説明

硫黄含有のメタセシス触媒

【課題】更に、オレフィン−メタセシス用の触媒系であって、安定であり、かつ高く場合により制御可能な活性を示し、かつ現存の触媒の代替として利用できる新規の触媒系を提供する。
【解決手段】式(I)で示され、式中、Mは、Ru又はOsを表し、L及びL′は、互いに無関係に、同一もしくは異なって、中性の電子供与体を表し、X1及びX2は、同一もしくは異なって、アニオン性の配位子を表し、Rは、水素、環式の、直鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキル基を表すか、又は置換されていてよいアリール基を表し、Zは、金属に直接的に配位する硫黄含有の単位を表し、かつAは、単位Zをカルベン炭素と共有結合させる架橋を表し、かつnは、0又は1の数を意味する]で示される化合物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)
【化1】

で示される新規の遷移金属錯体、前記遷移金属錯体の製造方法、並びに前記遷移金属錯体をメタセシス反応における触媒として用いる使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メタセシスとは、二重結合もしくは三重結合上の置換基が形式上交換される化学反応を表す。メタセシス反応には、非環状ジエンのオリゴマー化及び重合(ADMET)又は環状オレフィンの重合(ROMP)並びに閉環メタセシスによる種々の大きさの環状化合物の合成(RCM)が該当する。更に、種々のアルケンの交差メタセシス(CM)及びアルケンとアルキンとのメタセシス(エニンメタセシス)が知られている。多くの基礎となる研究は、実質的に、前記の遷移金属触媒反応の理解に貢献している(概要は、Handbook of Metathesis,Ed.R.H.Grubbs,WILEY−VCH,Weinheim,2003を参照のこと)。
【0003】
オレフィン−メタセシスのためには、多くの触媒系が存在する。特に、Schrock氏の論文によって、モリブデン及びタングステンのアルキリデン錯体が、初めての十分に定義された触媒として紹介された。(J.S.Murdzek,R.R.Schrock,Organometallics,1987,6,1373−1374)。しかしながら、前記の錯体の高い感受性が欠点であると判明した。近年では、ホスファン配位子を有するルテニウム−アルキリデン錯体が確立されている(P.Schwab他著のAngew.Chem.Int.Ed.Engl.1995,34,2039−2041;P.A.van der Schaaf他著のJ.Organometallic Chem.2000,606,65−74)。これらの錯体は、極性の官能基に対して高い耐久性を有し、かつ空気と水に安定である。配位子としてN−複素環式カルベン(NHC)を導入することによって、前記の系の活性を更に高めることができるだけでなく、実質的に多様な配位圏に基づいて、新規の反応についての制御可能性にも到達可能となった(DE19815275号及びT.Weskamp,W.C.Schattenmann,M.Spiegler,W.A.Herrmann著のAngew.Chem.1998,110,263−2633)。触媒活性の更なる明らかな向上は、配位的により不安定な配位子で補うことによって達成される(DE19902439号及びT.Weskamp,F.J.Kohl,W.Hieringer,D.Gleich,W.A.Herrmann著のAngew.Chem.1999,111,2573−2576)。代表的な例は、錯体A及びBである。
【0004】
【化2】

【0005】
Gessler他(Tetrahedron Lett.2000,41,9973−9976)及びGarber他(J.Am.Chem.Soc.2000,122,8168−8179)においては、N−複素環式カルベン配位子の他に、イソプロポキシベンジリデン配位子を有するルテニウム錯体が記載されている。これらの、いわゆる"グリーン"触媒は、より高い安定性を有し、かつ場合により再利用できる。
【0006】
特許WO9900397号は、ROMPのために特に良好な適性を有する触媒C及びDを記載している。係る高活性のメタセシス触媒の更なる例(E及びF)は、出願WO2005094345号に記載されている。
【0007】
【化3】

【0008】
硫黄含有の単位を側鎖中に有するメタセシス触媒のための幾つかの例が文献に記載されている(錯体Hは、P.A.van der Schaaf他著のJ.Organometallic Chem.2000,606,65−74に記載され、錯体J1は、特許CN2005100803792号に記載され、そして錯体J2は、M.Bieniek他著のJ.Organomet.Chem.2006,691,5289に記載されている)。
【0009】
【化4】

