説明

硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法

【課題】硫黄酸化物が共存する排水又は溶液中に含まれるセレンを効率よく分離、回収することができる硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法を提供する。
【解決手段】硫黄酸化物含有排水に、塩酸を添加してpH調整した後(ステップS1)、塩化第一鉄を添加して6価のセレンを4価に還元する(ステップS2)。その後、空気を吹き込んでSOをSOに酸化する(ステップS3)。次いで、希土類化合物を添加してセレン(4価)を吸着する(ステップS4)。次に、セレンを吸着した希土類化合物を分離して処理液を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法に関し、特に、特殊なセレン吸着能を有するセリウムを吸着剤として使用する硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)を着色剤として適用するガラス製造施設から排出される排煙には硫黄酸化物の外、微量、例えば数十ppmのセレンが含まれる。また、燃料として石炭を使用する電力、鉄鋼、セメント業の施設等から排出される排煙にも硫黄酸化物に加えて石炭に含まれる微量のセレンが混入する。セレンは有害物質であり、その環境基準は0.1mg/リットル、排水基準は0.01mg/リットルである。従って、上記各施設における排煙処理においては、脱硫処理だけでなくセレン処理が不可欠となる。
【0003】
排煙中の硫黄酸化物処理及びセレン処理に関する従来技術として、例えば特許文献1には、燃焼排ガスを脱硫処理した脱硫排水中に亜硫酸ガスを吹き込んで脱硫排水に含まれる6価のセレンを4価に還元した後、水酸化カルシウム(Ca(OH))を加えてセレンをカルシウム塩として析出させるセレン分離方法が開示されている。
【0004】
一方、廃水中のセレン処理方法に関する従来技術として、例えば特許文献2には、セレン廃水に第一鉄塩と銅塩とを加えた場合に生成する水酸化第二鉄にセレンを共沈させるセレン廃水の処理方法が開示されている。また、特許文献3には、例えば亜セレン酸イオンを含有する廃水を、あらかじめアルミニウムイオン又は元素番号21以上の重金属イオンを吸着させたキレート性イオン交換樹脂に接触させ、亜セレン酸イオンを吸着、分離する廃水処理方法が開示されている。
【0005】
ところで排水、廃水をはじめとする水溶液等(以下、単に「液」という)に含まれるセレンの分離処理方法として、4価のセレン(Se4+)を吸着剤等によって吸着、分離する方法が知られているが、液中のセレンは4価だけでなく6価(Se6+)の場合もあり得る。
【0006】
6価のセレンは、4価のセレンに比べて溶解度が大きく、分離が困難であることから、これを4価に還元する方法及び還元した後、例えばアルカリ土類金属の水酸化物と共沈させる処理システムが提案されている。
【0007】
このようなセレンの価数を調整する技術又は価数を調整したのち分離、回収する従来技術としては、例えば特許文献4及び特許文献5が挙げられる。特許文献4には、6価のセレンを含む酸性水溶液に塩化第一鉄を添加して4価のセレンを生成させるセレンの還元方法が開示されており、特許文献5には、排ガス中から捕集した粉塵をセレンのガス化温度以上に加熱して粉塵に含まれるセレンをガス化し、これを排ガスと共に脱硫装置に導入し、電気化学的処理手段によって6価のセレンを4価に還元し、得られた4価のセレンをアルカリ土類金属の水酸化物として不溶化させる排煙処理システムが開示されている。
【特許文献1】特開平09−066287号公報
【特許文献2】特公昭48−030558号公報
【特許文献3】特開昭55−099378号公報
【特許文献4】特開平10−099874号公報
【特許文献5】特開平08−276113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、脱硫排水中のセレン処理方法は、一般的な排水中のセレンを分離回収するセレン処理方法と異なり、数パーセントの硫酸イオン(SO2−、以下便宜上「SO」という)及び/又は亜硫酸イオン(SO2−、以下便宜上「SO」という)を含む水溶液中に数ppm〜数十ppm存在するセレンが処理対象となること、及びセレン(Se)と硫黄(S)とは、周期律表における配列位置が隣接しており、とり得る価数が同じように変化するために、セレンのみを選択的に分離することが困難であることから、実用上信頼できる硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は確立されていないのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、硫黄酸化物が共存する排水又は溶液中に含まれるセレンを効率よく分離、回収することができる硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、硫黄酸化物含有液に含まれるセレン(Se)を分離するセレン処理方法であって、前記硫黄酸化物含有液に希土類化合物を添加して該希土類化合物に前記セレンを吸着させる吸着ステップと、前記セレンを吸着した希土類化合物を前記硫黄酸化物含有液から分離する分離ステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項1記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記硫黄酸化物はSO及びSOを含み、前記硫黄酸化物含有液に含まれる6価のセレンを4価に還元する還元ステップと、SOをSOに酸化する酸化ステップと、を有し、前記6価のセレンを4価に還元し、且つ前記SOをSOに酸化した後、前記硫黄酸化物含有液に前記希土類化合物を添加し、該希土類化合物に前記4価のセレンを吸着させることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記SOをSOに酸化する酸化ステップは、前記6価のセレンを4価に還元した後、実行されることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項3記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記6価のセレンを4価に還元する還元ステップは、前記硫黄酸化物含有液に第一鉄イオンを添加するステップであることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記6価のセレンを4価に還元するステップは、前記SOをSOに酸化した後、実行されることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項5記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記6価のセレンを4価に還元する還元ステップは、前記硫黄酸化物含有液に塩酸を加えるステップであることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項2乃至6のいずれか1項記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記SOをSOに酸化する酸化ステップは、前記硫黄酸化物含有液に酸化性ガスを導入してバブリングするステップであることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、請求項1乃至7のいずれか1項記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法において、前記希土類化合物は、水酸化セリウム(Ce(OH)・nHO、Ce(OH)・nHO)及び含水酸化セリウム(CeO・nHO、Ce・nHO)のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、希土類化合物を吸着剤とする吸着ステップを有することにより、希土類化合物が有する特殊なセレン吸着能を巧みに利用して硫黄酸化物含有液中のセレンを効率よく吸着、分離することができる。
【0019】
請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、6価のセレンを4価に還元し、且つSOをSOに酸化した後、希土類化合物を添加してセレンを吸着するようにしたことにより、上記効果に加えて、セレン吸着時の妨害物質としてのSOの存在をなくした状態で、吸着処理し易い価数に調整された4価のセレンを効率よく吸着、分離することができる。
【0020】
請求項3記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、6価のセレンを4価に還元した後、SOをSOに酸化するステップを実行することにより、例えば、一旦強還元剤によってセレン及び硫黄酸化物を強制的に還元した後、この還元によって生成したSO及びはじめから液中に存在するSOをSOに酸化し、これによって妨害物質による吸着妨害を解消することができるので、上記効果に加えて、処理操作を単純化することができる。
【0021】
請求項4記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、6価のセレンを4価に還元する還元ステップを、第一鉄イオンを添加するステップとしたことにより、上記効果に加えて、6価のセレンを吸着処理し易い4価又はそれ以下の価数のセレンに確実に還元することができる。
【0022】
請求項5記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、SOをSOに酸化した後、6価のセレンを4価に還元するステップを実行することにより、上記発明の効果に加え、SOの酸化と、セレンの還元を別々の工程で効率良く行うことができる。
