説明

硬化物の製造方法及び硬化物

【課題】より強固な架橋構造を構築することに伴う脆性化や硬化収縮率の増加といった問題を解決することができる硬化物の製造方法を提供する。
【解決手段】分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含んだ有機基とヒドロシリル基とを有した化合物aを、ラジカル重合させてヒドロシリル基を有した状態で一次硬化させ、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させることを特徴とする硬化物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素−炭素二重結合とヒドロシリル基とを有した化合物をラジカル重合させ、更に脱水素縮合させて硬化物を得る方法、及びこれにより得られた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル基や(メタ)アクリル基、アリル基などの炭素−炭素二重結合を有する化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下、熱、紫外線、電子線などのエネルギーを加えることでラジカル重合するため、様々な分野で利用されている。分子中に複数の炭素−炭素二重結合を有する化合物においては、ラジカル重合により3次元架橋構造を構築し、耐熱性や機械特性、耐薬品性に優れる硬化物が得られる。得られた硬化物は、例えば液晶テレビ等のディスプレイ前面保護板や液晶偏光フィルム、位相差フィルム等のディスプレイ材料をはじめ、タッチパネル用基板、カラーフィルター用基板、TFT用基板などのガラス代替基板として、また、眼鏡用レンズ材料やプリズム、カメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系、光磁気ディスクドライブ等のレーザ光学系、導波路などに用いるレンズ等の光学素子など、各種フィルムや成形体として使用され、また、ガラス代替品材料としての利用も進んでいる。
【0003】
このような硬化物の特性は、主に樹脂中の炭素−炭素二重結合の濃度に依存し、炭素−炭素二重結合を高濃度にすることで、より強固な架橋構造が構築でき、熱膨張率の低減や弾性率を向上させることができる。例えば(メタ)アクリル基で改質したエチレン性不飽和化合物を使用して得た積層体(特許文献1参照)や、イソシアヌレート骨格を有したエチレン性不飽和化合物を使用した硬化性組成物から、表面硬度に優れたプラスチックフィルムを得る方法(特許文献2参照)などが報告されている。
【0004】
ところが、炭素−炭素二重結合による架橋密度が大きくなると硬化収縮率が著しく増大し、得られた硬化物が脆性化するという問題がある。また、硬化収縮による残留応力が増大すると共に、重合時に発生する重合熱により硬化速度が加速して急激な硬化が進行することから、硬化中にクラックが発生し、厚肉の硬化物を得るのが難しくなる。
【0005】
それゆえに、従来においては、硬化物を製造する為には、長時間かけ徐々に加熱し硬化を進行させる方法を採らなければならない。紫外線や電子線を硬化に利用する場合も同様であり、弱い照度で長時間露光する必要があることから、生産効率の点で望ましくない。また、炭素−炭素二重結合の濃度を高濃度にすると硬化物中に重合に関与しきれない、未反応の炭素−炭素二重結合が多く残存し、結果として未反応の炭素−炭素二重結合が加熱により酸化劣化の原因となって透明性や機械物性の低下を招いてしまう。特に(メタ)アクリル基の場合には、極性基の増加に伴い硬化物の吸水率が増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−125142号公報
【特許文献2】特開2006−225434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、炭素−炭素二重結合の濃度増加に頼らずに、硬化物の架橋密度を増加させることできる新規な方法を提供することにある。また、より強固な架橋構造を構築することに伴う脆性化や硬化収縮率の増加といった、トレードオフの問題を解決した硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、炭素−炭素二重結合とヒドロシリル基とを有した化合物をラジカル重合させ、得られた重合物(一次硬化物)に含まれたヒドロシリル基を利用してシロキサン結合を形成させることで、炭素−炭素二重結合の増加に頼らずに架橋密度を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含んだ有機基とヒドロシリル基とを有した化合物aを、ラジカル重合させてヒドロシリル基を有した状態で一次硬化させ、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させることを特徴とする硬化物の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含んだ有機基とヒドロシリル基とを有した化合物aを、ラジカル重合させてヒドロシリル基を有した状態で一次硬化させ、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させて得られたことを特徴とする硬化物である。