【特許文献1】DE19815275号
【特許文献2】DE19902439号
【特許文献3】WO9900397号
【特許文献4】WO2005094345号
【特許文献5】CN2005100803792号
【非特許文献1】Handbook of Metathesis,Ed.R.H.Grubbs,WILEY−VCH,Weinheim,2003
【非特許文献2】Organometallics,1987,6,1373−1374
【非特許文献3】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1995,34,2039−2041
【非特許文献4】J.Organometallic Chem.2000,606,65−74
【非特許文献5】Angew.Chem.1998,110,263−2633
【非特許文献6】Angew.Chem.1999,111,2573−2576
【非特許文献7】Tetrahedron Lett.2000,41,9973−9976
【非特許文献8】J.Am.Chem.Soc.2000,122,8168−8179
【非特許文献9】J.Organometallic Chem.2000,606,65−74
【非特許文献10】J.Organomet.Chem.2006,691,5289
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それにもかかわらず、更に、オレフィン−メタセシス用の触媒系であって、安定であり、かつ高く場合により制御可能な活性を示し、かつ現存の触媒の代替として利用できる新規の触媒系に要求が存在する。特に、それらの触媒は、先行技術の触媒を全体的に考えると、経済的及び/又は環境的な観点から考慮すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、ここで、式(I)
【化5】

[式中、
Mは、Ru又はOsを表し、有利にはRuを表し、
L及びL′は、互いに無関係に、同一もしくは異なって、中性の電子供与体を表し、
X1及びX2は、同一もしくは異なって、アニオン性の配位子を表し、
Rは、水素、環式の、直鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキル基を表すか、又は置換されていてよいアリール基を表し、
Zは、金属に直接的に配位する硫黄含有の単位を表し、かつ
Aは、単位Zをカルベン炭素と共有結合させる架橋を表し、かつ
nは、0又は1の数、有利には0を意味する]で示される化合物が見出された。
【0012】
本発明による錯体化合物によるオレフィン−メタセシスは、室温での低い活性の点で、特に温度増大による迅速な活性向上の点で優れている。それにより、本発明による化合物は、熱的切り替え可能(thermoshcaltbar)な触媒として使用することができる。更に、本発明による錯体化合物は、空気に安定な化合物であり、かつ従来技術の触媒に対して実質的に低くない活性で、顕著な熱安定性を有する。
【0013】
中性の電子供与配位子L及びL′の変更によって、錯体の活性及び選択性を、更に狙い通りに制御することができる。有利には、本発明による錯体化合物は、Lに関して、配位子として飽和もしくは不飽和のNHC(N−複素環式カルベン)を有する。これらの化合物は、配位圏のモデリングのためのそのバリエーションの多彩さの他に、特に、高い触媒活性の提供の点で優れている。係る配位子は、以下の文献に例示的に挙げられている(DE19815275号及びT.Weskamp,W.C.Schattenmann,M.Spiegler,W.A.Herrmann著のAngew.Chem.1998,110,263−2633;DE19902439号及びT.Weskamp,F.J.Kohl,W.Hieringer,D.Gleich,W.A.Herrmann著のAngew.Chem.,1999,111,2573−2576;EP1180108号)。L′は、Lを取るか、又はWO9951344号に中性の電子供与体配位子として挙げられる構造を取りうる。
【0014】
本発明による錯体化合物においては、上述の硫黄含有の単位Zは、有利には、一連の、チオール、チオエーテル、チオアセタール、ジスルフィド、ジチオカルボン酸、チオエステル、チオケトン、チオアルデヒド、チオカルバメート、チオウレタン、ホスフィンスルフィド、チオホスフェート、チオホスホネート、スルホネート、スルホン、スルホンアミド又は硫黄含有の複素環からの残基であり、その際、結合Z−M、有利にはZ−Ruは、硫黄原子を介して又は硫黄上に存在する酸素原子を介して形成されることが保証されねばならない。好ましくは、硫黄もしくは酸素原子と金属原子との間での配位性閉環が5員環、6員環もしくは7員環を形成する場合がその場合である。
【0015】
架橋している分子部分Aについては、当業者は、原則的に、問題となる目的についてそれに該当する基を使用でき、好ましくは、2ないし4個の炭素原子からなる炭素骨格であり、特に有利にはC2架橋であり、その際、場合により両方のC原子は、sp2混成を有してよく、かつその基は、好ましくは、3員の、4員の、5員の、6員の、7員のもしくは8員の環系の一部を形成する。先程話題にした環系は、場合により1つ以上のヘテロ原子を有してよい。係るヘテロ原子としては、特に酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子が該当する。それらの環系は、前記のsp2混成により、更に不飽和であってよく、かつ場合により芳香族性であってよい。前記環系は、更なる基、特にC1〜C8−アルキル、C1〜C8−アルコキシ、C6〜C18−アリールオキシ、HO−C1〜C8−アルキル、C2〜C8−アルコキシアルキル、C6〜C18−アリール、C7〜C19−アラルキル、C3〜C18−ヘテロアリール、C4〜C19−ヘテロアラルキル、C1〜C8−アルキル−C6〜C18−アリール、C1〜C8−アルキル−C3〜C18−ヘテロアリール、C3〜C8−シクロアルキル、C1〜C8−アルキル−C3〜C8−シクロアルキル、C3〜C8−シクロアルキル−C1〜C8−アルキルからなる群から選択される基で一置換もしくは多置換されていてよい。
【0016】
更に、前記環系は、1つ以上の置換基、特にハロゲン、ヒドロキシ、カルボン酸、エステル、シリルエーテル、チオエーテル、チオアセタール、イミン、シリレノールエーテル、アンモニウム塩、アミド、ニトリル、ペルフルオロアルキル基、ケトン、アルデヒド、カルバメート、カーボネート、ウレタン、スルホネート、スルホン、スルホンアミド、ニトロ基、オルガノシラン単位、ホスホン基及びホスフェート基並びにホスホニウム塩からなる群から選択される置換基を有してもよい。
【0017】
本発明による錯体化合物においては、アニオン性配位子X1及びX2は、有利には、一連のハロゲニド、特にF-、Cl-、Br-、シュードハロゲニド(Pseudohalogenide)、ヒドロキシド、アルコキシドもしくはアミド(RO-、R2-)、フェノール、チオール、チオフェノール、カルボキシレート、カーボネート、スルホネート、スルフェート、ホスフェート及びホスホネート、アリル並びにシクロペンタジエニルからの無機アニオンもしくは有機アニオンであり、その際、シュードハロゲニドとは、有利にはシアニド、ローダニド、シアネート、イソシアネート、チオシアネート及びイソチオシアネートを表し、式中のRは、以下に挙げられる定義を満たしている。
【0018】
殊に、一般式(II)及び(III)
【化6】

