説明

硝化綿樹脂系塗料、その塗装方法および塗装物

【課題】加熱硬化型兼常温硬化型の硝化綿樹脂系上塗り塗料を提供する。
【解決手段】金属材料1の表面を前処理して塗装に適する状態にしてから、加熱硬化型兼常温硬化型の下塗り塗料で第1の塗膜2を形成し、硝化綿樹脂ワニス、アルキド樹脂ワニス、メラミン樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有する加熱硬化型兼常温硬化型の上塗り塗料で第2の塗膜3を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高防食塗装系に適用することが可能な熱硬化型兼常温硬化型の硝化綿樹脂系塗料、その塗装方法および塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高防食塗装系の塗装方法は、ブラスト処理などの前処理実施後にエポキシ樹脂系などから構成される高防錆力のある下塗り塗料で塗膜を形成し、研磨後に硝化綿樹脂系から構成される上塗り塗料で塗装を実施していた。下塗りのエポキシ樹脂系塗料および上塗りの硝化綿樹脂系塗料では、いずれも1日以上放置する常温乾燥が行われるが、リードタイムを短縮するため、強制乾燥も行われる。
【0003】
強制乾燥においては、光沢の安定および塗膜欠陥であるピンホールやわき発生などの防止のため、30分以上のセッティング(常温放置)した後、温度60〜80℃の乾燥炉内で加熱硬化される。硬化が不充分であると、マテハン時に圧痕や傷などがつく場合があり、膜厚が50μm以上のとき傷などがつき易い(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−31411号公報 (第4ページ、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高防食塗装系の塗料においては、常温乾燥が一般的であり、リードタイムや放置するためのスペースのロスが発生し、生産性の効率が低下していた。このため、強制乾燥を行うことが多々あるが、自動塗装ラインで適用されているエポキシ樹脂塗料のような一般的な加熱温度(120〜130℃)での加熱硬化ができず、乾燥炉の設定温度を60〜80℃に変更しなければならなかった。このため、乾燥炉が適用できるものでは、一般的な加熱温度で加熱硬化ができ、乾燥炉が適用し難い大型のものや塗装完成後の補修などでは、常温硬化ができる硝化綿樹脂系塗料が望まれていた。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、一般的な加熱温度での加熱硬化と常温硬化とが可能な加熱硬化型兼常温硬化型の硝化綿樹脂系塗料、その塗装方法および塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の硝化綿樹脂系塗料は、硝化綿樹脂ワニス、アルキド樹脂ワニス、メラミン樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上塗り塗料に加熱硬化型兼常温硬化型の硝化綿樹脂系塗料を用いているので、乾燥炉に搬入が可能な塗装物では加熱硬化によりリードタイムの短縮、スペースの削減から生産性を向上させることができ、また、乾燥炉に搬入し難い塗装物では常温硬化させることができ、経済的で品質の安定したものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0009】
本発明の実施例に係る硝化綿樹脂系塗料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る金属材料の塗装系を示す断面図である。
【0010】
図1に示すように、交通機器や産業機器を構成する酸洗した冷延鋼板、熱延鋼板のような塗装物の金属材料1の表面には、エポキシ樹脂系やアルキド樹脂系などの下塗り塗料で形成された第1の塗膜2が設けられている。また、第1の塗膜2の表面には、硝化綿樹脂系の上塗り塗料で形成された第2の塗膜3が形成されている。
【0011】
以下、この塗装方法を説明する。
【0012】
先ず、金属材料1の表面を前処理し、塗装に適する表面状態にする。前処理には、脱脂や除錆を含むリン酸亜鉛被膜といった化学的処理やサンドブラスト処理といった機械的処理を用いる。
