説明

硬質炭素被膜摺動部材

【課題】摩擦係数の一層の低減を図ると共に、簡便なプロセスで製造することができ、効果の発揮される潤滑剤の種類の制約も少ない硬質炭素被膜摺動部材を提供すること。
【解決手段】摺動部位に備える硬質炭素被膜に、セリウムを1.5〜34原子%、ニッケル/コバルトを合計で2〜40原子%、これらの含有量が45原子%以下であるように含有する硬質炭素被膜摺動部材である。被膜中の水素の含有量が6原子%以下である。潤滑剤中で使用される。潤滑剤が自動車用エンジン油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質炭素被膜摺動部材に係り、更に詳細には、低摩擦特性に優れ、特にエンジンオイル、トラスミッションオイル等の潤滑剤中で使用するのに適した硬質炭素被膜摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質炭素被膜は、アモルファス状の炭素又は水素化炭素から成る膜であって、a−C:H(アモルファスカーボン又は水素化アモルファスカーボン)、i−C(アイカーボン)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン又はディーエルシー)などとも呼ばれている。
【0003】
このような硬質炭素被膜を形成するには、炭化水素ガスをプラズマ分解して成膜するプラズマCVD法、炭素や炭化水素イオンを用いるイオンビーム蒸着法などの気相合成法が用いられる。
【0004】
これらの方法で得られる硬質炭素被膜は、一般に高硬度で、表面が平滑であり耐摩耗性に優れる。また、その固体潤滑性から摩擦係数が低いなど優れた摺動特性を有している。
例えば、通常の平滑な鋼材表面は、無潤滑下での摩擦係数が0.5〜1.0であるのに対して、硬質炭素被膜は、無潤滑下での摩擦係数が0.1程度である。
【0005】
硬質炭素被膜は、上述のような優れた特性を活かし、ドリルの刃を始めとする切削工具や研削工具等の加工工具、塑性加工用金型、バルブコックやキャプスタンローラのような無潤滑下での摺動部品等に応用されている。
【0006】
一方、潤滑剤中で摺動する内燃機関などの機械部品においても、エネルギー消費や環境問題の面から、できるだけ機械的損失を低減したいという要望があり、摩擦損失の大きい摺動条件の厳しい部位への硬質炭素被膜の適用が検討されている。
【0007】
その1つとして、摺動部材に硬質炭素被膜を設けると共に、その組成や表面状態を制御し、無潤滑状態だけでなく潤滑剤が十分に存在する条件下でも摩擦係数を下げる試みがいくつかなされている。
【0008】
例えば、このような硬質炭素被膜にIVa、Va、VIa族元素及びシリコン(Si)のうちの1種以上を添加する方法が提案されている。この方法によると、これら元素を加えない場合に比べ摩擦係数が低減する(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−247060号公報
【0009】
また、このような硬質炭素被膜に銀(Ag)のクラスターを設ける方法も提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2004−099963号公報
【0010】
更に、このような硬質炭素被膜に適宜の金属元素を加えた上、更に膜中の酸素の含有量を制御することで低い摩擦係数を得ることも提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2004−115826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、測定方法の違いの影響はあるにせよ、モータリング試験での摩擦係数である0.06からは、もう一段の摩擦係数低減が望まれている。
【0012】
また、上記特許文献2に記載の方法では、摩擦係数を往復動試験によって測定しているので、直接の比較はできないが、摩擦係数は最小で0.04であり、同様にもう一段の摩擦係数低減が望まれている。
更に、当該硬質炭素被膜の上に、大きさや数を制御してAgクラスターを設ける必要があることから、プロセス制御の点で煩雑な面がある。
【0013】
更にまた、上記特許文献3では、金属元素の含有量と、酸素の含有量の双方を制御する必要があることから、より簡便なプロセスが望まれている。
また、この場合は、潤滑剤中にモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)のような極圧添加剤が必要となるため、効果を発揮できる潤滑剤の種類が限られるという問題点があった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摩擦係数の一層の低減を図ると共に、簡便なプロセスで製造することができ、効果の発揮される潤滑剤の種類の制約も少ない硬質炭素被膜摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、硬質炭素被膜の種類や成膜方法、更には硬質炭素被膜に添加成分として金属元素などのドーピングを施す方法などについて、鋭意検討を重ねた結果、硬質炭素被膜へのセリウム(Ce)のドーピングとともに、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)を添加することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、少なくとも相手材との摺動部位に硬質炭素被膜を備えた摺動部材であって、