【0011】
本発明で用いる化合物aについて、ラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合有する有機基とは、具体的にはビニル基、アリル基、又は(メタ)アクリル基であるのがよい。この「分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する有機基とヒドロシリル基とを有する化合物a」は特に制限されず、得られる硬化物の目的や用途に合わせて適宜選択することができるが、好ましくは、耐熱性や透明性の観点から、数平均分子量が100〜250000である、ケイ素化合物モノマー又はケイ素化合物オリゴマー又はケイ素化合物ポリマーであるのがよい。また、化合物aの炭素−炭素二重結合の数とヒドロシリル基の数について、好ましくは、炭素−炭素二重結合1つあたりの分子量(化合物aの分子量を炭素−炭素二重結合の数で割った値)が100〜5000であり、ヒドロシリル基1つあたりの分子量(化合物aの分子量をヒドロシリル基の数で割った値)が25〜1000であるのがよく、より好ましくは、炭素−炭素二重結合1つあたりの分子量が150〜5000であり、ヒドロシリル基1つあたりの分子量が50〜1000であるのがよい。炭素−炭素二重結合1つあたりの分子量が100より小さいと硬化収縮が大きくなり、硬化物を得る事が困難であり、反対に炭素−炭素二重結合1つあたりの分子量が5000より大きいと十分な架橋構造が構築されず、硬化物が脆化してしまう。一方、ヒドロシリル基1つあたりの分子量が25より小さいと、脱水素縮合時の硬化物の収縮量が大きく硬化物が破損するおそれがあり、反対にヒドロシリル基1つあたりの分子量が1000より大きい場合では、脱水素縮合による架橋密度が増加した効果を十分に発現することができない。
【0012】
化合物aについて、具体的には3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルシラン、2−(メタ)アクリロキシエトキシジメチルシラン、ビス(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)メチルシランなどのモノシラン類、鎖状シロキサン類、環状シロキサン類、籠型ロキサン類、不完全縮合籠型シロキサン類、梯子型シロキサン類、不完全縮合梯子型シロキサン類およびこれらのシロキサン類を組み合わせ縮合させたシロキサン類等を例示することができる。これらの化合物aを用いると、得られる硬化物の耐熱性を向上させることができる点で好ましい。
【0013】
また、本発明では、「分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合有する有機基とヒドロシリル基を有する化合物a」の他に、「分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物b」を含んだ状態でラジカル重合させて、一次硬化物を得るようにしてもよい。ここで、化合物bとしては、単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等が挙げられる。
【0014】
更に本発明では、好ましくは、化合物bが、炭素−炭素二重結合の他に水酸基を有するものであるのがよい。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、グリセリンジ(メタ)アクリレートやペンタエリスリトールトリアクリレートなどの水酸基含有多官能アクリレート類、水酸基含有ビニルエーテル類、水酸基含有アリルエーテル類等が挙げられる。このような炭素−炭素二重結合と水酸基とを有した化合物bは、その水酸基が化合物aのヒドロシリル基と脱水素縮合が可能であり、架橋密度を向上させることができる。「分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合と水酸基とを有した化合物b」と「化合物a」との配合割合については、得られる硬化物の用途等に応じ、すなわち弾性率の向上や熱寸法安定性の向上(熱膨張係数の低下)等の目的から化合物bの配合割合を増すようにするのがよいが、化合物bの水酸基の数より化合物aのヒドロシリル基の数の方が多くなるようにするのが望ましい。水酸基の数の方が多くなってしまうと、後述するように、ヒドロシリル基を利用した脱水素縮合において水酸基が残存し、最終的に得られる硬化物の吸水率が高くなってしまうおそれがある。