【0013】
次に、下地の金属材料1との高付着性および優れた耐食性を得るためにエポキシ樹脂系やアルキド樹脂系などの熱硬化型兼常温硬化型下塗り塗料を用いて第1の塗膜2を形成する。膜厚は、15〜180μm(標準25〜80μm)とする。エポキシ樹脂系塗料としては、例えば関西ペイント社製エポマリンプライマータイプGを用い、アルキド樹脂系塗料としては、例えば関西ペイント社製TFラスタイト(改)を用いる。
【0014】
硬化後、第1の塗膜2を研磨する。研磨は研磨紙を用いて行うものであり、必ずしも実施しなくてもよいが、塵埃などの除去や表面層に凹凸を形成して第2の塗膜3との強力な接着力を得るために実施することが望ましい。研磨後、表1に示す硝化綿樹脂系上塗り塗料(A)を用いて、第2の塗膜3を形成する。また、表2に示す硝化綿樹脂系上塗り塗料(B)を用いて、第2の塗膜3を形成する。即ち、硝化綿樹脂系上塗り塗料は、2種類ある。表中の成分のカッコ内値は許容範囲であり、この許容範囲において、常温硬化と加熱硬化を兼ねることができ、後述する優れた外観と諸物性を得ることができる。
【表1】

【表2】

【0015】
硬化条件は、加熱硬化の場合、15分以上(15〜60分)のセッティング(常温放置)後、100〜150℃×10〜60分(標準120〜130℃×10〜30分)とする。膜厚は、10〜100μm(標準20〜60μm)とする。なお、下塗り塗料に関西ペイント社製TFラスタイト(改)を用いると、10分間のセッティングで上塗りをすることができ、短時間となる。
【0016】
硝化綿樹脂系上塗り塗料(A)は、熱影響に対する変色が少なく、安定した光沢度を保持し、これらの特性は市販品の常温硬化型の関西ペイント社製56Aエナメル塗料と同等以上のレベルを有する。また、硝化綿樹脂系上塗り塗料(B)は、更に熱影響に対する変色が少なく、安定した光沢度を保持し、市販品の常温硬化型の関西ペイント社製アクリック1000塗料と同等以上のレベルを有する。
【0017】
アクリル表面調整剤は、表面張力をコントロールすることで消泡剤、わき防止剤として働き、リコート性が良好で、上塗り塗料に添加する調整剤として適する。塗料系に相溶せず安定した分散状態を保ち、且つ塗料系よりも表面張力が低く、界面張力が高いものである。適度に極性を低く(S.P.=約7.7)して分子量を高くし、油滴径を大きくすることにより上述のような機能が得られるようになる。なお、極性を低くしすぎたり、分子量を高くしすぎるとレベリング性が悪くなり、塗膜外観に悪影響を及ぼすことになるので、表面調整剤の選択と配合比がポイントとなる。これらは、不確定要素が多いので、実験により最適な条件を選定した。
【0018】
このようなアクリル表面調整剤を適量添加したことにより、1回の塗装で膜厚100μmまでピンホールなどの塗膜欠陥がなく、また温度100℃以上で加熱硬化を行ってもわきによるクレータ状の窪みを押えることができる。この表面調整剤を添加して、常温硬化したものと、130℃×30分の加熱硬化したものでは、外観の表面状態(肌具合)、色調、光沢などが同様であった。アクリル表面調整剤を0.1〜0.5重量%添加することにより、温度100〜150℃の加熱硬化と常温硬化とを兼ねることができる。
【0019】
加熱硬化させて形成した第1の塗膜2および第2の塗膜3について、以下の試験を行った。
【0020】
1.初期物性試験
(1)硬度:JIS K 5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM 3359(碁盤目+粘着テープ試験)B法
2.耐久性試験
2−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験750時間実施後の外観判定および2次物性試験(2次物性試験は初期物性試験と同様)
2−2耐湿試験:JIS K 5600 耐湿試験(結露発生50℃、98%RH)750時間実施後の外観判定および2次物性試験(2次物性試験は初期物性試験と同様)
2−3亜硫酸ガス試験:20ppm、40℃、90%RH、750時間実施後の外観判定および2次物性試験(2次物性試験は初期物性試験と同様)