で示される錯体化合物が好ましい。
【0019】
式中で、Zは、−S−、−S(O)−及びS(O)2−を表し、X1及びX2は、上述の基を採用し、Y、R、R′及びR1〜R4は、互いに無関係に、水素、C1〜C8−アルキル、C1〜C8−アルコキシ、C6〜C18−アリールオキシ、HO−C1〜C8−アルキル、C2〜C8−アルコキシアルキル、C6〜C18−アリール、C7〜C19−アラルキル、C3〜C18−ヘテロアリール、C4〜C19−ヘテロアラルキル、C1〜C8−アルキル−C6〜C18−アリール、C1〜C8−アルキル−C3〜C18−ヘテロアリール、C3〜C8−シクロアルキル、C1〜C8−アルキル−C3〜C8−シクロアルキル、C3〜C8−シクロアルキル−C1〜C8−アルキルの群から互いに無関係に選択可能な基である。更に、基R′及びR1〜R4は、互いに無関係に、(シクロ)アルキルチオ、(ヘテロ)アリールチオ、アルキル/アリールスルホニル、アルキル/アリールスルフィニルを意味してよく、それらはそれぞれ選択的に、C1〜C8−アルキル、C1〜C8−アルコキシ、C6〜C18−アリールオキシ、HO−C1〜C8−アルキル、C2〜C8−アルコキシアルキル、C6〜C18−アリール、ペルフルオロアルキル、ハロゲン、C1〜C8−アシルオキシ、C1〜C8−アシル、C1〜C8−アルコキシカルボニル、C1〜C8−アルキルスルホニルもしくはC1〜C8−アルキルスルフィニル、C6〜C18−アリールスルホニルもしくはC6〜C18−アリールスルフィニルで置換されている。
【0020】
1〜R4は、同様に、ニトロ基、スルフェート、アミン、アンモニウム塩、ホスフェート及びホスホニウム塩を意味することができる。
【0021】
前記基R′は、基R1〜R4の1つ以上と環状化合物に互いに結合されて存在してよい。また、基R1は、基Yと互いに結合して、(複素)環式化合物を形成することができる。
【0022】
本発明による化合物、特に式(I)及び(II)の化合物は、有利には、式(IV)の化合物中のホスファン配位子と、式(V)の配位子との交換反応によって製造され、
【化7】

