説明

硬組織用接着剤組成物

硬組織表面用エッチャントと、4個を超える官能基を有する少なくとも1種類の多官能性架橋性(メタ)アクリレートモノマーと、水とを含む接着剤組成物。この接着剤組成物は油中水型エマルションである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本開示は、硬組織に接着する及び/又は硬組織修復するための接着剤組成物、並びにこれらの製造方法及び使用方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年12月28日に出願された米国特許仮出願第60/877514号の優先権を主張するものであり、それら全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
硬組織、特に歯牙組織(例えば、象牙質又はエナメル質)のような人間及び動物の歯牙構造を修復するためには、まず接着剤が歯牙組織の表面に適用される。次に、歯牙組織を修復又は再構成するために、歯科用修復材が接着剤の上に適用されてもよく、あるいは接着剤が歯科用修復材なしに単独で使用されてもよい。同様に、接着剤はまた、歯科用材料(例えば、歯科矯正用接着剤を通常使用する歯列矯正器具)を歯牙組織の表面に結合するために使用されてもよい。
【0004】
接着剤が象牙質又はエナメル質のような歯牙組織に接着するのを促進するために、様々な前処理プロセスを用いることができる。このような前処理工程は、歯牙組織の表面とその上の接着剤との間の接着を高めるための、例えば、無機酸又は有機酸を使用したエッチング、それに続くプライミングを含む。エッチング及びプライミング工程の後、接着剤が適用され、ハードニングされて、歯科修復材又は歯列矯正器具を取り付ける。その結果、歯の修復手順及び歯列矯正器具の適用は典型的には多段プロセスである。
【0005】
いくつかの「ワンステップ」接着剤は、エッチング、プライミング、及び接着を単一工程で提供することを意図している。しかしながら、多くの場合、最初に歯牙組織の表面に水を適用し、次に接着剤を適用して引き続き硬化するといった2段階プロセスが行われる。他の「ワンステップ」プライマーでは、プライマーが歯牙組織表面に適用される前に、例えば、水、接着モノマー、及びエッチャント(etchant)のような区分化された前駆体成分を混合してプライマーを作る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水と、接着モノマーと、エッチャントとが別々の容器で歯科施術者に提供される場合、歯科用接着剤組成物を歯牙組織表面に適用する前に別個の混合工程を必要とする。混合プロセスはかなり複雑で面倒であるのに加え、その特有の不正確さは、接着レベルが患者によって異なるといった事態を引き起こす可能性がある。更に、歯科用接着剤組成物の適用前に歯牙組織表面を水又は他の液体で処理する場合でも、湿潤量のばらつきが発生し、このことが更に患者によって接着が異なるといった事態を引き起こす。湿潤の必要性はまた、歯科用接着剤組成物が比較的短い時間内に適用されることを必要とし、さもないと歯牙組織表面上の条件が変化する場合があり、その結果、接着レベルが予測不可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、水と、エッチャントと、接着剤を形成する架橋可能なモノマーとを単一容器で提供する、硬組織用接着剤組成物を目的とする。本接着剤組成物を使用すると、施術者が、修復する又は修復材を適用する前に、例えば、歯牙組織のような硬組織構造の表面に水を適用する必要がない。これらの接着剤組成物によって可能となる単一工程の接着プロセスは、エッチング、プライミング、及び接着を組み合わせて単一工程とし、施術者が接着剤構成成分をプレミックスする必要又は硬組織構造の表面を湿潤する必要がない。組成物の構成成分は単一容器で提供され、この成分は長い貯蔵寿命を有するが、これは、従来の組成物と比較して、この予測可能なエッチング、プライミング、及び接着性能が長期間にわたって維持されることを指す。
【0008】
一態様において、本開示は、硬組織表面のエッチャントと、4個を超える官能基を有する少なくとも1種類の多官能性(メタ)アクリレートモノマーと、水とを含み、この接着剤組成物が油中水型エマルションである接着剤組成物を目的とする。
【0009】
別の態様において、本開示は、(a)5〜25重量%の、4個を超える官能基を有する多官能性(メタ)アクリレートモノマーであって、過分枝樹状ポリエステルポリオールから誘導されるモノマーと、(b)10〜25重量%の水と、(c)0〜25重量%の、エチルアルコール、エチルアセテート、及びイソプロパノールからなる群から選択される共溶媒と、(d)5〜11重量%の、象牙質及びエナメル質の少なくとも一方用のエッチャントと、を含み、マイクロエマルションである歯科用接着剤組成物を目的とする。
【0010】
別の態様において、本開示は、(i)8〜25重量%の、4個を超える官能基を有する多官能性(メタ)アクリレートモノマーであって、過分枝樹状ポリエステルポリオールから誘導されるモノマーと、(ii)10〜25重量%の水と、(iii)0〜25重量%の、エチルアルコール、エチルアセテート、及びイソプロパノールからなる群から選択される共溶媒と、(iv)5〜11重量%の、象牙質及びエナメル質の少なくとも一方用のエッチャントと、を含み、マイクロエマルションである接着剤組成物を歯牙組織表面に適用する工程を含む方法を目的とする。
【0011】
本発明のその他の特徴、目的及び利点は、これらについての以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一態様において、本開示は、例えば、人間及び動物の骨、爪、及び歯のような硬組織に接着させる及び硬組織を修復するための接着剤組成物を目的とする。前記接着剤組成物は、象牙質又はエナメル質のような歯牙組織に接着させる及びそれらを修復するのに特によく適している。接着剤組成物は、水、硬組織構造に好適なエッチャント、及び4個を超える官能基を有する少なくとも1種類の樹状又は過分枝状の多官能性(メタ)アクリレートモノマーを含む。組成物は、典型的には油中水型エマルションであり、好ましくは水滴直径が約100nm未満のマイクロエマルションである。
【0013】
接着剤組成物は自己接着性であり、これは、別個のプライマー、結合剤、又は水のような湿潤剤で表面を前処理することなく硬組織構造表面に接着することができる組成物を指す。接着剤組成物は自己エッチングでもあり、別個のエッチャントを必要としない。
【0014】
本明細書で用いる時、接着剤は、硬組織構造の表面、特に歯牙組織表面(例えば、歯)の前処理として用いることのできる接着剤組成物の構成成分を指す。接着剤は歯牙組織を修復するために単独で用いられてもよく、例えば、修復材、歯列矯正器具(例えばブラケット)、又は歯科矯正用接着剤のような歯科用材料を歯牙組織に接着するために用いられてもよい。
【0015】
接着剤組成物は、少なくとも1種類の樹状又は過分枝状の多官能性(メタ)アクリレートモノマーを含む。硬化又はハードニングする時、これら化合物中の多官能基は、硬組織構造表面、特に歯牙組織表面に接着する架橋構造を形成する。少なくとも部分的な硬化又はハードニング工程の後、多官能基は、次の硬化又はハードニング工程における、例えば、修復材のような歯科用材料への接着のための追加の架橋を形成することができる状態を維持する。
【0016】
接着剤で使用する多官能性モノマーは、4個を超える官能基を有する架橋性(メタ)アクリレートモノマーである。これらの化合物は樹状又は過分枝状であってもよく、これは、硬化にまた架橋の形成に使用可能である多官能基を有することを指す。本明細書で用いる時、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す略語である。(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは約4〜約32個の、より好ましくは約6〜約16個の、最も好ましくは約8〜約16個の官能基を有する。
【0017】
接着剤としての使用に好適な架橋性(メタ)アクリレートモノマーの第1群は、過分枝(樹状)ポリエステルポリオールから誘導される多官能性アクリレートを含む。例には、ペンシルバニア州エクストン(Exton PA)のサートマー社(Sartomer Corp.)から商品名「CN 2300」(8個のアルコール基)、「CN 2301」(9個のアルコール基)、及び「CN 2302」(16個のアルコール基)で入手可能な化合物が挙げられる。好ましい多官能性アクリレートは、約8〜約16個の多官能アクリレート基、最も好ましくは約8〜約12個の多官能アクリレート基を有する。
【0018】
接着剤として使用するのに好適な材料の第2群には、オハイオ州トレド(Toledo)のパーストープ・ポリオールズ社(Perstorp Polyols, Inc.)から商品名「ボルトーン(BOLTORN)H2004」(6アルコール基)、「H2003」(12個のアルコール基)、「U3000」(14個のアルコール基)、「H311」(23個のアルコール基)、及びH30(32個のアルコール基)で入手可能な過分枝(樹状)ポリエステルポリオールから誘導される多官能性メタクリレートが挙げられる。好ましい多官能性メタクリレートは、約8〜約16個の官能性メタクリレート基、最も好ましくは約9〜約12個の官能性メタクリレート基を有する。
【0019】
これら多官能性アクリレート及びメタクリレート化合物は、典型的には、例えば、樹状又は過分枝状ポリエステルポリオールの末端ヒドロキシル基と、例えば、イソシアナトエチルメタクリレート(IEM)を、ジラウリン酸ジブチル錫のような触媒の存在下で反応させて作られる。
【0020】
樹状又は過分枝状の多官能性(メタ)アクリレート化合物は、典型的には、接着剤組成物中に、組成物の総重量を基準にして約8〜約25重量%、より好ましくは約10〜約25重量%の濃度で存在する。
【0021】
本明細書で用いる時、用語「エッチャント」は、硬組織構造表面、特に歯牙組織表面を完全に又は部分的に可溶化する(すなわち、エッチングする)ことができる酸性組成物を指す。エッチング効果は、人間の裸眼で見ることができる及び/又は機器で(例えば、光学顕微鏡検査によって)測定可能である。好適なエッチャントは、酸性官能基を有する幅広い種類の重合性又は非重合性化合物から選択することができ、酸及び/又は酸前駆体官能性を有する、エチレン性不飽和のモノマーのようなモノマー、オリゴマー、及びポリマーが挙げられ、かかるポリマーはまたエチレン性不飽和を有する。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロホスフェートが挙げられる。
【0022】
エッチャントとしての使用に好適な酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、4−(メタクリロイルオキシエチル)トリメリット酸(「4−MET」)、4−(メタクリロイルオキシエチル)無水トリメリット酸(「4−META」)、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピロキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネート、及びポリ(メタ)アクリル化ポリホウ酸などのα,β−不飽和酸化合物が挙げられ、ハードニング性樹脂系中の構成成分として使用されてもよい。(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリル化された酸(例えば、メタクリレート化されたトリメリット酸)などの不飽和カルボンのモノマー、オリゴマー、及びポリマー並びにこれらの無水物を使用することもできる。ある種の好ましい本発明の組成物としては、少なくとも1つの−P(OH)部分を有する酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0023】
