説明

石炭の改質方法、コークス及び焼結鉱の製造方法並びに高炉の操業方法

【課題】石炭の改質方法を低コストで提供する。
【解決手段】水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤とを混合する混合工程13と、前記混合物を水及び前記非水素供与性溶剤を加圧加熱する加熱圧縮工程14と、加熱圧縮工程14で得られた前記石炭の可溶成分及び前記石炭の水を前記非水素供与性溶剤に溶解させた第1の液相成分と、前記非水素供与性溶剤に不溶解であった石炭Rとを分離する第1分離工程15とを含む石炭の改質方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスにおけるコークス製造用原料、焼結鉱製造用固体燃料、高炉羽口吹込み用還元材として使用される石炭を改質する石炭の改質方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉用コークス製造用の原料炭は、高品位の粘結炭が主に使用されているが、この粘結炭は、価格が高く産出量も限られている。そのため、近年においては、粘結炭に比べて粘結性の低い非微粘結炭などの低品位の石炭から溶剤に可溶な成分を抽出して、高品質な抽出石炭を得る方法が提案されている(特許文献1乃至3参照)。
【0003】
特許文献1は、石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、前記抽出工程後の抽出残部の一部と抽出液との混合物から溶剤を除去する溶剤除去工程とを有する改質炭の製造方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、製鉄用コークスの原料炭に用いる無灰炭の製造方法であって、溶剤と石炭とを混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、前記スラリー調整工程で得られたスラリーを400〜420℃の温度で20分以下抽出した後、370℃以下に冷却する抽出工程と、該抽出工程で得られた抽出後のスラリーを、液部と非液部とに分離する分離工程と、前記分離工程で分離された液部から前記溶剤を分離して改質炭である無灰炭を得る改質炭取得工程と、を含む無灰炭の製造方法を開示する。さらに、前記非液部から前記溶剤を分離して改質炭である副生炭を得ることができる。
【0005】
特許文献3は、炭素含有率(d.a.f.)が85%以上91%以下の石炭と、炭素含有率(d.a.f.)が60%以上85%未満の石炭とを含有する配合炭100質量部に対して、灰分を実質的に含有しない石炭を1質量部以下含有する原料炭を乾留し、前記灰分を実質的に含有しない石炭として、炭素含有率(d.a.f.)が60%以上95%未満の石炭から有機溶媒を用いて抽出して得られる可溶成分を用いることを特徴とするコークスの製造方法を開示する。
【0006】
特許文献1乃至3には、石炭を脱水する脱水処理について直接の記載はないが、非特許文献1等に、オーストラリア褐炭は水分62.5%と例示し、褐炭は水分が多く、水分10%以下に脱水乾燥工程が必要である旨記載され、その処理フロー図には、独立した脱水器が開示されているように、褐炭、亜瀝青炭などの水分の高い石炭を改質する場合はエネルギー効率の点から事前に脱水処理を行うことは技術常識である。
【0007】
したがって、特許文献1の石炭改質方法においても褐炭、亜瀝青炭などの水分の高い石炭を改質する場合には、これらの石炭を加熱処理により事前脱水した後、石炭と溶剤とを混合してスラリーを生成し、加圧加熱により改質しているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161955号公報
【特許文献2】特開2008−115369号公報
【特許文献3】特開2007−023190号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】石炭化学と工業(P558等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この従来の方法は、事前に石炭の乾燥処理を行う際に蒸発潜熱を必要とするため、脱水処理時のエネルギー消費量が大きくなる。このため、改質処理に伴うコストが増大する。
そこで、本願発明は、石炭を改質する改質方法を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、その発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤を混合し、該水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を加圧加熱することにより、石炭の可溶成分及び水分が前記非水素供与性溶剤に溶解した第1の液相成分と、前記非水素供与性溶剤に溶解しなかった石炭の不溶解成分とを生成し、分離した後、前記第1の液相成分を冷却することにより、前記石炭の可溶成分の一部を前記非水素供与性溶剤から抽出した第1の固相成分と残部の第2の液相成分とを生成し、分離し、さらに、該第2の液相成分から前記石炭の水分および前記非水素供与性溶剤を分離し、第2の固相成分を生成することを特徴とする石炭の改質方法。
(2)前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、前記水分および前記非水素供与性溶剤が沸騰しない圧力で加圧加熱することを特徴とする上記(1)に記載の石炭の改質方法。
(3)前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、その温度が300〜420℃となるように加圧加熱することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の石炭の改質方法。
