研磨装置及び研磨方法
【課題】 両面同時研磨機等の遊星キャリアを使用した研磨機において、少なくとも、研磨時に表示パネルの端面が起点となっている割れが生じないようにする。
【解決手段】 上定盤と、この上定盤と対向して配置されて上定盤と逆向きに回転する下定盤と、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、被研磨物を保持する保持穴が形成され、外歯により太陽ギヤとインターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリア5を有する。遊星キャリア5の保持穴10には、当該遊星キャリア5の回転時にこの保持穴10において被研磨物側面と当接する側の辺10a(10b)に切り欠きが設けられている。
【解決手段】 上定盤と、この上定盤と対向して配置されて上定盤と逆向きに回転する下定盤と、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、被研磨物を保持する保持穴が形成され、外歯により太陽ギヤとインターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリア5を有する。遊星キャリア5の保持穴10には、当該遊星キャリア5の回転時にこの保持穴10において被研磨物側面と当接する側の辺10a(10b)に切り欠きが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば表面が平坦化されたガラス基板及び液晶ディスプレイ用の表示基板などの研磨を行う研磨装置及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単に通話機能を有する従来の携帯電話機に加え、個人用の携帯コンピュータの機能を併せ持った高機能な携帯電話機(所謂スマートフォン)の普及が進んでいる。このような携帯端末機器の表示部には、液晶パネルや有機EL(エレクトロ・ルミネセンス)パネルなどの薄型パネルディスプレイ(FPD)が用いられることが多い。薄型パネルディスプレイすなわち表示パネルは、これらの携帯端末機器に取り付けられる前に、表面(及び裏面)の研磨が行われる。例えば、図11に示すような、カラーフィルタ15とTFT(Thin Film Transistor)基板16を貼り合わせた液晶パネルの研磨工程においては、液晶パネルの薄型化と同時に強度も要求されている。カラーフィルタ15とTFT基板16はいずれもガラス基板を主たる構成要素としている。
【0003】
従来、表示パネルの研磨を行う研磨機として、両面同時研磨機が知られている。両面同時研磨機は、被研磨物を保持する遊星キャリアを遊星運動させ、上定盤と下定盤の間で遊星キャリアの保持穴に保持した被研磨物を研磨する方式で、被研磨物の両面が同時に加工できる。研磨中は、上定盤から供給されるスラリー(研磨剤)が、上定盤と下定盤との間に介在し、被研磨物の表面を研磨していく。
【0004】
例えば、被研磨物を研磨する技術として、特許文献1に、被研磨物の片面研磨(片面接着)を行うにあたって該被研磨物の取り出しを容易にするために、位置決め用穴の任意の一箇所に切り欠きを設けていることが記載されている。
特許文献2には、被研磨物保持具の略矩形に形成されたリセス穴2の4隅に逃げ(注入孔5)を設けて、被研磨物の研磨を行う研磨装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−230866号公報
【特許文献2】特開2001−198805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、強度試験機を使用して、両面同時研磨機により研磨した表示パネルの割れ強度を測定した場合、図12に示すとおり、2種類の割れモードが確認される。図12Aは端面が起点となっている割れ21であり、図12Bは面内が起点となっている割れ22である。端面が起点となる割れはJIS方式による強度試験で顕著に発生する。また面内が起点となっている割れはDIG方式による強度試験で顕著に発生する。
【0007】
現在、携帯端末機器の高機能化が飛躍的に進み、それとともに携帯端末機器を所有して携帯する個人が増えている。このようなユーザーの動向に合わせて、さらに割れ強度の強い表示パネルが望まれている。
【0008】
特許文献1に記載された研磨機では、研磨後の被研磨物の強度は向上せず、被研磨物の強度向上に寄与するものではなかった。
また、特許文献2に記載された研磨装置においては、被研磨物端面(側面)と被研磨物保持具のリセス穴2の辺が、該辺の中心を含む長い部分にわたって接触するために、被研磨物の強度が低下してしまう。
【0009】
本開示は、上記の状況を考慮してなされたものであり、両面同時研磨機等の遊星キャリアを使用した研磨装置において、少なくとも、研磨時に表示パネルの端面が起点となっている割れが生じないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面は、上定盤と、この上定盤と対向して配置されて上定盤と逆向きに回転する下定盤と、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、被研磨物を保持する保持穴が形成され、太陽ギヤとインターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する。そして、遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に保持穴の被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている。
【0011】
本開示の一側面によれば、切り欠きを形成することにより、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリアの保持穴の辺との接触を回避、もしくは接触長さ(面積)を減少させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一側面によれば、研磨時に被研磨物の端面が起点となっている割れが生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の概要を説明するための外観図である。