【0023】
請求項6記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、6価のセレンを4価に還元するステップを、硫黄酸化物含有液に塩酸を加えるステップとしたことにより、上記発明の効果に加え、還元ステップにおいてはSOを妨害物質であるSOに還元させることなく、6価のセレンのみを選択的に4価又はそれ以下に還元することができるので、その後のセレン吸着ステップが容易となる。
【0024】
請求項7記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、SOをSOに酸化するステップを、酸化性ガスによってバブリングするステップとしたことにより、液中に存在する4価のセレンを6価に酸化することなく、SOを選択的にSOに酸化してセレン吸着ステップにおける妨害物質の影響を排除することができる。
【0025】
請求項8記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法によれば、希土類化合物として希土類化合物の中でも特にセレン吸着能に優れた水酸化セリウム、含水酸化セリウムを用いることにより、上記発明の効果に加え、さらにセレン吸着効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明者は、被処理液中のセレンの価数とその吸着剤との関係、及び硫黄酸化物含有液としての例えば脱硫排水中におけるセレン吸着剤のセレン吸着能と硫黄酸化物の形態との関係等について種々検討した結果、セレン吸着剤としては、希土類元素又はその水酸化物、特に、含水酸化セリウム又は水酸化セリウムが適していること、4価のセレンは6価のセレンよりもセリウムに吸着されやすいこと、及び液中のSOはセリウムによるセレンの吸着作用に対して妨害物質となるが、SOは4価のセレン吸着作用に対して妨害物質とはならないという知見を得た。
【0028】
以下に、かかる知見を得るに至った経緯(実験例)について詳細に説明する。なお、以下の実験において、水酸化セリウムを含む吸着剤としてアドセラスラリ(日本板硝子株式会社製)を使用した。
【0029】
実験例1
金属セレンを硝酸に溶解した4価セレン(SeO2−)硝酸溶液を純水に添加して4価セレン100ppm水溶液を調製して被検液とした。この被検液25ml当たり1gのアドセラスラリ(日本板硝子社製)を加え、30分間穏やかに撹拌してセレンを水酸化セリウムで吸着、分離した。処理後の被検液について、結合誘導プラズマ発光分光法(ICP−AES)によってセレン濃度を定量し、セレン除去率を求めたところ、セレン除去率は99%以上であった。
【0030】
実験例2
4価のセレンに代えて6価のセレン(SeO2−、セレン酸ナトリウムから調製した6価セレン水溶液)を用いた以外は、実験例1と同様の吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は90%以上であった。
【0031】
実験例3
純水に代えて5%硫酸ナトリウム水溶液を用いた以外は、上記実験例1と同様にして同様の吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は99%以上であった。
【0032】
実験例4
純水に代えて5%硫酸ナトリウム水溶液を用いた以外は、上記実験例2と同様にして同様の吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は7%であった。
【0033】
実験例5
純水に代えて5%亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた以外は、上記実験例1と同様にして同様の吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は2.53%であった。
【0034】
実験例6
純水に代えて5%亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた以外は、上記実験例2と同様にして同様の吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は0%であった。
【0035】
実験例1〜6の結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
註:表1中、「○」はセレン除去率が90%以上であること、「◎」はセレン除去率が99%以上であることを示す。なお、4価セレン(SeO2−)溶液として、亜セレン酸ナトリウムを出発原料としたセレン水溶液を用いても同様の結果が得られる。
【0038】
