説明

硼化ランタン膜の製造方法

【課題】 スパッタ法において低仕事関数な硼化ランタン膜を再現性良く、均一性高く製造する。
【解決手段】 酸素含有量が0.4mass%以上1.2mass%以下である硼化ランタンのターゲットと基板とを対向配置した状態で、スパッタ法により前記基板に硼化ランタン膜を成膜する工程を備え、成膜時のスパッタガス分子の平均自由工程をλ(mm)、前記基板と前記ターゲットとの距離をL(mm)としたときに、L/λが20以上に設定され、放電電力をターゲット面積で除した値が1W/cm以上5W/cm以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタ法を用いた硼化ランタン膜の製造方法、及び硼化ランタン膜を有する電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には電子放出素子に硼化ランタンの多結晶膜を用いることにより、放出電流の変動や、駆動電圧が低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−183719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像表示装置に用いられる電子放出材料としての硼化ランタン膜を歩留まり良く製造する場合、低仕事関数な膜を再現良く且つ均一性よく成膜できる必要がある。本発明者らは、スパッタ法による成膜において、ターゲット中の酸素含有量が、堆積した硼化ランタン膜の仕事関数値の再現性に影響を与えるということを見出した。
【0005】
そこで、本発明は、スパッタ法において低仕事関数な硼化ランタン膜を再現性良く製造する方法を提供することを目的とする。また本発明のさらなる目的は、電子放出特性(特に電子放出の安定性)に優れた電子放出素子を再現性良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
硼化ランタン膜の製造方法であって、
酸素含有量が0.4mass%以上1.2mass%以下である硼化ランタンのターゲットと、基板とを対向配置した状態で、スパッタ法により前記基板に硼化ランタン膜を成膜する工程を有し、成膜時のスパッタガス分子の平均自由工程をλ(mm)、前記基板と前記ターゲットとの距離をL(mm)としたときに、L/λが20以上に設定され、放電電力をターゲット面積で除した値が1W/cm以上5W/cm以下に設定されることを特徴とする硼化ランタン膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低仕事関数な硼化ランタン膜を再現性良くかつ均一性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】平行平板型スパッタ装置の模式図である。
【図2】スパッタ装置の模式図と硼化ランタン膜の結晶性と成膜位置の関係を示す模式図である。
【図3】六硼化ランタン膜の結晶性と成膜条件(L/λ)の関係を示す図である。
【図4】電子放出素子の模式図である。
【図5】電子放出素子の製造工程の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
(スパッタ法)
図1を参照して、スパッタ装置及びスパッタ方法について説明する。図1は、平行平板型のスパッタ装置のチャンバー内部を模式的に示した図である。スパッタ装置は、基板202を保持する基板ホルダー201と、ターゲット204が設置されるカソード203を備える。カソード203は、バッキングプレート205、磁石206、及びヨーク207を有している。磁石206は、ドーナツ型の外側磁石と、外側磁石の中心に配置される内側磁石から構成されており、この磁石により、磁力線208で示されるような磁場が形成される。
【0011】
高真空排気ポンプを用いて、チャンバー内を例えば2×10ー4Pa以下に真空引きした後、スパッタガスを導入して、所定の圧力に保持してカソード203に電力を印可し、成膜を行う。スパッタガスとしてはアルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどを用いることができるが、特にアルゴンガスを用いる方が製造コストの面から望ましい。スパッタ電源としては、DC電源、あるいは13.56MHzなどの工業用電源周波数のRF電源が使用される。
