説明

硬化性接着剤組成物及び部材の加工方法

【課題】被着体を極めて強固に固定できる一方、容易に剥離することができる硬化性接着剤組成物、及び、該硬化性接着剤組成物を用いた部材の加工方法を提供する。
【解決手段】エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有する接着剤組成物であって、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paである硬化性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体を極めて強固に固定できる一方、容易に剥離することができる硬化性接着剤組成物、及び、該硬化性接着剤組成物を用いた部材の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材を加工する際に、取扱い性を高め、精密な加工を施せるように、部材を支持体に接着したうえで加工を施すことが行われている。
例えば半導体関連分野では、太陽電池等の電子部品に用いる薄板シリコンの製造にこのような加工方法が採用されている。即ち、薄板シリコンはシリコンインゴットを切断して製造されるが、この切断加工時において台座と呼ばれる支持体にシリコンインゴットを接着固定して行われる。具体的には、SUSやアルミニウム等の金属からなる本台座上に、ガラス等からなる仮台座を接着して固定し、該仮台座上にシリコンインゴットを接着して固定し、この状態でワイヤーソー等を用いてシリコンインゴットを薄板状に切断する。その後、仮台座とシリコンインゴットとを接着する接着剤を溶解したり、温水中で膨潤させる等のプロセスを経て薄板シリコンを回収している(例えば、特許文献1、2等)。
【0003】
しかしながら、従来の加工方法では薄板シリコンの回収にのみ工夫がなされ、薄板シリコンを回収した後に残される仮台座と本台座についてはほとんど研究の対象とされていない。仮台座を本台座から剥離するのが困難であることから、ハンマー等で仮台座を砕いているのが実情である(例えば、特許文献3)。しかしながらこの方法では、本台座の回収と再利用に多大な労力がかかってしまい、薄板シリコンの製造全体のコストアップ要因となってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−45297号公報
【特許文献2】特開平8−45881号公報
【特許文献3】特開平6−208978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願出願人は、これまでに、部材と支持体とを接着するための接着剤組成物として、エポキシ化合物等の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤とを含有する硬化性接着剤組成物を用いることを検討してきた。硬化性化合物を用いることにより、部材と支持体とを極めて強固に固定することができ、切断などの加工時に高い応力がかかった場合にでも、部材と支持体とが剥がれたり、ずれたりするのを防止して、高精度な加工を実施することができる。一方、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有することにより、剥離時に加熱すれば、気体発生剤から発生した気体が部材と支持体との界面に放出され、その剥離圧力により容易に部材と支持体とを剥離できることが期待された。
しかしながら、このような接着剤組成物で固定した部材と支持体とを加熱しても、実際には剥離できないことがあり、歩留まりが低いという問題があった。
本発明は、被着体を極めて強固に固定できる一方、容易に剥離することができる硬化性接着剤組成物、及び、該硬化性接着剤組成物を用いた部材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有する接着剤組成物であって、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paである硬化性接着剤組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、硬化性化合物と気体発生剤とを含有する硬化性接着剤組成物を用いて部材と支持体とを接着した場合に、設計通りに剥離できない原因を検討した。その結果、硬化性接着剤組成物の弾性率に問題があることを見出した。
部材を強固に支持体に固定するためには、エポキシ化合物等の硬化性化合物のなかでも硬化物の硬度が高いもの、即ち、部材に加工を施す温度(通常は25℃程度の常温)において硬化物の貯蔵弾性率の高い硬化性化合物を選択する必要がある。しかしながら、一般的に高硬度の硬化物は、加熱によっても軟化しにくく、このように極端に高貯蔵弾性率の硬化物中で気体発生剤から気体を発生させようとしても、気体はほとんど発生できないか、発生できたとしても接着界面にまで到達しにくく、充分な剥離圧力を得ることができない。
本発明者は、更に鋭意検討の結果、硬化性化合物と気体発生剤とを含有する硬化性接着剤組成物において、硬化物の25℃における貯蔵弾性率を5.0×10〜5.0×10Paと充分に高貯蔵弾性率とする一方、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paとなるようにすることにより、被着体を極めて強固に固定でき、かつ、加熱することにより容易に剥離することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の硬化性接着剤組成物は、硬化物の25℃における貯蔵弾性率の下限が5.0×10Pa、上限が5.0×10Paである。硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa未満であると、部材を支持体に強固に固定することができず、切断等の加工時に高い応力がかかった場合に、部材と支持体とが剥がれたり、ずれたりして、高精度な加工を実施することができない。硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10Paを超えると、実質的に200℃における貯蔵弾性率を所定の範囲とすることができなくなる。本発明の硬化性接着剤組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率の好ましい下限は、1.0×10Pa、好ましい上限は1.0×10Paである。
【0009】
