説明

石炭の液化方法およびこれにより得られる油

【課題】石炭液化油より得られる軽油のセタン価の向上がはかれると共に、この軽油の貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれるようにする。
【解決手段】(1)石炭を水素添加して液化し、軽油を得る石炭の液化方法であって、前記軽油にバイオディーゼルフューエルを添加することを特徴とする石炭の液化方法、
(2)前記石炭の液化方法においてバイオディーゼルフューエルの添加量が軽油に対して5〜60質量%であるもの、(3)前記石炭の液化方法により得られる油(軽油にバイオディーゼルフューエルを添加した油)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭の液化方法およびこれにより得られる油に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の資源エネルギー事情から石油に替わる液体燃料の開発が切望されている。特に、石炭はその埋蔵量が豊富なことから、石炭を効率良く液化し液体燃料を得る技術の確立が重要な課題となっている。このため、従来より石炭の液化方法が種々提案されている。その代表的な石炭の液化方法として、石炭を水素添加して液化させ、石炭液化油を得るものがあり(特開平10−298556号公報等参照)、この石炭液化油より軽油を得ている。
【特許文献1】特開平10−298556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の石炭の液化方法において得られる石炭液化油より得られる軽油は、その高い芳香族性に起因してセタン価が低く、また、貯蔵保管中に酸化してスラッジが生成する(貯蔵安定性が悪い)という問題があり、セタン価の向上およびスラッジ生成の抑制が望まれる。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、石炭液化油より得られる軽油のセタン価の向上がはかれると共に、この軽油の貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれる石炭の液化方法およびこれにより得られる油を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0006】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、石炭の液化方法およびこれにより得られる油に係わり、請求項1〜2記載の石炭の液化方法(第1〜2発明に係る石炭の液化方法)、請求項3記載の油(第3発明に係る油)であり、それは次のような構成としたものである。
【0007】
即ち、請求項1記載の石炭の液化方法は、石炭を水素添加して液化し、軽油を得る石炭の液化方法であって、前記軽油にバイオディーゼルフューエルを添加することを特徴とする石炭の液化方法である〔第1発明〕。
【0008】
請求項2記載の石炭の液化方法は、前記バイオディーゼルフューエルの添加量が軽油に対して5〜60質量%である請求項1記載の石炭の液化方法である〔第2発明〕。請求項3記載の油は、請求項1または2記載の石炭の液化方法により得られる軽油にバイオディーゼルフューエルを添加した油である〔第3発明〕。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る石炭の液化方法によれば、石炭液化油より得られる軽油のセタン価の向上がはかれると共に、この軽油の貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれる。この石炭の液化方法により得られる油(本発明に係る油)によれば、セタン価の向上がはかれると共に、貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
石炭を水素添加して液化させ、石炭液化油を得る。この石炭液化油より軽油を得る。この軽油は、セタン価が低く、また、貯蔵保管中に酸化してスラッジが生成するが、鋭意研究した結果、この軽油にバイオディーゼルフューエル(Bio diesel fuel )を添加すると、セタン価が向上し、また、酸化し難くなってスラッジが生成し難くなることがわかった。
【0011】
そこで、本発明に係る石炭の液化方法は、石炭を水素添加して液化し、軽油を得る石炭の液化方法であって、前記軽油にバイオディーゼルフューエル(以下、BDFともいう)を添加することを特徴とする石炭の液化方法とした。
【0012】
従って、本発明に係る石炭の液化方法によれば、石炭液化油より得られる軽油のセタン価の向上がはかれると共に、この軽油の貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれる。
【0013】
前記BDF(バイオディーゼルフューエル)の添加量については軽油に対して5〜60質量%であることが望ましい〔第2発明〕。この理由は下記の点にある。BDFの添加量が軽油に対して5質量%未満の場合、セタン価の向上の程度が小さく、また、貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減の程度が小さくて、好ましくない。BDFの添加量が軽油に対して60質量%超の場合、動粘度の増大、引火点の低下の程度が大きく、酸価が増大し始め、また、コスト上昇の程度が大きくて、好ましくなく、更には流動性、曇り点などの点でも好ましくない。