表1において、水酸化セリウムはセレン吸着剤として適しており、実用可能であることが分かる。また、4価のセレンは6価のセレンと比較して水酸化セリウムに吸着されやすいことから、セリウムによる吸着処理を行う前に6価のセレンを4価に還元しておくことが有効であること、及び液中のSOはセリウムによるセレン吸着処理に妨害物質となるが、SOは4価のセレン吸着処理に妨害物質とはならないので、セレンの吸着処理を行う前に、液中のSOをSOに酸化しておくことが有効であることが分かる。
【0039】
実験例7
実験例5で用いた5%亜硫酸ナトリウム水溶液に4価のセレンを100ppm添加した被検液をガス吸着ビン(インピンジャー)に入れ、アスピレータで吸引しつつ空気バブリングしてSOをSOに酸化し、その後、実験例5と同様のセレン吸着処理を行い、同様にセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は99%以上であった。
【0040】
実験例8
実験例7と同様、4価のセレンを100ppm添加した5%亜硫酸ナトリウム水溶液を被検液として用い、これに市販の過酸化水素水溶液(30%−H水溶液)を、被検液100mlに対して5mlの割合で添加し、90〜100℃で1時間加熱した後、同様にセレンの吸着処理を行い、同様にセレン除去率を求めたところ、セレンは全く除去されていなかった。
【0041】
実験例9
実験例7で用いた亜硫酸ナトリウム5%水溶液(セレン含まず)に、実験例8で用いた市販の過酸化水素水溶液(30%−H水溶液)を、溶液100mlに対して5mlの割合で添加してSOをSOに酸化したのち、実験例7と同様4価のセレンを100ppmとなるように添加し、その後、実験例7と同様にセレンの吸着処理を行い、同様にしてセレン除去率を求めたところ、セレン除去率は99%以上であった。
【0042】
実験例7〜9の結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から、SO含有液中のセレン(4価)は、該セレンを6価に酸化することなくSOのみをSOに酸化することによって高い確率で吸着分離できることが分かる。また、この場合、空気バブリングは、セレン4価を6価に酸化することなく、妨害物質であるSOのみをSOに酸化できることが分かる(実験例7)。
【0045】
また、亜硫酸ナトリウム水溶液に過酸化水素を添加して硫酸ナトリウム水溶液としたのち、セレン(4価)を添加し、その後、水酸化セリウムで吸着分離した場合もセレンを効率良く吸着、分離できたことから(実験例9)、4価のセレン含有液に、直接過酸化水素を添加した実験例8では、SOがSOに酸化されるだけでなく、4価のセレンが6価に酸化されてしまったために、セリウムによるセレン吸着能が発揮されず、セレンが分離されなかったものと考えられる。
【0046】
本発明者は、このような知見に基づいて、硫黄酸化物含有液中のセレンの処理方法について、鋭意研究したところ、硫黄酸化物含有液中のセレンは、希土類化合物、特にセリウムを吸着剤として吸着分離することが最も有効であり、セレンを吸着した希土類化合物、特にセリウムは、固液分離によって硫黄酸化物含有液から分離できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、硫黄酸化物含有液に含まれるセレン(Se)を分離するセレン処理方法であって、硫黄酸化物含有液に希土類化合物を添加して該希土類化合物にセレンを吸着させる吸着ステップと、セレンを吸着した希土類化合物を硫黄酸化物含有液から分離する分離ステップと、を有することを特徴とする。
【0047】
この場合、硫黄酸化物含有液中の硫黄酸化物はSO及びSOを含むものである。硫黄酸化物含有液としての、例えば脱硫排水に含まれる代表的な硫黄酸化物はSO及びSOである。但し、これ以外の硫黄酸化物を含むものであってもよい。
【0048】
本発明に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、液中の6価のセレンを4価に還元する還元ステップを有する。6価のセレンの溶解度は、4価のセレンの溶解度よりも大きく吸着分離処理が困難であることから、溶解度が小さく吸着剤による吸着分離が容易な4価にするためである。
【0049】
また、本発明に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法は、SOをSOに酸化する酸化ステップを有する。SOは、吸着剤によるセレン吸着作用に対して妨害物質となるが、SOは、妨害物質とならないからである。
【0050】
即ち、本発明に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法においては、6価のセレンを4価に還元し、且つSOをSOに酸化した後、セレン吸着剤としての希土類化合物を添加し、該希土類化合物に4価のセレンを吸着させて分離する。
【0051】