【0015】
本発明における硬化物の製造方法では、上記化合物aを(さらに化合物bを含む場合もある)ラジカル重合(化合物bが含まれる場合は化合物aとのラジカル共重合の場合もある。以下、共重合の場合を含めて「ラジカル(共)重合」ということがある。)させることで、ヒドロシリル基(Si-H基)を含んだ状態で一次硬化させる。次いで、得られた一次硬化物を塩基水溶液と接触させることで、ヒドロシリル基を利用した脱水素縮合によりシロキサン結合を形成して、最終硬化物を得る。すなわち、上記の一次硬化物を塩基水溶液と反応させてヒドロシリル基の少なくとも一部をシラノール基(Si-OH基)に変換させ、次いで、残ったヒドロシリル基と変換されたシラノール基との間で塩基により脱水素縮合が起こり、シロキサン結合が生成されて架橋密度を増加させる。また、炭素−炭素二重結合と水酸基とを有する化合物bを含む場合は、化合物bの水酸基と一次硬化物のヒドロシリル基との間でも脱水素縮合が起こり、ケイ素−酸素−炭素結合が生成して架橋密度が増加する。このように本発明の硬化物の製造方法を用いれば、炭素−炭素二重結合数を増加させることなく、架橋密度を高めることができ、これまでは両立が困難であった、高架橋密度化に伴う脆性化や硬化収縮率増加を抑制した硬化物の製造を可能にする。
【0016】
本発明における硬化物の製造方法では、少なくとも化合物a(化合物bが含まれる場合もある)とラジカル重合開始剤とを含んだ硬化性樹脂組成物を用いて、一次硬化物を得るようにしてもよい。ラジカル重合開始剤としては、公知の光重合開始剤や熱重合開始剤を用いることができ、配合量については、硬化性樹脂組成物100重量量に対して、0.1〜5重量部の範囲であるのがよく、好ましくは0.1〜3重量部の範囲であるのがよい。ラジカル重合開始剤が0.1重量部に満たないと硬化が不十分となり、得られる硬化物の強度や剛性が低くなり、一方、5重量部を超えると硬化物の着色等の問題が生じるおそれがある。
【0017】
硬化性樹脂組成物を光硬化性組成物とする場合に用いられる光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサンソン系、アシルホスフィンオキサイド系等の化合物を好適に使用することができる。具体的には、トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、ベンゾインメチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、チオキサンソン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、カンファーキノン、ベンジル、アンスラキノン、ミヒラーケトン等を例示できる。また、光重合開始剤と組み合わせて効果を発揮する光開始助剤や鋭感剤を併用することもできる。
【0018】
また、硬化性樹脂組成物を熱硬化性組成物とする場合に用いられる熱重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド類、ジアシルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類などが挙げられる。これらの中で触媒活性の点から、ジアルキルパーオキサイドが好ましい。具体的には、シクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ヘキサパーオキシ)シクロヘキサノン、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−へキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等を例示することができるが、これらに制限されるものではない。また、これらを単独で使用してもよく、熱重合開始剤を2種類以上併用してもよい。更には、熱重合促進剤や光重合開始剤を併用することもできる。
【0019】
また、硬化性樹脂組成物には、本発明の目的から外れない範囲で各種添加剤を添加することができる。各種添加剤として有機/無機フィラー、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤、樹脂成分等を例示することができる。