【0012】
本発明では、基板202とターゲット204との距離L(mm)を、チャンバー内に導入したスパッタガス分子の平均自由行程λ(mm)で除した値(L/λ)が20以上となるように保持する。
【0013】
気体の平均自由行程λとは、気体分子が散乱(衝突)することなく進むことのできる距離の平均であり、次式で求めることができる。
λ=(k×T)/(√2×π×σ×P)
kはボルツマン定数、Tは温度、σは分子の直径、Pは圧力である。
【0014】
L/λを20以上に保つことにより、結晶性のよい、優れた電子放出特性(特に電子放出の安定性)を有する膜を製造できる。以下にその理由を説明する。
【0015】
本発明のスパッタ法により形成される硼化ランタン膜は多結晶膜であるが、その膜質(結晶性)は、ターゲットのエロージョン領域との相対位置に依存して、変動する。この変動について、図2(A)および図2(B)を用いて説明する。図2(A)は図1と同様の平行平板型のスパッタ装置のレイアウト図である。501は基板ホルダー、502は基板、および503はカソードである。カソード503はターゲット505、バッキングプレート506、磁石507、およびヨーク508から形成されている。磁石507により磁力線509で示されるような磁場が発生しており、504はエロージョン領域を示す。このような装置を用いて、ターゲットとして8インチの円形の六硼化ランタンを、基板502としてSiウェハー基板を使用し、基板温度を室温に保持し、Arを供給して全圧1.5Paとし、Siウェハー基板上に硼化ランタンを50nmの厚さに成膜した。ターゲットに供給したRF電力は500Wであり、ターゲットと基板との距離は90mmであった。その結果成膜された硼化ランタン膜をX線回折法で分析し、(100)面での回折ピークの半値幅と基板位置との関係を整理すると図2(B)に示す通りであった。半値幅が小さいほど結晶の結晶子サイズが大きくなり、良好な結晶であることを示す。基板位置については、図2(A)に示したターゲットの中心からの距離を示した。図2(B)に示したように、エロージョン領域に対向した位置においては、半値幅が大きく、一方、エロージョン領域に対向した位置から離れると、半値幅が小さくなる。
すなわち、膜質にばらつきがあり、エロージョン領域に対向した位置では硼化ランタン膜の結晶性が低下することが分かった。更なる検討の結果、マグネットの磁場を変えることでプラズマ密度分布を変更しても、常にエロージョン領域に対向する部分の結晶性が低下することが判明した。つまり膜質は、プラズマ密度分布との相関よりも、エロージョン位置との相関が強いことがわかった。以下、エロージョン領域に対向する領域(もしくは位置)を、エロージョン対向領域(もしくは位置)とよぶ。またエロージョン領域でない領域を非エロージョン領域とよび、非エロージョン領域に対向する領域(もしくは位置)を、非エロージョン対向領域(もしくは位置)とよぶ。
【0016】
硼化ランタンターゲットを使用した際にエロージョン対向位置で膜の結晶性が低下する原因は明らかでないが、本発明者らの検討により、少なくとも、硼化ランタンターゲットを用いたスパッタにおいては、膜質の位置依存が存在することが分かった。一方、電子放出素子を画像表示装置の電子源に利用する場合には、大サイズの基板上に硼化ランタン膜をできるだけ均質に成膜することが望ましい。したがって、膜質の位置依存を緩和するために、基板とターゲットを相対的に移動させながら成膜を行う、いわゆる通過成膜が行われる。通過成膜では、基板上の被成膜部位(電子放出素子)が、エロージョン対向領域と非エロージョン対向領域の双方を通過する。このときエロージョン対向領域で堆積される膜の膜質と非エロージョン対向領域で堆積される膜の膜質とのばらつきが大きいと、(100)面が配向した結晶性の良い硼化ランタン膜を均一性高く作製することが困難であった。
【0017】
