説明

硬化ピストン周溝を備えた往復動内燃機関におけるピストン

ピストン上部(1)が複数のピストン周溝(4)とピストンランドとを備えて形成され、その少なくとも燃焼室近くの最上位周溝(4a)が、摩耗に対して防護された硬化溝フランク(5a、5b)を有している、窒化物形成性基合金から成る往復動内燃機関におけるピストンにおいて、ピストン上部(1)特にその最上位ピストン周溝が延長された運転寿命を有するように改良するために、摩耗に対して防護された硬化溝フランクとピストンランドを有するピストン上部(1)の少なくとも外側面に、窒化層の形態をした他の摩耗・腐食防護層(7)が設けられ、この摩耗・腐食防護層(7)が、窒素雰囲気内ないし窒素・炭素雰囲気内におけるプラズマ窒化法あるいはプラズマニトロ浸炭法による窒化物形成性基合金の転換によって発生され、これにより、硬化溝フランクが窒化層(7)で追加的に防護されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン上部が複数のピストン周溝と1つのピストンランドとを備えて形成され、前記ピストン周溝のうちの少なくとも燃焼室近くの最上位周溝が、摩耗に対して防護された溝フランク(溝壁)を有している、窒化物形成性基合金から成る往復動内燃機関におけるピストンに関する。
【0002】
ピストン上部は燃焼室に対向して位置する最上位の構成要素であり、全燃焼経過にわたり影響を受け、上述したピストンの最も損傷を受ける部分である。
【0003】
ここで特別な問題はピストン上部に作用する燃焼圧力に対する密封にある。これは、いわゆるピストンリングによって行われる。そのピストンリングは、ピストンの横部でピストン周溝内に置かれ、燃焼室を下向きにクランクケースに対して密封している。この部位における大きな問題はピストン周溝の寿命にある。これは、点検インターバルおよび従ってピストン全体の運転経費と運転安全性とを大きく決定づける。
【0004】
公知のように、運転寿命を長くするために、かかるピストン上部と特にそのピストン周溝は硬化処理され、詳しくは、誘導式におよび/又はクロムめっきにより硬化処理される。誘導式硬化処理は平均的摩耗性能を生ずる。例えば既に独国特許第19833825号明細書に、ピストン周溝が摩耗に対して防護された溝フランクを有する大形エンジンに対する上述のピストンが示されている。
【0005】
ここではピストン上部は熱処理された合金鋼から成り、そのピストン上部は、ピストン周溝の上下の溝フランクが、溝フランク幅の担持領域にわたり全面的な硬化領域が生ずるように硬化処理されている。その硬化処理過程は、目的に適って誘導式に行われ、これは、所望の組織転換を実現するための温度制御を簡単に可能にする。
【0006】
しかしこの処置は、点火圧力が所定の高さを超えると十分でなくなる。つまり、溝フランク負荷は、点火圧力が増大する割合以上に増大する。この関係において、今日望まれている低い潤滑率も通用しない。従って、硬化溝フランクの急速な摩耗が生ずる。これは特に、燃焼室に最も近くに位置する第1ピストン周溝に対して当てはまり、その周溝は経験的に最も大きな負荷を受ける。
【0007】
他方ではまた、窒化鋼あるいはニトロ浸炭鋼の場合、摩耗抵抗が著しく増大されることが既に知られている。
【0008】
一般に、プラズマ窒化法あるいはプラズマニトロ浸炭法とは、鋼の表面層の硬化法を意味し、その場合、窒素元素ないし炭素元素が拡散し、その際、薄い表面層で鉄と反応して窒化物ないし炭素窒化物の形態の化合層を形成する。それに続く拡散層において、窒素が冷却中にはじめて部分的に窒化物として析出し、そして硬度を増大させる。硬度自体は窒化物の種類に左右される。窒素が鋼とどのように反応するかに応じて、窒化時間および窒化層が異なる。
【0009】
換言すれば、硬度、摩耗抵抗、疲れ強度および腐食強度を高めるために、材料の境界層の窒素による拡散飽和が行われる。境界層は窒化後/ニトロ浸炭後に、外側の窒化物層ないし炭素窒化物層(化合層)と、それに続く富窒素化された混晶から成る層と、析出した窒化物(拡散層)から成っている。
【0010】
グロー放電、いわゆるプラズマ窒化法による窒素のイオン化によって、窒化時間が短縮される(プラズマ窒化法は450℃〜550℃で行われる)。
【0011】
処理媒体が窒素のほかに炭素も放出する物質を含むニトロ浸炭法の場合には、粉末、塩浴、ガスあるいはプラズマで、ニトロ浸炭することができる(プラズマニトロ浸炭法は500℃〜590℃、好適には約520℃で行われる)。
【0012】
従って本発明は、既に境界層により硬化された周溝を備え熱処理された窒化物形成性基合金鋼から成る上述したピストンを、ピストン上部特にその最上位ピストン周溝が延長された運転寿命を有し、即ち、特にピストン上部における周溝の摩耗が十分に減少されるように改良するものである。
【0013】
摩耗に対して防護された硬化溝フランクを有するピストン上部の少なくとも外側面に、更に窒化層の形態をした他の摩耗・腐食防護層が設けられ、その摩耗・腐食防護層は、窒素雰囲気内ないし窒素・炭素雰囲気内におけるプラズマ窒化法あるいはプラズマニトロ浸炭法による窒化物形成基合金の転換によって発生され、これにより、硬化溝フランクが窒化層で追加的に防護されることによって、大幅に改善された摩耗・腐食防護と、当然に長い点検インターバル/部品寿命が得られる。これによって特に、燃焼室に最も近くに位置し最も大きく負荷される第1周溝における摩耗が著しく減少される。
【0014】
以下図に示した実施例を参照して本発明に基づくピストンを詳細に説明する。
【0015】