それらの式中の基及び係数は、上述の意味を採用し、かつPR3は、ホスファン配位子、有利にはトリシクロヘキシルホスファンを表す。
【0023】
本発明による化合物、特に式(I)及び(II)の化合物の式(VI)の化合物からの製造は、有利には溶剤中で、特に有利にはトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン又はジクロロメタン中で、殊に有利にはジクロロメタン中で行われる。前記反応は、有利には、ホスファンを捕捉することができる化合物の存在下で、特に有利には、CuCl2及びCuClの存在下で、殊に有利には、CuClの存在下で行われる。その際、有利には、式(IV)の化合物に対して、等モル量のもしくは過剰量のホスファン捕捉剤の存在下で作業される。ホスファン捕捉剤としてCuClを使用する場合に、特に有利には、1〜1.5当量で使用される。式(IV)の化合物に対して、有利には0.9〜3当量の式(V)の化合物が使用され、特に有利には1〜2当量で使用される。前記反応は、有利には、20〜80℃の温度で、特に有利には30〜50℃の温度で行われる。前記反応は、有利には不活性ガス、例えば窒素もしくはアルゴン下で実施される。
【0024】
本発明による化合物(I)、特に式(II)及び(III)の化合物は、メタセシス反応における触媒として使用することができる。前記化合物は、例えば閉環メタセシスにおいて使用することができる。特に有利には、前記化合物は、ROMP及びADMET−重合反応において使用される。
【0025】
アルキル基としては、特にC1〜C8−アルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル又はオクチルを、全てのそれらの結合異性体もろとも考慮している。
【0026】
1〜C8−アルコキシ基は、C1〜C8−アルキル基であって、これが1つの酸素原子を介して分子に結合されているものに相当する。
【0027】
2〜C8−アルコキシアルキルとしては、アルキル鎖が少なくとも1つの酸素官能によって中断されており、2つの酸素原子が互いに結合され得ない基を意味する。炭素原子の数は、その基中に含まれる炭素原子の総数を述べている。
【0028】
3〜C5−アルキレン架橋は、3〜5個のC原子を有する炭素鎖であり、この鎖は、2つの異なるC原子を介して検討される分子に結合されている。
【0029】
先の段落に記載される基は、ハロゲン及び/又はN原子を有する基、O原子を有する基、P原子を有する基、S原子を有する基、Si原子を有する基で一置換もしくは多置換されていてよい。これらは、特に上述の種類のアルキル基であって、前記のヘテロ原子の1つ以上をその鎖中に有するか、あるいは前記のヘテロ原子の1つを介して分子に結合されているものである。
【0030】
3〜C8−シクロアルキルとは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル基などを表す。前記基は、1つ以上のハロゲン及び/又はN原子を有する基、O原子を有する基、P原子を有する基、S原子を有する基、Si原子を有する基で置換されていてよく、かつ/又はN原子、O原子、P原子、S原子を環中に有してよく、例えば1−、2−、3−、4−ピペリジル、1−、2−、3−ピロリジニル、2−、3−テトラヒドロフリル、2−、3−、4−モルホリニルである。
【0031】
3〜C8−シクロアルキル−C1〜C8−アルキル基は、前記のようなシクロアルキル基であって、前記のような1つのアルキル基を介して分子に結合されているものを指す。
【0032】
1〜C8−アシルオキシは、本発明の範囲においては、前記定義の最大8個のC原子を有するアルキル基であって、1つのCOO官能を介して分子に結合されているものを意味する。
【0033】
1〜C8−アシルは、本発明の範囲においては、前記定義の最大8個のC原子を有するアルキル基であって、1つのCO官能を介して分子に結合されているものを意味する。
【0034】
アリール基とは、特にC6〜C18−アリール基を表し、それは6〜18個のC原子を有する芳香族基である。特に、それには、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などの化合物もしくは前記の種類の該当する分子に縮合された系、例えばインデニル系が該当し、これらは、場合により、ハロゲン、C1〜C8−アルキル、C1〜C8−アルコキシ、NH2、NH−C1〜C8−アルキル、N(C1〜C8−アルキル)2、OH、CF3、NH−C1〜C8−アシル、N(C1〜C8−アシル)2、C1〜C8−アシル、C1〜C8−アシルオキシで置換されていてよい。
【0035】
7〜C19−アラルキル基は、1つのC1〜C8−アルキル基を介して分子に結合されたC6〜C18−アリール基である。
【0036】
3〜C18−ヘテロアリール基は、本発明の範囲においては、3〜18個の炭素原子からなる、5員、6員もしくは7員の芳香族環系を指し、これらはヘテロ原子、例えば窒素、酸素もしくは硫黄を環中に有する。係る複素芳香族化合物としては、特に1−、2−、3−フリル、例えば1−、2−、3−ピロリル、1−、2−、3−チエニル、2−、3−、4−ピリジル、2−、3−、4−、5−、6−、7−インドリル、3−、4−、5−ピラゾリル、2−、4−、5−イミダゾリル、アクリジニル、キノリニル、フェナントリジニル、2−、4−、5−、6−ピリミジニルなどの基が考慮される。この基は、上述のアリール基と同じ基で置換されていてよい。
【0037】
4〜C19−ヘテロアラルキルとは、C7〜C19−アラルキル基に相当する複素芳香族系を表す。
【0038】
ハロゲン(Hal)としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が該当する。
【実施例】
【0039】
1. 2−(イソプロピルチオ)安息香酸の合成
【化8】

