説明

磁力式固定装置

【課題】アルニコ磁石の極性を切換えるためのコイルを有効活用して、金型の固定面に対する固定状態の変化を高感度に検出可能な磁力式固定装置を提供することである。
【解決手段】金型M2が固定される固定面12aを形成する固定面形成部材12に組み込まれ磁力により金型M2を固定面に固定する為の複数の磁力発生機構13であって、各々がアルニコ磁石21とこのアルニコ磁石21の極性を切換える為のコイル22とを有する複数の磁力発生機構13を有する磁力式固定装置10Bにおいて、前記1又は複数のコイル22に電気的に接続された状態検出装置40であって、金型M2を固定面12aに固定した状態において金型M2の固定状態の変化に起因する磁束の変化により1又は複数のコイル22に発生する電圧から金型M2の固定状態の変化を電気的に検出する状態検出装置40を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機などの金型が固定される固定面を形成する固定面形成部材に組み込まれた磁力式固定装置に関し、特に金型を固定している固定状態の変化に起因する磁束の変化により磁力発生機構のコイルに発生する電圧から金型の固定状態の変化を電気的に検出する状態検出手段を設けた磁力式固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機においては、固定側及び可動側プラテンへの金型の固定は、複数のボルト又は油圧式のクランプ装置などを用いて行うことが多かったが、近年では、プラテンに磁力式固定装置を組み込んだクランププレートを固定し、その磁力式固定装置により金型をクランププレートの固定面に固定する技術が広く実用化されている。前記の磁力式固定装置は、複数の磁力発生機構を備えている。各磁力発生機構は、ブロック状の磁性体と、この磁性体の外周側に配置された複数の永久磁石と、磁性体の背部に配設されたアルニコ磁石と、このアルニコ磁石の外周側に配置されアルニコ磁石の極性を切り換える為のコイルとを有する。
【0003】
通常、金型を固定面に固定している着磁状態では、コイルに電圧を印加する必要はなく、コイルは非通電状態である。そして、何らかの衝撃が金型に付加されて金型がズレたりした状態のまま射出成形を続行すると、不良品が発生したり、金型を損傷する虞がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載の磁気クランプ装置では、金型を固定する複数の磁気保持ユニットと、磁気クランプ装置の動作状態を検出する検出手段とを備え、この検出手段の探りコイルを磁気保持ユニットの主コイルの外側に装着し、この探りコイルにより主コイルの着磁するときの磁束変化を検出し、この磁束の変化を示す検出信号を制御装置に出力し、上記の磁束変化から、着磁状態の正常・異常と、金型のズレ動き等を検出するように構成してある。
【特許文献1】特表2005- 515080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の検出手段の探りコイルの巻線数は、主コイルと比較して格段に小さく1〜10巻程度のものであるので、大きな磁束変化を検出できるとしても、僅かな磁束変化を検出することはできない。仮に僅かな磁束変化を検出できたとしてもノイズと識別できない程度の検出信号しか得られないため、検出手段の探りコイルにより金型のズレや浮きを高い感度で検出することは到底不可能である。
【0006】
しかも、磁力保持ユニットの主コイルの外側に探りコイルを装着する構成であるため、探りコイルを組み込む分だけ製作費が高価になるうえ、探りコイル付きの磁気保持ユニットと、探りコイル無しの磁気保持ユニットなど複数種の磁気保持ユニットを製造する必要があるため、磁気保持ユニットの種類が多くなり、その管理が面倒になる。
【0007】
本発明の目的は、アルニコ磁石の極性を切換えるコイルを有効活用して、金型の固定面に対する固定状態の変化を高感度に検出可能な磁力式固定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の磁力式固定装置は、金型が固定される固定面を形成する固定面形成部材に組み込まれ磁力により金型を固定面に固定する為の複数の磁力発生機構であって、各々がアルニコ磁石とこのアルニコ磁石の極性を切換える為のコイルとを有する複数の磁力発生機構を有する磁力式固定装置において、前記1又は複数の前記コイルに電気的に接続された状態検出手段であって、金型を固定面に固定した状態において金型の固定状態の変化に起因する磁束の変化により前記1又は複数のコイルに発生する電圧から金型の固定状態の変化を電気的に検出する状態検出手段を設けたことを特徴としている。
【0009】
