説明

砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法

【課題】砥石車の周面及び端面の切味を良くしてワーク加工時に研削焼けが発生するのを抑制できる砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法を提供する。
【解決手段】回転可能に支持された修正工具10を備え、修正工具10により回転する砥石車Tを修正する砥石車Tのツルーイング装置11であって、修正工具10は、回転周面がツルア面とされた周面ツルア15と、回転軸方向端面がツルア面とされた端面ツルア16とを有し、周面ツルア15で砥石車Tの端面を修正し、端面ツルア16で砥石車Tの周面を修正するように、砥石車Tの回転軸に対して修正工具10の回転軸を略直交配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の加工工具である砥石車を修正するための砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークのフランジ部等の端面に対してスラスト研削やプランジ研削等を行う場合、砥石車の周面と端面とを修正工具を用いて修正(以下、ツルーイングとも称す)する必要があり、従来の砥石車のツルーイング装置は、その修正工具の回転軸が砥石車の回転軸と同じ方向に配置されると共に、修正工具として、円盤形状のダイヤモンドツルアの側面にカップ型ツルアを備えたものを用いて、砥石車の周面を円盤形状のダイヤモンドツルアの外周面でツルーイングし、砥石車の端面をカップ型ツルアの端面でツルーイングしていた。
【0003】
ところで、砥石車の端面をカップ状ツルアの端面でツルーイングする場合、砥石車と修正工具との接触面積が大きくなって、砥石車の砥粒先端が修正工具と必要以上に接触して砥粒先端が平坦なものになり易く、砥石車の切味が不足する問題があった。そこで、特許文献1に示すように、円盤形状のダイヤモンドツルアの回転軸を砥石車の回転軸に対して直交するように配置し、円盤形状のダイヤモンドツルアの外周面で砥石車の端面をツルーイングするものが提案されている。
【0004】
出願人は、本願出願時において、以上の技術情報が記載されている文献として、以下のものを知見している。
【特許文献1】特開2002−283235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のものでは、砥石車の周面と端面とをツルーイングするためには、砥石車の端面用のツルーイング装置の他に、周面用のツルーイング装置が必要となり、ツルーイング装置に係るコストが増加すると共に、研削盤等に備えた場合に、それらのツルーイング装置を設置するためのスペースが必要となり、研削盤が大型化する問題がある。
【0006】
一方、砥石車の端面をカップ型ツルアでツルーイングした場合、砥石車と修正工具との接触が面接触になるので接触圧が小さくなり砥粒を充分に破砕して鋭利な刃先が形成できなかったり、カップ型ツルアの回転方向に沿って連続した接触となるので同じ砥粒を何度もツルアで擦ってしまい砥粒の刃先が摩耗して刃先が平坦なものとなったりして、砥石車の切味を向上させることができず、その砥石車でワークを加工すると研削焼けが発生し易くなる問題がある。
【0007】
そのため、砥粒密度の低い砥石車を用いることで、修正工具と接触する砥粒を少なくして相対的に砥粒への接触圧を大きくし、砥粒を充分に破砕して鋭利な刃先を形成すると共に、砥粒との接触を少なくして研削熱の発生を抑制するようにしていた。しかしながら、この場合、砥石車の砥粒密度が低くワーク等と接触する砥粒が少ないので、研削能率が悪くなると共に、砥石車の寿命が短いものとなる問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の実状に鑑みてなされたものであり、砥石車の周面及び端面の切味を良くしてワーク加工時に研削焼けが発生するのを抑制できる砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る砥石車のツルーイング装置は、
