説明

硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法

【課題】加工安全性、耐摩耗性、耐熱性、貯蔵安定性に優れた硫黄変性クロロプレン重合体を提供する。
【解決手段】
(1)2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、炭素数が3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドの存在下で可塑化することを特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
(2)2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、可塑化剤として用いるテトラアルキルチウラムジスルフィドが次の組成である事を特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
炭素数3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィド 25〜100質量%
炭素数1または2のテトラアルキルチウラムジスルフィド 0〜75質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用、一般産業用の伝導ベルトや一般産業用ゴムロール等の用途に好適な、加工安全性、耐摩耗性、耐熱性、貯蔵安定性に優れた硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体は、硫黄変性タイプと非硫黄変性タイプに大別され、それぞれバランスした特性を活かして自動車部品、接着剤、各種工業部品など広範囲な分野に用いられている。
【0003】
特に硫黄変性クロロプレン重合体は、その優れた動的特性を生かし、自動車用、一般産業用の伝導ベルトや一般産業用ゴムロール等の様々な用途において使用されている。これらの用途では、加工安全性、耐摩耗性、耐熱性、貯蔵安定性が要求されている。
【0004】
加工安全性とは、ゴムの加工工程時におけるスコーチ(焼け)が発生しないよう十分なスコーチタイムを確保することであり、加工安全性に優れたゴムとして、炭素数36以上の脂肪酸を配合したクロロプレンゴム組成物(例えば、特許文献1を参照。)が知られている。また、耐摩耗性とは、クロロプレンゴムの摺動部で相手材と接することにより、出来るだけ摩耗が発生しないことであり、耐摩耗性に優れたゴムとして、硫黄変性クロロプレンに特定の量の加硫促進剤、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム量部)からなるエラストマー組成物(例えば、特許文献2を参照。)が知られている。耐熱性とは、使用される温度環境においてゴムが持つ伸びなどの性質を出来るだけ低下しないことである。貯蔵安定性とは、ゴムのムーニー粘度の経時変化が出来るだけ小さいことである。耐熱性、貯蔵安定性に優れたクロロプレン系重合体の製造法として、炭素数が8個以上のアルキル基を有するテトラアルキルチウラムジスルフィドを加えて解膠する製造法(例えば、特許文献3を参照。)が知られている。しかしながら、加工安全性、耐摩耗性、耐熱性、貯蔵安定性の4つの性質全てを満足する技術は無く開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−35581号公報
【特許文献2】特開2000−302920号公報
【特許文献3】特開平7−62029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加工安全性、耐摩耗性、耐熱性、貯蔵安定性に優れた硫黄変性クロロプレン重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するもので、以下の要旨を有するものである。
(1)2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、炭素数が3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドの存在下で可塑化することを特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
(2)2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、可塑化剤として用いるテトラアルキルチウラムジスルフィドが次の組成である事を特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
炭素数3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィド 25〜100質量%
炭素数1または2のテトラアルキルチウラムジスルフィド 0〜75質量%
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた加工安全性、耐熱性、耐摩耗性、及び貯蔵安定性を有する硫黄変性クロロプレン重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
本発明の硫黄変性クロロプレン重合体の製造においては、まず、2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄が用いられる。なお、本発明における2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体としては、2−クロロ−1,3−ブタジエンを単独で、または、2−クロロ−1,3−ブタジエンと本発明の硫黄変性クロロプレン重合体の特性を損なわない範囲、好ましくは全単量体中10質量%以下で、2−クロロ−1,3−ブタジエン単量体と共重合可能な単量体1種以上とを混合して用いることが出来る(以下、クロロプレン系単量体と称する。)。
【0010】
2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、メタクリル酸及びこれらのエステル類などである。特に好ましくは、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、又は1−クロロ−1,3−ブタジエンを使用するのが良い。
【0011】
重合に際して、硫黄の量はクロロプレン系単量体100質量部に対して、0.1〜1.5質量部、好ましくは0.3〜1.5質量部である。硫黄の量が0.1質量部未満であると、硫黄変性クロロプレン重合体の特徴である優れた機械的あるいは動的特性を示さない場合がある。一方、該硫黄の量が1.5質量部を超えると、加工時に配合物のムーニー粘度低下が著しくなり作業性が損なわれる場合がある。
【0012】
所定量の硫黄をクロロプレン系単量体に溶解した後、乳化剤を含有する水性乳化液と混合撹拌し、重合に用いる。乳化重合は公知の方法で行うことができる。乳化剤としては、例えば炭素数が6〜22である飽和または不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩、ロジン酸または不均化ロジン酸のアルカリ金属塩、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩などが用いられる。 特に好ましくは、ロジン酸または不均化ロジン酸のナトリウムまたはカリウム塩、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のナトリウム塩を使用するのが良い。
【0013】
重合温度は0〜100℃、好ましくは0〜55℃である。重合開始剤としては通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などが用いられる。重合は実用的見地から転化率30〜95%、好ましくは50〜95%の範囲で行われ、ついで重合禁止剤を加えて停止させる。重合禁止剤としては、例えばチオジフェニルアミン、4−第三ブチルカテコール、2,2’−メチレンビス−4−メチル−6−第三−ブチルフェノールなどがある。
【0014】
