説明

硬化塗膜の製造方法

【課題】水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、従来よりも短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を得ることのできる、工業的に有利な硬化塗膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】架橋型水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤として、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類を用いる硬化塗膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化塗膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、水性樹脂をポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を得ることのできる、工業的に有利な硬化塗膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶性又は水分散性樹脂である水性樹脂は、塗料、インキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤など、多くの分野で使用されている。
これらの用途の中で、特に水溶性又は水分散性の水性塗料は、水を媒体として用い、有機溶媒を使用していないことから、環境汚染や火災などの心配がない上、はけ、ローラ、スプレーガンなどの塗装機器の掃除や塗料汚染のあと始末なども簡単に水でできるので、近年、その需要が伸びてきている。
水性樹脂には、樹脂自体に水溶性又は水分散性を付与するために、一般にカルボン酸基が導入されている。したがって、塗膜中に残存するカルボン酸基が加水分解を誘引し、塗膜の強度、耐久性、美観を損ねることがある。
このような水性樹脂の耐水性を始め、その他諸物性を向上させる手段として、前記カルボン酸基などと反応して架橋化される水性メラミン樹脂、アジリジン化合物、水性ブロックイソシアネート化合物などの外部架橋剤を併用する方法が一般に採用されているが、これらの架橋剤は、毒性、ポットライフ、配合安定性、反応性などの問題から使用しにくい場合がある。また、このような架橋剤を用いた場合、カルボン酸基をつぶしながら架橋が進むため、塗膜の強度、耐水性、耐久性などを向上させることはできるが、未反応の架橋剤が残存すると塗膜に毒性が生じる場合があり、また、水性樹脂のカルボン酸基に未反応部分が残れば、耐水性や耐久性が低下する。すなわち、100%反応しないと、様々な問題が生じることになる。また、反応性の高い水性ブロックイソシアネート化合物では、ポットライフが極めて短いという問題がある。
【0003】
一方、ポリウレタン中に架橋剤を組み込んだり、ポリウレタン自体に架橋構造を導入する方法も検討されているが、これらの方法では、ポリウレタンの製造プロセスが煩雑になるのを免れない。
熱硬化型水性ウレタン樹脂の代表的なものは、水分散性の低い疎水性の架橋剤を、水性ウレタン樹脂を分散剤として使用することで共分散させたものであり、該疎水性の架橋剤として、ブロック化イソシアネート化合物や、エポキシ樹脂を自己乳化性のイソシアネート末端プレポリマーに添加混合して、共に乳化分散させる方法が数多く提案されている。しかしながら、これらの方法においても、前記の毒性、ポットライフ、配合安定性などの問題をやはり有している。
さらに、近年、常温硬化性の官能基として、アルコキシシリル基をポリウレタン骨格中に組み込む方法が各種提案されている。いずれもアルコキシシリル基が水中で加水分解することにより、水中では安定でありながら、一旦水分が蒸発したらシロキサン結合を形成して架橋する常温硬化システムとして機能させるものである。一方、水分散体の特性を活かして、粒子内で予めゲル構造(三次元架橋構造)をとらせることにより、耐久性を向上させることが試みられており、特に塗料分野などで実用化されている。また、架橋構造の導入方法として、プレポリマーを予め分岐させるか、鎖伸長剤に多官能のポリアミンを使用する方法、あるいはプレポリマーをポリイソシアネートと共に分散後、鎖伸長することにより、三次元構造を導入する方法が知られている。さらに、ウレタンポリマー骨格中に二重結合を導入してラジカル重合、空気による酸化硬化させる方法として、無水マレイン酸による不飽和ポリエステルポリオールを使用する方法、アルキッドポリオールを使用する方法がある。また、外部架橋剤として使用しているエポキシ樹脂やアジリジン架橋剤を、予めポリウレタン骨格中のカルボキシル基と水中で反応させ架橋構造を導入させる方法も知られている。
しかしながら、これらの方法は、製造プロセスがやっかいであったり、架橋物の物性が不十分であったり、架橋物が高価なものになったりして、いずれも必ずしも十分に満足し得るものではない。
【0004】
ところで、カルボジイミド化合物が、水性樹脂の架橋剤として使用し得ることが知られている。このカルボジイミド化合物は毒性がなく安定性が高い。カルボジイミド化合物を水性樹脂の架橋剤として使用する技術に関しては、反応性及び保存性が良好であって、水性樹脂用架橋剤として取り扱いを容易にした水性ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この水性ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドは毒性がなく、ポットライフも十分であるといった特徴を有しているが、以下に示すような問題があり、その改善が望まれていた。
