説明

石製扉の軸支持構造

【課題】基台や扉体に対し回動軸の精度良い配置や固定が容易であり、軸支持部の経年変化による扉体の傾斜の抑制や円滑な回動、及び開閉動の維持が可能な石製扉の軸支持構造を提供する。
【解決手段】基台面上に鉛直状に立設保持した回動軸をもって開閉動させる扉体の軸支持構造であって、回動軸は、基台を貫通して基台上面に延出させる軸柱体と、軸柱体に回動可能に嵌合し、扉体の左右一端側に配置した軸受部と、から成り、かつ軸柱体は、基台下面に当接するフランジを備え、フランジから鉛直状に形成する。このフランジは、閉じた扉体の重心の垂下位置方向へ偏向して拡張させる。また、軸受部は、一端側に扉体の下端面に当接するフランジを備え、かつフランジから鉛直状に立設させた円筒状に形成している。軸受部のフランジも、扉体の重心の垂下位置方向に偏向かつ拡張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鉛直状に保持した回動軸をもって開閉動させる片持構造の扉体の軸支持構造であって、特に比較的重量物である石製扉の軸支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、図4(A)に示すように、墓石Gの前に線香やリン、ロウソクなどの葬祭用品を収納して置くため収納箱5(以下、「香炉箱」と称する。)を配置する墓仕様が増えてきている。
【0003】
かかる香炉箱5には、単にこれら用品の保管のみを目的として扉体や引戸により開閉式にしたものの他に、全面に観音開き式又は片開き式の開閉扉54を設け、墓参時にこれを開放させて焼香空間を構成する仕様のものもある。また、仕様によってはロウソクやリンなどを飾るための載置台を扉体54の裏面側に突出させて一体形成したものもある。
【0004】
このような観音開き式、又は片開き式の扉体54は、多くは墓石Gと共通の石材で形成されており、また上述した載置台を取り付けた扉体54ではかなりの重量物となっていた。この扉体54は下端側の回動軸6をいわゆる"片持状"に支持しているため、回動軸6の位置と重量物である扉体54の重心位置の離隔によって回動軸6には大きなモーメント荷重(曲げモーメント等を発生させる荷重)が作用することになり、その負担と耐久性の確保が課題であった。
【0005】
この点を考慮して一般的な従来の扉体54の回動軸6は、図4(B)に示すような構造が採られていた。すなわち、耐久性の高い金属材、主にステンレス材から成る軸柱体61とこの軸柱体61を嵌合する円筒状の軸受部62とから回動軸6を成し、軸柱体61を香炉箱5の基台上面に形成した軸支孔51aに略垂直に立設保持し、軸受部62を扉体下端面に形成した軸受孔54aに配置することにより、基台51に対して扉体54を回動自在に軸支持する構造であった。なお、軸柱体61及び軸受部62は、通常、基台上面や扉体下端面に当接して所定の鉛直度を得るためのフランジ63をその周囲に形成しており、軸柱体61及び軸受部62の基台51や扉体54への固定は接着剤で行っているものであった。
【0006】
また、上記構造を変形させた軸支持構造としては、金属材から成る軸柱体を基台に開設した軸支孔に挿入させて下端側をネジや接着等の手段によって略垂直に立設保持し、この軸柱体を扉体の下端面から垂直上方に形成した中空孔に挿入すると共に、軸柱体と中空孔の内周面に合成樹脂を充填、硬化させて軸受部を形成し、基台に対して扉体を回動自在に軸支持する構造が開示されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−164822(第2−4頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した回動軸の軸柱体や軸受部を配置するための軸支孔等の開設は、石材用の穿孔ドリル等で行っているため、精密な鉛直度と開口径を確保することは困難なものであった。
【0008】
このため、従来の石製扉の軸支持構造は、軸支孔等の開口を予め大きめな寸法に加工し、軸支孔等に回動軸を配置した後に周囲に接着剤を充填し、回動軸の構成要素間の位置ズレや鉛直度を調整、別言すれば芯出し作業を行いつつ接着剤を硬化させて構築するものが一般的であった。
【0009】
しかしながら、かかる構築方法による従来の軸支持構造は、芯出し作業が面倒な上、温度環境によっては接着剤硬化後の歪みにより回動軸の嵌合状態が悪くなり、扉体の円滑な回動を確保できない、いわゆる"ガタ"が発生する品質管理上の問題があった。さらに墓石設置の扉体の場合にあっては、開閉動は年に数回の墓参時に限られ、殆どは閉じた状態で長時間維持されることとなるため、静止モーメント荷重が偏った定位置に長時間作用したままとなる弊害があった。
