説明

磁化器及び磁粉探傷装置

【課題】簡単な構成で磁化器の起磁力の低下を検出し、測定の信頼性と作業性を向上する。
【解決手段】磁化器1及び磁粉探傷装置20は、被検査物10に近接される磁心コア2に巻き回され、磁心コア2に磁路を発生させる励磁コイル4と、磁心コア2に巻き回される第1の巻き線コイル6と、第1の巻き線コイル6に接続され、励磁コイル4の起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材、鉄鋼部品等の被検査物の欠陥を磁粉探傷する際に使用される磁化器(ハンドマグナ)及び磁粉探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、航空、鉄道、原子力等の広い範囲の技術分野において、鉄鋼材、鉄鋼部品等の被検査物を検査する非破壊検査法として、磁粉探傷試験法が使用されている。磁粉探傷試験法は、被検査物を磁化し、欠陥部の漏洩磁束が発生する領域に磁粉液を散布し、紫外線を照射して磁粉模様を観察するものであり、微細な欠陥まで検出可能という特徴を有している。
【0003】
最近は、可搬式でバッテリー駆動の交流極間式磁粉探傷装置が開発されている。交流極間式磁粉探傷装置は、電源ケーブルを配線する必要が無いことから場所の制約を受けることなく、作業者は少ない労力でありながら短時間で磁粉探傷試験を行うことができる。
特許文献1には、交流極間式磁粉探傷装置の一例が開示される。
【0004】
図8は、従来の磁粉探傷装置40の構成を示す図である。磁粉探傷装置40は、バッテリー電源42と、バッテリー電源42に接続されるインバータ回路44と、インバータ回路44に接続され、被検査物50の欠陥を検出する磁化器46と、を備える。また、磁粉探傷装置40は、バッテリー電源42の電圧の低下を検出する電源電圧検出回路48を備え、バッテリーの交換時期を知らせる。
【0005】
図9は、磁粉探傷装置40が備える電源電圧検出回路48の一例を示す。
電源電圧検出回路48は、比較器、論理回路、警報回路、発光ダイオード回路等を備える。従来の磁粉探傷装置は、磁粉に紫外線を照射する紫外線照射用発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)と、紫外線照射用発光ダイオードを発光させるための不図示の専用電源と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−33043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に磁粉探傷装置40は、バッテリー電源42の電圧の低下にともなう起磁力の低下を検出する手段を備えていなかった。このため、磁化器46の起磁力が低下した状態で磁粉探傷試験を行う場合があり、測定精度と測定の信頼性が低下することがあった。
また、磁化器46に起磁力を測定するための専用外付回路を設ける場合もあった。しかし、磁化器46に専用外付回路を設けると、磁粉探傷装置40が複雑化かつ大型化していた。
【0008】
本発明は、簡単な構成で起磁力の低下を検出し、測定の信頼性と作業性を向上することが可能な磁化器及び磁粉探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁化器は、被検査物に近接される磁心コアに巻き回され、磁心コアに磁路を発生させる励磁コイルと、磁心コアに巻き回される第1の巻き線コイルと、第1の巻き線コイルに接続され、励磁コイルの起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部と、を備える。
【0010】
また、本発明に係る磁粉探傷装置は、電源から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、インバータ回路に接続され、被検査物に近接される磁心コアに巻き回され、磁心コアに磁路を発生させる励磁コイルと、磁心コアに巻き回される第1の巻き線コイルと、第1の巻き線コイルに接続され、励磁コイルの起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の巻き線コイルに可視光線を発光する第1の発光部を接続することによって、簡単な構成でありながら、バッテリーの交換時期を確実に検知することが可能となり、測定の信頼性と作業性を向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁化器の構成例を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁粉探傷装置の内部構成例を示すブロック図である。