上記被膜中に、セリウムを1.5〜34原子%の割合で含有し、ニッケル及び/又はコバルトを2〜40原子%の割合で含有し、これらの含有量が合計で45原子%以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の硬質炭素被膜摺動部材の好適形態は、上記被膜中の水素の含有量が6原子%以下、更に好適には1原子%以下であることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明の硬質炭素被膜摺動部材の他の好適形態は、潤滑剤中で使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硬質炭素被膜中に、セリウム(Ce)のドーピングとともに、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)を添加することにより、摩擦係数を大幅に低減することができる。特に当該摺動部材を自動車用のエンジン油やトランスミッション油等の潤滑剤存在下で用いた場合にその効果を顕著に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の硬質炭素被膜摺動部材について詳細に説明する。
【0021】
本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、上述のように、少なくとも相手材との摺動部位に硬質炭素被膜を備える。
また、この被膜中にセリウム(Ce)を1.5〜34原子%の割合で含有するとともに、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)のいずれか一方又は双方を2〜40原子%の割合で含有する。
【0022】
これにより、相手材との摺動の際には、低い摩擦係数を示す。
この理由については、現時点で必ずしも明確でないが、以下のように推測することができる。
【0023】
即ち、被膜中にセリウムと、ニッケル/コバルトとを添加したことによって、硬質炭素被膜の表面が潤滑剤中の基剤(基油)成分やこれに含まれる添加剤成分を吸着する能力が向上し、表面にこれら基油や添加剤から成る薄い膜が形成される。
これによって、面圧が高かったり又は摺動速度が遅かったりする条件、いわゆる境界潤滑条件においても、形成された膜が相手材との直接接触を防ぐという機構によって低い摩擦係数が発現するものと考えられる。
この効果は、セリウム単独の添加や、ニッケル又はコバルトを単独で添加した場合に比べ、相乗的作用で強調されると考えられる。
【0024】
このとき、セリウムとニッケル/コバルトは、硬質炭素被膜の表面から深部までの全てに均等に含有させる必要は必ずしもなく、少なくとも摺動する表面及び摩耗による減りしろに相当する部分まで含有させることで十分である。
【0025】
また、セリウムの添加量については、1.5原子%未満では上記の吸着効果が十分に発揮されない。
更に、ニッケル/コバルトの添加量については、2原子%未満では低摩擦のための相乗効果が小さい。
【0026】
一方、セリウムの添加量が34原子%を超えた場合や、ニッケル/コバルトの添加量が40原子%を超えた場合には、推測ではあるが、炭素原子のアモルファスネットワーク構造がセリウムやニッケル/コバルトの存在により乱されるために、硬質炭素被膜が本来有する低摩擦性能や硬さが損なわれることになる。
このため、セリウムの添加量は34原子%以下に留めるのがよい。また、ニッケル/コバルトの添加量は、単独添加量又は合計添加量を40原子%以下に留めるのがよい。
また、同様の理由から、セリウム、ニッケル、コバルトの合計含有量は45原子%以下に留めることがよい。
【0027】
更に、本発明の硬質炭素被膜摺動部材は、潤滑剤を用いない条件、即ち、いわゆるドライ条件でも用いることができるが、上述のように、潤滑剤の基剤(基油)や添加剤の被膜表面への吸着が摩擦係数低下の本質であることから、潤滑剤中で用いることでその効果がより一層発揮される。
従って、摺動部位に潤滑剤を存在させることが好ましい。
このような潤滑剤の例としては、自動車用エンジン油やトランスミッション油を挙げることができる。
【0028】
更にまた、このような潤滑剤中で低い摩擦係数を得るためには、被膜中の水素原子の量を減らすことが好ましい。その具体的範囲としては、被膜中の水素を、6原子%以下、更には1原子%以下とすることができる。更には、水素を含まないものが好ましい。
これは、水素量が少ないほど添加剤の吸着が容易になるためと考えられる。
【0029】
なお、このような水素含有量の低い硬質炭素被膜は、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法など、成膜中に水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法(物理気相堆積法)によって成膜することができる。
CVD法(化学気相堆積法)の場合は、一般に膜の原料として炭化水素ガスを用いるが、この炭化水素ガスに由来する水素が膜中に残留することがあるため、本発明の硬質炭素被膜摺動部材の成膜においてはPVD法の方が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
基材として浸炭鋼(日本工業規格 SCM415)から成る直径30mm、厚さ3mmの円板を準備し、その表面をRa0.020μmに超仕上げ加工した。
その後、マグネトロンスパッタリング法により、この基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