【図2】本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の遊星キャリアの説明に供する斜視図である。
【図3】本開示の第1の実施形態に係る遊星キャリアの一例を示す平面図である。
【図4】保持穴に被研磨物が装着されている状態の、遊星キャリアの保持穴逃げ部付近のA−A線における断面図である。
【図5】研磨装置に対するスラリーの供給例を示す説明図である。
【図6】研磨装置の動作例を説明するための概略図である。
【図7】JIS方式強度試験による被研磨物の強度の測定方法を示す説明図である。
【図8】破壊強度と累積不良率との関係例を示したグラフである。
【図9】タグチメソッドで解析した結果の一例を示す説明図であり、AはS/N(安定度)についての結果、Bは感度(特性値)についての結果を示している。
【図10】より適切な条件で研磨を行ったときの被研磨物の平均強度の改善度を示すグラフである。
【図11】表示パネルの一例を示す斜視図である。
【図12】表示パネルに生じる割れの種類を示す説明図であり、Aは端面が起点となっている割れであり、Bは面内が起点となっている割れである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示を実施するための形態の例について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0015】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.導入説明
2.第1の実施形態(遊星キャリア:保持穴に逃げ部を設けた例)
3.第2の実施形態(研磨条件:制御因子を適切に設定した例)
【0016】
<1.導入説明>
本発明者らは、上述した2種類の割れモードのうち、被研磨物の端面が起点となっている割れ(図12A参照)の原因は、研磨中に被研磨物と遊星キャリアが接触することにより、側面にクラックが入り、そこが原因で強度不足を招いてしまうと考えた。
そこで、本発明者らは、被研磨物の端面が基点となっている割れの防止策として、被研磨物側面と遊星キャリアの接触を防止することが有効であろうと考えた。この防止策を、第1の実施形態として具現化した。
【0017】
一方、本発明者らは、被研磨物の面内が起点となっている割れ(図12B参照)の原因は、研磨条件が最適化されていないために、研磨と粒によって面内に発生した極微細なクラック(マイクロクラック)が原因となり強度不足を招いていると考えた。
そこで、本発明者らは、被研磨物の面内が基点となっている割れの防止策として、研磨条件を最適化(最短で最適値を算出)することが有効であるという技術的思想に思い至った。この防止策を、第2の実施形態として具現化した。
【0018】
<2.第1の実施形態>
[研磨装置の構成例]
本開示の第1の実施形態に係る研磨装置について、図面を参照して説明する。
第1の実施形態は、本開示に係る研磨装置を、両面同時研磨機に適用した例である。はじめに、図1〜図3を参照して本開示に係る研磨装置が適用された両面同時研磨機の構造を説明する。
【0019】
図1は、本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の概要を説明するための外観図である。この図では、遊星キャリアの記載を省略している。
図2は、本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の遊星キャリアの説明に供する斜視図である。
図3は、本開示の第1の実施形態に係る遊星キャリアの一例を示す平面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態の研磨装置は、上定盤1と、この上定盤1と対向して配置される下定盤2と、太陽ギヤ3と、インターナルギヤ4を具備している。これらの4つのギヤ(回転体)は、それぞれ独立に回転数を選択して回転させることが可能である。
【0021】
上定盤1は、被研磨物の表示パネルを上側から押さえる円環状の円盤であり、上定盤回転駆動部1Aの回転力が伝達されて回転する。下定盤2は、被研磨物をのせて回転する円環状の円盤であり、下定盤受け(図示略)からの回転力が伝達されて回転する。研磨時の上定盤1と下定盤2は、互いに逆方向に回転する。例えば研磨装置を上から見た場合、上定盤1の回転方向Duが時計回りのとき、下定盤2の回転方向Dlは反時計回りである。
【0022】
太陽ギヤ3は、上定盤1と下定盤2の中心に位置する外歯歯車であり、遊星キャリア5の歯形と同サイズの歯形を使用している。上定盤1及び下定盤2と同一の回転軸で回転し、サンギヤとも呼ばれる。一方、インターナルギヤ4は、下定盤2の外周周囲に位置する内歯歯車であり、遊星キャリア5の歯形と同サイズの歯形を使用している。上定盤1及び下定盤2と同一の回転軸で回転する。
【0023】
上定盤1と下定盤2の間に配置された遊星キャリア5は、比較的薄い円盤形状であって、その外周面に歯(凹溝)が切られており、太陽ギヤ3及びインターナルギヤ4と係合して自転しながら公転する。太陽ギヤ3の回転方向Dsとインターナルギヤ4の回転方向Diは同一であり、2つのギヤの回転速度の違いにより遊星キャリア5の自転方向が決まる。遊星キャリア5の材質としては、鋼板、ガラスエポキシ樹脂、塩化ビニール板等が用いられる。
【0024】
例えば、太陽ギヤ3がインターナルギヤ4より速く回転(反時計回り)した場合、遊星キャリア5の自転方向は時計回りDc1となる。一方、インターナルギヤ4が太陽ギヤ3より速く回転(反時計回り)した場合、遊星キャリア5の自転方向は反時計回りDc2となる。
なお、下定盤2の回転が反時計回りDlの場合、遊星キャリア5の自転が時計回りDc1が「正転」である。また、下定盤2の回転が反時計回りDlの場合、遊星キャリア5の自転が反時計回りDc2が「逆転」である。
【0025】
また遊星キャリア5は、図3に示すように、その平面部分に被研磨物が挿入される複数の保持穴10が形成されている。単個状に切り出した液晶パネル等の表示パネルは、遊星キャリア5の保持穴10に充填されて研磨処理の間保持される。
