説明

硫黄固化体成形装置および硫黄固化体成形品の製造方法

【課題】硫黄資材が固化する際の収縮やガスの発生による空隙を内部に生じさせることなく硫黄固化体成形品を製造する。
【解決手段】硫黄固化体成形装置10は、キャビティCが形成された型枠100と、キャビティCを覆って設置される保温加熱装置200とを有する。型枠100は、それぞれ内部に流体室が形成された底板部および側板部を有している。流体室に例えば加圧蒸気を導入することで型枠100が加熱され、冷却媒体を導入することで型枠100が冷却される。保温加熱装置200は、加熱手段を備えており、キャビティC内に流し込まれた溶融状態の硫黄資材を型枠100で冷却中に、キャビティCを覆って設置され、硫黄資材の上部表面を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質硫黄を原料とした改質硫黄資材を固化させることによって硫黄固化体を製造する技術に関し、特に、硫黄固化体を所定の形状に成形するのに用いられる硫黄固化体成形装置、および硫黄固化体成形装置を用いた硫黄固化体成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木用および建設用の資材の1つとして、骨材をセメントで結合させたコンクリートが一般に用いられている。近年、常温では固体でありおよそ119℃を超えると溶融する硫黄の性質に着目して、硫黄を土木用および建設用の資材として利用する試みがなされている。硫黄を利用した資材(硫黄資材)は、通常のコンクリートに比べて高強度で耐水性に優れ、かつ耐酸性の強い材料として知られている。また、硫黄資材は、コンクリートと仕上がりや取り扱いが似ていることから、固化したものは硫黄コンクリートまたは硫黄固化体とも呼ばれる(特許文献1参照)。
【0003】
硫黄は着火性を有しているため、現場で溶融させて打設することが困難である。そこで、特許文献2には、溶融した硫黄に添加剤として硫黄改質剤を添加して硫黄を変性した改質硫黄を製造し、この改質硫黄と細骨材とを混合して溶融物状の改質硫黄中間資材を製造すること、および、改質硫黄中間資材と粗骨材とを混合し、これを固化させて改質硫黄固化体を製造することが開示されている。
【0004】
固化した改質硫黄中間資材からなる製品を製造する際には、一般的なコンクリート製品を製造する場合と同様、型枠が用いられることが多い。すなわち、溶融状態の改質硫黄中間資材を型枠内に流し込み、型枠内で冷却固化する。これによって、所望の形状を有する硫黄固化体を工業的に製造することができる。
【特許文献1】特開2004−160693号公報
【特許文献2】特開2005−82475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現場にて硫黄中間資材と粗骨材とを混合して硫黄資材を打設する場合は、以下に述べるような問題点がある。
【0006】
硫黄資材は通常のコンクリートに比べて早く固化する。しかも、固化の進行は温度に依存する。型枠に流し込まれた硫黄資材は、上部表面は外気に曝されるため固化の進行が早い。また、型枠との接触面も、型枠によって急激に冷却されるため固化の進行が早い。しかし、内部では熱がこもるため固化の進行が遅い。つまり、周囲表面が固化した後に内部が固化する。固化は収縮を伴うので、周囲表面の固化後に内部が固化すると、硫黄固化体の内部に空隙が生じることがある。また、溶融している硫黄からは硫化水素といったガスが発生するので、周囲表面が先に固化し、内部がまだ溶融状態であると、発生したガスが内部に閉じ込められる。このことも、硫黄固化体の内部に空隙が生じる原因となる。硫黄固化体の内部に空隙が存在すると、得られた硫黄固化体成形品の強度に悪影響を及ぼすことがある。
【0007】
そこで本発明は、溶融状態の硫黄資材が周囲から固化することに起因する空隙を内部に生じさせにくくしながら硫黄固化体成形品を製造できる、硫黄固化体成形装置および硫黄固化体成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の硫黄固化体成形装置は、硫黄を原料とする溶融状態の硫黄資材を冷却固化させて硫黄固化体を成形するのに用いられる硫黄固化体成形装置であって、溶融状態の硫黄資材が流し込まれる、上面が開放したキャビティが形成された、加熱および冷却可能な型枠と、キャビティの開放した上面を覆って設置される、加熱手段を備えた保温加熱装置と、を有する。
【0009】
