説明

硬化性フルオロポリエーテル組成物及びそれを用いたゴム硬化物と有機樹脂との一体成型品

【課題】有機樹脂に対して短時間で良く接着し、金属製成形枠から容易に剥離する新規な硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物を提案する。
【解決手段】(A)アルケニル基含有ポリフルオロ化合物、(B)含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金族化合物、(D)疎水性シリカ粉末、(E)下記一般式(I)、(II)及び(III)から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む硬化性フルオロポリエーテル組成物。A−(D−B)x−D−A(I)、C−(B−D)x−B−C(II)、A−E(III)、(A、Bはケイ素原子に直結した水素原子を少なくとも一個有し、他にケイ素原子に結合した置換基がある場合、他の置換基が非置換の一価炭化水素基又はパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基であるシラン又はシロキサン結合を示し、B及びDは二価の基、C及びEは一価の基、xは0又は正数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機樹脂、特に熱可塑性樹脂に対して短時間の硬化条件で十分良く接着し、しかも自身は成形金型等の金属製ゴム成形枠から十分な実用性を持って剥離するフルオロポリエーテルゴムを与える新規な硬化性フルオロポリエーテル組成物、及びこの硬化性フルオロポリエーテル組成物を用いたゴム硬化物と有機樹脂との一体成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケニル基とヒドロシリル基との付加反応を利用した硬化性含フッ素エラストマー組成物は公知であり、更に第3成分として、ヒドロシリル基とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とを有するオルガノポリシロキサンを添加することにより自己接着性を付与した組成物も提案されている(特許第3239717号公報:特許文献1)。当該組成物は、短時間の加熱により硬化させることができ、得られる硬化物は、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れているので、これらの特性が要求される各種工業分野の接着用途に使用される。
【0003】
しかし、該組成物は、アルミやSUS、鉄といった金属や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等の汎用プラスチックには良好に接着するものの、PPS、PBT等のエンジニアリングプラスチックに対する接着性が不十分であり、これらの材料が使用される用途には適用できないという問題があった。
【0004】
一方、有機樹脂とフルオロポリエーテルゴムを一体化させる方法としては、フルオロポリエーテルゴムを有機樹脂に対して物理的な嵌合方法によって一体化する方法があるが、物理的な力により嵌合がはずれるというおそれがある。また、自己接着性を付与したフルオロポリエーテルゴムを成形樹脂に塗布して硬化させる方法は、金型等を用いて樹脂及びフルオロポリエーテルゴムとの一体化物を形成する場合には、フルオロポリエーテルゴム自身が金型に接着するという大きい難点がある。
【0005】
また、有機樹脂、特に熱可塑性樹脂に対して優れた接着性を有しながら、成形金型等の金属に対しては接着性を示さない特異な接着性シリコーンゴム組成物も開示されている(特許第3324166号公報:特許文献2)。
【0006】
近年、製造工程の合理化等を目的に、有機樹脂と含フッ素エラストマーとを短時間の硬化条件で一体成形するという需要が高まってきており、このため有機樹脂との接着に有効で、しかも成形金型等の金属製成形枠から十分な実用性をもって剥離するフルオロポリエーテルゴム組成物が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特許第3239717号公報
【特許文献2】特許第3324166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記要望に応えるためになされたもので、その目的は有機樹脂、特に熱可塑性樹脂に対して短時間の硬化条件で十分良く接着し、しかもフルオロポリエーテルゴム自身は成形金型等の金属製ゴム成形枠から十分な実用性を持って剥離する新規な硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びこれを用いた樹脂/ゴム一体成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記(a)〜(d)成分に(e)接着性付与成分として下記一般式(I),(II)及び(III)から選ばれる少なくとも一つの化合物を硬化性フルオロポリエーテル組成物に配合した場合、有機樹脂、特に熱可塑性樹脂に対して実用上十分な接着性を有しながら、金属に対しては接着し難いフルオロポリエーテルゴムが得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
即ち本発明は、下記硬化性フルオロポリエーテル組成物及びゴム成型品を提供する。
[I]下記(a)〜(e)成分を含むことを特徴とする硬化性フルオロポリエーテル組成物。
(a)一分子中に二個以上のアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物:100質量部
(b)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を二個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分が有するアルケニル基の合計1モルに対し(b)成分のSiH基を0.5〜5.0モルとする量
(c)白金族化合物:(a)及び(b)成分の合計量に対して0.1〜500ppm(白金族金属換算)
(d)疎水性シリカ粉末:5〜50質量部
(e)接着性付与成分として、下記一般式(I),(II)及び(III)から選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物:0.01〜30質量部
A−(D−B)x−D−A (I)
C−(B−D)x−B−C (II)
A−E (III)
[但し、A,Bはそれぞれケイ素原子に直結した水素原子を少なくとも一個有し、他にケイ素原子に結合した置換基がある場合、他の置換基が炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基であるシラン又はシロキサン結合を示し、Aは一価の基、Bは二価の基である。C,D,Eは下記式(1)〜(13)から選ばれる少なくとも一個の基を含み、他に基がある場合、該基はアルキル基及び/又はアルキレン基である結合を示し、C及びEは一価の基、Dは二価の基である。但し、EはE中の水素原子及びハロゲン原子以外の原子の合計数が8以上である一価の基である。xは0又は正数である。
【化1】