(4)水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤を混合した後、該水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を加圧加熱する第1の加圧加熱を行うことにより、石炭の水分が溶解した非水素供与性溶剤と石炭の混合物を生成し、冷却することにより、前記石炭の水分と、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を生成し、分離した後、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を加圧加熱する第2の加圧加熱を行うことにより、石炭の可溶成分が前記非水素供与性溶剤に溶解した第1の液相成分と、石炭の不溶解成分を生成し、分離し、前記第1の液相成分を冷却することにより、前記石炭の可溶成分の一部を前記非水素供与性溶剤から抽出した第1の固相成分と残部の第2の液相成分とを生成し、分離し、さらに、該第2の液相成分から非水素供与性溶剤を分離し、第2の固相成分を生成することを備え、前記第1の加圧加熱における前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物の温度は、前記第2の加圧加熱における前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物の温度よりも低いことを特徴とする石炭の改質方法。
(5)前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、水分が沸騰しない圧力で第1の加圧加熱を行い、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を、前記非水素供与性溶剤が沸騰しない圧力で第2の加圧加熱を行うことを特徴とする上記(4)に記載の石炭の改質方法。
(6)前記第1の加圧加熱では、前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物の温度を130〜250℃として5分間以上保持し、前記第2の加圧加熱では、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物の温度が300〜420℃となるように加圧加熱することを特徴とする上記(4)または(5)に記載の石炭の改質方法。
(7)前記第1の加圧加熱を行うことにより生成される、前記石炭の水分が溶解した非水素供与性溶剤と石炭の混合物を、その温度が20〜50℃となるように冷却することを特徴とする上記(4)乃至(6)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
(8)前記第1の液相成分を、その温度が20〜50℃となるように冷却することを特徴とする上記(1)乃至(7)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
上記(9)前記水分を含有する石炭は、亜瀝青炭、および、褐炭の1種または2種であることを特徴とする上記(1)乃至(8)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
(10)上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法により得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を焼結鉱製造用固体燃料として使用することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(11)上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法により得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を、さらに炭化処理した炭化物を焼結鉱製造用固体燃料として使用することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(12)上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法により得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を高炉羽口吹込み用還元材として使用することを特徴とする高炉の操業方法。
(13)上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法により得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を、さらに炭化処理した炭化物を、高炉羽口吹き込み用還元材として使用することを特徴とする高炉の操業方法。
(14)上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の石炭の改質方法により得られた前記第1の固相成分、前記第2の固相成分、前記第2の固相成分と前記第1の固相成分の混合物、および前記第2の固相成分と前記石炭の不溶解成分の混合物のうちのいずれか1種を高炉用コークス原料の配合炭として用いることを特徴とするコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、石炭を改質する改質方法を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の石炭の改質方法の改質工程を示したブロック図である。
【図2】実施形態2の石炭の改質方法の改質工程を示したブロック図である。
【図3】溶剤流通型抽出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(各工程の概略)
図1を参照して、本発明の石炭の改質方法の実施形態1を説明する。図1は、実施形態1の石炭の改質工程を示したブロック図である。混合工程13では、石炭槽11から供給される石炭と、溶剤槽12から供給される溶剤とを混合する。加圧加熱工程14では、混合工程13で得られた石炭と溶剤とからなる混合物を加圧加熱して、石炭に含有する水及び石炭の可溶成分を溶剤に溶解させる。水と石炭の可溶成分とが溶解した溶剤を第1の液相成分Xといい、溶剤に不溶解であった石炭の不溶解成分を石炭Rというものとする。第1分離工程15では、これらの第1の液相成分X及び石炭Rを固液分離する。
【0015】