本発明の硫黄固化体成形装置では、加熱および冷却可能な型枠を有しているので、キャビティ内に溶融状態の硫黄資材を流し込む際に、型枠を加熱した状態としておき、硫黄資材を流し込んだ後、型枠を冷却することができる。その結果、硫黄資材をキャビティに流し込んだときに硫黄資材のキャビティ内面と接触した部分が急激に冷却されることがなくなる。また、硫黄資材を流し込んだ後、型枠を冷却することにより、冷却しない場合と比べて短時間で硫黄資材の固化が進行する。しかも、硫黄資材の冷却中、硫黄資材の上部表面を保温加熱装置によって加熱することができるので、硫黄資材の固化は、下方および側方から進行する。よって、固化の段階で内部に空隙が形成されにくく、結果的に空隙の少ない硫黄固化体成形品が製造される。
【0010】
本発明の硫黄固化体成形装置において、型枠は、キャビティを形成するための底板部および底板部の周縁に立設された側板部を有し、底板部および側板部のうち少なくとも底板部には、2つの接続管が接続された流体室が形成されている構成とすることができる。この場合、型枠の加熱時には一方の接続管から流体室内に例えば加圧蒸気といった加熱媒体を導入し、型枠の冷却時には他方の接続管から流体室内に例えば水といった冷却媒体を導入することよって、型枠が加熱されたり冷却される。
【0011】
また、保温加熱装置は、型枠の上面を覆うカバー部材と、カバー部材の型枠を覆う面側に設けられた電熱ヒータとを有するものであってもよい。この場合、電熱ヒータとしては、面状発熱体を用いることができる。さらに、臭気による作業者や周囲への影響を排除するために、硫黄資材から発生するガスから臭気を除去する脱臭装置が保温加熱装置に接続されていることが好ましい。
【0012】
本発明の硫黄固化体成形品の製造方法は、硫黄を原料とする溶融状態の硫黄資材を冷却固化することによって成形される硫黄固化体成形品の製造方法であり、予め、溶融状態の硫黄資材が流し込まれる、上面が開放したキャビティが形成された型枠を用意する。そして、本発明の硫黄固化体成形品の製造方法は、キャビティの少なくとも底面を、溶融状態の硫黄資材が固化しない温度に加熱する工程と、少なくとも底面が加熱されているキャビティ内に、溶融状態の硫黄資材を流し込む工程と、キャビティ内に流し込まれた硫黄資材の上部表面を加熱する工程と、硫黄資材の上部表面を加熱しながら、キャビティの少なくとも底面を冷却する工程と、硫黄資材の上部表面の加熱を停止する工程と、硫黄資材がキャビティ内で冷却固化することによって得られた硫黄固化体成形品を型枠から取り出す工程と、を含んでいる。
【0013】
本発明の硫黄固化体成形品の製造方法では、キャビティの少なくとも底面を加熱した状態でキャビティ内に溶融状態の硫黄資材を流し込むので、流し込まれた硫黄資材のキャビティ内面と接触した部分が急激に冷却されることがなくなる。その後、硫黄資材の上部表面を加熱しながら、キャビティの少なくとも底面を冷却するので、短時間で、しかも硫黄資材の下方および側方から固化が進行する。よって、固化の段階で内部に空隙が形成されにくく、結果的に空隙の少ない硫黄固化体成形品が製造される。
【0014】
本発明の硫黄固化体成形品の製造方法において、型枠としては、キャビティを形成するための底板部および底板部の周縁に立設された側板部を有し、かつ、底板部および側板部のうち少なくとも底板部には、2つの接続管が接続された流体室が形成されているものを用いることができる。この場合、キャビティの少なくとも底面を加熱する工程は、一方の接続管から流体室内に例えば加圧蒸気といった加熱媒体を導入することを含み、キャビティの少なくとも底面を冷却する工程は、他方の接続管から流体室内に例えば水といった冷却媒体を導入することを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、キャビティの少なくとも底面を加熱した状態でキャビティ内に溶融状態の硫黄資材を流し込み、その後、流し込まれた硫黄資材の上部表面を加熱しながら、キャビティの少なくとも底面を冷却するように構成されることにより、内部に空隙が少なく所望の強度を有する硫黄固化体成形品を、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による硫黄固化体成形装置の斜視図である。図1に示すように、本実施形態の硫黄固化体成形装置10は、ブロック状の硫黄固化体成形品を製造するのに用いられるものであり、上面が開口した有底箱状に組み立てられた型枠100と、型枠100の開口部を覆って設置される保温加熱装置200と、を有する。以下、型枠100および保温加熱装置200について説明する。
【0018】
まず、型枠100について、図2および図3等を参照して説明する。図2は、図1に示す型枠の縦断面図であり、図3は、図1に示す型枠の水平断面図である。
【0019】