【化2】

(式中、R1〜R9は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又はアルコキシ基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、から選ばれる一価の基である。Xは、
【化3】

から選ばれる二価の基である。但し、R10及びR11は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、又はR10とR11とが結合して炭素環又は複素環を形成する基、nは2以上の整数を示す。)]
[II](a)成分のポリフルオロジアルケニル化合物が、分子鎖の両末端にアルケニル基を有する下記一般式(14)で示される[I]に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
CH2=CH−(Z)a−Rf−(Z’)a−CH=CH2 (14)
[式中、Rfは、下記一般式(i)又は(ii)で表される二価の基である。
【化4】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t[OCF2CF(CF3)]u(OCF2vOCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)
Zは、式:−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(式中、Yは、式:−CH2−又は式:
【化5】

で表される二価の基であり、Rは、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。)で表される二価の基であり、Z’は、式:−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(式中、Y’は、式:−CH2−又は式:
【化6】

で表される二価の基であり、Rは上記と同じである。)で表される二価の基であり、aは独立に0又は1である。]
[III](b)成分が一分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基のいずれかを有する[I]又は[II]に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
[IV]接着性付与成分(e)の接着対象有機樹脂上での接触角が70°以下のものである[I]〜[III]のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
「V」[I]〜「IV」のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物が硬化してなるゴム硬化物と有機樹脂との樹脂一体成型品よりなるゴム成型品。
[VI][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるフューエル・レギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラム等のダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブ等のバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクタ用O−リング等のO−リング類、あるいはオイルシール、シリンダヘッド用ガスケット等のシール材等の自動車用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
[VII][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、パッキン類、オイルシール、ガスケット等の化学プラント用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
[VIII][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるダイヤフラム、弁、O−リング、パッキン、ガスケット等のインクジェットプリンタ用ゴム部品、又は半導体製造ライン用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
[IX][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるポンプ用ダイヤフラム、O−リング、パッキン、バルブ、ジョイント等の分析又は理化学機器用樹脂一体ゴム成型品、又は医療機器用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
[X][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるテント膜材料、成形部品、押出部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、積層ゴム布、燃料電池用ガスケット、又はシール材からなる樹脂/ゴム一体成型品。
[XI][V]記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いる航空機用エンジンオイル、ジェット燃料、ハイドローリックオイル、スカイドロール等の流体配管用のOリング、フェースシール、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、バルブ等の航空機用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物は、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性等に優れた硬化物を与える上、比較的低温かつ短時間の加熱によって有機樹脂に対し優れた接着性を有しながら、金属に対しては接着し難く、金型を用いてフルオロポリエーテルゴムと有機樹脂との一体成型品を製造する場合等に有効である。このため、磁気ハードディスクドライブや光学ディスクドライブ、電子レンジ等の各種電気・電子部品の接着・シーリング用部材、建築用シーリング材、自動車用ゴム材料等に有用であり、特にポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に対して接着性に優れた含フッ素エラストマーを与えるので、これらを基材とするケース等の物品に対する接着用途に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳述すると、本発明は、下記(a)〜(e)を配合したことを特徴とする付加反応硬化型のフルオロポリエーテルを提供する。
(a)一分子中に二個以上のアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物:100質量部
(b)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を二個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分が有するアルケニル基の合計1モルに対し(b)成分のSiH基を0.5〜5.0モルとする量
(c)白金族化合物:(a)及び(b)成分の合計量に対して0.1〜500ppm(白金族金属換算)、
(d)疎水性シリカ粉末:5〜50質量部、
(e)接着性付与成分として、上記一般式(I),(II)及び(III)から選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物:0.01〜30質量部
【0012】
(a)ポリフルオロジアルケニル化合物
本発明の付加反応硬化型フルオロポリエーテルゴム組成物の主成分として、一分子中に二個以上のアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物が配合される。この本発明の(a)成分であるポリフルオロジアルケニル化合物は、分子鎖の両末端にアルケニル基を有するものであり、好ましくは下記一般式(14)
CH2=CH−(Z)a−Rf−(Z’)a−CH=CH2 (14)
式中、Zは、式:−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(式中、Yは、式:−CH2−又は式:
【0013】
【化7】

