーゼ、プロテイナーゼ及びエキソペプチダーゼ)及び任意の他のタンパク質可溶化剤、破壊剤、加水分解剤が含まれる。適切な漂白剤の例には、次亜塩素酸ナトリウム及び過酸化物漂白剤が含まれる。好ましい実施態様では、漂白剤はアルカリ性漂白剤である。さらに好適な実施態様では、アルカリ性漂白剤は次亜塩素酸ナトリウムである。タンパク質破壊剤は、タンパク質を可溶化して、歯の鉱物、例えば歯表面上の外皮のタンパク質の表面からタンパク質を部分的にないしは完全に除去するように働く。しかしながら、前処理工程には、酸、例えば有機酸、例えば酢酸、無機酸、例えばリン酸、又は漂白剤、例えば次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸ナトリウムによる処置が含まれるのが好ましい。
【0019】
再石灰化剤は、様々な形態、例えばゲル又はムースの形態で適用されてよい。歯の治療ために、当然知られている他の経口的な適用法が使われてよい。
前処理は、再石灰化剤の適用前の1分を超えないうちに行われるのが好ましい。より好ましくは、再石灰化剤は、前処理とほぼ同時、すなわち数秒内に適用される。
好適な処置順序は、特に再石灰化剤がタンパク質のような物質を含む場合には、反復して処理した後に再石灰化を行うことを含む。このときの薬剤は後の処理工程において取り除かれる。
【0020】
本発明はさらに、別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら再石灰化剤を組織に適用することによる組織の美容処置方法を提供する。
本発明の方法が、整形外科の分野、例えば、哺乳動物、すなわちヒト又は動物の、骨折及び/又は手術中といった骨病態の治療にも有用であることは当業者が理解するであろう。
【0021】
本発明は、組織の改善した再石灰化を提供する。しかしながら、歯の再石灰化の従来法は一般に、表面組織の再石灰化、すなわちエナメルの再石灰化を含む。この方法及び/又は使用が象牙質の再石灰化を提供することは、本発明の特別な利点である。象牙質は、骨に関連する硬質の物質を指す用語であり、哺乳動物及びヒトの歯の中心を形成する。象牙質は、そのおよそ30%程度が、無細胞有機性の基本物質、特にコラーゲン繊維が組み込まれている糖タンパク質から成る。無機の成分は主に、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト及び少量の炭酸塩、マグネシウム及び微量元素である。
【0022】
本発明はさらに、前処理用薬剤と再石灰化剤を具備する、組織のイオン導入再石灰化処置に使用するためのキットを提供する。再石灰化剤は、本願明細書において定められるようなカルシウムイオン及びリン酸イオンの供与源を含みうる。
前処理用薬剤及び再石灰化剤は、適用に適した形態、たとえば液体又はゲルの形態でキット中にあるのが好ましい。
また、キットは、処置する部位に一又は各々の試薬を適用するための塗布具を提供する。
【0023】
EAER前処置(pre-treatment)及びイオン導入再石灰化処置の手順は、以下のいくつか又はすべてを具備するキットを目的として実施される:(1) EAER再石灰化高性能塗布器ペン;(2) バッテリーパック及び/又は適切な電源供給器/充電器;(3) EAERペンの電極に接着させる使い捨ての前処置電極パッドの1セット;(4) 次亜塩素酸塩前処置ヒドロゲル、ペースト又は液体の瓶;(5) 過酸化物前処置ヒドロゲル、ペースト又は液体の瓶;(6) EAERペンの電極に接着させる使い捨てのEAER再石灰化電極パッドの1セット;(7) CPP−ACP、CPP−ACPFなどを含む、先に示した再石灰化剤を含有するヒドロゲル、ペースト又は液体の一又は複数の瓶;(8) 手首接着用又は口接着用の対電極を含む、イオン導入回路を完成させるために必要なすべての配線;(9) 完全な指示書。ゲルは電極パッドと歯との間の電気経路を満たす。さらに適切な追加キットは、歯のトレイ、細片又は保持具又は拡張塗布器を供給する。
【0024】
前処置電極パッド(3)と再石灰化電極パッド(6)は、公差感染を制御するためのEAERペン電極とゲルとの間の使い捨て障壁となり、ヒドロゲルのための支持体ともなる。あるいは、パッドは洗浄及び滅菌可能であってよい。それらは、炭素入りのポリマー又はグラファイトフェルト製といった電気伝導性材質、又は高い表面積の銀/塩化銀電極からなるのが好ましい。あるいは、それらは、シリコン又は乾燥ヒドロゲルといった、細く、非伝導性で、開放した、多孔質のスポンジ様材質であってよく、用いるヒドロゲル、ペースト又は液体が材質に浸透することができるものであってよく、下部のEAERペン電極へのイオン伝導路となる。他の実施態様では、ヒドロゲルは、介在電極パッド(3)又は(6)を用いずにEAERペン電極に直接用いられてよい。
【0025】
品質保持を増すために、前処置ゲル又はペースト(4)及び(5)は、無機ベースのヒドロゲルないしペースト、例えば無機ゲル形成剤ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム及びケイ酸ナトリウム、又は、非反応性の有機ヒドロゲル、例えばポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、こんにゃく(konjac)、p-HEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)及びポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンを用いるのが好ましい。あるいは、前処置ゲルは、乾燥したか又は部分乾燥したヒドロゲルを水を主成分とする前処置剤と混合することによって、適用直前に調製されてよい。再石灰化ゲル又はペースト(7)は有機のヒドロゲル又はペーストを主成分としてよい。ヒドロゲルは、非毒性、非刺激性であり、容易に歯の輪郭に成形できるものである。このようなヒドロゲルの例は、上記の非反応性ヒドロゲルである。これらの粘着性ゲルは、およそ100,000〜1,000,000cpの粘性を有する。水溶液及びグリセリンを主成分とする組成物といった粘性の低い溶液又は調製物が使われてもよい。一般に、中性pHゲルが有益であるが、pHは、前処置剤又は再石灰化剤のイオン化型が十分な濃度で存在し得るように最適化されるのが好ましい。