【0032】
スパッタリングのターゲットには、グラファイトからなる半径80mmの円板を用い、この炭素ターゲット上に、棒状の酸化セリウム(CeO)と、同じく棒状の金属ニッケル(Ni)を置くことで、硬質炭素被膜中に炭素の他に一定量のセリウム及びニッケルが含まれるようにした。
【0033】
酸化セリウム棒、金属ニッケル棒の寸法は、ともに2mm×2mm×80mmとし、円形のグラファイトターゲット上で半径方向に配置した。
また、スパッタリングの雰囲気ガスにはアルゴンを用いた。
【0034】
プロセス時間については、以下のように設定した。
まず、炭素ターゲットのみで成膜実験をして成膜レートを求めた。この実験で得られた成膜レートを、酸化セリウム棒及び金属ニッケル棒ありの場合にもそのまま適用し、1.0±0.3μmの膜厚になるようにプロセス時間を設定した。
プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定したところ、Ra0.020μmであった。
【0035】
次いで、得られた硬質炭素被膜について膜中の元素の分析を行った。
セリウム及びニッケルについては、X線光電子分光法(XPS)を用い、最表面の不純物吸着を勘案して、試料表面から3nmの位置におけるセリウム及びニッケルの含有量をもって代表値とした。
測定の結果、セリウム含有量は2原子%、ニッケル含有量は3原子%であった。
【0036】
XPS測定におけるX線源は、Al−kα線 40Wで、その他測定条件は、光電子取り出し角度45°、測定エリア半径200μmである。
この測定条件は、以下の実施例、比較例におけるXPS測定でも共通である。
【0037】
一方、水素原子量については、2次イオン質量分析(SIMS)で測定し、試料表面から5nmの位置まで掘り取りながら測定し、深さ3nmの位置における水素含有量をもって代表値とした。
その結果、水素量は0.1原子%以下であった。
【0038】
次に、当該試料について、ボールオンディスク法による摩擦特性の評価を行った。試験に際して、潤滑剤には自動車用エンジン油5W−30SLを用いた。
試料をこのエンジン油中で回転させ、軸受鋼(日本工業規格 SUJ2)から成る直径6mmのボールを押し当て、このボールを保持しているアームにかかるトルクを測定することにより摩擦係数を計算した。
【0039】
摺動痕の直径は8mm、油温は80℃とした。また、上記ボールにかけた垂直荷重は5Nとした。なお、ボールは固定しており、摺動によって転がることのないようにした。摺動速度は毎秒3.0cmとした。
【0040】
摩擦係数の算出については、摺動開始直後のなじみ効果を考慮して、試験開始から5分経過した時点の測定値をもって、その材料の摩擦係数とみなした。
本例の硬質炭素被膜の摩擦係数は、0.024であった。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角20°の扇形状の酸化セリウム板と、半径80mm、頂角10°の扇形状の金属コバルト板を置いた。プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0042】
成膜プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定したところ、Ra0.019μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とコバルト量の測定(XPSによる)、水素量の測定を行った。
その結果、セリウム量は28原子%、コバルト量は16原子%、水素量は0.1原子%以下であった。また、摩擦係数を同様に測定した結果、0.022であった。
【0043】
(実施例3)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
但し、本実施例においては、成膜中の雰囲気ガスに一部炭化水素を加えた。具体的には、アルゴンとアセチレンを4:1の割合で供給した。
【0044】
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角20°の扇形状の酸化セリウム板と、半径80mm、頂角10°の扇形状の金属ニッケル板を置いた。プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0045】
成膜プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定したところ、Ra0.021μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とニッケル量の測定(XPSによる)、水素量の測定を行った。
その結果、セリウム量は29原子%、ニッケル量は14原子%、水素量は4原子%以下であった。また、摩擦係数を同様に測定した結果、0.034であった。
【0046】
(実施例4)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
【0047】
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角30°の扇形状の酸化セリウム板と、2mm×2mm×80mmの寸法の金属ニッケル棒を置いた。プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0048】