【0040】
チオサリチル酸(16.7g;109ミリモル;Fluka)及び臭化イソプロピル(20.0g;163ミリモル)をエタノール(125mL)中に入れた懸濁液に、KOH−ペレット(Plaetzchen)(17.3g;433ミリモル)を激しく撹拌しつつゆっくりと添加した。6時間の撹拌後に、反応混合物を、水−氷混合物(1200mL)中に注ぎ、そして濃塩酸(約50ml)で酸性に調整した。沈殿された生成物を濾別し、50%の水性エタノール(2×100mL)で洗浄し、そして真空中で乾燥させた。収量 6.4g(30%)。
【0041】

【0042】
2. 2−(イソプロピルチオ)ベンゾアルデヒドの合成
【化9】

【0043】
2−(イソプロピルチオ)安息香酸(0.98g、5ミリモル)をTHF(10mL)中に溶かした溶液に、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.8mL、8ミリモル)を3℃でアルゴン下で激しく撹拌しつつ滴加した。引き続き30分間、氷浴中で撹拌した後に、更に24時間、室温で反応させたままにした。メタノール(1.5mL)を、慎重に添加し、そして反応溶液を真空中で濃縮した。残留物を、ジエチルエーテル(50ml)中に取り、飽和K2CO3溶液とNaCl溶液で洗浄した。水溶液を、更に、エーテルで抽出し、濃縮された有機相をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、そして溶剤を真空中で除去した。残留物をジクロロメタン(30ml)中に取り、PCC(1.20g、5.6ミリモル)と慎重に混合し、そして室温で36時間、撹拌した。溶剤を除去した後の残留物を、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(10:1))によって精製した。収量 0.69g(76%)。
【0044】