【0020】
本発明において、ヒドロシリル基を有する一次硬化物は、例えばラジカル重合開始剤を含んだ硬化性樹脂組成物を加熱又は光照射によって硬化させることで得ることができる。このうち、加熱によって重合体(或いは共重合体)を得る場合、その重合温度は、熱重合開始剤や促進剤の選択により、室温から200℃前後までの広い範囲から選択することができる。この際、硬化性樹脂組成物を金型内やスチールベルト上で重合硬化させることで所望の形状の一次硬化物を得るようにしてもよい。
【0021】
一方、光照射によって重合体(或いは共重合体)を得る場合、例えば波長10〜400nmの範囲の紫外線や波長400〜700nmの範囲の可視光線を照射することで、一次硬化させることができる。用いる光の波長は特に制限されるものではないが、特に波長200〜400nmの近紫外線が好適に用いられる。また、紫外線発生源として用いられるランプとしては、低圧水銀ランプ(出力:0.4〜4W/cm)、高圧水銀ランプ(40〜160W/cm)、超高圧水銀ランプ(173〜435W/cm)、メタルハライドランプ(80〜160W/cm)、パルスキセノンランプ(80〜120W/cm)、無電極放電ランプ(80〜120W/cm)等を例示することができる。これらの紫外線ランプは、各々その分光分布に特徴があるため、使用する光重合開始剤の種類に応じて選定される。
【0022】
光照射によってヒドロシリル基を有した一次硬化物を得る際には、例えば任意のキャビティ形状を有し、石英ガラス等の透明素材で構成された金型内に硬化性樹脂組成物を注入し、上述したような紫外線ランプで紫外線を照射して重合硬化を行い、金型から脱型させることで所望の形状の一次硬化物を得ることができる。また、金型を用いない場合には、例えば移動するスチールベルト上にドクターブレードやロール状のコーターを用いて硬化性樹脂組成物を塗布し、上記のような紫外線ランプで重合硬化させることで、シート状の一次硬化物を得ることができる。さらには、ヒドロシリル基を有した一次硬化物に一軸延伸や二軸延伸などの延伸加工を施し、一次硬化物をフィルム状やシート状等の任意の形状に加工して、塩基水溶液で処理するようにしてもよい(熱による硬化等の場合も同様である)。
【0023】
既に一部述べたが、一次硬化物を得る際には、硬化性樹脂組成物を目的とする硬化物となるように所定の形状とし、ラジカル(共)重合させるようにするのがよい。ここで、得られる一次硬化物が熱可塑性である場合、例えば射出成型、押出成形、押出ラミネート成形、圧縮成形、中空成形、カレンダー成形、真空成形、Tダイ法等の各種の成形法を採用できる。ただし、化合物aまたは化合物bの一分子当たりの炭素−炭素二重結合数が1.0を超える場合は、三次元架橋構造体を有する(共)重合体となるため、通常、成形硬化が採用される。なお、本明細書中ではラジカル(共)重合のことを硬化ともいう。ラジカル(共)重合には、加熱又は電子線、紫外線等のエネルギー線照射が適当である。
【0024】
また、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させる際、塩基水溶液の塩基としては、水に溶解するものであれば特に制限はない。塩基の例を挙げると、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリエチルアンモニウム等の水酸化アンモニウム塩、ヒドロキシルアミン、N−メチルヒドロキシルアミン、N、N−ジメチルヒドロキシルアミン、N−エチルヒドロキシルアミン、N、N−ジエチルヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン化合物が例示できる。
【0025】
塩基水溶液の濃度については、0.05〜2.0mol/Lの範囲が好ましい。塩基濃度が希薄すぎると完全な脱水素縮合に長時間を要し、反対に濃度が高すぎるとシロキサン結合などが切断され、得られる硬化物の機械特性が悪化してしまう。一次硬化物と塩基水溶液とを接触させる方法としては、浸漬、噴霧、シャワー等の公知の方法を用いることができるが、なかでも塩基水溶液中に一次硬化物を浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、一次硬化物に残存するヒドロシリル基の数や用いる塩基水溶液により異なるが、脱水素縮合の進行度合いを一次硬化物から発生する水素量で確認しながら行うのがよく、完全に脱水素縮合させるためには一次硬化物からの水素の発生が認められなくなるまで浸漬させるのが好ましい。また、脱水素縮合は一次硬化物が塩基水溶液と接触している箇所から進行するため、浸漬方法を変えることで、部分的に架橋密度を高めることもできる。例えば、浸漬時間を短くして一次硬化物の表面のみの架橋密度を高めようにしてもよい。さらには最終的に得られる硬化物の表面から中心部までの架橋密度が異なる傾斜材料とすることも可能であり、得られる硬化物の用途に合わせて浸漬条件を変えるようにしてもよい。