冷却工程16では、第1の液相成分Xを冷却して、石炭の可溶成分の一部である抽出石炭D(第1の固相成分)と、残部の第2の液相成分Yとを得る。第2分離工程17では、冷却工程16で得られた第2の液相成分Y及び抽出石炭Dを分離させる。第3分離工程18では、第2分離工程17で得られた第2の液相成分Yから水を分離して、第3の液相成分Zを得る。第4分離工程18では、第3の液相成分Zから溶剤を分離して、その残部である抽出炭S(第2の固相成分)を得る。つまり、石炭と溶剤とを混合した混合物から、三種類の異なる石炭、すなわち、石炭R、抽出石炭D及び抽出石炭Sを得ることができる。
【0016】
以下、各工程について詳細に説明する。
(石炭槽11について)
石炭槽11には亜瀝青炭、褐炭、亜炭など水分を多く含む低品位な石炭が貯留されている。褐炭には水分が約50質量%含まれており、亜瀝青炭には水分が約10〜20質量%含まれている。従来は、褐炭、亜瀝青炭などの水分を多く含む石炭を溶剤と混合する前に脱水処理していたが、本実施形態では脱水処理をすることなくそのまま溶剤と混合し、スラリーとする。
【0017】
(溶剤槽12について)
溶剤槽12には、石炭槽11に貯留された石炭の可溶成分を溶解するための溶剤が貯留されている。溶剤には、2環芳香族を主とする非水素供与性溶剤を用いることができる。非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から生成した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される石炭成分の割合(抽出率)が高く、また、石炭から各種石炭成分を抽出した後、溶剤を蒸留等の方法で容易に回収することができる。
【0018】
さらに、この回収した溶剤は、経済性の向上を図るため、循環使用することもできる。非水素供与性溶剤の主たる成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレンなどが挙げられ、その他脂肪族側鎖をもつナフタレン類、また、これにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖をもつアルキルベンゼンが含まれる。
【0019】
非水素供与性溶剤は、沸点が180〜330℃のものが好ましい。沸点が180℃未満であると、加圧加熱工程18での必要圧力が高くなり、また、溶剤を回収する工程において揮発による損失が大きくなり、溶剤の回収率が低下する。さらに、分離工程での抽出石炭の抽出率が低下する。一方、330℃を超えると、後述する溶剤の分離が困難となり、溶剤の回収率が低下する。
【0020】
このように、加圧加熱処理において非水素供与性溶剤を使用することにより、石炭の可溶成分の抽出率を高めることができる。また、非水素供与性溶剤は極性溶剤とは異なり、容易に溶剤を回収できるため、溶剤の循環使用が容易となる。さらに、高価な水素や触媒等を用いる必要がないため、安価なコストで石炭を可溶化して、経済性の向上を図ることができる。
なお、石炭から各種石炭成分を抽出した後、溶剤を回収して循環使用する必要がなければ、従来の石炭の液化方法等で用いられるテトラリンなどの水素供与性溶剤や、水素化したクレオソート油、水素化したアントラセン油、およびその混合物などを用いてもよい。
【0021】
(混合工程13について)
混合工程13では、溶剤槽12から供給される溶剤と、石炭槽11から供給される石炭とを混合する。石炭と溶剤の混合物は、石炭の粒子が溶剤中に分散したスラリー状態で存在する。以下、この混合物をスラリーというものとする。
【0022】
(加圧加熱工程14について)
加圧加熱工程14では、石炭の可溶成分が十分に溶解する所定の温度まで石炭と溶剤のスラリーを加熱する。この加熱処理は、スラリー中の水及び溶剤が沸点に達しないように、加圧状態で行う。具体的には、圧力値を0.8〜2.5MPaに設定することにより、水及び溶剤の沸騰を防止し、石炭成分の抽出率を高めることができる。常温下では、石炭に含まれる水分子が石炭に強固に水素結合している。加圧加熱工程14におけるスラリーの温度が130℃に達すると、水分子の水素結合が絶たれて、石炭から水が流出する。
【0023】
一方、溶剤は、加熱されることにより水に対する溶解力が高まる。したがって、石炭から流出した水は溶剤中に溶解される。このように、本実施形態によれば、加圧加熱処理において石炭の可溶成分の抽出と同時に石炭に含まれる水を蒸発させることなく、石炭の脱水処理を行うことができる。これにより、従来法のように石炭の加熱、乾燥処理における脱水時の蒸発潜熱が不要となり、従来法に比べて石炭の改質処理のエネルギー効率を高めることができる。
【0024】
加圧加熱工程14におけるスラリーの温度がさらに上昇して、石炭の可溶成分が十分に抽出される温度(以下、該温度を抽出温度Aと称す)に達すると、石炭の可溶成分が溶剤に十分に溶解される。この抽出温度Aは、300〜420℃に設定するのが好ましい。300℃よりも温度が低い場合には、石炭構成分子間の結合力を十分に低下させることができないため、石炭成分の抽出率が低下する。一方、420℃よりも温度が高い場合には、石炭の熱分解反応で生成されたラジカルの再結合が起こり、石炭成分の抽出率が低下する。なお、本明細書において、スラリーの温度とは、スラリーの液温をいう。
【0025】
したがって、加圧加熱工程14においては、水及び石炭の可溶成分が溶剤中に溶解した第1の液相成分Xと、溶剤に不溶解であった石炭の不溶解成分である石炭Rとを生成することができる。これらの生成物は第1分離工程15に送られる。
【0026】
第1分離工程15では、第1の液相成分X及び石炭Rを固液分離する。固液分離方法には、重力沈下法を用いることができる。ここで固液分離された石炭Rは、ミクロな気孔構造を備えていて燃焼開始温度が低く、燃焼速度も速いことから、燃焼性能に優れている。したがって、焼結鉱製造用固体燃料として用いることができる。また、高炉羽口吹込み用還元材として用いることもできる。なお、石炭Rを炭化させることにより、ミクロな気孔構造は発達させることができる。
【0027】