そこで、図3に、成膜時のL/λと、膜の結晶性について調べた結果を示す。ただし、エロージョン対向領域と非エロージョン対向領域の膜の結晶性を比較するために、通過成膜でなく、基板を静止した状態で成膜を行った。また、導入するアルゴンガスの圧力を0.5Paから4.0Paの範囲(すなわちAr分子の平均自由行程λが1.7mmから13.7mmの範囲)、基板とターゲットとの距離L(mm)を90mmから180mmの範囲において任意の値に設定して成膜を行った。RF電源の放電電力をターゲット面積で除した値は約1.5W/cmに設定した。
【0018】
非エロージョン対向領域(ターゲットの中心に対向した領域)において50nm堆積された膜F1と、エロージョン対向領域において50nm堆積された膜F2を、X線回折法で分析し、六硼化ランタンの(100)面での回折ピーク(以下、単に「(100)ピーク」ともよぶ)の半値幅を得た。図3は、成膜条件(L/λ)と(100)ピークの半値幅の関係を示す。図3より、L/λが小さいと、(100)ピークの半値幅が大きいこと、つまり膜の結晶性が低下していることがわかる。また膜F1と膜F2の結晶性の差も大きい。そして、L/λが大きくなるほど、結晶性が向上し、かつ膜F1、F2の結晶性の差も小さくなることがわかる。
【0019】
前述したように、電子放出素子の電子放出材として六硼化ランタン膜を用いる場合、膜の結晶性が良い方が、電子放出の安定性などの点で好ましい。また電子放出素子ごとの電子放出特性の差(電子放出特性の面内ばらつき)を小さくするために、基板全体に硼化ランタン膜を均一性よく成膜することが好ましい。
【0020】
しかしながら、非エロージョン対向領域で形成される膜とエロージョン対向領域で形成される膜のいずれかの結晶性が低いと、通過成膜によって作製される膜においては、結晶性が低い成分を含むことになる。そうすると、結晶性の良い膜が得られない。また、両者の膜の結晶性に差がある場合も、通過成膜で作製した膜の電子放出特性が不安定になってしまう。また通過成膜でない場合にも当然、膜質の均一性が損なわれる。
【0021】
したがって、成膜領域の膜質のばらつきを小さくし、かつ広い領域にわたって結晶性の良い膜を作製できる条件が必要となる。具体的には、(100)ピークの半値幅の面内ばらつきが±5%以内であり、かつ、(100)ピークの半値幅が0.6°以下となる条件が好ましい。図3に示す実験結果より、L/λの値が20以上である場合に、上記の条件を満足できることがわかる。
【0022】
L/λを20以上に保つことにより膜質(結晶性)を向上できる理由は明らかではない。おそらく、L/λを大きくすることで、エロージョン領域から強いエネルギーをもって垂直方向に飛び出す粒子が十分に散乱され、エロージョン対向位置の膜の損傷を抑制できることが一つの要因と考えられる。
【0023】
また、本発明におけるスパッタ法においては、スパッタガスの圧力や、基板とターゲットの距離は、硼化ランタン膜の結晶性に大きく影響を与えるが、放電電力が膜の結晶性に与える影響は小さい。ただし、電源の放電電力は、放電電力をターゲット面積で除した値を1W/cm以上5W/cm以下に設定することが好ましい。1W/cmより小さい場合は、スパッタされた原子のエネルギーが小さく、仕事関数の低い膜を作製しにくいからである。また、5W/cmを超える場合は、ターゲットへの負荷が大きく、ターゲットが損傷してしまう恐れがあるからである。なお、1W/cm2以上5W/cm2以下の範囲であれば、L/λと膜質との関係はおおむね図3と同様の傾向を示す。
【0024】
また、本発明においては、基板202に向かい合って配置されるターゲット204の酸素含有量は0.4mass%以上1.2mass%以下に制御する。
【0025】
表1に、前述したL/λおよび電源の放電電力の各条件を満たした上での、ターゲット中の酸素含有量と膜の再現性との相関性について調べた結果を示す。ターゲット中の酸素含有量が0.4以上、1.2mass%以下で仕事関数3.5eV以下の膜を得られる確率が80%以上であった。0.8mass%でも仕事関数3.5eV以下の膜を得られる確率が80%以上であった。一方、0.4mass%未満の場合、および1.2mass%以上の場合は仕事関数3.5eV以下の膜を得られる確率が著しく低いものであった。
