説明

磁場分布測定方法、磁場分布測定用治具、磁石装置及び磁気共鳴撮像装置

【課題】少ない計測点M1〜M4で磁場空間の表面上を計測しても、磁場空間の高精度な均一度を取得できる磁場分布測定方法を提供する。
【解決手段】磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源と、複数の磁性材を不均一に配置し磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での磁場空間の磁場分布測定方法において、磁性材の磁場均一度調整装置に配置する位置を変えながら、磁性材が磁場空間の表面に作る磁場分布を取得し、磁場分布のピーク位置θに対する磁場分布の半値半幅dθの関数を設定し、磁場空間の表面上に配置し磁場を計測する複数の計測点M1〜M4の間隔dθa、dθb、dθcを、計測点M1〜M4を置いた位置に一致するピーク位置θから関数によって導かれる半値半幅dθ以下になるように、計測点M1〜M4の位置によって間隔dθa、dθb、dθcの大きさを変えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生源と磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での磁場空間の磁場分布測定方法に関し、さらに、その磁場分布測定方法の実施の際に使用する磁場分布測定用治具と、その磁場分布測定方法の計測結果に基づいて調整した磁場均一度調整装置を備えた磁石装置と、この磁石装置を搭載した磁気共鳴撮像装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像(MRI;Magnetic Resonance Imaging)装置は、均一な静磁場の磁場空間に置かれた被検体に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して被検体の物理的、化学的性質を表す画像を得ることができ、主に、医療用として用いられている。磁気共鳴撮像装置では、被検体が搬入される撮像領域内に均一な静磁場の磁場空間を生成するために、その磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源だけでなく、磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置をも備えた磁石装置が搭載されている。
【0003】
磁場均一度調整装置では、磁性材を磁場空間の周囲に配置して磁束を移動させる制御により、磁場の均一度を向上させている。このとき、磁場空間の磁場の均一度の計測結果を取得するために、磁場空間内部の磁場の最大値と最小値を取得する必要があるが、これに替えて、磁場空間の表面上の磁場の最大値と最小値を取得することで、磁場空間内部の磁場の均一度が算出できる。これにより、磁場空間の表面上の磁場のみを計測すればよいので、計測点の数を減らせ、計測時間を短縮できる。しかし、磁場空間の表面上の磁場の計測だけでも、計測点の数は多く、その計測にかなりの時間を要していた。例えば、非特許文献1には、球状の磁場空間の中心を原点とし静磁場の方向とのなす角をθとするrθφ座標系において、θ方向の間隔が約7.3度である等間隔に計測点を置くことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MetroLab社の製品マニュアル"PROBE-ARRAY MFC-3048 / 24 Probes DATA SHEET"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気共鳴撮像装置の画像の画質を決める要件の一つが、撮像領域内の静磁場の均一度である。撮像領域内の静磁場の均一度は、例えば、撮像領域内の最大の磁場強度と最小の磁場強度との差の、撮像領域内の平均磁場強度に対する比で定義できる。具体的に、撮像領域内の静磁場の均一度としては、撮像対象によって要求される値が異なり、ごく一般的な画像を得る際には30ppm以下の均一度が要求されたり、脂肪部分の受信信号を除去するために3ppm以下の均一度が要求されたりする。
【0006】
撮像領域(磁場空間)内の静磁場の磁場分布Bはラプラス方程式を満たすから、ラプラス方程式の一般解として式1のように表現できる。
【数1】