第1分離工程15で分離された第1の液相成分Xは、冷却工程16に送液される。冷却工程16に送液された第1の液相成分Xは、常温、好ましくは20〜50℃の温度まで冷却される。ここで、冷却温度が50℃よりも高いと、後述する抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率が低下する。他方、冷却温度を20℃より低くしても、前記抽出率が顕著に向上することはなく、却って冷却時間が長くなる。これにより、第1の液相成分Xから、石炭の可溶成分の一部である抽出石炭D(第1の固相成分)を固相状態で抽出することができる。第1の液相成分Xの残部である第2の液相成分Yには、溶剤と、前記抽出石炭Dを除く溶剤に溶解している石炭の可溶成分と、水とが含まれている。ここで、溶剤は、冷却工程16で冷却されることにより水に対する溶解力が低下しているため、第2の液相成分Yは水層及び溶剤層(以下、この溶剤層を第3の液相成分Zという)の二層状態で存在している。なお、冷却工程16の冷却手段には、空冷を用いてもよいし、冷却温度や冷却速度などの冷却条件を制御できる冷却装置を用いることもできる。
【0028】
ここで、本実施形態では、第1の液相成分Xを常温まで冷却したが、本発明はこれに限られるものではなく、常温よりも高い温度に設定することもできる。この場合、抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率は低下するが、冷却時間の短縮により、短時間で抽出石炭S及び抽出石炭Dを得ることができる。
【0029】
冷却工程16で得られた第2の液相成分Y及び抽出石炭Dは、第2分離工程17で固液分離される。第2分離工程17での固液分離方法には、重力沈下法を用いることができる。ここで分離して得られた抽出石炭Dは、ミクロな気孔構造を備えており燃焼開始温度が低く、燃焼速度も速いことから、燃焼性能に優れている。
【0030】
したがって、焼結鉱製造用固体燃料として用いることができる。さらに、高炉羽口吹込み用還元材として用いることができる。抽出石炭Dを炭化させることにより、ミクロな気孔構造が発達し、燃焼性が向上するため、抽出石炭Dを炭化させた炭化物を焼結鉱用固体燃料、高炉羽口吹き込み用還元材として用いることもできる。さらに、抽出石炭Dは、後述する抽出石炭Sに比べて効果は低いものの、コークス強度の向上効果を有している。したがって、高炉用コークスの配合炭として用いることもできる。
【0031】
第2分離工程17で分離された第2の液相成分Yは、第3分離工程18において水と第3の液相成分Zとに分離される。なお、第3分離工程18での分離方法には、デカンテーション法を用いることができる。
【0032】
第3分離工程18で水を除去し、分離された第3の液相成分Zは、第4分離工程19に送液される。第4分離工程19では、第3の液相成分Zに含まれる溶剤が除去される。溶剤の除去方法には、蒸発乾固法やスプレードライ法を用いることができる。これにより、第3の液相成分Zに含まれる抽出石炭S(第2の固相成分)を固相成分として抽出することができる。抽出石炭Sは、上述の抽出石炭Dよりもコークス強度の向上効果が高いため、高炉用コークス製造用の配合炭として用いることが好ましい。この場合、抽出石炭Sのみをコークス製造用の配合炭として使用してもよいし、抽出石炭Sに上述した抽出石炭Dを混合した混合炭をコークス製造用の配合炭として使用することもできる。
【0033】
このように、本実施形態によれば、褐炭、亜瀝青炭などの粘結性の低く、水分が多い低品位な石炭から高品位な石炭成分を抽出する石炭の改質処理において、石炭に含まれる水分を除去するとともに石炭を高抽出率にて改質することができる。しかも、従来法のように加熱、乾燥処理に際して水分を蒸発させる蒸発潜熱が不要となるため、従来法に比べて石炭の改質処理におけるコストを大幅に削減することができる。
【0034】
さらに、石炭を事前に加熱、乾燥処理を行い、乾燥した石炭と溶剤とを混合して加圧加熱処理で石炭の可溶成分を溶剤中に溶解させる従来の石炭改質方式と、本実施形態の加圧加熱処理において石炭の可溶成分の抽出と脱水を同時に行う石炭改質方式とを比較したところ、本実施形態は従来法に比べて加圧加熱処理における抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出比率が向上することを確認した。抽出石炭Sおよび抽出石炭Dはコークス強度向上効果があるため、コークス製造用配合炭として用いることができる。したがって、本発明法は、従来法に比べて粘結性が低い劣質炭を用いて高い収率でコークス強度向上効果を有する石炭の抽出成分(抽出石炭Sおよび抽出石炭D)を得ることができるため、褐炭、亜瀝青炭などの劣質炭をコークス製造用原料炭として有効に利用できる。
本発明法が従来法に比べて抽出石炭Sおよび抽出石炭Dの抽出効率が向上する理由を下記に説明する。
【0035】
褐炭、亜瀝青炭などの劣質炭は、粘結性が低く、かつ水分を多く含む石炭であるが、この水分は石炭と水素結合によって結びついている。これらの劣質炭を加圧下において溶剤中で加熱処理すると石炭と水の水素結合が乖離するが、水分子が石炭から離れる際に、脱離した水に代わって直ちに溶剤が石炭の内部にまで浸透する。これにより、石炭の脱水とともに、石炭の改質、分解反応が効率的に進むため、石炭の抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出比率が上昇する。これに対して、予め石炭の加熱、乾燥処理を行い、乾燥された石炭と溶剤とを混合し、加圧加熱処理をする従来の石炭改質方式では、石炭の加熱、乾燥処理において石炭から水が解離すると、水が脱離した石炭内で再度強固な水素結合が形成され、この結果、石炭の構造が変化して分子間隙が縮小する。このため、石炭は構造上溶剤が浸透しにくくなり、乾燥前の石炭に比べて乾燥した石炭の加圧加熱処理における抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率は低下する。このように加圧加熱処理における抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率を高めるためには、乾燥処理前の水分を含む石炭を加圧加熱処理する必要があり、従来の石炭改質方法では、抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率を向上させることができない。
なお、加圧加熱処理の初期において、水分を多く含む石炭の水分を効率的に脱水し、石炭から脱離した水と溶剤とを入れ替わらせ、加圧加熱処理における石炭中の可溶成分の抽出率を向上するためには、加圧加熱処理の初期の温度を、好ましくは130℃〜250℃、より好ましくは130℃とし、この温度で5分間以上保持することが好ましい。