で表される二価の基であり、Rは、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。)で表される二価の基であり、Z’は、式:−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(式中、Y’は、式:−CH2−又は式:
【0014】
【化8】

で表される二価の基であり、Rは上記と同じである。)で表される二価の基であり、aは独立に0又は1である。
【0015】
ここで、上記Z又はZ’に係るRとしては、水素原子以外の場合、炭素数1〜12、特に1〜10のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等や、これらの基についた水素原子の一部又は全部をハロゲンで置換した置換一価炭化水素基等が挙げられる。
【0016】
Rfは、下記一般式(i)又は(ii)で表される二価の基である。:
【化9】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
【0017】
−Ct2t[OCF2CF(CF3)]u(OCF2vOCt2t−(ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)
【0018】
この場合、式(i)の例として、下記式(i’)のものを挙げることができる。
【化10】

(式中、w及びyは1以上の整数であって、かつ、w+yの和の平均は2〜200である。また、zは0〜6の整数である。)
【0019】
Rf基の具体例としては、例えば、下記の3つのものが挙げられる。好ましくは1番目の式に示す構造の二価の基である。
【0020】
【化11】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0021】
【化12】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0022】
【化13】

(式中、mは1〜200の整数、nは1〜50の整数である。)
【0023】
上記一般式(14)で表されるポリフルオロジアルケニル化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0024】
【化14】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0025】
(b)含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(a)成分に加えて、(b)成分である含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記(a)成分の架橋剤あるいは鎖長延長剤として加える。該シロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を2個以上有するフッ素変性有機ケイ素化合物である。また、(a)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、好ましくは一分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基を有し、かつ2個以上、好ましくは3個以上のヒドロシリル基を有するものである。
【0026】
このパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基、及びパーフルオロアルキレン基としては、特に下記一般式で示されるものを挙げることができる。
【0027】
<パーフルオロアルキル基>
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
<パーフルオロアルキレン基>
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
【0028】
<パーフルオロオキシアルキル基>
【化15】

(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100の整数であり、hは1〜3の整数である。)
【0029】
<パーフルオロオキシアルキレン基>
【化16】

(式中、i及びjは1以上の整数、i+jの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)
【0030】
−(CF2CF2O)k(CF2O)pCF2
(式中、k及びpは1以上の整数であり、k+pの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)
【0031】
また、これらパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基とケイ素原子とをつなぐ二価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基又はそれらの組み合わせ、あるいはこれらの基にエーテル結合、アミド結合、カルボニル結合等を介在させたものであってもよく、例えば、
−CH2CH2−,
−CH2CH2CH2−,
−CH2CH2CH2OCH2−,
−CH2CH2CH2−NH−CO−,
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−,
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−,
−CH2CH2CH2−O−CO−,及び
−Ph’−N(CH3)−CO−
等の炭素原子数2〜12のものが挙げられる。但し、Phはフェニル基、Ph’はフェニレン基である。
【0032】
また、この(b)成分の含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおける一価又は二価の含フッ素置換基、即ちパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基を含有する有機基以外のケイ素原子に結合した一価の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基及びこれらの基の水素原子の少なくとも一部が塩素原子、シアノ基等で置換された、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等の炭素数1〜20の非置換又は置換の炭化水素基が挙げられる。
【0033】
(b)成分の含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、環状、鎖状、三次元網状及びそれらの組み合わせのいずれでもよい。この含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子数は、特に制限されるものではないが、通常2〜60、好ましくは3〜30程度である。
【0034】
このようなフッ素含有基を有する(b)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。また、下記式において、Phはフェニル基を示す。
【0035】
【化17】

