説明

石膏系建材

【課題】その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り安価に且つ二次的環境汚染を引き起こすことなく抑制できる石膏系建材を提供する。
【解決手段】石膏を主材とし、これに酸化第二鉄、四三酸化鉄、これらの混合物、鉄鋼材料の製造又は加工プロセスから排出される鉄廃棄物等の鉄酸化物を配合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石膏系建材に関する。石膏を主材とする石膏系建材、例えば石膏ボードの廃材を埋立処分等に供して廃棄するときは、石膏ボードの廃材を破砕し、石膏部分と紙部分とに分けた後、石膏部分を安定型処分場で埋立処分している。しかし、その石膏部分に少量の紙類が含まれていると、また何らかの原因で有機物が存在していると、これらが嫌気性下で分解し、その分解物を栄養源とする硫酸還元菌が活性化する。そしてかかる硫酸還元菌が石膏ボードの廃材中の硫酸イオンを還元して硫化水素ガスを発生させ、かかる硫化水素ガスが周囲に充満したり、大気中に放散するという不都合を生じる。本発明はその廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても硫化水素の発生を長期間に亘り抑制できる石膏系建材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても硫化水素の発生を抑制する石膏系建材として、共に石膏を主材とし、消石灰、生石灰、セメント等のアルカリ性物質を配合したもの(例えば特許文献1参照)、またアントラキノン類やアントラヒドロキノン類等のアントラキノン化合物を配合したもの(例えば特許文献2参照)が知られており、更に硫化水素の発生阻害剤としてはアモルファス合金(例えば特許文献3参照)も知られている。しかし、アルカリ性物質を配合したものは、アルカリ性物質が経日的な炭酸化により中性化するため、長期間に亘る効果の発現に疑問があり、またアントラキノン化合物やアモルファス合金を配合したものは、それ自体が高価であるため、石膏系建材、例えば石膏ボードの持つ特長の一つである経済性が損なわれる。
【特許文献1】特開2001−327941号公報
【特許文献2】特開2002−70236号公報
【特許文献3】特開平11−156369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り安価に且つ二次的環境汚染を引き起こすことなく抑制できる石膏系建材を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を解決する本発明は、石膏を主材とし、鉄酸化物を配合して成ることを特徴とする石膏系建材に係る。
【0005】
本発明に係る石膏系建材も、石膏を主材とするものである。主材となる石膏としては、天然石膏、排脱石膏、リン酸石膏等の原料石膏に由来するβ型半水石膏、α型半水石膏、これらの混合物等が挙げられる。また対象となる石膏系建材としては、石膏ボードの他に、石膏板、スラグ石膏板、ケイカル板、石膏ブロック、石膏プラスター、石膏系パテ、石膏系目地処理材等が挙げられる。
【0006】
本発明に係る石膏系建材は、前記のように石膏を主材とするものであるが、更に鉄酸化物を配合して成るものである。鉄酸化物の配合割合は特に制限されないが、石膏100質量部当たり、0.01〜25質量部とするのが好ましく、0.1〜15質量部とするのがより好ましく、1〜10質量部とするのが特に好ましい。鉄酸化物の配合割合が、石膏100質量部当たり、0.01質量部未満になると、硫化水素の発生抑制効果が明らかに低くなり、逆に25質量部超になると、硫化水素の発生抑制効果は変わらないだけでなく、得られる石膏系建材が明らかに黒ずんで外観が見苦しくなる。
【0007】
鉄酸化物は石膏系建材の通常の製造ライン上で適宜に配合することができる。例えば、石膏ボードの場合、原料石膏からβ型やα型の半水石膏(焼石膏)を調製するとき又は調製した後、焼石膏から石膏スラリーを調製するとき又は調製した後、石膏スラリーを石膏ボード用原紙上に供給するとき又は供給した後等、いずれの段階でもよい。
【0008】
本発明に係る石膏系建材において、配合する鉄酸化物としては、酸化第二鉄(Fe)、四三酸化鉄(Fe)、これらの混合物、更には鉄鋼材料の製造又は加工プロセスから排出される鉄廃棄物、例えば切断、研削、研磨等の処理に伴って発生する粉状の鉄屑類、より具体的にはグラインダーダストやショットブラストダスト等が挙げられる。なかでも、かかる鉄廃棄物は、これに含まれる非結晶部分によるものと推察されるが、酸化第二鉄や四三酸化鉄に比べて、硫化水素の発生抑制効果が高く、しかもその処分に困っているのが実状であるところ、その有効利用を同時に図ることができるという利点がある。
【0009】
石膏を主材とし、これに鉄酸化物を配合した本発明に係る石膏系建材、例えば石膏ボードの廃材を有機物が存在する場所に廃棄すると、嫌気性下にて活性化した硫酸還元菌が石膏ボードの廃材を分解して硫酸イオンを生成させるが、同時に鉄酸化物から鉄イオンも生成させ、かかる鉄イオンが硫酸イオンを捕捉するので、硫化水素の発生が抑制されるものと推察される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る石膏系建材によると、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り安価に且つ二次的環境汚染を引き起こすことなく抑制できる。