【0036】
(実施形態1の変形例)
上述の実施形態では、第1の液相成分Xを冷却処理することにより抽出石炭Dを分離したが、この冷却処理を省略することもできる。この場合、第1の液相成分Xから水及び溶剤を分離することにより、上述した抽出石炭Dと抽出石炭Sを含有する抽出石炭を抽出でき、この抽出石炭はコークス強度向上効果を有するためコークス製造用の配合炭として用いることができる。
【0037】
上述の実施形態では、第1及び第2分離工程における分離処理として重力沈下法を用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、他の方法を用いることができる。例えば、濾過法、遠心分離法を用いることができる。ただし、濾過法では濾過助剤の交換を頻繁に行う必要がある。また、遠心分離法では未溶解石炭成分により目詰まりが起こりやすい。したがって、これらの濾過法及び遠心分離法よりも、重力沈下法を用いるのが好ましい。
【0038】
(第2実施形態)
図2を参照して、本発明の石炭改質方法の実施形態2について説明する。図2は、実施形態2の石炭改質工程を示したブロック図である。この実施形態では、加圧加熱処理工程を第1加圧加熱処理工程及び第2加圧加熱処理工程の2つに分けて、前工程では主として石炭の脱水と溶剤の浸透を行い、後工程で石炭の可溶成分の抽出を行うことを意図している。
混合工程23では、石炭槽21から供給される石炭と、溶剤槽22から供給される溶剤とを混合する。第1加圧加熱工程31では、混合工程23で得られた石炭と溶剤からなる混合物を所定温度となるように加圧加熱し、石炭の脱水と溶剤の浸透を行って、主として石炭中の水を溶剤に溶解させた液相体Aと石炭の混合物を得る。第1冷却工程32では、液相体Aと石炭の混合物を冷却して、液相体Aを水層と溶剤層とに分けて、第1分離工程33で水を分離、除去する。得られた溶剤と石炭の混合物は第2加熱圧縮工程34に供給される。第2加圧加熱工程34では、溶剤と石炭の混合物を所定の温度となるように加圧加熱して、石炭の可溶成分を溶剤に溶解させた液相体B(第1の液相体)と石炭の不溶解成分である石炭Rとを得る。ここで、第1の加圧加熱における温度は、第2の加圧加熱における温度よりも低く設定される。
【0039】
第2分離工程35では、前記液相体B(第1の液相成分)と石炭R(石炭の不溶解成分)とに分離する。第2冷却工程36では、前記液相体B(第1の液相成分)を冷却して、液相体C(第2の液相成分)及び抽出石炭D(第1の固相成分)を得る。第3分離工程37では、前記液相体C(第2の液相成分)及び抽出石炭D(第1の固相成分)を分離する。第4分離工程38では、前記液相体C(第2の液相成分)から溶剤を分離し、抽出石炭S(第2の固相成分)を得る。
【0040】
以下、各工程について詳細に説明する。ただし、石炭槽21に貯留された石炭、溶媒槽22に貯留された溶剤、混合工程23における混合方法は実施形態1と同じであるため説明を省略する。
【0041】
(第1加圧加熱工程31について)
第1加圧加熱工程31では、石炭と溶剤との混合物を加圧した状態で加熱する。この加熱処理は、石炭に含まれる水が沸点に達しないように、加圧した状態で行う。常温下では、石炭に含まれる水分子が石炭に強固に水素結合している。加熱温度が所定温度に達すると、石炭と水分子の水素結合が絶たれて、石炭から水分子が脱離し、溶剤相に水が移行し、脱離した水に代わって溶剤が石炭中に浸透する。
【0042】
溶剤は、加熱されることにより水に対する溶解力が高まる。したがって、石炭と水分子の水素結合が絶たれて石炭から水が解離し、流出した水を溶剤中に効率的に溶解させることができる。なお、水が溶剤中に溶解された液体を液相体Aというものとする。このように、本実施形態によれば、従来法のように予め石炭の加熱、乾燥処理を行い、石炭に含まれる水分を蒸発させる処理を行わず、石炭の脱水処理を第1加圧加熱処理で行うことができる。これにより、従来法の予め石炭の加熱、乾燥処理する際の脱水時の蒸発潜熱が不要となり、従来法に比べて石炭改質処理におけるエネルギー効率を高めることができる。
【0043】
第1加圧加熱工程31は、石炭と溶剤との混合物の温度が第2加圧加熱工程34における抽出温度A’(詳しくは後述)よりも低い温度となるように加熱される。ここで、好ましくは130〜250℃、より好ましくは130℃となるように加熱され、この温度範囲(すなわち、抽出温度A’よりも低い温度、好ましくは130〜250℃、より好ましくは130℃)で5分以上保持することが好ましい。保持時間が上記条件よりも短くなると、石炭中の水が溶剤に移行しにくくなる。また、上記温度範囲よりも高い温度あるいは低い温度で保持しても、石炭と水分子の水素結合を絶って石炭から脱離した水が溶剤に移行し、脱離した水に代わって溶剤を石炭中に浸透することは難しくなり、石炭の脱水効率が低下し、かつ第2加圧加熱における石炭の可溶成分の抽出効率が低下する。なお、本明細書において、石炭と溶剤との混合物の温度とは、該混合物の液温をいう。
【0044】
(第1冷却工程32について)
第1冷却工程32では、液相体Aと石炭の混合物を冷却する。ここで、溶剤は冷却されることにより水に対する溶解力が低下する。したがって、溶剤に溶解した水が溶剤から分離して、液相体Aは水及び溶剤の二層状態に変化する。冷却温度は、常温、特に20〜50℃の温度とするのが好ましい。ここで、冷却温度が50℃よりも高いと、液相体Aと水の分離が困難になり、他方、冷却温度を20℃より低くしても、液相体Aと水の分離が向上することはない。なお、冷却手段には、空冷を用いてもよいし、冷却温度や冷却速度などの冷却条件を制御できる冷却装置を用いることもできる。
【0045】
(第1分離工程33について)
第1分離工程33では、液相体Aと石炭の混合物から水を分離、除去して、溶剤と石炭の混合物を第2加熱圧縮工程34に送る。つまり、この第1分離工程33において、石炭の脱水処理が完了し、石炭中に溶剤が浸透した状態の溶剤と石炭の混合物を生成する。なお、分離方法にはデカンテーション法を用いることができる。
【0046】
(第2加圧加熱工程34について)