「回転可能に支持された修正工具を備え、該修正工具により回転する砥石車を修正する砥石車のツルーイング装置であって、
前記修正工具は、回転周面がツルア面とされた周面ツルアと、回転軸方向端面がツルア面とされた端面ツルアとを有し、
前記周面ツルアで前記砥石車の端面を修正し、前記端面ツルアで前記砥石車の周面を修正するように、前記砥石車の回転軸に対して前記修正工具の回転軸を略直交配置したことを特徴とする」ものである。
【0010】
ここで、「周面ツルア」としては、「円盤形状のツルア」を例示することができる。また、「端面ツルア」としては、「カップ型ツルア」、「一つ又は複数の凸条を有したツルア」等を例示することができる。また、周面ツルア及び端面ツルアは、ダイヤモンド砥粒等を用いたものであっても良いし、柱状ダイヤモンドを用いたものであっても良い。
【0011】
なお、ツルーイングとは、狭義のツルーイングとドレッシングとの両方を含む意味として使用する。すなわち、砥石車の形状を整える作業および表面状態を整える作業の両方を含めてツルーイングと名付ける。ツルーイングとは、例えば、砥石車の外周面を所望の形状に整えることであり、ドレッシングとは砥石車の砥石面の表面状態を整えること、すなわち、目こぼれ、目潰れ、目詰り等を修復することである。ところが、実用現場用語として、ツルーイングとドレッシングとが厳密には区分されておらず、例えばツルーイングするための機器も、ドレッシングするための機器も、同様にツルーイング装置またはドレッシング装置と呼んでいる。これは、砥石車をツルーイングしたならば同時にドレッシングも完了する場合があることによるものと考えられる。
【0012】
本発明によると、砥石車の回転軸に対して修正工具の回転軸を略直交配置した上で、砥石車の端面を周面ツルアでツルーイングし、砥石車の周面を端面ツルアでツルーイングするようにしたものである。これにより、砥石車の端面及び周面ともに、砥石車と修正工具との接触を点接触若しくは線接触として接触面積を可及的に少なくすることが可能となり、修正工具が必要以上に砥石車の砥粒を擦って砥粒の刃先が摩耗し刃先が平坦になるのを防止すると共に、砥石車との接触圧を大きくすることができるので、砥石車の砥粒を良好な状態に破砕して鋭利な刃先として、砥石車の切味を向上させることができる。
【0013】
従って、ワーク等の加工時に研削焼けが発生するのを抑制することができると共に、研削熱の発生を抑制できるのでワークへの熱影響が少なくなり加工精度を向上させることができ、特に、ワークのフランジ部等の端面に対するスラスト研削やプランジ研削等の研削加工時に研削焼けが発生するのを抑制することができる。
【0014】
また、砥石車の砥粒をより鋭利な刃先とすることができるので、研削加工による砥粒の刃先の持ちを向上させることができ、ツルーイングを行う間隔(ツルーイングインターバル)がより長くなり、研削盤の稼働率を高めて生産効率を向上させることができる。
【0015】
更に、砥石車との接触圧を大きくすることができるので、ツルーイングの際に従来と比較してより多くの砥粒と接触させることができ、従来よりも砥粒密度の高い砥石車を修正することができる。つまり、砥粒密度のより高い砥石車を良好に修正することができるので、砥粒密度の高い砥石車を研削盤に装着して研削加工することが可能となり、研削盤の研削能率を向上させることができる。
【0016】
また、周面ツルアと端面ツルアとを有した修正工具を用いているので、一つのツルーイング装置で砥石車の端面と周面をツルーイングすることができ、ツルーイング装置に係るコストが増加するのを抑制することができると共に、研削盤等に備えても研削盤が大型化するのを抑制することができる。また、修正工具の回転軸が砥石車の回転軸に対して略直交配置されているので、ツルーイング装置を研削盤の主軸台等のワークテーブル側に備えた場合、ワークテーブルの延びる方向と同じ方向に修正工具の円盤形状の面が延びることとなり、主軸台等からのツルーイング装置の突出量を少なくすることができ、研削盤の大型化を抑制することができる。