前記磁力発生機構により金型を固定面形成部材の固定面に固定された着磁状態では、磁力発生機構に電圧が印加されないので、前記コイルには電流が流れない。この状態において、1又は複数のコイルに電気的に接続された状態検出手段により、金型の固定状態の変化に起因する磁束の変化により1又は複数のコイルに発生する電圧から金型の固定状態の変化を電気的に検出する。
【0010】
請求項2に記載の磁力式固定装置は、請求項1の発明において、前記1又は複数のコイルは、前記アルニコ磁石の極性切換え時に直流電力を供給する為の第1,第2導線に接続され、前記状態検出手段は、前記第1,第2導線に夫々接続された第1,第2信号線と、これら第1,第2信号線に電気的に接続された増幅器と、この増幅器の出力を受けて設定電圧と比較する比較器と、第1,第2信号線の途中部に夫々設けられた第1,第2リレー接点とを備えたことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の磁力式固定装置は、請求項2の発明において、前記複数の磁力発生機構を制御する為の制御装置を設け、前記状態検出手段の比較器の出力信号は制御装置に供給されると共に、前記第1,第2リレー接点は制御装置により開閉制御されることを特徴としている。
【0012】
請求項4の記載の磁力式固定装置は、請求項3の発明において、前記制御装置に接続された操作パネルと、この操作パネルに設けられた表示手段とを設け、前記増幅器から前記設定電圧以上の出力があったことを前記表示手段により報知するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、前記磁力発生機構の1又は複数のコイルに状態検出手段を電気的に接続し、金型の固定状態の変化に起因する磁束の変化により1又は複数のコイルに発生する電圧から金型の固定状態の変化を電気的に検出するように構成したので、アルニコ磁石の極性を切換える為のコイルを、金型のズレや浮きを検出する検出用のコイルとして有効に兼用することができるから、磁力式固定装置の製作費の面で有利である。
【0014】
前記コイルは巻線数も多く、微弱な磁束の変化を検出してノイズに比べて高い誘導起電力を発生するため、ノイズの影響を受けにくくなり、金型の固定状態の僅かな変化をも高感度で高い信頼性でもって検出することできる。しかも、磁力発生機構の1又は複数のコイルを兼用するので、複数種のコイルを製造する必要がなくなり、コイルの管理の面も簡単になる。
【0015】
請求項2の発明によれば、1又は複数のコイルは、アルニコ磁石の極性切換え時に直流電力を供給する為の第1,第2導線に接続され、状態検出手段は、第1,第2導線に夫々接続された第1,第2信号線と、これら第1,第2信号線に電気的に接続された増幅器と、この増幅器の出力を受けて設定電圧と比較する比較器と、第1,第2信号線の途中部に夫々設けられた第1,第2リレー接点とを備えたので、金型を固定した状態では、第1,第2リレー接点をオンに切換えておくことで、コイルに発生する誘導起電力を検出することができ、その誘導起電力を増幅器で増幅し、増幅器で増幅された出力信号を比較器の設定電圧と比較することで金型のズレや浮きを検知することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、複数の磁力発生機構を制御する為の制御装置を設け、状態検出手段の比較器の出力信号は制御装置に供給されるので、金型にズレや浮きが生じたことを制御装置に伝達し、報知やアラームを表示する等の対策を取ることが可能になる。第1,第2リレー接点は制御装置により開閉制御することにより、金型が固定状態のときだけ検出を行うことができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、前記制御装置に接続された操作パネルと、この操作パネルに設けられた表示手段とを設け、増幅器から前記設定電圧以上の出力があったことを表示手段により報知するように構成したので、金型のズレや浮きをオペレータに確実に報知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
本実施例は、本発明を射出成形機に適用した場合の一例であるため、先ず、射出成形機1について説明する。図1に示すように、射出成形機1は、クランプ対象物としての金型M(固定側金型M1と可動側金型M2)を固定する為の相対向する固定側プラテン2及び可動側プラテン3と、金型Mの型締めと型開きを行う為にプラテン2に対してプラテン3を接近/離隔する方向に駆動する油圧シリンダ(又は駆動モータ)を有するプラテン駆動機構4と、プラテン3を接近/離隔方向に移動自在にガイド支持する4本のガイドロッド5と、型締め状態で金型M内のキャビティに溶融状の合成樹脂を射出する射出筒6aを有する射出機構6と、金型M2から成形品を押し出すエジェクト機構7等を備えている。
