説明

石綿スレート構造体および石綿スレートの被覆工法

【課題】表面劣化の影響を受けることなく、周囲に石綿を飛散させることのない石綿スレート構造体および石綿スレートの被覆工法を提供すること。
【解決手段】 石綿スレート材11の上面および下面を当該石綿スレート材11とほぼ同形状の鋼板12で粘着剤13を介して上下から狭持してなるので、表面劣化によって石綿が周囲に飛散する虞れがない。また、建物内部においても、飛散の懸念が極めて小さくなる。また、サンドイッチ構造により面剛性が増して、作業時の踏み抜き事故を未然に防止することができる。解体時においても、石綿スレート材を粉砕するのではなく、原形のまま取り外して、処分場へ搬出するので、飛散の懸念は極めて小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用駅、プラットホームの屋根、工場建屋の屋根、壁面材、一般家庭の屋根材等として広く使用されてきた石綿スレート材の改良および石綿スレートの被覆工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、石綿(アスベスト)の飛散による健康被害が問題になっておりますが、我が国において石綿スレート材は、便利な建材として洋風の瓦、屋根材、壁材として広く使用されて来ました。昭和50年代から平成16に至るまで、石綿の含有量は減少して来たものの、依然として使用され続けており、現存する建物の屋根材や壁面材、天井材にそのままの形で存在しており、その累積量は膨大なものとなっております。
石綿スレート材は、石綿とセメントを高圧でプレスした後,表面を防水加工して製造されていた。しかし、施工してから10年〜15年で表面が劣化し、石綿が表面に現れ、周囲に飛散すると云う現象が見られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の石綿スレート材は、石綿とセメントを高圧でプレスした後,表面を防水加工して製造するのが一般的であった。
したがって、永年使用によって表面のセメント部分が劣化した場合、周囲に石綿スレート材に含まれる石綿が飛散してしまう虞れが存在した。
また、これらの石綿スレート材を剥がして、屋根を葺き替える場合にも、劣化して脆くなった石綿スレート材は割れ易く、解体作業においても石綿を含んだ砂塵が周囲に舞い上がるという危険が存在した。更に、今日、解体した石綿を処理する方法が未だ確立されておらず、解体処理することはできない。
【0004】
この発明は上記に鑑み提案されたもので、表面のセメント部分の劣化により周囲に石綿が飛散したり、屋根を葺き替える場合にも石綿スレート材を解体することなく作業できる石綿スレート構造体および石綿スレートの被覆工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、石綿スレート材の上面および下面を当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板で粘着剤を介して上下から狭持してなることを特徴としている。
【0006】
また、本発明において、石綿スレート材の上面および下面に前記石綿スレート材とほぼ同形状の発泡体および鋼板を粘着剤を介して貼着してなることを特徴としている。また、本発明において、石綿スレート材の上面に当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板を粘着剤を介して貼着するとともに、石綿スレート材の下面に平板状の鋼板を粘着剤を介して貼着してなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の石綿スレートの被覆工法は、石綿スレート材の上下面を粘着剤を介して鋼板で狭持し、石綿スレート材の劣化に伴う石綿の飛散を防止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は前記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0009】
本発明では、石綿スレート材の上面および下面を当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板で粘着剤を介して上下から狭持するので、石綿スレート材の劣化進行を阻止して、石綿が周囲に飛散するのを防止することができる。また、鋼板で上下からサンドイッチ構造とすることにより、面剛性を高めることができ、屋根材として使用した場合に作業者が踏み抜いたりする事故を未然に防止することができる。更に、石綿スレート材と鋼板が粘着剤で付着されているので、屋根等の解体時に鋼板のみを剥がして再利用することができる。
【0010】
また、本発明では、前記粘着剤は、ブチルゴム系の粘着剤であるので、優れた防水性を発揮することができ、屋根用建材として最適である。また、本発明では、前記粘着剤は、アクリル系の粘着剤であるので優れた耐候性を発揮することができる。また、用途に応じて所望の粘度を付与することができる。
【0011】
また、本発明では、石綿スレート材の上面に当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板を粘着剤を介して貼着するとともに、石綿スレート材の下面に平板状の鋼板を粘着剤を介して貼着してなるので、石綿スレート材の劣化進行を阻止して、石綿が周囲に飛散するのを防止することができる。また、石綿スレート材と鋼板との間に空気層が形成されて、保温効果を高めることができる。
【0012】
また、本発明の石綿スレートの被覆工法において、石綿スレート材の上下面を粘着剤を介して鋼板で狭持し、石綿スレート材の劣化に伴う石綿の飛散を防止するので、周囲の住民等への健康被害を未然に防止することができる。
