説明

石炭焚ボイラの排ガス処理システム

【課題】石炭焚きボイラからの排ガス中の水銀を効率的に除去することができる石炭焚ボイラの排ガス処理システムを提供する。
【解決手段】本実施例は、石炭焚ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置と、窒素酸化物除去後のガス中の熱を回収する空気予熱器と、熱回収後のガス中の煤塵を除去する集塵機と、除塵後のガス中の硫黄酸化物を石灰・石膏法により除去すると共に、酸化水銀を除去する気液接触式の脱硫装置と、脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを具備する排ガス処理システムにおいて、燃料として供給する石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以下のものを用いて発電を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの排ガス中から水銀を除去する石炭焚ボイラの排ガス処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等の燃焼装置であるボイラから排出される排ガスには毒性の高い水銀が含まれるため、従来から排ガス中の水銀を除去するためのシステムが種々検討されてきた。
【0003】
通常、ボイラには排ガス中の硫黄分を除去するための湿式の脱硫装置が設けられている。このようなボイラに排ガス処理装置として脱硫装置が付設されてなる排煙処理設備においては、2価の酸化水銀は水に可溶であるため、前記脱硫装置で水銀が捕集しやすくなることが、広く知られている。
【0004】
そこで、近年、NOxを還元する脱硝装置、および、アルカリ吸収液をSOx吸収剤とする湿式脱硫装置と組み合わせて、この金属水銀を処理する方法や装置について様々な考案がなされてきた。
【0005】
排ガス中の金属水銀を処理する方法としては、活性炭やセレンフィルター等の吸着剤による除去方法が知られているが、特殊な吸着除去手段が必要であり、発電所排ガス等の大容量排ガスの処理には適していない。
【0006】
ここで、大容量排ガス中の金属水銀を処理する方法として、従来より脱硫方法として、下記式(1)及び(2)に示すような反応により、主に気液接触式の脱硫装置を用いた石灰-石膏法が多用されている。
SO2 +CaCO3 +1/2H2O→CaSO3・1/2H2O+CO2(吸収) …(1)
CaSO3・1/2H2O+3/2H2O+1/2O2→CaSO4・2H2O(酸化) …(2)
【0007】
【特許文献1】特開2007−7612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、気液接触式の脱硫装置内においては、酸化水銀(Hg2+)を石膏(CaSO4)スラリ中に吸着・固定化し水銀を除去していた。この際、水銀(Hg)の除去速度は一般に石膏(CaSO4)の生成速度に依存している。
【0009】
このため、水銀の除去速度を高めるには、石膏(CaSO4)の生成速度を高める必要があるが、石炭中の水銀(Hg)と硫黄(S)との比率は、石炭の性状に依存し、石膏の生成速度のみ高めることは困難である、という問題がある。
このため、水銀(Hg)に対して硫黄(S)が少ない石炭を用いる場合、石膏−石灰を含むスラリ中の石膏の生産量が少ない場合には水銀(Hg)除去性能が不足する恐れがある。
【0010】
加えて、空気または酸素富化空気の添加によりスラリを酸化状態とすることで、酸化水銀(Hg2+)の還元(Hg2+→Hg0)を防止し、ガス相への0価の水銀の(Hg0)の再飛散を抑制している。
【0011】
しかしながら、排ガス中に還元性物質が多量に存在する場合においては、所定の酸化状態(酸化還元電位(ORP)値が+150mV以上)を維持できず、0価の水銀の(Hg0)ののガス相への再飛散を抑制できないような場合がある。このため、他の対応策により排ガス中の水銀を効率的に除去することが切望されている。
【0012】
本発明は、以上の課題に鑑み、石炭焚きボイラからの排ガス中の水銀を効率的に除去することができる石炭焚ボイラの排ガス処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、石炭焚ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置と、窒素酸化物除去後のガス中の熱を回収する空気予熱器と、熱回収後のガス中の煤塵を除去する集塵機と、除塵後のガス中の硫黄酸化物を石灰・石膏法により除去すると共に、酸化水銀を除去する気液接触式の脱硫装置と、脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを具備する排ガス処理システムにおいて、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以下であることを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、モル比が1.3×10-6以下の硫黄含有量が高い石炭を混焼することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【0015】
第3の発明は、第1の発明において、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、硫黄化合物を混焼することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【0016】
第4の発明は、第1の発明において、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、排ガスに硫酸系ガスを混合しつつ脱硫することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【0017】
第5の発明は、第1乃至4の発明のいずれか一つにおいて、石灰石-石膏を含むスラリに酸化剤を添加することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【0018】