【0026】
保持穴10は、ほぼ矩形形状であり、その長手方向が遊星キャリア5の径方向と平行に形成されている。そして、この保持穴10を構成する対向する2つの長手方向の辺10a,10bのほぼ中心部分(中心付近)を切り欠き、逃げ部11a,11bを形成している。このように保持穴10に切り欠き、すなわち逃げ部11a,11bを形成することによって、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリア5の保持穴10の長手方向の辺10a,10bとの接触を回避、もしくは接触長さ(面積)が減少する。
【0027】
図4は、保持穴10に被研磨物が装着されている状態の、保持穴10の逃げ部11a,11b付近のA−A線における断面図を示している。
一例として、遊星キャリア5の自転が逆転(反時計回りDc2)である場合、慣性力により被研磨物が保持穴10の逃げ部11aが形成された辺10a側に流されて押しつけられる。被研磨物の側面は当接する遊星キャリア5の辺10aから抗力Fを受け、それにより、被研磨物の側面にクラックが発生する可能性が生じる。
【0028】
本例では、上記のとおり、逃げ部を形成することにより、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリア5の保持穴10の辺10a,10bとの接触を回避、もしくは接触長さ(面積)を減少させることにより、従来に比してクラックの発生を抑えることができる。
【0029】
なお、本例では、保持穴10の大きさを被研磨物が丁度入る大きさではなく、少し大きめに形成している。それにより、保持穴10と被研磨物との間にガタを作ることで、保持穴10の辺と被研磨物が接触する機会を減らし、クラックの発生をさらに少なくしている。
【0030】
なお、図3の例では、逃げ部11a,11bの切り欠き形状を、半円又は楕円の曲線形状としているが、四角形の3辺や三角形の2辺を使用した形状などでもよい。
【0031】
このような構成により、被研磨物を保持する遊星キャリア5を遊星運動させ、上定盤1と下定盤2の間で被研磨物を研磨し、被研磨物の両面を同時に加工することができる。
【0032】
[研磨装置の動作例]
上記構成の研磨装置の動作について説明する。
図5は、研磨装置に対するスラリーの供給例を示す説明図である。
図6は、研磨装置の動作例を説明するための概略図である。
【0033】
一般に、研磨処理が開始されると、図5に示すように供給されたスラリー(研磨剤)7は、上定盤1に形成された穴などを通して下定盤2側に落ちる。そして、スラリー7が、上定盤1と下定盤2との間に介在している間、上定盤1又は下定盤2と被研磨物に圧力Pを加えながら相対運動させ(図6参照)、スラリー7に含まれると粒の転がり、引っ掻き、破砕等を利用して被研磨物の表面を滑らかに、かつ高精度に仕上げる。
【0034】
[強度試験]
研磨後の被研磨物の強度試験は、図7に示す原理の強度試験機を使用して、測定を行う。図7の例は、JIS方式の強度試験の原理を示している。JIS方式の強度試験は、例えば、30cm離した棒状の2つの台18A、18Bの上に被研磨物として、カラーフィルタ15とTFT基板16を貼り合わせた液晶パネルが水平に載置されている。そして、規定された方法に沿って上方から突部を持つ物体17を落下させ、クラックの発生や割れの状態を観察する。さらに、JIS方式と併せてDIG方式の強度試験(図示略)も実行し、研磨後の被研磨物の強度を測定する。
なお、現在の表示パネルの目標強度として、11Nが要求されている。
【0035】
図8は、遊星キャリア5の保持穴10に逃げ部11a,11bを設けたときの液晶パネル(図11)の強度試験(この例ではJIS方式)の測定結果を示したグラフである。図9のグラフは、破壊強度(N)と累積不良率F(t)(%)との関係例を示したものであり、いわゆるワイブル分布である。
当初、逃げ部11a,11bを設ける前の強度に関して、1000個の液晶パネルについて強度試験を行うと、破壊強度8Nと強度不足の液晶パネルが存在することを示している。これに対し、逃げ部11a,11bを設けた遊星キャリア5を使用することによって、破壊強度25Nと3倍以上の強度が確保できた。これは、現在の表示パネルの目標強度とされる11Nを満たしている。
【0036】
上述した第1の実施形態によれば、遊星キャリアの被研磨物の保持部に逃げ部(切り欠き)を設けることにより、大幅な強度向上を確保することができる。一例として、ワイブル分布上で3倍の強度向上が見られた。
【0037】
<3.第2の実施形態>
本開示の第2の実施形態について、表1と図9を参照して説明する。
表1に示すとおり、研磨の制御因子として8項目を挙げて、その各項目に対する3段階の水準設定を行った。なお、表中の「比重」、「粒度」、「流量」、「スラリー温度」は、スラリーについての項目である。また、「立ち上がり4ステップ」は、各ギヤが回転速度を4段階で規定速度へ上げるまでの時間を示している。「正転・逆転」は遊星キャリア5の回転方向を示す。押し圧は、上定盤1(又は下定盤2)を被研磨物へ押しつける圧力である。なお、下定盤2の回転数が30rpm、35rpm、40rpmのとき、一例として上定盤1の回転数はそれぞれ、10.2rpm、11.9rpm、13.6rpmである。
【0038】
【表1】
【0039】
この水準1〜3についてタグチメソッドを使用して解析した結果を、図9に示す。なお、実験の都合により、表1の各項目に対する水準1〜3の条件と、図9に示す各項目に対応する水準の条件が一部異なる。
図9Aのグラフは、被研磨物を製品として生産した場合の強度に関する安定度(S/N比)を示している。一方、図9Bのグラフは、制御因子の各項目での強度(感度(特性値))を示している。Goodの方向が安定度が高く、また強度(感度)が高いことを示している。
【0040】
図10の柱状グラフに示すように、JIS方式の強度試験の結果、制御因子の各項目の条件を最適化する前の液晶パネルの平均強度は10.9Nであった。