型枠100は、基台106と、基台106の上に載置された底板部105と、底板部105の周縁に立設された側板部102,103,104と、を有する。側板部102は、平面視L字状であり、型枠100の隣り合う2つの側壁を構成する。他の側板部103,104は、平板状であり、それぞれが型枠100の残りの一側壁を構成する。これにより、底板部105、および側板部102,103,104で囲まれた直方体状の空間が、溶融状態の硫黄資材が充填されるキャビティCとなる。
【0020】
底板部105は、互いに間隔をあけて対向配置された内壁105aおよび外壁105bを有し、これによって、流体からなる加熱媒体および冷却媒体が導入される流体室107が両者間に形成された二重壁構造とされる。底板部105の内壁105aは、キャビティCの底面を構成する。底板部105には、第1の接続管108および第2の接続管109が、外壁105bを貫通して設けられている。第1の接続管108および第2の接続管109には、管路の開閉および流体の流量調整を行うバルブ(不図示)が設けられている。
【0021】
側板部102〜104も、基本的には底板部105と同様の二重壁構造を有している。すなわち、側板部102〜104は、互いに間隔をあけて対向配置された内壁102a〜104aおよび102b〜104dを有し、これによって両者間に流体室7が形成されている。側板部102〜104の内壁102a〜104aは、キャビティCの側面を構成する。また、側板部102〜104にも、それぞれバルブが設けられた第1の接続管108および第2の接続管109が、外壁102b〜104bを貫通して設けられている。
【0022】
このように、それぞれ流体室107を有する二重壁構造の各側板部102〜104および底板部105は、鋼板やL形鋼などの適宜鋼材を組み合わせ、溶接などで接合することによって構成することができる。
【0023】
第1の接続管108には、例えば高圧蒸気を供給するボイラー122といった加熱媒体供給手段から加熱媒体として蒸気が送られるパイプ121が接続される。第2の接続管109には、途中で切り替えバルブ126を介して排出経路125aおよび冷媒供給経路125bに分岐したパイプ125が接続される。排出経路125aは、先端が開放され、蒸気を排出しても安全な場所へ引き回されている。冷媒供給経路125bは、ポンプ127を介して、例えば水といった冷却媒体を収容している冷媒タンク128に接続されている。ここでは、加熱媒体および冷却媒体としてそれぞれ蒸気および水を用いた例を示すが、加熱媒体および冷却媒体としては、その他にも熱媒体油など、通常の加熱および冷却に用いられる種々の媒体を用いることができる。
【0024】
各側板部102〜104において、第1の接続管108は、第2の接続管109よりも高い位置に設けられている。本実施形態では、第1の接続管108は側板部102〜104の上端部に位置し、第2の接続管109は側板部102〜104の下端部に位置している。また、各側板部102〜104および底板部105において、流体室107内に蒸気および冷却媒体を効率よく導入するために、第1の接続管108と第2の接続管109とは両者ができるだけ離れた位置に配置されることが望ましい。
【0025】
基台106は、図2に示すように中空構造とされ、各側板部102〜104および底板部105と同様、適宜鋼材を組み合わせて構成することができる。底板部105は基台106の上面に固定され、平面視L字状の側板部102は底板部105の周縁に固定される。基台106、底板部105および側板部102を鋼材で構成することにより、これらの固定を溶接によって行うことができる。
【0026】
側板部103,104は、型枠開閉構造であるスライド機構によって、図4に示すように、底面部106および側板部105に対して離間するように、側板部103,104の厚さ方向にスライド可能に設けられている。
【0027】
スライド機構は、側板部103,104の下端に固定された脚部111と、基台106の中空部内に設けられたガイド112と、を有する。脚部111は、側板部103,104の下端から下向きに延び、途中で基台106に向けて水平方向に延びるように屈曲したロッド状の部材である。ガイド112は、例えばパイプ状の部材として構成され、その内部に、脚部111の水平方向に延びた部分がスライド自在に挿入される。ガイド112内での脚部111のスライドを容易に行えるようにするために、図2に示すように、脚部111にローラを設けてもよい。
【0028】
側板部103,104をスライド可能に設けることにより、側板部103,104を閉じたり開いたりすることができる。図2および図3に示す、側板部103,104を閉じた状態では、側板部102〜104の隣り合うもの同士は、締め付けクランプやボルト/ナット等の締結部材を用いて固定される。そして、型枠100を用いて成形された硫黄固化体成形品を型枠100から取り出す際には、これら締結部材による側板部102〜104同士の締結を解除し、図4に示すように側板部102,103を開く。