【0017】
本発明に係る砥石車のツルーイング装置は、上記した構成に加えて、
「前記修正工具は、前記端面ツルアの内径が前記砥石車の砥石幅よりも大径であることを特徴とする」ものである。ここで、「端面ツルアの内径」とは、修正工具を回転させることで形成される端面ツルアの環状軌跡の内径のことである。
【0018】
ところで、上記のように砥石車の回転軸に対して修正工具の回転軸を略直交配置して、砥石車の周面を修正工具の端面ツルアでツルーイングするようにした場合、砥石車と接触する端面ツルアの接触部分における相対的な移動方向が、修正工具の回転軸を挟んで左右で逆方向となるので、砥石車の周面を端面ツルアでツルーイングする際に、修正工具の回転軸を越えて反対側の接触部分と接触すると、砥石車に対するツルーイング条件が大きく変わってしまい、砥石車を最適な状態にツルーイングすることが困難となる問題がある。
【0019】
本発明によると、修正工具における端面ツルアの内径を、修正する砥石車の砥石幅よりも大径としており、砥石車の周面を端面ツルアを用いて砥石車の軸方向に沿うように一方から他方へ向かってツルーイングし終えた時に、端面ツルアにおける回転軸を挟んで反対側の接触部分が、砥石車の周面と接触するのを回避させることができるので、砥石車のツルーイング中にそのツルーイング条件が大きく変わるのを防止することができ、砥石車を最適な状態にツルーイングして、上述と同様の作用効果を確実に奏することができる。
【0020】
なお、端面ツルアの内径をBとし、砥石車の砥石幅をTWとした場合、内径Bと砥石幅TWとの関係は、TW<B<1.2TW〜3TW を満たす範囲内とすることが望ましく、これ以上端面ツルアの内径Bを大きくすると、ツルーイング装置が大型化してスペースやコストの面で不利となるからである。
【0021】
本発明に係る砥石車のツルーイング装置は、上記した構成に加えて、
「前記修正工具の前記端面ツルアは、柱状ダイヤモンドであることを特徴とする」ものである。
【0022】
ここで、「柱状ダイヤモンド」としては、CVD法、プラズマジェット法、火炎法等の公知の合成方法を用いて合成されたダイヤモンド膜を柱状に形成した、多結晶ダイヤモンドが望ましい。
【0023】
ところで、従来から修正工具には、単結晶のダイヤモンドが多く用いられている。しかしながら、単結晶のダイヤモンドの場合、大きく割れ易いため、割れ方によって修正工具の面形状が大きく変化し、修正工具のツルーイング性能が不安定となる問題がある。
【0024】
本発明によると、端面ツルアを多結晶の柱状ダイヤモンドを用いたものとすることにより、割れ方が微細で端面ツルアが略均一に減り、ツルアの面形状の変化を可及的に少なくすることができ、ツルーイング性能を安定させることができる。
【0025】
なお、端面ツルアには、柱状ダイヤモンドを単数、或いは複数用いても良い。また、端面ツルアは、柱状ダイヤモンドのみとしても良いし、柱状ダイヤモンドを保持する保持部材を備えたものとしても良い。更に、周面ツルアに柱状ダイヤモンドを備えるようにしても良い。
【0026】
本発明に係る砥石車のツルーイング方法は、
「砥石車の回転軸に対して、回転周面がツルア面とされた周面ツルアと回転軸方向端面がツルア面とされた端面ツルアとを有した修正工具の回転軸を略直交するように配置し、該修正工具の前記周面ツルアで前記砥石車の端面を修正し、前記端面ツルアで前記砥石車の周面を修正することを特徴とする」方法である。
【0027】
本発明によると、上記した砥石車のツルーイング装置と同様の作用効果を奏することができ、砥石車の砥粒を良好な状態に破砕して鋭利な刃先とすることができるので、砥石車の周面及び端面の切味を良くしてワーク加工時に研削焼けが発生するのを抑制することができる。
【0028】
本発明に係る砥石車のツルーイング方法は、上記した構成に加えて、