【0014】
セタン価向上の程度および貯蔵保管中のスラッジ生成量低減の程度をより確実に大きくする(高水準化する)ためには、BDFの添加量の下限値は10質量%とすることが望ましく、更に15質量%とすることが望ましく、20質量%とすることがより望ましい。動粘度の増大、引火点の低下の程度をより確実に小さくすると共に、酸価の増大を抑え、また、コスト上昇の程度をより確実に小さくするためには、BDFの添加量の上限値は50質量%とすることが望ましく、更に40質量%とすることが望ましく、30質量%とすることがより望ましい。これらの諸点を考慮すると、総合的には、BDFの添加量は軽油に対して10〜50質量%とすることが望ましく、更に15〜40質量%とすることが望ましく、20〜30質量%とすることが更に望ましい。
【0015】
本発明に係る石炭の液化方法により得られる油(本発明に係る石炭の液化方法により得られる軽油にBDFを添加した油)によれば、セタン価の向上がはかれると共に、貯蔵保管中のスラッジ生成量の低減がはかれる〔第3発明〕。即ち、石炭液化油より得られる軽油にBDFを添加した油は、石炭液化油より得られる軽油そのもの(BDF添加なし)に比較し、セタン価が高く、また、酸化し難くてスラッジが生成し難い。
【0016】
本発明に係る石炭の液化方法においては、前述のように、石炭を水素添加により液化し、軽油を得る石炭の液化方法であって、前記軽油にBDFを添加する。このとき、石炭を水素添加して液化するプロセスについては、特には限定されず、水素添加(以下、水添ともいう)を1回のみ行うプロセスでもよいし、水添を2回以上行うプロセスでもよい。水添を2回行うプロセスとは、石炭を水添により液化し、この反応生成物(液化物)をさらに水添するものである。これらの水添反応条件としては、特には限定されず、従来周知の水添反応条件を用いることができる。
【0017】
このようなプロセスにより、石炭を水素添加して液化する。そうすると、石炭液化油が得られる。この石炭液化油から軽油を得ることができる。石炭液化油から軽油を得る方法としては、蒸留などが採用できる。
【0018】
このような軽油にBDFを添加する。このBDFとしては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができる。このBDFの原料油脂としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、パーム油、パーム核油、ナタネ油、キャノーラ油、トール油、ヒマワリ油、大豆油、アサミ油、オリーブ油、アマニ油、カラシ油、ピーナッツ油、ひまし油、ココナッツ油、ヤシ油等の植物由来のもの、牛油、豚油、魚油等の動物由来のものを用いることができる。これらのBDF原料油脂の中、特にパーム油、大豆油がコスト、品質安定性の面で好ましい。
【0019】
これらのBDF原料油脂をエステル化することでBDFを得ることが出来る。エステル化の方法としては公知のものを用いれば良く、例えば触媒の存在下でメタノールと反応させ脂肪酸メチルエステル(BDF)とグリセリンを得る方法、超臨界条件下でメタノールと反応させ脂肪酸メチルエステル(BDF)とグリセリンを得る方法などが代表的な製法としてあげられる。
【0020】
本発明において、石炭としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、褐炭等の低炭化度炭(炭化度の低い石炭)の他、亜瀝青炭や瀝青炭を用いることができる。
【0021】
また、ここでいう軽油とは、JIS規格(JIS-K-2204/軽油)に定義されている軽油を意味する。例えば、「2号軽油」として定義されている軽油は蒸留性状が90%留出温度が350 ℃以下の成分であることを意味している。また、a〜b℃留分と記載する場合は温度範囲a〜b℃において蒸留することで得られる成分であることを意味する。
【0022】
前述のように軽油にBDFを添加すると、セタン価が向上するだけでなく、酸化し難くなってスラッジが生成し難くなる。このスラッジが生成し難くなる理由については明らかではないが、下記の点にあると考えられる。BDFはそれ自体が石炭液化油に比べ酸化し難くてスラッジが生成し難い性質がある。軽油とBDFの溶解性は高く、混合すると良く相溶する。従って、軽油にBDFを添加すると、軽油中にBDFが溶解し、ひいては、軽油の不飽和結合部分にBDFが吸着して、軽油が酸化することを著しく阻害して防止し、顕著な軽油の酸化阻害(防止)効果が得られ、このために、スラッジが生成し難くなるのではないかと考えられる。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0024】
〔例1(比較例1)〕
