説明

硬化性組成物、アクリロイル基含有硬化性オリゴマー、及びアクリロイル基含有オリゴマーの製造方法

【課題】 優れた表面硬化性と保存安定性とを兼備した、アクリロイル基含有オリゴマーと光開始剤とを含有する硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 多官能アクリロイル化合物と、重量平均分子量(Mw)が800〜5,000の多官能脂肪族メルカプタン化合物との付加反応によって得られたチオエーテル構造を分子構造中に有するアクリロイル基含有硬化性オリゴマー、及び、光重合開始剤とを必須成分とする紫外線硬化型塗料に適した硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線硬化塗料に使用可能な硬化性組成物とアクリロイル基含有硬化性オリゴマー、およびアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造工程に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性アクリル酸エステル類、特に光照射による硬化が可能なアクリル酸エステル類は塗料用途において広く使用されている。これらは無溶媒で使用可能なため環境負荷が低く、近年、その使用量が増加している。さらに、紫外光等による硬化システムは熱硬化型樹脂類に比べて生産性が高いという利点もある。
【0003】
通常、アクリレートを用いる紫外線硬化システムは、重合開始種とラジカルを生成する光開始剤とを含有しており、このラジカルがアクリレートモノマーのアクリル性の二重結合と反応することにより重合を開始する。
【0004】
しかしながら、ほとんどあらゆる場所に存在する酸素はそれ自身がビラジカルであり、形成された光開始剤ラジカル、モノマーラジカル、または成長中の高分子鎖上のラジカルと反応可能である。よって、硬化時に酸素が存在する場合、重合反応工程は阻害されるか停止してしまう、所謂、酸素阻害の問題を引き起こすことになる。このような現象は塗料用材料自身が溶解している状態に比べて、より多く酸素が存在する塗膜表面において顕著なものとなり、塗膜全体が十分に硬化処理されているにもかかわらず、硬化後の塗膜表面が濡れまたはべとつきを示すことになる。
【0005】
前記「酸素阻害」の問題を解決する為の工業的生産プロセスとしては、例えば、光照射硬化用電球を多く使用する、光開始剤の増量する、酸素が存在しない不活性雰囲気下での硬化させる、等の方法が挙げられる。然し乍ら、これらの方法は高コストで経済的でないだけでなく、塗工システムが酸素の影響を受けやすいという問題が残存しているため、実際にその材料自体が有する問題点を解決するものでなかった。
【0006】
一方、「酸素阻害」の別の方法としては、不飽和化合物と多官能チオールとを含有する光照射硬化型組成物とする方法が知られている(下記、非特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、このような硬化性組成物は一般的に保存安定性が悪く、一液型硬化性組成物として保管または配送することができないものであった。
【0008】
【非特許文献1】ジャーナルオブポリマーサイエンス、パートA、ポリマーケミストリー42巻(ページ5301〜5338(2004年))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、優れた表面硬化性と保存安定性とを兼備した、アクリロイル基含有オリゴマーと光開始剤とを含有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、多官能アクリロイル化合物と多官能脂肪族メルカプタン化合物とを付加反応させて得られたアクリロイル基含有オリゴマーが、優れた表面硬化性と保存安定性とを発現することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との付加反応によって得られたアクリロイル基を含有する硬化性オリゴマー(a)と光開始剤(b)とを含有する硬化性組成物に関する。
【0012】
本発明は、更に、
下記式(1)
【0013】
【化1】


(式(1)中、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表し、
、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、
nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数)
で表される多官能アクリロイル化合物(i)と、
下記式(2)
【0014】
【化2】


(式(2)中Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数、またもしsが1であればrは1または2)
で示され、重量平均分子量(Mw)が800〜5,000の多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との付加反応で得られた化学構造を有することを特徴とするアクリロイル基含有硬化性オリゴマーに関する。
【0015】
本発明は、更に、多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との反応を有することを特徴とするアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば非常に優れた表面硬化性と保存安定性とを具備した、光硬化性組成物を提供することができる。
【0017】
さらに本発明の光照射硬化型組成物及び光照射硬化型オリゴマーは、光開始剤の添加量が非常に少量であっても硬化可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の硬化性組成物は多官能アクリレートと多官能チオールとの反応によって調製された硬化性オリゴマーの化学構造中にチオエーテル基を有することを特徴とし、これによって本発明の組成物は酸素阻害の問題を解決でき、更に保存安定性を著しく改良できるものである。更に本発明の硬化性組成物は光開始剤の使用量が非常に低い場合においても硬化させることができ、硬化して耐溶剤性の塗料及び組成物を提供できる。
【0019】
本発明で用いる多官能アクリロイル化合物(i)は、具体的には、下記式(1)
式(1)
【0020】
【化3】