【0029】
ここでは、型枠開閉構造として、側板部103,104をスライドさせることによって型枠100の開閉を行うものを示したが、得られた硫黄固化体成形品の取り出しを行うことのできる構成であれば、ヒンジ構造や嵌合構造など種々の構造を利用することができる。ヒンジ構造を利用する場合は、開閉する側板部と、それに隣接する側板部または底板部とを回動自在に連結するヒンジ(不図示)を設ける。嵌合構造を利用する場合は、開閉する側板部と、それに隣接する側板部または底板部とを互いに着脱自在に嵌合させるような構造を設ける。また、開閉する側板部の組み合わせも任意であり、1つの側板部のみが開閉するように構成してもよいし、全ての側板部が開閉するように構成してもよい。
【0030】
各側板部102〜104の外壁102b〜104bおよび底板部105の外壁105bの、流体室107とは反対側の面には、断熱材層110が設けられている。断熱材層110は、発泡プラスチック、グラスウールなどの適宜の断熱材を使用することができ、接着剤での接着、フラットバーで押さえるなどの公知手段によって取り付けることができる。
【0031】
次に、保温加熱装置200について、図1およびその断面図である図5を参照して説明する。
【0032】
保温加熱装置200は、溶融状態の改質硫黄資材が型枠100に流し込まれた後、改質硫黄資材が固化する前に設置される。
【0033】
保温加熱装置200は、加熱手段である面状発熱体224を備えた天板部220を有しており、型枠100内に流し込まれた硫黄資材と接触しないように、型枠100を覆って設置される。天板部220は、型枠100を覆うカバー部材222と、カバー部材222の型枠100を覆う面に断熱材223を介して取り付けられた面状発熱体224と、を有する。
【0034】
カバー部材222は、例えば鋼板で形成することができる。断熱材223は、天板部220の保温性能を向上させるものであり、例えば、ミネラルウール、ガラスファイバー、ケイ酸カルシウム、ロックウールなどを用いることができる。
【0035】
面状発熱体224は、天板部220で覆われた硫黄資材の上部表面を加熱する。硫黄資材の上部表面全体を均一に加熱することができるように、面状発熱体224は、天板部220のほぼ全域にわたるサイズを有している。面状発熱体224としては、例えば、特開平8−207191号公報に開示されたような、非導電性繊維および導電性繊維の交点を接合してなる網目構造体の両端で導電性繊維と電極とを接続した後、樹脂に包埋あるいは繊維強化プリプレグシートを積層して形成した繊維強化樹脂成形体を用いることができる。
【0036】
天板部220の外周縁には、スカート部225が天板部220の全周にわたって取り付けられている。これによって、保温加熱装置200を型枠100上に設置すると、天板部220は、型枠100と間隔をあけて配置されることになる。スカート部225には、ガス吸引口229が設けられている。ガス吸引口229は、パイプ231を介して脱臭装置230と接続される。天板部220の上面には、天板部220を吊り下げる際に用いられる引っ掛け具226が取り付けられている。
【0037】
また、面状発熱体224の下面には温度検出端227が設けられている。温度検出端227は、ガス吸気口229を通ってコントローラ228と接続されている。コントローラ228は、温度検出端227で検出された温度に基づいて、面状発熱体224の駆動を制御する。
【0038】
脱臭装置230は、溶融している硫黄資材から発生するガスから硫化水素や二酸化硫黄といった臭気を吸着(除去)して排気するものであり、脱臭装置本体と、脱臭装置本体にそれぞれ接続された吸入管および排気管とを有する。吸入管は、ガス吸引口229を介して天板部220の下方空間と連通しており、天板部220の下方空間内のガスを脱臭装置本体内に導く。脱臭装置本体は、臭気を吸着する活性炭や薬品等の吸着材を内部に有する。排気管は、脱臭装置本体で臭気が吸着されたガスを排気する。これにより、周囲に臭気が漏れるのが防止される。
【0039】
脱臭装置230としては、上述した吸着法を利用したものの他に、希釈法や燃焼法といった既存の脱ガス、脱臭技術を利用してもよい。
【0040】
また、溶融した硫黄資材から発生する硫化水素は腐食性が高いため、保温加熱装置200を繰り返し使用し続けていると保温加熱装置200の内面が腐食するおそれがある。そこで、内面の腐食を防止するために、保温加熱装置200の内面に、硫黄に対する耐食性を有する材料を配することが望ましい。硫黄に対する耐食性を有する材料としては、ステンレス、セラミック、FRP、樹脂などが挙げられる。
【0041】