石炭としてはインドネシア産ムリア褐炭を用いた。この石炭(インドネシア産ムリア褐炭)と、ボールミル等により平均粒子径10μm 以下にまで粉砕し乾燥した鉄含有量40質量%以上のリモナイト系鉄触媒と、固体硫黄(助触媒)とを石炭液化平衡溶剤に添加して、スラリー状混合体を得た。このとき、触媒の添加量は無水無灰炭基準で鉄として1.0質量%となる量とし、固体硫黄の添加量は無水無灰炭基準で1.2 質量%(以下、wt%ともいう)となる量(S/Fe原子比2.0 )とした。
【0025】
なお、石炭液化平衡溶剤とは、スラリー調製工程の溶剤として使用され、そして石炭の液化処理工程での生成物(石炭液化油)から蒸留等の分離手段により回収される。回収された溶液はスラリー調製工程に循環供給され再び石炭液化平衡溶剤として使用され、以降、これが繰り返される。石炭液化平衡溶剤の初期溶剤としては、一般的に、2〜3環の芳香族成分(例えば、クレオソート油)が用いられるが、循環使用に従って石炭に含まれる諸成分が複雑に混合した溶液となる。従って、本願にて石炭液化平衡溶剤と呼称する溶剤は、上記のごとき芳香族溶剤および石炭液化プロセスにおける循環使用によって得られたあらゆる混合溶液を意味する。
【0026】
上記スラリー状混合体を連続液化反応装置(処理能力: 0.1t/d)に導入し、水素圧15MPa 、反応温度450 ℃、反応時間1時間の反応条件で水添反応(液化反応)を行って、石炭(褐炭)液化粗油を得た。この石炭液化粗油からC5〜420 ℃留分を得、この留分を固定床式水素化処理装置に導入し、Ni-Mo 系触媒を用いて、圧力15MPa 、反応温度360 ℃、LHSV:1.0 hr-1の処理条件で水素化処理を2回行い、石炭(褐炭)液化水素化処理油を得た。
【0027】
上記石炭液化水素化処理油を蒸留して240 〜350 ℃留分を得た。この蒸留により得た成分の蒸留組成を調べたところ、JIS規格(JIS-K-2204/軽油)に定義されている軽油に相当することが確かめられた。なお、蒸留組成は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定した。上記石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分を、以下、沸点範囲240 〜350 ℃の軽油として扱うこととし、沸点範囲240 〜350 ℃の軽油ともいうこととする。
【0028】
このようにして得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油について、下記方法により、元素分析、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表1に示す。この結果の中、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定結果は、表3にも示す。
【0029】
元素分析は、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」により測定した。セタン価は、FIA 法により測定した。FIA (Fuel Ignition Analyzer )法とは、定容燃焼器内に高温・高圧の空気を作り、この中に一定量の燃料を単噴口ノズルから噴射し、着火、燃焼させ、このときの燃焼器内の圧力変化を測定するものであり、この燃焼器内の圧力変化から着火遅れ時間、燃焼終わり、熱発生率などを調べることができるものである。FIA 法におけるセタン価は、着火遅れ時間MDとして表示され、試験燃料の着火遅れ時間と標準燃料の着火遅れ時間を比較することによって試験燃料のセタン価を求めることが出来る。
【0030】
酸化安定度は、ASTM D 2274 「Standard Test Method for Oxidation Stability of Distillate Fuel Oil 」に記載の方法により測定した。動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定した。引火点は、JIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」により測定した。酸価は、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」により測定した。密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定した。
【0031】
〔例2(比較例2)〕
BDFとしてパーム油メチルエステル(以下、POMEという)を用意した。このPOMEについて、前記例1と同様の方法により、元素分析、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表2に示す。この結果の中、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定結果は、表3にも示す。
【0032】
〔例3(実施例1)〕
前記例1で得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油を95g、POME(予め30℃に加熱)を5g、これらを200 mlのビーカーに投入し、温度を30℃に調整し、パドル式攪拌機にて30分間混合して、POME混合石炭液化水素化処理油(以下、POME混合軽油ともいう)を得た。このPOME混合軽油について、前記例1と同様の方法により、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表3に示す。