2−4塩素ガス試験:1ppm、40℃、90%RH、750時間実施後の外観判定および2次物性試験(2次物性試験は初期物性試験と同様)
2−5耐候試験:JIS K5600 促進耐候性(サンシャインWOM)300時間実施後の外観判定および2次物性試験(外観判定は外観とともに色差程度と光沢度保持率を測定、2次物性試験は初期物性試験と同様)
【0021】
硝化綿樹脂系上塗り塗料(A)、(B)の試験結果を表3に示す。
【0022】
試験結果から、優れた防錆力および美観の両方の性能を有する高品質な塗膜が得られることが分かる。太陽光の紫外線などの影響を受ける屋外の塗膜に対しては、耐候試験により、硝化綿樹脂系上塗り塗料(A)よりも(B)の方が優れていた。
【0023】
上記実施例の硝化綿樹脂系塗料によれば、下塗り塗料に加熱硬化型兼常温硬化型の塗料を用いて第1の塗膜2を形成し、上塗り塗料にも加熱硬化型兼常温硬化型の硝化綿樹脂系塗料を用いて第2の塗膜3を形成しているので、乾燥炉に搬入が可能な塗装物では一般的な加熱温度で加熱硬化をし、リードタイムの短縮、スペースの削減ができ、生産性を向上させることができる。また、塗装品完成後の補修や化粧塗装など乾燥炉に搬入し難い塗装物では、常温硬化させることができ、経済的で品質の安定したものにすることができる。そして、これらの塗膜2、3は、厳しい環境下に充分に耐え得ることができる。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る金属材料の塗装系を示す断面図。
【符号の説明】
【0025】
1 金属材料
2 第1の塗膜
3 第2の塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化綿樹脂ワニス、アルキド樹脂ワニス、メラミン樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有することを特徴とする硝化綿樹脂系塗料。
【請求項2】
前記硝化綿樹脂ワニス28〜38重量%、前記アルキド樹脂ワニス28〜38重量%、前記メラミン樹脂ワニス6〜16重量%、前記アクリル表面調整剤0.1〜0.5重量%としたことを特徴とする請求項1に記載の硝化綿樹脂系塗料。
【請求項3】
硝化綿樹脂ワニス、アルキド樹脂ワニス、メラミン樹脂ワニス、アクリル樹脂ワニス、アクリル表面調整剤、着色顔料を有することを特徴とする硝化綿樹脂系塗料。
【請求項4】
前記硝化綿樹脂ワニス21〜35重量%、前記アルキド樹脂ワニス22〜36重量%、前記メラミン樹脂ワニス3〜9重量%、前記アクリル樹脂ワニス5〜15重量%、前記アクリル表面調整剤0.1〜0.5重量%としたことを特徴とする請求項3に記載の硝化綿樹脂系塗料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の硝化綿樹脂系塗料を、加熱硬化型兼常温硬化型下塗り塗料で塗布して形成した第1の塗膜に上塗りし、第2の塗膜を形成することを特徴とする硝化綿樹脂系塗料の塗布方法。
【請求項6】
前記第2の塗膜を温度100〜150℃で加熱硬化したことを特徴とする請求項5に記載の硝化綿樹脂系塗料の塗布方法。
【請求項7】
前記第2の塗膜を常温硬化させたことを特徴とする請求項5に記載の硝化綿樹脂系塗料の塗布方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の硝化綿樹脂系塗料を、加熱硬化型兼常温硬化型下塗り塗料を塗布した金属材料の上塗り塗料として塗布したことを特徴とする塗装物。
【請求項9】
前記硝化綿樹脂系塗料で形成した塗膜を温度100〜150℃で加熱硬化したことを特徴とする請求項8に記載の塗装物。
【請求項10】
前記硝化綿樹脂系塗料で形成した塗膜を常温硬化させたことを特徴とする請求項8に記載の塗装物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102543(P2009−102543A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276706(P2007−276706)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】