【0020】
この射出成形機1により射出成形を行う場合、プラテン駆動機構4によりプラテン3がプラテン2に接近する方向に駆動され、金型M2が金型M1に押圧されて型締め状態となり、その状態で、射出筒6aの先端から金型M内に溶融状の合成樹脂が射出されて成形品が成形される。その後、プラテン駆動機構4によりプラテン3がプラテン2から離隔する方向に駆動されて型開き状態となる。その状態で、エジェクト機構7により成形品が金型M2からエジェクトされる。
【0021】
エジェクト機構7は、エジェクターピン8と、エジェクター板8aと、このエジェクター板8aを介してエジェクターピン8を進退駆動する流体圧シリンダ8bとを備え、エジェクターピン8がエジェクターピン穴3cに挿通されている。
【0022】
図1〜図3に示すように、プラテン2,3は夫々側面視で正方形状に形成され、プラテン2の4つの角部の近傍部の挿通孔2aに、4本のガイドロッド5が夫々挿通した状態で固定され、プラテン3の4つの角部の近傍部の挿通孔3aに、4本のガイドロッド5が夫々摺動自在に挿通され、プラテン3がプラテン2に対して接近/離隔可能にガイドされている。
【0023】
次に、金型M1をプラテン2に固定する磁力式固定装置10Aと、金型M2をプラテン3に固定する磁力式固定装置10Bについて説明する。
図1〜図3に示すように、磁力式固定装置10Aは、プラテン2に金型M1を固定する為の固定面11aを備えたクランププレート11(固定面形成部材に相当する)と、クランププレート11に設けられ磁力により金型M1を固定面11aに固定する吸着力を発生させる複数のマグネットユニット13(磁力発生機構に相当する)とを備えている。
【0024】
磁力式固定装置10Bは、プラテン3に金型M2を固定する為の固定面12aを備えたクランププレート12(固定面形成部材に相当する)と、クランププレート12に設けられ且つ磁力により金型M2を固定面12aに固定する吸着力を発生させる複数のマグネットユニット13(磁力発生機構に相当する)とを備えている。
【0025】
クランププレート11は、プラテン2とほぼ同サイズの磁性体である鋼製のプレートであり、プラテン2の4つの角部に対応するほぼ正方形部分が除去されている。このクランププレート11は、プラテン2の盤面に複数のボルト14により固定されている。クランププレート12は、プラテン2とほぼ同サイズの磁性体である鋼製のプレートであり、プラテン2の4つの角部に対応するほぼ正方形部分が除去されている。このクランププレート12は、プラテン3の盤面に複数のボルト14により固定されている。
【0026】
図1、図2に示すように、クランププレート11において、後端部に複数の電気配線を接続・分離可能なコネクタ25が装着され、中央部分にロケートリング11cが装着されている。コネクタ25は、複数のマグネットユニット13に電流を供給する電気配線を接続するものである。ロケートリング11cは、金型M1の円形凸部(図示略)を嵌合させて金型M1を固定面11aにセンタリングするものである。
【0027】
図1、図3に示すように、クランププレート12において、後端部に複数の電気配線を接続・分離可能なコネクタ26が装着され、下端部に金型M2の落下を防止する為の落下防止ブロック27が装着され、中央部に1対のエジェクターピン穴3cが設けられている。コネクタ26は、コネクタ25と同様の機能を奏するものである。尚、金型Mの交換の際、金型Mは公知の搬送手段により搬入したり、搬出したりされる。
【0028】
次に、マグネットユニット13について説明する。
図2と図3に示すように、固定側プラテン2と可動側プラテン3に複数のマグネットユニット13が設けられ、これらマグネットユニット13により金型M1,M2が固定面11a,12aに磁力により固定解除可能に夫々固定される。これら複数のマグネットユニット13は基本的に同構造のものである。
【0029】
クランププレート11,12には、異なる配置でもって複数のマグネットユニット13が組み込まれている。例えば、図2に示すように、固定側プラテン2のクランププレート11には、3個のマグネットユニット13を上下左右方向に隣接状に配設して1組のマグネットユニット群とし、クランププレート11の中心を基準とする点対称位置に、4組のマグネットユニット群、合計12個のマグネットユニット13が配設されている。
【0030】