【0010】
かかる仕様は、長期経過により、扉体の回動先端側が漸次下降してその下端面と基台上面との間隙(クリアランス)がなくなって開閉時に基台と扉体が干渉したり、閉じ合わせができなくなったりする等の障害が発生していた。
【0011】
特許文献1の軸支持構造は、扉体の下端側に形成した軸支孔に軸柱体を挿入し、軸柱体の周囲に二液硬化性の合成樹脂材を充填して硬化するまでの間に、現物合わせによって適宜修正しながら、軸受部の鉛直性と同軸性を確保していた。また、軸柱体の幹部は、上面から基台を貫通させて、下部からナットの締結によって鉛直に保持しており、このナットの適宜の締緩によって軸柱体の芯出し調節を行っていた。
【0012】
しかしながら、軸受部の形成には硬化用合成樹脂材や専用治具を必要とする上、合成樹脂材の混合や軸支孔等への充填作業などの煩雑な作業を伴い、コストアップ等を招いていた。また、扉体は片持状態での長年の使用によって軸柱体のナットの締め付けが緩んだり、また軸受部を構成する内周面の樹脂材の歪みによって、扉体の回動先端側が下降して扉体全体が傾斜する事態が発生していた。このため、定期的に点検して適宜にナットの増し締めを行って軸柱体の鉛直度の修正を行ったり、場合によっては軸受部を再度形成するなどの補修作業が必要となる課題があった。
【0013】
そこで、本願発明は上記課題を解決するために為されたものであり、基台や扉体に対し回動軸の精度良い配置及び固定が容易であり、さらには軸支持部の経年変化による扉体の傾斜を抑制し、扉体の円滑な回動及び開閉動を維持可能な石製扉の軸支持構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本願発明にかかる石製扉の軸支持構造は、以下のように構成している。
【0015】
すなわち、基台面上に鉛直状に立設保持した回動軸をもって開閉動させる扉体の軸支持構造であって、該回動軸(2)は、基台(51)を貫通して基台上面に延出させる軸柱体(21)と、該軸柱体(21)に回動可能に嵌合し、扉体(54)の左右一端側に配置した軸受部(22)と、から成り、かつ、上記軸柱体(21)は、基台下面に当接するフランジ(21a)を備え、該フランジ(21a)から鉛直状に形成する構成としている。この構成により、基台下面側はフランジ(21a)の厚み分において傾くことになるため、基台下面の別位置に高さ調整用の調整板(4)を配置することが望ましいものである。
【0016】
上記フランジ(21a)は、少なくとも閉じた扉体(54)の重心の垂下位置方向へ偏向して拡張させている。したがって、扉体(54)を観音開きする構成の場合は、フランジ(21a)の偏向方向は基台内側方向となる。
【0017】
また、軸受部(22)は、一端側に扉体(54)の下端面に当接するフランジ(22a)を備え、かつ該フランジ(22a)から鉛直状に立設させた円筒状に形成して構成している。
【0018】
軸受部(22)のフランジ(22a)も、軸柱体(21)のフランジ(21a)と同様に少なくとも扉体(54)の重心の垂下位置方向、別言すれば扉面に沿った方向に偏向かつ拡張させている。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の石製扉の軸支持構造は上記の構成であるため、以下の効果を発揮する。すなわち、軸柱体のフランジは、基台下面に当接すると共に扉体の重心の垂下位置方向に偏向しつつ拡張しているため、フランジの当接面には基台及び扉体の荷重がより直接的に作用することとなる。かかる荷重は、軸柱体を傾斜させる(又は曲げる)方向に作用するモーメント荷重に対抗しており、軸柱体の立設状態が格段に安定することになる。
【0020】
これにより、軸柱体は固定用接着剤の硬化後の歪みにより傾斜等することが抑制されて、固定作業時に従来は行っていた軸柱体の鉛直度修正の必要がなくなり、その作業及び作業後の品質管理が容易となる。
【0021】
本構造の使用時において、扉体の閉塞維持や開閉動による回動軸に作用する繰り返しのモーメント荷重や経年変化によって接着剤に歪みが生じた場合であっても、扉体の傾斜が抑制され、扉体の安定的な回動状態を維持する顕著な効果を発揮する。
【0022】
