説明

砥粒加工用工具及び被覆砥粒

【課題】被覆砥粒11の脱落を抑えて、砥粒加工用工具1の工具寿命及び砥粒加工性能を容易に向上させること。
【解決手段】加工面側に多数の被覆砥粒11を電着ボンド材13で結合してなる砥粒層9が形成された砥粒加工用工具1において、被覆砥粒11は、砥粒17と、砥粒17の表面に包み込むように形成されたカーボンナノチューブ被覆23とを備え、カーボンナノチューブ被覆23は、多層カーボンナノチューブ25(又は単層カーボンナノチューブ)の自己凝集力によって絡み合うように構成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば脆性材料(石英ガラス、セラミックス、超硬等)からなる被加工物に対して砥粒加工を行う際に用いられる砥粒加工用工具、及び砥粒加工用工具の構成要素として用いられる被覆砥粒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、研削砥石、研磨砥石、固定砥粒ワイヤソー等の砥粒加工用工具においては、加工面側(表面側)に多数の砥粒をボンド材で結合してなる砥粒層が形成されており、砥粒加工用工具の工具寿命、及び砥粒加工用工具の研削比等の砥粒加工性能を向上させるには、砥粒層の砥粒保持力(換言すれば、ボンド材の砥粒保持力)を高めて、砥粒の脱落を抑える必要がある。そのため、ボンド材に強化フィラー等を混入させて、ボンド材の機械的強度を高めたり(特許文献1参照)、また、砥粒の表面に金属被覆を形成して、砥粒とボンド材との密着性を高めたり(特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)、することによって、砥粒層の砥粒保持力を高める対策がなされている。
【特許文献1】特開2007−253318号公報
【特許文献2】特開2007−54905号公報
【特許文献3】特開2006−181698号公報
【特許文献4】特開2007−38337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ボンド材に強化フィラーを混入させる手法をとった場合には、ボンド材の機械的強度を全体的に強化することができるものの、砥粒層の砥粒保持力に大きな影響を与える砥粒周辺部のボンド材の機械的強度を選択的に強化することができない。また、砥粒の表面に金属被覆を形成する手法をとった場合には、金属被膜を介して砥粒とボンド材との密着性を高めることができるものの、砥粒周辺部のボンド材の機械的強度を選択的に強化することができない。そのため、砥粒層の砥粒保持力を十分に高めることができず、砥粒加工中に砥粒の離脱を招き易く、砥粒加工用工具の工具寿命及び砥粒加工性能を向上させることは容易ではないという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の砥粒加工用工具及び被覆砥粒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の特徴(請求項1に記載の発明の特徴)は、被加工物に対して砥粒加工を行う際に用いられ、加工面側(表面側)に多数の被覆砥粒をボンド材で結合してなる砥粒層が形成された砥粒加工用工具において、前記被覆砥粒は、砥粒と、前記砥粒の表面に包み込むように形成され、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって絡み合うように構成されたカーボンナノチューブ被覆と、を備えたことを要旨とする。
【0006】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、砥粒加工とは、研削加工、研磨加工、切断加工等を含む意であって、前記砥粒加工用工具とは、研削砥石、研磨砥石、固定砥粒ワイヤソー等を含む意である。
【0007】
第1の特徴によると、前記砥粒の表面に前記カーボンナノチューブ被覆が包み込むように形成され、前記カーボンナノチューブ被覆は機械的強度に優れた前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって絡み合うように構成されているため、前記砥粒周辺部の前記ボンド材の機械的強度を選択的に強化して、前記砥粒層の砥粒保持力(換言すれば、前記ボンド材の砥粒保持力)を十分に高めることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴(請求項2に記載の発明の特徴)は、第1の特徴に加えて、前記砥粒は、表面側に官能基Xを有し、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブは、表面側に前記砥粒の前記官能基Xと化学結合する官能基Yを有していることを要旨とする。
【0009】
第2の特徴によると、前記砥粒の前記官能基Xと前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yが化学結合することによって、前記カーボンナノチューブ被覆を前記砥粒に強固に密着させて、前記砥粒周辺部の前記ボンド材の機械的強度を選択的により強化して、前記砥粒層の砥粒保持力をより十分に高めることができる。
【0010】