図1は、往復動内燃機関におけるピストンのピストン上部(1)を示し、このピストン上部(1)は、燃焼空所(2)と、ピストンランド(3)と、4個の周溝(4a、b、c、d)を備え、それらの周溝(4a、b、c、d)はそれぞれ平行な周溝フランク(5a、b)を有している。
【0016】
このピストン上部(1)は熱処理された窒化物形成性合金鋼から成っている。図2において、上側3個の周溝(4a、b、c)はそれらの上下の溝フランク(5a、5b)の部位がそれぞれ、溝フランク幅の担持領域にわたる全面的な境界層(6)の形態の硬化領域が生ずるように硬化処理されている。その硬化過程自体は、ここでは公知のように誘導式に行われている。
【0017】
さらに、図1と図2において、摩耗に対して防護された周溝(4a、b、c)とピストンランド(3)とを有するピストン上部(1)の少なくとも外側面に、窒化層の形態をした他の摩耗・腐食防護層(7)が設けられている。その摩耗・腐食防護層(7)は、窒素雰囲気内ないし窒素・炭素雰囲気内におけるプラズマ窒化法あるいはプラズマニトロ浸炭法による窒化物形成基合金の転換によって発生され、これにより、硬化された溝フランク(5a、5b)が窒化層(7)で追加的に防護されている。
【0018】
その場合、本発明において、摩耗に対して境界層(6)により防護された少なくとも周溝(4a、b、c)に更に他の窒化層が設けられることが重要であり、燃焼空所(2)および/又はピストンランド(3)は窒化される必要がない。
【0019】
特に図1において、本発明の実施例に応じて、ピストン上部(1)の全外側面に窒化層(7)が設けられているが、ピストン上部(1)の内側面は被覆されていない。
【0020】
窒化層(7)は既知のように二層構造を成し、即ち、部品表面に隣接する少なくとも1つの拡散層と、その上に形成された化合層とを有する。本発明における特徴として、窒化層(7)は、硬化溝フランク(5a、5b)において、硬化境界層を含めて0.2mm〜1.0mmの厚さ(窒化硬化深さ)を有し、その硬化溝フランク(5a、5b)はその上に形成された2μm〜15μmの厚さの化合層を有し、550HV(ビッカース硬さ)より大きな表面硬度を有している。
【0021】
窒化硬化の効果がそれを制御する拡散過程のために深さと共に低下するので、拡散層の硬さは、厚さないし表面からの距離の増大と共に低下する。
【0022】
往復動内燃機関におけるピストンのピストン上部(1)の排ガスを受ける外側表面に対する窒化層(7)の本発明による利用は、周溝部位、特に上側周溝および詳しくは燃焼空所(2)に最も近い第1周溝(4a)における摩耗強度を増大させるだけでなく、腐食に対する大きな抵抗も生じさせる。
【0023】
なお、摩耗に対して防護された溝フランクは、第1工程では誘導式に硬化処理されると有利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に基づいて形成されたピストン上部の断面図。
【図2】本発明に基づいて溝フランクに硬化処理が施され追加的に窒化層が設けられた上側3個の周溝についての図1の部分拡大詳細図。
【符号の説明】
【0025】
1 ピストン上部
4 周溝
5 溝フランク(溝壁)
6 境界層
7 摩耗・腐食防護層(窒化層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のピストン周溝(4)を有するピストン上部(1)を備え、前記ピストン周溝のうちの少なくとも燃焼室近くの最上位周溝(4a)が、境界層(6)により摩耗に対して防護され硬化された溝フランク(溝壁、5a、5b)を有している窒化物形成性基合金から成る往復動内燃機関におけるピストンにおいて、
摩耗に対して防護された周溝(4a、b、c)を有するピストン上部(1)の少なくとも外側面に、更に窒化層の形態をした他の摩耗・腐食防護層(7)が設けられ、該摩耗・腐食防護層(7)が、窒素雰囲気内ないし窒素・炭素雰囲気内におけるプラズマ窒化法あるいはプラズマニトロ浸炭法による窒化物形成基合金の転換によって発生され、これにより、硬化溝フランク(5a、b)が窒化層(7)で追加的に防護されていることを特徴とする往復動内燃機関におけるピストン。
【請求項2】
ピストン上部(1)の全外側面に窒化層(7)が設けられ、ピストン上部(1)の内側面は被覆されていないことを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
窒化層(7)が、硬化された溝フランク(5a、5b)において、硬化境界層(6)を含めて0.2mm〜1.0mmの厚さ(窒化硬化深さ)を有し、前記硬化溝フランク(5a、5b)がその上に形成された2μm〜15μmの厚さの化合層を有し、550HV(ビッカース硬さ)より大きな表面硬さを呈していることを特徴とする請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
窒化層(7)の形成前に、摩耗に対して防護された溝フランク(5a、b)が誘導式に硬化処理されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−533373(P2008−533373A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501215(P2008−501215)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002293
【国際公開番号】WO2006/097265
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(390041520)エムアーエヌ ディーゼル エスエー (59)
【Fターム(参考)】