これらの化合物の特定のものは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との間の反応生成物として得られる。酸−官能性及びエチレン性不飽和構成部分の両方を有するこの種の追加の化合物は、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))及び同第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン性不飽和部分及び酸部分の両方を含有する多種多様のこのような化合物を使用することができる。所望であれば、このような化合物の混合物を使用することができる。
【0024】
追加の、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば米国特許仮出願第60/437,106号(2002年12月30日出願)に開示されている、例えば、重合性ビスホスホン酸;AA:ITA:IEM(例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されているように、AA:ITAコポリマーを十分な2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させてこのコポリマーの酸基の一部をペンダント・メタクリレート基に変換することにより調製されるペンダント・メタクリレートを有するアクリル酸:イタコン酸コポリマー);及び米国特許第4,259,075号(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、同第4,499,251号(オムラ(Omura)ら)、同第4,537,940号(オムラら)、同第4,539,382号(オムラら)、同第5,530,038号(ヤマモト(Yamamoto)ら)、同第6,458,868号(オカダ(Okada)ら)、及び欧州特許出願公開第712,622号(トクヤマ社(Tokuyama Corp.))、及び同第1,051,961号(クラレ社(Kuraray Co., Ltd.))に記載されているようなものが挙げられる。
【0025】
本発明の組成物はまた、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物の組み合わせを含むことができ、例えば、米国公開特許出願第2007/0142494号、同第2007/0142497号、同第2007/0142498号、同第2007/0141524号、及び同第2007/0066748号に記載されている。
【0026】
本発明の組成物は、酸性官能基を有する非重合性化合物を含むことができる。そのような化合物の例には、ギ酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、トルエンスルホン酸、及び安息香酸が挙げられる。例示的な、酸性官能基を有する非重合性化合物が、米国特許第4,719,149号(オーセン(Aasen)ら)に記載されている。
【0027】
好ましくは、本発明の組成物は、エッチャントを約5〜約11重量%含み、より好ましくは約6〜約11重量%含む。好ましいエッチャントには、6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MHP)、10−メタクリルオキシデシルホスフェート(MDP)などが挙げられる。
【0028】
接着剤組成物はまた、接着剤組成物が油中水型エマルションとして存在するように、十分な水と任意の共溶媒とを含む。本明細書で用いる時、「油中水型」エマルションとは、油が連続相を形成し、かつ水が不連続の小滴の状態である、油中水混合物を指す。油中水型エマルションは、電気エマルションテスターを使用することにより、水中油型エマルションと区別することができる。水中油型エマルションは、水がその外相すなわち連続相を形成するため、比較的低い抵抗で電気を通すが、油中水型エマルションは、電気を通さないか、又は電気をほとんど通さない。
【0029】
油中水型エマルションにおける「油相」は、個別に、それらの水相における溶解限度を超える、製剤中の全成分を指す。これらは、概して、蒸留水中で約5%未満、好ましくは約2%未満、より好ましくは約1%未満の溶解度を有する材料である。しかしながら、塩類などの水相成分が、ある特定の油の溶解度を低下させ、結果として油相への分配を生じる可能性がある。油中水型エマルションにおける水相は、存在する水、及び水溶性である、すなわち、水中でのそれらの溶解限度を超えていないあらゆる成分を指す。
【0030】
接着剤組成物は好ましくはマイクロエマルションであり、熱力学的に望ましくかつ高速攪拌のような機械力からのエネルギーを必要とせずに自然発生的に生じるエマルションを指す。マイクロエマルションの理論は、例えば;レオン(Leung)ら(「化学プロセス工学における界面活性剤(Surfactants in Chemical Process Engineering)」第9章、マーセル・デッカー社(Marcel Dekker)、1988年);オーバービーク(Overbeek)ら「マイクロエマルション(Microemulsions)」(「界面活性剤(Surfactants)」、アカデミック・プレス(Academic Press)、1984年);サフラン(Safran)ら(「フィジカル・レビュー・レター(Phys. Rev. Lett.)」50巻:1930頁、1983年);ラッケンステイン(Ruckenstein)ら(「ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサエティー・ファラデー・トランスアクションズ(J. Chem. Soc. Faraday Trans)2」71巻:1690頁、1975年);及びオストロフスキー(Ostrovsky)ら(「ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス(J. Colloid. Interface Sci.)」102巻:206頁、1984年);並びに、ホルムバーグ(Holmberg)ら「水溶液の界面活性剤及びポリマー(Surfactants and Polymers in Aqueous Solution)」第2版第6章「マイクロエマルション(Microemulsions)」(138〜155頁、ジョン・ワイリー&サンズ(John Wiley & Sons)、2003年;2004年に訂正を加えて再版)、を含む科学文献において得ることができる。
【0031】
マイクロエマルションの水相及び油相は長期間の保存の際も分離せず、マイクロエマルションは、分散助剤及び周期的な高速撹拌なしに化学的及び物理的に安定した状態を維持する。好ましいマイクロエマルションは、45℃で少なくとも4〜5ヵ月間にわたって、室温で少なくとも2年間にわたって、好ましくは少なくとも3年間にわたって、相分離せずに保存安定性である。接着剤組成物の貯蔵寿命は、典型的には、時間の経った組成物を組織構造表面に結合する時に、時間の経った組成物が許容できる結合強度を提供するかどうかを判定することにより測定される。
【0032】
接着剤組成物のマイクロエマルションは、典型的にはほぼ透明であり、これはマイクロエマルションが、好ましくは可視光線を散乱するほど大きな水滴を含まないことを意味する。典型的には、本明細書の油中水型マイクロエマルションは、約100nm未満、好ましくは約50nm未満、より好ましくは約30nm未満の水滴直径を有する。水滴直径は、例えば、X線散乱で評価することができる。マイクロエマルションはまた低粘性であり、これにより歯科用材料に適用するのが比較的容易になる。
【0033】
物理的及び化学的に安定したマイクロエマルションを提供するために、接着剤組成物は、好ましくは約10〜約25重量%、好ましくは約13〜約22重量%、より好ましくは約14〜約18重量%の水を含む。歯科用接着剤組成物は、更に所望により、約25重量%までの、好ましくは約15〜約22重量%の共溶媒を含んでもよい。好適な共溶媒には、例えば、少なくとも部分的に水と混合できる有機化合物が挙げられる。好適な共溶媒は、例えば、アルコール基、ケトン基、エステル基、エーテル基、又はアミド基を含有してもよく、これらの基の1種以上を同じ共溶媒化合物に含有してもよい。好適な共溶媒の例には、エチルアルコール、エチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、及びイソプロパノールが挙げられる。エチルアルコールは、高度な物理的安定性を有するマイクロエマルションを得るために特に好ましい。
【0034】
油中水型マイクロエマルションを作る典型的な手順において、水は、最終工程として、混合しながら接着剤組成物の残りの構成成分に徐々に加えられる。混合物が透明性を保つように(すなわち、濁らないように)水を「滴定する」ことができる。多くの場合、この「滴定」手順の間に、マイクロエマルションは初期濁度の時点よりも前に自然発生的に生じる。「滴定」手順中に混合物が濁る場合は、多くの場合、少量の任意の共溶媒を添加することで再度透明にすることができる。典型的には、マイクロエマルションは単純混合により形成され、組成物の油及び水構成成分を個別にプレミックスする必要はなく、水及び/又は共溶媒を加える前に加熱する必要もない。
【0035】
接着剤組成物は、好ましくは、重合するとハードニングされて組成物の接着強度を高める1種以上の第2の重合性構成成分を含む。第2の重合性構成成分は、1官能性又は多官能性であり得るモノマー、オリゴマー、又はポリマーであってもよい。
【0036】
特定の実施形態において、第2の重合性構成成分は光重合性であり、すなわち、化学線放射で照射されると組成物の重合(すなわち、ハードニング)を開始する光重合性構成成分及び光開始剤(すなわち、光開始剤システム)を含有する。このような光重合性構成成分はフリーラジカル重合可能であり得る。
【0037】
他の実施形態において、第2の重合性構成成分は化学的に重合可能であり、すなわち、これらの組成物は、化学線放射の照射に依存することなく構成成分を重合させる、硬化させる、ないしは別の方法でハードニングすることのできる化学的に重合可能な構成成分及び化学反応開始剤(すなわち、開始剤系)を含有する。このような化学的に重合可能な構成成分は、「自己硬化」組成物と呼ばれることもあり、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性されたガラスアイオノマーセメント、レドックス硬化系及びこれらの組み合わせを包含することができる。
【0038】
好ましくは、接着剤構成成分は、無充填構成成分の総重量を基準にして、少なくとも約5重量%、より好ましくは少なくとも約10重量%、最も好ましくは少なくとも約15重量%の第2の重合性構成成分を含む。好ましくは、歯科用接着剤組成物は、最大95重量%、より好ましくは最大90重量%、最も好ましくは最大80重量%の第2の重合性構成成分を含む。
【0039】
好適な光重合性構成成分は、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性官能基を含有する)を含む光重合性構成成分(例えば、化合物)を包含してもよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