本発明において、SOをSOに酸化する酸化ステップは、6価のセレンを4価に還元した後、実行することができる。すなわち、この場合、6価のセレンを4価に還元するステップは、SOをSOに酸化する酸化ステップに先だって行われる。従って、還元ステップは、液中のSOをSOに還元するものであってもよく、いわゆる強い還元剤を用いた強い還元ステップが好適に適用される。強い還元剤としては、例えば、塩化第一鉄が挙げられ、例えば液中に塩化第一鉄を添加するステップがこれに相当する。
【0052】
ここで、6価のセレンを4価のセレンに還元する酸化還元反応は以下のように表すことができる。
【0053】
[化1]
Fe2+ → Fe3+ + e
Se6+ + 2e →Se4+
被処理液に添加された第一鉄は、電子を放出して自身が酸化されて第二鉄となり、放出した電子を6価のセレンが取り込むことによって4価に還元される。
【0054】
このような強い還元剤による還元ステップにおいては、硫黄酸化物含有液中の6価のセレンは全て4価に還元される。このとき、セレンの一部は、固体セレンまで還元されることがある。固体セレンは、固液分離によって分離可能である。強い還元剤としては、上述した塩化第一鉄の外、例えば、シュウ酸(C)、硫化水素(HS)等があげられる。
【0055】
被処理液に対する還元剤、例えば塩化第一鉄の添加量は、液中に含まれるセレンの当量の2倍量又はその1.2〜1.5倍量である。塩化第一鉄の添加量が少なすぎると、セレンの還元処理が不十分となり、多すぎると効率が低下し、コストが嵩む。
【0056】
還元ステップにおける被処理液の温度は、例えば50〜100℃である。温度が高すぎると、操作が煩雑となり、低すぎると還元反応速度が低くなる。加熱を特に必要としないが、反応促進のために加熱してもよい。
【0057】
還元ステップにおける反応時間は、反応温度、撹拌状態によっても異なるが、例えば
1分〜24時間である。反応時間が短すぎると還元が不十分となる一方、必要以上に長くしても効率が向上するものでなない。
【0058】
6価のセレンを4価に還元する還元ステップにおいて、液中のSOがSOに還元されてしまい、セリウムによるセレン吸着作用に対する妨害物質となる。従って、6価のセレンを4価に還元する還元ステップの後、SOをSOに酸化する酸化ステップを実施する。
【0059】
一方、本発明において、SOをSOに酸化する酸化ステップは、6価のセレンを4価に還元する還元ステップに先立って行うこともできる。すなわち、SOをSOに酸化したのち、6価のセレンを4価に還元する還元ステップを行うこともできる。この場合、6価のセレンを4価に還元する還元ステップは、例えば被処理液に塩酸を加えるステップである。塩酸による還元ステップは、いわゆる弱い還元ステップであり、酸化ステップで生成したSOをSOに還元させることがなく、液中の6価のセレンのみを4価又はそれ以下に還元する。このような還元ステップとしては、塩酸による還元ステップ以外に、例えば鉄粉を用いて加熱する方法が挙げられる。
【0060】
この場合、被処理液に添加する還元剤の添加量は、6価のセレンの当量の2倍量又はその1.2〜1.5倍量である。
【0061】
このとき被処理液の温度は、例えば50〜100℃である。温度が高すぎると、操作が煩雑となり、低すぎると還元反応速度が低くなる。ここで、加熱を特に必要としないが、反応促進のために加熱してもよい。
【0062】
弱い還元ステップにおける反応時間は、反応温度、撹拌状態等によって異なるが、例えば1分〜24時間である。反応時間が短すぎると還元が不十分である。一方、必要以上に長くしても効率が向上するものではない。
【0063】
本発明において、被処理液中のSOをSOに酸化する酸化ステップは、例えば被処理液にO、O、CO、空気などの酸化性ガスを吹き込んでバブリングするステップである。空気バブリングは、いわゆる弱い酸化作用を発揮するステップであり、液中に存在する4価のセレンを6価に酸化させることなく、SOのみをSOに酸化する。これによって、セレンを4価に保持したまま、セリウムによるセレン吸着作用に対する妨害物質(SO)を消滅させることができる。
【0064】
空気によるバブリングは、第1ステップとして被処理液中のSOをSOに酸化するステップ、及び6価のセレンを4価に還元する還元ステップ後、液中に含まれるSO及び還元によって生成したSOをSOに酸化する場合の双方に適用される。
【0065】
酸化ステップにおける空気のバブリング条件は特に限定されないが、空気導入量は、例えば被処理液1リットルに対して5リットル/分である。被処理液に対するバブリング空気量が少なすぎるとSOのSOへの酸化が十分ではなく、多すぎると効率が低下する。このとき気泡の大きさは、微細であるほど効率が良くなるが、例えば平均粒径5mm程度である。
【0066】
酸化ステップにおける被処理液の温度は特に限定されないが、室温〜60℃である。温度が高すぎると、コストが嵩み、一方温度が低すぎるとSOのSOへの酸化が抑制される。
【0067】