次に、遊星キャリア5の自転を逆転、スラリー比重70g/cm3、スラリー粒度は♯1500、立ち上がり時間を19分、下定盤回転数35rpm、押し圧を15kPaに設定し、各項目の条件を最適化することにより、液晶パネルの平均強度13.9N以上の結果が得られた。これは、現在の表示パネルの目標強度とされる11Nを満たし、なおかつ25%もの向上である。
【0041】
なお、図9A,図9Bのグラフから、安定度が高くさらに、強度を維持できる条件を各水準で選定してもよい。
例えば、S/N比と感度のグラフに示すように、確かにGOODの方向が強度が高くなる。しかし、スラリーの粒度を1000番に選定した場合、1500番よりも入手しやすく、製造を行うにあたって在庫管理等が容易であるといえる。
また、立ち上げステップ4ステップも、生産性を優先するならば12分を選択してもよい。押し圧は、製品へのダメージを低減したい場合には、12kPaを選択するなどが考えられる。
【0042】
上述した第2の実施形態によれば、研磨時の制御因子の各項目の条件、すなわち研磨条件の最適化により、被研磨物の強度を向上させることができる。
【0043】
なお、第1の実施形態に係る逃げ部が形成された遊星キャリアを用いた研磨方法に対し、第2の実施形態に係る研磨時の制御因子の各項目の条件を最適化する方法を適用することも可能である。この場合、双方の実施形態が奏する効果を得ることができる。
【0044】
また、第1の実施形態では、遊星キャリアの保持穴に形成する逃げ部(切り欠き)を2箇所に設けている。しかし、一般に、遊星キャリアの自転が正転の場合、遊星キャリアすなわち被研磨物に対して、負荷が増加する傾向にある。したがって、遊星キャリアの自転が正転の場合に被研磨物側面と当接する側の、保持穴の1辺にのみ切り欠きを設けてもよい。もちろん、遊星キャリアの自転が逆転の場合に被研磨物側面と当接する側の辺に逃げ部を設けることは可能である。
なお、第1の実施形態のように保持穴の2辺に逃げ部を設けた場合、遊星キャリアの正転と逆転を切り替えて研磨を行う場合に対応が可能である。
【0045】
また、上述した実施形態では、本開示の研磨装置及び研磨方法を両面同時研磨機に適用した例を説明した。しかし、本開示は、両面同時研磨機に限られず、遊星キャリアに被研磨物を保持し定盤を押し当てて研磨を行ういかなる研磨機にも適用できる。
【0046】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有し、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨装置。
(2)
前記保持穴は略矩形であり、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺に前記切り欠きが設けられる
前記(1)に記載の研磨装置。
(3)
前記切り欠きは、略矩形の前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺、並びにこの辺と対向する辺に設けられる
前記(1)又は(2)に記載の研磨装置。
(4)
前記遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺は矩形の長手方向に相当する
前記(2)又は(3)に記載の研磨装置。
(5)
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する研磨装置の研磨方法であって、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨方法。
【0047】
また、本明細書において、時系列的な処理を記述する処理ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)をも含むものである。
【0048】
以上、本開示は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、応用例を取り得ることは勿論である。
すなわち、上述した各実施形態の例は、本開示の好適な具体例であるため、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本開示の技術範囲は、各説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げる使用材料とその使用量、処理時間、処理順序および各パラメータの数値的条件等は好適例に過ぎず、また説明に用いた各図における寸法、形状および配置関係も概略的なものである。
【符号の説明】
【0049】
1…上定盤、1A…上定盤回転駆動部、2…下定盤、3…太陽ギヤ、4…インターナルギヤ、5…遊星キャリア、7…スラリー、10…保持穴、11a,11b…逃げ部、15…カラーフィルタ、16…表示パネル、Du…上定盤の回転方向、Dl…下定盤の回転方向(遊星キャリア公転方向)、Di…インターナルギヤの回転方向、Ds…太陽ギヤの回転方向、Dc1…遊星キャリアの時計回り(正転)、Dc2…遊星キャリアの反時計周り(逆転)
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば表面が平坦化されたガラス基板及び液晶ディスプレイ用の表示基板などの研磨を行う研磨装置及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単に通話機能を有する従来の携帯電話機に加え、個人用の携帯コンピュータの機能を併せ持った高機能な携帯電話機(所謂スマートフォン)の普及が進んでいる。このような携帯端末機器の表示部には、液晶パネルや有機EL(エレクトロ・ルミネセンス)パネルなどの薄型パネルディスプレイ(FPD)が用いられることが多い。薄型パネルディスプレイすなわち表示パネルは、これらの携帯端末機器に取り付けられる前に、表面(及び裏面)の研磨が行われる。例えば、図11に示すような、カラーフィルタ15とTFT(Thin Film Transistor)基板16を貼り合わせた液晶パネルの研磨工程においては、液晶パネルの薄型化と同時に強度も要求されている。カラーフィルタ15とTFT基板16はいずれもガラス基板を主たる構成要素としている。
【0003】