光重合性構成成分は、1個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを含んでもよいフリーラジカル活性官能基を有する化合物を包含してもよい。好適な化合物は、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ−(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレート及びメタクリレート)、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミド及びメタクリルアミド)、例えば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、並びにジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールのビス−(メタ)アクリレート(好ましくは、分子量200〜500)、米国特許第4,652,274号(ボッチャー(Boettcher)ら)に記載されているような、アクリレート化されたモノマーの共重合性混合物、米国特許第4,642,126号(ザドール(Zador)ら)に記載されているような、アクリレート化されたオリゴマー、及び米国特許第4,648,843号(ミトラ(Mitra))に開示されているもののような、ポリ(エチレン性不飽和)カルバモイルイソシアヌレート;ビニル化合物、例えばスチレン、ジアリルフタレート、ジビニルサクシネート、ジビニルアジパート及びジビニルフタレートが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、例えば、PCT国際公開特許第00/38619号(グーゲンベルガー(Guggenberger)ら)、同第01/92271号(ヴァインマン(Weinmann)ら)、同第01/07444号(グーゲンベルガーら)、同第00/42092号(グーゲンベルガーら)に開示されているようなシロキサン官能性(メタ)アクリレート、並びに、例えば、米国特許第5,076,844号(フォック(Fock)ら)、同第4,356,296号(グリフィス(Griffith)ら)、欧州特許第0373 384号(ヴァーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、同第0201 031号(ライナーズ(Reiners)ら)、及び同第0201 778号(ライナーズ(Reiners)ら)に開示されているようなフルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。必要に応じて、2種以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することができる。
【0041】
また重合性構成成分は、ヒドロキシル基及びフリーラジカル活性官能基を単一分子内に含有してもよい。こうした物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;及び2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−エタアクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。また好適なエチレン性不飽和化合物は、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス(St.Louis))のような多種多様な商業的供給源から入手することもできる。必要であれば、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用することができる。
【0042】
好ましい光重合性構成成分には、PEGDMA(分子量約400を有するポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(ホルムズ(Holmes))に記載されているようなビスEMA6、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。所望であれば、重合性構成成分の様々な組み合わせを使用することができる。
【0043】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるのに好適な光開始剤(すなわち、1種以上の化合物を含む光開始剤系)としては、2元系及び3元系が挙げられる。典型的な3元光開始剤としては、米国特許第5,545,676号(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物が挙げられる。好ましいヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩である。好ましい光増感剤は、350〜520nm(好ましくは、450〜500nm)の範囲にある光の一部を吸収するモノケトン及びジケトンである。より好ましい化合物は、400〜520nm(更により好ましくは、450〜500nm)の範囲にある光の一部を吸収するα−ジケトンである。好ましい化合物は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン及び他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、並びに環状α−ジケトンである。最も好ましいのは、カンファーキノンである。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。カチオン的に光重合する重合性樹脂のために有用な、その他の好適な三要素系光開始剤系は、例えば、米国特許公開第2003/0166737号(デデ(Dede)ら)に記載されている。
【0044】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるのに好適な他の光開始剤としては、380〜1200nmの機能的波長範囲を典型的に有するアシルホスフィンオキシドの部類が挙げられる。380〜450nmの機能的波長範囲を有する好ましいアシルホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、米国特許第4,298,738号(レヒトケン(Lechtken)ら)、同第4,324,744号(レヒトケンら)、同第4,385,109号(レヒトケンら)、同第4,710,523号(レヒトケンら)、同第4,737,593号(エルリッヒ(Ellrich)ら)、同第6,251,963号(コーラー(Kohler)ら)、及び欧州特許出願第0 173 567 A2号(イン(Ying))に記載されているもののようなアシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
【0045】
380〜450nmの波長範囲で照射されるとフリーラジカル開始することができる市販のアシルホスフィンオキシド光開始剤としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown));ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ);ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(イルガキュア1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ);ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ);及びエチル−2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、BASF社(BASF Corp.)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))が挙げられる。
【0046】
典型的には、アシルホスフィンオキシド光開始剤は、光重合性組成物中に触媒として有効な量で、例えば、組成物の総重量を基準にして0.1〜5.0重量%存在する。
【0047】
三級アミン還元剤を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。本発明で有用な三級アミンの一例としては、エチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。存在する場合、アミン還元剤は、光重合性組成物中に、組成物の総重量を基準にして0.1〜5.0重量%の量で存在する。その他の反応開始剤の有用な量は、当業者には周知である。
【0048】
化学的に重合可能な構成成分は、重合性構成成分(例えば、エチレン性不飽和重合性構成成分)とレドックス剤(酸化剤及び還元剤を含む)とを含むレドックス硬化系を含んでもよい。本発明において有用である、好適な重合性構成成分、レドックス剤、任意の酸官能性構成成分、及び任意の充填剤が、米国特許公開第2003/0166740号(ミトラ(Mitra)ら)、及び同第2003/0195273号(ミトラら)に記載されている。
【0049】
樹脂系(例えば、エチレン性不飽和構成成分)の重合を開始することができるフリーラジカルを製造するために、還元剤及び酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働すべきである。この種類の硬化は、暗反応であり、すなわち、光の存在に依存せずかつ光が存在しない状態で進行可能である。還元剤及び酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がなく、典型的な歯科条件においての保存及び使用を可能にする。これらは、重合性組成物の他の構成成分に容易に溶解する(及び、重合性組成物の他の構成成分からの分離を阻止する)ことを可能にするために、樹脂系と十分に混和性(及び好ましくは水溶性)があるべきである。
【0050】
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及び米国特許第5,501,727号(ワン(Wang)ら)に記載されているような金属錯体アスコルビン酸化合物;アミン、特に三級アミン、例えば4−tert−ブチルジメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩、例えばp−トルエンスルフィン酸塩及びベンゼンスルフィン酸塩;チオ尿素、例えば1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素、及び1,3−ジブチルチオ尿素;並びにこれらの混合物が挙げられる。他の二級還元剤は、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、亜ジチオン酸塩又は亜硫酸塩アニオンの塩、及びそれらの混合物を包含してもよい。好ましくは、還元剤はアミンである。
【0051】
好適な酸化剤はまた、当業者によく知られており、また過硫酸及びその塩、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩が挙げられるが、それらに限定されない。追加の酸化剤としては、過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル)、ヒドロペルオキシド(例えば、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシド)、並びに遷移金属の塩(例えば塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV))過ホウ酸並びにそれらの塩、過マンガン酸及びその塩、過リン酸及びその塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0052】
