説明

硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置

【課題】 ガラスなど硬脆性材料の被削材基板に安価な超硬ボールエンドミルを用いて任意な直線及び曲線からなる複雑な平面パターンの微細な溝加工を行う高品質で効率性及び経済性に優れた硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置を提供する。
【解決手段】 切れ刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルを回転させガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に1μm以上の深さの溝を1回の切込みにより無損傷で切削加工を行う硬脆性無機材料加工方法及び加工装置であって、ボールエンドミルの回転軸が被削材基板の加工側表面に対し常にボールエンドミルを被削材基板の任意な直線及び曲線からなる平面パターンの溝に沿って加工送り方向側に所定の傾斜角を有するように被削材基板の移動及びボールエンドミルの移動を同時協調制御し、少なくとも前記被削材基板の移動を1軸方向としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置に関し、特にガラス質無機材料や単結晶シリコンなどの硬脆性無機材料などの被削材基板にボールエンドミルを用いて任意な直線及び曲線からなる平面パターンの微細な溝の加工を行う硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学反応を高速に行うことができ、微小量での反応が可能で、かつ、オンサイト分析等が実現できるという利点を持つマイクロTAS(Total Analysis System)(マイクロ化学チップ又はマイクロチップともいう)は、その開発が進み、化学、製薬、医療などの現場で多用されるようになっている。マイクロ化学チップは、幅10μm〜数100μm、深さ数10μm〜数100μmの微細な流路を有し、その流路内で混合・反応・分離・検出などのプロセスが行われる。反応性や検出感度の観点などから、流路の加工表面は鏡面状であることが必要とされ、ガラス質無機材料などの基板材料に対して微細な溝等の切削加工を施す技術が重要となっている。
【0003】
従来、ガラス基板に微細な溝等の加工を行うには、エキシマレーザやフッ酸等の化学薬品を使用したウェットエッチングなどの加工方法がある。
【0004】
しかし、ウェットエッチングなどの化学的な加工法には次のような問題点がある。フッ酸等は強酸の化学薬品であるので、有資格者を必要とし取り扱いに注意を要するとともに、環境保全ためには加工後の廃液処理が問題となる。このために、安全性対策を考慮する等のコストがかかる。
【0005】
さらに、安全性を考慮して薄い濃度のフッ酸溶液を使用することから、加工処理に時間がかかり、工程時間短縮の障害となる。また、所要の溝を形成するためのマスキングの手間もかかり、作業効率の低下となる。
【0006】
また、エキシマレーザやウェットエッチングによる加工の場合、複雑な形状の加工が困難であること、多品種への対応が困難であること、設備投資が多大であることなどの問題がある
【0007】
そこで、複雑な加工を行うことができ、また、多品種への対応が比較的容易である機械的手段による効率的な加工が検討され、その代表的な機械的加工方法の一例として、特殊な研削用砥石を用いた研削加工方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1の研削加工方法は、先端部が被加工物表面を異なる面粗さに加工することが可能な2種以上の砥粒層から形成された砥石を用いて、砥石を送り方向側へ傾斜させて研削加工する方法である。
【0008】
また、機械的加工方法の他の例として、本願の一発明者らによるボールエンドミル又はスクエアエンドミルを用いた切削加工方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
特許文献2の切削加工方法は、切れ刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルの回転軸が前記被削材の加工側表面に対してボールエンドミルの送り方向に相対的な傾斜角を有した状態で、ボールエンドミルを回転させてガラス質無機材料等の硬脆性無機材料からなる被削材に1μm以上の深さの溝を1回の切込みで無損傷で切削加工を行う方法である。
【0009】
なお、同時4軸制御加工装置においてボールカッタの軸心を垂直回転軸に対して傾斜させるとともにボールカッタの先端R(円弧)中心を前記垂直回転軸と一致させてボールカッタを支持する工具アタッチメントを用いた加工方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2006−35363号公報