図3に示すように、可動側プラテン3のクランププレート12には、4個のマグネットユニット13を上下左右に隣接状に配設して1組の第1マグネットユニット群とし、クランププレート11の中心を基準とする点対称位置に、4組のマグネットユニット群、合計16個のマグネットユニット13が配設されている。尚、複数のマグネットユニット13の配置は、クランププレート11の形状とサイズ、金型Mの形状とサイズ等に応じて適宜設定される。これらマグネットユニット13は同構造のものであるためクランププレート12に設けたマグネットユニット13について説明する。尚、クランププレート11,12を省略し、プラテン2,3にマグネットユニット13を組み込む構造としても良い。
【0031】
図4〜図7に示すように、マグネットユニット13は、固定面12aに臨む磁性体からなる鋼製ブロック20と、この鋼製ブロック20の外周側に配置された複数(例えば、8個)のネオジウム磁石からなる永久磁石23と、鋼製ブロック20の背面側に配置されたアルニコ磁石21と、このアルニコ磁石21の外周側に配置されてアルニコ磁石21の極性を切換え可能なコイル22とを有する。マグネットユニット13は、金型M2を吸着する吸着状態(着磁状態)(図6参照)と、金型M2を吸着しない非吸着状態(脱磁状態)(図7参照)とに切換え可能に構成されている。尚、隣接するマグネットユニット13間の永久磁石23は、それら双方のマグネットユニット13に兼用されている。
【0032】
鋼製ブロック20とアルニコ磁石21は正方形状に形成され、鋼製ブロック20にはボルト穴20aが形成され、アルニコ磁石21には穴部21aが形成されている。凹部12bにアルニコ磁石21とコイル22が配置され、これらアルニコ磁石21とコイル22を、鋼製ブロック20とクランププレート12の底壁部12cとの間に挟み込んだ状態で、これらが、ボルト穴20aと穴部21aを挿通する非磁性体(例えば、SUS304)からなる6角穴付きボルト24により、クランププレート12に締結されている。複数の永久磁石23は、何らかの固定手段により鋼製ブロック20やクランププレート12に固着されている。
【0033】
本発明は、磁力式固定装置10A,10Bの両方に等しく適用可能であるが、この実施例では、磁力式固定装置10Bに本発明を適用した場合を例にして説明する。
最初に、複数のコイル22へ通電する為の通電系統について説明する。
図8に示すように、複数のマグネットユニット13は、複数群にグループ化されて、この各群のコイル22は直列接続されている。複数のマグネットユニット13は、アルコニ磁石21の極性切換え時に整流された直流電力を供給するための第1導線31,31aと、第2導線32,32aに接続されている。尚、コイル22の巻線数は、マグネットユニット13のサイズに応じて約50〜300程度である。
【0034】
第1導線31の途中部には、2つのサイリスタ34a,34bからなる整流器34が設けられている。金型M2を固定する為にアルニコ磁石21の極性を切換える際には、着磁用サイリスタ34aがON、脱磁用サイリスタ34bがOFFとされ、正の半波整流された直流が磁力式固定装置10Bのコイル22に印加される。金型M2を取り外す為にアルニコ磁石21の極性を切換える際には、脱磁用サイリスタ34bがON、着磁用サイリスタ34aがOFFとされ、負の半波整流された直流が磁力式固定装置10Bのコイル22に印加される。金型M2が固定面11aに固定された状態では、コイル22に通電する必要はないので両方のサイリスタ34a,34bがOFFとされる。この整流器34と交流電源36との間には操作パネル57で操作可能な電源スイッチ37が設けられている。
【0035】
複数のコイル22のうち、2つの直列接続されたコイル22a,22bには、第1、第2導線31,32の分岐点P,Qから夫々分岐した第1,第2導線31a,32aが接続されている。
【0036】
次に、金型M2の固定面12aに対する固定状態の変化に起因する磁束変化によりコイル22a,22bに発生する誘導起電力(電圧)を検出する状態検出装置40について説明する。状態検出装置40は、第1,第2導線31a,31bから夫々分岐した第1,第2信号線41,42と、これら第1,第2信号線41,42に電気的に接続された増幅器44と、比較器46と、第1,第2導線31a,32aの途中に介装された第1,第2リレー接点51,52と、第1,第2信号線41,42の途中に介装された第3,第4リレー接点53,54と、制御装置55等で構成されている。
【0037】
この第1導線31aにおける前記分岐点Pと第1信号線41の分岐点Rの間には、第1リレー接点51が設けられ、第2導線32aにおける前記分岐点Qと第2信号線42の分岐点Sの間には、第2リレー接点52が設けられている。第1,第2信号線41,42には、夫々第3,第4リレー接点53,54が設けられている。第1〜第4リレー接点51〜54の駆動ソレノイド51a〜54aは、制御装置55により駆動制御される。
【0038】