水性樹脂での塗膜形成工程では潜熱の高い水を揮発させる必要があるため、溶剤型樹脂よりも処理時間を長くしなければならず、このため生産性に影響を及ぼすことがあった。一方、溶剤型と同じような処理時間で水を揮発させる場合は、カルボジイミドの架橋作用が十分に発揮されない場合がある。すなわち、十分な処理時間を持たせればカルボジイミドを添加した水性樹脂は実用に値する十分な強度の塗膜を形成できるが、処理時間が不足すればその架橋効果は不十分である。したがって、従来よりも短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を得ることのできる、水性樹脂の水性ポリカルボジイミドによる硬化システムの開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2000−7642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、水性のウレタン系樹脂やアクリル系樹脂などの水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、従来よりも短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を得ることのできる、工業的に有利な硬化塗膜の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硬化促進剤として、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類を用いることにより、上記本発明の目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)架橋型水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤として、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類を用いる硬化塗膜の製造方法、
(2)水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類が、炭酸アルカリ金属塩及び塩基性炭酸遷移金属塩の中から選ばれる少なくとも一種である上記(1)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
(3)炭酸アルカリ金属塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムである上記(2)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
(4)水性ポリカルボジイミドの固形分100質量部に対し、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムを2〜20質量部の割合で用いる上記(3)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
(5)塩基性炭酸遷移金属塩が塩基性炭酸亜鉛である上記(2)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
(6)水性ポリカルボジイミドの固形分100質量部に対し、塩基性炭酸亜鉛を0.002〜0.2質量部の割合で用いる上記(5)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
(7)水性ポリカルボジイミドが、末端に親水性基を有する水溶性又は水分散性ポリカルボジイミドである上記(1)〜(6)項のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法、
(8)架橋型水性樹脂が、架橋型水溶性もしくは水分散性のウレタン系樹脂又はアクリル系樹脂である上記(1)〜(7)項のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法、
(9)(A)水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液と、(B)炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液とを予め混合してなる液、及び(C)架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液を混合して塗工液を調製し、次いで基材上に塗工層を形成したのち、硬化させる上記(1)〜(8)項のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法、及び
(10)(B)成分において、炭酸金属塩類を含む水溶液が、炭酸アルカリ金属塩を含む水溶液であり、炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液が、塩基性炭酸遷移金属塩と有機アミンを含む水溶液である上記(9)項に記載の硬化塗膜の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水性樹脂を水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤としてある種の炭酸金属塩類を用いることにより、従来よりも短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を得ることのできる、工業的に有利な硬化塗膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の硬化塗膜の製造方法において、塗膜形成物質として用いられる架橋型水性樹脂としては、水溶性又は水分散性を有し、カルボジイミド化合物で架橋される樹脂であればよく、特に制限されず、様々な樹脂を用いることができる。具体的には、分子内にカルボキシル基を有する、水溶性又は水分散性のウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが用いられるが、これらの中ではウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく用いられる。