【0045】
3. 2−イソプロピルスルフィニルベンゾアルデヒドの合成
【化10】

【0046】
2−(イソプロピルチオ)ベンゾアルデヒド(0.33g、1.83ミリモル)をジクロロメタン(10mL)中に溶かした溶液を、KHCO3水溶液(1.18g 10mLのH2O中)と混合した。激しく撹拌しつつ、臭素(0.310g、1.93ミリモル)をジクロロメタン(1.5mL)中に溶かした溶液を滴加した。引き続き20分間、撹拌した後に、へら先のNa2SO3を添加し、そして有機相を分離し、飽和NaCl溶液で洗浄し、そしてMgSO4上で乾燥させ、濾過し、そして溶剤を真空中で除去した。残留物を、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(3:1〜1:1))によって精製した。生成物が、帯黄色の油状物として生じた。収量 0.304g(85%)。
【0047】

【0048】
4. ウィティッヒオレフィン化
臭化メチルトリフェニルホスホニウム(0.690g、1.93ミリモル、Aldrich)を8mLのTHF中に入れた懸濁液に、n−BuLi(1.5M、1.4mL、2.07ミリモル)を−78℃でアルゴン雰囲気下で滴加した。黄色の反応溶液を、1時間以内で、室温に加熱した。−78℃に再び冷却した後に、相応のアルデヒド(1.39ミリモル)をTHF(5mL)中に溶かした溶液を添加し、次いで、ゆっくりと室温に加温し、そして引き続き、前記温度で1時間、撹拌した。飽和NH4Cl溶液を添加した後に、水相を酢酸エチルで抽出した(4×20mL)。濃縮した有機相を、MgSO4上で乾燥させ、そして溶剤を真空中で除去した。残留物を、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン:酢酸エチル(2:8))によって精製した。
【0049】
4a. 2−イソプロピルチオ−1−ビニルベンゼン
【化11】

【0050】
収率 74%。
【0051】

【0052】
4b. 2−イソプロピルスルフィニル−1−ビニルベンゼン
【化12】

【0053】
収率 71%。
【0054】

【0055】
5. Ru−錯体合成
塩化銅(I)(13mg、0.12ミリモル)及びトリシクロヘキシルホスファン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン][ベンジリデン]ルテニウム(IV)ジクロリド(102mg;0.12ミリモル)を2mLのジクロロメタン中に入れた懸濁液に、相応のスチレン誘導体(0.132ミリモル)を3mLのジクロロメタン中に溶かした溶液を添加した。40℃で20分間撹拌した後に、反応溶液を、真空中で濃縮した。残留物を、20mlの酢酸エチル中に取り、そしてシリカゲルを有するパスツールピペットを介して濾過した。濾液を、再び、真空中で濃縮し、そして残留物を非常にわずかな酢酸エチルと冷ペンタンで洗浄した。
【0056】
5a. 錯体SR1
【化13】

【0057】
緑色の微結晶性の固体、収率 86%。
【0058】

【0059】
図1: 錯体SR1の結晶構造。
【0060】
5b. 錯体SOR1
【化14】

【0061】
淡緑色の微結晶性の固体、収率 72%。
【0062】

【0063】
6. N,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミドのRCM
【化15】

【0064】
6a. 錯体SR1の存在下
N,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミド(0.350ミリモル、84mg)を17.5mlのトルエン中に溶かした溶液を、実施例5aからの5モル%の触媒(0.018ミリモル)SR1とアルゴン下で混合し、そして80℃で撹拌した。200μLのアリコートの反応溶液を、塩化メチレン中の2Mのエチル−ビニル−エーテル溶液500μLに添加し、そしてGCによって分析した。24時間後に、所望のN−p−トルエンスルホニル−2,5−ジヒドロピロールに対して51%の転化率が確認された。
【0065】
6b. 錯体SOR1の存在下
N,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミド(0.350ミリモル、84mg)を17.5mlのジクロロメタン中に溶かした溶液を、実施例5bからの5モル%の触媒(0.018ミリモル)SOR1とアルゴン下で混合し、そして室温で撹拌した。200μLのアリコートの反応溶液を、塩化メチレン中の2Mのエチル−ビニル−エーテル溶液500μLに添加し、そしてGCによって分析した。反応の過程を、図2に表す。
【0066】
図2: 5モル%の錯体SOR1の存在下での塩化メチレン中での室温におけるN,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミドのRCM。
【0067】
7. ジエチル−2−アリル−2−(2−メチルアリル)マロネートのRCM
【化16】