本発明の硬化性接着剤組成物は、硬化物の200℃における貯蔵弾性率の下限が5.0×10Pa、上限が5.0×10Paである。硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa未満であると、加熱して気体発生剤から気体を発生したときに、硬化物が柔らかすぎて気体により発泡してしまい、接着界面に放出される気体量が少なくなり、充分な剥離圧力が得られない。硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10Paを超えると、硬化物が硬すぎて、加熱して気体発生剤から気体を発生させようとしても気体が発生しないか、発生しても接着界面にまでほとんど到達できず、充分な剥離圧力が得られない。本発明の硬化性接着剤組成物の硬化物の200℃における貯蔵弾性率の好ましい下限は、1.0×10Pa、好ましい上限は1.0×10Paである。
【0010】
なお、本明細書において硬化物とは、本発明の硬化性接着剤組成物が1液型かつ熱反応型の接着剤組成物である場合には、120℃で1時間以上静置して硬化させた硬化物を意味し、本発明の硬化性接着剤組成物が1液型かつ光反応型の接着剤組成物である場合には、酸素を遮断した状態で500mJ以上の紫外線を照射して硬化させた硬化物を意味し、本発明の硬化性接着剤組成物が2液型かつ熱反応型の接着剤組成物である場合には、2液を混合後に、120℃で2時間以上静置して硬化させた硬化物を意味し、本発明の硬化性接着剤組成物が2液型かつ光反応型の接着剤組成物である場合には、2液を混合後に、酸素を遮断した状態で500mJ以上の紫外線を照射して硬化させた硬化物を意味する。
【0011】
また、貯蔵弾性率E’とは、複素弾性率の実数部で、単位の正弦波の歪みを加えたときの同位相の応力成分の大きさをいう。複素弾性率とは、材料に定常的な正弦波の歪みを加えた時の粘性と弾性との組合わせの挙動(動的粘弾性)において、最大応力σと最大歪みεとの比でベクトルとして複素数演算したものを意味する。具体的には、本明細書において貯蔵弾性率とは、周波数10Hz、設定歪み0.5%、昇温速度3℃/minの条件で剪断方により測定した動的粘弾性測定により求められる値を意味する。
【0012】
本発明の硬化性接着剤組成物は、エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤とを含有する。
上記硬化性化合物を用いることにより、部材と支持体とを極めて強固に固定することができ、切断などの加工時に高い応力がかかった場合にでも、部材と支持体とが剥がれたり、ずれたりするのを防止して、高精度な加工を実施することができる。
【0013】
上記硬化性化合物は、硬化物の25℃における貯蔵弾性率を5.0×10〜5.0×10Paと充分に高貯蔵弾性率とすることができるものであれば特に限定されない。
上記エポキシ化合物は、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ化合物や、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ化合物や、レゾルシノール型エポキシ化合物、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物や、ナフタレン型エポキシ化合物や、フルオレン型エポキシ化合物や、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物や、ポリエーテル変性エポキシ化合物や、NBR変性エポキシ化合物や、CTBN変性エポキシ化合物や、これらの水添化物等が挙げられる。
【0014】
上記(メタ)アクリル化合物は、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等の重合性(メタ)アクリルモノマー、又は、これらの混合物が挙げられる。
【0015】
上記ウレタン化合物は、例えば、ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールからなるポリオール化合物や、ポリカーボネートポリオール化合物等が挙げられる。
上記ポリオール化合物を構成する塩基酸及びそのエステル化合物は、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸及びこれらのエステル化合物が挙げられる。
上記ポリオール化合物を構成する多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,9−ナノンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0016】
上記気体発生剤は、剥離時に加熱することにより気体を発生して、該気体が部材と支持体との界面に放出され、その剥離圧力により部材と支持体との少なくとも一部を剥離する役割を有する。
上記気体発生剤は特に限定されず、例えば、アジド化合物、アゾ化合物等が挙げられる。上記アゾ化合物は、例えば、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミジン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、アゾジカルボアミド等が挙げられる。なかでも、熱分解温度が高く、耐熱性に優れることから2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、アゾジカルボアミドが好適である。
【0017】
上記アジド化合物は、例えば、3−アジドメチル−3−メチルオキセタン、テレフタルアジド、p−tert−ブチルベンズアジドや、3−アジドメチル−3−メチルオキセタンを開環重合することにより得られるグリシジルアジドポリマー等のアジド基を有するポリマー等が挙げられる。
【0018】
上記気体発生剤は、例えば、1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、5,5−アゾビス−1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、1−メチル−5−メルカプト−1H−テトラゾール、1−メチル−5−エチル−1H−テトラゾール、1−(ジメチルアミノエチル)−5−メルカプト−1H−テトラゾール、1H−5ヒドロキシ−テトラゾール、1メチル−5エチルテトラゾール、1プロピル−5メチル−テトラゾール、1フェニル−5ヒドロキシ−テトラゾール、1フェニル−5メルカプト−テトラゾール等のテトラゾール化合物も用いることができる。
【0019】
本発明の硬化性接着剤組成物中の上記気体発生剤の配合量は特に限定されないが、上記硬化性化合物100重量部に対する好ましい下限は5重量部、好ましい上限は30重量部である。上記気体発生剤の配合量が5重量部未満であると、加熱しても充分な剥離圧力が得られないことがあり、30重量部を超えると、硬化性接着剤組成物の接着力が低下したり、硬化物の硬度が低下したりすることがある。上記気体発生剤の配合量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は20重量部である。