また、既存の石綿スレート材を使用した屋根等を危険な解体工事をすることなく、石綿飛散のない安全な屋根に改修することができる。更に、解体工事に際しては、フックボルト外す事によって、粉塵を生じる事無く石綿スレート材を取り外すことができる。また、鋼板のみを剥がして再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、石綿スレート材の上面および下面を当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板で粘着剤を介して上下から狭持したので、表面劣化により石綿が飛散するのを防止するとともに、面剛性を高めて部材強度を増すことができる。
【実施例】
【0014】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係る石綿スレート構造体の製造手順を示す説明図、図2は本発明の石綿スレート構造体の一例を示す縦断面図、図3は本発明の石綿スレート構造体の部分拡大断面である。ここで、石綿スレート構造体10は、波型の石綿スレート材11の上面および下面をこの石綿スレート材11とほぼ同形状の波型に形成されるとともに粘着剤13の付着された鋼板12によって、上下から狭持してサンドイッチ状に構成されている。
【0015】
例えば、波型の石綿スレート材11の厚さを5mmとした時、鋼板12の厚さを0.3mm、粘着剤13の厚さを1mmとする。粘着剤13としては、ブチルゴム系の粘着剤或いは、アクリル系の粘着剤を最適に使用することができる。また、使用する粘着剤の厚さは、石綿スレート材11の表面劣化による凹凸量に応じて、0.5mm〜2mm程度が望ましい。
【0016】
石綿スレート材11の上下から鋼板12を粘着剤13を介して貼着したものは、図2、3に示すように完全に鋼板で覆われて石綿が飛散する虞れがない。また、鋼板12に防錆処理を施せば更によい。
【0017】
図4は、本発明の第2の実施例における石綿スレート構造体を示す断面図である。本実施例では、石綿スレート構造体10−2は、波型の石綿スレート材11の上面にこの石綿スレート材11とほぼ同形状の波型に形成されるとともに粘着剤13の付着された鋼板12を貼着する。また、石綿スレート材11の下面に平板状の鋼板18を粘着剤13を介して貼着する。
【0018】
このように構成した場合、石綿スレート材が完全に鋼板で覆われて石綿が飛散する虞れがない。また、石綿スレート材の下面に空気層17が形成されて、保温効果を高めることができる。
【0019】
図5は、本発明の第3の実施例における石綿スレート構造体を示す断面図ある。本実施例では、石綿スレート構造体10−3は、波型の石綿スレート材11の上面にこの石綿スレート材11とほぼ同形状の波型に形成されるとともに粘着剤13の付着された鋼板12を貼着する。また、石綿スレート材11の下面に断面が矩形波状の鋼板19を粘着剤13を介して貼着する。
【0020】
このように構成した場合、石綿スレート材が完全に鋼板で覆われて石綿が飛散する虞れがない。また、鋼板19は、断面が矩形波状の形成されているので、剛性を増すことができる。なお、石綿スレート材に取り付ける矩形波状の方向は、何れの方向であってもよい。
【0021】
図6は、本発明の第4の実施例における製造手順を示す説明図、図7は本発明の石綿スレート構造体の拡大縦断面図である。本実施例において、石綿スレート材14は、平坦部分14aと台形部分14bとから構成されている。また、鋼板15もこれに合わせて、平坦部分15aと台形部分15bから構成される。更に、鋼板15の石綿スレート材14に対向する面には、粘着剤13が付着される。このようにして、石綿スレート材14の上下から鋼板15を粘着剤13を介して、サンドイッチ構造とするので、石綿スレート材14の劣化によって石綿が周囲に飛散する虞れがない。図8は、本発明の石綿スレート構造体を示す平面図である。屋根のフックボルト16の部分を除いて鋼板15を貼着したものである。このようにすることで、作業性を向上することができる。
【0022】
図9は、本発明の石綿スレート構造体の第5の実施例を示す拡大縦断面図である。本実施例において、石綿スレート構造体20は、石綿スレート材14の上面にこの石綿スレート材とほぼ同形状の発泡体22および鋼板21を粘着剤13を介して貼着する。また、石綿スレート材14の下面にも、粘着剤13を介して石綿スレート材とほぼ同形状の発泡体22および鋼板23を貼着する。発泡体22の厚さは、例えば、20mm程度とすることができる。ここで、発泡体としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレンなどの発泡樹脂を用いる。
【0023】
以上のように構成された石綿スレート構造体20の場合、発泡体22の存在により断熱効果を高めることができ、建物内の温度上昇を抑える。また、適度な有隙率を有する発泡体を選定する事によって透湿性を有し、建屋内の結露等を防止できる。
【0024】
次に、本発明の石綿スレートの被覆工法について図10、11にしたがって説明図する。図10は本発明の石綿スレートの被覆工法の手順を示す説明図、図11は本発明の石綿スレートの被覆工法により被覆した屋根の側面図である。
先ず、建屋のチャンネル材30にフックボルト31によって固定された石綿スレート材32の凹凸形状に合わせた所定の大きさの鋼板33を用意し、粘着剤を介して貼着する。鋼板33の大きさは、フックボルト31とフックボルト31の間に収まる長さとする。横幅は、作業性を考慮して任意の大きさとすることができる。鋼板33は、石綿スレート材32が波型であれば、それに合わせて波型とし、平型であれば平型とする。同様に石綿スレート材32の下面からも鋼板33を粘着剤を介して貼着する。尚、上述した建屋のチャンネル材30は、L字のアングル材であってもよい。