アルニコ磁石21の極性を切換える際(着磁時又は脱磁時)には、第1,第2リレー接点51,52がONとされ、第3,第4リレー接点53,54がOFFとされる。これに対して、金型M2を固定面に固定した状態において射出成形する際には、第1,第2リレー接点51,52がOFFとされ、第3,第4リレー接点53,54がONとされる。
【0039】
第1信号線41が増幅器44の正極側に接続され、第2信号線42が増幅器44の負極側に接続され、この増幅器44により金型M2の固定状態の変化による磁束の変化によりコイル22a,22bに発生した電圧が増幅される。この増幅器44の出力信号が比較器46の「+」極に入力され、比較器46の「−」極には設定電圧が入力され、増幅器44の出力信号が設定電圧を超えた場合は、比較器46から「H」レベル信号が制御装置55へ出力され、その「H」レベル信号が制御装置55に入力された際には、制御装置55により操作パネル57のアラームランプ58が点灯駆動される。
【0040】
制御装置55は、CPUとROMとRAMとを含むコンピュータと、信号の入出力用のI/Oポートと、サイリスタ34a,34bを駆動する為の駆動回路と、第1〜第4駆動ソレノイド51a〜54aを駆動する駆動回路などを有し、ROMには着磁や脱磁の際に電源スイッチ37と、サイリスタ34a,34bと、第1〜第4リレー接点51〜54を前記のように制御する制御プログラムと、着磁終了後に金型M2の固定状態の変化を検出する為に第1〜第4リレー接点51〜54を前記のように制御すると共に金型M2の固定状態の変化を検出した時に行う種々の制御の制御プログラム等が格納されている。
【0041】
制御装置55に接続された操作パネル57は、スイッチやキー類などを有し、この操作パネル57には、赤色光を発するLEDからなるアラームランプ58が設けられており、増幅器44から制御装置55に「H」レベル信号が入力されると、アラームランプ58が点灯されて金型M2の固定状態が変化したことをオペレータに報知するようになっている。尚、操作パネル57には、金型M1,M2が着磁状態か脱磁状態かを示す複数の表示ランプも設けられている。
【0042】
次に、磁力式固定装置10Bの作用及び効果について説明する。
金型M2を固定面12aに固定する場合、操作パネル57から操作することにより制御装置55により着磁用サイリスタ34aがONされ、正の半波整流された直流が複数のコイル22に数秒間通電され、図6に示すように、アルニコ磁石21による磁束の向きが永久磁石23による磁束の向きと同じになるように、アルニコ磁石21の磁極が切換えられ、金型M2を磁路の一部とする磁気回路が形成される。従って、金型M2とクランププレート12に鎖線で示すように磁束が通り、金型M2がクランププレート12に吸着されて固定され、各マグネットユニット13は着磁状態に切換えられる。この着磁状態に切り換えられた後に、複数のコイル22への通電を停止させる為に着磁用サイリスタ34aがOFFされる。
【0043】
次に、複数のコイル22への通電が停止されると、射出成形機1の稼動中に発生する金型M2のズレや浮きを検出する為に、制御装置55により第1、第2リレー接点51,52がOFFされ、第3,第4リレー接点53,54がONされ、状態検出装置40を作動可能状態に切換える。こうして、コイル22a、22bに発生する誘導起電力から金型M2の固定状態の変化を電気的に検出することができる。
【0044】
ここで、金型M2のズレや浮きが発生すると、金型M2を通る磁路が変化して磁束が乱され、コイル22a,22bを貫く磁束に変化が生じるのでコイル22a,22bに誘導起電力が発生する。特に、コイル22a,22bの巻線数は多いため、磁束の僅かな変化によっても比較的大きな誘導起電力が発生する。この誘導起電力が第1,第2信号線41,42を介して増幅器44へ出力されて増幅器44で増幅され、増幅器44で増幅された出力信号を比較器46において設定電圧と比較し、この設定電圧を超えた場合、比較器46から「H」レベル信号を制御装置55に出力する。
【0045】
制御装置55に比較器46からズレを検出した「H」レベル信号が送信されると、制御装置55により操作パネル57のアラームランプ58を点灯させることにより金型M2のズレや浮きが報知されると共に、制御装置55により射出成形機1を緊急停止させる。このように、金型M2の固定状態の変化を高い感度で確実に検出することができるため、金型落下等の事故を未然に防ぐことができる。
【0046】
また、アルニコ磁石21の極性を切換える為の巻線数の多いコイル22(例えば、約50〜300巻)を、金型M2のズレや浮きを検出する検出用のコイルとして兼用するため、僅かな磁束の変化を検出して大きな誘導起電力を発生させることができるため、ノイズの影響を受けにくくなるうえ、コイル22の種類が増すこともないため、コイル22を製造する際の管理が複雑化することもない。