1種を超える酸化剤又は1種を超える還元剤を使用することが望ましい場合がある。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を速めることもできる。ある実施形態では、米国特許公開第2003/0195273号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、重合性組成物の安定性を増強するために、二次的なイオン性塩を含むことが好ましい可能性がある。
【0053】
還元剤及び酸化剤は、適切な遊離基生成速度を得るのに十分な量で存在する。これは、任意の充填剤を除く、重合性組成物の全成分を混ぜ合わせることにより、及び、ハードニングされた塊が得られたか否かを観察することにより、評価することができる。
【0054】
好ましくは、還元剤は、重合性組成物の構成成分の総重量(水を含む)を基準にして、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在する。還元剤は、重合性組成物の構成成分の総重量(水を包含する)を基準にして、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0055】
酸化剤は、重合性組成物の構成成分の総重量(水を包含する)を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在する。好ましくは、酸化剤は、重合性組成物の構成成分の総重量(水を含む)を基準にして、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0056】
還元剤又は酸化剤は、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化することができる。これは、一般に、重合性組成物の貯蔵安定性を増強し、必要であれば、還元剤又は酸化剤を共に包装することを許容するであろう。例えば、カプセル化用材料を適切に選択することにより、酸化剤及び還元剤を酸官能性成分及び任意の充填剤と共に組み合わせ、保管安定性状態に維持することができる。同様に、非水溶性カプセル化用材料を適切に選択することにより、酸化剤及び還元剤をFASガラス及び水と共に組み合わせ、安定した保管状態に維持することができる。
【0057】
レドックス硬化系は、他の硬化系、例えば米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているような光重合性組成物と組み合わせることができる。
【0058】
接着剤組成物は、所望により、その特性を向上させる及び/又は改質する追加の構成成分を含んでもよい。
【0059】
例えば、接着剤組成物は、歯牙組織及び歯の表面への接着を高めるために、約8〜約10重量%の重合性モノマー、例えば、ビス−GMA(ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート)、UDMA[(2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート)、及び9G(ポリ[エチレングリコール(400)]ジメタクリレートなどを任意に含んでもよい。
【0060】
更に、歯科用接着剤組成物は、所望により、硬組織構造及び表面への浸透を高めるために、及び、全体的な結合強度を高めるために、約6〜約15重量%の親水性の重合性モノマー、例えば、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)を更に含んでもよい。
【0061】
更に、接着剤組成物は、所望により、結合強度を高めるために、更に補助的な酸性モノマー、例えば、メタクリル酸、1,3ブタンジオールジメタクリレート、及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどを含んでもよい。
【0062】
接着剤組成物は、所望により、耐加水分解性を与えるために重合性モノマーを更に含んでもよい。耐加水分解性のために好適な化合物には、例えば、1官能性又は多官能性の重合性アミドモノマーが挙げられる。重合性アミドモノマーの例には1官能性又は多官能性(メタ)アクリルアミドが挙げられる。1官能性の重合性(メタ)アクリルアミドモノマーの例には、N−エチルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−デシルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、N−(2−ヒドロキシルプロピル)メタクリルアミドなどが挙げられる。多官能性の重合性アミドモノマーの例には、多官能性(メタ)アクリルアミドモノマー、例えば米国特許第6,953,832号(モズナー(Moszner)ら)に開示のものなどが挙げられる。
【0063】
接着剤組成物は、所望により、充填剤を含有することもできる。充填剤は、例えば、歯科修復組成物などにおいて現在使用される充填剤のような、歯科用途に使用される組成物への組み込みに好適な広範な物質のうち1種以上から選択することができる。
【0064】
充填剤は、好ましくは超微粒子状である。充填剤は、単峰性又は複峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、好ましくは20マイクロメートル未満、より好ましくは10マイクロメートル未満、最も好ましくは5マイクロメートル未満である。好ましくは、充填剤の平均粒径は0.1マイクロメートル未満、より好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
【0065】
充填剤は、無機物質であり得る。また、充填剤は、樹脂系に不溶性である架橋有機物質であってもよく、所望により無機充填剤と共に充填される。充填剤は、いかなる場合も非毒性であるべきであり、口内に使用するのに好適であるべきである。充填剤は、放射線不透過性又は放射線透過性であり得る。充填剤は典型的には実質的に水に不溶性である。
【0066】
好適な無機充填剤の例は、石英;窒化物(例えば、窒化ケイ素);例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn及びAlに由来するガラス;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;チタニア;米国特許第4,695,251号(ランドクレヴ(Randklev))に記載のもののような低モース硬度の充填剤;及び、サブミクロンシリカ粒子(例えば、オハイオ州アクロン(Akron)のデグサ社(Degussa Corp)から「OX 50」「130」「150」及び「200」を含む商品名「アエロジル(AEROSIL)」で入手可能なもの、並びにイリノイ州タスコラ(Tuscola)のキャボット社(Cabot Corp.)製のCAB−O−SIL M5シリカなどの焼成シリカ)を含むが、これらに限定されない、天然材料又は合成材料である。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填又は無充填の微粉状ポリカーボネート及びポリエポキシドなどが挙げられる。
【0067】
好ましい酸非反応性充填剤粒子は、石英、サブミクロンシリカ、及び米国特許第4,503,169号(ランドクレヴ(Randklev))に記載されている種の非ガラス質微小粒子である。これら酸非反応性充填剤の混合物、並びに、有機及び無機物質から作製される混合物充填剤も考えられる。特定の実施形態において、シラン−処理済ジルコニア−シリカ(Zr−Si)充填剤が特に好ましい。
【0068】
充填剤はまた、酸反応性(acid-reactive)充填剤であることもできる。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、及び金属塩が挙げられる。典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、及びフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが特に好ましい。ガラスがハードニング性組成物の構成成分と混合される時、ハードニングされた歯科組成物が形成されるように、FASガラスは、典型的に十分な溶出性カチオンを含有する。また、ガラスは、典型的に、十分な溶出性フッ化物イオンを含有するので、ハードニングされた組成物は抗う触性を有するであろう。ガラスは、フッ化物、アルミナ、及び他のガラス形成成分を含有する溶解物から、FASガラス製造技術における当業者によく知られている技術を使用して作ることができる。FASガラスは、典型的には、十分に超微粒子状の粒子の形態であるので、他のセメント構成成分と都合よく混合することができ、得られた混合物が口内に使用される時に、良好に機能する。
【0069】
一般に、FASガラスの平均粒径(典型的には直径)は、例えば、沈殿分析器を使用して測定した場合、約12マイクロメートル以下、典型的には10マイクロメートル以下、より典型的には5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者によく知られており、多種多様な民間の供給元から入手可能であり、多くは、商品名ヴィトレマー(VITREMER)、ヴィトレボンド(VITREBOND)、リライ・X・ルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)、リライ・X・ルーティング・プラス・セメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)、フォタック−フィル・クイック(PHOTAC-FIL QUICK)、ケタック−モラー(KETAC-MOLAR)、及びケタック−フィル・プラス(KETAC-FIL PLUS)(3M・ESPE・デンタルプロダクツ社(3M ESPE Dental Products)、ミネソタ州セントポール(St. Paul))、フジII LC(FUJI II LC)及びフジIX(FUJI IX)(G−Cデンタル工業社(G-C Dental Industrial Corp.)、日本、東京)、並びにケムフィル・スペリオール(CHEMFIL Superior)(デンツプライ・インターナショナル社(Dentsply International)、ペンシルベニア州ヨーク(York))での市販のものなど現在利用可能なガラス・アイオノマー・セメント内に見出される。所望する場合、充填剤の混合物を使用することが可能である。
【0070】
充填剤と樹脂との間の結合を強化するために、充填剤粒子の表面を、カップリング剤で処理することもできる。好適なカップリング剤の使用は、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、及びγ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを含む。
【0071】