【実施例】
【0011】
試験区分1
・石膏ボードの製造(比較例)
通常の石膏ボードの製造手順にしたがい、次のように石膏ボードを製造した。先ず、焼石膏、水、予め発泡させた泡沫及び接着剤等の添加剤をミキサーに投入し、混合して石膏スラリーとした。次に、この石膏スラリーを連続して繰り出される石膏ボード用原紙上に供給し、更に別に連続して繰り出される石膏ボード用原紙を被せて、成形機へ供し、所定寸法の生石膏ボードを成形した。最後に、この生石膏ボードを粗切りし、乾燥機に供して、自由水を蒸発させた後、所定寸法に切断して石膏ボードを得た。
【0012】
・評価
製造した石膏ボードを粉砕して廃材とした。別に、諏訪湖の浚渫土を10倍水希釈し、35℃で24時間静置したものの上澄液を硫酸還元菌培養液とした。石膏ボードの廃材100g、硫酸還元菌培養液2g、水500g、石膏成分以外の環境中に由来する有機汚濁成分として微生物反応性の高い酸化澱粉を0g、1g、3g、5g又は10gの5区分で加え、混合した。混合物を内容1.7Lの長方形のタッパに入れ、蓋を被せて、その周囲をビニールテープで密封した。蓋には、タッパ内のガスのサンプリング口を設けた。これを35℃の恒温室に最長で15週間静置した。1週毎にタッパ内のガスをサンプリングし、その硫化水素濃度(ppm)を、北川式検知管のTubeNo.120SE(光明理化学工業社製)で測定した。結果を図1に示した。図1中、白抜き丸印を結ぶ折れ線11は酸化澱粉を添加していない場合(添加量が0gの場合)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き三角印を結ぶ折れ線12は酸化澱粉を1g添加した場合の硫化水素濃度(ppm)を、黒塗り丸印を結ぶ折れ線13は酸化澱粉を3g添加した場合の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き四角印を結ぶ折れ線14は酸化澱粉を5g添加した場合の硫化水素濃度(ppm)を、そして×印を結ぶ折れ線15は酸化澱粉を10g添加した場合の硫化水素濃度(ppm)を示しており、また縦軸の硫化水素濃度2000ppmは、2000ppm以上であることを示している。図1は、いずれも比較例に相当する例の結果を示しているが、かかる図1の結果からも明らかなように、試験区分1のような場合は酸化澱粉(有機物)の添加量の増加により硫化水素ガスの濃度が上昇することがわかる。
【0013】
試験区分2
・石膏ボードの製造(実施例及び比較例)
試験区分1と同様に石膏ボードを製造した。但し、ここでは、試験区分1と同じ石膏スラリーを用いた石膏ボード(比較例1)の他に、石膏スラリーとして、焼石膏100質量部当たり、鉄酸化物としていずれも粉状のFe、Fe、グラインダーダスト又はショットブラストダストを5質量部の割合で加えたものを用いて石膏ボード(実施例1〜4)を製造した。
【0014】
・評価
製造した石膏ボードについて、試験区分1と同様に評価した。但し、ここでは、石膏ボードの廃材100gに対し、前記と同じ酸化澱粉を3g加えた。結果を図2に示した。図2中、黒塗り丸印を結ぶ折れ線21は鉄酸化物を添加していない石膏スラリーを用いた場合(比較例1)の硫化水素濃度(ppm)を、×印を結ぶ折れ線22はFeを添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例1)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き三角印を結ぶ折れ線23はFeを添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例2)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き丸印を結ぶ折れ線24はグラインダーダストを添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例3)の硫化水素濃度(ppm)を、そして白抜き四角印を結ぶ折れ線25はショットブラストダストを添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例4)の硫化水素濃度(ppm)を示しており、また縦軸の硫化水素濃度2000ppmは、2000ppm以上であることを示している。図2の結果からも明らかなように、鉄酸化物としてFe、Fe、グラインダーダスト又はショットブラストダストを配合した各実施例の石膏ボードは、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り抑制していることがわかり、なかでもグラインダーダスト又はショットブラストダストの効果が優れていることがわかる。
【0015】
試験区分3
・石膏ボードの製造(実施例)
試験区分1と同様に石膏ボードを製造した。但し、ここでは、石膏スラリーとして、焼石膏100質量部当たり、鉄酸化物としていずれも粉状のグラインダーダストを0.1質量部、0.5質量部、1質量部又は5質量部の割合で加えたものを用いて石膏ボード(実施例5〜8)を製造した。
【0016】
・評価