【0026】
塩基水溶液に接触させた後は、一次硬化物の不純物除去や、経時による寸法安定性を高める目的で、後処理を施すことが望ましい。このような後処理としては、例えば一次硬化物を水洗して塩基を除去するのがよく、また、塩基水溶液との接触による脱水素縮合が不完全であり、ヒドロシリル基がシラノール基として残存する可能性があるため、水洗後更に加熱処理するようにしてもよい。この加熱処理については、100℃から300℃の温度範囲で1時間以上加熱することが好ましく、より好ましくは180℃から250℃の温度範囲で1〜3時間加熱するのがよい。
【0027】
本発明によって得られた硬化物は、一次硬化の際の成形条件により、例えばフィルム状のものから厚板まで種々の状態で得ることができ、硬化後の形状に特に制限はない。そのため、液晶テレビ等のディスプレイ前面保護板や液晶偏光フィルム、位相差フィルム等のディスプレイ材料をはじめ、タッチパネル用基板、カラーフィルター用基板、TFT用基板などのガラス代替基板として、また、眼鏡用レンズ材料やプリズム、カメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系、光磁気ディスクドライブ等のレーザ光学系、導波路などに用いるレンズ等の光学素子など、各種用途に適用可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明における硬化物の製造方法によれば、モノマー中の炭素−炭素二重結合の濃度増加に頼らずに、強固な架橋構造を構築した硬化物が得られるため、炭素−炭素二重結合により架橋密度を高めたことによる硬化収縮率の増加や脆性化といった問題を解消することができる。そのため、得られた硬化物は、熱膨張率の低減、弾性率の向上、硬化収縮率の抑制、脆性化の防止等が同時に図られたものであり、また、本発明の製造方法は、従来ではクラックの発生が懸念されるような厚肉の硬化物を得るのにも好適な方法である。
【0029】
更に、本発明の硬化物の製造方法は、ヒドロシリル基を有した状態で一次硬化物を得て、塩基水溶液を用いた脱水素縮合によりシロキサン結合を形成させるため、工業的にも有利な方法であると言える。すなわち、一次硬化物を得る際には、ゲル化のおそれや脱水縮合反応性により制御が困難であるSi−OH基を有した化合物を用いるのではなく、Si−H基を有した化合物aを使用して一次硬化物を得て、その後に一部のSi−H基をSi−OH基に変換させるため、取扱い性の観点からも優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、合成例1で得られた反応生成物Aの1H-NMRスペクトルである。
【図2】図2は、実施例1で得られた成形体A-1a(一次硬化物)のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
[合成例1]
撹拌機、滴下ロート、及び温度計を備えた反応容器に、45〜50モル%(MeHSiO)の水素化末端メチルヒドロシロキサン−フェニルメチルシロキサンコポリマー(Gelest,Inc.製 HPM-502 重量平均分子量:4300)28.3g及びトルエン13mLを加えて均一になるまで撹拌した。次いで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.12gを加え20分室温で撹拌し、滴下ローとよりメタクリル酸2-ヒドロキシエチル1.89gを滴下し、2時間室温で撹拌した。反応終了後、トルエン20mLと10w%クエン酸水溶液20mLとを加え、反応溶液を水洗し、更に水で水洗を行った。水洗後、無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで無色透明な液体として反応生成物Aを30g得た。得られた反応生成物Aの1H-NMR(図1)を測定したところ、ヒドロシリル基に帰属される4.7ppm(H−Si)のシグナルに加え、メタクリル基のアルケンに帰属される5.5ppmと6.1ppm(H2C=C)のシグナルが確認され、反応生成物Aは、水素化末端メチルヒドロシロキサン−フェニルメチルシロキサンコポリマーのヒドロシリル基の一部にメタクリル酸2-ヒドロキシエチルが脱水素により付加した、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する有機基とヒドロシリル基とを有する化合物であることが確認された。