前記のカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性のウレタン系樹脂としては、例えばポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有ポリオール類及び/又はアミノ酸類、並びにポリオール類から得られるカルボキシル基含有のウレタン系プレポリマーを溶媒又は水の存在下で塩基性有機化合物及び鎖延長剤と反応させ、次いで減圧下、脱溶媒することによって得られるウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0010】
分子内にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性のアクリル系樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等の重合性不飽和カルボン酸又はそれらの無水物と、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸以外のアクリル系モノマー及び必要に応じてα−メチルスチレン、酢酸ビニルなどとを乳化重合、溶液重合、塊状重合などの重合法により共重合させて得られるアクリル系樹脂などが挙げられる。
また、分子内にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ポリエステル系樹脂としては、例えばグリコール又は末端が水酸基であるポリエステルグリコールと、テトラカルボン酸二無水物とを選択的なモノエステル化反応によって鎖延長させることにより得られるポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0011】
本発明の硬化塗膜の製造方法において、架橋剤として用いられる水性ポリカルボジイミドは、水溶性又は水分散性を有するポリカルボジイミドであればよく、特に制限されず、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択することができる。
このような水性ポリカルボジイミドとしては、末端に親水性基を有するものを挙げることができる。このものは、例えば有機ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを形成した後、更にイソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ親水性セグメントを付加することにより製造することができる。
【0012】
上記親水性セグメントとしては、下記の親水性有機化合物(1)〜(4)由来のものが例示される。
(1)(R12−N−R2−OH
(式中、R1は低級アルキル基、R2は炭素数1〜10のアルキレン、又はポリオキシアルキレン基である。)で示されるジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩が使用可能であり、特に2−ジメチルアミノエタノールの四級塩が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、カチオンタイプとなる。
(2)(R12−N−R2−NH2
(式中、R1、R2は上記と同様である。)で示されるジアルキルアミノアルキルアミンの四級アンモニウム塩が使用可能であり、特に3−ジメチルアミノ−n−プロピルアミンの四級塩が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、カチオンタイプとなる。
(3)HO−R3−SO34
(式中、R3は炭素数1〜10のアルキレン基、R4はアルカリ金属である。)で示される反応性ヒドロキシル基を少なくとも1個有するアルキルスルホン酸塩が使用可能であり、特にヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムが好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、アニオンタイプとなる。
(4)R5−O−(CH2−CHR6−O−)m−H
(但し、式中R5は炭素数1〜4のアルキル基、R6は水素原子又はメチル基であり、mは4〜30の整数である。)で示されるアルコキシ基で末端封鎖されたポリ(エチレンオキシド)又はポリ(エチレンオキシド)とポリ(プロピレンオキシド)との混合物が使用可能であり、特にメトキシ基又はエトキシ基で末端封鎖されたポリ(エチレンオキシド)が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、ノニオンタイプとなる。
【0013】
前記のイソシアネート末端ポリカルボジイミドの形成に用いられる有機ジイソシアネート化合物としては、例えば芳香族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環族ジイソシアネート化合物やこれらの混合物が使用でき、具体的には1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが例示される。
【0014】