製造した石膏ボードについて、試験区分1と同様に評価した。但し、ここでは、石膏ボードの廃材100gに対し、前記と同じ酸化澱粉を3g加えた。結果を図3に示した。図3中、×印を結ぶ折れ線31はグラインダーダストを0.1質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例5)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き丸印を結ぶ折れ線32はグラインダーダストを0.5質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例6)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き三角印を結ぶ折れ線33はグラインダーダストを1質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例7)の硫化水素濃度(ppm)を、そして白抜き四角印を結ぶ折れ線34はグラインダーダストを5質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例8)の硫化水素濃度(ppm)を示しており、また縦軸の硫化水素濃度2000ppmは、2000ppm以上であることを示している。図3の結果からも明らかなように、鉄酸化物としてグラインダーダストを配合した各実施例の石膏ボードは、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り安定して抑制していることがわかり、その配合量は、石膏100質量部当たり、0.1〜5質量部の割合でこの割合が増加するにつれて有効であることがわかる。
【0017】
試験区分4
・石膏ボードの製造(実施例)
試験区分1と同様に石膏ボードを製造した。但し、ここでは、石膏スラリーとして、焼石膏100質量部当たり、鉄酸化物としていずれも粉状のショットブラストダストを0.1質量部、0.5質量部、1質量部又は5質量部の割合で加えたものを用いて石膏ボード(実施例9〜12)を製造した。
【0018】
・評価
製造した石膏ボードについて、試験区分1と同様に評価した。但し、ここでは、石膏ボードの廃材100gに対し、有機物として酸化澱粉を3g加えた。結果を図4に示した。図3中、×印を結ぶ折れ線41はショットブラストダストを0.1質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例9)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き丸印を結ぶ折れ線42はショットブラストダストを0.5質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例10)の硫化水素濃度(ppm)を、白抜き三角印を結ぶ折れ線43はショットブラストダストを1質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例11)の硫化水素濃度(ppm)を、そして白抜き四角印を結ぶ折れ線44はショットブラストダストを5質量部の割合で添加した石膏スラリーを用いた場合(実施例12)の硫化水素濃度(ppm)を示しており、また縦軸の硫化水素濃度2000ppmは、2000ppm以上であることを示している。図4の結果からも明らかなように、鉄酸化物としてショットブラストダストを配合した各実施例の石膏ボードは、その廃材を有機物が存在するような場所に廃棄した場合であっても、硫化水素の発生を長期間に亘り安定して抑制していることがわかり、その配合量は、石膏100質量部当たり、0.1〜5質量部の割合でこの割合が増加するにつれて有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の石膏ボードの廃材を廃棄したときの硫化水素の発生濃度を例示するグラフ。
【図2】本発明に係る石膏ボード等の廃材を廃棄したときの硫化水素の発生濃度を例示するグラフ。
【図3】本発明に係る他の石膏ボード等の廃材を廃棄したときの硫化水素の発生濃度を例示するグラフ。
【図4】本発明に係る更に他の石膏ボード等の廃材を廃棄したときの硫化水素の発生濃度を例示するグラフ。
【符号の説明】
【0020】
11〜15,21 比較例についての折れ線
22〜25,31〜34,41〜44 実施例についての折れ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏を主材とし、鉄酸化物を配合して成ることを特徴とする石膏系建材。
【請求項2】
石膏100質量部当り鉄酸化物を0.01〜25質量部の割合で配合した請求項1記載の石膏系建材。
【請求項3】
鉄酸化物が、酸化第二鉄、四三酸化鉄又はこれらの混合物である請求項1又は2記載の石膏系建材。
【請求項4】
鉄酸化物が、鉄鋼材料の製造又は加工プロセスから排出される鉄廃棄物である請求項1又は2記載の石膏系建材。
【請求項5】
鉄酸化物が、非結晶部分を含有するものである請求項1〜4のいずれか一つの項記載の石膏系建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290877(P2007−290877A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117363(P2006−117363)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(506138731)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】