【0033】
[合成例2]
撹拌機、滴下ロート、及び温度計を備えた反応容器に、トリメチルシリル末端ポリメチルヒドロシロキサン(Gelest,Inc.製 HMS-992 重量平均分子量:2000)39.5g及びトルエン40mLを加えて均一になるまで撹拌した。次いで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.35gを加え20分室温で撹拌し、滴下ロートよりメタクリル酸2-ヒドロキシエチル8.48gを滴下し、2時間室温で撹拌した。反応終了後、トルエン60mLと10w%クエン酸水溶液60mLとを加え、反応溶液を水洗し、更に水で水洗を行った。水洗後、無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで無色透明な液体として反応生成物Bを30g得た。得られた反応生成物Bの1H-NMRを測定したところ、ヒドロシリル基に帰属される4.7ppm(H−Si)のシグナルに加え、メタクリル基のアルケンに帰属される5.5ppmと6.1ppm(H2C=C)のシグナルが確認され、反応生成物Bは、トリメチルシリル末端ポリメチルヒドロシロキサンのヒドロシリル基の一部にメタクリル酸2-ヒドロキシエチルが脱水素により付加した、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する有機基とヒドロシリル基とを有する化合物であることが確認された。
【0034】
[合成例3]
撹拌機、滴下ロート、及び温度計を備えた反応容器に、トリメチルシリル末端ポリメチルヒドロシロキサン(Gelest,Inc.製 HMS-992 重量平均分子量:2000)39.5g及びトルエン40mLを加えて均一になるまで撹拌した。次いで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.35gを加え20分室温で撹拌し、滴下ロートよりメタクリル酸2-ヒドロキシエチル87.7gを滴下し、2時間室温で撹拌し、更に60℃で2時間撹拌した。反応終了後、トルエン60mLと10w%クエン酸水溶液60mLを加え、反応溶液を水洗し、更に水で水洗を行った。水洗後、無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで無色透明な液体として反応生成物Cを119g得た。得られた反応生成物Cの1H-NMRを測定したところ、ヒドロシリル基に帰属される4.7ppm(H−Si)のシグナルが完全に消失し、メタクリル基のアルケンに帰属される5.5ppmと6.1ppm(H2C=C)のシグナルが確認され、反応生成物Cは、トリメチルシリル末端ポリメチルヒドロシロキサンの全てのヒドロシリル基にメタクリル酸2-ヒドロキシエチルが脱水素により付加した、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する有機基を有する化合物であることを確認した。
【0035】
上記合成例1〜3で原料として用いたヒドロシリル化合物の平均分子量から計算される1分子中の「平均ヒドロシリル基水素数」を表1に示す。また、上記合成例1〜3で得られた反応生成物A〜Cについて、1H-NMRにおけるヒドロシリル基水素数の面積比から計算される「反応生成物1分子中の平均ヒドロシリル基水素数」と、同じく1H-NMRにおけるメタクリル基のアルケン水素の面積比から計算される「反応生成物1分子中の平均メタクリル基数」を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
上記合成例1〜3で得られた反応生成物A〜Cを用いて、トリメチロールプロパントリアクリレート(炭素−炭素二重結合を有する化合物)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(炭素−炭素二重結合と水酸基とを有する化合物)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光重合開始剤)、及びジターシャリーブチルパーオキサイド(熱重合開始剤)と共に、表2に示したとおりに配合して、硬化性樹脂組成物A-1〜2、B-1〜3、及びC-1〜3を得た。なお、表2における各成分の数値は重量部を表す。また、それぞれの硬化性樹脂組成物について、含有された反応成生物A〜Cがヒドロシリル基を有するかどうかその有無を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
[実施例1]