本発明の第3の特徴(請求項3に記載の発明の特徴)は、第2の特徴に加えて、前記砥粒の前記官能基Xは、前記砥粒の表面の原子又は分子と前記官能基Xを有する分子を化学吸着により置換することによって導入され、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yは、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの表面の欠陥部の原子又は分子と前記官能基Yを有する分子を化学吸着により置換することによって導入されたこと要旨とする。
【0011】
本発明の第4の特徴(請求項4に記載の発明の特徴)は、第1の特徴から第3の特徴のうちのいずれかの特徴に加えて、前記砥粒層の表面側の前記砥粒が露出するようになっていることを要旨とする。
【0012】
本発明の第5の特徴(請求項5に記載の発明の特徴)は、砥粒加工用工具の構成要素として用いられる被覆砥粒において、砥粒と、前記砥粒の表面に絡み合った状態で包み込むように形成され、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって構成されたカーボンナノチューブ被覆と、を備えたことを要旨とする。
【0013】
第5の特徴によると、前記砥粒の表面に前記カーボンナノチューブ被覆が包み込むように形成され、前記カーボンナノチューブ被覆は機械的強度に優れた前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって絡み合うように構成されているため、前記砥粒加工用工具における砥粒周辺部のボンド材の機械的強度を選択的に強化して、前記砥粒層の砥粒保持力を十分に高めることができる。
【0014】
本発明の第6の特徴(請求項6に記載の発明の特徴)は、第5の特徴に加えて、前記砥粒は、表面側に官能基Xを有し、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブは、表面側に前記砥粒の前記官能基Xと化学結合する官能基Yを有していることを要旨とする。
【0015】
第6の特徴によると、前記砥粒の前記官能基Xと前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yが化学結合することによって、前記カーボンナノチューブ被覆を前記砥粒に強固に密着させて、前記砥粒周辺部の前記ボンド材の機械的強度を選択的により強化して、前記砥粒層の砥粒保持力をより十分に高めることができる。
【0016】
本発明の第7の特徴(請求項7に記載の発明の特徴)は、第6の特徴に加えて、前記砥粒の前記官能基Xは、前記砥粒の表面の原子又は分子と前記官能基Xを有する分子を化学吸着により置換することによって導入され、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yは、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの表面の欠陥部の原子又は分子と前記官能基Yを有する分子を化学吸着により置換することによって導入されたこと要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記砥粒周辺部の前記ボンド材の機械的強度を選択的に強化して、前記砥粒層の砥粒保持力を十分に高めることができるため、砥粒加工中の前記被覆砥粒の脱落を抑えて、前記砥粒加工用工具の工具寿命及び砥粒加工性能を容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について図1(a)(b)から図9を参照して説明する。
【0019】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る軸付き電着研削砥石の断面図、図1(b)は、本発明の実施形態に係る軸付き電着研削砥石を先端からみた図、図2は、単層の砥粒層を示す部分断面図、図3は、多層の砥粒層を示す部分断面図、図4は、気孔を内包した多層の砥粒層を示す部分断面図、図5は、本発明の実施形態に係る被覆砥粒を示す図、図6は、多層カーボンナノチューブと砥粒との化学結合例を示す図、図7は、本発明の実施形態に係る別態様の被覆砥粒を示す図、図8及び図9は、砥粒層の表面側の砥粒を露出した状態を示す部分断面図、図10は、本発明の実施形態に係る被覆砥粒の製造例を示す図である。
【0020】
図1(a)(b)に示すように、本発明の実施形態に係る軸付き電着研削砥石1は、例えば脆性材料(石英ガラス、セラミックス、超硬等)からなる被加工物(図示省略)に対して研削加工(砥粒加工の一例)を行う際に用いられるものである。また、軸付き電着研削砥石1は、台金3を備えており、この台金3は、加工機の主軸(図示省略)に取付可能なシャンク部(軸部)5と、このシャンク部5の先端側に一体に形成された砥粒取付部7とからなる。
【0021】
台金3の砥粒取付部7の加工面側(周面側及び先端面側)には、砥粒層9が形成されており、この砥粒層9は、多数の被覆砥粒11をニッケル電着ボンド材等の電着ボンド材13で結合してなるものである。ここで、電着ボンド材13の代わりに、レジンボンド材、ビトリファイドボンド材、又はメタルボンド材等を用いても構わない。