【特許文献2】特開2005−96399号公報
【特許文献3】特開2003−205432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の研削加工方法では、表面粗さが小さく高品質な加工面を高効率で得るための研削用砥石が異なる面粗さに加工可能な2種以上の砥粒層から形成された特殊な構造であることから高価で、特にガラス質無機材料などの硬脆性無機材料に対しては最も高価なダイヤ砥粒が必要となるという問題点がある。また、砥石を用いた研削加工方法は、高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工には対応できないという問題点がある。
【0011】
また、特許文献1(図9)に示された加工装置は、ワークテーブルが3段のテーブルから構成され、それぞれXY平面内で回転自在、X軸及びY軸方向に移動させ、研削砥石が取付けられたスピンドル軸がZ軸方向に移動するように構成されている。このため、ワークテーブルの互いに直交するX軸、Y軸の移動機構を重ねた上にさらにXY平面内で回転する機構を重ねた重畳機構方式では化学チップ用ガラス等の硬脆性材の複雑かつ微細な溝加工に必要な高精度を維持するための剛性確保が相当困難で加工対象物(被削材)の位置決め誤差が大きく、さらに高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工には対応できないという問題点がある。
【0012】
これに対し、特許文献2の切削加工方法は、従来マイクロメートル単位のガラスの切削を行うために先端のとがったダイヤモンドのエンドミルを用いて一度に1μm以下しか加工できなく加工性が悪いという問題点を改善し、高価なダイヤモンド製でない比較的安価なcBN((Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)などの超硬合金製のボールエンドミルを用いて被削材の加工側表面に対してボールエンドミルの送り方向に相対的な傾斜角を有した状態で1μm以上の深さの溝を1回の切込みで無損傷で切削加工を行うようにしたものであって、化学チップの高集積化に必要な微細加工にも対応できる等の利点がある。しかし、特許文献2には、ボールエンドミルを用いた硬脆性無機材料の基礎的な加工方法について開示されているだけで、本願発明のような化学チップに適用する硬脆性無機材料基板上の任意な方向の直線及び曲線からなる複雑な平面パターンの溝加工方法ならびにその加工装置については具体的に開示されていない。
【0013】
すなわち、特許文献2(図2)に示された加工装置は、ステージ(ワークテーブル)がX軸及びY軸方向へ移動するとともにスピンドルヘッドがZ軸方向へ移動し、スピンドルがX軸、Y軸の二次元方向に対して任意に傾斜可能であるように構成されている。このようなステージの互いに直交するX軸、Y軸の移動機構を重ねた重畳機構方式では、化学チップ用ガラス等の硬脆性材の複雑かつ微細な溝加工に必要な高精度を維持するための剛性確保が相当困難で被削材の位置決め誤差が大きくなり、特に高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工には対応できないという問題点がある。
【0014】
また、特許文献3の加工方法は、工具ホルダからのボールカッタの突出量を可能な限り少なくし、かつ、ワークと工具ホルダ等との干渉を防ぎ、様々な立体形状を加工するためにボールカッタの軸心を垂直回転軸に対し傾斜させるように支持さているもので、特許文献2あるいは本願発明のように被削材の加工側表面に対してボールカッタの送り方向に相対的な一定の傾斜角を常に維持するように意図したものではなく、さらに、本願発明のような化学チップに適用する硬脆性無機材料基板上の任意な方向の直線及び曲線からなる複雑な平面パターンの溝加工を高精度で行うことは機構的及び制御的に難しいという問題点がある。
【0015】
そして、特許文献3(図4)に示された同時4軸制御加工装置は、ワークの互いに直交するX軸(第1軸)、Y軸(第2軸)と、ボールカッタのZ軸(第3軸)方向への直線動作及びZ軸を中心とするC軸(第4軸)の旋回動作とを同時制御して、ボールカッタにより、ワークに任意の曲面加工を行うもので、このようなワークの互いに直交するX軸、Y軸の移動機構を重ねた重畳機構方式では化学チップ用ガラス等の硬脆性材の複雑かつ微細な溝加工に必要な高精度を維持するための剛性確保が相当困難で、特に高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工には対応できないという問題点がある。