上記で得られた硬化性樹脂組成物A-1をガラス板上に塗布し、ロールコーターを用いて厚さ0.2mmになるようにキャスト(流延)し、30W/cmの高圧水銀ランプを用いて8000mJ/cmの積算露光量で硬化させて、所定の厚み(0.2mm)を有したフィルム状の成形体A-1a(一次硬化物)を得た。得られた成形体A-1aのIRスペクトル(図2)では2155cm-1のピーク(ヒドロシリル基に帰属されるピーク)が確認された。
【0040】
上記で得られた成形体A-1aを塩基水溶液(1.1mol/LのN,N−ジエチルヒドロキシルアミン)に浸漬させた。浸漬後、直に成形体のヒドロシリル基による脱水素縮合が進行して水素の気泡が発生した。室温で24時間浸漬させた後、成形体を取り出し、水洗を行った。さらに成形体を室温で1時間自然乾燥させた後、200℃のオーブンで1時間加熱させ、成形体A-1b(最終硬化物)を得た。得られた成形体A-1bのIRスペクトル(図2)によれば、成形体A-1aで観測された2155cm-1のピーク(ヒドロシリル基に帰属されるピーク)が消失していることから、完全に脱水素縮合が進行したことが確認された。
【0041】
上記で得られた成形体A-1bについて、以下に記した各条件での物性を評価した。結果を表3に示す。
【0042】
[成形性]
得られた成形体A-1bを目視で確認し、クラックや欠けが無い場合を「良」とし、クラックや欠けが発生している場合を「不良」とする2段階評価を行った。
【0043】
[ヒドロシリル基の有無]
成形体A-1bを約10mm x 10mmに切断して得た試験片表面のIRスペクトルを測定し、2155cm-1付近にヒドロシリル基に帰属されるピークの有無で確認した。
【0044】
[弾性率]
以下で述べる硬化条件1、1aおよび1bの場合で最終的に得られた厚み0.2mmの成形体については、引張弾性率(試験片:8mm x 80mm x 0.2mm、試験速度0.5mm/min、チャック間距離50mm)の値を示す。硬化条件2、2a、3および3aの場合で最終的に得られた厚み2mmの成形体については、曲げ弾性率(試験片:25mm x 50mm x 2mm、試験速度0.3mm/min、支点間距離12mm、支点半径0.5mm、圧子半径1.5mm)の値を示す。また表3中の「×」は所定サイズの試験片が得られず測定不可を示す。
【0045】
[CTE]
熱機械的分析を行い、50℃から150℃の線膨張係数(CTE)を測定した。硬化条件1、1aおよび1bで得られた厚み0.2mmの成形体については、3mm幅に試験片を加工、チャック間距離15mmで固定し昇温速度昇温速度5℃/min、引張荷重4.2mNで測定した。硬化条件2、2a、3および3aで得られた厚み2mmの成形体については、5mm角に切断し、試験厚み2mmとし昇温速度昇温速度5℃/min、圧縮荷重100mNで測定した。
【0046】
[吸水率]
硬化条件1、1aおよび1bの場合で最終的に得られた厚み0.2mmの成形体については、試験片サイズを100mm x 100mmとし、硬化条件2、2a、3および3aで最終的に得られた厚み2mmの成形体については、試験片サイズを25mm x 50mmにして、それぞれ50℃で24時間乾燥させた後、重量を測定し、ついで25℃の温水中に24時間浸漬させ、次の式により吸水率を求めた。また表3中の「×」は所定サイズの試験片が得られず測定不可を示す。
吸水率(%)=[(吸水重量−乾燥重量)/乾燥重量]×100
【0047】
【表3】

【0048】
[実施例2〜6、比較例1〜6]
表3に示すように、硬化性樹脂組成物と以下に記した硬化条件との組合せから実施例2〜6及び比較例1〜6に係る成形体を得た。得られた成形体について、上述した方法で物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0049】
[硬化条件1]
ロールコーターを用いて、ガラス板上に硬化性樹脂組成物を厚さ0.2mmになるようにキャスト(流延)し、30W/cmの高圧水銀ランプを用い、8000mJ/cmの積算露光量で硬化させ、所定の厚み(0.2mm)を有したフィルム状の成形体(一次硬化物)を得た。
【0050】
[硬化条件1a]
硬化条件1に加えて更に、硬化条件1で得られた成形体を塩基水溶液(1.1mol/LのN,N−ジエチルヒドロキシルアミン)に室温で24時間浸漬させ、水洗後室温で1時間自然乾燥させた後、200℃のオーブンで1時間加熱させて厚さ0.2mmのフィルム状の成形体(最終硬化物)を得た。
【0051】
[硬化条件1b]
塩基性水溶液を水に変えた以外は硬化条件2と同様にして厚さ0.2mmのフィルム状の成形体(最終硬化物)を得た。
【0052】
[硬化条件2]