第6の発明は、第1乃至5の発明のいずれか一つにおいて、石灰石‐石膏を含むスラリに硫酸系化合物を添加することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システムにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、気液接触のスラリ吸収液からの水銀の再飛散がなくなり、排ガス中の水銀と石膏との接触効率を高めることができ、水銀の吸着・固定化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0021】
本発明による実施例1に係る石炭焚ボイラの排ガス処理システムについて、図面を参照して説明する。
本実施例は、石炭焚ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置と、窒素酸化物除去後のガス中の熱を回収する空気予熱器と、熱回収後のガス中の煤塵を除去する集塵機と、除塵後のガス中の硫黄酸化物を石灰・石膏法により除去すると共に、酸化水銀を除去する気液接触式の脱硫装置と、脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを具備する排ガス処理システムにおいて、燃料として供給する石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以下のものを用いて発電を行うようにするものである。
【0022】
これは、通常、水銀の含有量が小さい石炭では、その「水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比(Hg/Sモル比という)」が1.3×10-6以下である場合に、ORP計の制御だけで、排ガス中の水銀を除去することができるからである。
【0023】
次に、Hg/Sモル比が1.3×10-6と規定した理由を説明する。
先ず、ΔHg/ΔCaSO4=Δ水銀除去量/Δ石膏生成量の関係から、脱硫装置である気液接触塔におけるΔHg/ΔCaSO4と水銀除去性能(気液接触塔出口でのガス中水銀濃度)の関係を図1に示す。
このグラフよりΔHg/ΔCaSO4が2mgHg/kgCaSO4以下で、水銀除去性能を維持できることが判明する。
水銀(Hg)と石膏(CaSO4)に含まれる硫黄(S)は、最上流の石炭に起因する。
【0024】
ここで、ΔHg/ΔCaSO4=2mgHg/kgCaSO4を換算すると、以下のようになる。
Hgmol/Smol=2mgHg/kgCaSO4 × 〔(1/200.59)×10-3 molHg/mgHg〕/(1/136.144)×103molS/kgCaSO4
=1.357×10-6 molHg/molS
なお、水銀(Hg)の分子量を200.59、硫黄(S)の分子量を32.066、石膏(CaSO4)の分子量を136.144とする。
よって、ΔHg/ΔCaSO4 2mgHg/kgCaSO4は、1.36×10-6molHg/molSに相当することとなる。
この結果、Hg/Sモル比の閾値として1.3×10-6と規定し、これを上回る場合には、水銀除去が低下することになるので、水銀除去対策を講じる必要があることとなる。
【0025】
さらに、瀝青炭とPRB炭とにおける石炭の含有量比(Hg/S)と頻度との関係図を図2及び図3に示す。
図2及び図3は、米国石炭の瀝青炭及びPRB炭の各30検体のHg/S比を集計したものであり、1.36×10-6 molHg/molS以下の比率は、瀝青炭では約70%であり、PRB炭では約27%であった。
【0026】
よって、PRB炭を用いる場合には、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)の比を測定する手段を設け、モル比で1.36×10-6 molHg/molSの場合には、水銀(Hg)除去速度に対して石膏(CaSO4)生成速度が不足すると判断する。
このため、モル比が1.36×10-6 molHg/molS以上の石炭の場合には、硫黄(S)源等を添加し、モル比を1.36×10-6molHg/molS以下とする。
【0027】
具体的なモル比を1.36×10-6 molHg/molS以下とする方法を以下に説明する。
(1)高S炭(1.36×10-6 molHg/molS以下とする)を混焼する。
(2)硫黄系化合物を混焼する。ここで、硫黄系化合物としては、硫黄、硫化水素、金属硫化物(黄鉄鋼FeS2等)、硫酸塩(CaSO4、MgSO4、FeSO4等)、二酸化硫黄(SO2)等を挙げることができる。
(3)排ガスに亜硫酸ガスや硫酸ガス等を混合する。
よって、PRB炭を用いるような場合、瀝青炭等の1.36×10-6 molHg/molS以下の炭を混合して用いることで、水銀の除去を効率よく行うことができる。
【実施例2】
【0028】
本発明による実施例2に係る石炭焚ボイラの排ガス処理システムについて、図4を参照して説明する。
本実施例は、石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)モル比を測定する手段を設け、モル比で1.36×10-6 molHg/molS以下である場合に、ORP制御や、スラリ吸収液に酸化剤の添加を行うものである。
図4に排ガス処理システムの一例を示す。
図4に示すように、排ガス処理システムは、燃料Fとして石炭を用いる石炭焚ボイラ11からの排ガス中にアンモニア12を添加して窒素酸化物を除去する脱硝装置13と、窒素酸化物除去後のガス中の熱を回収する空気予熱器14と、熱回収後のガス中の煤塵を除去する電気集塵器15と、除塵後のガス中の硫黄酸化物を石灰・石膏法により除去すると共に、酸化水銀を除去する気液接触式の脱硫装置16と、脱硫・水銀除去後の浄化ガスを外部に排出する煙突17とを具備する排ガス処理システムにおいて、前記脱硫装置16内又は外部に抜き出した石灰石−石膏を含むスラリ吸収液21に酸化剤を添加するものである。
なお、図中、符号18は空気、19は酸化還元電位計測計(ORP計)、22は石膏24を分離する固液分離装置であり、23は石膏を除去した上澄水である。
【0029】
ここで、前記酸化剤の添加場所は、脱硫装置16内(30A)、固液分離装置22の前流側(30B)または後流側(30C)のいずれの場所でもよい。
【0030】
また、前記酸化剤を供給することで、脱硫装置内のスラリ吸収液の酸化還元電位は150mV以上とするのが好ましい。
これは、図5に示す「水銀再飛散率(%)とORP酸化還元電位(mV)」との関係のグラフに示すように、酸化還元電位が150mV以上、好適には175mV以上、より好適には200mV以上であると、水銀の再飛散率の大幅な低減を図ることができるからである。