【0016】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、従来切削加工法では不可能とされていたガラスなどの硬脆性材料の被削材基板に市場で安価に手に入る超硬・cBN製の小径ボールエンドミルを用いて任意な直線及び曲線からなる複雑な平面パターンの微細な溝加工を行う高品質で効率性及び経済性に優れた硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の硬脆性無機材料加工方法は、切れ刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルを回転させてガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に1μm以上の深さの溝を1回の切込みにより無損傷で切削加工を行う硬脆性無機材料加工方法であって、前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の加工側表面に対して常にボールエンドミルを前記被削材基板の任意な直線及び曲線からなる平面パターンの溝に沿って相対的な加工送り方向側に所定の傾斜角を有するように前記被削材基板の移動及びボールエンドミルの移動を同時協調制御し、少なくとも前記被削材基板の移動を1軸方向としたことを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1記載の硬脆性無機材料加工方法であって、前記同時協調制御は、水平面内に配置された前記被削材基板の水平面内第1軸方向の直線移動と、前記被削材基板の上方に配置されたボールエンドミルの前記第1軸と平行水平面内で直交する第2軸方向の直線移動と、前記ボールエンドミルの垂直面内第3軸方向の直線移動と、前記ボールエンドミルの第3軸と平行な第4軸回りの水平旋回とを協調させて、前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の前記平面パターンの溝に沿って加工送り方向に対して常に前記傾斜角を維持するようNC制御により行われることを特徴とする。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の硬脆性無機材料加工方法であって、前記被削材基板が水中に置かれた状態で切削加工を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の硬脆性無機材料加工方法であって、前記ボールエンドミルの傾斜角は、ボールエンドミルの切れ刃の外周面を所定の切込み深さに位置させたときに、ボールエンドミルの曲率半径の終端円周線が被削材基板の加工側表面と交差する位置まで傾斜した傾斜角度以上、かつ90°以内の範囲にあることを特徴とする。
【0021】
請求項5の発明の硬脆性無機材料加工装置は、切刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルを保持する第1のスピンドルを回転させてガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に1μm以上の深さの溝を1回の切込みにより無損傷で切削加工を行う硬脆性無機材料加工装置であって、前記被削材基板を保持して水平面内第1軸方向の直線移動を行う第1軸移動手段を有するワークテーブルと、前記ワークテーブルの上方に立設され、前記ボールエンドミルの回転軸が水平面に対して所定の傾斜角を有するように前記第1のスピンドルを支持し、前記第1軸と平行水平面内で直交する第2軸方向の直線移動を行う第2軸移動手段、垂直面内第3軸方向の直線移動を行う第3軸移動手段及び前記第3軸と平行な第4軸回りの水平旋回を行う第4軸旋回手段を有するコラムと、を備え、前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の加工側表面に対して常にボールエンドミルを前記被削材基板の任意な直線及び曲線からなる平面パターンの溝に沿って加工送り方向側に相対的な所定の傾斜角を維持するように前記第1、第2及び第3軸移動手段ならびに第4軸旋回手段が同時協調制御されることを特徴とする。
【0022】
請求項6の発明は、請求項5記載の硬脆性無機材料加工装置であって、前記ワークテーブル上に前記被削材基板を水中に保持する貯水槽を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項7の発明は、請求項5又は請求項6記載の硬脆性無機材料加工装置であって、前記被削材基板は、常温では強力な粘着力を保持し、所定の温度に冷却又は加熱すると粘着力を失って容易に前記被削材基板を貯水槽内から取り外し可能な特性を有する両面接着テープを用いて前記貯水槽内に固定されることを特徴とする。
【0024】