上記有機ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応は、カルボジイミド化触媒の存在下に進行する。この触媒としては、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドや、これらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシドなどを使用することができ、中でも反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。なお、上記触媒の使用量は触媒量とすることができる。
【0015】
有機ジイソシアネート化合物の縮合反応における反応温度は、通常80〜200℃程度であり、また縮合度は1〜10程度が好ましい。縮合度が上記範囲にあれば、得られる水性ポリカルボジイミドは、水性樹脂に添加する際に良好な分散性を有するものになる。
また、イソシアネート末端ポリカルボジイミドに親水性有機化合物を反応させて、親水性セグメントを付加する際の反応温度は、通常60〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
このようにして得られた水性ポリカルボジイミドの中で、水性ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドを好ましく挙げることができる。前記水性ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドは、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを、カルボジイミド化触媒の存在下に縮合させて、イソシアネート基末端ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドを得、次いでイソシアネート基と反応し得る少なくとも1つの水酸基を有する有機化合物を反応させることにより、製造することができる。
【0016】
本発明の硬化塗膜の製造方法においては、架橋促進剤として、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類が用いられる。ここで、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶とは、温度20℃の溶媒に対し0.02mmol/l以上溶解し得る場合を指す。
水に可溶な炭酸金属塩類としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、好ましくは炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムを挙げることができる。また、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類としては、例えば塩基性炭酸遷移金属塩、好ましくは塩基性炭酸亜鉛を挙げることができる。なお、上記有機アミン水溶液における有機アミンとしては、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミンなどを挙げることができる。
【0017】
本発明の硬化塗膜の製造方法においては、前記水性ポリカルボジイミドは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量については、硬化塗膜の物性及び経済性のバランスなどの面から、前記架橋型水性樹脂の固形分100質量部に対し、水性ポリカルボジイミドを固形分として、0.5〜15質量部の割合で用いることが好ましく、特に1〜10質量部の割合で用いることが好ましい。
一方、前記炭酸金属塩類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量については、架橋促進性及び作業性などの面から、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムにおいては前記水性ポリカルボジイミドの固形分100質量部に対し2〜20質量部の割合で用いることが好ましい。また、塩基性炭酸亜鉛については更に少量でも架橋促進性を発揮することができ、0.002〜0.2質量部の割合で用いることが好ましい。
【0018】
次に、本発明の硬化塗膜の製造方法における好適な態様について説明する。
本発明においては、その添加順序に特に制限はないが、以下に示す2つの態様を好ましく挙げることができる。まず、第1の態様は、(A)水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液と、(B)炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液と、(C)架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液とを混合して塗工液を調製し、次いで基材上に塗工層を形成したのち、硬化させる硬化塗膜の製造方法である。
当該第1の態様における(C)成分である架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液の樹脂濃度に特に制限はないが、得られる塗工液の塗工性及び塗工層の乾燥性などの面から、15〜50質量%程度が好ましく、20〜40質量%の範囲がより好ましい。
【0019】
当該第1の態様における(A)成分である水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液のポリカルボジイミド濃度に特に制限はないが、取扱い性などの面から、20〜60質量%程度が好ましく、30〜50質量%の範囲がより好ましい。