第2加圧加熱工程34では、脱水処理が完了した石炭と溶剤との混合物を加圧下で所定の温度(該温度を抽出温度A’と称す)に加熱する。この加圧加熱処理は、溶剤が沸点に達しないように所定の圧力下で行う。ここで、石炭は、第2加圧加熱工程34の前工程である第1加圧加熱工程32で脱水されているため、実施形態1の加圧加熱工程14よりも容器の内圧を低下させることができる。これにより、第2加圧加熱工程34における設備費を低減することができる。
【0047】
第2加圧加熱工程34において、溶剤が石炭の可溶成分が十分に抽出される抽出温度A’に達すると、石炭の可溶成分が溶剤に十分に溶解する。ここで、抽出温度A’については、実施形態1にて説明した抽出温度Aと同様の範囲の温度とすることができるため、詳細な説明を省略する。第2加圧加熱工程34では、石炭の可溶成分が溶剤中に溶解した液相体B(第1の液相成分)と、溶剤に不溶解であった石炭R(固相、石炭の不溶解成分)とが生成される。これらの生成物は第2分離工程35に送られる。液相体B(第1の液相成分)には、石炭の可溶成分が含まれている。
【0048】
(第2分離工程35について)
第2分離工程35では、第2加圧加熱工程34で得られた液相体B(第1の液相成分)及び石炭Rを固液分離する。これにより、溶剤に含まれる石炭Rを固相成分として抽出することができる。固液分離方法には、重力沈下法を用いることができる。石炭Rは、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0049】
(第2冷却工程36について)
第2冷却工程36では、液相体B(第1の液相成分)を常温、好ましくは、20〜50℃の温度まで冷却する。冷却温度が50℃よりも高いと、抽出石炭S及び抽出石炭Dの抽出率が低下する。他方、冷却温度を20℃より低くしても、前記抽出率が顕著に向上することはなく、却って冷却時間が長くなる。
これにより、石炭の可溶成分の一部である抽出石炭D(第1の固相成分)と残部の液相体C(第2の液相成分)を得ることができる。抽出石炭D(第1の固相成分)は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。冷却手段には、空冷を用いてもよいし、冷却温度や冷却速度などの冷却条件を制御できる冷却装置を用いることもできる。
【0050】
(第3分離工程37について)
第3分離工程37では、第2冷却工程36で得られた液相体C(第2の液相成分)及び抽出石炭D(第1の固相成分)を固液分離する。固液分離方法には、重力沈下法を用いることができる。なお、液相体C(第2の液相成分)には、抽出石炭D(第1の固相成分)を除く石炭の可溶成分が含まれている。
【0051】
(第4分離工程38について)
第4分離工程38では、液相体C(第2の液相成分)に含まれる溶剤が除去される。溶剤の除去方法には、蒸発乾固法やスプレードライ法を用いることができる。これにより、液相体C(第2の液相成分)に含まれる抽出石炭S(第2の固相成分)を固相成分として抽出することができる。抽出石炭S(第2の固相成分)については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の改質炭の製造方法について、実施例を示して具体的に説明する。
(実施例1)
図3は溶剤流通型抽出装置の概略図である。同図において、フィルタ51には石炭の試料
が充填されている。石炭には、オーストラリア産の褐炭であるM炭を使用した。M炭の組成は、C:67.1%、H:4.8%、N:0.7%、S:0.3%、O:27.1%であった。M炭の含水率は50質量%であった。フィルタ51は抽出器41の内部に設けられている。フィルタ51は、その直径が11.2mm、その孔径が0.5μmである。フィルタ51に充填されたM炭の重量は、200〜300mgであった。
【0053】
溶剤収容容器52には溶剤が収容されている。溶剤収容容器52は、溶剤供給管53を介して抽出器41に通液可能に接続されている。溶剤供給管53には、送液ポンプ54が設けられている。送液ポンプ54を作動させることにより、流速を0.5、1.0、2.0ml/minに設定して溶剤を抽出器41に送液した。背圧調節部55を操作することにより系内の圧力を10MPaに設定した。室温で30分間、抽出器41に溶剤を送液した後、温度制御部56を作動させることにより所定温度(300〜420℃)まで石炭試料を加熱した。昇温速度は、10℃/minであった。発明例1においては、一定昇温速度で所定温度(300〜420℃)まで昇温した。発明例2においては、130℃で10分保持し、その後、一定昇温速度で所定温度(300〜420℃)まで昇温した。
【0054】
所定温度に達した後に、抽出器41を大量の水に浸漬させて急冷した。系内の圧力を解放した後に、窒素制御部57を作動させることにより、窒素容器58内に充填された窒素(N)を系内に供給し、系内に残存する溶剤を全て回収した。抽出器41内の石炭試料を回収して、それを10mlのTHF(テトラヒドロフラン)で超音波洗浄した。石炭試料の洗浄に用いられたTHF(テトラヒドロフラン)の水分量を、カールフィッシャー分析計を用いて測定した。その結果、水分量はほぼ0%であった。つまり、事前脱水されていない石炭を溶剤とともに加熱圧縮することにより、石炭を脱水できることがわかった。
【0055】
水分を50%含むM炭を事前に加熱乾燥処理した後に溶剤と混合し、この乾燥した石炭と溶剤の混合物を加圧下で加熱処理することにより抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rを抽出する方法(比較例)と、M炭を事前加熱乾燥処理をせずに上述した実施形態1または2の方法で加圧下で加熱処理することにより、抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rを抽出する方法(発明例1、発明例2)とを比較した。なお、比較例の石炭乾燥加熱処理後の石炭の抽出方法は発明例1と同様である。
【0056】
【表1】



【0057】
表1に示すように、比較例では、M炭を改質処理して得られた抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rの比率は20質量%、10質量%及び70質量%であった。これに対して発明例1では、抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rの比率は24質量%、13質量%及び63質量%、発明例2では、抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rの比率は27質量%、15質量%及び58質量%、であった。