本発明の重要な点は可塑化(ペプチゼーション)方法である。ここでいう可塑化とは乳化重合によって形成したポリマー分子鎖を化学的に切断、解重合し、成形加工に適する程度までポリマー分子鎖長を短くすること、すなわち、ムーニー粘度を適正な範囲にまで下げることを表す。本発明で使用する可塑化用の化合物(以下、「可塑化剤」と略称する。)、炭素数3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドを使用することが特徴である。また、可塑化剤の組成が、炭素数3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドが25〜100質量%かつ炭素数1または2のテトラアルキルチウラムジスルフィドが0〜75質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明に使用できる炭素数が3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドには、イソプロピルチウラムジスルフィド、テトラn−プロピルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラヘキシルチウラムジスルフィド等が挙げられる。これらは単独、あるいは2種類以上使用しても構わない。好ましくは、テトラブチルチウラムジスルフィドが良い。
【0016】
炭素数1または2のテトラアルキルチウラムジスルフィドとしては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドが挙げられる。これらは、単独、あるいは併用しても構わない。好ましくは、テトラエチルチウラムジスルフィドが良い。
【0017】
本発明に使用する可塑化剤は、硫黄変性クロロプレン重合体100質量部に対し0.1〜10質量部、好ましくは0.3〜4質量部の範囲で添加する。可塑化は、20〜70℃の温度で、該重合体が所定のムーニー粘度に達するまで行われる。該重合体の好ましいムーニー粘度範囲は、20〜120、より好ましくは25〜90、更に好ましくは30〜60である。可塑化剤の量が0.1質量部未満であると、所定のムーニー粘度に達するまでの時間が長くなり生産性が著しく低下する上、極端に少ない場合には、所定のムーニー粘度まで低減させることが出来ない場合がある。一方、該可塑化剤の量が10質量部を超えると、可塑化が速く進み、所定のムーニー粘度で停止させることが困難となる上、所望のムーニー粘度以下になってしまう場合がある。ムーニー粘度の測定は、JIS K―6300に基づいたものである。
【0018】
さらに、既述の可塑化剤と共に、これまでに知られている可塑化剤もしくは連鎖移動剤を併用することも可能であり、公知の可塑化剤もしくは連鎖移動剤としては、例えば、エチルキサントゲン酸カリウム、2,2−(2,4−ジオキソペンタメチレン)−n−ブチル−キサントゲン酸ナトリウムなどのキサントゲン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどのジチオカルバミン酸塩などがある。好ましくは、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムが良い。
【0019】
また、本発明においては可塑化剤の添加方法も重要である。本発明による可塑化剤は室温で固体(粉体)であり、以下に記す方法で水性乳化液に分散させた状態で可塑化工程に供することが望ましい。
【0020】
まず、周知の乳化剤である例えば炭素数6〜22の飽和または不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩及び/またはβ−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩などを準備し、次に少量のこれらの乳化剤を水に加えて乳化液を作製する(以下、これを「水性乳化液」と略称する。)。この水性乳化液に本発明の可塑化剤を添加し、撹拌翼やスタラーなどを用いて混合撹拌して可塑化剤の分散液とした後、可塑化に供することが効果的であり、本発明による可塑化剤の性能を有効に発現させることができる。なお、本発明の可塑化剤の中で、N,N’−ジエチルチオウレアは2−クロロ−1,3−ブタジエン単量体との溶解性を有するため、少量の単量体にN,N’−ジエチルチオウレアを溶解した後、水性乳化液に分散させてもよい。
【0021】
可塑化剤の分散液は、重合体を含有する重合終了後のラテックス(重合終了ラテックス)に回分的または連続的に所定量を添加することができる。ここでいう回分的添加には、可塑化期間中に断続的に分割添加するのみならず、可塑化する前の一括添加または可塑化期間中に少なくとも1回添加することも含まれる。更に、混合撹拌過程で各種ホモジナイザーやボールミルなどを用いて微粉化、微分散化し可塑化工程に用いることは、可塑化剤の性能を十分に引き出す手段として有効である。また、粉状の可塑化剤を予め分級し粒径が細かい成分を使用することもできる。
【0022】
貯蔵時のムーニー粘度変化を防止するため、少量の安定剤をポリマーに含有させることもできる。そのような安定剤の例としては、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−4−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリー−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−ターシャリー−ブチル−3−メチルフェノール)などがある。好ましくは、4,4’−チオビス−(6−ターシャリー−ブチル−3−メチルフェノールが良い。
【0023】
重合体の単離はラテックスのpHを5.5〜7.5に調整し、常法の凍結凝固−水洗−熱風乾燥などの方法で実施することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1〜7、及び比較例1〜2)
(a)内容積30リットルの重合缶に、単量体100質量部(2―クロロ−1,3−ブタジエン99質量部及び2,3−ジクロロ−1、3−ブタジエン1質量部)、硫黄0.37質量部、純水105質量部、ロジン酸4.75質量部、水酸化ナトリウム0.72質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.8質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率75%となった時点で重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミンを加えて重合を停止させた。
(b)前記工程で得られたラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体を除去し、可塑化前の重合終了ラテックスを得た(以下、この重合終了ラテックスを「ラテックス」と略称する。)。このラテックスに、表1に示す可塑化剤を水性分散液としてラテックス中の重合体質量基準で添加した後、撹拌しながら温度50℃で1時間保持して可塑化した。
(c)その後、ラテックスを冷却し、常法の凍結−凝固法で重合体を単離し、実施例1〜7、及び比較例1,2に関わるクロロプレン重合体を得た。以下、単離した重合体を「ポリマー」と略称する。
(d)なお、ここで用いた可塑化剤の水性分散液は以下の方法で作製した。まず、純水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5質量%となるように加え、加温、撹拌し水性乳化液を作製した。次に、所定量の可塑化剤をガラス容器に入れ、質量基準で可塑化剤の10倍量の水性乳化液を加えた後、アンカー翼で回転数100rpmの条件で6時間混合撹拌し水性分散液を作製した。この水性分散液をラテックスに添加した。
【0026】
(実施例8、及び比較例3)
単量体を2−クロロ−1,3−ブタジエン100質量部とした以外は、実施例1と同様の手順によりクロロプレン重合体を製造した。
【0027】
実施例と比較例に使用した可塑化剤を、表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
単離したポリマーそれぞれについて、100℃におけるムーニー粘度をJISK−6300に従い測定した。ゴムの貯蔵安定性については、所定の温度、湿度に貯蔵したポリマーの100℃におけるムーニー粘度の45日経過後の変化で測定した。測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
次に、実施例1〜8、および比較例1〜8に係るクロロプレン重合体100質量部に対し、ステアリン酸1質量部、オクチル化ジフェニルアミン3質量部、酸化マグネシウム4質量部、カーボンブラック(HAF)40質量部、ナフテン系プロセスオイル(日本サン石油社製 サンセン415)5質量部、酸化亜鉛5.0質量部、ジベンゾチアジルジスルフィド0.75質量部、N、N’−m−フェニレンジマレイミド1質量部を、8インチロールを用いて混合し、153℃で30分間プレス架橋してクロロプレンゴム組成物を得た。
【0032】
加工安全性の評価は、スコーチタイムt5にて評価した。それぞれの実施例、比較例に関わるポリマーの125℃におけるスコーチタイムt5は、JIS K−6300に従い測定した。測定結果を表3に示す。
【表3】