一方、(B)成分である炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液における炭酸金属塩類の濃度は、使用する炭酸金属塩類のそれを溶かす溶媒に対する溶解度に応じて適宜選定されるが、できるだけ高い濃度が好ましい。また、溶媒としてアンモニア水や有機アミン水溶液を用いる場合、該溶媒におけるアンモニアや有機アミンの濃度は、飽和濃度近傍にすることが好ましい。
【0020】
当該第1の態様においては、前記の(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合して塗工液を調製する。この際、混合順序については特に制限はない。
このようにして調製された塗工液を用いて、所定の基材上に塗工層を形成し、次いで硬化処理することにより、硬化塗膜を製造する。なお、塗工液に所望に応じて加えられる添加成分、塗工方法及び硬化処理方法については、後で説明する。
次に、第2の態様は、(A)水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液と、(B)炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液とを予め混合してなる液、及び(C)架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液を混合して塗工液を調製し、次いで基材上に塗工層を形成したのち、硬化させる硬化塗膜の製造方法である。
【0021】
当該第2の態様においては、前記第1の態様で説明した(A)成分である水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液と、前記第1の態様で説明した(B)成分である炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液とを予め混合してなる混合液をまず調製する。この際、水性ポリカルボジイミドの安定剤として、1,4−ブタンジオールなどのグリコール類等を、該混合液に含有させてもよい。
次いで、この混合液と、前記第1の態様で説明した(C)成分である架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液を混合して、塗工液を調製する。このようにして調製された塗工液を用いて、所定の基材上に塗工層を形成し、次いで硬化処理することにより、硬化塗膜を形成する。
【0022】
前記第1の態様及び第2の態様における塗工液には、用途に応じて必要により、各種添加成分、例えば顔料、充填剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを、適宜含有させることができる。
また、該塗工液を用いて、所定の基材上に塗工層を形成させる方法としては、従来公知の方法、例えばはけ塗り、タンポ塗り、吹付塗り、ホットスプレー塗り、エアレススプレー塗り、ローラ塗り、カーテンフロー塗り、流し塗り、浸し塗り、さらにはナイフエッジコートなどの方法を用いることができる。
さらに、硬化処理としては、通常加熱処理して塗膜の架橋反応を促進させる方法が用いられる。加熱処理方法に特に制限はなく、例えば電気加熱炉、熱風加熱炉、赤外線加熱炉、高周波加熱炉などを用いる方法を採用することができる。
【0023】
本発明の硬化塗膜の製造方法によれば、水性樹脂を水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤としてある種の炭酸金属塩類を用いることにより、以下に示す効果の少なくとも一つあるいはその全てが得られる。
(1)従来の方法よりも短い処理時間で十分な強度の硬化塗膜を形成することができる。
(2)従来と同じ処理時間をかければ、より強固な硬化塗膜が得られる。
(3)特に複雑な操作を必要とせず、従来と同様に水性樹脂に所要物質を添加すればよい。
(4)水性ポリカルボジイミド液に架橋促進剤を含有させておけば、従来の二液タイプと同様にして使用することができる。
(5)架橋促進剤として、炭酸ナトリウム、塩基性炭酸亜鉛といった安価な物質を用いるので、コストにほとんど影響を与えない。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1
4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート578gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)2.9gを180℃で18時間反応させ、イソシアネート末端ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド(重合度=6.3〜6.9)を得た。次いで、得られたイソシアネート末端ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドに、重合度8のポリ(エチレンオキシド)モノメチルエーテル333.0gを加え、150℃で5時間反応させた。反応後、50℃まで冷却し、蒸留水1478gを徐々に加え、淡黄色透明なカルボジイミド溶液(濃度40質量%、NCN基当量385)を得た。
【0025】
実施例1
水0.498gと1,4−ブタンジオール0.498gを混合した溶液に、炭酸ナトリウム(国産化学社製)0.08gを加えて10分間攪拌した。この時点では加えた炭酸ナトリウムは溶解しきらなかった。続いて製造例1で得たカルボジイミド溶液(固形分濃度40質量%、NCN基当量385)2gを添加して攪拌し、全ての炭酸ナトリウムを溶解した(溶液A)。