【図3】作業者が、本発明の第1の実施形態に係る磁粉探傷装置を携行場合の使用例を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る4極交流極間磁化器の例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る4極交流極間磁化器の例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る磁粉探傷装置の構成例を示す外観斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る磁粉探傷装置の内部構成例を示すブロック図である。
【図8】従来の磁粉探傷装置の構成例を示す図である。
【図9】従来の磁粉探傷装置が備える電源電圧検出回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁化器1の一例を示す図である。
磁化器1は、被検査物10に近接されるU字形状の磁心コア2に巻き回され、磁心コア2に磁路を発生させる励磁コイル4と、磁心コア2に巻き回される第1の巻き線コイル6と、第1の巻き線コイル6に接続され、励磁コイル4の起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部12と、を備える。また、磁化器1は、磁心コア2に巻き回される第2の巻き線コイル8を備える。
【0015】
第1の発光部12は、可視光線を発光することによって、起磁力(電源電圧)が所定の値以上あるか否かを作業者に表示する。第2の巻き線コイル8には、紫外線を発光する第2の発光部16が接続される。
本例では、第1の発光部12として可視発光ダイオードを用い、第2の発光部16として紫外線照射用発光ダイオードを用いる。
【0016】
磁心コア2は、基底部を被検査物10に近接又は接触させることによって、磁心コア2と被検査物10で磁気ループを形成する。磁心コア2は、作業者が携行できる大きさと重さで形成される。磁心コア2は、3%珪素鋼板により形成されるカットコアにより構成されても良い。作業者は、被検査物10の欠陥部の表面を磁粉液で浸すことにより被検査物10の欠陥を探傷することができる。
【0017】
図2は、磁化器1を備える磁粉探傷装置20の内部構成例を示すブロック図である。
【0018】
磁粉探傷装置20は、バッテリー電源22と、バッテリー電源22に接続されるインバータ回路24と、インバータ回路24に接続され、被検査物10の欠陥を検出する磁化器1とを備える。
【0019】
バッテリー電源22の直流電力は、インバータ回路によって交流電力に変換され、電流の周波数と電流の大きさが制御される。電流の周波数と大きさを可変にできるので、磁化器1及び磁化器1を用いる磁粉探傷装置20により、被検査物10の磁化及び脱磁の両方を行うことができる。
【0020】
鉛蓄電池は、環境に対する影響と、充放電の繰り返しに不向きであるという欠点を有する。このため、バッテリー電源22として、例えば、ニッケル水素電池が使用される。例えば、バッテリー電源22として、24Vのニッケル水素電池を昇圧して64Vでインバータ回路24を駆動し、10〜50Hzの交流磁化電流を励磁コイル4に通電する。これにより、磁心コア2に磁路が発生し、磁心コア2の両端部に近接する被検査物10が磁化される。
【0021】
磁粉探傷装置20は、商用周波数より低い周波数の交流電流を用いるので、インピーダンスを低く抑えることができ、低電圧で磁粉探傷検査が可能となる。また、商用周波数より低い周波数の交流電流を用いるので、電圧波形は、完全な正弦波とせずに、高調波成分を含む電圧波形を用いている。
【0022】
ここで、第1の巻き線コイル6の巻き線数は、以下の条件に従って定められる。本例では、磁心コア2の有する起磁力が磁粉探傷検査に必要な所定の値以上である場合に、第1の発光部12が点灯するようにしている。
【0023】
例えば、第1の発光部12を点灯させるための巻き数は、dΦ/dt×N=1.5(Wb/m2)×0.02×0.02/0.008×N=1Vの関係式から、N=13ターンであることが求められる。
【0024】
一方、第2の発光部16から発光された紫外線を、被検査物10の欠陥部に吹き付けられた磁粉に照射することによって、作業者は被検査物10の欠陥を検査できる。第2の発光部16は、不図示の収納容器に収納される。
【0025】
例えば、第2の発光部16を点灯させるための巻き数は、dΦ/dt×N=1.5(Wb/m2)×0.02×0.02/0.008×N=5Vの関係式から求めると、N=67ターンである。第2の巻き線コイル8のターン数を、例えば、N=100ターン程度にすることにより、第2の発光部16は磁化器1から電力の供給を受けることが可能となる。