請求項8の発明は、請求項5乃至請求項7のいずれか1項記載の硬脆性無機材料加工装置であって、前記第1のスピンドルを取り付けるアタッチメントの下端部に、被削材基板の溝の位置検出及び画像処理手段による画像処理を行って前記第1、第2、第3軸移動手段及び第4軸旋回手段の同時協調制御におけるフィードバック制御もしくは溝形状測定による加工後の検証を行う光センサーあるいは視覚認識手段が設けられていることを特徴とする。
【0025】
請求項9の発明は、請求項5乃至請求項8のいずれか1項記載の硬脆性無機材料加工装置であって、前記被削材基板の所定の位置に穿孔もしくは座ぐり加工するカッターを保持した第2のスピンドルが、前記コラムに前記第1のスピンドルと併設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明によれば、超硬合金のボールエンドミルを利用して、ガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に対して、例えば深さ15〜20μm、幅200μm程度の微細加工溝を一度に効率よく切削加工できる。このため、従来のダイヤモンドのエンドミルを用いた加工では一度に1μm以下しか加工できなく加工性が悪いのに対し、生産性は従来の約20倍向上できる。また、超硬合金のボールエンドミルはダイヤモンドのエンドミルの約10分の1の価格であることから、生産性と工具のコストの両面から従来のダイヤモンドのエンドミルを用いた加工方法の約200分の1のコストダウンが可能である。
【0027】
また、被削材基板の加工側表面に対して常にボールエンドミルの相対的な加工送り方向側への所定の傾斜角を保持するように被削材基板の1軸方向の移動とボールエンドミルの多軸移動を同時協調制御することにより、被削材基板の任意な直線及び曲線からなる複雑な平面パターンの溝を加工することができ、従来の被削材を直交するX軸、Y軸の移動機構を重ねた重畳機構方式に比べて被削材基板の位置決め等の高精度を維持するための剛性確保ができる。このように、被削材基板の位置誤差を生じ易い被削材基板側を最小限一つの単純な直線移動機構にとどめることにより、加工装置全体の剛性を確保して高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工を実現することが可能である。
【0028】
請求項2の発明によれば、被削材基板の1軸方向の移動とボールエンドミルの2軸移動及び1軸旋回とを同時協調させてNC制御することにより、加工装置全体の剛性を確保して高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工の信頼性を一層向上させることができる。
【0029】
請求項3の発明によれば、請求項1又は請求項2の発明と同様な効果を有するのに加えて、水中ではガラスなどの硬脆性無機材料の機械的強度が低下するので切削性の向上とともに加工部の局部的な温度上昇による被削材基板の温度不均一性を抑えて割れ防止を図ることができる。
【0030】
請求項4の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、ボールエンドミルの被削材基板の加工側表面に対する傾斜角度を適用範囲に規定することにより、最適な切削加工速度を確保して生産性を向上させることができる。
【0031】
請求項5の発明によれば、被削材基板を保持するワークテーブルの1つの第1軸移動手段とボールエンドミルを保持する第1のスピンドルの2つの第2軸、第3軸移動手段及び第4軸旋回手段とを同時協調制御するように構成されているので、前記請求項1乃至請求項3のいずれか1項の発明と全く同様な効果を有することができる。
【0032】
請求項6の発明によれば、請求項5の発明と同様な効果を有するのに加えて、ワークテーブル上の貯水槽内に被削材基板を保持して水中で加工することができ、前記請求項3の発明と全く同様な効果を有する。
【0033】
請求項7の発明によれば、請求項5乃至請求項6のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、冷却又は加熱すると粘着力を失う特殊な両面接着テープを用いてワークテーブル上の貯水槽内に被削材基板を固定するので、被削材基板のワークテーブル上への取り付け及び取り外しがボルト止め治具による一般的な固定方法に比べて作業が簡素化され、作業効率が著しく向上する。
【0034】
請求項8の発明によれば、請求項5乃至請求項7のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、光センサーあるいは視覚認識手段及び画像処理手段により前記X、Y、Z軸方向の移動制御及びC1軸周りの旋回制御におけるフィードバック制御や加工部形状測定等の加工後の検証などを行うことができる。これにより、高機能化・多機能化のために一層微細な溝が緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工に対応する信頼性を一層向上させることができる。