【0026】
【表1】

【0027】
スパッタ法において、ターゲット中の酸素原子は、スパッタされると酸素負イオンになりやすく、この酸素負イオンが負に帯電する。そのために、ターゲット近傍のプラズマシース部の電界によって酸素負イオンが基板方向に加速され、基板に堆積した膜に衝突することになる。酸素含有量が1.2mass%以上の場合、再現性が低くなる理由として、負イオン量が多いため、原子の配列を破壊し、欠陥等を生じてしまうために、低仕事関数な膜を再現性良く成膜できないと考えられる。また、酸素含有量が0.4mass%未満において再現性が低い理由は明らかではない。おそらく、負イオン量が少ない場合、原子のマイグレーションを促進できず、原子の整列が抑制される。そのため低仕事関数な膜を再現性良く成膜できないものと推測される。
【0028】
以上に述べた本発明のスパッタ法によれば、酸素濃度を制御したターゲット204により、ターゲットから放出される負イオン量を制御できる。負イオン量を制御することで膜の損傷を防ぎ、低仕事関数で均一性の高い硼化ランタン膜を再現性よく且つ均一性良く成膜することができる。
【0029】
本実施形態において、基板を加熱または保温しながら成膜を行うことが好ましい。温度は成膜条件などによって異なるが、好ましくは300℃以上に基板の温度を保つとよい。
【0030】
次に、本実施形態で作製した硼化ランタン膜を備える電界放出型電子放出素子の製造方法について、図4(A)、図4(B)、図4(C)を用いて説明する。図4(A)は、電子放出素子をZ方向から見た平面模式図であり、図4(B)は図4(A)におけるA−A線の断面(Z−X面)模式図である。図4(C)は図4(A)をX方向から見た場合の模式図である。
【0031】
この電子放出素子では、基板1上に第1絶縁層7A及び第2絶縁層7Bを介してゲート電極8Aが設けられている。また、基板1上にはカソード電極2が設けられており、カソード電極2に接続された電子放出構造体(導電性膜)3が、第1絶縁層7Aの側壁に沿って且つ基板1から離れる方向に向かって伸びている。第2絶縁層7BはX方向において、第1絶縁層7Aより幅が小さくなっており、第1絶縁層7Aとゲート電極8Aとの間には凹部45が設けられている。そして、図4(B)から明らかな様に、上述した電子放出構造体3は、第1絶縁層7Aの上面よりもZ方向に突出している。即ち、電子放出構造体3は、第1絶縁層7Aの上面よりゲート電極8Aに近づく方向に突出する突起部を備えている。また、電子放出構造体3の一部が、凹部45内に入り込んでいる。その結果、電子放出構造体3は、凹部45内に位置する絶縁層7Aの表面上に設けられた突起部を備えていると言うことができる。この突起部から主に電子が放出される。
【0032】
また、図4(B)は、ゲート電極8Aの一部が電子放出構造体3と同じ材料の導電性膜8Bで覆われている例を示している。この導電性膜8Bは省略することもできるが、安定な電界を形成するためには導電性膜8Bを設けておくことが好ましい。この結果、図4(B)に示した例では、ゲート電極は、8Aと8Bとで示された部材で構成されることになる。
【0033】
電子放出構造体3は、硼化ランタン膜(好ましくは、六硼化ランタン膜)5で覆われている。この硼化ランタン膜5は上述したスパッタ法により成膜されたものである。図4(B)の例では、電子放出構造体3の全体が硼化ランタン膜5で覆われているが、少なくとも電子放出構造体3の突起部の表面が、硼化ランタン膜5で覆われていればよい。
【0034】
硼化ランタン膜5としては、硼化ランタンの単結晶膜であるよりも硼化ランタンの多結晶膜であることが好ましい。単結晶膜に比べて多結晶膜は、成膜が容易であり、電子放出構造体3のような複雑で微細な凹凸形状の表面に沿って電子放出構造体3を被覆することができ、内部応力も低くすることができるので安定である。尚、仕事関数は多結晶膜よりも単結晶膜の方が低いが、膜厚や結晶子サイズを制御することで、多結晶膜でも単結晶膜に近い3.0eVよりも低い仕事関数を得ることができる。