他の好適な充填剤は、米国特許第6,387,981号(チャン(Zhang)ら)及び同第6,572,693号(ウー(Wu)ら)並びにPCT国際公開特許第01/30305号(チャンら)、同第01/30306号(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、同第01/30307号(チャンら)、及び同第03/063804号(ウーら)に開示されている。これらの参考文献に記載されている充填剤構成成分としては、ナノサイズシリカ粒子、ナノサイズ金属酸化物粒子、及びこれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤については、米国特許第7,090,721号、同第7,090,722号、及び同第7,156,911号にも記載されている。
【0072】
充填剤を含む本発明のある実施形態(例えば、歯科用接着剤組成物)において、組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の充填剤を含む。こうした実施形態において、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは最大40重量%、より好ましくは最大20重量%、最も好ましくは最大15重量%の充填剤を含む。
【0073】
別の実施形態(例えば、組成物が歯科修復材又は歯科矯正用接着剤である場合)では、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、及び最も好ましくは少なくとも50重量%の充填剤を含む。そのような実施形態において、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは最大90重量%、より好ましくは最大80重量%、更により好ましくは最大70重量%の充填剤、最も好ましくは最大50重量%の充填剤を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、接着剤組成物は歯牙組織と著しく異なる初期色を有する。色は、好ましくは、光退色性色素の使用を介して組成物に付与される。組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.001重量%の光退色性色素を含み、より好ましくは少なくとも0.002重量%の光退色性色素を含む。組成物は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは最大1重量%の光退色性色素を含み、より好ましくは最大0.1重量%の光退色性色素を含む。光退色性色素の量は、その減衰係数、初期色を識別する人間の目の能力、及び所望の色変化によって異なる。
【0075】
光退色性色素の発色性及び退色性は、例えば、酸強度、誘電率、極性、酸素の量、及び大気中の含水率を含む様々な要因に応じて変わる。しかし、この色素の退色性は、組成物を照射して色変化を評価することによって容易に判断することができる。好ましくは、少なくとも1つの光退色性色素は、ハードニング性樹脂に少なくとも部分的に可溶性である。
【0076】
例示的な光退色性色素の部類は、例えば、米国特許第6,331,080号(コール(Cole)ら)、同第6,444,725号(トロム(Trom)ら)、及び同第6,528,555号(ニクトウスキー(Nikutowski)ら)に開示されている。好ましい色素としては、例えば、ローズベンガル(Rose Bengal)、メチレンバイオレット(Methylene Violet)、メチレンブルー(Methylene Blue)、フルオレセイン(Fluorescein)、エオシンイエロー(Eosin Yellow)、エオシンY(Eosin Y)、エチルエオシン(Ethyl Eosin)、エオシンブルイッシュ(Eosin bluish)、エオシンB(Eosin B)、エリスロシンB(ErythrosinB)、エリスロシンイエロー調ブレンド(Erythrosin Yellowish Blend)、トルイジンブルー(Toluidine Blue)、4’,5’−ジブロモフルオレセイン(4',5'-Dibromofluorescein)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0077】
本発明の組成物における色変化は、光によって開始する。好ましくは、組成物の色変化は、化学放射線照射によって、例えば、可視光又は近赤外(IR)光を発する歯科用硬化光を十分な時間にわたって照射することによって開始される。本発明の組成物で色変化が始まる機構は、樹脂をハードニングさせるハードニング機構と別個であってもよく、実質的に同時であってもよい。例えば、重合が化学的(例えばレドックス開始)又は熱的に開始する際に組成物はハードニングされ、初期色から最終色までの色変化は化学線への曝露の際のハードニングプロセスに続いて起こることができる。
【0078】
組成物における初期色から最終色までの色変化は、好ましくはカラーテストによって定量化される。カラーテストを使用して、三次元色空間内の全色変化を示すAE*の値を決定する。人間の目は、通常の照明条件下で約3ΔE*単位の色変化を検出することができる。本発明の歯科用組成物は、好ましくは少なくとも10の色変化ΔE*を有することができ、より好ましくはΔE*は少なくとも20であり、最も好ましくはΔE*は少なくとも40である。
【0079】
所望により、接着剤組成物は、添加剤、例えば、インジケーター、色素、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、酒石酸、キレート化剤、緩衝剤、安定剤、及び当業者には明白である他の類似成分を含有することができる。更に、薬剤又は他の治療物質を歯科用接着剤組成物に所望により添加することができる。例としては、歯科組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物供給源、増白剤、抗カリエス剤(例えば、キシリトール)、ミネラル補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応調整剤、チキソトロープ剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、口腔乾燥症の治療剤、及び減感剤などが挙げられるが、これらに限定されない。上述のいずれかの添加剤の組み合わせを用いてもよい。このような添加剤のどれか1つの選択及び量は、所望の結果を達成するために、当業者によって選択することができる。
【0080】
使用方法
接着剤組成物の例示的使用方法が、特に歯牙組織の修復及び/又は復元に関して、以下の実施例において記載される。一般に、歯科用途において、接着剤組成物は、乾燥していても乾燥していなくてもよい任意の歯牙組織の未処理面に、従来の技術を用いて適用することができる。歯牙組織は、歯牙構造(例えば、エナメル質、象牙質、及びセメント質)及び骨を含む。未処理の歯の表面は、好ましくは、接着剤組成物の適用前にエッチャント、プライマー、結合剤、又は水で前処理されていない。
【0081】
接着剤組成物を適用する前に、歯牙組織はカットされていても(cut)であっても非カット(uncut)であってもよい。本明細書で用いる時、非カット(uncut)歯牙組織表面は、切削、研削(grinding)、又は穿孔(drilling)などによって加工されていない歯牙組織表面を指す。
【0082】
歯牙組織表面は好ましくは乾燥していて、これは、乾燥させた(例えば、風乾)、目に見える水分が存在しない歯牙組織の表面のことを指す。
【0083】
適用方法は種々様々であるが、典型的には、例えばブラシのようなアプリケータを含むデリバリーシステムを用いて、歯科用接着剤組成物を歯牙組織表面に直接適用してもよい。典型的には約5〜約30秒である十分な処置時間に続き、組成物を所望により穏やかな空気流で空気乾燥してもよい。典型的な空気乾燥には約5〜約30秒かかる。
【0084】
適用後、歯牙組織表面上にフィルム様の層が形成されるのに十分な時間にわたって、接着剤組成物を少なくとも部分的にハードニング又は硬化する。本明細書で用いる時、ハードニング又は硬化は互換的に用いられ、例えば、組成物に含まれる1種類以上の物質が関与する光重合反応及び化学重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物を重合させるのに効果的なラジカルを形成するイオン反応又は化学反応)を含む重合反応及び/又は架橋反応を指す。一実施形態において、接着剤組成物が光重合性化合物を含む場合、硬化工程は、接着剤組成物を、組成物中で用いる光開始剤系に応じて典型的には約380〜450nmである好適な波長の光に暴露することを必要とする。好適なランプには、例えば、ミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M・ESPE・デンタルプロダクツ社(3M ESPE Dental Products)から商品名「エリパール(ELIPAR)」で入手可能なものが挙げられる。
【0085】
部分的に硬化した組成物は、歯科用接着剤組成物と歯牙組織表面を形成している物質(例えば象牙質/エナメル質)とのフィルム様反応生成物の層を形成する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、現在利用可能な証拠は、多官能性(メタ)アクリレート接着剤のマイクロエマルションの樹状過分枝構造が歯牙組織表面を透過し、細胞間レベルの結合を形成することを示している。この結合は高密度の架橋領域を有するが、部分的硬化の後、多官能性(メタ)アクリレートは更なる架橋のための十分な残留官能基を持ち続ける。典型的には(例えば、エナメル質のような歯牙組織の表面に接着した硬化された歯科修復用複合組成物のパッドの周囲に配置された、歯科矯正用ワイヤのループを引っ張ることにより測定される時)、フィルム様の層と歯牙組織表面との間の結合は、約5〜約30MPa、より好ましくは約7〜約30MPa、最も好ましくは約10〜約30MPaである。
【0086】
最後に、部分的に硬化した接着剤組成物を完全に硬化する。完全硬化工程の前のいかなる時点でも、歯科用材料(例えば、ミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M・ESPE・デンタルプロダクツ社(3M ESPE Dental Products)から商品名「フィルテック(FILTEK)Z250ユニバーサルレストレーティブ(UNIVERSAL RESTORATIVE)」で入手可能なもののような歯科修復材)を硬化していない又は部分的に硬化した接着剤組成物の層に所望により適用することができる。一実施形態において、修復材の下にある硬化していない又は部分的に硬化した接着剤組成物は、380〜450nmの光を約20秒間にわたって当てることによって完全に硬化する。
【0087】
歯牙組織表面に歯科用材料を接着させる方法は、結果として、エナメル質又は象牙質(又は好ましくはその両方)に対して少なくとも7MPa、より好ましくは少なくとも15MPa、最も好ましくは少なくとも20MPaの結合形成をもたらす。
【0088】
歯科用途では、本明細書に記載の接着剤組成物は、バルク形態に予めパッケージ化されて提供されてもよく、あるいは、例えば、ブラシ又は他のアプリケータと修復材とを含むデリバリーシステムのような歯科専門家に有用な補助装置と組み合わせたキットの形態で提供されてもよい。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態が以下の実施例によって説明される。特定の実施例、材料、量、及び手順が本明細書で記載された本発明の範囲及び趣旨により広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【実施例】