「前記砥石車の端面と周面との間に面取り部を備える場合、前記砥石車の回転軸方向に対して所定方向を一方側とすると共に反対方向を他方側とすると、該砥石車の一方側の前記面取り部を前記端面ツルアの他方側で修正し、前記砥石車の他方側の前記面取り部を前記端面ツルアの一方側で修正し、一方側の前記面取り部を修正する時と他方側の前記面取り部を修正する時とで前記修正工具の回転方向を逆転させることを特徴とする」方法である。ここで、「面取り部」としては、「断面が円弧状とされたR部」、「断面が直線状とされたC部」、「断面がR部やC部以外の形状とされた形状部」、等を例示することができる。
【0029】
本発明によると、砥石車の両端にR部等の面取り部を形成したり、面取り部を修正したりする際に、砥石車の両端で、砥石車と修正工具の端面ツルアとの相対的な移動方向が同じとなるようにしてツルーイング条件が変化しないようにしているので、上述した作用効果に加えて、更に、砥石車の面取り部を良好な状態にツルーイングすることができる。
【発明の効果】
【0030】
上述の通り本発明によると、砥石車の周面及び端面の切味を良くしてワーク加工時に研削焼けが発生するのを抑制できる砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明に係る砥石車のツルーイング装置及びツルーイング方法の一実施形態を、図1〜図3に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の砥石車のツルーイング装置の一例を適用した研削盤の概略構成を示す平面図である。図2は、図1に示す砥石車のツルーイング装置における修正工具を示す拡大図である。図3は、図1における砥石車のツルーイング装置の作動態様をツルーイング方法と共に示す説明図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の一実施形態である砥石車のツルーイング装置を適用した研削盤1は、基台部分を構成するベッド2と、ベッド2上に載置され砥石車Tを回転駆動可能に支持する砥石台3と、砥石台3をX軸方向に移動させるX軸駆動装置4と、ベッド2上の砥石台3とは異なる位置に載置されるワークテーブル5と、ワークテーブル5上に載置されワークWを支持すると共にワークWを回転駆動する主軸6を有した主軸台7及び心押台8と、ワークテーブル5をZ軸方向に移動させるZ軸駆動装置9と、主軸台7に備えられ砥石車Tを修正する修正工具10を有したツルーイング装置11とを備えている。なお、X軸駆動装置4及びZ軸駆動装置9は、夫々サーボモータや送りネジ等を用いて構成された公知の駆動装置からなるものである。
【0033】
砥石台3は、砥石車Tが装着される砥石軸12と、砥石軸12を回転可能に支持する軸頭13と、砥石軸12を回転駆動させるためのモータ等からなる回転駆動装置14とを備えている。砥石車Tは、CBN砥石等の適宜の砥石材料を用いて、外周面及び外周面近傍の端面が研削面となるように円盤形状に形成されたものであり、砥石軸12と共に回転駆動装置14により回転駆動されるものである。
【0034】
修正工具10は、外周面がツルア面とされた円盤形状の周面ツルア15と、修正工具10の回転軸方向に突出した端面がツルア面とされた端面ツルア16とを備えている。本例では、周面ツルア15は、公知のダイヤモンドメタルボンド層を有した円盤形状のダイヤモンドツルアとされている。また、端面ツルア16は、直線状の凸条に形成された保持部材17と、保持部材17に穿設された保持穴に埋込み保持された柱状ダイヤモンド18とから構成されており、柱状ダイヤモンド18が保持部材17の端面から露出した状態とされている(図2参照)。
【0035】
この柱状ダイヤモンド18は、CVD法等の公知の合成方法を用いて合成されたダイヤモンド膜を柱状に形成したものであり、多結晶ダイヤモンドとされている。また、保持部材17は、例えば金属等の適宜材料を用いて形成されている。なお、本例では、保持部材17に二つの柱状ダイヤモンド18が埋込み保持されている。
【0036】