【0035】
上記したスパッタ方法により得られた膜の仕事関数測定は、真空UPSなどの光電子分光法やケルビン法、真空中での電界放出電流を計測して電界と電流の関係より導く方法などがある。また、これらを組み合わせて求めることが可能である。
【0036】
また、鋭利な突起部を有する導電性の針(例えば、タングステン製の針)の突起部の表面に、仕事関数が既知の材料、例えばMoなどを20nm程度被覆し、真空中で電界を印可して電子放出特性を測定する。そして電子放出特性から、針の先端である突起部の形状による電界増倍計数をあらかじめ求めておき、しかる後に硼化ランタン膜で被覆し、仕事関数を算出することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、より具体的な実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
表2に示す酸素含有量A〜Eをもつ直径8インチの円形の6硼化ランタンターゲットを準備し、仕事関数を評価するためのタングステン製の針(以下、単針)とターゲットとを対向配置した。使用した6硼化ランタンターゲットは、型に入れた6硼化ランタン粉末をホットプレス炉内でプレス、加熱することで作製した。その際、焼結時のガス雰囲気中に含まれる酸素の濃度を変化させることで所望の酸素含有量を持つターゲットを得た。また、ターゲット中の酸素含有量はガス分析により同定した。高真空排気時の真空度は2×10ー4Paとし、RF電源の放電電力をターゲット面積で除した値は、3.1W/cmに設定した。また、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、アルゴンガスの圧力を1.5Paに設定した。単針とターゲット204との距離Lは180mmに設定した。つまり、L/λは39である。そして、単針上に硼化ランタン膜を20nm成膜した。
【0039】
【表2】

【0040】
酸素含有量の異なるA〜Eのターゲットを用いて成膜した単針をそれぞれ10本ずつ作製し、得られた膜の仕事関数を評価した。表1に再現性(仕事関数が3.5eV以下である確率)を示す。条件B、C、Dでは80%以上の再現性で成膜することができたのに対し、条件A、Eの再現性はともに20%であった。つまり、条件B、C、Dにおいて再現良く低仕事関数な6硼化ランタン膜を成膜することができた。
【0041】
また、比較例1として、上記実施例1におけるL/λを19.5に変更した以外は実施例1と同様にして硼化ランタンの多結晶膜を形成したところ、実施例1で形成した膜に比べて膜質の均一性が低かった。実施例1で形成した膜では、(100)ピークの半値幅の面内のばらつきは5%より小さかったが、L/λが19.5の場合には、(100)ピークの半値幅の面内のばらつきは5%を大きく超えていた。
【0042】
(実施例2)
図5(A)〜図5(F)を参照して、実施例2に係る電子放出素子の製造方法を説明する。図5(A)〜図5(F)は、電子放出素子の製造工程を順に示した模式図である。
【0043】
基板401は素子を機械的に支えるための基板である。本実施例では、基板401として、プラズマディスプレイ用に開発された低ナトリウムガラスであるPD200を用いた。
【0044】
最初に、図5(A)に示すように基板401上に絶縁層403、404及び導電層405を積層した。絶縁層403、404は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜である。実施例2では、スパッタ法にて、膜厚500nmの窒化シリコン(SixNy)の絶縁層403と、膜厚30nmの酸化シリコン(SiO)の絶縁層404を形成した。また、スパッタ法にて、30nmの窒化タンタル(TaN)の導電層405を形成した。