空気によるバブリングは、いわゆる弱い酸化方法である。空気バブリング以外の弱い酸化剤又は酸化方法としては、例えば10%以下の過酸化水素水溶液等が挙げられ、これによっても同様の効果が得られる。
【0068】
本発明において、セレン吸着剤としての希土類化合物は、水酸化セリウム又は含水酸化セリウムであることが好ましい。水酸化セリウム等は吸着に関与する吸着点(活性点)の数が特に多く、セレン吸着能が大きいからである。
【0069】
水酸化セリウムは、例えば粉体状や粒状を呈しており、例えば水中に分散されたスラリが好適に適用される。
【0070】
セレン吸着剤は、水酸化セリウム(含水酸化セリウム)単独だけでなく、これに他の希土類水酸化物、例えば水酸化ランタンなどを含むものであってもよく、また水酸化セリウム若しくはセリウムを含まない希土類若しくは希土類水酸化物を適用することもできる。
【0071】
セリウムがセレン(4価)を吸着するメカニズムは必ずしも明らかではないが、セリウムは、セレンに対して他の吸着剤にない特殊な吸着能を有している。
【0072】
次に、本発明の実施の形態に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法を添付の図面を用いて詳細に説明する。
【0073】
図1は、本発明の実施の形態に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法の操作手順を示すフローチャートである。
【0074】
図1において、先ず、硫黄酸化物含有液としての脱硫排水に、例えば塩酸を添加してpH調整する(ステップS1)。得られた塩酸酸性の被処理液を加熱した後、還元剤として塩化第一鉄を添加し、穏やかに撹拌して6価のセレンを4価に還元する(ステップS2)(還元ステップ)。セレンを4価に還元した後、被処理液中に空気を吹き込んで、ステップS2によってSOが還元されることによって生成したSO及び当初から存在するSOをSOに酸化する(ステップS3)(酸化ステップ)。次いで、セレン吸着剤として水酸化セリウム(アドセラスラリ、日本板硝子社製)を添加し、穏やかに撹拌して4価のセレンを吸着する(ステップS4)(吸着ステップ)。次に、セレンが吸着された水酸化セリウムを含む被処理液を濾過し、固液分離してセレン吸着水酸化セリウムを分離して処理液を回収し(ステップS5)(分離ステップ)、本処理を終了する。
【0075】
本実施の形態によれば、強い還元剤によって6価のセレンを4価に還元したのち、弱い酸化剤によってSOをSOに酸化して妨害物質をなくし、次いで、水酸化セリウムを添加してセレンを吸着、分離するようにしたので、被処理液中のセレンを効率よく吸着分離することができる。
【0076】
また、本実施の形態によれば、セレンを金属水酸化物と共沈させることなく、吸着剤によって吸着分離するので大量のスラッジを発生することなく、後処理も容易である。また、被処理液中のセレンを一旦強い還元剤で還元した後、水酸化セリウムに吸着させて分離するので、セレンの正確な価数制御及び複雑な装置が不要となる。
【0077】
本実施の形態において、分離、回収したセレン吸着セリウムは、例えば産業廃棄物として簡易処理施設で処分される。
【0078】
本実施の形態に係るセレン処理方法は、排煙脱硫排水中のセレンをはじめ、例えば土壌、石膏、ボウショウ、金属水酸化物、産業廃棄物等に含まれるセレン処理に適用することもできる。この場合、一旦セレンを溶液中に溶出させてセレン含有液とし、液中のセレンをセリウムよって吸着、分離する。
【0079】
図2は、本発明の別の実施の形態に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法の操作手順を示すフローチャートである。
【0080】
この方法が、図1の方法と異なるところは、先ず、被処理液に空気を吹き込んでSOをSOに酸化し(ステップS11)(酸化ステップ)、次いで、濃塩酸を添加して6価のセレンを4価に還元する(ステップS12)(還元ステップ)ようにした点であり、その後、カセイソーダ(NaOH)で中和し(ステップ13)、水を加えて希釈したのち、水酸化セリウムでセレンを吸着し(ステップS14)、分離する(ステップS15)ものである。
【0081】
本実施の形態によっても、上記実施の形態と同様、SOの妨害を抑えつつ、被処理液中のセレンを効率良く分離、回収することができる。
【0082】
次に本発明の具体的実施例を説明する。
【0083】
実施例1
100ppmのセレンを含む排煙脱硫溶液1リットルに、35%−塩酸100mlを添加してpHを0〜3に調整した後、加熱して80〜90℃とし、塩化第一鉄をセレンの2当量分又はその1.2倍量添加し、撹拌翼で緩やかに撹拌しつつ2時間保持して溶液中の6価のセレンを4価に還元した。次いで、被処理液1リットルに対し、5リットル/分の空気を吹き込んでバブリングし、液中のSOをSOに酸化した。
【0084】