【0035】
請求項9の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、コラムに第1のスピンドルと併設された第2のスピンドルにより、同一の硬脆性無機材料加工装置で第1のスピンドルで溝加工を行うのと前後自在に化学チップに必要な穿孔や座ぐりなどを加工することができる。これにより、化学チップの加工工程を短縮化し生産性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を図示する実施例により具体的に説明する。
【0037】
図1は本発明の一実施の形態の硬脆性無機材料加工装置の正面図、図2は図1の側面図、図3は図1のA−A矢視横断面図、図4は図1のB−B矢視図、図5は本発明の硬脆性無機材料加工方法のボールエンドミル加工部の説明図、図6は化学チップの一例写真である。
【0038】
本発明の硬脆性無機材料加工装置は、ガラス質無機材料等の硬脆性無機材料からなる被削材基板Gを保持するワークテーブル4とワークテーブル4の上方に門型形状に立設されスピンドル2を支持するコラム8とを備えている。
【0039】
ワークテーブル4は、水平面内第1軸(Y軸)方向の直線移動を行う第1軸移動手段(Y軸移動手段)3を有する。
【0040】
コラム8は、Y軸と平行な水平面内で直交する第2軸(X軸)方向の直線移動を行う第2軸移動手段(X軸移動手段)5、X軸に対して垂直な第3軸(Z軸)方向の直線移動を行う第3軸移動手段(Z軸移動手段)6及びZ軸と平行なC1軸回りの水平旋回を行う旋回手段(C1軸旋回手段)7を有する。
【0041】
前記特許文献1乃至3等のような従来の加工装置が被削材を保持するワークテーブルを水平面内に直交するX軸及びY軸方向の直線移動機構あるいはさらに旋回機構を積み重ねた重畳機構方式であるのに対し、本発明の硬脆性無機材料加工装置は、被削材基板Gを保持するワークテーブル4の水平面内移動をY軸移動手段3によるY軸方向直線移動一つに限定し、スピンドル2側のX軸移動手段5による水平X軸方向直線移動及びZ軸移動手段6による垂直Z軸方向直線移動に分離した構成としている。このように、被削材基板Gの位置誤差を生じ易いワークテーブル4側を最小限一つの単純な直線移動機構にとどめることにより、加工装置全体の剛性を確保して高機能化・多機能化のために一層微細な溝Gaが緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工を実現することを可能にしている。
【0042】
第1のスピンドル2は、例えば最高回転数80000rpmのブラッシュレスモータにより駆動され、図2に示すように、スピンドルヘッド71の下部にスピンドルアタッチメント72が取り付けられ、このスピンドルアタッチメント72にスピンドルクランプ73を介してボールエンドミル1の回転軸(S軸)が水平面に対し任意に所定の傾斜角θを保持するよう設定可能に取付けられている。
【0043】
このように、水平に固定された硬脆性無機材料からなる被削材基板Gの加工表面G1に対しボールエンドミル1を加工方向に所定の傾斜角θに保持しての加工原理(図5参照)は、本願の一発明者らによる前記特許文献2の切削加工方法に基づいている。
【0044】
この場合、ボールエンドミル1は、先端の切れ刃12が鈍角で、かつ捩れ角(図示しない)を有しており、従来の高価なダイヤモンド製のものより略1/10程度安価なcBNなどの超硬合金製としても実用上十分な耐久性を有することが判明している。
【0045】
旋回機構7は、例えば減速機付サーボモータなどの旋回アクチュエータ74により駆動され、第1のスピンドル2を前記傾斜角θに保持して取り付けた状態でC1軸回りを正逆両方向に旋回させる。
【0046】
第1軸移動手段3は、図1〜3に示すように、ベット9上に設けられ、Y軸方向に延設された例えばリニアガイド機構32を介して移動可能に水平に設置されたワークテーブル4を例えば減速機付サーボモータなどの第1アクチュエータ31によりY軸方向に往復移動させる。
【0047】
ワークテーブル4は、内部に水を張ることができる貯水槽を備えた構造となっており、その貯水槽内に被削材基板Gを水平に保持する。これは、水中ではガラスなどの硬脆性無機材料の機械的強度が低下するので切削性の向上とともに加工部の局部的な温度上昇による被削材基板の温度不均一性を抑えて割れ防止を図ることができ、硬脆性無機材料のボールエンドミル加工を水中で行うのが好ましいためである。
【0048】
ワークテーブル4の貯水槽内に被削材基板Gを固定する方法には次の二つの例がある。