【0058】
表1より、発明例1、発明例2は、比較例に比べて抽出石炭S、抽出石炭Dの抽出率が向上した。特に加圧加熱処理の初期において150℃で10分の保持時間をとった発明例2は発明例1よりもさらに抽出石炭S、抽出石炭Dの抽出率が向上した。
【0059】
(実施例2)
実施例2では、抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rのコークス強度向上効果について評価を行った。これらの抽出石炭S、抽出石炭D及び石炭Rは上述した実施形態1の改質工程にしたがって抽出した。石炭には、含水率が50%のM炭を用いた。
【0060】
ベース炭として強粘結炭と非微粘結炭を1:1の重量比で配合した混合炭を調整した。そして、表2に示す試料1(抽出石炭S)、試料2(抽出石炭S及び抽出石炭Dの重量比1:1の混合物)、試料3(抽出石炭Sと石炭Rの重量比1:1の混合物)、試料4(抽出石炭D)、試料5(石炭R)、試料6(未改質の褐炭)をそれぞれ前記ベース炭に配合してコークスの配合炭とした。配合炭中の試料1〜6の含有率はそれぞれ10質量%とした。これらの各配合炭を試験コークス炉で乾留して、コークス強度を評価した。コークス強度の評価は、回転強度試験方法のドラム強度に基づき行った。
【0061】
【表2】



【0062】
表2に示すように、発明例である試料1のコークス強度が87.4であり、発明例である試料2のコークス強度が82.0であり、発明例である試料3のコークス強度が81.2であり、発明例である試料4のコークス強度が80.7であり、比較例である試料5のコークス強度が80.1であり、比較例である試料6のコークス強度が78.3であり、参考例である試料7のコークス強度が80.7であった。
未改質炭を配合した比較例である試料6のコークス強度(78.3)は、未改質炭を配合しないベース配合炭の参考例である試料7のコークス強度(80.7)に比べて低くなるが、未改質炭を改質して得られた抽出石炭S、抽出石炭D、抽出石炭Sと抽出石炭Dを配合したS+D、及び抽出石炭Sと石炭Rを配合したS+Rの試料のコークス強度(それぞれ、87.4、80.7、82、81.2)は未改質炭配合のコークス強度(78.3)や石炭R配合のコークス強度(80.1)に比べて高くなることがわかった。また、コークス強度の向上効果は、抽出石炭S、抽出石炭Dの順に高いことがわかった。
また、発明例である抽出石炭Sを配合した試料1、発明例である抽出石炭Sと抽出石炭Dの混合炭(混合炭S+D)を配合した試料2、発明例である抽出石炭Sと石炭Rの混合炭(混合炭S+D)を配合した試料3、および発明例である抽出石炭Dを配合した試料4が、ベース配合炭の参考例である試料7と同等以上のコークス強度が得られることがわかった。したがって、安価な褐炭であるL炭を本実施例の方法で改質し、強粘結炭及び非微粘結炭の一部と置換することにより、安価に高強度コークスの製造が可能となることがわかった。
【0063】
(実施例3)
実施例3では、抽出石炭Dの燃焼性について評価を行った。抽出石炭Dは実施例2と同様の方法で褐炭であるM炭から抽出した。また、抽出石炭Dを炭化した炭化抽出石炭Dについても燃焼性の評価を行った。なお、比較例として、粉コークスについても、同様の燃焼性評価を行った。
【0064】
(i)熱天秤を用いた反応開始温度、及び、反応速度最大温度の評価試験
まず、熱天秤に、所定の粒度(0.15−0.25mm)に調整した上記各試料を、所定の重量(10−20mg)入れ、空気雰囲気中で昇温して、重量減少を測定した。そして、重量減少率が安定して0.002(1/min)を超える温度を反応開始温度と定義して評価した。
【0065】
また、重量減少曲線の傾きが最大となる温度(単位時間あたりの重量減少が最大となる温度)を、反応速度最大温度と定義して評価した。
【0066】
(ii)焼結鍋試験評価(焼結プロセスにおける生産率、歩留まりの評価試験)
直径30cm、層高60cmの焼結試験装置を用いて、所定の配合原料で焼結鉱を製造する試験を実施した。上記各試料は、原料に対してそれぞれ同じ重量比となるように配合して配合原料とした。この配合原料を焼結試験装置内に60cm高さまで装入したのち、原料層の表層の固体燃料にプロパンガスバーナーで90秒間点火する操作を行った。その後、15kPaの一定負圧で下方へ空気を吸引しながら焼結反応を行った。一連の焼結処理が完了した焼結体を、十分に冷却した後、2m高さから4回落下させて破砕し、5mm以上の粒度を有するものを焼結鉱として回収した。このマテリアルバランスから焼結鉱の生産率および歩留まりを測定した。
【0067】
評価は、生産率、製品歩留まりで行い、粉コークスを用いた比較例の生産率及び歩留まりを基準とし、比較例より優れている場合を○、さらにより優れている場合を◎で評価した。評価試験結果を表3に示す。
【0068】
【表3】



【0069】
表3に示すように、抽出石炭D、炭化処理した抽出石炭Dcは、粉コークスに比べて反応開始温度が低く、反応速度最大温度が低く、優れた燃焼性能を有していることがわかった。また、焼結鍋試験から、固体燃料として、抽出石炭D、炭化抽出石炭Dを用いることで、粉コークスに比べて生産率及び成品歩留が向上することが判った。従って、抽出石炭D、炭化処理した抽出石炭Dを焼結鉱製造プロセス用の固体燃料として使用することにより、焼結鉱の生産率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0070】
11 21 石炭槽
12 22 溶剤槽
13 23 混合工程
14 加熱圧縮工程
15 33 第1分離工程
16 冷却工程
17 35 第2分離工程
18 37 第3分離工程
19 38 第4分離工程
31 第1加熱圧縮工程
32 第1冷却工程
34 第2加熱圧縮工程
36 第2冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤を混合し、該水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を加圧加熱することにより、石炭の可溶成分及び水分が前記非水素供与性溶剤に溶解した第1の液相成分と、前記非水素供与性溶剤に溶解しなかった石炭の不溶解成分とを生成し、分離した後、前記第1の液相成分を冷却することにより、前記石炭の可溶成分の一部を前記非水素供与性溶剤から抽出した第1の固相成分と残部の第2の液相成分とを生成し、分離し、さらに、該第2の液相成分から前記石炭の水分および前記非水素供与性溶剤を分離し、第2の固相成分を生成することを特徴とする石炭の改質方法。