従来、表示パネルの研磨を行う研磨機として、両面同時研磨機が知られている。両面同時研磨機は、被研磨物を保持する遊星キャリアを遊星運動させ、上定盤と下定盤の間で遊星キャリアの保持穴に保持した被研磨物を研磨する方式で、被研磨物の両面が同時に加工できる。研磨中は、上定盤から供給されるスラリー(研磨剤)が、上定盤と下定盤との間に介在し、被研磨物の表面を研磨していく。
【0004】
例えば、被研磨物を研磨する技術として、特許文献1に、被研磨物の片面研磨(片面接着)を行うにあたって該被研磨物の取り出しを容易にするために、位置決め用穴の任意の一箇所に切り欠きを設けていることが記載されている。
特許文献2には、被研磨物保持具の略矩形に形成されたリセス穴2の4隅に逃げ(注入孔5)を設けて、被研磨物の研磨を行う研磨装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−230866号公報
【特許文献2】特開2001−198805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、強度試験機を使用して、両面同時研磨機により研磨した表示パネルの割れ強度を測定した場合、図12に示すとおり、2種類の割れモードが確認される。図12Aは端面が起点となっている割れ21であり、図12Bは面内が起点となっている割れ22である。端面が起点となる割れはJIS方式による強度試験で顕著に発生する。また面内が起点となっている割れはDIG方式による強度試験で顕著に発生する。
【0007】
現在、携帯端末機器の高機能化が飛躍的に進み、それとともに携帯端末機器を所有して携帯する個人が増えている。このようなユーザーの動向に合わせて、さらに割れ強度の強い表示パネルが望まれている。
【0008】
特許文献1に記載された研磨機では、研磨後の被研磨物の強度は向上せず、被研磨物の強度向上に寄与するものではなかった。
また、特許文献2に記載された研磨装置においては、被研磨物端面(側面)と被研磨物保持具のリセス穴2の辺が、該辺の中心を含む長い部分にわたって接触するために、被研磨物の強度が低下してしまう。
【0009】
本開示は、上記の状況を考慮してなされたものであり、両面同時研磨機等の遊星キャリアを使用した研磨装置において、少なくとも、研磨時に表示パネルの端面が起点となっている割れが生じないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面は、上定盤と、この上定盤と対向して配置されて上定盤と逆向きに回転する下定盤と、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、上定盤及び下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、被研磨物を保持する保持穴が形成され、太陽ギヤとインターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する。そして、遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に保持穴の被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている。
【0011】
本開示の一側面によれば、切り欠きを形成することにより、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリアの保持穴の辺との接触を回避、もしくは接触長さ(面積)を減少させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一側面によれば、研磨時に被研磨物の端面が起点となっている割れが生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の概要を説明するための外観図である。
【図2】本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の遊星キャリアの説明に供する斜視図である。
【図3】本開示の第1の実施形態に係る遊星キャリアの一例を示す平面図である。
【図4】保持穴に被研磨物が装着されている状態の、遊星キャリアの保持穴逃げ部付近のA−A線における断面図である。
【図5】研磨装置に対するスラリーの供給例を示す説明図である。
【図6】研磨装置の動作例を説明するための概略図である。
【図7】JIS方式強度試験による被研磨物の強度の測定方法を示す説明図である。
【図8】破壊強度と累積不良率との関係例を示したグラフである。
【図9】タグチメソッドで解析した結果の一例を示す説明図であり、AはS/N(安定度)についての結果、Bは感度(特性値)についての結果を示している。
【図10】より適切な条件で研磨を行ったときの被研磨物の平均強度の改善度を示すグラフである。
【図11】表示パネルの一例を示す斜視図である。
【図12】表示パネルに生じる割れの種類を示す説明図であり、Aは端面が起点となっている割れであり、Bは面内が起点となっている割れである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示を実施するための形態の例について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0015】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.導入説明
2.第1の実施形態(遊星キャリア:保持穴に逃げ部を設けた例)
3.第2の実施形態(研磨条件:制御因子を適切に設定した例)
【0016】
<1.導入説明>
本発明者らは、上述した2種類の割れモードのうち、被研磨物の端面が起点となっている割れ(図12A参照)の原因は、研磨中に被研磨物と遊星キャリアが接触することにより、側面にクラックが入り、そこが原因で強度不足を招いてしまうと考えた。
そこで、本発明者らは、被研磨物の端面が基点となっている割れの防止策として、被研磨物側面と遊星キャリアの接触を防止することが有効であろうと考えた。この防止策を、第1の実施形態として具現化した。
【0017】