【0020】
本発明の硬化性接着剤組成物は、上記硬化性化合物の種類に応じて、硬化剤や重合開始剤を含有することが好ましい。
なお、本発明の硬化性接着剤組成物が硬化剤や重合開始剤を含有する場合には、上記硬化性化合物と硬化剤、重合開始剤とが一つの組成物中に含まれる形で保管する1液型でも、上記硬化性化合物と硬化剤、重合開始剤等を別々に保管し、使用する直前に混合して組成物を調製する2液型でもよい。なかでも、貯蔵安定性に優れることから、2液型が好適である。
【0021】
本発明の硬化性接着剤組成物が硬化性化合物としてエポキシ化合物を含有する場合には、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等の加熱硬化型酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、ジシアンジアミド等の潜在性硬化剤、カチオン系触媒型硬化剤等の硬化剤を含有することが好ましい。
本発明の硬化性接着剤組成物が硬化性化合物としてウレタン化合物を含有する場合には、イソシアネート化合物等の硬化剤を含有することが好ましい。
【0022】
本発明の硬化性接着剤組成物が硬化性化合物として(メタ)アクリル化合物を含有する場合には、熱重合開始剤、光重合開始剤を含有することが好ましい。
上記熱重合開始剤は、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類や、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシデカノエート等のパーオキシエステル類や、1,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類や、アセト酢酸エチルパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類や、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類が挙げられる。
【0023】
なお、上記熱重合開始剤は、ラジカル発生促進剤を併用することが好ましい。
上記ラジカル発生促進剤は、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−P−トルイジン、ジイソプロパノール−P−トルイジン、トリエチルアミン等の3級アミン類や、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン類や、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトフェノンオキシム等のオキシム化合物や、チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラエチルチウラムモノスルフィド等のチウラム化合物や、チオ尿素、エチレンチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、アセチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素類や、銅、コバルト、マンガン、バナジウム等の金属の有機酸塩又は無機酸塩及びアセチルアセトン等との有機キレート化合物や、アスコルビン酸、没食子酸等の還元性有機化合物や、メルカプタン類や、サッカリン及びその塩類等が挙げられる。
【0024】
上記光重合開始剤は、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物や、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物や、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0025】
本発明の硬化性接着剤組成物を、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであるように調整する方法は特に限定されないが、上記硬化性化合物を選択する方法や、添加剤を加えることにより調整する方法が挙げられる。
【0026】
上記硬化性化合物を選択することにより貯蔵弾性率を所期の範囲内に調整するためには、例えば、上記接着組成物のガラス転移温度が30〜170℃の範囲になるように硬化性化合物(モノマー)を選択して組み合わせて用いることが挙げられる。このような硬化性化合物を用いることで、貯蔵弾性率を所期の範囲内に調整することができる。
【0027】
上記接着剤組成物に用いるに適したエポキシ化合物は、硬化剤にもよるが、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ化合物や、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ化合物や、レゾルシノール型エポキシ化合物、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物や、ナフタレン型エポキシ化合物や、フルオレン型エポキシ化合物や、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物や、ポリエーテル変性エポキシ化合物や、NBR変性エポキシ化合物や、CTBN変性エポキシ化合物や、これらの水添化物等が挙げられる。
上記接着剤組成物に用いるに適したウレタン化合物は、硬化剤にもよるが、例えば、ポリカーボネートウレタン化合物等が挙げられる。
上記接着剤組成物に用いるに適したアクリル化合物は、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等の重合性(メタ)アクリルモノマー、又は、これらの混合物が挙げられる。
【0028】
上記添加剤を加えることにより貯蔵弾性率を所定の範囲内に調整するためには、例えば、タッキファイヤーや、ゴム微粒子、プラスチック微粒子等の添加剤を用いることが挙げられる。これらを配合することにより、硬化物の架橋網目の間に添加剤が入り込み、25℃では硬化物と同程度の貯蔵弾性率を有し、かつ、加熱によりこれら添加剤が軟化することにより硬化物全体の貯蔵弾性率を低下させることができる。
【0029】