【0026】
磁心コア2は、3%珪素鋼板により形成されるカットコアにより構成される。3%珪素鋼板により形成される磁心コア2は、珪素鋼板を積層して形成される磁心コアと比較して、透磁率を高くすることができ、一定の電圧に対して励磁電流を小さくすることができる。
【0027】
これにより、磁心コア2の断面積と励磁コイル4の巻き線径を小さくし、磁化器1と磁粉探傷装置20を小型化し、軽量化することが可能となる。また、バッテリー電源22を使用する場合に、一回の充電により使用できる時間が長くなるので、作業者は検査範囲を拡大することが可能となる。
【0028】
図3は、作業者が、磁粉探傷装置20,20′を携行した場合の使用例を示す。
【0029】
図3Aは、バッテリー電源22に接続された磁粉探傷装置20の使用例を示す。
作業者は、収納容器25に収納されたバッテリー電源22とインバータ回路24を、ベルトストラップ27又はショルダーストラップ28を用いて装着する。そして、作業者は、バッテリー電源22及びインバータ回路24に接続ケーブル26を介して接続される磁化器1を携行する。
【0030】
磁粉探傷装置20において、商用交流電源に接続する電源ケーブルが不要となるので、ガスタンク、船底等の作業において、作業性が大幅に向上する。また、磁粉探傷装置20は、ベルトストラップ27又はショルダーストラップ28により装着することが可能なので、作業者が梯子を昇降したり、高所や狭所で作業したりする場合における作業性、安全性を大幅に向上することが可能である。
【0031】
図3Bは、商用電源から電力を取り込む磁粉探傷装置20′の使用例を示す。
磁粉探傷装置20′は、バッテリー電源22の代わりに交流電力を商用電源から供給する電源プラグ29を備えた点が磁粉探傷装置20と異なる。
このように磁粉探傷装置20′を構成すると、バッテリー電源22の分だけ磁粉探傷装置20′を軽量化することができる。
【0032】
図4A〜図4E、図5A,図5Bは、2極交流極間磁化器の電磁石を2個組み合わせて、4極交流極間磁化器を構成する場合の例を示す。
図4A〜図4E、図5A,図5Bは、それぞれ磁化器1、磁心コア2、及び励磁コイル4の配置関係の例を示している。すなわち、磁石を組み合わせる形態として、例えば、図4Aに示されるX型、図4Bに示されるH型、図4Cに示されるHL型、図4Dに示されるD型、図4Eに示されるC型、又は、図5A,図5Bに示されるR型を用いる。
【0033】
このような4極交流極間磁化器は、隣り合う磁極が異種となるように構成する。また、回転磁界を発生させるためには、2組の磁化電流の間に60〜120度の位相差を生じさせるように構成する。この回転磁界により、磁化器1の設置方向によらずに被検査物10を磁粉探傷することが可能となる。
【0034】
以上説明した第1の実施形態に係る磁化器1と磁粉探傷装置20によれば、第1の巻き線コイル6に第1の発光部12を接続することにより、起磁力の低下を表示するための専用回路を別途設けることなく、磁心コア2の起磁力低下を検出することが可能となる。これにより、磁化器1又は磁粉探傷装置20を使用する作業者は、バッテリー電源22を交換する時期を知ることができる。また、磁粉探傷装置20は、起磁力低下を表示する専用回路を備える磁粉探傷装置と比較して、小型化、低価格化を実現することができる。
【0035】
また、磁心コア2に第2の発光部16が装着されるので、第2の発光部16を手に持って作業する必要が無くなり、作業者の作業性が向上するという効果がある。また、バッテリー電源22を携行しながら、磁化器1と、第2の発光部16を動作させることができる。このため、商用交流電源に接続するための交流電源ケーブルが不要となり作業性が向上するという効果がある。
【0036】
また、第2の発光部16に必要な電力は、第2の巻き線コイル8と励磁コイル4を介して、バッテリー電源22から供給される。これにより、第2の発光部16を発光させるための別電源が不要となり、磁化器1と磁粉探傷装置20を軽量化できるという効果がある。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る磁化器30と磁粉探傷装置36について説明する。以下の説明において、既に第1の実施の形態で説明した図1及び図2に対応する部分には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0038】
図6は、磁化器30の外部構成例を示す外観斜視図である。