一方、本発明者らは、被研磨物の面内が起点となっている割れ(図12B参照)の原因は、研磨条件が最適化されていないために、研磨と粒によって面内に発生した極微細なクラック(マイクロクラック)が原因となり強度不足を招いていると考えた。
そこで、本発明者らは、被研磨物の面内が基点となっている割れの防止策として、研磨条件を最適化(最短で最適値を算出)することが有効であるという技術的思想に思い至った。この防止策を、第2の実施形態として具現化した。
【0018】
<2.第1の実施形態>
[研磨装置の構成例]
本開示の第1の実施形態に係る研磨装置について、図面を参照して説明する。
第1の実施形態は、本開示に係る研磨装置を、両面同時研磨機に適用した例である。はじめに、図1〜図3を参照して本開示に係る研磨装置が適用された両面同時研磨機の構造を説明する。
【0019】
図1は、本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の概要を説明するための外観図である。この図では、遊星キャリアの記載を省略している。
図2は、本開示の第1の実施形態に係る研磨装置の遊星キャリアの説明に供する斜視図である。
図3は、本開示の第1の実施形態に係る遊星キャリアの一例を示す平面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態の研磨装置は、上定盤1と、この上定盤1と対向して配置される下定盤2と、太陽ギヤ3と、インターナルギヤ4を具備している。これらの4つのギヤ(回転体)は、それぞれ独立に回転数を選択して回転させることが可能である。
【0021】
上定盤1は、被研磨物の表示パネルを上側から押さえる円環状の円盤であり、上定盤回転駆動部1Aの回転力が伝達されて回転する。下定盤2は、被研磨物をのせて回転する円環状の円盤であり、下定盤受け(図示略)からの回転力が伝達されて回転する。研磨時の上定盤1と下定盤2は、互いに逆方向に回転する。例えば研磨装置を上から見た場合、上定盤1の回転方向Duが時計回りのとき、下定盤2の回転方向Dlは反時計回りである。
【0022】
太陽ギヤ3は、上定盤1と下定盤2の中心に位置する外歯歯車であり、遊星キャリア5の歯形と同サイズの歯形を使用している。上定盤1及び下定盤2と同一の回転軸で回転し、サンギヤとも呼ばれる。一方、インターナルギヤ4は、下定盤2の外周周囲に位置する内歯歯車であり、遊星キャリア5の歯形と同サイズの歯形を使用している。上定盤1及び下定盤2と同一の回転軸で回転する。
【0023】
上定盤1と下定盤2の間に配置された遊星キャリア5は、比較的薄い円盤形状であって、その外周面に歯(凹溝)が切られており、太陽ギヤ3及びインターナルギヤ4と係合して自転しながら公転する。太陽ギヤ3の回転方向Dsとインターナルギヤ4の回転方向Diは同一であり、2つのギヤの回転速度の違いにより遊星キャリア5の自転方向が決まる。遊星キャリア5の材質としては、鋼板、ガラスエポキシ樹脂、塩化ビニール板等が用いられる。
【0024】
例えば、太陽ギヤ3がインターナルギヤ4より速く回転(反時計回り)した場合、遊星キャリア5の自転方向は時計回りDc1となる。一方、インターナルギヤ4が太陽ギヤ3より速く回転(反時計回り)した場合、遊星キャリア5の自転方向は反時計回りDc2となる。
なお、下定盤2の回転が反時計回りDlの場合、遊星キャリア5の自転が時計回りDc1が「正転」である。また、下定盤2の回転が反時計回りDlの場合、遊星キャリア5の自転が反時計回りDc2が「逆転」である。
【0025】
また遊星キャリア5は、図3に示すように、その平面部分に被研磨物が挿入される複数の保持穴10が形成されている。単個状に切り出した液晶パネル等の表示パネルは、遊星キャリア5の保持穴10に充填されて研磨処理の間保持される。
【0026】
保持穴10は、ほぼ矩形形状であり、その長手方向が遊星キャリア5の径方向と平行に形成されている。そして、この保持穴10を構成する対向する2つの長手方向の辺10a,10bのほぼ中心部分(中心付近)を切り欠き、逃げ部11a,11bを形成している。このように保持穴10に切り欠き、すなわち逃げ部11a,11bを形成することによって、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリア5の保持穴10の長手方向の辺10a,10bとの接触を回避、もしくは接触長さ(面積)が減少する。
【0027】
図4は、保持穴10に被研磨物が装着されている状態の、保持穴10の逃げ部11a,11b付近のA−A線における断面図を示している。
一例として、遊星キャリア5の自転が逆転(反時計回りDc2)である場合、慣性力により被研磨物が保持穴10の逃げ部11aが形成された辺10a側に流されて押しつけられる。被研磨物の側面は当接する遊星キャリア5の辺10aから抗力Fを受け、それにより、被研磨物の側面にクラックが発生する可能性が生じる。
【0028】
本例では、上記のとおり、逃げ部を形成することにより、研磨中の被研磨物側面と遊星キャリア5の保持穴10の辺10a,10bとの接触を回避、もしくは接触長さ(面積)を減少させることにより、従来に比してクラックの発生を抑えることができる。
【0029】
なお、本例では、保持穴10の大きさを被研磨物が丁度入る大きさではなく、少し大きめに形成している。それにより、保持穴10と被研磨物との間にガタを作ることで、保持穴10の辺と被研磨物が接触する機会を減らし、クラックの発生をさらに少なくしている。
【0030】
なお、図3の例では、逃げ部11a,11bの切り欠き形状を、半円又は楕円の曲線形状としているが、四角形の3辺や三角形の2辺を使用した形状などでもよい。
【0031】
このような構成により、被研磨物を保持する遊星キャリア5を遊星運動させ、上定盤1と下定盤2の間で被研磨物を研磨し、被研磨物の両面を同時に加工することができる。
【0032】
[研磨装置の動作例]
上記構成の研磨装置の動作について説明する。
図5は、研磨装置に対するスラリーの供給例を示す説明図である。
図6は、研磨装置の動作例を説明するための概略図である。
【0033】