【0025】
このようにして、石綿スレート材32の上下から粘着剤を介して鋼板33を順次、貼着してゆけば石綿スレート材32を鋼板で覆うことができる。本発明の石綿スレートの被覆工法によれば、既存の石綿スレート材を使用した屋根等を解体することなくそのままの状態で、鋼板で覆うことができるので石綿スレートの劣化に伴う石綿の飛散や解体工事に伴う石綿の飛散を防止することができる。
【0026】
図12は、本発明の石綿スレートの被覆工法の他の手順を示す説明図、図13は、その石綿スレートの被覆工法により被覆した屋根の側面図である。本実施例において、建屋のチャンネル材30にフックボルト31によって固定された石綿スレート材32の凹凸形状に合わせた所定の大きさの鋼板33−1を用意し、粘着剤13および発泡体34を介して上から貼着する。鋼板33の大きさは、発泡体34にフックボルト31の頭部が没入してしまうので、フックボルト31の位置に影響を受けることがない。また、横幅は作業性を考慮して任意の大きさとすることができる。鋼板33は、石綿スレート材32が波型であれば、それに合わせて波型とし、平型であれば平型とする。更に、石綿スレート材32の下面からは、鋼板33を粘着剤13を介して貼着する。また、鋼板33のフックボルト31と接する端部を一辺に発泡体34を備えたアングル材35で下から支えるとともに、建屋のチャンネル材30にボルト.ナット36で固定する。鋼板33のチャンネル材30と直接接触する端部は、アングル材35で下から支えるとともに、建屋のチャンネル材30にボルト.ナット36で固定する。さらに、図13に示すように石綿スレート材32の上下に鋼板33−1、33を重ねたものにボルト36を挿通させ、固定する。
【0027】
以上のように施工した場合、石綿スレート材32をチャンネル材30に固定するフックボルト31およびチャンネル材30の部分をも完全に鋼板で覆うことができる。したがって、石綿スレート材32を完全に密封することができる。また、発泡体34を挟むことによりフックボルト31の頭が邪魔になることがなく、断熱効果も向上する。
【0028】
なお、以上の説明は、石綿スレート材を主に屋根材として使用した場合について説明したが、壁材等の他の用途に使用した場合も同様に施工することができる。また、鉄板等に石綿を吹き付け加工した建材についても、粘着剤を使用した鉄板等で覆うことにより、石綿を密封する施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明に係る石綿スレート構造体の製造手順を示す説明図である。
【図2】図2は、同石綿スレート構造体の一例を示す縦断面図である。
【図3】図3は、同石綿スレート構造体の部分拡大断面である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施例における石綿スレート構造体を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施例における石綿スレート構造体を示す断面図ある。
【図6】図6は、本発明の第4の実施例における製造手順を示す説明図である。
【図7】図7は、同石綿スレート構造体の拡大縦断面図である。
【図8】図8は、同石綿スレート構造体を示す平面図である。
【図9】図9は、本発明の石綿スレート構造体の第5の実施例を示す拡大縦断面図である。
【図10】図10は、本発明の石綿スレートの被覆工法の手順を示す説明図である。
【図11】図11は、同石綿スレートの被覆工法により被覆した屋根の側面図である。
【図12】図12は、本発明の石綿スレートの被覆工法の他の手順を示す説明図である。
【図13】図13は、同石綿スレートの被覆工法により被覆した屋根の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 石綿スレート構造体
11 石綿スレート材
12 鋼板
13 粘着剤
14 石綿スレート材
14a 平坦部分
14b 台形部分
15 鋼板
15a 平坦部分
15b 台形部分
16 フックボルト
17 空気層
18 鋼板
19 鋼板
20 石綿スレート構造体
21 鋼板
22 発泡体
23 鋼板
30 チャンネル材
31 フックボルト
32 石綿スレート材
33 鋼板
34 発泡体
35 アングル材
36 ボルト.ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿スレート材の両面から当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板で粘着剤を介して狭持してなることを特徴とする石綿スレート構造体。
【請求項2】
石綿スレート材の一面に当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板を粘着剤を介して貼着するとともに、当該石綿スレート材の他面に矩形波状断面の鋼板を粘着剤を介して貼着してなることを特徴とする石綿スレート構造体。
【請求項3】
石綿スレート材の一面に当該石綿スレート材とほぼ同形状の鋼板を粘着剤を介して貼着するとともに、当該石綿スレート材の他面に平板状の鋼板を粘着剤を介して貼着してなることを特徴とする石綿スレート構造体。
【請求項4】
石綿スレート材の両面に当該石綿スレート材とほぼ同形状の発泡体および鋼板を粘着剤を介して貼着してなることを特徴とする石綿スレート構造体。
【請求項5】
石綿スレート材の両面を粘着剤を介して鋼板で狭持し、
当該石綿スレート材の劣化に伴う石綿の飛散を防止することを特徴とする石綿スレートの被覆工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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