磁化器30は、磁心コア2の一端に取り付けられる収納部材31と、収納部材31に収納される励磁コイル4,第2の巻き線コイル8及び整流器32を備える。収納部材31は、適宜磁心コア2から取り外し可能であり、作業者がメンテナンスをしやすい構成となっている。整流器32には、コンデンサ等の電子部品が組み込まれており、第2の発光部16に接続される。このため、第2の発光部16には、整流器32が交流電力を変換した直流電力が供給される。
【0039】
また、収納部材31は、第2の発光部16の照射方向を任意に変えるための支持部33を備える。支持部33によって、第2の発光部16の回転軸が支持されるため、被検査物10の任意の場所に紫外線を照射できる。
【0040】
また、磁心コア2の下面には、作業者が被検査物10の磁化を行う際にオン/オフの切替えを行うスイッチ34が取り付けられ、磁心コア2の両端部には、先端部を折り曲げ可能なツメ部35が取り付けられる。ツメ部35は、磁心コア2から着脱可能としてあり、被検査物10の形状に合わせて任意の角度に折り曲げ、被検査物10を確実に磁化することが可能である。
【0041】
なお、本例では、収納部材31の下層に励磁コイル4を配置し、上層に第2の巻き線コイル8を配置する2層構造としている。絶縁コーティングされた励磁コイル4の上に第2の巻き線コイル8が巻き回されるため、励磁コイル4と第2の巻き線コイル8は短絡しない。また、第1の巻き線コイル6と第1の発光部12は、磁心コア2に埋め込まれており、図6に図示されないものの、作業者は磁化器30を上面から見た場合に、第1の発光部12の点灯又は消灯を確認できる。
【0042】
図7は、磁粉探傷装置36の内部構成例を示すブロック図である。
磁粉探傷装置36は、磁化器30を備えており、基本的な構成は上述した磁粉探傷装置20と同様である。
【0043】
以上説明した第2の実施形態に係る磁化器30と磁粉探傷装置36によれば、第2の巻線コイル8と第2の発光部16の間に、整流器32を備えるようにした。これにより、第2の発光部16は所定の光強度を維持しながら紫外線を被検査物10の検査部位に照射することができる。このため、紫外線の光強度が安定化し、検査の精度を高めることができるという効果がある。
【符号の説明】
【0044】
1…磁化器、2…磁心コア、4…励磁コイル、6…第1の巻き線コイル、8…第2の巻き線コイル、10…被検査物、12…第1の発光部、16…第2の発光部、20…磁粉探傷装置、20′…磁粉探傷装置、22…バッテリー電源、24…インバータ回路、25…収納容器、26…接続ケーブル、27…ベルトストラップ、28…ショルダーストラップ、29…電源プラグ、30…磁化器、31…収納部材、32…整流器、33…支持部、34…スイッチ、35…ツメ部、36…磁粉探傷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物に近接される磁心コアに巻き回され、前記磁心コアに磁路を発生させる励磁コイルと、
前記磁心コアに巻き回される第1の巻き線コイルと、
前記第1の巻き線コイルに接続され、前記励磁コイルの起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部と、を備える
磁化器。
【請求項2】
前記磁心コアに巻き回される第2の巻き線コイルと、
前記第2の巻き線コイルに接続され、紫外線を発光する第2の発光部と、を備える
請求項1記載の磁化器。
【請求項3】
前記第2の巻き線コイル及び前記第2の発光部の間に、前記第2の発光部に供給される交流電力を直流電力に変換する整流器を備える
請求項2記載の磁化器。
【請求項4】
前記磁心コアがカットコアにより構成される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁化器。
【請求項5】
前記磁心コアと前記励磁コイルによって回転磁界が形成される
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁化器。
【請求項6】
電源から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路に接続され、被検査物に近接される磁心コアに巻き回され、前記磁心コアに磁路を発生させる励磁コイルと、
前記磁心コアに巻き回される第1の巻き線コイルと、
前記第1の巻き線コイルに接続され、前記励磁コイルの起磁力が所定の値以上である場合に、可視光線を発光する第1の発光部と、を備える
磁粉探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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