上記タッキファイヤーは、例えば、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、不均化ロジン樹脂、不均化ロジンエステル樹脂、重合ロジン樹脂、重合ロジンエステル樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、C5及びC9系石油樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、スチレン系樹脂等や、これらの水素添加物等が挙げられる。
【0030】
上記ゴム微粒子は、例えば、NR(天然ゴム)、SBR(スチレン/ブタジエンゴム)、BR(ポリブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、IIR(ブチルゴム)、BIIR(臭素含有量が0.1wt%〜10wt%である臭素化イソブチレン/イソプレンコポリマー)、CIIR(塩素含有量が0.1wt%〜10wt%である塩素化イソブチレン/イソプレンコポリマー)、HNBR(水素化ニトリルゴム又は部分水素化ニトリルゴム)、SNBR(スチレン/ブタジエン/アクリロニトリルゴム)、CR(ポリクロロプレンENR:エポキシ化天然ゴム又はその混合物)、X−NBR(カルボキシル化ニトリルゴム)、X−SBR(カルボキシル化スチレン/ブタジエンコポリマー)等が挙げられる。
【0031】
上記プラスチック微粒子は、例えば、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、ポリスチレン、フェノール樹脂なからなる有機系中空充填材や、ポリメタクリル酸メチルビーズ、ポリスチレンビーズ、ナイロンビーズ、スチレンアクリルビーズ、ウレタンビーズ、シリコンビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、エチレン−酢酸ビニル共重合体のビーズ、ポリアクリル酸エチルのビーズ等の有機系充填材等が挙げられる。
【0032】
本発明の硬化性接着剤組成物は、被着体を極めて強固に固定できる一方、加熱することにより容易に剥離することができる。従って、部材を加工する際に、取扱い性を高め、精密な加工を施せるように、部材を支持体に接着するための接着剤として好適である。
部材と、該部材を支持するための支持体とを硬化性接着剤組成物を用いて貼りあわせる貼り合せ工程と、上記硬化性接着剤組成物を硬化させて、上記部材と上記支持体とを固定する固定工程と、上記支持体に固定した状態で上記部材に機械的加工を施す加工工程と、加熱して上記支持体を上記部材から剥離する剥離工程とを有する加工方法であって、上記硬化性接着剤組成物は、エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有し、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paである部材の加工方法もまた、本発明の1つである。
【0033】
本発明の部材の加工方法を適用できる部材と支持体は特に限定されない。
例えば半導体関連分野では、太陽電池等の電子部品に用いる薄板シリコンの製造に、本発明の加工方法は好適である。
本発明の加工方法により薄板シリコンの製造を行う場合、シリコンインゴッドと仮台座との固定でも、シリコンインゴット−仮台座固定物と本台座との固定にでも、本発明の硬化性接着剤組成物を用いることができる。前者では、シリコンインゴッドが部材、仮台座が支持体となり、後者では、シリコンインゴット−仮台座固定物が部材、本台座が支持体となる。特に、本接着剤はガス発生機能を有しているため、大面積で貼合わされた部材同士を剥離する用途に適しているため、本台座と仮台座との固定に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、被着体を極めて強固に固定できる一方、容易に剥離することができる硬化性接着剤組成物、及び、該硬化性接着剤組成物を用いた部材の加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
(1)接着剤の調整
(実施例1)
液状エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)60重量部、固形エポキシ樹脂(エピコート1003、ジャパンエポキシレジン社製)30重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学社製)10重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に、硬化剤としてST11(ジャパンエポキシレジン社製)15重量部を貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は1.2×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は2.0×10Paであった。貯蔵弾性率の測定には、アイティー社製、DVA−200を用い、周波数10Hz、設定歪み0.5%、昇温速度3℃/minの条件で剪断方により測定した動的粘弾性測定を行った。
【0037】
(実施例2)
液状アクリル樹脂(IRR−214、ダイセルサイテック社製)40重量部、液状アクリル樹脂(FA−512A、日立化成社製)40重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学製)20重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とラジカル発生剤(イルガキュア651、チバジャパン社製)0.5重量部とを加え、攪拌して接着剤を調製した。
得られた接着剤を離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み、フィルム越しに紫外線500mJを照射し、接着剤硬化物を得た。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は7.0×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は9.0×10Paであった。
【0038】
(実施例3)
液状ポリオール樹脂(デュラノールT5652、旭化成ケミカルズ社製)80重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学製)20重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に硬化剤として液状多官能イソシアネ−ト(コロネートL、日本ポリウレタン社製)40重量部を、貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は4.0×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は7.0×10Paであった。