この修正工具10を有したツルーイング装置11は、修正工具10を回転可能に支持すると共に、修正工具10の回転軸が砥石台3に装着された砥石車Tの回転軸に対して略直交するように支持する工具台19と、工具台19に回転可能に支持された修正工具10を回転駆動させるモータ等からなる回転駆動装置(図示せず)とを更に備えている。
【0037】
また、研削盤1は、X軸駆動装置4、主軸6の回転駆動装置、Z軸駆動装置9、砥石車Tの回転駆動装置14、ツルーイング装置11の回転駆動装置等を制御するためのCNC制御装置20を更に備えている。このCNC制御装置20は、所定のプログラムを実行することで数値制御によりワークWを加工したり、砥石車Tを修正したりすることができ、CPU、ROM、RAM、ハードディスク等を有するコンピュータを用いて構成されている。
【0038】
次に、本実施形態の研削盤1における砥石車Tのツルーイング方法とツルーイング装置11の作動態様とを共に説明する。砥石車Tの端面をツルーイングする場合、CNC制御装置20によりX軸駆動装置4及びZ軸駆動装置9を制御して砥石台3及びワークテーブル5を適宜移動させ、修正工具10における周面ツルア15の外周面を砥石車Tの端面に接触させる。そして、周面ツルア15を砥石車Tの端面に所定量切込ませた状態で、砥石車Tと修正工具10とをX軸方向に相対移動させることで砥石車Tの端面を周面ツルア15でツルーイングする(図3(A)参照)と共に、この動作を所定回数繰り返す。
【0039】
この砥石車Tの端面ツルーイングでは、砥石車Tの端面と円盤形状の周面ツルア15との接触部分が略点接触となるので、周面ツルア15が砥石車Tの砥粒を擦って砥粒の刃先が摩耗して平坦になるのを防止することができ、鋭利な刃先を有した砥粒が得られるようになっている。
【0040】
なお、砥石車Tの端面ツルーイングにおいて、一方側の端面ツルーイングと他方側の端面ツルーイングとで、砥石車T及び修正工具10の何れか一方の回転方向を逆方向に回転させてツルーイングするようにし、砥石車Tと修正工具10との接触部分の移動方向が同じ方向となるようにする。
【0041】
また、砥石車Tの周面をツルーイングする場合、CNC制御装置20によりX軸駆動装置4及びZ軸駆動装置9を制御して砥石台3及びワークテーブル5を適宜移動させ、修正工具10における端面ツルア16の端面を砥石車Tの外周面に接触させる。そして、端面ツルア16を砥石車Tの周面に所定量切込ませた状態で、砥石車Tと修正工具10とをZ軸方向に相対移動させることで砥石車Tの周面を端面ツルア16でツルーイングする(図3(B)参照)と共に、この動作を所定回数繰り返す。
【0042】
この砥石車Tの周面ツルーイングでは、砥石車Tの周面と端面ツルア16との接触部分が略線接触となるが、端面ツルア16の回転方向に対して略直角方向に延びる線接触となるので、端面ツルア16が砥石車Tの砥粒を必要以上に擦って砥粒の刃先が摩耗して平坦になるのを防止することができると共に、点接触よりも接触圧を大きくして砥石車Tの砥粒を良好な状態に破砕して鋭利な刃先が得られるようになっている。
【0043】
なお、本実施形態では、周面ツルア15による砥石車Tの端面ツルーイングの際の切込み量が2〜3μm、繰り返し回数が5〜10回であり、端面ツルア16による砥石車Tの周面ツルーイングの際の切込み量が直径で約5μm、繰り返し回数が4〜5回である。また、砥石車の端面をカップ型ツルアでツルーイングする従来のツルーイング装置で修正した砥石車と、本実施形態のツルーイング装置11で修正した砥石車Tとを比較したところ、研削能率で約10倍、ツルーイングインターバルで約20倍、夫々向上した。
【0044】
このように、本実施形態の砥石車のツルーイング装置11及びツルーイング方法によると、砥石車Tの回転軸に対して修正工具10の回転軸を略直交配置した上で、砥石車Tの端面を周面ツルア15でツルーイングし、砥石車Tの周面を端面ツルア16でツルーイングするようにしており、砥石車Tの端面及び周面ともに、砥石車Tと修正工具10との接触を点接触若しくは線接触として接触面積を可及的に少なくすることが可能となり、修正工具10が必要以上に砥石車Tの砥粒を擦って砥粒の刃先が摩耗し刃先が平坦になるのを防止すると共に、接触圧を大きくすることができるので、砥石車Tの砥粒を良好な状態に破砕して鋭利な刃先とすることができ、砥石車Tの切味を向上させることができる。