ここで、硫黄固化体について説明する。硫黄固化体は、常温では固体でありおよそ119℃を超えると溶融するという硫黄の性質を利用して、119℃以上に加熱して溶融させた硫黄に砂や砂利、石炭灰等を混合して、およそ119℃〜159℃を保持しながら練り混ぜ、これを冷却固化させて製造するものである。なお、本発明でいう硫黄固化体は、同様に加熱して溶融させた硫黄と、この溶融硫黄を変性する硫黄改質剤とを混合して改質硫黄を製造し、この改質硫黄に砂や砂利、石炭灰等を混合して、上記と同様に加熱しながら練り混ぜ、これを冷却固化させて製造する改質硫黄固化体を含むものとする。
【0042】
改質硫黄固化体について更に詳細に説明する。改質硫黄固化体は、硫黄と、硫黄改質剤と、微細粉と、骨材とを原料として製造される。まず、溶融した硫黄と硫黄改質剤とを混合して改質硫黄を製造する。硫黄は、通常の単体硫黄であり、例えば天然産、または石油や天然ガスの脱硫によって生成した硫黄等が挙げられる。硫黄改質剤は、溶融硫黄を変性、例えば重合することによって硫黄を改質する。硫黄改質剤としては、硫黄を重合し得る化合物であればよく、例えば炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素またはジオレフィン系炭化水素、具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン(DCPD)およびそのオリゴマ−、シクロペンタジエン、テトラハイドロインデン(THI)、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等の1種または2種以上との混合物が挙げられる。硫黄と硫黄改質剤との混合は、硫黄が溶融した状態、すなわち119〜159℃、好ましくは130〜155℃の温度で行われる。
【0043】
改質硫黄は、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合することで得ることができるが、このときの硫黄改質剤の使用割合は、硫黄と硫黄改質剤との合計量に対して、通常0.1〜30質量%、特に1.0〜20質量%の割合が好ましい。得られた改質硫黄は、所定の温度(例えば150℃)に加温された微細粉と混合されて改質硫黄中間資材とされる。微細粉としては、石炭灰、珪砂、シリカヒューム、ガラス粉末、燃料焼却灰、電気集塵灰および貝殻粉砕物のうち1種または2種以上を選択すればよい。
【0044】
得られた改質硫黄中間資材は、溶融状態を保つことのできる温度(例えば130〜140℃)に保持された状態で、例えば130〜140℃程度に加温された骨材と混合される。骨材は、骨材として使用可能であれば特に限定されず、一般にコンクリートで用いられる骨材を使用できる。このような骨材としては、例えば、天然石、砂、れき、硅砂、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、金属の製造時に生成される副生物、溶融スラグ類、貝殻およびこれらの混合物等からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0045】
上記の改質硫黄中間資材と骨材とを、例えば混練装置を用いて混合することによって改質硫黄資材が製造され、これを冷却して固化させることで改質硫黄固化体が製造される。改質硫黄資材の固化を型枠内で行い、所定の形状に成形したものが、硫黄固化体成形品である。
【0046】
次に、本実施形態の硫黄固化体成形装置10を用いて硫黄固化体成形品を製造する方法について説明する。
【0047】
まず、型枠100の側板部102,103を閉じた状態で、第1の接続管108および第2の接続管109のバルブを開き、ボイラー122で発生した蒸気を流体室107内に導く。これによって、底板部105の内壁105aおよび側板部102〜104の内壁102a〜104aを予備加熱する。各内壁102a〜105aの表面温度は、硫黄資材が固化しないように、硫黄資材の固化温度と同程度か、それよりもやや高い温度となるようにするのが好ましく、119〜140℃程度が好適である。そのためには、流体室107内の蒸気圧を2気圧程度あるいはそれよりもやや高い程度の圧力となるようにバルブを調整する。
【0048】
このとき、パイプ125に設けられた切り替えバルブ126は、排出経路125a側に切り替えられている。また、冷媒供給経路125bに設けられたポンプ127は停止している。したがって、流体室107内に導入された蒸気は、第2の接続管109からパイプ125および排出経路125aを経由して、硫黄固化体成形装置10の外部へ排出される。
【0049】