【0090】
本発明の目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に、本発明を不当に制限するものと解釈すべきではない。特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【0091】
特に指定しない限り、全ての溶媒及び試薬は、ミズーリ州セントルイス(St. Louis)のシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich, Inc.)から入手した、又は入手可能なものである。
【0092】
本明細書で使用する時、
「IEM」は、2−イソシアナトエチルメタクリレートを指す。
【0093】
「ビスGMA」は、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパンを指す。
【0094】
「CPQ」は、カンファーキノンを指す。
【0095】
「EDMAB」は、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエートを指す。
【0096】
「DPIHFP」は、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートを指す。
【0097】
「BH2003」は、オハイオ州トレド(Toledo)のパーストープ・ポリオールズ社(Perstorp Polyols, Inc)から商品名「ボルトーン(BOLTORN)H2003」で入手可能な、ヒドロキシル官能基を約12個有するように計算された樹状ポリオールを指す。
【0098】
「BH2004」は、オハイオ州トレド(Toledo)のパーストープ・ポリオールズ社(Perstorp Polyols, Inc)から商品名「ボルトーン(BOLTORN)H2004」で入手可能な、ヒドロキシル官能基を約6個有するように計算された樹状ポリオールを指す。
【0099】
「BU3000」は、オハイオ州トレド(Toledo)のパーストープ・ポリオールズ社(Perstorp Polyols, Inc)から商品名「ボルトーン(BOLTORN)U300」で入手可能な、ヒドロキシル官能基を約14個有するように計算された樹状ポリオールを指す。
【0100】
「BW3000」は、オハイオ州トレド(Toledo)のパーストープ・ポリオールズ社(Perstorp Polyols, Inc)から商品名「ボルトーン(BOLTORN)W3000」で入手可能な樹状ポリオールを指す。
【0101】
「TMPTMA」は、トリメチロールプロパントリメタクリレートを指す。
【0102】
「MHP」は、米国特許公開第2005/0175966号に記載の通りに調製された6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートを指す。
【0103】
「MDP」は、米国特許公開第20050175966号に記載の通りに調製された10−メタクリルオキシデシルホスフェートを指す。
【0104】
「MOP」は、米国特許公開第20050175966号にMHP及びMDPの調製に関して記載された通りの方法を本質的に用いて1,8−オクタンジオールから調製した8−メタクリルオキシオクチルホスフェートを指す。
【0105】
「HEMA」は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを指す。
【0106】
「1,3−BDDM」は、1,3−ブタンジオールジメタクリレートを指す。
【0107】
「MA」は、メタクリル酸を指す。
【0108】
「TEGDMA」は、トリエチレングリコールジメタクリレートを指す。
【0109】
「2−TMSEM」は、2−(トリメトキシシロキシ)エチルメタクリレート(ペンシルベニア州ウォリントン(Warrington)のポリサイエンス社(Polysciences Inc.)から入手)を指す。
【0110】
「CN2300」は、ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Co., Inc.)から商品名「CN2300」で入手可能なポリエステルアクリレートオリゴマーを指す。
【0111】
「CN2301」は、ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Co., Inc.)から商品名「CN2301」で入手可能なポリエステルアクリレートオリゴマーを指す。
【0112】
「CN2302」は、ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Co., Inc.)から商品名「CN2302」で入手可能なポリエステルアクリレートオリゴマーを指す。
【0113】
「2HPM」は、N−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミドを指す。
【0114】
「3KMPS」は、3−(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸カリウムを指す。
【0115】
「ジルコニアゾル」は、例えば、製造例1に記載の通りに調製された水性ジルコニアゾルを指す。
【0116】
「SR534」は、ペンシルベニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Co., Inc.)から商品名「SR534」で入手可能な多官能性アクリル酸エステルを指す。
【0117】
「DMAPM」は、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを指す。
【0118】
「EDMA」は、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセンを指す。
【0119】
「AA/ITA/IEM」は、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載の通りに調製されたたポリマーを指す。
【0120】
接着性試験
所与の試験試料のエナメル質又は象牙質への接着剤のせん断接着強度を以下の手順で評価した。軟組織のないウシの切歯を円形のアクリル円板に埋め込んだ。使用前、埋め込まれた歯は、水に入れて冷却装置の中で貯蔵した。試験する接着剤の調製において、埋め込まれた歯は、平坦なエナメル質又は象牙質の表面を暴露するために、宝石研磨ホイールに実装した120グリットのサンドペーパーを用いて研削した。宝石研磨ホイール上の320グリットのサンドペーパーを用いて、歯の表面を更に研削し研磨した。研削工程中は歯を水を用いて連続的にすすいだ。研磨された歯を脱イオン水中に貯蔵し、研磨後2時間以内に試験に使用した。歯を36℃のオーブンで室温(約23℃)と使用前の36℃との間まで温めた。
【0121】
歯科用アプリケータブラシを用いて、接着剤エマルションの試験試料を、準備したエナメル質又は象牙質の表面全体の上に約20秒間にわたって適用した。更に約10秒経過した後、コーティングされたエナメル質又は象牙質、コーティングを約10秒間にわたって気流に暴露した。次に、接着剤コーティングをXL3000歯科用硬化用光源(dental curing light)(ミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M・ESPE・デンタルプロダクツ社(3M ESPE Dental Products))で10秒間にわたって硬化した。内径約4.7ミリメートルを有する厚さ2.5mmの円筒形ポリ(テトラフルオロエチレン)成形型を、成形型の開口部が接着調製された歯の表面の部分を暴露するように歯の上のコーティングの上に定置した。複合修復材であるA2シェード(A2 shade)のフィルテック(FILTEK)Z250ユニバーサルレストレーティブ(UNIVERSAL RESTORATIVE)(ミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M・デンタルプロダクツ社(3M ESPE Dental Products))を、開口部が完全に充填されるように開口部に定置した。次に、修復材を20秒間にわたって光硬化して、歯に接着接合された「パッド」を形成した。
【0122】
モデル(Model)4505試験装置(マサチューセッツ州カントン(Canton)のインストロン社(Instron Corp.)から入手可能)のつかみ具に締め付けられるホルダにアセンブリ(前述)を、研磨された歯の表面が引張方向に平行な向きになるようにして取り付けることにより、硬化した試験試料の接着強度を評価した。隣接する複合修復材の硬化したパッドの周囲に、歯科矯正用ワイヤ(直径0.44mm)のループを定置した。歯科矯正用ワイヤの端部をインストロン(INSTRON)装置のつかみ具で締め付け、ワイヤを2ミリメートル/分のクロスヘッド速度で引っ張った。結合が破壊された時の力を記録し、この数値を、パッドの表面積を使用して単位面積当たりの力(MPaの単位)に変換した。本実施例において、エナメル質及び象牙質への接着の値はそれぞれ、4つ又は5つの反復の平均値を表す。
【0123】
調製実施例1
ジルコニアゾルの調製
公称平坦幅が32mm、公称直径が20.4mm、及び分画分子量が12,000〜14,000である透析用チューブ(ペンシルベニア州ウェストチェスター(West Chester)のVWRインターナショナル社(VWR International, Inc.)から商品名「スペクトラ(SPECTRA)/POR」で入手)の約30.5cm(12インチ)の部分を蒸留水に48時間浸した。次に、透析用チューブに約50mLのジルコニアゾル(米国特許出願公開第20060204676号に記載の通りに調製した)を充填した。透析用チューブの両端を密封し、次にチューブをビーカーの中の蒸留水(約4リットル)に約24時間にわたって懸垂した。この間に6回、ビーカーの水を取り除いて蒸留水と交換した。この透析されたジルコニアゾルの濃度を、少量計量したゾルの一部を強制空気オーブン中の皿の中で乾燥させることにより測定した。次に、十分な量の蒸留水を残りの透析されたジルコニアゾルに加えて、濃度25重量%の希釈ゾルを得た。この希釈ゾルの一部(50g)をガラス瓶に移した。希釈ゾルを磁気撹拌しながら、メタクリル酸(1.17g)をゾルにゆっくりと(約5分間にわたり)加えた。次に、混合物を、モデル(Model)350ソニファイアー(SONIFIER)ソニケータ(コネティカット州ダンベリー(Danbury)のブランソンウルトラソニックス社(Branson Ultrasonics Corp.)から入手)を使用して、瓶をソニケータの循環している冷却水浴で冷却しながら10分間にわたって超音波処理した。ゾルを冷却装置で貯蔵し、各使用前に上記のように約5分間にわたって超音波処理した。
【0124】
(実施例1〜6)
樹状メタクリレートの調製
実施例1〜5のそれぞれに関し、表1に記載の量(所望の化学量論で計算した量)の樹状ポリオールとIEMとの混合物、及びジラウリン酸ジブチル錫一滴を、室温の水浴に部分的に浸した反応フラスコ中で撹拌した。約10〜15分間にわたって撹拌した後で、混合物からの気泡の生成が開始した。気泡の生成を停止した後、混合物をそれぞれ約15分間以上にわたって撹拌し、生成物を得た。実施例1〜3、5、及び6のそれぞれの生成物を1H NMRで分析し、分子あたりのメタクリレート基の数を測定した。実施例1〜5の構成成分及び各反応結果を表1に示す。表1において、「メタクリレート基」は分子あたりのメタクリレート基の数を指す。
【表1】