【0068】
ジエチル−2−アリル−2−(2−メチルアリル)マロネート(0.350ミリモル)を17.5mlのトルエン中に溶かした溶液を、実施例5bからの1モル%の触媒(0.0035ミリモル)SOR1とアルゴン下で混合し、そして80℃で撹拌した。200μLの反応溶液を、塩化メチレン中の2Mのエチル−ビニル−エーテル溶液500μLに添加し、そしてGCによって分析した。1時間後に、所望の4,4−ビス(エトキシカルボニル)−1−メチルシクロペンテンに対して99%の転化率が確認された。
【0069】
8. 3−アリルオキシ−3,3−ジフェニルプロピンのエニンメタセシス
【化17】

【0070】
3−アリルオキシ−3,3−ジフェニルプロピン(0.350ミリモル)を17.5mlのトルエン中に溶かした溶液を、実施例5aからの5モル%の触媒(0.018ミリモル)SR1とアルゴン下で混合し、そして80℃で撹拌した。200μLの反応溶液を、塩化メチレン中の2Mのエチル−ビニル−エーテル溶液500μLに添加し、そしてGCによって分析した。1時間後に、所望の3−エテニル−2,5−ジヒドロ−2,2−ジフェニルフランに対して99%の転化率が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、錯体SR1の結晶構造を示している。
【図2】図2は、5モル%の錯体SOR1の存在下での塩化メチレン中での室温におけるN,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミドのRCMを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、
Mは、Ru、Osを表し、
L及びL′は、互いに無関係に、同一もしくは異なって、中性の電子供与体を表し、
X1及びX2は、同一もしくは異なって、アニオン性の配位子を表し、
Rは、水素、環式の、直鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキル基を表すか、又は置換されていてよいアリール基を表し、
Zは、金属に直接的に配位する硫黄含有の単位を表し、かつ
Aは、単位Zをカルベン炭素と共有結合させる架橋を表し、かつ
nは、0又は1の数、有利には0を意味する]で示される化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、Lが、飽和もしくは不飽和のNHC−配位子であることを特徴とする化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物であって、Zは、チオール、チオエーテル、チオアセタール、ジスルフィド、ジチオカルボン酸、チオエステル、チオケトン、チオアルデヒド、チオカルバメート、チオウレタン、ホスフィンスルフィド、チオホスフェート、チオホスホネート、スルホネート、スルホン、スルホンアミドを含む単位又は硫黄を有する複素環であり、その際、結合Z−Ruが、硫黄原子を介して、又は硫黄上に存在する酸素原子を介して形成されることが保証されねばならないことを特徴とする化合物。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の化合物であって、分子部AはC2架橋を形成し、その両方のC原子がsp2混成を有することを特徴とする化合物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の化合物であって、X1及びX2は、一連のハロゲニド、特にF-、Cl-、Br-、シュードハロゲニド、ヒドロキシド、アルコキシドもしくはアミド、フェノール、チオール、チオフェノール、カルボキシレート、カーボネート、スルホネート、スルフェート、ホスフェート及びホスホネート、アリル-及びシクロペンタジエニル-からの無機アニオンもしくは有機アニオンであり、その際、シュードハロゲニドとは、有利にはシアニド、ローダニド、シアネート、イソシアネート、チオシアネート及びイソチオシアネートを表すことを特徴とする化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物の製造方法において、前記化合物を、式(IV)の化合物中のホスファン配位子と、式(V)の配位子との交換反応
【化2】

[式中、
Mは、Ru、Osを表し、
L及びL′は、互いに無関係に、同一もしくは異なって、中性の電子供与体を表し、
X1及びX2は、同一もしくは異なって、アニオン性の配位子を表し、
Rは、水素、環式の、直鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキル基を表すか、又は置換されていてよいアリール基を表し、
Zは、金属に直接的に配位する硫黄含有の単位を表し、かつ
Aは、単位Zをカルベン炭素と共有結合させる架橋を表し、かつ
nは、0又は1の数、有利には0を意味し、かつ
PR3は、ホスファン配位子、有利にはトリシクロヘキシルホスファンを表す]によって製造することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物をメタセシス反応において用いる使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273971(P2008−273971A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118437(P2008−118437)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】