一つの例は、ワークテーブル4の貯水槽内にいずれも図示しない穿設された複数のボルト穴を介して治具により被削材基板Gを固定する一般的な方法である。
【0049】
他の例は、図示しない特殊な両面接着テープを用いてワークテーブル4の貯水槽内に被削材基板Gを固定する方法である。この特殊な両面接着テープには2種類あって、ここでは詳細な説明は省略するが、いずれも常温では強力な粘着力を保持し、一方のものは例えばおよそ0℃近辺まで冷却すると粘着力を失い、他方のものは例えばおよそ50〜60℃近辺まで加熱すると粘着力を失って容易に被削材基板Gをワークテーブル4から切り離すことが可能な特性を有するアクリル系粘着剤をそれぞれ例えばPETテープの両面に塗膜したものである。
【0050】
このような、特殊な両面接着テープを用いてワークテーブル4上に被削材基板Gを固定する方法は、被削材基板Gのワークテーブル4の貯水槽内への取り付け及び取り外しがボルト止め治具による一般的な固定方法に比べて作業が簡素化され、作業効率が著しく向上する。
【0051】
第2軸移動手段5は、図1、2及び4に示すように、ベット9上に立設された門型形状のコラム8の上部にX軸方向に延設された例えばリニアガイド機構52を介して移動可能に垂直方向に設置されたX軸架台51を例えば減速機付サーボモータなどの第2アクチュエータ53によりX軸方向に往復移動させる。
【0052】
X軸架台51の側面上には、第3軸移動手段6が設けられている。第3軸移動手段6は、図1、2及び4に示すように、X軸架台51の側面上にZ軸方向に延設された例えばリニアガイド機構62を介して移動可能に垂直方向に設置されたZ軸架台61を例えば減速機付サーボモータなどの第3アクチュエータ63によりZ軸方向に上下移動させる。
【0053】
Z軸架台61の側面上には、第1のスピンドル2を支持するスピンドルヘッド71をZ軸に平行なC1軸回りに旋回する前記の旋回機構7がC1軸に沿って垂直方向に設けられている。
【0054】
さらに、Z軸架台61の側面上には、Z軸に対してC1軸と反対側平行なC2軸に沿って例えばスクエアエンドミルなどのカッター11を先端部に把持した第2のスピンドル10が垂直方向に第1のスピンドル2と併設されている。第2のスピンドル10は、例えば最高回転数80000rpmのブラッシュレスモータにより駆動され、カッター11により被削材基板Gの所定の位置に例えば図6の化学チップの一例写真に示すような穿孔Gbあるいは座ぐり(図示しない)などを加工するのに用いられる。
【0055】
このように、同一の硬脆性無機材料加工装置で、第1のスピンドル2で溝Gaの加工を行うのと前後自在に第2のスピンドル10で化学チップに必要な穿孔Gbや座ぐりなどを加工することにより、化学チップの加工工程を短縮化し生産性を向上させることができる。
【0056】
また、図2に示すように、スピンドルアタッチメント72のC1軸上の下端部には、レーザなどの光センサー100あるいは図示しないCCDカメラなどの視覚認識手段が設けられている。光センサー100あるいは視覚認識手段は被削材基板Gの溝Gaなどの位置検出及び図示しない画像処理手段による画像処理等を行い、前記X、Y、Z軸方向の移動制御及びC1軸周りの旋回制御におけるフィードバック制御や加工部形状測定等の加工後の検証などを行う。これにより、高機能化・多機能化のために一層微細な溝Gaが緻密に高集積化されて形成される化学チップの高精度微細加工に信頼性を向上させて対応することができる。
【0057】
以上のような構成により、ボールエンドミル1の回転S軸が被削材基板Gの加工側表面G1に対して常にボールエンドミル1を被削材基板Gの任意な直線及び曲線からなる溝Gaに沿って加工送り方向側に相対的な所定の傾斜角θを常に維持するようにX軸移動手段5、Y軸移動手段3及びZ軸移動手段6ならびにC1軸旋回手段7が同時協調制御される。図1〜3中の符号110は操作盤、111は制御盤、112は前記各種モータコントローラを示し、これらはベット9内外に付属し硬脆性無機材料加工装置として床面上任意な場所に走行及び固定可能なように一体的にユニット化された構成となっている。
【0058】
この前記同時協調制御は、言い換えれば、水平面内に配置された被削材基板Gの水平面内Y軸方向の直線移動と、被削材基板Gの上方に配置された第1スピンドル2のY軸と平行水平面内で直交するX軸方向及び垂直面内Z軸方向の直線移動と、第1スピンドル2のZ軸と平行なC1軸回りの水平旋回とを協調させて、ボールエンドミル1の回転S軸が被削材基板Gの任意な直線及び曲線からなる複雑な平面パターの溝Gaに沿って加工送り方向に対して常に前記傾斜角θを維持するようにNC制御により行われる。
【0059】