【0026】
歯の白色化(TW)と前処置手順は、上記の部品に、再石灰化剤(7)の代わりに、又は、再石灰化剤(7)に加えて用いられる、ゲル、ペースト又は液体の形態の様々な歯を白くする薬剤を加えて具備する、類似のキットにより実施される。さらに、供給されるEAERペンは、TW(歯の白色化)電圧調節プログラムメモリカード及び/又はプロセッサにて修正される。上で概説されるように、ゲル又はペーストは有機を主成分とするものであってよい。
【0027】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本明細書の説明及び特許請求の範囲の全体にわたって、単数は複数を包含する。特に、不定冠詞が用いられる場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本明細書は、単一だけでなく複数を意図するように解すべきである。
本発明の特徴、整数、特性、化合物、特定の態様と関連して記載される化学的部分ないしは基、実施態様又は実施例は、ここで矛盾しない限り、本明細書中に記載される他のいずれかの態様、実施態様又は実施例に応用可能であると解すべきである。
本明細書の説明及び特許請求の範囲の全体にわたって、「を含む」及び「を含有する」なる語及びこの語の変形、例えば「を含んでいる」及び「を含む」は、「を含むがこれらに限定しない」ことを意味し、他の部分、添加物、成分、整数又は工程を除くことを意図しない(除かない)。
本発明はここで、実施例のみによって添付の図を参照しながら記載される。
【実施例】
【0028】
実施例1
この実験では、作業電極に−1Vをかけた後に抽出した歯の電流−時間応答を記録した。1つの電極(短くした対照/対電極)は、歯根に挿入される0.5mmのステンレス鋼線とした。他方の電極(作業電極)は、生理食塩水を浸した組織パッドと接触させる領域ca0.25cmのPtシート電極とした。この領域は次にエナメル病変の近くの歯表面と接触させた。
図1は、歯を次亜塩素酸塩を浸したパッドと3分間接触させた後に測定した生理食塩水応答(上方の破線)を示す。この局所的な次亜塩素酸塩前処置の後の最初の電流は18μAであり、前処置前の歯の電流よりも20%高く、その後の電流は類似していた。下方の実線は、作業電極に与えた−1V、3分間の電動式(EA)前処置下で次亜塩素酸塩パッドと接触させた後に測定した同じ歯の生理食塩水歯応答を示す。最初の電流は類似していたが、EA次亜塩素酸塩前処置後の電流は5倍以上である(すなわち、電流はより陰極であり、陰極の電流スケールを下げている)。
【0029】
実施例2
図2は、再石灰化剤としてCPP−ACP(トゥースマウス)を用いた処置の前後での1つの歯の2つの病変の比較を示す。病変の平均鉱物密度の分析の結果、処置前では、脱灰パラメータが0.76(左側)及び0.83(右側)であり、処置後では0.92(左)及び0.83(右)となった。この脱灰パラメータは、a)病変とb)健康組織のマイクロ-CT画像内の平均グレースケールレベルを比較して得られる。
このインビトロ実証実験は、トゥースマウスの形態のCPP−ACPと組み合わせて、前処理した天然カリエス病変に一定の電圧で、安全かつ患者に認知されないレベルの電流を与えると、3時間の電気泳動/イオン泳動の実施の後に(処置の前後の歯のマイクロ-CT画像の画像分析によって測定すると)病変の有意な(およそ67%)再石灰化が起こった。トゥースマウス-プラス(MIペーストとしても知られる)薬剤を同じ歯上の他の天然のカリエス病変に3時間受動的に与えると、(マイクロ-CT画像上で測定すると)僅かな再石灰化が生じた。
【0030】
図2の比較は処置前後での1つの歯の2つの病変のものである。
画像は、異なる近心と遠位の病変を有する歯の同じ経路によるおよそ10ミクロン厚水平方向マイクロ-CT(XCTスライス)を表す。左のXCT画像はいずれかの処置前の病変を示す。右の画像は、タンパク質と脂質を取り除くために病変を前処置した後の病変を示す。左の病変はCPP−ACPとイオン泳動により3時間処置したのに対して、右の病変はCPP−ACP+フルオリド(MIペースト)のみで3時間処置した。
【0031】
実施例3
図3は、いずれの処置も行う前の門歯、前処理を行った後の門歯、イオン導入再石灰化法を行った後の門歯を示す。
上部の画像は、大きな齲窩(齲蝕によるもの)を現す抽出した門歯を示し、その部分は有意に変色し、歯の頂部の表面に面する唇(薄い部分)上、歯の門歯側(下方)の端の方向にある齲窩に近接して黒く変色した領域を示す。この画像はいずれかの処置が実施される前に撮像した。
中央の画像は、次亜塩素酸ナトリウム溶液にて2分間前処理した後の同じ歯を示す。歯の変色に関して一番上と中央の画像との間では僅かにしか違いがない。
下の画像は、再石灰剤としてトゥースマウス(CPP−ACP)を用いて1時間イオン泳動-再石灰化を行った後の歯を示す。腔は完全に黒い変色を失っていることが明らかである。腔に隣接する歯の頂部のエナメルの暗い変色も消失した。齲窩の上及び下の縁辺にある齲窩の端はいくらか白さが増している。
これらの画像は、イオン導入−再石灰化法の歯を白くする効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び/又は脂質を取り除くために組織を前処理することと、そして別々に、連続的に又は同時にイオン導入法を適用しながら再石灰化剤を適用することを含む、組織の再石灰化方法。