アヴェシア社製水性ウレタン樹脂「NeoRez R−960」(固形分33質量%、酸価80mgKOH/g)100gに大日精化工業社製「ダイピロキサイドブルー#3490(E)」1gを分散させた(溶液B)。これは青色の顔料であるが、あとで行うラビング試験で変化を観察しやすくするために加えた。この溶液B 4gに対し、上記溶液A 0.256gを添加してよく攪拌し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、ピッチ100μmのバーコーターで塗膜を形成した。PETフィルムごと80℃の乾燥機で15分間加温した。15分後乾燥機から取り出して、室温まで自然冷却させた。およそ1cm角の脱脂綿を4つ折りしたものにメチルエチルケトンを3滴染み込ませ、一定の力で塗膜表面を擦り、塗膜が剥れるまでの擦り回数を記録した。
なお、このラビング試験は3回行い、擦り回数の平均値を求めた。
また、前記溶液Aを密閉容器に入れ、50℃の恒温器に設置した。一定時間ごとに取り出し、前記と同様にして溶液Bに添加し、塗膜を作製し、ラビング試験を実施した。50℃で放置してから3日経過後、及び7日経過後を比較した。
これらの結果を第1表に示す。
【0026】
実施例2
水0.196gと1,4−ブタンジオール0.391gを混合した溶液に、炭酸カリウム0.08gを加えて10分間攪拌した。続いて、これに製造例1で得たカルボジイミド溶液2gを添加して攪拌し、全ての炭酸カリウムを溶解させた(溶液C)。
以下、実施例1における溶液B 4gに対し、上記溶液C 0.222gを添加した以外は、実施例1と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。
また、前記溶液Cを密閉容器に入れ、50℃の恒温器に設置した。一定時間ごとに取り出し、前記と同様にして溶液Bに添加し、塗膜を作製し、ラビング試験を実施した。50℃で放置してから3日経過後、及び7日経過後を比較した。
これらの結果を第1表に示す。
【0027】
比較例1
実施例1における溶液Aの調製において、炭酸ナトリウムを用いずにカルボジイミドのみの溶液(溶液A’)を調製した以外は、実施例1と同様にしてラビング試験を実施した。この結果を合わせて第1表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
第1表から分かるように、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを加えたことにより、カルボジイミドのみよりも強固な塗膜が形成された。
【0030】
実施例3
トリエチルアミン5.56mLを蒸留水約90mLに加えてよく攪拌したのち、さらに蒸留水を加えて全体を100mLにし、トリエチルアミン約0.55モル/L濃度の水溶液を調製した。
次に、塩基性炭酸亜鉛(和光純薬社製)11.3mgを、上記トリエチルアミン水溶液100mLに添加してよく攪拌した。完全に溶解すれば0.2ミリモル/L溶液になる計算だが、僅かに不溶部分が残ったので、デカンテーションして上澄を使用した。
製造例1で得たカルボジイミド水溶液0.165gに、上記塩基性炭酸亜鉛水溶液0.132mLを混合した(溶液D)。
以下、実施例1における溶液B 4gに対し、上記溶液Dを添加した以外は、実施例1と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。
また、前記溶液Dを密閉容器に入れ、50℃の恒温器に設置した。一定時間ごとに取り出し、前記と同様にして溶液Bに添加し、塗膜を作製し、ラビング試験を実施した。50℃で放置してから3日経過後、7日経過後及び14日経過後を比較した。
これらの結果を第2表に示す。
【0031】
比較例2
実施例3における溶液Dの調製において、塩基性炭酸亜鉛を用いずにカルボジイミドのみの溶液(溶液D’)を調製した以外は、実施例3と同様にしてラビング試験を実施した。この結果を合わせて第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
第2表から分かるように、塩基性炭酸亜鉛を加えたことにより、カルボジイミドのみよりも強固な塗膜が形成された。
【0034】
実施例4
実施例3と同様にして、溶液Dを溶液Bに添加し、PETフィルムにピッチ100μmのバーコーターで塗膜を形成した。この塗膜を室温(25℃)で放置し、一定の経過時間ごとに、実施例1と同様にラビング試験を行った。
その結果を第3表に示す。
【0035】
比較例3
実施例4において、溶液Dの代わりに、比較例2におけるカルボジイミドのみの溶液(溶液D’)を用いた以外は、実施例4と同様に実施した。
その結果を第3表に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
第3表から、塩基性炭酸亜鉛を加えることによって、より短時間で塗膜強度が高くなっていることが分かる。
【0038】
実施例5
アヴェシア社製水性ウレタン樹脂「NeoRez R−960」100gに大日精化工業社製「ダイピロキサイドブルー#3490(E)」1gを溶解した(溶液E)、あとで行うラビング試験で変化を観察しやすくするため)。炭酸ナトリウム66mgを蒸留水0.5mlに溶解した(溶液F)。
次いで、前記の溶液E 4gと、溶液F 0.05mLと、製造例1で得たカルボジイミド溶液0.165gを混合した。この場合、水性ウレタン樹脂とカルボジイミドと炭酸ナトリウムの固形分質量比は100:5:0.5になる。
この混合液をそのまま用いて、実施例1と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。その結果を第4表に示す。
【0039】
実施例6