次いで、型枠100の上面の開口部からキャビティC内に、溶融状態の硫黄資材を流し込む。このとき、側板部102〜104および底板部105の内壁102a〜105aが予備加熱されているので、硫黄資材は底板部105および側板部102〜104に触れても急激に冷却固化することはない。硫黄資材をキャビティC内に流し込んでいる間、あるいは流し込んだ後、型枠100に振動を与えて硫黄資材をキャビティCの隅々に行き渡らせてもよい。
【0050】
硫黄資材を型枠100のキャビティCに流し込んだ後、流し込まれた硫黄資材の表面が固化する前に、型枠100の上方からキャビティCの開口を覆って、保温加熱装置200を設置する。保温加熱装置200が設置される前、あるいは設置された直後、面状発熱体224が駆動される。これによって、キャビティCに流し込まれた硫黄資材の上部表面は面状発熱体224によって加熱される。この際、面状発熱体224は、硫黄資材の上部表面温度が、改質硫黄資材の固化温度と同程度かそれよりもやや高い温度、好ましくは119〜140℃程度となるように、コントローラ228によって制御される。
【0051】
保温加熱装置200が設置された後、流体室107内への蒸気の導入を停止する。その後、切り替えバルブ126を冷媒供給経路125b側に切り替え、ポンプ127を駆動する。これによって冷媒タンク128内の冷却媒体は、パイプ125を通って第2の接続管109から流体室107内に導入される。
【0052】
流体室107内に冷却媒体が導入されるのに伴って、側板部102〜104および底板部105の内壁102a〜105aが冷却される。内壁102a〜105aが冷却されることで、キャビティC内に流し込まれた硫黄資材は、内壁102a〜105aと接触している表面から内部に向かって固化が進行する。冷却媒体の温度は、硫黄資材の固化温度(約110〜119℃)以下であればよいが、固化を早めるためには50℃以下であることが望ましい。また、硫黄資材をできるだけ下部から固化させるために、冷却媒体は、側板部102〜104よりも底板部105に多く供給することが望ましい。
【0053】
一方、硫黄資材の上部表面は、保温加熱装置200によって加熱されているので、溶融状態が維持されている。
【0054】
このように、硫黄資材の上部表面が固化しないように硫黄資材の上部表面の温度を所定の温度に保ちながら、型枠100を冷却して硫黄資材を固化させことで、硫黄資材は、下方および側方から固化が進行する。特に本実施形態では、側板部102〜104において、冷却媒体が導入される第2の接続管109が側板部102〜104の下端部に位置しており、側板部102〜104は下方から冷却されるので、硫黄資材はより効果的に下方からの固化が進行する。
【0055】
このことにより、固化に伴う硫黄資材の収縮は、硫黄資材の下方および側方から上方に向かって進行する。さらに、溶融した硫黄資材からはガスが発生するが、硫黄資材の固化が上記のように下方および側方から進行するので、発生したガスが内部に閉じ込められることは少ない。
【0056】
硫黄資材の内部での固化が完了した段階で、保温加熱装置200を型枠100上から取り外す。これによって、硫黄資材の上部表面は、自然冷却によって固化する。
【0057】
硫黄資材が完全に固化した後、側板部103,104を開き、硫黄資材が固化することによって得られた硫黄固化体成形品を型枠100から取り出す。
【0058】
以上のように、硫黄資材の上部表面を除く部分では、硫黄資材の下方および側方から固化を進行させ、最後の段階で上部表面を固化させることによって、内部に空隙をほとんど生じさせることなく硫黄資材を固化することができる。硫黄資材が固化する段階で内部に空隙がほとんど生じないので、硫黄資材の固化によって得られた硫黄固化体成形品も内部に空隙は少なく、よって、得られた硫黄固化体成形品は所望の強度を達成することができる。
【0059】
さらに、硫黄資材から発生したガスは、脱臭装置230によって臭気が除去されて外部へ排出される。これにより、臭気が周囲に漏れることによる、作業者や周囲環境への影響を排除することができる。
【0060】
なお、上記の説明では、保温加熱装置200の設置後、型枠100の流体室107内に冷却媒体を導入したが、単に流体室107内への蒸気の導入を停止し、自然冷却によって硫黄資材を冷却固化することもできる。ただし、この場合は、型枠100の熱容量にもよるが、硫黄資材が固化するまで多くの時間を要することが予想される。これに対して、本実施形態のように冷却媒体を導入することで、蒸気の導入を停止しただけの場合と比較して硫黄資材の冷却を短時間で行うことができる。結果的に、型枠100の流体室107内に冷却媒体を導入するようにしたことで、硫黄固化体成形品を効率よく製造することができる。
【0061】