(式(1)中、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表し、
、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、
nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数)
で表されるものが挙げられる。
【0021】
ここで、前記「脂肪族炭化水素基」は、具体的には、1〜36個の炭素原子からなる直鎖もしくは分岐した炭化水素鎖であり、前記「脂肪族環状炭化水素基」は3〜36個の炭素原子からなる脂肪族環状構造である。
【0022】
また、前記「芳香族構造を有する炭化水素基」は、(4n+2)個のパイ電子を含有する芳香族炭化水素から誘導される芳香族構造を有するものである。
【0023】
前記「複素環状脂肪族炭化水素基」は炭素原子数3〜36の環状炭化水素基であり、前記「窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基」は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子によって一個以上の炭素原子を置換された炭素原子数3〜36の環状炭化水素基である。
【0024】
式(1)で表される多官能アクリレートの中でも、特に、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、または前記物質の混合物が好ましい。
【0025】
次に、多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)は、具体的には、下記式(2)
【0026】
【化4】


(式(2)中Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数、またもしsが1であればrは1または2)で代表される多官チオール化合物が挙げられる。
【0027】
式(2)で表される多官能脂肪族メルカプタン化合物の中でも、特に、エタンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、ドデカンジチオール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、エチレングリコール−ジ(3−メルカプトプロピオネート)、ポリエチレングリコール−ジ(2−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコール−ジ(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、エトキシ化トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、エトキシ化トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、エトキシ化ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(2−メルカプトアセテート)、エトキシ化ペンタエリスリトール−テトラキス(2−メルカプトアセテート)、または前記物質の混合物が好ましい。
【0028】
上記のごとく、本発明において用いる硬化性オリゴマーは、多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との反応によって得ることができる。その反応は以下の工程によって実施し、すなわち、多官能アクリロイル化合物と多官能脂肪族メルカプタン化合物とを混合し、0℃〜150℃、好ましくは25℃〜80℃の温度条件下で攪拌する。任意に塩基性触媒を使用することによって反応を加速することができる。好ましい触媒として、トリメチルアミン、ジエタノールアミン、ヘキシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサンジアミン、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、ピペリジン、2−ヒドロキシピリジン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルグアニジン、あるいは以下の例に示す無機塩基類、すなわち炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、以下の例に示すアルコール、フェノールの有機金属塩、すなわちナトリウムメチラート、カリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムエチラート、マグネシウムエタノラート、ナトリウム−t−ブチラート、カリウム−t−ブチラート、ナトリウムフェノラート、カリウムフェノラートを挙げることができる。
【0029】
これらの中でも、特に、ジエタノールアミン、ジブチルアミン、ジフェニルアミン、ジヘキシルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、ビス(2−エチルヘキシルアミン)、N,N−ジエチレンジアミン、N,N−ジイソプロピレンジアミン等の二級アミンが好ましい。これらのアミン類は本発明のオリゴマーの形成中にアクリロイル基とも反応する。それゆえに前記触媒はマイケル付加反応によりオリゴマーに化学的に固定され、遊離の触媒を含まない硬化性生成物を提供する。これは触媒等の抽出される可能性がある化合物の含有が許されない食品容器等の硬化性オリゴマーとして非常に有用である。触媒の量は反応混合物の全重量に対して0.1〜5.0質量%であり、好ましくは0.1〜5.0質量%である。
【0030】
多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との反応比率は、目的生成物の粘度と分子量に依存して任意に選択することができるが、多官能アクリロイル化合物(i)は過剰量用いることが重要である。具体的には、多官能アクリロイル化合物(i)中のアクリロイル基に対する多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)のチオール基の当量比が、アクリロイル基:チオール基=1.05:1〜10:1の範囲であることが好ましい。さらに、多官能アクリロイル化合物(i)中のアクリロイル基当量の、多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)のチオール基当量に対する過剰量は、一般的に、多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)の両者の官能基数が多いほど、ゲル化防止のためにアクリロイル基当量の過剰率は高くする必要がある。但し、二官能アクリレートと二官能チオールとの反応のような特殊な例においては、ゲル化は起きない為アクリロイル基当量の過剰比率は重要ではない。
【0031】
反応中に上昇していた粘度が安定化すると反応は終点に達する。その際、チオール基が完全に消費され粘度上昇及び分子量の増加が停止する。チオール基の含有量はIRスペクトルまたはチオール基の滴定のどちらかの方法によって確認することができる。
【0032】
このように、得られた硬化性オリゴマーは、無色あるいは淡黄色の液状またはペースト状物質で、重量平均分子量(Mw)は400〜30,000の範囲内、好ましくは800〜5,000で一般的なほとんどの溶媒に溶解する。さらに、25℃でコーン−プレート式粘度計を用い、塗工性の観点から剪断速度12501/sの条件で測定した前記オリゴマーの、好ましい粘度範囲は5,000〜60,000mPasを挙げることができる。
【0033】
さらに、本発明においてアクリロイル基を含有する硬化性オリゴマーはいわゆる硬化性組成物としての表面硬化特性や、硬化生成物としての耐溶剤性の観点から、4〜20の範囲のアクリロイル基の官能基数を持つことが好ましい。
【0034】
オリゴマーの具体的な化学構造は多官能アクリロイル化合物(i)と、多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)とから誘導される構造の全てを含むものである。
【0035】
しかしながら、例えばオリゴマーとして低分子量オリゴマーを使用する場合には、以下の構造式によって代表される化学構造を有することが好ましい。
【0036】
【化5】