【請求項2】
再石灰化剤がリン酸塩、カルシウム及び水の供与源である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低石灰化又は脱灰した歯の再石灰化を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
歯の美容処置を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
歯の明色化又は白色化を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
歯浸食の予防的処置を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
骨の再石灰化を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
再石灰化剤が、カゼインホスホペプチド− アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
再石灰化剤がフッ化物含有薬剤である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
フッ化物含有薬剤が、カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸フッ化カルシウム(CPP−ACFP)である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
再石灰化剤が一又は複数の再石灰化促進剤を含有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
再石灰化剤が少なくとも2つの再石灰化促進剤を含有し、その促進剤の1つがカルシウムイオンの供与源であり、他方がリン酸イオンの供与源である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率が1:1から22:10である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
カルシウム:リン酸塩の比率がおよそ10:6である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率がおよそ3:2から22:10である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
再石灰化剤中のカルシウム:リン酸塩の比率が1:1より大きいが3:2未満である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
再石灰化促進剤がストロンチウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前処理工程が、イオン導入の適用の有無にかかわらず再石灰化剤/イオン導入法の適用の前に実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前処理工程が酸による処置を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
酸がリン酸である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前処理工程が次亜塩素酸塩による処置を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
哺乳動物の齲蝕及び/又は歯のフッ素症の治療又は緩和を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
低石灰化の象牙質又は脱灰した(カリエス)象牙質の再石灰化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
タンパク質及び/又は脂質を除去するための前処理を行った組織のイオン導入再石灰化処置に使用するための再石灰化剤であって、リン酸塩及びカルシウムの供与源である、再石灰化剤。
【請求項25】
カゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム(CPP−ACP)又はカゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸フッ化カルシウム(CPP−ACFP)を含む、請求項24に記載の再石灰化剤。
【請求項26】
前処理用薬剤と再石灰化剤を具備する、組織のイオン導入再石灰化処置に使用するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−518215(P2011−518215A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505580(P2011−505580)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001009
【国際公開番号】WO2009/130447
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510279918)ザ ユニバーシティ オブ ダンディー (4)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF DUNDEE
【出願人】(510279398)ザ ユニバーシティ オブ アバティー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF ABERTAY
【出願人】(509061760)ユニバーシティー コート オブ ザ ユニバーシティー オブ セイント.アンドリューズ (2)
【Fターム(参考)】