【請求項2】
前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、前記水分および前記非水素供与性溶剤が沸騰しない圧力で加圧加熱することを特徴とする請求項1に記載の石炭の改質方法。
【請求項3】
前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、その温度が300〜420℃となるように加圧加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の石炭の改質方法。
【請求項4】
水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤を混合した後、該水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を加圧加熱する第1の加圧加熱を行うことにより、石炭の水分が溶解した非水素供与性溶剤と石炭の混合物を生成し、冷却することにより、前記石炭の水分と、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を生成し、分離した後、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を加圧加熱する第2の加圧加熱を行うことにより、石炭の可溶成分が前記非水素供与性溶剤に溶解した第1の液相成分と、石炭の不溶解成分を生成し、分離し、前記第1の液相成分を冷却することにより、前記石炭の可溶成分の一部を前記非水素供与性溶剤から抽出した第1の固相成分と残部の第2の液相成分とを生成し、分離し、さらに、該第2の液相成分から前記非水素供与性溶剤を分離し、第2の固相成分を生成することを備え、
前記第1の加圧加熱における前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物の温度は、前記第2の加圧加熱における前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物の温度よりも低いことを特徴とする石炭の改質方法。
【請求項5】
前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物を、水分が沸騰しない圧力で第1の加圧加熱を行い、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物を、前記非水素供与性溶剤が沸騰しない圧力で第2の加圧加熱を行うことを特徴とする請求項4に記載の石炭の改質方法。
【請求項6】
前記第1の加圧加熱では、前記水分を含有する石炭と非水素供与性溶剤の混合物の温度を130〜250℃として5分間以上保持し、前記第2の加圧加熱では、前記非水素供与性溶剤と石炭の混合物の温度が300〜420℃となるように加圧加熱することを特徴とする請求項4または5に記載の石炭の改質方法。
【請求項7】
前記第1の加圧加熱を行うことにより生成される、前記石炭の水分が溶解した非水素供与性溶剤と石炭の混合物を、その温度が20〜50℃となるように冷却することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
【請求項8】
前記第1の液相成分を、その温度が20〜50℃となるように冷却することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
【請求項9】
前記水分を含有する石炭は、亜瀝青炭、および、褐炭の1種または2種であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の石炭の改質方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の石炭の改質方法で得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を焼結鉱製造用固体燃料として使用することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の石炭の改質方法で得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を、さらに炭化処理した炭化物を焼結鉱製造用固体燃料として使用することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の石炭の改質方法で得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を高炉羽口吹込み用還元材として使用することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項13】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の石炭の改質方法で得られた前記石炭の不溶解成分および前記第1の固相成分のうちの1種または2種を、さらに炭化処理した炭化物を、高炉羽口吹き込み用還元材として使用することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の石炭の改質方法で得られた前記第1の固相成分、前記第2の固相成分、前記第2の固相成分と前記第1の固相成分の混合物、および前記第2の固相成分と前記石炭の不溶解成分の混合物のうちのいずれか1種を高炉用コークス原料の配合炭として用いることを特徴とするコークスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99045(P2011−99045A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254781(P2009−254781)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】