一般に、研磨処理が開始されると、図5に示すように供給されたスラリー(研磨剤)7は、上定盤1に形成された穴などを通して下定盤2側に落ちる。そして、スラリー7が、上定盤1と下定盤2との間に介在している間、上定盤1又は下定盤2と被研磨物に圧力Pを加えながら相対運動させ(図6参照)、スラリー7に含まれると粒の転がり、引っ掻き、破砕等を利用して被研磨物の表面を滑らかに、かつ高精度に仕上げる。
【0034】
[強度試験]
研磨後の被研磨物の強度試験は、図7に示す原理の強度試験機を使用して、測定を行う。図7の例は、JIS方式の強度試験の原理を示している。JIS方式の強度試験は、例えば、30cm離した棒状の2つの台18A、18Bの上に被研磨物として、カラーフィルタ15とTFT基板16を貼り合わせた液晶パネルが水平に載置されている。そして、規定された方法に沿って上方から突部を持つ物体17を落下させ、クラックの発生や割れの状態を観察する。さらに、JIS方式と併せてDIG方式の強度試験(図示略)も実行し、研磨後の被研磨物の強度を測定する。
なお、現在の表示パネルの目標強度として、11Nが要求されている。
【0035】
図8は、遊星キャリア5の保持穴10に逃げ部11a,11bを設けたときの液晶パネル(図11)の強度試験(この例ではJIS方式)の測定結果を示したグラフである。図9のグラフは、破壊強度(N)と累積不良率F(t)(%)との関係例を示したものであり、いわゆるワイブル分布である。
当初、逃げ部11a,11bを設ける前の強度に関して、1000個の液晶パネルについて強度試験を行うと、破壊強度8Nと強度不足の液晶パネルが存在することを示している。これに対し、逃げ部11a,11bを設けた遊星キャリア5を使用することによって、破壊強度25Nと3倍以上の強度が確保できた。これは、現在の表示パネルの目標強度とされる11Nを満たしている。
【0036】
上述した第1の実施形態によれば、遊星キャリアの被研磨物の保持部に逃げ部(切り欠き)を設けることにより、大幅な強度向上を確保することができる。一例として、ワイブル分布上で3倍の強度向上が見られた。
【0037】
<3.第2の実施形態>
本開示の第2の実施形態について、表1と図9を参照して説明する。
表1に示すとおり、研磨の制御因子として8項目を挙げて、その各項目に対する3段階の水準設定を行った。なお、表中の「比重」、「粒度」、「流量」、「スラリー温度」は、スラリーについての項目である。また、「立ち上がり4ステップ」は、各ギヤが回転速度を4段階で規定速度へ上げるまでの時間を示している。「正転・逆転」は遊星キャリア5の回転方向を示す。押し圧は、上定盤1(又は下定盤2)を被研磨物へ押しつける圧力である。なお、下定盤2の回転数が30rpm、35rpm、40rpmのとき、一例として上定盤1の回転数はそれぞれ、10.2rpm、11.9rpm、13.6rpmである。
【0038】
【表1】
【0039】
この水準1〜3についてタグチメソッドを使用して解析した結果を、図9に示す。なお、実験の都合により、表1の各項目に対する水準1〜3の条件と、図9に示す各項目に対応する水準の条件が一部異なる。
図9Aのグラフは、被研磨物を製品として生産した場合の強度に関する安定度(S/N比)を示している。一方、図9Bのグラフは、制御因子の各項目での強度(感度(特性値))を示している。Goodの方向が安定度が高く、また強度(感度)が高いことを示している。
【0040】
図10の柱状グラフに示すように、JIS方式の強度試験の結果、制御因子の各項目の条件を最適化する前の液晶パネルの平均強度は10.9Nであった。
次に、遊星キャリア5の自転を逆転、スラリー比重70g/cm3、スラリー粒度は♯1500、立ち上がり時間を19分、下定盤回転数35rpm、押し圧を15kPaに設定し、各項目の条件を最適化することにより、液晶パネルの平均強度13.9N以上の結果が得られた。これは、現在の表示パネルの目標強度とされる11Nを満たし、なおかつ25%もの向上である。
【0041】
なお、図9A,図9Bのグラフから、安定度が高くさらに、強度を維持できる条件を各水準で選定してもよい。
例えば、S/N比と感度のグラフに示すように、確かにGOODの方向が強度が高くなる。しかし、スラリーの粒度を1000番に選定した場合、1500番よりも入手しやすく、製造を行うにあたって在庫管理等が容易であるといえる。
また、立ち上げステップ4ステップも、生産性を優先するならば12分を選択してもよい。押し圧は、製品へのダメージを低減したい場合には、12kPaを選択するなどが考えられる。
【0042】
上述した第2の実施形態によれば、研磨時の制御因子の各項目の条件、すなわち研磨条件の最適化により、被研磨物の強度を向上させることができる。
【0043】
なお、第1の実施形態に係る逃げ部が形成された遊星キャリアを用いた研磨方法に対し、第2の実施形態に係る研磨時の制御因子の各項目の条件を最適化する方法を適用することも可能である。この場合、双方の実施形態が奏する効果を得ることができる。
【0044】
また、第1の実施形態では、遊星キャリアの保持穴に形成する逃げ部(切り欠き)を2箇所に設けている。しかし、一般に、遊星キャリアの自転が正転の場合、遊星キャリアすなわち被研磨物に対して、負荷が増加する傾向にある。したがって、遊星キャリアの自転が正転の場合に被研磨物側面と当接する側の、保持穴の1辺にのみ切り欠きを設けてもよい。もちろん、遊星キャリアの自転が逆転の場合に被研磨物側面と当接する側の辺に逃げ部を設けることは可能である。
なお、第1の実施形態のように保持穴の2辺に逃げ部を設けた場合、遊星キャリアの正転と逆転を切り替えて研磨を行う場合に対応が可能である。
【0045】
また、上述した実施形態では、本開示の研磨装置及び研磨方法を両面同時研磨機に適用した例を説明した。しかし、本開示は、両面同時研磨機に限られず、遊星キャリアに被研磨物を保持し定盤を押し当てて研磨を行ういかなる研磨機にも適用できる。
【0046】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有し、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨装置。
(2)