【0022】
砥粒層9は、単層(図2参照)又は多層(図3及び図4参照)のいずれであっても構わない。更に、砥粒層9が多層の場合にあっては、例えば電着ボンド材13に中空ビーズを混入させることにより、砥粒層9が多数の気孔15を内包するようにしても構わない(図4参照)。
【0023】
続いて、本発明の実施形態の要部である被覆砥粒11の具体的な構成について説明する。
【0024】
図5及び図6に示すように、本発明の実施形態に係る被覆砥粒11は、砥粒17を備えており、この砥粒17は、人造ダイヤモンドからなるものであるが、天然ダイヤモンド又はcBN等からなるものであってもよい。また、砥粒17は、表面側に、官能基Xとしてのアミノ基19を有しており、砥粒17のアミノ基(官能基X)19は、砥粒17の表面の原子(原子層を含む)又は分子(分子層を含む)とアミノ基を有する分子の化学吸着により置換することによって導入されるものである。
【0025】
ここで、砥粒17の表面の原子又は分子とアミノ基(官能基X)を有する分子を化学吸着により置換する場合(例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理、又はラジカルカップリング反応を用いた処理等を施した場合)には、砥粒17の表面側に有機分子鎖又はヘテロ原子(酸素原子、ケイ素原子等)を含む有機分子鎖の中間層21が生成される。一方、砥粒17の表面の原子又は分子とアミノ基(官能基X)を化学吸着により置換する場合(例えば、アンモニアガス雰囲気中におけるUV処理、アンモニアガス雰囲気中における加熱処理、又はアンモニアガス雰囲気中におけるプラズマ処理等を施した場合)には、砥粒17の表面側に中間層21は生成されない。
【0026】
砥粒17の表面には、カーボンナノチューブ被覆23が包み込むように形成されており、このカーボンナノチューブ被覆23は、多層カーボンナノチューブ25のファンデルワールス力等の自己凝集力によって自己組織化的に絡み合うように構成されている。また、多層カーボンナノチューブ25は、表面側に、砥粒17のアミノ基19と化学結合する官能基Yとしてカルボキシル基27を有しており、多層カーボンナノチューブ25のカルボキシル基27は、多層カーボンナノチューブ27の表面に対して酸化処理(例えば、硫酸・硝酸の混酸を用いた酸処理、酸素プラズマを用いた酸化処理、酸素雰囲気中における加熱処理、酸素雰囲気中におけるUV処理等)を施すことにより、多層カーボンナノチューブ27の表面の欠陥部の原子又は分子とカルボキシル基を有する分子を化学吸着により置換することによって導入されるものである。
【0027】
ここで、カーボンナノチューブ被覆23は多層カーボンナノチューブ25のみからなる代わりに、図7に示すように、多層カーボンナノチューブ25と複合用ボンド材29(複合用電着ボンド材、複合用レジンボンド材、複合用ビトリファイドボンド材、又はメタルボンド材複合用ボンド材等を含む)によって複合化されても構わなく、多層カーボンナノチューブ25の代わりに、単層カーボンナノチューブをカーボンナノチューブ被覆23に用いても構わない。
【0028】
なお、図8及び図9に示すように、砥粒層9の表面側の電着ボンド材13及びカーボンナノチューブ被覆23を例えば切削加工、研削加工、研磨加工、放電加工、レーザ加工、電解加工等によって除去(ドレッシング)して、砥粒層9の表面側の砥粒17が露出するようにしても構わない。
【0029】
続いて、本発明の実施形態に係る被覆砥粒11の製造例について説明する。
【0030】
図9に示すように、多層カーボンナノチューブ25の表面側に対して前述の酸化処理を施すことによって官能基Yとしてのカルボキシル基27を導入し、カルボキシル基27を有した多層カーボンナノチューブ25を溶液(例えば、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)溶液等)に入れて、超音波攪拌等によって溶液内において分散させる。ここで、官能基Yとしてのカルボキシル基27を導入する前又は導入する際に、酸中での超音波処理による多層カーボンナノチューブの切断又は酸処理によって多層カーボンナノチューブ25の表面(末端又はサイドウォール(側面))に欠陥部を導入することは、カルボキシル基27を化学吸着させる上で有効である。なお、多層カーボンナノチューブ25を分散させた溶液をカーボンナノチューブ分散溶液という。
【0031】
次に、砥粒17の表面側に対して前述の置換処理を施すことによって官能基Xとしてのアミノ基19を導入し、アミノ基19を有した砥粒17をカーボンナノチューブ分散溶液に浸漬させる。その後、砥粒17をカーボンナノチューブ分散溶液から取り出して、エタノールで洗浄し、110℃で所定時間乾燥させる。
【0032】
そして、砥粒17の乾燥後に、砥粒17の浸漬・取り出し・洗浄・乾燥を再度複数回繰り返す。これにより、多層カーボンナノチューブ25のファンデルワールス力等の自己凝集力によって自己組織化的に絡み合うようなカーボンナノチューブ被覆23を砥粒17の表面側に形成して、被覆砥粒11を製造することができる。
【0033】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0034】