ここで前記構造式において、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表す。
また、Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数、rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数を表す。但し、sが1の場合はrは1または2である。
【0037】
例えば、5分子のトリメチロールプロパントリアクリレートと、2分子のトリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)との反応で得られたオリゴマーの構造は下記構造式で表すことができる。
【0038】
【化6】



次に、4分子のエトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートと1分子のペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)との反応で得られたオリゴマーの構造は下記構造式で表すことができる。
【0039】
【化7】



本発明の硬化性組成物は上述の樹脂単独、あるいは他の光硬化性モノマー又は光硬化性樹脂等との組み合わせであっても良い。
【0040】
光硬化性モノマーの例として、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートが挙げられる。
【0041】
他の光硬化性樹脂の例として、アクリル化エポキシ樹脂、アクリル化ポリウレタン、アクリル化ポリエステルが挙げられる。
【0042】
本発明では、アクリロイル基含有オリゴマーは硬化性組成物単独だけでなく、光開始剤を含有するものであっても格別優れた保存安定性を示す。
【0043】
次に、本発明で使用される前記光開始剤は、特に限定されるものではなく、現行の技術水準の製品
または市場で購入可能な一般的な光開始剤であればよい。
【0044】
従って、好ましい光開始剤として例えば、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、4,4’ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,2’ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジメトキシアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4(メトキシチオ)−フェニル]−2−モルフォリノプロパン−2−オン、ジフェニルアシルフェニルホスフィンオキシド、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4ジメチルチオキサントン等の、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、ジアルコキシアセトフェノン類、ヒドロキシアクリルアセトフェノン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類を挙げることができる。
【0045】
光開始剤の添加量は、0.5〜12質量%の範囲であり、特に2〜7質量%の範囲であることが好ましい。
【0046】
本発明の硬化性組成物は本発明のオリゴマーに光開始剤を溶解させて調製することができる。この際、必要ならば前記硬化性組成物は望ましい塗工粘度に到達するまで、一般的なアクリレートオリゴマー類、光硬化性モノマー類、光硬化性樹脂を更に加えて希釈してもよい。
【0047】
また、本発明のアクリロイル基含有硬化性オリゴマーは、紫外線のみならず、電子線を用いても硬化させることができる。
【0048】
電子線硬化に関しては、本発明の化合物はその反応性が高いため低エネルギー量で硬化させることが可能で、100KeVの低エネルギーの電子線量で優れた硬化結果を提供できる。電子線硬化法が広く使用されている容器産業界におけるエネルギー硬化型製品にとって、高エネルギー電子線を使用すると予期しない副反応が起こり、容器材料中に不純物を形成する可能性がある為、本発明では紫外線照射による架橋硬化法が好ましい。
【0049】