【0033】
耐摩耗性の評価は、JIS K−6264−2に従い、DIN摩耗試験を測定した。測定結果を表4に示す。
【表4】

【0034】
耐熱性の評価は、JIS K−6257の促進老化試験法A−2法にて120℃の温度で14日間熱老化させた試験片を用い、JIS K−6251に準じて切断時伸び(%)を測定した。測定結果を表5に示す。
【表5】




【0035】
実施例と比較例を対比させることにより、本発明により製造されたクロロプレン重合体は、優れた加工安全性、耐熱性、耐摩耗性、貯蔵安定性を示すことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により製造されたクロロプレン重合体は、例えば、自動車用、一般産業用の伝導ベルトや一般産業用ゴムロール等に好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、炭素数が3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィドの存在下で可塑化することを特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
【請求項2】
2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む単量体及び硫黄を乳化重合し、続いて重合停止させ、得られた重合体を可塑化(ペプチゼーション)する際、可塑化剤として用いるテトラアルキルチウラムジスルフィドが次の組成である事を特徴とする硫黄変性クロロプレン重合体の製造方法。
炭素数3〜7のテトラアルキルチウラムジスルフィド 25〜100質量%
炭素数1または2のテトラアルキルチウラムジスルフィド 0〜75質量%


【公開番号】特開2009−275124(P2009−275124A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127997(P2008−127997)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】