【0039】
(比較例1)
固形エポキシ樹脂(エピコート1003、ジャパンエポキシレジン社製)80重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学社製)10重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に、硬化剤としてST11(ジャパンエポキシレジン社製)14重量部を貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は9.0×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は6.0×10Paであった。
【0040】
(比較例2)
液状エポキシ樹脂(EPICLON EXA−4816、DIC社製)80重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学社製)20重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に、硬化剤としてST11(ジャパンエポキシレジン社製)12重量部を貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は2.0×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は6.0×10Paであった。
【0041】
(比較例3)
液状エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)60重量部、固形エポキシ樹脂(エピコート1003、ジャパンエポキシレジン社製)30重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に、硬化剤としてST11(ジャパンエポキシレジン社製)15重量部を貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は1.5×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は1.0×10Paであった。
【0042】
(比較例4)
液状エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)60重量部、固形エポキシ樹脂(エピコート1003、ジャパンエポキシレジン社製)30重量部、タッキファイヤー(スーパーエステルA−125、荒川化学社製)40重量部に、気体発生剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)10重量部と2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロパンアミド)10重量部とを加え、攪拌して主剤を調製した。
得られた主剤に、硬化剤としてST11(ジャパンエポキシレジン社製)15重量部を貼り合わせ直前に加えて混合したものを接着剤とした。なお、この接着剤の硬化物の25℃での貯蔵弾性率は6.0×10Pa、200℃での貯蔵弾性率は1.0×10Paであった。
【0043】
(評価)
実施例および比較例にて得られた硬化性接着剤組成物について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0044】
アルミニウム製の本台座(300mm×300mm×50mm厚)に実施例、比較例で得られた硬化性接着剤組成物をプラスチック製のヘラで均一に薄く塗り、ガラス製の仮台座(200mm×200mm×10mm厚)を貼り合わせ硬化させた。次いで、仮台座の上にシリコンインゴット−仮台座接着用接着剤をヘラで均一に薄く塗り、接着剤を硬化させた。硬化条件に関しては実施例1、3と比較例1、2、3、4とに関しては120℃にて1時間硬化させた。実施例2に関しては、50mW/cmの強度で10秒間紫外線照射し硬化させた。
得られた積層物をシリコン側よりマルチワイヤーソーにより、切断後の薄板シリコンの厚みが200μmになるように切断して100分割した。その後、60℃に加熱した温水に10分間浸漬し、仮台座と薄板シリコンウェハとを分離し、薄板シリコンを回収した。
一方、分離された本台座/仮台座の積層物を、200℃、10分間加熱することにより、気体発生剤から気体を発生させるとともに接着剤層を軟化させ、仮台座と本台座とを剥離した。
【0045】
回収された薄板シリコンを目視にて確認し、割れ・カケ・表面キズが観測されなかった場合を合格とした場合の、合格した薄板シリコンの枚数を計数して切削性を評価した。
一方、200℃、10分間加熱した後に、仮台座と本台座とを手で剥離できた場合を「○」、手では剥離できなかった場合を「×」として剥離性を評価した。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、被着体を極めて強固に固定できる一方、容易に剥離することができる硬化性接着剤組成物、及び、該硬化性接着剤組成物を用いた部材の加工方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有する接着剤組成物であって、
硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paである
ことを特徴とする硬化性接着剤組成物。
【請求項2】
部材と、該部材を支持するための支持体とを硬化性接着剤組成物を用いて貼りあわせる貼り合せ工程と、
前記硬化性接着剤組成物を硬化させて、前記部材と前記支持体とを固定する固定工程と、
前記支持体に固定した状態で前記部材に機械的加工を施す加工工程と、
加熱して前記支持体を前記部材から剥離する剥離工程とを有する加工方法であって、
前記硬化性接着剤組成物は、エポキシ化合物、ウレタン化合物及び(メタ)アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物と、加熱により気体を発生する気体発生剤を含有し、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paであり、かつ、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が5.0×10〜5.0×10Paである
ことを特徴とする部材の加工方法。


【公開番号】特開2012−62368(P2012−62368A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206124(P2010−206124)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】