厚さ2mmになるようにガラス板で組み込んだ50mm角の型に硬化性樹脂組成物を流し込み、30W/cmの高圧水銀ランプを用いて8000mJ/cmの積算露光量で硬化させ、所定の厚み(2mm)を有したシート状の成形体(一次硬化物)を得た。
【0053】
[硬化条件2a]
硬化条件2に加え更に、硬化条件2で得られた成形体を塩基水溶液(1.1mol/LのN、N−ジエチルヒドロキシルアミン)に室温で72時間浸漬させ、水洗後室温で24時間自然乾燥させた後、200℃のオーブンで2時間加熱させて厚さ2mmのシート状の成形体(最終硬化物)を得た。
【0054】
[硬化条件3]
内径が25mm x 50mm x 2mmの金型に射出圧力3Mpaで射出し、保圧:1Mpa/10秒、金型温度:180℃、硬化時間1分の各条件で射出成型して厚さ2mmのシート状の成形体(一次硬化物)を得た。
【0055】
[硬化条件3a]
硬化条件3に加え更に、硬化条件3で得られた成形体を塩基水溶液(1.1mol/LのN、N−ジエチルヒドロキシルアミン)に室温で72時間浸漬させ、水洗後室温で24時間自然乾燥させた後、200℃のオーブンで2時間加熱させて厚さ2mmのシート状の成形体(最終硬化物)を得た。
【0056】
上記実施例1〜6、及び比較例1〜6より、それぞれのCTEの結果から、ヒドロシリル基を含有する成形体(一次硬化物)を塩基水溶液に接触させることで、ヒドロシリル基が脱水素縮合し、架橋密度が増加したことで、弾性率が増加し、CTEを低減させることが確認された。また、反応生成物BとCを用いた硬化性樹脂組成物の比較から、本発明の製造方法を用いれば、炭素−炭素二重結合を増加させたことと同等の弾性率とCETをもつ成形体(最終硬化物)を良好な成形性で得ることができ、尚且つ低吸水性を併せ持つことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、炭素−炭素二重結合数を増加させること無く、一次硬化物に含有されるヒドロシリル基の脱水素縮合を利用し、最終的に得られる硬化物の架橋密度を増加させることが可能である。そのため、本発明によって得られた硬化物(最終硬化物)は例えば液晶テレビ等のディスプレイ前面保護板や液晶偏光フィルムなどのディスプレイ材料をはじめ、タッチパネル用基板、カラーフィルター用基板、TFT用基板などのガラス代替基板として利用でき、また、例えば眼鏡用レンズ材料やプリズム、カメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系、光磁気ディスクドライブ等のレーザ光学系、導波路などに用いるレンズなどの光学素子としても利用することができる。すなわち、本発明によって得られた硬化物は、これまで主にガラスが使われていた各種ガラス材料にかわって使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含んだ有機基とヒドロシリル基とを有した化合物aを、ラジカル重合させてヒドロシリル基を有した状態で一次硬化させ、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させることを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項2】
化合物aのほかに、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有した化合物bを含んだ状態で一次硬化物を得る請求項1に記載の硬化物の製造方法。
【請求項3】
化合物bが、水酸基を有する化合物である請求項2に記載の硬化物の製造方法。
【請求項4】
少なくとも化合物aとラジカル重合開始剤とを含んだ硬化性樹脂組成物を用いて一次硬化物を得る請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項5】
分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を含んだ有機基とヒドロシリル基とを有した化合物aを、ラジカル重合させてヒドロシリル基を有した状態で一次硬化させ、得られた一次硬化物を塩基性水溶液と接触させてヒドロシリル基を脱水素縮合させて得られたことを特徴とする硬化物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−168453(P2010−168453A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11588(P2009−11588)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】