前記保持穴は略矩形であり、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺に前記切り欠きが設けられる
前記(1)に記載の研磨装置。
(3)
前記切り欠きは、略矩形の前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺、並びにこの辺と対向する辺に設けられる
前記(1)又は(2)に記載の研磨装置。
(4)
前記遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺は矩形の長手方向に相当する
前記(2)又は(3)に記載の研磨装置。
(5)
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する研磨装置の研磨方法であって、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨方法。
【0047】
また、本明細書において、時系列的な処理を記述する処理ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)をも含むものである。
【0048】
以上、本開示は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、応用例を取り得ることは勿論である。
すなわち、上述した各実施形態の例は、本開示の好適な具体例であるため、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本開示の技術範囲は、各説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げる使用材料とその使用量、処理時間、処理順序および各パラメータの数値的条件等は好適例に過ぎず、また説明に用いた各図における寸法、形状および配置関係も概略的なものである。
【符号の説明】
【0049】
1…上定盤、1A…上定盤回転駆動部、2…下定盤、3…太陽ギヤ、4…インターナルギヤ、5…遊星キャリア、7…スラリー、10…保持穴、11a,11b…逃げ部、15…カラーフィルタ、16…表示パネル、Du…上定盤の回転方向、Dl…下定盤の回転方向(遊星キャリア公転方向)、Di…インターナルギヤの回転方向、Ds…太陽ギヤの回転方向、Dc1…遊星キャリアの時計回り(正転)、Dc2…遊星キャリアの反時計周り(逆転)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有し、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨装置。
【請求項2】
前記保持穴は略矩形であり、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺に前記切り欠きが設けられる
請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記切り欠きは、略矩形の前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺、並びにこの辺と対向する辺に設けられる
請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺は矩形の長手方向に相当する
請求項3に記載の研磨装置。
【請求項5】
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する研磨装置の研磨方法であって、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられ、
前記遊星キャリアの前記切り欠きが設けられた前記保持穴に被研磨物を保持し、前記上定盤及び前記下定盤との間で被研磨物表面の研磨を行う
研磨方法。
【請求項1】
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有し、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられている
研磨装置。
【請求項2】
前記保持穴は略矩形であり、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺に前記切り欠きが設けられる
請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記切り欠きは、略矩形の前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺、並びにこの辺と対向する辺に設けられる
請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側の辺は矩形の長手方向に相当する
請求項3に記載の研磨装置。
【請求項5】
上定盤と、
前記上定盤と対向して配置されて前記上定盤と逆向きに回転する下定盤と、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転する太陽ギヤと、
前記上定盤及び前記下定盤と同一の回転軸で回転するインターナルギヤと、
被研磨物を保持する保持穴が形成され、前記太陽ギヤと前記インターナルギヤと係合して自転しながら公転する遊星キャリアと、を有する研磨装置の研磨方法であって、
前記遊星キャリアの保持穴には、当該遊星キャリアの回転時に前記保持穴の前記被研磨物側面と当接する側に切り欠きが設けられ、
前記遊星キャリアの前記切り欠きが設けられた前記保持穴に被研磨物を保持し、前記上定盤及び前記下定盤との間で被研磨物表面の研磨を行う
研磨方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−78808(P2013−78808A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218469(P2011−218469)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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