【0045】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層405上にレジストパターンを形成したのち、ドライエッチング手法を用いて導電層405、絶縁層404、絶縁層403を順に加工した(図5(B)参照)。この時の加工ガスとしては、CF系のガスが用いられた。このガスを用いてRIE(Reactive Ion Etching)を行った結果、絶縁層403の側面(斜面)の角度は基板水平面に対しておよそ80°であった。
【0046】
レジストを剥離した後、バッファードフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用いて、絶縁層404をエッチングし、凹部(リセス部)を形成した(図5(C)参照)。
【0047】
図5(D)に示すようにモリブデン(Mo)を絶縁層403の側面上及び上面(凹部の内表面)上に付着させ、電子放出構造体(導電性膜)406Aを形成した。尚このとき、導電層405(ゲート電極)上にもモリブデン層406Bが付着した。本実施例では成膜方法としてEB蒸着法を用いた。
【0048】
次に、図5(E)に示すように、電子放出構造体406A上に六硼化ランタン膜407を形成した。六硼化ランタン膜407は実施例1と同様の方法で形成した。つまり六硼化ランタンのスパッタ時は、RF電源の放電電力をターゲット面積で除した値を3.1W/cmに設定し、Arガスの圧力Pを1.5Paに、基板とターゲットとの距離Lを180mmに、即ちL/λを39とした。そして、図5(D)に示す構造体が形成された基板と六硼化ランタンターゲットとを対向配置し、通過成膜により六硼化ランタン膜407を形成した。
【0049】
次に図5(F)に示すように、スパッタ法にてカソード電極402を形成した。カソード電極402には銅(Cu)を用いた。厚さとしては、500nmであった。
【0050】
形成された電子放出素子を真空装置内に入れて、内部を10―8Paまで排気した。そしてカソード電極402とゲート電極405の間に、ゲート電極405の電位が高くなるようにして、パルス幅1ms、周波数60Hzの矩形波形のパルス電圧を繰り返し印加した。そして、ゲート電極405に流れるゲート電流をモニターした。同時に、基板401の上方5mmの位置にアノード電極を設置し、アノード電極に流れ込む電流(アノード電流)もモニターし、アノード放出電流の変動を求めた。放出電流(アノード電流)の変動(ゆらぎ)は、連続した32回分の矩形波形のパルス電圧に応じた放出電流値の平均を計測するシーケンスを2秒間隔で実施して、30分間あたりの偏差ならびに平均値を求めた。そして、得られたデータの(標準偏差/平均値×100(%))を計算した。また、比較のため、比較例1と同様の方法で六硼化ランタン膜を形成した電子放出素子も試作し、上記と同じ測定を行った。その結果、本実施例の電子放出素子は、比較例の電子放出素子に比べ、電流変動値の平均値が0.8倍となり、輝度の変動が少ない良好な電子放出を長時間に渡り続けることができた。また、膜質の均一性も本実施例の電子放出素子の方が優れていた。
【符号の説明】
【0051】
202 基板
204 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硼化ランタン膜の製造方法であって、
酸素含有量が0.4mass%以上1.2mass%以下である硼化ランタンのターゲットと、基板とを対向配置した状態で、スパッタ法により前記基板に硼化ランタン膜を成膜する工程を備え、
成膜時のスパッタガス分子の平均自由工程をλ(mm)、前記基板と前記ターゲットとの距離をL(mm)としたときに、L/λが20以上に設定され、
放電電力をターゲット面積で除した値が1W/cm以上5W/cm以下に設定されることを特徴とする硼化ランタン膜の製造方法。
【請求項2】
前記スパッタガスがアルゴンガスであることを特徴とする請求項1に記載の硼化ランタン膜の製造方法。
【請求項3】
硼化ランタン膜を備える電子放出素子の製造方法であって、前記硼化ランタン膜が請求項1または2に記載の製造方法により製造されることを特徴とする電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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