上述した実施形態では、硫黄資材が内部では固化しているが上部表面では固化していない状態で保温加熱装置200を取り外すので、保温加熱装置200を取り外すタイミングが重要である。つまり、硫黄資材の内部が固化していない段階で保温加熱装置200を取り外してしまうと、得られた硫黄固化体成形品の内部に空隙が生じるおそれがある。このことを防止するためには、保温加熱装置200を取り外すタイミングを、以下のような方法で判断することができる。第1の方法は、型枠100の流体室107内に冷却媒体を導入し始めた時点からの経過時間と、型枠100内での硫黄資材の内部の温度との相関関係を予めとっておき、冷却媒体を導入開始時からの経過時間で判断する方法である。第2の方法は、硫黄資材の表面から気泡が発生しなくなった時点で、内部が固化したことを判断する方法である。
【0062】
また、上述した実施形態では、保温加熱装置200は、型枠100内に流し込まれた硫黄資材の上部表面が固化しないように硫黄資材をその固化温度よりも高い温度で加熱するものであったが、硫黄資材の上部表面がその固化温度以下となるように硫黄資材を保温することもできる。
【0063】
この場合は、硫黄資材の上部表面でも固化が進行するが、硫黄資材の上部表面での固化の進行速度が、流体室107内への冷却媒体の導入による内部での固化の進行速度よりも遅くなるような温度とする。そして、保温加熱装置200で硫黄資材を覆った状態を、冷却媒体を導入した後、硫黄資材の上部表面が固化するまで維持する。保温加熱装置200は、硫黄資材の上部表面が固化した後に取り外す。硫黄資材の上部表面の温度は上記の温度に保たれているので、硫黄資材の上部表面が固化した段階では、硫黄資材は全体が固化している。
【0064】
このようにして硫黄資材を固化させた場合も、結果的には硫黄資材の上部表面は最後の段階で固化するので、前述したのと同様、内部に空隙がなく所望の強度を有する硫黄固化体成形品を、効率よく製造することができる。
【0065】
以上、本発明についてブロック状の硫黄固化体成形品を製造する場合を例に挙げて説明したが、製造される硫黄固化体成形品の形状は任意であり、それに応じて型枠の形状や構造等が適宜変更される。
【0066】
以下に、図6および図7を参照して、パネル状の硫黄固化体成形品を製造する場合に好適に用いることのできる型枠について説明する。
【0067】
図6は、本発明の他の実施形態による型枠の平面図であり、図7は、図6に示す型枠のA−A線断面図である。
【0068】
本実施形態の型枠150は、4つの側板部151〜154、底板部155、および基台156を有する。側板部151〜154および底板部155で囲まれた空間がキャビティCとなる。側板部151〜154および底板部155は、鋼板を主体として形成され、必要に応じて鋼板、L形鋼、コ字形鋼などの鋼材で補強される(補強用の鋼材は図示せず)。基台156は、側板部151〜154および底板部155を載せる台となるもので、H形鋼、鋼板など適宜の鋼材を組み合わせて形成することができる。
【0069】
側板部151〜154は、それぞれ下端が基台156にヒンジ161によって回動自在に取り付けられている。図6および図7の実線で示したように側板部151〜154が閉じられた状態では、側板部151〜154の隣り合うもの同士が締結部材(不図示)で締め付け固定される。なお、図7の一点鎖線で示したのは、側板部151〜154を開いた状態である。この状態で、成形の完了した硫黄固化体成形品を型枠150から取り出すことができる。
【0070】
底板部155は、基台156に溶接などによって固定されている。底板部155は、前述した実施形態と同様、互いに間隔をあけて対向する内壁155aおよび外壁155bを有し、これら内壁155aと外壁155bとの間に流体室157が形成されるように構成される。流体室157には、第1の接続管158および第2の接続管159が接続されている。第1の接続管158および第2の接続管159には、前述した実施形態と同様に、それぞれボイラーといった加熱媒体供給手段(不図示)、および冷媒タンクが接続されている。また、底板部155の下面には断熱材層160が設けられている。
【0071】
上述のとおり、本実施形態では、流体室157は、底板部155にのみ設けられ、側板部151〜154には設けられていない。
【0072】
これは、製造する硫黄固化体成形品の形状がパネル状であり、側板部151〜154の面積が小さいので、硫黄資材の固化に与える影響が少ないためである。また、底板部155を予備加熱すると、底板部155の内壁155aの熱が側板部151〜154にも伝達され、側板部151〜154もある程度予備加熱されることとなる。さらに、硫黄資材を固化させるために冷媒を流体室157に導入すると、硫黄資材の冷却固化がより効果的に下方から進行する。