従来のようにエンドミルの回転軸が被削材の加工側表面に対してほぼ直交するように切込まれる場合は、回転軸の中心付近は切れ刃の回転半径が小さいために切削速度も小さくなって切削加工性が低下することから切れ刃が仕上げ面を加工する際の材料を削る溝深さが例えばガラス製被削材基板の場合は割れない限界の1μm以下である。これに対して本発明においては、図5に示すように、ボールエンドミル1の切れ刃12の外周面を所定の切込み深さTに設定したときに、ボールエンドミル1の曲率半径Rの終端円周線11が被削材基板Gの加工側表面G1と交差する位置までボールエンドミル1を傾斜したときの傾斜角度θはθ=θ1となる。この状態において、被削材基板Gの加工側表面G1では切れ刃12の回転半径=曲率半径Rによる最も大きな切削速度となり、さらに加工溝Gaの底部では切れ刃12の回転半径rによる切削速度が最も大きくなる。
【0060】
これに対して、ボールエンドミル1の傾斜角θを大きくすると、被削材基板Gの加工側表面G1では切れ刃12の回転半径rによる切削速度が小さくなり、加工溝Gaの底部では切れ刃12の回転半径rによる切削速度が小さくなる。
【0061】
このようなことから、ボールエンドミル1の回転S軸の傾斜角θの適用範囲としては、前記傾斜角θ1以上の角度θ≧θ1で送り方向に傾斜させることが望ましい。例えば、図5において、ボールエンドミル1の曲率半径R=200μm、切込み深さT=20μmであるとき、最小の傾斜角θは、cosθ=(200−20)/200であることから傾斜角θ≒26°となる。すなわち、この場合の傾斜角θの適用範囲は、26°≦θ<90°となる。ただし、最適な傾斜角θは、ボールエンドミル1の回転数、送り速度、切込み深さT、曲率半径R、操作性(加工効率)やその他の種々の加工条件との兼ね合いで設定される。
【0062】
ボールエンドミル1を用いた硬脆性無機材料の基礎的な加工方法の詳細については、本願の一発明者らによる前記特許文献2において具体的に述べられているので省略するが、ボールエンドミル1の傾斜角θ=45°で、曲率半径R=0.2mmと0.25mmの超硬ボールエンドミル1による切削加工試験の結果、ボールエンドミル1の回転数20000rpmにおける加工溝面が最も良好であって、ボールエンドミル1の回転数20000rpmにおいては、送り速度1〜8μm/secの範囲で良好な結果が得られている。
【0063】
なお、上記の切削加工試験ではボールエンドミル1の曲率半径R=0.2mmと0.25mmのものをそれぞれ用いて行っているが、実際にはその他の任意の曲率半径Rのボールエンドミル1を使用しても同様の作用効果が得られる。
【0064】
以上のような本発明の硬脆性無機材料加工方法及びその加工装置では、cBNなどの超硬合金のボールエンドミル1を利用して、例えばガラス製の被削材基板Gに深さ15〜20μm、幅200μm程度の微細加工溝Gaを一度に効率よく切削加工できることから、生産性は従来の回転軸が被削材の加工側表面に対してほぼ直交するように切込まれるエンドミルによる加工方法に比べて約20倍向上できる。また本発明の超硬合金のボールエンドミル1の場合、従来のダイヤモンドのエンドミルの約10分の1の価格で済むことから、生産性と工具のコストの両面で従来のダイヤモンドのエンドミルによる加工方法に比べて約200分の1のコストダウンが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態の硬脆性無機材料加工装置の正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1のA−A矢視横断面図である。
【図4】図1のB−B矢視図である。
【図5】本発明の硬脆性無機材料加工方法のボールエンドミル加工部の説明図である。
【図6】化学チップの一例写真である。
【符号の説明】
【0066】
1 ボールエンドミル
2 第1のスピンドル
3 第1軸(Y軸)移動手段
4 ワークテーブル
5 第2軸(X軸)移動手段
6 第3軸(Z軸)移動手段
7 旋回手段
8 コラム
9 ベット
10 第2のスピンドル
11 カッター
31、53、63 第1、第2、第3アクチュエータ
32、52、62 リニアガイド機構
71 スピンドルヘッド
72 スピンドルアタッチメント
73 スピンドルクランプ
74 旋回アクチュエータ
100 光センサー
110 操作盤
111 制御盤
112 各種モータコントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルを回転させてガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に1μm以上の深さの溝を1回の切込みにより無損傷で切削加工を行う硬脆性無機材料加工方法であって、