加えて、本構造は、従来の石材加工仕様に変更を加えることなく、回動軸を構成する金具を変更するのみであるため、従来の扉体にも適用することができ、扉体の耐久性と信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願発明に係る石製扉の軸支持構造(以下、「本構造」と略称する。)の具体的実施形態例について、図面に基づき詳細に説明する。以下においては、本構造を石製の造作物である香炉箱の扉体の軸支持構造に採用した場合として説明する。
【0024】
図1は本構造の外観を示す一部切り欠き斜視図であり、図2は本構造を示す組立斜視図であり、図3は本構造を示す断面図であり、図4は墓石の外観を示す斜視図(A)と従来の軸支持構造を示す斜視図(B)である。
【0025】
まず、香炉箱5は、一般的に図4(A)に示すように、墓石Gの前面側に配置する経机の外観を呈した石製造作物である。この香炉箱5は、図1に示すように、板状の基台51に平面視コ字状の立枠52を立設し、この立枠52の上面側を覆うように天面板53を配置し、立枠52の開放面側に観音開き式の2枚の扉体54、54を配置して構成している。上記構成により香炉箱5は、内部に収納空間を形成して、線香を載置する香炉、鈴や蝋燭立て(図示省略)等の葬祭用品の収納と共に、扉体54の裏面側に一体形成した場合の載置台の格納空間としている。さらに各扉体54には透かし彫り54cの意匠的施しや、開閉動のための取手54bを取り付けている。
【0026】
本構造1は、扉体54を基台51に立設させた回動軸2をもって回動自在に保持して構成している。
【0027】
この回動軸2は、基台51に配置した軸柱体21と、扉体54に配置されて軸柱体21と嵌合する軸受部22と、から成る。軸柱体21及び軸受部22は、加工性や耐久性、及び防塵性を考慮して、ステンレス材からの形成が好ましいが、その他、防錆鉄、チタン、アルミ等の金属、硬質性の合成樹脂を選定することも可能である。また、回動軸2の軸柱体21は、中実丸棒体(円柱体)に形成しているが、軽量化を図るため中空体(円筒体)に形成しても良い、この場合は金属の他に、セラミックスやセラミックスの金属被覆仕様など種々の構成が選択可能である。
【0028】
軸柱体21は、基台51の鉛直方向に貫通させた軸支孔51aに配置している。軸柱体21には、一端側に軸方向と垂直な当接面を持ったフランジ21aを形成している。このフランジ21aの当接面は、軸柱体21を軸支孔51aに貫通させた場合に基台51の下面に当接させるものであり、扉体54の重心の垂下位置方向、少なくとも香炉箱5において閉じた扉体54の合わせ位置方向に偏向させた面を持たせている。本実施例では、フランジ21aを軸径寸法の4〜5倍程度において拡張させた上面視長円状に形成している。また、フランジ21aの下面には、基台51の設置時の安定性を考慮して合成樹脂、例えば、ゴム、ウレタン材から成る緩衝板21bを配置している。また、軸柱体21は、その上端部を半球状にすると共に、側面部には軸受部22との嵌合時に注入する潤滑油保持用としてヘアライン加工を水平方向に施している。
【0029】
軸柱体21の基台51への固定は、基台51の下面から軸支孔51aを貫通させた後、軸柱体21と軸支孔51aとの間隙に接着剤3を充填して固着させている。接着剤3の硬化後は、基台51の下面へ当接させたフランジ21aと直交した軸柱体21と基台51が一体となり、調整の必要ない強固な軸の鉛直度が確保されている。
【0030】
次に、軸柱体21と共に回動軸2を構成する軸受部22は、扉体54の一端側に配置している。軸受部22は、扉体54の下端面から鉛直に開設した非貫通の軸受孔54aに内接させる上部閉塞の円筒体22bと、該円筒体22bの下端の開口縁部から該円筒体22bと直角方向への延出面をもったフランジ22aとから成る。このフランジ21aの延出面は、扉体54の重心の垂下位置方向、別言すると、扉体54の閉じ合わせ位置方向に偏向させて拡張させている。本実施例では、フランジ22aを、円筒体22bの外径寸法の4〜5倍程度において拡張させた上面視長円状に形成している。なお、この軸受部22のフランジ22aと回動軸2のフランジ21aとは同形状としても良い。円筒体22bの上部に位置する底部は、嵌合時の軸柱体21の上端部が当接して扉体54の略全荷重を支持する。またその深さ(又は挿入長)と、軸柱体21の嵌合長さとの調整によって、基台51の上面と扉体54の下端面との間隙(クリアランス)を設定している。
【0031】
このように構成した軸受部22の扉体54への固定は、軸柱体21と同様に接着剤3を用いている。この固定時には、拡張させたフランジ22aを扉体54の下端面に当接させて鉛直性を確保しつつ、接着剤3の硬化前に扉体54との同軸度の調整を行い、接着剤3の硬化により鉛直性の確保を強固に維持できるようにしている。