【0047】
一方、金型M2をクランププレート12から固定解除する場合、先ず、制御装置55により第1,第2リレー接点51,52がONに切換えられ、第3,第4リレー接点53,54がOFFに切換えられる。そして、脱磁用サイリスタ34bがONされ、負の半波整流された直流がコイル22に数秒間通電され、図7に示すように、アルニコ磁石21の磁極が反転し、アルニコ磁石21による磁束が固定面12a外へ出なくなり、金型M2には磁力が作用しなくなって、各マグネットユニット13が脱磁状態に切換えられるため、金型M2を固定面12aから取り外すことができる。
【0048】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]前記実施例では、2つの直列接続したコイル22a,22bを状態検出装置40に適用する例を説明したが、1つのコイルを状態検出装置40に適用してもよいし、或いは、並列接続された複数のコイルを状態検出装置40に適用してもよい
2]前記状態検出装置40に設けた第1〜第4リレー接点51〜54は、一例を示すものであるが、これらと同等の他のリレー接点やスイッチ類を採用してもよい。また、金型の固定状態が変化したことを検出したとき、ブザーによる警報音を発生させるように構成してもよい。
3]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例の射出成形機の要部と金型の正面図である。
【図2】固定側プラテンとクランププレートの側面図である。
【図3】可動側プラテンとクランププレートの側面図である。
【図4】クランププレートの要部とマグネットユニットの側面図である。
【図5】マグネットユニットの分解斜視図である。
【図6】プラテンに設けたクランププレート(着磁状態)の断面図である。
【図7】プラテンに設けたクランププレート(脱磁状態)の断面図である。
【図8】磁力式固定装置の複数のコイルへ通電する通電系統と状態検出装置の構成を示す電気回路図である。
【符号の説明】
【0050】
1 射出成形機
2 固定側プラテン
3 可動側プラテン
10A,10B 磁力式固定装置
11,12 クランププレート
13 マグネットユニット
20 鋼製ブロック
21 アルニコ磁石
22 コイル
23 永久磁石
31 第1導線
32 第2導線
40 状態検出装置
41 第1信号線
42 第2信号線
44 増幅器
46 比較器
51〜54 第1〜第4リレー接点
51a〜54a 駆動ソレノイド
55 制御装置
57 操作パネル
58 アラームランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型が固定される固定面を形成する固定面形成部材に組み込まれ磁力により金型を固定面に固定する為の複数の磁力発生機構であって、各々がアルニコ磁石とこのアルニコ磁石の極性を切換える為のコイルとを有する複数の磁力発生機構を有する磁力式固定装置において、
前記1又は複数の前記コイルに電気的に接続された状態検出手段であって、金型を固定面に固定した状態において金型の固定状態の変化に起因する磁束の変化により前記1又は複数のコイルに発生する電圧から金型の固定状態の変化を電気的に検出する状態検出手段を設けたことを特徴とする磁力式固定装置。
【請求項2】
前記1又は複数のコイルは、前記アルニコ磁石の極性切換え時に直流電力を供給する為の第1,第2導線に接続され、
前記状態検出手段は、前記第1,第2導線に夫々接続された第1,第2信号線と、これら第1,第2信号線に電気的に接続された増幅器と、この増幅器の出力を受けて設定電圧と比較する比較器と、第1,第2信号線の途中部に夫々設けられた第1,第2リレー接点とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の磁力式固定装置。
【請求項3】
前記複数の磁力発生機構を制御する為の制御装置を設け、
前記状態検出手段の比較器の出力信号は制御装置に供給されると共に、前記第1,第2リレー接点は制御装置により開閉制御されることを特徴とする請求項2に記載の磁力式固定装置。
【請求項4】
前記制御装置に接続された操作パネルと、この操作パネルに設けられた表示手段とを設け、前記増幅器から前記設定電圧以上の出力があったことを前記表示手段により報知するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の磁力式固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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