前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の加工側表面に対して常にボールエンドミルを前記被削材基板の任意な直線及び曲線からなる平面パターンの溝に沿って相対的な加工送り方向側に所定の傾斜角を有するように前記被削材基板の移動及びボールエンドミルの移動を同時協調制御し、少なくとも前記被削材基板の移動を1軸方向としたことを特徴とする硬脆性無機材料加工方法。
【請求項2】
前記同時協調制御は、水平面内に配置された前記被削材基板の水平面内第1軸方向の直線移動と、前記被削材基板の上方に配置されたボールエンドミルの前記第1軸と平行水平面内で直交する第2軸方向の直線移動と、前記ボールエンドミルの垂直面内第3軸方向の直線移動と、前記ボールエンドミルの第3軸と平行な第4軸回りの水平旋回とを協調させて、前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の前記平面パターンの溝に沿って加工送り方向に対して常に前記傾斜角を維持するようNC制御により行われることを特徴とする請求項1記載の硬脆性無機材料加工方法。
【請求項3】
前記被削材基板が水中に置かれた状態で切削加工を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の硬脆性無機材料加工方法。
【請求項4】
前記ボールエンドミルの傾斜角は、ボールエンドミルの切れ刃の外周面を所定の切込み深さに位置させたときに、ボールエンドミルの曲率半径の終端円周線が被削材基板の加工側表面と交差する位置まで傾斜した傾斜角度以上、かつ90°以内の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の硬脆性無機材料加工方法。
【請求項5】
切刃丸みとねじれ角を有する超硬ボールエンドミルを保持する第1のスピンドルを回転させてガラス質無機材料、硬脆性無機材料からなる被削材基板に1μm以上の深さの溝を1回の切込みにより無損傷で切削加工を行う硬脆性無機材料加工装置であって、
前記被削材基板を保持して水平面内第1軸方向の直線移動を行う第1軸移動手段を有するワークテーブルと、
前記ワークテーブルの上方に立設され、前記ボールエンドミルの回転軸が水平面に対して所定の傾斜角を有するように前記第1のスピンドルを支持し、前記第1軸と平行水平面内で直交する第2軸方向の直線移動を行う第2軸移動手段、垂直面内第3軸方向の直線移動を行う第3軸移動手段及び前記第3軸と平行な第4軸回りの水平旋回を行う第4軸旋回手段を有するコラムと、を備え、
前記ボールエンドミルの回転軸が前記被削材基板の加工側表面に対して常にボールエンドミルを前記被削材基板の任意な直線及び曲線からなる平面パターンの溝に沿って加工送り方向側に相対的な所定の傾斜角を維持するように前記第1、第2及び第3軸移動手段ならびに第4軸旋回手段が同時協調制御されることを特徴とする硬脆性無機材料加工装置。
【請求項6】
前記ワークテーブル上に前記被削材基板を水中に保持する貯水槽を備えたことを特徴とする請求項5記載の硬脆性無機材料加工装置。
【請求項7】
前記被削材基板は、常温では強力な粘着力を保持し、所定の温度に冷却又は加熱すると粘着力を失って容易に前記被削材基板を貯水槽内から取り外し可能な特性を有する両面接着テープを用いて前記貯水槽内に固定されることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の硬脆性無機材料加工装置。
【請求項8】
前記第1のスピンドルを取り付けるアタッチメントの下端部に、被削材基板の溝の位置検出及び画像処理手段による画像処理を行って前記第1、第2、第3軸移動手段及び第4軸旋回手段の同時協調制御におけるフィードバック制御もしくは溝形状測定による加工後の検証を行う光センサーあるいは視覚認識手段が設けられていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項記載の硬脆性無機材料加工装置。
【請求項9】
前記被削材基板の所定の位置に穿孔もしくは座ぐり加工するカッターを保持した第2のスピンドルが、前記コラムに前記第1のスピンドルと併設されていることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか1項記載の硬脆性無機材料加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−230079(P2007−230079A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54577(P2006−54577)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(502034903)株式会社スズキプレシオン (13)
【Fターム(参考)】