【0033】
〔例4(実施例2)〕
前記例1で得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油を90g、POME(予め30℃に加熱)を10g、これらを200 mlのビーカーに投入し、温度を30℃に調整し、パドル式攪拌機にて30分間混合して、POME混合石炭液化水素化処理油(POME混合軽油)を得た。このPOME混合軽油について、前記例1と同様の方法により、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表3に示す。
【0034】
〔例5(実施例3)〕
前記例1で得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油を80g、POME(予め30℃に加熱)を20g、これらを200 mlのビーカーに投入し、温度を30℃に調整し、パドル式攪拌機にて30分間混合して、POME混合石炭液化水素化処理油(POME混合軽油)を得た。このPOME混合軽油について、前記例1と同様の方法により、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表3に示す。
【0035】
〔例6(実施例4)〕
前記例1で得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油を50g、POME(予め30℃に加熱)を50g、これらを200 mlのビーカーに投入し、温度を30℃に調整し、パドル式攪拌機にて30分間混合して、POME混合石炭液化水素化処理油(POME混合軽油)を得た。このPOME混合軽油について、前記例1と同様の方法により、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表3に示す。
【0036】
〔例7(実施例5)〕
前記例1で得られた石炭液化水素化処理油の240 〜350 ℃留分すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油を20g、POME(予め30℃に加熱)を80g、これらを200 mlのビーカーに投入し、温度を30℃に調整し、パドル式攪拌機にて30分間混合して、POME混合石炭液化水素化処理油(POME混合軽油)を得た。このPOME混合軽油について、前記例1と同様の方法により、セタン価、酸化安定度、動粘度、引火点、酸価、及び、密度の測定を行った。この結果を表3に示す。
【0037】
前記表3に示す結果(データ)より、POMEの混合比率(石炭液化水素化処理油すなわち沸点範囲240 〜350 ℃の軽油に対する質量%)と、POME混合軽油のセタン価、酸化安定度試験でのスラッジ量、動粘度、引火点、酸価、及び、密度との関係に関する図を作成した。この図を図1〜6に示す。
【0038】
表3及び/または図1〜6からわかるように、例3〜7(実施例1〜5)に係るPOME混合軽油は、例1(比較例1)に係る軽油に比較し、セタン価が高く、また、酸化し難くてスラッジが生成し難い。即ち、石炭液化水素化処理油から得られた軽油成分にPOMEを混合すると、セタン価が高くなると共に、酸化し難くなってスラッジが生成し難くなることがわかる。
【0039】
このとき、特に図1〜6からわかるように、POMEの混合比率が高い場合ほど、POME混合軽油のセタン価が高く、また、酸化し難くてスラッジが生成し難くなる。即ち、POMEの混合比率の増大に伴って、セタン価の向上の程度が大きくなり、また、酸化安定度試験でのスラッジ量の低減の程度が大きくなっている。特に、酸化安定度試験でのスラッジ量については、POMEの混合比率が5乃至10wt%の辺りから急激に低減し、POMEの混合比率が20wt%以上の場合、酸化安定度試験でのスラッジ量が極めて少なくなり、POMEの混合比率が30wt%の場合、酸化安定度試験でのスラッジ量が更に少なくなる。これらの点から、POMEの混合比率の下限値は5wt%とすることが望ましく、更に10wt%とすることが望ましく、15wt%とすることが更に望ましく、20wt%とすることがより望ましいといえる。
【0040】
また、特に図1〜6からわかるように、POME混合軽油の密度はPOMEの混合比率の増大に伴って小さくなる。より詳細には、このPOME混合軽油の密度はPOMEの混合比率の増大に伴って直線的に低下している(POMEの混合比率に正比例して低下している)。即ち、POMEの添加量に見合ってPOME混合軽油の密度が低下している。しかし、POME混合軽油の動粘度は、POMEの添加量に見合って高くなる(POMEの混合比率に正比例して高くなる)ということはなく、POMEの混合比率が増大してもそれほど高くならず、流動性は良好であり、POMEの混合比率20wt%の辺りから動粘度が徐々に高くなる程度である。POME混合軽油の引火点は、POMEの添加量に見合って高くなるということはなく、POMEの混合比率が増大してもそれほど高くならず、着火性は良好であり、POMEの混合比率50wt%の辺りから引火点が徐々に高くなる程度である。POME混合軽油の酸価は、POMEの添加量に見合って高くなるということはなく、遊離脂肪酸が増えていなくて良好な状態であり、POMEの混合比率50wt%の辺りから徐々にPOME混合軽油の酸価が高くなる程度である。これらの点から、POMEの混合比率の上限値は60wt%とすることが望ましく、更に50wt%とすることが望ましく、40wt%とすることが一層望ましく、30wt%とすることがより一層望ましいといえる。