【0036】
【化18】

【0037】
【化19】

【0038】
【化20】

【0039】
【化21】

【0040】
【化22】

【0041】
上記(b)成分の配合量は、(a)成分を硬化する有効量であり、特に本組成物中の上記(a)成分が有するアルケニル基の合計の1モルに対し、(b)成分のSiH基を0.5〜5.0モル、好ましくは1.0〜2.0モル供給する量である。配合量が少なすぎると架橋度合いが不十分になる場合があり、多すぎると鎖長延長が優先し硬化が不十分であったり、発泡したり、耐熱性、圧縮永久歪特性等を悪化させたりする場合がある。
また、この架橋剤は均一な硬化物を得るために(a)成分と相溶するものを使用するのが望ましい。
【0042】
(c)白金族化合物
本発明の(c)成分である白金族化合物は、(a)成分中の不飽和炭化水素基と(b)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進する触媒である。この白金族金属触媒としては、入手が比較的容易である点から、白金化合物がよく用いられる。該白金化合物としては、例えば、塩化白金酸;塩化白金酸とエチレン等のオレフィン、アルコール、ビニルシロキサン等との錯体;シリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金等を挙げることができる。白金化合物以外の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等(なお、前記式中、Phはフェニル基である。)を例示することができる。
(c)成分の使用量は、触媒量でよいが、例えば(a)及び(b)成分の合計量に対して0.1〜500ppm(白金族金属換算)を配合することが好ましい。
【0043】
(d)疎水性シリカ粉末
また、本発明の(d)成分である疎水性シリカ粉末は、本発明の組成物から得られる硬化物に適切な物理的強度を付与する作用を有するものである。この(d)成分のシリカ粉末は、シリコーンゴム用充填剤として公知のBET比表面積が50m2/g以上である微粉シリカであることが好ましく、特にBET比表面積が50〜400m2/gであるものが好ましい。
【0044】
上記疎水性シリカ粉末は、フュームドシリカやコロイダルシリカ等にケイ素化合物等を用いて疎水化処理を施したものである。なお、疎水性シリカへのケイ素化合物の処理方法としては、公知の方法を使用することができ、ケイ素化合物の種類によって最適な方法を選択することができる。
【0045】
このケイ素化合物の例としては、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のオルガノクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン、トリメチルヒドロキシシラン、ジメチルヒドロキシシラン等のオルガノヒドロキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
また、(d)成分のシリカ粉末に表面処理剤として、含フッ素オルガノシラン又は含フッ素オルガノシロキサンを添加することができる。これらの化合物は、上記(a)成分のポリフルオロジアルケニル化合物に上記(d)成分のシリカ粉末を添加した混合物をニーダー等の混練装置中で加熱混練する際に添加し、この時必要に応じて少量の水を加えて加熱処理するとシリカ粉末の表面シラノールが処理される。加熱処理は100〜200℃の範囲で実施される。これによりシリカ粉末と他の成分との混和性が改良され、組成物の貯蔵時における「クレープ硬化」と呼ばれる現象を抑制することができると共に、組成物の流動性が向上する。
【0047】
この含フッ素オルガノシラン、含フッ素オルガノシロキサンは、一分子中に一個以上の一価のパーフルオロオキシアルキル基、一価のパーフルオロアルキル基、二価のパーフルオロオキシアルキレン基又は二価のパーフルオロアルキレン基を有し、かつケイ素原子に直結したヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6、特に1〜4のアルコキシ基)を1個以上有するオルガノシラン又はオルガノシロキサンであればよく、分子構造は特に限定されない。
【0048】
(d)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対し5〜50質量部が好ましく、更に好ましくは10〜30質量部の範囲である。配合量が5質量部未満の場合には得られる硬化物の物理的特性が低下し、かつ接着性が不安定となる場合がある。50質量部を超えると得られる組成物の流動性が悪くなり、作業性や成型性が低下してしまう上に、得られる硬化物の物理的強度も低下するおそれがあり好ましくない。
【0049】
(e)接着性付与成分
(e)成分は、下記一般式(I),(II),及び(III)から選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物である。
A−(D−B)x−D−A (I)
C−(B−D)x−B−C (II)
A−E (III)
[但し、A,Bはそれぞれケイ素原子に直結した水素原子を少なくとも一個有し、他にケイ素原子に結合した置換基がある場合、他の置換基が炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基であるシラン又はシロキサン結合を示し、Aは一価の基、Bは二価の基である。C,D,Eは後述する式(1)〜(13)から選ばれる少なくとも一個の基を含み、他に基がある場合、該基はアルキル基及び/又はアルキレン基である結合を示し、C及びEは一価の基、Dは二価の基である。但し、EはE中の水素原子及びハロゲン原子以外の原子の合計数が8以上である一価の基である。xは0又は正数である。