【0125】
(実施例7〜16)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例7〜16の歯科用接着剤マイクロエマルションの構成成分は表2の通りである。実施例7〜16の歯科用接着剤マイクロエマルションを、表2に記載の量の構成成分(水以外)をバイアル瓶の中で混合して、均質な混合物を調製するためのボルテックスミキサーを用いることにより調製した。次に、CPQ(0.2g)、EDMAB(0.16g)、及びDPIHFP(0.13g)をそれぞれ混合物に加え、再度ボルテックスミキサーを使用して均質な混合物を調製した。次に穏やかに混合しながら水を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。表2において、「n/a」は構成成分が歯科用接着剤マイクロエマルション中に混合されなかったことを意味する。


【表2】

【0126】
実施例7〜16の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、一定時間にわたって表3に示される温度で保管されたマイクロエマルションを用いて実施された。データを表3に示す。表3において、「RT」は室温を意味し、保管時間0は、マイクロエマルション試料が新しく調製されたことを意味する。
【表3】

【0127】
(実施例17〜19)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例17〜19の歯科用接着剤マイクロエマルションの構成成分は表4に記載のものを含む。実施例17〜19の歯科用接着剤マイクロエマルションを、表4に記載の量の構成成分(水以外)をバイアル瓶の中で混合して、均質な混合物を調製するためのボルテックスミキサーを用いることにより調製した。次に、実施例19の組成物にトリフェニルアンチモン(0.01g)を加えた。続いて、CPQ(0.26g)、EDMAB(0.2g)、DPIHFP(0.18g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)それぞれを各混合物に加え、再度ボルテックスミキサーを使用して均質な混合物を調製した。次に穏やかに混合しながら水を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。表4において、「n/a」は構成成分が歯科用接着剤マイクロエマルション中に混合されなかったことを意味する。
【表4】

【0128】
実施例17及び18の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、一定時間にわたって表5に示される温度で保管されたマイクロエマルションを用いて実施された。接着データを表5に示す。表5において、「RT」は室温を意味し、保管時間0はエマルション試料が新しく調製されたことを意味する。
【表5】

【0129】
(実施例20〜30)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例20〜30の歯科用接着剤マイクロエマルション組成物を7つのバイアル瓶それぞれの中でMDP(1.5g)、TEGDMA(1.0g)、ビスGMA(2.0g)、エタノール(2.5g)、HEMA(1.5g)、及びMA(0.5g)を混合して調製した。実施例20の組成物では、TMPTMA(1.4g)及びCN2302(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例21の組成物では、TMPTMA(1.4g)及びCN2302(3.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例22の組成物では、実施例3の生成物(2.5g)及びCN2302(1.4g)をバイアル瓶に加えた。実施例23の組成物では、TMPTMA(1.4g)及びCN2301(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例24の組成物では、TMPTMA(1.4g)及びCN2301(3.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例25の組成物では、TMPTMA(1.4g)及びCN2300(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例26の組成物では、TMPTMA(1.4g)、実施例3の生成物(1.0g)及びCN2301(2.0g)をバイアル瓶に加えた。各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して混合した。続いて、各バイアル瓶にCPQ(0.25g)、EDMAB(0.2g)、DPIHFP(0.18g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)を加え、各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して再度混合した。穏やかに混合しながら各バイアル瓶に水(3.0g)を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。
【0130】
実施例20〜30の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、新たに調製したマイクロエマルション(すなわち、エマルションは貯蔵されていなかった)を使用して行われた。接着データを表6に示す。
【表6】