【0045】
従って、ワークW等の加工時に研削焼けが発生するのを抑制することができると共に、研削熱の発生を抑制できるのでワークWへの熱影響が少なくなり加工精度を向上させることができ、特に、ワークWのフランジ部等の端面に対するスラスト研削やプランジ研削等の研削加工時に研削焼けが発生するのを抑制することができる。
【0046】
また、砥石車Tの砥粒をより鋭利な刃先とすることができるので、研削加工による砥粒の刃先の持ちを向上させることができ、ツルーイングを行う間隔(ツルーイングインターバル)がより長くなり、研削盤1の稼働率を高めて生産効率を向上させることができる。また、砥石車Tと修正工具10との接触圧を大きくすることができるので、ツルーイングの際に従来と比較してより多くの砥粒と接触させることができ、従来よりも砥粒密度の高い砥石車Tを修正することができる。つまり、砥粒密度のより高い砥石車Tを良好に修正することができるので、砥粒密度の高い砥石車Tを研削盤1に装着して研削加工することが可能となり、研削盤1の研削能率を向上させることができる。
【0047】
更に、周面ツルア15と端面ツルア16とを有した修正工具10を用いているので、一つのツルーイング装置11で砥石車Tの端面と周面をツルーイングすることができ、ツルーイング装置11に係るコストが増加するのを抑制することができると共に、研削盤1が大型化するのを抑制することができる。また、修正工具10の回転軸が砥石車Tの回転軸に対して略直角に配置されているので、ワークテーブル5の延びる方向と同じ方向に修正工具10の円盤形状の周面ツルア15の面が延び、主軸台7からのツルーイング装置10の突出量を少なくすることができ、研削盤1の大型化を抑制することができる。
【0048】
また、端面ツルア16を多結晶の柱状ダイヤモンド18を用いたものとしているので、割れ方が微細で端面ツルア16が略均一に減り、その面形状の変化を可及的に少なくすることができ、ツルーイング性能を安定させることができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、修正工具10における端面ツルア16が、直線状に形成された凸条の保持部材17に柱状ダイヤモンド18が埋込み保持されたものを示したが、これに限定するものではなく、様々な形状の保持部材に柱状ダイヤモンド18を埋込み保持したものであっても良い。具体的には、図4(A)に示すような、直線状で凸条の保持部材25を、修正工具10の回転中心から離れた位置で法線方向に延びるように、周方向に複数備えて、夫々の保持部材25に柱状ダイヤモンド18を埋込み保持したものや、同図(B)に示すような、カップ型に形成された保持部材26に複数の柱状ダイヤモンド18を埋め込み保持したもの等であっても良く、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0050】
次に、上記した実施形態とは異なる形態の修正工具30と、その修正工具30を用いた砥石車Tのツルーイング方法について、図5及び図6に基づいて詳細に説明する。図5は、更に異なる形態の修正工具における端面ツルアの内径と砥石車の砥石幅との関係を示す説明図である。また、図6は、R部を備えた砥石車のツルーイング方法を示す説明図である。
【0051】
本実施形態の修正工具30は、図5及び図6に示すように、図4(B)に示した修正工具10と略同様の形態であり、円盤形状の周面ツルア31と円筒カップ型の端面ツルア32とで構成されている。この修正工具30は、本例では、周面ツルア31及び端面ツルア32が、ダイヤモンドツルアとされている。なお、図5及び図6では、便宜上、端面ツルア32のみ断面で示してある。
【0052】
この修正工具30は、図示するように、端面ツルア32の内径Bが、砥石車Tの砥石幅TWよりも大径とされている。なお、端面ツルア32の内径Bは、TW<B<1.2TW〜3TW を満たす範囲内とすることが望ましい。また、修正工具30を、図4(B)に示したものと同様に、端面ツルア32に柱状ダイヤモンドを保持したものとしても良い。