この(e)成分は本発明の本質をなす成分である。この化合物の最低必要な特性は、分子中に珪素原子に直結した水素原子(SiH基)を少なくとも1個含有し、しかも接着対象となる有機樹脂への親和性を向上させることである。接着対象物である有機樹脂とフルオロポリエーテルゴムそのものを結合させるという観点から言えば、珪素原子に直結した水素原子を2個以上有することが更に好ましい。しかしながら、有機樹脂との接着はこれだけでは達成できず、接着対象物とこの(e)成分には所謂相性が存在する。即ち、有機樹脂との反応性の観点から接触角が大きな影響を有している。従って、この(e)成分は接着対象となる有機樹脂によってその成分が変化する。接着対象となる有機樹脂は、通常炭素、酸素、窒素、硫黄の各原子で構成されている場合が多く、この有機樹脂との親和性を向上させるために、本発明における(e)成分はシラン又はシロキサン結合(上記A,Bの結合)以外に上記C,D,Eの結合を有することが不可欠である。
【0050】
更に言えば、(e)成分は、実際の接着条件下では溶融状態であることが好ましく、その状態で接着対象樹脂上での接触角が70°以下のものが本発明の目的を達成するためには好ましい化合物である。この接触角の測定は、通常フルオロポリエーテルゴムを硬化させる時の温度が最適とされるが、通常常温(25℃)での測定でよい。しかしながら、この(e)成分が常温で固体もしくはワックス状である場合には、溶融状態での接触角を測定する必要がある。
【0051】
このような本発明の(e)成分の概念を更に明確化するために、本発明者が意図する概念を以下に述べるが、このことによって本発明が限定されるものではない。即ち、本発明者らは、熱可塑性樹脂と接着させ得る要因、即ち硬化したフルオロポリエーテルゴムと熱可塑性樹脂との間に発生する凝集力の大きいファクターとしてヒドロシリル基(≡SiH)が有効であることを見出した。樹脂との間でヒドロシリル化反応を起こしているのか、あるいは加水分解によってシラノール(≡SiOH)を生じ、これが接着の二次凝集力として作用しているかは定かではないが、実際上≡SiH基は接着に大きく寄与している。もう一つの接着性の大きい要因は、熱可塑性樹脂との相互作用である。この(e)成分のある部分(C,D,Eの結合)が接着対象樹脂と非常に親和性のある分子部分を有することが、(e)成分全体を接着対象である熱可塑性樹脂との凝集力の発生する距離へと近づけているであろうと想定される。
【0052】
従って、本発明において、この(e)成分が付加反応硬化型フルオロポリエーテルゴム組成物に通常硬化剤として使用される含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンに一般的には含まれないのはこの理由による。即ち、この硬化剤として用いられる含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンは周知のように非常に表面張力の小さい化合物であり、従って、樹脂表面への接触角は70°より低いが、本発明の目的とする接着性は発現しない。このことはシロキサン結合以外に有機樹脂への親和性を持たせる基が必要なことを示している。即ち、本発明の(e)成分の構造中、ヒドロシリル基は樹脂との凝集力発現官能基として、またシロキサン結合以外のC,D,Eの結合が樹脂との凝集力発現領域まで(e)成分を近づける役割を担うと推定している。このためには、この部分の構造は、接着させる対象樹脂と構造の似通ったものがよく、上記接触角はその指標の一つである。
【0053】
ここで、単に樹脂に接着するという目的のためには、これまでに提案されている接着性付与成分の多くがこれに該当する。これらの化合物としては、一分子中に珪素原子に直結した水素原子とアルコキシシリル基、グリシジル基、酸無水物基の1種以上とを併有している化合物が一般的である。これらの化合物もある種の熱可塑樹脂の接着には有効である。更に、接着対象樹脂に不飽和基を変性あるいは添加混合することにより導入することによって、その接着信頼性は向上することが確認されたが、これらの接着性付与成分は本発明の主旨と異なり、金属に対しても十分な接着性を発現してしまうという難点がある。
【0054】
それ故、本発明における(e)成分として好適な化合物としては、金型に接着させないために、上記例示のような接着性官能基、例えばトリアルコキシシリル基やグリシジル基、酸無水物基等の基を有さない。
【0055】
従って、以上の点から、(e)成分は一分子中にSiH基を1個以上、より好ましくは2個以上有するA,Bの結合と、C,D,Eの結合を有する上記式(I),(II),(III)の化合物とする必要がある。
【0056】
この場合、A,Bは、上述した通り、それぞれケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)を少なくとも一個有し、他にケイ素原子に結合した置換基がある場合、他の置換基が炭素数1〜20のアルキル基等の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基であるシラン又はシロキサン結合を示し、Aは一価の基、Bは二価の基である。なお、パーフルオロアルキル基としては、
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
で示されるものが挙がられ、パーフルオロポリエーテル基としては、
【化23】