砥粒17の表面にカーボンナノチューブ被覆23が包み込むように形成され、カーボンナノチューブ被覆23は機械的強度に優れた多層カーボンナノチューブ25のファンデルワールス力等の自己凝集力によって自己組織化的に絡み合うように構成されているため、砥粒17周辺部の電着ボンド材13の機械的強度を選択的に強化することができ、砥粒層9の砥粒保持力(換言すれば、電着ボンド材13の砥粒保持力)を十分に高めて高めることができる(後述の実施例参照)。特に、砥粒17の官能基Xとしてのアミノ基19と多層カーボンナノチューブ25の官能基Yとしてのカルボキシル基27が化学結合(アミド結合)することによって、カーボンナノチューブ被覆23を砥粒17に強固に密着させて、砥粒17周辺部の電着ボンド材13の機械的強度を選択的により強化して、砥粒層9の砥粒保持力を十分に高めることができる。
【0035】
従って、本発明の実施形態によれば、砥粒17周辺部の電着ボンド材13の機械的強度を選択的により強化して、砥粒層9の砥粒保持力を十分に高めることができるため、研削加工中の被覆砥粒11の脱落を抑えて、軸付き研削砥石1の工具寿命及び砥粒加工性能(研削比、切れ味等を含む)を容易に向上させることができる。
【0036】
また、図8及び図9に示すように、砥粒層9の表面側の砥粒17が露出するようにした場合には、加工当初から砥粒加工性能を十分に発揮することができる。
【0037】
本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、次のように種々の態様で実施可能である。即ち、軸付き電着研削砥石1に適用した技術思想を薄型,ストレート型,カップ型,ディスク型砥石等の別の砥石、又は固定砥粒ワイヤソー等の別の砥粒加工用工具に適用することができる。また、軸付き電着研削砥石1に適用した技術思想を薄型切断砥石に適用する場合には、台金3を省略することができ、軸付き電着研削砥石1に適用した技術思想を固定砥粒ワイヤソーに適用する場合には、台金3はピアノ線のようなワイヤー形状になる。
【0038】
なお、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0039】
実施例について図11(a)(b)及び図12を参照して説明する。ここで、図11(a)は、実施例1に係る被覆砥粒の表面の電子顕微鏡写真を示す図、図11(b)は、図11(a)の一部を拡大した図、図12は、実施例1、実施例2、及び比較例についてのシェア試験の結果を示す図である。
【0040】
(i) 実施例1に係る被覆砥粒
砥粒(ダイヤモンド砥粒)にアンモニア雰囲気中におけるUV処理(UV波長:185nm,254nm、ガス流量:50ccm、処理時間:2.5時間)を施すことによってアミノ基を導入する。次に、アミノ基を有した砥粒を、1.25g/Lの多層カーボンナノチューブ(直径:10nm、長さ:0.1〜10μm)を分散させたカーボンナノチューブ分散溶液に浸漬させる。そして、砥粒をカーボンナノチューブ分散溶液から取り出して、エタノールで洗浄し、110℃で所定時間乾燥させる。更に、砥粒の浸漬・取り出し・洗浄・乾燥4回繰り返す。以上により、実施例1に係る被覆砥粒を製造した。
【0041】
(ii) 実施例2に係る被覆砥粒
アミノ基を有するシランカップリング剤(3-(aminopropyl)triethoxysilane)を2%含むエタノール溶液に30分間浸漬させた砥粒(ダイヤモンド砥粒)を取り出して、約100℃で10分間加熱することにより、砥粒の表面にシランカップリング剤を化学吸着させる。次に、第1実施例と同様に、アミノ基を有した砥粒をカーボンナノチューブ分散溶液に浸漬させる。そして、砥粒をカーボンナノチューブ分散溶液から取り出して、エタノールで洗浄し、110℃で所定時間乾燥させる。更に、砥粒の浸漬・取り出し・洗浄・乾燥4回繰り返す。以上により、実施例2に係る被覆砥粒を製造した。
【0042】
(iii) 電子顕微鏡観察
第1実施例に係る被覆砥粒の表面を電子顕微鏡で観察すると、図11(a)(b)に示すようになる。
【0043】
即ち、砥粒の表面に形成されたカーボンナノチューブ被覆は、多層カーボンナノチューブのファンデルワールス力等の自己凝集力によって自己組織化的に絡み合うようになっていることが分かった。
【0044】
なお、図示は省略するが、第2実施例に係る被覆砥粒の表面を電子顕微鏡で観察した場合にも、同様の結果を得ることができた。
【0045】
(iv) シェア試験
実施例1に係る被覆砥粒、実施例2に係る被覆砥粒、比較例に係るダイヤモンド砥粒(カーボンナノチューブ被覆無し)を、S45Cからなる基板にスルファミン酸ニッケル浴で形成した厚さ約15μmのニッケル電着ボンド材でそれぞれ固着する。そして、実施例1、実施例2、比較例の場合について、シェア試験(山形県工業技術センター報告 No39(2006)P6−10参照)をそれぞれ行い、その結果をまとめると、図12に示すようになる。
【0046】
即ち、実施例1の場合及び実施例2の場合におけるニッケル電着ボンド材の砥粒保持力は、比較例の場合に比べて、それぞれ平均値で約2.4倍、2.0倍になった。つまり、ダイヤモンド砥粒の表面にカーボンナノチューブ被覆が包み込むように形成されることによって、ニッケル電着ボンド材の砥粒保持力を十分に高めることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1(a)は、本発明の実施形態に係る軸付き電着研削砥石の断面図、図1(b)は、本発明の実施形態に係る軸付き電着研削砥石を先端からみた図である。