炭酸カリウム66mgを蒸留水0.5mLに溶解した(溶液G)。実施例5における溶液E 4gと、前記溶液G 0.05mLと、製造例1で得たカルボジイミド溶液0.165gを混合した。この場合、水性ウレタン樹脂とカルボジイミドと炭酸カリウムの固形分質量比は100:5:0.5になる。
この混合液をそのまま用いて、実施例1と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。その結果を第4表に示す。
【0040】
比較例4
実施例5において、溶液Fの調製に炭酸ナトリウムを用いなかったこと以外は、実施例5と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。その結果を第4表に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
実施例7
塩基性炭酸亜鉛11.3mgをトリエチルアミン飽和水溶液100mLに添加してよく攪拌した。完全に溶解すれば0.2ミリモル/Lになるが、僅かに不溶分が残った。不溶分をデカンテーションして上澄を分離した(溶液H)。
次いで、実施例5における溶液E 4gと、前記溶液H 0.132mLと、製造例1で得たカルボジイミド溶液0.165gを混合した。この場合、水性ウレタン樹脂とカルボジイミドの固形分質量比は100:5になる。また、塩基性炭酸亜鉛溶液の添加量は、溶液E 4gに対して、約3.3質量%になる(比重1とした場合)。
この混合液をそのまま用いて、実施例1と同様にて塗膜を作製し、ラビング試験を行った。その結果を第5表に示す。
【0043】
比較例5
実施例7において、溶液Hの調製に塩基性炭酸亜鉛を用いなかったこと以外は、実施例7と同様にして塗膜を作製し、ラビング試験を行った。その結果を第5表に示す。
【0044】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の硬化塗膜の製造方法は、水性のウレタン系樹脂やアクリル系樹脂などの水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤としてある種の炭酸金属塩類を用いることにより、従来よりも短い処理時間で十分な強度を有する硬化塗膜を与えることができ、塗料、インキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤などの分野に適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋型水性樹脂を、水性ポリカルボジイミドで架橋して硬化塗膜を製造するに際し、架橋促進剤として、水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類を用いる硬化塗膜の製造方法。
【請求項2】
水、アンモニア水又は有機アミン水溶液に可溶な炭酸金属塩類が、炭酸アルカリ金属塩及び塩基性炭酸遷移金属塩の中から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項3】
炭酸アルカリ金属塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムである請求項2記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項4】
水性ポリカルボジイミドの固形分100質量部に対し、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムを2〜20質量部の割合で用いる請求項3記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項5】
塩基性炭酸遷移金属塩が塩基性炭酸亜鉛である請求項2記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項6】
水性ポリカルボジイミドの固形分100質量部に対し、塩基性炭酸亜鉛を0.002〜0.2質量部の割合で用いる請求項5記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項7】
水性ポリカルボジイミドが、末端に親水性基を有する水溶性又は水分散性ポリカルボジイミドである請求項1〜6のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項8】
架橋型水性樹脂が、架橋型水溶性もしくは水分散性のウレタン系樹脂又はアクリル系樹脂である請求項1〜7のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項9】
(A)水性ポリカルボジイミドを含む水溶液又は水分散液と、(B)炭酸金属塩類を含む水溶液又は炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液とを予め混合してなる液、及び(C)架橋型水性樹脂を含む水溶液又は水分散液を混合して塗工液を調製し、次いで基材上に塗工層を形成したのち、硬化させる請求項1〜8のいずれかに記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項10】
(B)成分において、炭酸金属塩類を含む水溶液が、炭酸アルカリ金属塩を含む水溶液であり、炭酸金属塩類とアンモニア及び/又は有機アミンを含む水溶液が、塩基性炭酸遷移金属塩と有機アミンを含む水溶液である請求項9記載の硬化塗膜の製造方法。







【公開番号】特開2006−16556(P2006−16556A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197644(P2004−197644)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】