(式中、hは1〜6、iは0〜3であるが、3h+iが3〜20を満足する。)
で示されるものが挙げられ、これらを含む有機基としては、これらの基又はこれらの基に炭素数1〜3のアルキレン基が結合した基が挙げられる。
一方、C,D,E,は下記式(1)〜(13)から選ばれる少なくとも一個の基を含み、他に基がある場合、該基はアルキル基及び/又はアルキレン基である結合を示し、C及びEは一価の基、Dは二価の基である。但し、EはE中の水素原子及びハロゲン原子以外の原子の合計数が8以上、好ましくは8〜20である一価の基である。xは0又は正数であり、好ましくは0又は1〜10の整数である。)
【0057】
【化24】

【0058】
【化25】

【0059】
但し、式中R1〜R9は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基等の非置換の一価炭化水素基又はアルコキシ基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、から選ばれる一価の基である。Xは、
【0060】
【化26】

から選ばれる二価の基である。但し、R10及びR11は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基等の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、又はR10とR11とが結合して炭素環又は複素環を形成する基、nは2以上の整数、好ましくは2〜6の整数を示す。
なお、ここでのパーフルオロアルキル基、パーフルオロポリエーテル基としては、上で述べた、Cg2g+1−(gは1〜20、好ましくは2〜10の整数)、
【化27】

(hは1〜6、iは0〜3、3h+iは3〜20)で示されるものが挙げられ、これらを含む有機基としては、これらの基又はこれらの基に炭素数1〜3のアルキレン基が結合したものが挙げられる。
また、上記炭素環、複素環としては、下記のものが挙げられる。
【0061】
【化28】

【0062】
(e)成分の具体例としては、下記に示す化合物が例示される。
【0063】
【化29】

【0064】
【化30】

【0065】
【化31】

【0066】
【化32】

【0067】
【化33】

【0068】
【化34】

【0069】
【化35】

更に、下記のものを例示することができる。
【0070】
【化36】

【0071】
【化37】

【0072】
【化38】

【0073】
【化39】

更に、上記例示した化合物において、そのケイ素原子に結合したメチル基又は水素原子のうちの1個又は複数個が、上述した炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する1個の有機基で置換された化合物を挙げることができる。
【0074】
上記(e)成分の配合量は適宜選定されるが、アルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物((a)成分)100質量部に対し0.01〜30質量部、特に0.1〜5質量部とすることが好ましい。配合量が0.01質量部より少ないと接着対象樹脂への接着性が十分でなく、30質量部より多いとフルオロポリエーテルゴムの物理特性の劣化を生じたり、かえって金属にも接着してしまったりするという不都合が生じる場合がある。
【0075】
[その他の成分]
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物には、その実用性を高めるために種々の添加剤を必要に応じて添加することができる。
これら添加剤として具体的には、硬化性組成物の硬化速度を制御する目的で加えるCH2=CH(R)SiO単位(式中、Rは水素原子又は置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。)を含むポリシロキサン(特公昭48−10947号公報参照)及びアセチレン化合物(米国特許第3445420号公報及び特公平4−3774号公報参照)、更に、重金属のイオン性化合物(米国特許第3532649号公報参照)等を例示することができる。
【0076】
ヒドロシリル化反応触媒の制御剤として、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノール等のアセチレンアルコールや、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等、あるいはポリメチルビニルシロキサン環式化合物、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0077】
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物には、硬化時における熱収縮の減少、硬化して得られる弾性体の熱膨張率の低下、熱安定性、耐候性、耐薬品性、難燃性あるいは機械的強度を向上させたり、ガス透過率を下げたりする目的で充填剤を添加してもよい。
【0078】
この場合、無機質充填剤として、シリカ以外の例えば石英粉末、溶融石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化珪素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤、有機顔料や酸化防止剤等の有機化合物を添加することができる。更に、無官能のパーフルオロポリエーテルを可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤として添加することも可能である。なお、これらの添加剤の使用量は、本発明の効果を損なわない限り任意である。
【0079】
また、上記(e)成分以外の接着性を付与するための成分としてエポキシ基、アルコキシ基等を含有する、公知の接着性付与剤を添加することもできる。これらの配合成分の使用量は、得られる組成物の特性及び硬化物の物性を損なわない限りにおいて任意である。
【0080】
[硬化性フルオロポリエーテル組成物の製造方法]
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記の(a)〜(e)成分、及びその他の任意成分をロスミキサー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー、二本ロール等の混合装置により均一に混合する方法が挙げられる。
また、(a)成分と(b)成分との2組成物とし、使用時に混合するようにしてもよい。
得られた組成物を硬化させるには、(a)成分の官能基の種類、触媒の種類等により室温硬化も可能であるが、通常は組成物を60℃以上、好ましくは100〜200℃にて数分〜数時間程度の時間で硬化させることが好ましい。
【0081】
本発明の組成物は、有機樹脂、特に熱可塑性樹脂と接着してこれとの一体成形物を得るのに有効に用いられるが、ここで、接着対象物として用いられる熱可塑性樹脂としては、一般に用いられているABS樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、その他エンジニアリングプラスチックであるポリアリーレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0082】
なお、本発明の硬化性組成物を使用するに当たり、その用途、目的に応じて該組成物を適当なフッ素系溶剤(分子中にフッ素原子を含む溶剤)、例えばメタキシレンヘキサフロライド、アルキル(パーフルオロアルキル)エーテル等に所望の濃度に溶解して使用してもよい。
【0083】
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物を用いたゴム硬化物と有機樹脂との樹脂一体成型品よりなるゴム成型品の作成方法であるが、所望する成形品の形状に応じて適宜最適な方法を選択することができる。例えば、適当な金型内に上記した組成物を注入して硬化を行う、組成物を適当な基板上にコーティングした後に硬化を行う、あるいは貼り合わせ等により従来公知の方法により行われる。なかでも、射出成形による一体成形が生産性等の面で好適である。この場合、まず熱可塑性樹脂組成物を射出成形用金型のキャビティ内に一次射出し、次いでこの成形物上に上記硬化性フルオロポリエーテル組成物を二次射出し、上記熱可塑性樹脂の軟化点以上融点未満の温度でフルオロポリエーテル組成物を硬化すると同時に、熱可塑性樹脂成形物を接着、一体化するものである。この場合、金型の温度は、熱可塑性樹脂組成物の軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、通常は熱可塑性樹脂組成物の融点未満の温度であり、100〜200℃、特に100〜150℃の範囲が好適である。上記金型キャビティ部の温度が熱可塑性樹脂組成物の軟化点より低いと、短時間接着性が不十分になり、一体成形品が得られない。なお、100℃より低いと、複合成形体の硬化に時間がかかり、射出成形サイクルが長時間となり、200℃より高いと熱可塑性樹脂に熱変形がおこり、成形品の寸法精度が低くなる場合がある。
【0084】
このようにして得られたゴム硬化物は、JIS K6253による硬さ(JIS−A硬度)が10〜80であり、ガラス転移温度が−40℃以下のゴム材料である。
【0085】
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物は、上記した組成物を硬化させることにより、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、耐候性等に優れている上、特に酸性ガス低透過性に優れる硬化物を形成させることができ、各種の用途に使用することができる。
【0086】
本発明の硬化性フルオロポリエーテル組成物を用いたゴム硬化物と有機樹脂との樹脂一体成型品よりなるゴム成型品は、自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用、燃料電池用等の部材として、使用することができる。
【0087】
本発明のゴム成型品は、種々の用途に利用することができる。即ち、フューエル・レギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラム等のダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブ等のバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクタ用O−リング等のO−リング類、あるいはオイルシール、シリンダヘッド用ガスケット等のシール材等の自動車用ゴム部品;ポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、パッキン類、オイルシール、ガスケット等の化学プラント用ゴム部品;ポンプ用ダイヤフラム、O−リング、パッキン、バルブ、ガスケット等の発電所用ゴム部品;燃料電池用ガスケット、又はシール材;電気用防湿コーティング材;センサー用ポッティング材、;あるいはO−リング、フェースシール、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、バルブ等の航空機用ゴム部品等に有用である。
【実施例】
【0088】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の部はすべて質量部を示す。
【0089】
[実施例1]
下記式(15)で示されるポリマー(粘度5,600cSt)100部にAerosilR976(Aerosil社)9部を配合した。更に、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.2部、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金金属濃度0.5質量%)0.2部、下記式(16)で示される化合物3.4部、下記式(17)で示される化合物0.19部、下記式(18)で示される化合物0.72部を加え、混合して組成物を調製した。なお、下記式中、Meはメチル基である。
【0090】
【化40】