成膜プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定したところ、Ra0.016μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とニッケル量の測定(XPSによる)、水素量の測定を行った。
その結果、セリウム量は32原子%、ニッケル量は4原子%、水素量は0.1原子%以下であった。また、摩擦係数を同様に測定した結果、0.019であった。
【0049】
(実施例5)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
【0050】
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、2mm×2mm×80mmの寸法の酸化セリウム棒と、半径80mm、頂角30°の扇形状の金属コバルト板を置いた。プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0051】
成膜プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定したところ、Ra0.017μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とコバルト量の測定(XPSによる)、水素量の測定を行った。
その結果、セリウム量は5原子%、コバルト量は23原子%、水素量は0.1原子%以下であった。また、摩擦係数を同様に測定した結果、0.016であった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
但し、本比較例においては、炭素ターゲットの上に酸化セリウム板などのセリウム供給源を置くことなく、実質的に炭素のみからなる被膜が得られるようにした。プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0053】
成膜後の試料の表面粗さは、Ra0.018μmであった。また、同様にセリウム量の測定、水素量の定量を行った。
その結果、いずれも0.1原子%以下であった。また、摩擦係数を同様に測定した結果、0.057であった。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角45°の扇形状の酸化セリウム板と、2mm×2mm×80mmの寸法の金属ニッケル棒を置いた。
プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0055】
プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定した結果、Ra0.022μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とニッケル量の測定、水素量の測定を行うと共に、摩擦係数測定した。
その結果、セリウム量は42原子%、ニッケル量は4原子%、水素量は0.1原子%以下、摩擦係数は0.046であった。
【0056】
(比較例3)
実施例1と同様に、炭素をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより、同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角30°の扇形状の酸化セリウム板と、半径80mm、頂角45°の扇形状の金属コバルト板を置いた。
プロセス時間は、実施例1と同様に、1.0±0.3μmの膜厚になるように設定した。
【0057】
プロセスが完了した後、試料の表面粗さを測定した結果、Ra0.024μmであった。
次いで、実施例1と同様に、セリウム量とコバルト量の測定、水素量の測定を行うと共に、摩擦係数測定した。
その結果、セリウム量は28原子%、コバルト量は27原子%、水素量は0.1原子%以下、摩擦係数は0.063であった。
【0058】
以上の結果から明らかなように、セリウム、ニッケル、コバルトを実質的に含まない硬質炭素被膜を備えた比較例1の摺動部材においては、摩擦係数が高くなった。
また、セリウム量が34原子%を超える比較例2の摺動部材においても、摩擦係数が高くなることが判明した。
更に、セリウム量とコバルト量の合計が45原子%を超える比較例3の摺動部材においても、摩擦係数が高くなることが判明した。
【0059】
これに対し、本願発明で規定する範囲のセリウム、ニッケル、コバルトをを被膜中に含む硬質炭素被膜摺動部材においては、低い摩擦係数を示すことが判明した。また、膜中の水素含有量を0.1原子%以下に低減させることによって、一層優れた低摩擦特性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも相手材との摺動部位に硬質炭素被膜を備えた摺動部材であって、
上記被膜中に、セリウムを1.5〜34原子%の割合で含有し、ニッケル及び/又はコバルトを2〜40原子%の割合で含有し、これらの含有量が合計で45原子%以下であることを特徴とする硬質炭素被膜摺動部材。
【請求項2】
上記被膜中の水素の含有量が6原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
【請求項3】
上記被膜中の水素の含有量が1原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
【請求項4】
潤滑剤中で使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜摺動部材。
【請求項5】
上記潤滑剤が自動車用エンジン油であることを特徴とする請求項4に記載の硬質炭素被膜摺動部材。