【図2】単層の砥粒層を示す部分断面図である。
【図3】多層の砥粒層を示す部分断面図である。
【図4】気孔を内包した多層の砥粒層を示す部分断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る被覆砥粒を示す図である。
【図6】多層カーボンナノチューブと砥粒との化学結合例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る別態様の被覆砥粒を示す図である。
【図8】砥粒層の表面側の砥粒を露出した状態を示す部分断面図である。
【図9】砥粒層の表面側の砥粒を露出した状態を示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る被覆砥粒の製造例を示す図である。
【図11】図11(a)は、ダイヤモンド被覆砥粒の表面の電子顕微鏡写真を示す図、図11(b)は、図11(a)の一部を拡大した図である。
【図12】実施品1、実施品2、及び比較品についてのシェア試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 電着研削砥石
3 台金
5 シャンク部
7 砥粒取付部
9 砥粒層
11 被覆砥粒
13 電着ボンド材
15 気孔
17 砥粒
19 官能基X(例えば、アミノ基)
21 中間層
23 カーボンナノチューブ被覆
25 多層カーボンナノチューブ
27 官能基Xと化学結合する官能基Y(例えば、カルボキシル基)
29 複合用ボンド材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に対して砥粒加工を行う際に用いられ、加工面側に多数の被覆砥粒をボンド材で結合してなる砥粒層が形成された砥粒加工用工具において、
前記被覆砥粒は、
砥粒と、
前記砥粒の表面に包み込むように形成され、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって絡み合うように構成されたカーボンナノチューブ被覆と、を備えたことを特徴とする砥粒加工用工具。
【請求項2】
前記砥粒は、表面側に官能基Xを有し、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブは、表面側に前記砥粒の前記官能基Xと化学結合する官能基Yを有していることを特徴とする請求項1に記載の砥粒加工用工具。
【請求項3】
前記砥粒の前記官能基Xは、前記砥粒の表面の原子又は分子と前記官能基Xを有する分子を化学吸着により置換することによって導入され、
前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yは、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの表面の欠陥部の原子又は分子と前記官能基Yを有する分子を化学吸着により置換することによって導入されたこと特徴とする請求項2に記載の砥粒加工用工具。
【請求項4】
前記砥粒層の表面側の前記砥粒が露出するようになっていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の砥粒加工用工具。
【請求項5】
砥粒加工用工具の構成要素として用いられる被覆砥粒において、
砥粒と、
前記砥粒の表面に包み込むように形成され、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブの自己凝集力によって絡み合うように構成されたカーボンナノチューブ被覆と、を備えたことを特徴とする被覆砥粒。
【請求項6】
前記砥粒は、表面側に官能基Xを有し、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブは、表面側に前記砥粒の前記官能基Xと化学結合する官能基Yを有していることを特徴とする請求項5に記載の被覆砥粒。
【請求項7】
前記砥粒の前記官能基Xは、前記砥粒の表面の原子又は分子と前記官能基Xを有する分子を化学吸着により置換することによって導入され、
前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの前記官能基Yは、前記単層カーボンナノチューブ又は前記多層カーボンナノチューブの表面の欠陥部の原子又は分子と前記官能基Yを有する分子を化学吸着により置換することによって導入されたこと特徴とする請求項6に記載の被覆砥粒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−64217(P2010−64217A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234654(P2008−234654)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【Fターム(参考)】