【0091】
【化41】

【0092】
次に、各種被着体の100mm×25mmのテストパネルをそれぞれの端部が10mmずつ重複するように厚さ1mmの上記で得た混合物の層をはさんで重ね合わせ、130℃で5分間加熱することにより該混合物を硬化させ接着試験片を作製した。次いで、これらの試料について引張剪断接着試験(引張速度50mm/分)を行い、接着強度及び凝集破壊率を調べたところ、表1に示すような結果が得られた。また、接着性付与成分(18)と表2に示した樹脂被着体との接触角を接触角計にて測定した。その測定値を表2に記載した。
【0093】
[実施例2]
実施例1の式(18)で示される化合物の代わりに下記式(19)で示される化合物0.48部を用いた他は、実施例1と同様の方法で組成物を調製し、接着試験を実施した。その結果を表1に示した。また、接着性付与成分(19)の樹脂被着体に対する接触角を測定した。結果を表2に記載した。
【0094】
【化42】

【0095】
[実施例3]
実施例1の式(18)で示される化合物の代わりに下記式(20)で示される化合物0.60部を用いた他は、実施例1と同様の方法で組成物を調製し、接着試験を実施した。その結果を表1に示した。また、接着性付与成分(20)の樹脂被着体に対する接触角を測定した。結果を表2に記載した。
【0096】
【化43】

【0097】
[比較例1]
実施例1の式(18)で示される化合物の代わりに下記式(21)で示される化合物1.0部を用いた他は、実施例1と同様の方法で組成物を調製し、接着試験を実施した。その結果を表1に示した。また、接着性付与成分(21)の樹脂被着体に対する接触角を測定した。結果を表2に記載した。
【0098】
【化44】