【0073】
なお、本実施形態の型枠150を用いた硫黄固化体成形品の製造手順については、前述した実施形態と同様であるので、その説明は省略する。本実施形態の型枠150を用いることによっても、前述した実施形態と同様、内部に空隙がなく所望の強度を有する硫黄固化体成形品を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態による硫黄固化体成形装置の斜視図である。
【図2】図1に示す型枠の縦断面図である。
【図3】図1に示す型枠の水平断面図である。
【図4】図1に示す型枠の、側板部を開いた状態での平面図である。
【図5】図1に示す保温加熱装置の断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態による型枠の平面図である。
【図7】図6に示す型枠のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 硫黄固化体成形装置
100 型枠
102〜104,151〜154 側板部
105,155 底板部
106,156 基台
107 流体室
108,158 第1の接続管
109,159 第2の接続管
122 ボイラー
128 冷媒タンク
200 保温加熱装置
222 カバー部材
224 面状発熱体
230 脱臭装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を原料とする溶融状態の硫黄資材を冷却固化させて硫黄固化体を成形するのに用いられる硫黄固化体成形装置であって、
前記溶融状態の硫黄資材が流し込まれる、上面が開放したキャビティが形成された、加熱および冷却可能な型枠と、
前記キャビティの開放した上面を覆って設置される、加熱手段を備えた保温加熱装置と、
を有する硫黄固化体成形装置。
【請求項2】
前記型枠は、前記キャビティを形成するための底板部および該底板部の周縁に立設された側板部を有し、前記底板部および前記側板部のうち少なくとも底板部には、2つの接続管が接続された流体室が形成され、前記型枠の加熱時には一方の接続管から前記流体室内に加熱媒体が導入され、前記型枠の冷却時には他方の接続管から前記流体室内に冷却媒体が導入される、請求項1に記載の硫黄固化体成形装置。
【請求項3】
前記保温加熱装置は、前記型枠の上面を覆うカバー部材と、該カバー部材の前記型枠を覆う面側に設けられた、前記加熱手段である電熱ヒータとを有する、請求項1または2に記載の硫黄固化体成形装置。
【請求項4】
前記電熱ヒータは面状発熱体である、請求項3に記載の硫黄固化体成形装置。
【請求項5】
前記保温加熱装置に、前記硫黄資材から発生するガスから臭気を除去する脱臭装置が接続されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の硫黄固化体成形装置。
【請求項6】
硫黄を原料とする溶融状態の硫黄資材を冷却固化することによって成形される硫黄固化体成形品の製造方法であって、
前記溶融状態の硫黄資材が流し込まれる、上面が開放したキャビティが形成された型枠を用意する工程と、
前記キャビティの少なくとも底面を、前記溶融状態の硫黄資材が固化しない温度に加熱する工程と、
少なくとも前記底面が加熱されている前記キャビティ内に、前記溶融状態の硫黄資材を流し込む工程と、
前記キャビティ内に流し込まれた前記硫黄資材の上部表面を加熱する工程と、
前記硫黄資材の上部表面を加熱しながら、前記キャビティの少なくとも底面を冷却する工程と、
前記硫黄資材の上部表面の加熱を停止する工程と、
前記硫黄資材が前記キャビティ内で冷却固化することによって得られた硫黄固化体成形品を前記型枠から取り出す工程と、
を有する硫黄固化体成形品の製造方法。
【請求項7】
前記型枠は、前記キャビティを形成するための底板部および該底板部の周縁に立設された側板部を有し、かつ、前記底板部および前記側板部のうち少なくとも底板部には、2つの接続管が接続された流体室が形成されており、
前記キャビティの少なくとも底面を加熱する工程は、前記一方の接続管から前記流体室内に加熱媒体を導入することを含み、
前記キャビティの少なくとも底面を冷却する工程は、前記他方の接続管から前記流体室内に冷却媒体を導入することを含む、
請求項6に記載の硫黄固化体成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−320824(P2007−320824A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155006(P2006−155006)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】