【0053】
続いて、修正工具30を用いた砥石車Tのツルーイング方法について説明する。この修正工具30は、例えば、図1に示した研削盤1のツルーイング装置11に装着された修正工具10に代えて用いるものである。なお、砥石車Tの端面ツルーイングについては、上述の修正工具10によるツルーイングと同じでありここでは説明を省略する。
【0054】
この修正工具30を用いて砥石車Tの周面をツルーイングする場合、修正工具30を回転させると、端面ツルア32における修正工具30の回転軸を挟んだ両端側が、砥石車Tの周面と接触可能な接触部分となる。そして、端面ツルア32のそれら接触部分の移動方向は、回転軸を挟んで互いに逆方向となるので、砥石車Tの回転により砥石車Tの接触部分が移動する方向と、同じ方向に移動する端面ツルア32の接触部分を用いて、砥石車Tの周面をツルーイングする。
【0055】
具体的には、図5(A)に示すように、例えば、砥石車Tの接触部分が紙面において上方へ移動するように回転させると共に、端面ツルア32を備えた修正工具30を紙面において反時計回りに回転させた場合、端面ツルア32の図中右側の接触部分が砥石車Tの移動方向と同じ方向となるので、端面ツルア32の左側の接触部分が砥石車Tの周面と接触しないように、砥石台3及びワークテーブル5を適宜移動させて、端面ツルア32の右側の接触部分で砥石車Tの周面をツルーイングする。
【0056】
なお、図5(B)に示すように、端面ツルア32の内径Bが、砥石車Tの砥石幅TWよりも大径とされているので、砥石車Tの周面ツルーイングによって砥石車Tが端面ツルア32の内側に移動しても、砥石車Tの周面が、端面ツルア32の左側の接触部分と接触しないようになっている。また、CNC制御装置20によって、端面ツルア32の左側つまり反対側の接触部分が砥石車Tの周面と接触しないように、砥石車Tと端面ツルア32の相対移動を制御するようになっている。
【0057】
次に、図6に示すように、砥石車Tの端面と周面との間に面取り部としてのR部33を形成する場合、砥石車Tの図中左側のR部33に対しては、端面ツルア32の右側の接触部分を接触させてツルーイングする(図6(A)参照)。一方、砥石車Tの図中右側のR部33に対しては、端面ツルア32(修正工具30)の回転方向を逆転させて端面ツルア32の左側の接触部分の移動方向を砥石車Tの接触部分の移動方向と同じ方向とした上で、端面ツルア32の左側の接触部分を接触させてツルーイングする(図6(B)参照)。
【0058】
なお、上記した砥石車TにおけるR部33のツルーイングにおいても、CNC制御装置20によってX軸駆動装置4及びZ軸駆動装置9を制御して砥石台3及びワークテーブル5を適宜移動させて、所望のR形状となるようにしている。
【0059】
このように、本実施形態の砥石車のツルーイング装置11及びツルーイング方法によると、端面ツルア32の内径Bを砥石車の砥石幅TWよりも大径とすると共に、端面ツルア32を用いてツルーイングする際に、端面ツルア32における反対側の接触部分が砥石車Tと接触しないようにしているので、砥石車Tのツルーイング中にそのツルーイング条件が大きく変わるのを防止することができ、砥石車Tを最適な状態にツルーイングすることができる。
【0060】
また、砥石車Tの両端のR部33をツルーイングする際に、砥石車Tと端面ツルア32の接触部分の相対的な移動方向が左右で同じ方向となるようにして、左右のR部33でツルーイング条件が変化しないようにしているので、砥石車TのR部33を良好な状態にツルーイングすることができる。
【0061】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0062】