ここで、水銀再飛散率(%)は、以下の式により求める。
水銀再飛散率(%)=(Hg0出口−Hg0入口)/(Hg2+入口)×100
【0031】
前記酸化剤としては、一般のORP制御に用いる酸素(空気)よりも酸化力の強い酸化剤とするのが好ましく、例えばオゾン(O3)、過酸化水素(H22)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、塩素系化合物(例えば次亜塩素酸ソーダ(NaClO)等を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
また、酸化還元を促進する触媒としてマンガン化合物(KMnO4,MnCl2)を添加するようにしてもよい。
【0033】
このように、本実施例によれば、ORP計の電位を150mV以上とすることで、酸化水銀(Hg2+)の還元(Hg2+→Hg0)を防止し、ガス相への0価の水銀の(Hg0)の再飛散を抑制し、排ガス中の水銀の除去率を高めることができる。
これによって、スラリ吸収液からの水銀がガス中に再度放出されることを防止することができる。
【0034】
また、酸化剤の添加と、必要に応じてマンガン化合物の添加により、酸化状態を維持することとし、上述したORP計の電位を所定以上に維持することができる効果を期待できる。
【実施例3】
【0035】
本発明による実施例3に係る石炭焚ボイラの排ガス処理システムについて、図6を参照して説明する。
図6に排ガス処理システムの一例を示す。
図6に示すように気液接触塔の脱硫装置16内の吸収液(石灰石-石膏スラリ)21に、硫酸化合物(SO42-)や亜硫酸化合物(SO32-)等の硫酸系化合物を添加し、スラリ中の石膏の生成を促進し、石膏濃度を高めるようにしてもよい。
このような石膏濃度を向上させるために石膏を生成する反応式を下記(3)〜(5)に示す。
SO32-+ Ca2+ → CaSO3 …(3)
CaSO3 +1/2O2 → CaSO4(酸化により石膏生成)…(4)
SO42-+Ca2+ → CaSO4 (石膏生成)…(5)
【0036】
なお、硫酸化合物の添加場所は、脱硫装置16内(40A)、吸収液の石膏分離装置31の前流側(40B)または後流側(40C)のいずれの場所でもよい。なお、図6中、符号32は石膏、33は上澄水である。
このように、本発明によれば、水銀と石膏の接触確率を高めることで、水銀の吸着・固定化を促進することができる。
よって、本実施例によれば、別途に硫酸系化合物を添加することにより、スラリ中の石膏生成量を増加でき、積極的に水銀の吸着・固定化を促進することができる。
【0037】
さらに、以上述べた実施例1乃至3を適宜組み合わせて、その組み合わせにより、さらに水銀の吸着・固定化を促進するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係る排ガス処理システム及び方法によれば、水銀の再飛散が軽減されるので、水銀除去効率を向上することができ、排ガス中の水銀排出量が規制される場合の排ガス処理に用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スラリ中の石膏濃度と水銀吸着量との関係図である。
【図2】米国石炭の瀝青炭の各30検体のHg/S比の集計図である。
【図3】米国石炭のPRB炭の各30検体のHg/S比の集計図である。
【図4】実施例2に係る排ガス処理システムの概略図である。
【図5】水銀再飛散率(%)とORP酸化還元電位(mV)との関係を示すグラフである。
【図6】実施例3に係る排ガス処理システムの概略図である。
【符号の説明】
【0040】
10 排ガス処理システム
11 石炭焚ボイラ
12 アンモニア
13 脱硝装置
14 空気予熱器
15 集塵器
16 脱硫装置
17 煙突
21 石灰石‐石膏を含むスラリ
22 固液分離器
23 上澄水
24 石膏

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭焚ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置と、
窒素酸化物除去後のガス中の熱を回収する空気予熱器と、
熱回収後のガス中の煤塵を除去する集塵機と、
除塵後のガス中の硫黄酸化物を石灰・石膏法により除去すると共に、酸化水銀を除去する気液接触式の脱硫装置と、
脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを具備する排ガス処理システムにおいて、
石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以下であることを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。
【請求項2】
請求項1において、
石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、モル比が1.3×10-6以下の硫黄含有量が高い石炭を混焼することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。
【請求項3】
請求項1において、
石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、硫黄化合物を混焼することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。
【請求項4】
請求項1において、
石炭の水銀(Hg)/硫黄(S)のモル比が1.3×10-6以上の場合には、排ガスに硫酸系ガスを混合しつつ脱硫することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
石灰石-石膏を含むスラリに酸化剤を添加することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
石灰石‐石膏を含むスラリに硫酸系化合物を添加することを特徴とする石炭焚ボイラの排ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−166013(P2009−166013A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10332(P2008−10332)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】