【0032】
なお、基台51の下面には、軸柱体21のフランジ21aと緩衝板21bとの厚さ分だけの出張りができるため、基台下面に当該フランジ21aの位置と対向する2箇所に調整板4を配置して、基台51の水平置きを確保している。
【0033】
本構造1は、上記構成の回動軸2をもって重量物(例えば、石製)である扉体54を片持状に軸支持する構成により、扉体54を傾斜させるように作用するモーメント荷重(矢印a)には、軸柱体21のフランジ21aの当接面に作用する基台51のモーメント荷重(矢印b)が対抗している。詳述すると、扉体54を傾斜させるモーメント荷重は、回動軸2の軸受部22のフランジ22a及び円筒体22b、そして円筒体22bに嵌合する軸柱体21、そのフランジ21aの順に作用する。一方、軸柱体21のフランジ21aは閉塞時における扉体54の重心の垂下方向に拡張させているため、その当接面には基台51の荷重によるモーメント荷重が作用することなり、これが扉体54を傾斜させるモーメント荷重に対抗している。
【0034】
また、上記モーメント荷重等による外力の伝達は、剛性の高い回動軸2の各構成要素が担っており、剛性の低い接着剤を介在させることない。この結果、回動軸2には固定用の接着剤3の歪み、例えば、硬化時や経年変化による歪みの影響は殆どなく、回動軸2の固定作業時における回動軸2の傾斜はもとより、扉体54の配置後においても扉体54の傾斜が抑制され、安定的な開閉動状態を得ている。
【0035】
なお、本構造1の回動軸2は、基台側に軸柱体21を配置し、扉体側に軸受部22を配置する構成であるが、当該構成に限定するものではなく、これとは逆に基台側に軸受部22を配置し、扉体側に軸柱体21を配置する構成にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本構造の外観を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】本構造を示す組立斜視図である。
【図3】本構造を示す断面図である。
【図4】墓石の外観を示す斜視図(A)と従来の軸支持構造を示す斜視図(B)である。
【符号の説明】
【0037】
1 本構造
2 回動軸
21 軸柱体
21a フランジ
21b 緩衝板
22 軸受部
22a フランジ
22b 円筒体
3 接着剤
4 調整板
5 香炉箱
51 基台
51a 軸支孔
52 立枠
53 天面板
54 扉体
54a 軸受孔
54b 取手
54c 透かし彫り
6 回動軸(従来例の)
61 軸柱体
62 軸受部
63 フランジ
G 墓石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台面上に鉛直状に立設保持した回動軸をもって開閉動させる扉体の軸支持構造であって、
該回動軸(2)は、基台(51)を貫通して基台上面に延出させる軸柱体(21)と、
該軸柱体(21)に回動可能に嵌合し、扉体(54)の左右一端側に配置した軸受部(22)と、から成り、
かつ、上記軸柱体(21)は、基台下面に当接するフランジ(21a)を備え、該フランジ(21a)から鉛直状に形成したことを特徴とする石製扉の軸支持構造。
【請求項2】
フランジ(21a)を、少なくとも閉じた扉体(54)の重心の垂下位置方向へ偏向して拡張させたことを特徴とする請求項1記載の石製扉の軸支持構造。
【請求項3】
軸受部(22)の形成において、一端側に扉体(54)の下端面に当接するフランジ(22a)を備え、かつ該フランジ(22a)から鉛直状に立設させた円筒状に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の石製扉の軸支持構造。
【請求項4】
軸受部(22)のフランジ(22a)を、少なくとも扉体(54)の重心の垂下位置方向へ偏向して拡張させたことを特徴とする請求項1、2、又は3記載の石製扉の軸支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−208670(P2008−208670A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48423(P2007−48423)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(506035821)カンノ・トレーディング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】