すなわち、本実施形態では、修正工具10における端面ツルア16に、柱状ダイヤモンド18を備えたもの示したが、これに限定するものではなく、周面ツルア15と同様のダイヤモンド砥粒を用いたものとしても良い。また、周面ツルア15に柱状ダイヤモンドを埋込んでも良い。これらによっても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0063】
また、本実施形態では、円筒を研削する研削盤1に適用したものを示したが、これに限定するものではなく、例えば、クランクシャフト等を研削するC−X軸同期ピン研削盤、ねじ研削盤、内面研削盤等、種々の研削盤に適用することができ、フランジ部等の端面の研削加工を必要とするワークを研削する研削盤に適用することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の砥石車のツルーイング装置の一例を適用した研削盤の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1に示す砥石車のツルーイング装置における修正工具を示す拡大図である。
【図3】図1における砥石車のツルーイング装置の作動態様をツルーイング方法と共に示す説明図である。
【図4】図2に示した修正工具とは異なる形態の修正工具を示す平面図である。
【図5】更に異なる形態の修正工具における端面ツルアの内径と砥石車の砥石幅との関係を示す説明図である。
【図6】R部を備えた砥石車のツルーイング方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
T 砥石車
1 研削盤
3 砥石台
4 X軸駆動装置
5 ワークテーブル
9 Z軸駆動装置
10,30 修正工具
11 ツルーイング装置
15,31 周面ツルア
16,32 端面ツルア
17 保持部材
18 柱状ダイヤモンド
25 保持部材
26 保持部材
33 R部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持された修正工具を備え、該修正工具により回転する砥石車を修正する砥石車のツルーイング装置であって、
前記修正工具は、回転周面がツルア面とされた周面ツルアと、回転軸方向端面がツルア面とされた端面ツルアとを有し、
前記周面ツルアで前記砥石車の端面を修正し、前記端面ツルアで前記砥石車の周面を修正するように、前記砥石車の回転軸に対して前記修正工具の回転軸を略直交配置したことを特徴とする砥石車のツルーイング装置。
【請求項2】
前記修正工具は、前記端面ツルアの内径が前記砥石車の砥石幅よりも大径であることを特徴とする請求項1に記載の砥石車のツルーイング装置。
【請求項3】
前記修正工具の前記端面ツルアは、柱状ダイヤモンドであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の砥石車のツルーイング装置。
【請求項4】
砥石車の回転軸に対して、回転周面がツルア面とされた周面ツルアと回転軸方向端面がツルア面とされた端面ツルアとを有した修正工具の回転軸を略直交するように配置し、該修正工具の前記周面ツルアで前記砥石車の端面を修正し、前記端面ツルアで前記砥石車の周面を修正することを特徴とする砥石車のツルーイング方法。
【請求項5】
前記砥石車の端面と周面との間に面取り部を備える場合、前記砥石車の回転軸方向に対して所定方向を一方側とすると共に反対方向を他方側とすると、該砥石車の一方側の前記面取り部を前記端面ツルアの他方側で修正し、前記砥石車の他方側の前記面取り部を前記端面ツルアの一方側で修正し、一方側の前記面取り部を修正する時と他方側の前記面取り部を修正する時とで前記修正工具の回転方向を逆転させることを特徴とする請求項4に記載の砥石車のツルーイング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−196367(P2007−196367A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336595(P2006−336595)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】