【0099】
[比較例2]
実施例1の式(18)で示される化合物の代わりに下記式(22)で示される化合物0.5部を用いた他は、実施例1と同様の方法で組成物を調製し、接着試験を実施した。その結果を表1に示した。また、接着性付与成分(22)の樹脂被着体に対する接触角を測定した。結果を表2に記載した。
【0100】
【化45】

【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
(表中の略号)
PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(ルミラーS10、東レ(株)社製)
PEN:ポリエチレンナフタレート樹脂(テオネックスQ51、帝人デュポンフィルム(株)社製)
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂(ジュラネックス3300、ポリプラスチック(株)社製)
PC:ポリカーボネート樹脂(ユーピロンH−4000、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)
PI:ポリイミド樹脂(オーラムPL−450C、三井化学(株)社製)
Cr:クロムメッキ鋼板
Ni:ニッケルメッキ鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)成分を含むことを特徴とする硬化性フルオロポリエーテル組成物。
(a)一分子中に二個以上のアルケニル基を有するポリフルオロジアルケニル化合物:100質量部
(b)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を二個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分が有するアルケニル基の合計1モルに対し(b)成分のSiH基を0.5〜5.0モルとする量
(c)白金族化合物:(a)及び(b)成分の合計量に対して0.1〜500ppm(白金族金属換算)
(d)疎水性シリカ粉末:5〜50質量部
(e)接着性付与成分として、下記一般式(I),(II)及び(III)から選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物:0.01〜30質量部
A−(D−B)x−D−A (I)
C−(B−D)x−B−C (II)
A−E (III)
[但し、A,Bはそれぞれケイ素原子に直結した水素原子を少なくとも一個有し、他にケイ素原子に結合した置換基がある場合、他の置換基が炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基であるシラン又はシロキサン結合を示し、Aは一価の基、Bは二価の基である。C,D,Eは下記式(1)〜(13)から選ばれる少なくとも一個の基を含み、他に基がある場合、該基はアルキル基及び/又はアルキレン基である結合を示し、C及びEは一価の基、Dは二価の基である。但し、EはE中の水素原子及びハロゲン原子以外の原子の合計数が8以上である一価の基である。xは0又は正数である。
【化1】

【化2】

(式中、R1〜R9は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又はアルコキシ基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、から選ばれる一価の基である。Xは、
【化3】

から選ばれる二価の基である。但し、R10及びR11は互いに同一又は異種の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の非置換の一価炭化水素基又は炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する一価の有機基、又はR10とR11とが結合して炭素環又は複素環を形成する基、nは2以上の整数を示す。)]
【請求項2】
(a)成分のポリフルオロジアルケニル化合物が、分子鎖の両末端にアルケニル基を有する下記一般式(14)で示される請求項1に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
CH2=CH−(Z)a−Rf−(Z’)a−CH=CH2 (14)
[式中、Rfは、下記一般式(i)又は(ii)で表される二価の基である。
【化4】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t[OCF2CF(CF3)]u(OCF2vOCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)
Zは、式:−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(式中、Yは、式:−CH2−又は式:
【化5】

で表される二価の基であり、Rは、水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。)で表される二価の基であり、Z’は、式:−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(式中、Y’は、式:−CH2−又は式:
【化6】

で表される二価の基であり、Rは上記と同じである。)で表される二価の基であり、aは独立に0又は1である。]
【請求項3】
(b)成分が一分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基のいずれかを有する請求項1又は2に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
【請求項4】
接着性付与成分(e)の接着対象有機樹脂上での接触角が70°以下のものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物が硬化してなるゴム硬化物と有機樹脂との樹脂一体成型品よりなるゴム成型品。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるフューエル・レギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラム等のダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブ等のバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクタ用O−リング等のO−リング類、あるいはオイルシール、シリンダヘッド用ガスケット等のシール材等の自動車用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【請求項7】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、パッキン類、オイルシール、ガスケット等の化学プラント用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【請求項8】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるダイヤフラム、弁、O−リング、パッキン、ガスケット等のインクジェットプリンタ用ゴム部品、又は半導体製造ライン用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【請求項9】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるポンプ用ダイヤフラム、O−リング、パッキン、バルブ、ジョイント等の分析又は理化学機器用樹脂一体ゴム成型品、又は医療機器用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【請求項10】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いるテント膜材料、成形部品、押出部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、積層ゴム布、燃料電池用ガスケット、又はシール材からなる樹脂/ゴム一体成型品。
【請求項11】
請求項5記載の樹脂一体成型品よりなるゴム成型品を用いる航空機用エンジンオイル、ジェット燃料、ハイドローリックオイル、スカイドロール等の流体配管用のOリング、フェースシール、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、バルブ等の航空機用樹脂一体ゴム成型品からなる樹脂/ゴム一体成型品。

【公開番号】特開2007−238928(P2007−238928A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27590(P2007−27590)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】