【0041】
以上の実施例(本発明例)および比較例においては、石炭としてインドネシア産ムリア褐炭を用い、1次水添用の触媒としてリモナイト系鉄触媒を用い、石炭液化反応の反応条件を水素圧15MPa 、反応温度450 ℃、反応時間1時間とし、石炭液化粗油を得、この石炭液化粗油の水素化処理用の触媒としてNi-Mo 系触媒を用い、水素化処理条件を圧力15MPa 、反応温度360 ℃、LHSV:1.0 hr-1とし、石炭液化水素化処理油を得た。そして、該石炭液化水素化処理油を蒸留することで沸点範囲240 〜350 ℃の軽油成分を分離して得た。実施例では該石炭液化水素化処理油の軽油成分(沸点範囲240 〜350 ℃の軽油に相当)にBDFとしてPOMEを混合してPOME混合石炭液化水素化処理油(POME混合軽油)を得、このPOME混合軽油についてセタン価、酸化安定度等の測定を行い、一方、比較例では該石炭液化水素化処理油を蒸留して得た沸点範囲240 〜350 ℃の軽油相当の成分についてセタン価、酸化安定度等の測定を行った。その結果、以上のような結果が得られたが、本発明の構成およびその作用効果からして、石炭としてインドネシア産ムリア褐炭以外の褐炭や、亜瀝青炭や瀝青炭を用いた場合でも、石炭液化反応の触媒としてリモナイト系鉄触媒以外の触媒を用いた場合でも、反応条件を水素圧15MPa 、反応温度450 ℃、反応時間1時間の反応条件以外の反応条件にした場合でも、水素化処理用の触媒としてNi-Mo 系触媒以外の触媒を用いた場合でも、水素化処理条件を圧力15MPa 、反応温度360 ℃、LHSV:1.0 hr-1の水素化処理条件以外の水素化処理条件にした場合でも、BDFとしてPOME以外のBDFを用いた場合でも、以上の場合と同様の傾向の結果(本発明例に係るBDF混合軽油は、比較例に係る軽油に比較し、セタン価が高く、また、酸化し難くてスラッジが生成し難いという結果等)が得られるといえる。
【0042】
なお、石炭液化反応の反応条件を水素圧15MPa 、反応温度450 ℃、反応時間1時間の反応条件以外の反応条件にした場合であって、石炭液化反応の程度が低い場合、得られる石炭液化水素化処理油に含まれる中質油成分、重質油成分(軽油よりも沸点が高い成分)の量が増える。この石炭液化水素化処理油を蒸留して軽油を得る。そして、この軽油にBDFを混合する。この場合においても、以上の場合と同様の傾向の結果(軽油にBDFを混合したものは、軽油に比較し、セタン価が高く、また、酸化し難くてスラッジが生成し難いという結果等)が得られるといえる。
【0043】
上記のことからわかるように、本発明は、以上の実施例の場合だけでなく、本発明の構成要件を満たす限り、以上の実施例以外の場合においても優れた効果を発揮するものである。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る石炭の液化方法は、石炭液化油より得られる軽油のセタン価向上がはかれると共に、この軽油の貯蔵保管中のスラッジ生成量低減がはかれて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率とセタン価との関係を示す図である。
【図2】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率とスラッジ量との関係を示す図である。
【図3】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率と動粘度との関係を示す図である。
【図4】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率と引火点との関係を示す図である。
【図5】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率と酸価との関係を示す図である。
【図6】POME混合軽油に係るPOMEの混合比率と密度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を水素添加して液化し、軽油を得る石炭の液化方法であって、前記軽油にバイオディーゼルフューエルを添加することを特徴とする石炭の液化方法。
【請求項2】
前記バイオディーゼルフューエルの添加量が軽油に対して5〜60質量%である請求項1記載の石炭の液化方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の石炭の液化方法により得られる軽油にバイオディーゼルフューエルを添加した油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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