本発明のアクリロイル基含有硬化性オリゴマーは、表面硬化性だけでなく、塊状物の内部硬化性にも優れるという特徴があり、従来の標準的な塗装システムに比べ優れた硬化性を示す。
【0050】
本発明の硬化性組成物の紫外線硬化法による硬化物は、高硬度で透明性も優れたものとなる。従って、コーティング材、又は、塗料や印刷インキのバインダーとして有用である。更に、本発明の硬化性組成物は、チオエーテル類を併用することによって、硬化物に高屈折率又は可とう性を付与することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例において更に詳述するが、本発明は、これらの実施例中に記載された特定の物質や使用量、他の条件や詳細な記述に限定されるものでない。
【0052】
実施例1
温度計、メカニカルスターラー、コンデンサー、滴下ロートを備えた500ccの四つ首フラスコに、300.0g(0.70mol)のエトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)のトリアクリレートと3.0gのジエタノールアミンを投入した。その混合物を40℃まで加熱し56.0g(0.115mol)のペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)を43ml/時の滴下速度で滴下した。チオールの添加後60℃まで昇温し12時間保持した。ガードナーカラー:1、25℃での粘度:9800mPas(コーン−プレート式粘度計使用、剪断速度1250 1/s)の樹脂が得られた。
収量:352.6g
【0053】
実施例2
温度計、メカニカルスターラー、コンデンサー、滴下ロートを備えた500ccの四つ首フラスコに、140.0g(0.32mol)のエトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)と1.5gのジエタノールアミンを投入した。その混合物を40℃まで加熱し28.0g(0.057mol)のペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)を30ml/時の滴下速度で滴下した。チオールの添加後60℃まで昇温し12時間保持した。ガードナーカラー:1〜2、25℃での粘度:16500mPas(コーン−プレート式粘度計使用、剪断速度1250 1/s)の樹脂が得られた。
収量:167.2g
【0054】
実施例3
温度計、ガス導入チューブ、メカニカルスターラー、滴下ロートを備えた250ccの四つ首フラスコに、118.3g(0.40mol)のトリメチロールプロパントリアクリレートと1.5gのジエタノールアミンを投入した。その混合物を空気でパージし、40℃まで加熱し38.9g(0.10mol)のトリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)を60ml/時の滴下速度で滴下した。滴下中、発熱反応が進行し80℃まで上昇した。発熱反応が収まった後60℃で12時間保持した。ガードナーカラー:2、25℃での粘度:47000mPas(コーン−プレート式粘度計使用、剪断速度1250 1/s)の樹脂が得られた。
収量:158.8g
【0055】
実施例4及び比較例1,2<保存安定性試験>
表1に示す条件で保存安定性試験を実施した。
【0056】
【表1】

ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート:アルドリッチ社製
「ダロキュア1173」:チバスペシャリティーケミカル社製光重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)
【0057】
チオール類とアクリレート化合物を用いた一般的な硬化性組成物と比較して、本発明のオリゴマー類と硬化性組成物は60℃で加速化した保存安定性試験ではるかに優れた保存安定性を示した。
【0058】
市場で購入可能な多官能アクリレートとの比較(比較例1)においてさえも、実施例4の硬化性組成物は粘度上昇が少なく、それゆえ、より優れた保存安定性を示すものである。
【0059】
実施例5、比較例3<表面硬化性試験>
表2に示す条件で表面硬化性試験を実施した。
【0060】
【表2】