【0131】
実施例20及び21の接着剤マイクロエマルションの更なる試料を4℃〜8℃で1週間貯蔵し、その後接着性試験を用いて評価した。実施例20のマイクロエマルションでは、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ15.9MPa及び21.8MPaであった。実施例21のマイクロエマルションでは、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ19.0MPa及び16.2MPaであった。
【0132】
(実施例31〜34)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例31〜34の歯科用接着剤マイクロエマルション組成物を4つのバイアル瓶それぞれの中で、TMPTMA(1.4g)、MDP(1.85g)、TEGDMA(1.0g)、ビスGMA(2.0g)、エタノール(2.5g)、HEMA(1.5g)、及びMA(0.5g)を混合して調製した。実施例31の組成物では、CN2301(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例32の組成物では、実施例3の生成物(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例33の組成物では、CN2300(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例34の組成物では、実施例3の生成物(1.0g)及びCN2301(1.5g)をバイアル瓶に加えた。各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを用いて混合した。続いて、各バイアル瓶にCPQ(0.26g)、EDMAB(0.21g)、DPIHFP(0.18g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)を加え、各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して再度混合した。穏やかに混合しながら各バイアル瓶に水(3.0g)を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。
【0133】
実施例31〜34の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、新たに調製したマイクロエマルション(すなわち、エマルションは貯蔵されていなかった)を使用して行われた。接着データが表7に示されている。
【表7】

【0134】
(実施例35〜38)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例35〜38の歯科用接着剤マイクロエマルション組成物を、4つのバイアル瓶それぞれの中でMDP(1.85g)、ビスGMA(2.0g)、エタノール(2.5g)、及びMA(0.5g)を混合して調製した。実施例35の組成物では、CN2301(4.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例36の組成物では、実施例3の生成物(4.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例37の組成物では、CN2300(4.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例38の組成物では、実施例3の生成物(2.0g)及びCN2301(2.5g)をバイアル瓶に加えた。各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して混合した。続いて、各バイアル瓶にCPQ(0.23g)、EDMAB(0.18g)、DPIHFP(0.16g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)を加え、各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して再度混合した。穏やかに混合しながら各バイアル瓶に水(3.0g)を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。
【0135】
実施例35〜38の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、新たに調製したマイクロエマルション(すなわち、エマルションは貯蔵されていなかった)を使用して行われた。接着データを表8に示す。
【表8】

【0136】
(実施例39〜41)
歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例39〜41の歯科用接着剤マイクロエマルション組成物を3つのバイアル瓶それぞれの中でTMPTMA(1.4g)、TEGDMA(1.0g)、ビスGMA(2.0g)、エタノール(2.5g)、HEMA(1.5g)、及びMA(0.5g)を混合して調製した。実施例39の組成物では、MDP(1.85g)及び実施例3の生成物(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例40の組成物では、MOP(1.85g)及び実施例3の生成物(2.5g)をバイアル瓶に加えた。実施例41の組成物では、MHP(1.85g)及び実施例3の生成物(3.5g)をバイアル瓶に加えた。各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して混合した。続いて、各バイアル瓶にCPQ(0.25g)、EDMAB(0.20g)、DPIHFP(0.18g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)を加え、各バイアル瓶の内容物をボルテックスミキサーを使用して再度混合した。穏やかに混合しながら各バイアル瓶に水(3.0g)を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。
【0137】
実施例39〜41の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、新たに調製したマイクロエマルション(すなわち、エマルションは貯蔵されていなかった)を使用して行われた。実施例39のマイクロエマルションを用いると、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ14.6MPa及び2.7MPaであった。実施例40のマイクロエマルションを用いると、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ20.5MPa及び4.3MPaであった。実施例41のマイクロエマルションを用いると、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ20.2MPa及び7.5MPaであった。実施例41のマイクロエマルションの別個の評価を行い、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ19.2MPa及び1.6MPaであった。
【0138】
比較例1及び2
比較例1及び2の歯科用接着剤エマルションの構成成分は表9の通りである。比較例1及び2の歯科用接着剤エマルションを、表9に記載の量の構成成分(ジルコニアゾル(比較例1の場合)以外、又は水(比較例2の場合)以外)をバイアル瓶の中でバイアル瓶の中で混合して、均質な混合物を調製するためのボルテックスミキサーを用いることにより調製した。次に、CPQ(0.26g)、EDMAB(0.21g)、DPIHFP(0.18g)、及び2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(0.015g)をそれぞれ混合物に加え、再度ボルテックスミキサーを使用して均質な混合物を調製した。続いて、穏やかに混合しながらジルコニアゾル(比較例1)又は水(比較例2)を滴下により加え、歯科用接着剤エマルションを得た。表9において、「n/a」は構成成分が歯科用接着剤エマルション中に混合されなかったことを意味する
【表9】

【0139】
比較例1及び2の歯科用接着剤エマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、新たに調製したエマルション(すなわち、エマルションは貯蔵されていなかった)を使用して行われた。比較例1のエマルションを用いると、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ14.6MPa及び9.9MPaであった。比較例2のエマルションを用いると、硬化した修復材のパッドをエナメル質及び象牙質から引き離すのに必要な力は、それぞれ6.9MPa及び12.8MPaであった。
【0140】
(実施例42〜44)
SR534を含む歯科用接着剤マイクロエマルションの調製
実施例42〜44の歯科用接着剤マイクロエマルションの構成成分は表10の通りである。実施例42〜44の歯科用接着剤マイクロエマルションを、表10に記載の量の構成成分(水以外)をバイアル瓶の中で混合して、均質な混合物を調製するためのボルテックスミキサーを用いることにより調製した。次に、CPQ(0.24g)、EDMAB(0.19g)、DPIHFP(0.16g)、トリフェニルアンチモン(0.005g)、及びEDMA(0.015g)をそれぞれ混合物に加え、再度ボルテックスミキサーを使用して均質な混合物を調製した。次に穏やかに混合しながら水を滴下により加え、歯科用接着剤マイクロエマルションを得た。表10において、「n/a」は構成成分が歯科用接着剤マイクロエマルション中に混合されなかったことを意味する。
【表10】

【0141】
実施例42〜44の歯科用接着剤マイクロエマルションを上記の接着性試験を用いて評価した。接着性試験は、一定時間にわたって表11に示される温度で保管されたマイクロエマルションを用いて実施された。データを表11に示す。表11において、「RT」は室温(room temperature)を意味する。
【表11】

【0142】
本発明の様々な実施形態について説明した。これら及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬組織表面用エッチャントと、
4個を超える官能基を有する少なくとも1種類の多官能性(メタ)アクリレートモノマーと、
水とを含み、
油中水型エマルションである接着剤組成物。
【請求項2】
前記モノマーが、過分枝樹状ポリエステルポリオールから誘導されるアクリレート及びメタクリレートからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アクリレートが8〜16個の官能基を有し、
前記メタクリレートが6〜32個の官能基を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記エッチャントが、6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MHP)及び10−メタクリルオキシデシルホスフェート(MDP)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物がマイクロエマルションである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記マイクロエマルションが約100nm未満の水滴直径を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)及びトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)からなる群から選択される光重合性化合物を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ビス−GMA及びUDMAからなる群から選択されるモノマーを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
硬組織表面用浸透剤を更に含み、
該浸透剤がヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
(a)5〜25重量%の、4個を超える官能基を有する多官能性(メタ)アクリレートモノマーであって、過分枝樹状ポリエステルポリオールから誘導されるモノマーと、
(b)10〜25重量%の水と、
(c)0〜25重量%の、エチルアルコール、エチルアセテート、及びイソプロパノールからなる群から選択される共溶媒と、
(d)5〜11重量%の、象牙質及びエナメル質の少なくとも一方用のエッチャントと、を含み、
マイクロエマルションである、歯科用接着剤組成物。
【請求項11】
請求項10の接着剤組成物を歯牙組織表面に適用する工程を含む方法。

【公表番号】特表2010−514782(P2010−514782A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544175(P2009−544175)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/087711
【国際公開番号】WO2008/082929
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】