SOがSOに酸化された溶液25mlに対し、アドセラスラリ(日本板硝子社製)1gを添加し、撹拌翼によって穏やかに撹拌しつつ、1時間保持し、4価のセレンを水酸化セリウムに吸着させた。
【0085】
セレンを吸着した水酸化セリウムを含む溶液を濾布で濾過して固液分離し、セレンが分離された処理液を得た。処理液中のセレン濃度を定量したところ、セレン除去率は、99%以上であった。
【0086】
実施例2
ガラス製造工程から排出された脱硫排水に4価のセレンと6価のセレンをそれぞれ100ppmとなるように添加して被処理液とし、この被処理液1リットルに対して5リットル/分の割合で空気を吹き込んで液中のSOをSOに酸化し、次いで、被処理液100mlに対して35%−塩酸10mlを添加し、90〜95℃で1時間加熱して6価のセレンを4価に還元した。得られた還元液に対し、中和相当量のカセイソーダ(NaOH)を加えてpH6〜7に調整し、水を加えて4倍に希釈し、希釈液25mlに対してアドセラスラリ(日本板硝子社製)1gを加え、1時間穏やかに撹拌してセレンを吸着した。セレンを吸着した水酸化セリウムを含む溶液を濾布で濾過して固液分離し、処理液を得、処理液中のセレン濃度を求めたところ、セレン除去率は99%以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の形態に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法の操作手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の別の実施の形態に係る硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法の操作手順を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化物含有液に含まれるセレン(Se)を分離するセレン処理方法であって、
前記硫黄酸化物含有液に希土類化合物を添加して該希土類化合物に前記セレンを吸着させる吸着ステップと、
前記セレンを吸着した希土類化合物を前記硫黄酸化物含有液から分離する分離ステップと、
を有することを特徴とする硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項2】
前記硫黄酸化物はSO及びSOを含み、
前記硫黄酸化物含有液に含まれる6価のセレンを4価に還元する還元ステップと、
SOをSOに酸化する酸化ステップと、を有し、
前記6価のセレンを4価に還元し、且つ前記SOをSOに酸化した後、前記
硫黄酸化物含有液に前記希土類化合物を添加し、該希土類化合物に前記4価のセレンを吸着させることを特徴とする請求項1記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項3】
前記SOをSOに酸化する酸化ステップは、前記6価のセレンを4価に還元した後、実行されることを特徴とする請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項4】
前記6価のセレンを4価に還元する還元ステップは、前記硫黄酸化物含有液に第一鉄イオンを添加するステップであることを特徴とする請求項3記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項5】
前記6価のセレンを4価に還元するステップは、前記SOをSOに酸化した後、実行されることを特徴とする請求項2記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項6】
前記6価のセレンを4価に還元する還元ステップは、前記硫黄酸化物含有液に塩酸を加えるステップであることを特徴とする請求項5記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項7】
前記SOをSOに酸化する酸化ステップは、前記硫黄酸化物含有液に酸化性ガスを導入してバブリングするステップであることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。
【請求項8】
前記希土類化合物は、水酸化セリウム(Ce(OH)・nHO、Ce(OH)・nHO)及び含水酸化セリウム(CeO・nHO、Ce・nHO)のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の硫黄酸化物含有液中のセレン処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221119(P2008−221119A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62323(P2007−62323)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】