タックフリーな表面であるか否かの判定は、サム−ツイストテストにより指紋が残らない点とした。
実施例1のオリゴマーを含有する塗料:実施例1で得られたオリゴマーを、エトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)に50質量%で溶解したもの。
標準アクリレート塗料組成物:30質量%のエトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)トリアクリレート、35質量%ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、及び35質量%トリプロピレングリコールジアクリレートとからなる標準塗料。
「ダロキュア1173」:チバスペシャリティーケミカル社製光重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)
【0061】
表2において、本発明の組成と紫外線硬化の技術分野において広く使用されている標準の塗料組成との比較を示した。表2は標準の塗装(比較例3)と比較して光開始剤をより少量添加しても、実施例5ではオリゴマー類及び硬化性組成物の表面が完全に硬化できるこが分かる。
【0062】
実施例6、比較例4<耐溶剤性試験>
表3に示す条件で耐溶剤性試験を実施した。
【0063】
【表3】

MEKラビング試験:メチルエチルケトン(MEK)を含浸した綿布を使用して繰り返しラビング(2回)で硬化塗膜の耐溶剤性の測定を行った。
実施例1で調整した樹脂:実施例1で得られたオリゴマーを、エトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)に50質量%で溶解したもの。
標準アクリレート塗料組成物:30質量%のエトキシ化トリメチロールプロパン(EO/OHの当量比=1)トリアクリレート、35質量%ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、及び35質量%トリプロピレングリコールジアクリレートとからなる標準塗料。
「ダロキュア1173」:チバスペシャリティーケミカル社製光重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)
表3は、標準の塗装システムと比較した本発明の架橋程度を示した。硬化の程度はメチルエチルケトン(MEK)に対する耐溶剤性試験により評価した。
【0064】
表3の測定結果により、同量の光開始剤を用いても架橋された本発明の組成物の架橋の程度は標準塗料組成と比較して高いこと分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との付加反応によって得られたアクリロイル基を含有する硬化性オリゴマー(a)、及び光開始剤(b)を必須成分とすることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記の多官能アクリロイル化合物(i)が、下記式(1)
【化1】

(式(1)中、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表し、
、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、
nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数)
で表されるものであり、かつ、
前記多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)が、下記式(2)
【化2】

(式(2)中Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を表し、
、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、
rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数である。但し、sが1の場合はrは1または2である。)
で表されるものである、
請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
アクリロイル基含有硬化性オリゴマーの重量平均分子量(Mw)が400〜30,000である請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
アクリロイル基含有硬化性オリゴマーが4〜20のアクリロイル基の官能基数を有する請求項3記載の硬化性組成物。
【請求項5】
下記式(1)
【化3】


(式(1)中、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表し、
、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、
nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数)
で表される多官能アクリロイル化合物(i)と、
下記式(2)
【化4】


(式(2)中Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数を表す。但し、sが1の場合はrは1または2である。)
で示され、重量平均分子量(Mw)が800〜5,000の多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との付加反応で得られた化学構造を有することを特徴とするアクリロイル基含有硬化性オリゴマー。
【請求項6】
アクリロイル基含有硬化性オリゴマーが4〜20のアクリロイル基の官能基数を有する請求項5記載のアクリロイル基含有硬化性オリゴマー。
【請求項7】
多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との反応を有することを特徴とするアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法。
【請求項8】
多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)との反応によるアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法であって、
前記多官能アクリロイル化合物(i)が下記式(1)
式(1)
【化5】


(式(1)中、Xは、
1価〜6価の脂肪族炭化水素基、
1価〜6価の脂肪族環状炭化水素基、
1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、
窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する1価〜6価の芳香族構造を有する炭化水素基、または、
ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する複素環状脂肪族炭化水素基を表し、
、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、
nは0〜8の範囲の整数、mは1〜6の範囲の整数を表す。)
で表されるものであり、かつ、
前記多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)が下記式(2)
式(2)
【化6】

(式(2)中Yは1価〜4価の脂肪族炭化水素基または脂肪族環状炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、rは0〜2の範囲の整数、sは0または1の整数、tは0〜8の範囲の整数、wは1〜4の範囲の整数を表す。但し、sが1の場合はrは1または2である。)
で示される請求項7記載のアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法。
【請求項9】
多官能アクリロイル化合物(i)と多官能脂肪族メルカプタン化合物(ii)とを、1級又は2級アミンの共存下で反応させるアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法であって、前記のアミンの配合量が全反応混合物中で0.1〜5重量%である、請求項7又は8に記載のアクリロイル基含有硬化性オリゴマーの製造方法。

【公開番号】特開2007−113005(P2007−113005A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283677(P2006−283677)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】