ここでrは撮像領域(磁場空間)の幾何的な中心からの距離、l、mは次数を表す整数、a、bは未知係数であり、θはz軸からの角度(仰角)、φはz軸まわりの回転角度(方位角)であり、Pはルジャンドル陪関数である。磁場空間の表面上の複数の計測点で計測された磁場分布Bをもとに、未知係数a、bを求めることができれば、磁場空間の内側の磁場分布Bはa、bの求まった式1を用いた内挿演算により算出することができる。すなわち、磁場空間の表面上の磁場分布Bさえ測定すれば、その内側の磁場分布Bは内挿演算により算出することができ、その内側の磁場分布Bを直接測定することなしに、磁場空間における磁場の均一度を取得することができる。
【0007】
そして、その磁場の均一度を高精度に算出するには、前記内挿演算の精度を向上させる必要がある。内挿演算の精度向上には、式1における次数l、mをなるべく多く考慮することであり、未知係数a、bの数が増えるから、これらを決定するために計測点の数を増やす必要がある。逆に、計測点の数が少なく、次数l、mを少ししか考慮できない場合、現実に存在する次数l、mの高い磁場分布Bを、低い次数l、mの磁場分布として測定することになるので、いわゆるサンプリング定理におけるエイリアシングが生じ、高精度な内挿演算が実施できなくなる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、少ない計測点で磁場空間の表面上を計測しても、磁場空間の高精度な均一度を取得できる磁場分布測定方法、磁場分布測定用治具、磁石装置及び磁気共鳴撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明は、磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源と、複数の磁性材を不均一に配置し前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での前記磁場空間の磁場分布測定方法において、
前記磁性材の前記磁場均一度調整装置に配置する位置を変えながら、前記磁性材が前記磁場空間の表面に作る磁場分布を取得し、
前記磁場分布のピーク位置に対する前記磁場分布の半値半幅の関数を取得し、
前記磁場空間の表面上に配置し前記磁場を計測する複数の計測点の間隔を、前記計測点を置いた位置に一致する前記ピーク位置から前記関数によって導かれる前記半値半幅以下になるように、前記計測点の位置によって前記間隔の大きさを変えることを特徴としている。
【0010】
そして、第2の本発明は、第1の本発明の磁場分布測定法により配置された前記計測点で、前記磁場発生源で発生させた磁場を計測した計測結果に基づいて、複数の磁性材を配置した前記磁場均一度調整装置によって、前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させている磁石装置であることを特徴としている。
【0011】
また、第3の本発明は、磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源と、複数の磁性材を不均一に配置し前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での前記磁場空間の磁場分布測定用治具において、
前記磁性材の前記磁場均一度調整装置に配置する位置を変えたときに、前記磁性材が前記磁場空間の表面に作る磁場分布を用いて取得した、前記磁場分布のピーク位置に対する前記磁場分布の半値半幅の関数を用いて、前記磁場空間の表面上に配置し前記磁場を計測する複数の計測点の間隔を、前記計測点を置いた位置に一致する前記ピーク位置から前記関数によって導かれる前記半値半幅以下になるように、前記計測点の位置によって前記間隔の大きさを変えている前記計測点に、磁場センサを固定するホルダと、
前記ホルダを、前記磁場空間における磁場の向きに平行な回転軸のまわりに回転させることが出来るように構成された座とを有することを特徴としている。
【0012】
そして、第4の本発明は、第3の本発明の磁場分布測定用治具により設定された前記計測点で前記磁場発生源で発生させた磁場を計測した計測結果に基づいて、複数の磁性材を配置した前記磁場均一度調整装置によって、前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させている磁石装置であることを特徴としている。
【0013】
最後に、第5の本発明は、第2の本発明又は第4の本発明の磁石装置を搭載している磁気共鳴撮像装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少ない計測点で磁場空間の表面上を計測しても、磁場空間の高精度な均一度を取得できる磁場分布測定方法、磁場分布測定用治具、磁石装置及び磁気共鳴撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置の縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の概略の構成図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置において、1つの磁性材を磁場均一度調整装置の中心軸上と中心軸上からR離れたそれぞれの場合に、それらの磁性材が均一磁場空間(撮像空間)の表面上に作る磁場分布のグラフである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置において、磁場分布の半値半幅と、磁場分布ピーク位置(磁性材の配置された方向)との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置において、均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の間隔を決める磁場分布測定方法の一例を説明するグラフである。
【図7A】本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定方法によって決定した均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の配置の一例を二次元的に示す配置図である。
【図7B】本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定方法によって決定した均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の配置の一例を三次元的に示す配置図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る磁石装置において、均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の間隔を決める磁場分布測定方法の別の一例を説明するグラフである。
【図9A】本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定用治具の正面図である。
【図9B】本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定用治具を設置した磁石装置の縦断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る磁場分布測定用治具の正面図である。
【図11A】本発明の第3の実施形態に係る磁石装置の斜視図である。
【図11B】本発明の第3の実施形態に係る磁場分布測定用治具を設置した磁石装置の縦断面図である。
【図12A】本発明の第4の実施形態に係る磁石装置の斜視図である。
【図12B】本発明の第4の実施形態に係る磁石装置の縦断面図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の概略の構成図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る磁石装置において、1つの磁性材を磁場均一度調整装置の赤道面上と赤道面からR離れたそれぞれの場合に、それらの磁性材が均一磁場空間(撮像空間)の表面上に作る磁場分布のグラフである。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る磁石装置において、均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の間隔を決める磁場分布測定方法の一例を説明するグラフである。
【図16A】本発明の第4の実施形態に係る磁場分布測定方法によって決定した均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の配置の一例を二次元的に示す配置図である。
【図16B】本発明の第4の実施形態に係る磁場分布測定方法によって決定した均一磁場空間の表面上の磁場の計測点の配置の一例を三次元的に示す配置図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る磁場分布測定用治具を設置した磁石装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る磁気共鳴撮像装置は、装置毎に撮像領域(磁場空間)の大きさや、磁場均一度調整装置(シムトレイ)の位置と大きさ、磁性材(シム)の配置方法、間隔が異なるから、本発明の実施にあたっては、本発明の磁場分布測定方法に従って装置毎に最適な計測点の間隔を定め、これに対応した磁場分布測定用治具を製作する。本発明の磁気共鳴撮像装置は、上下に対向する磁極の間の撮像領域に、静磁場の方向が鉛直で、磁場強度が均一な磁場空間を生成する垂直磁場型と、水平方向を向いた中心軸を持つソレノイド状のコイル群の内側の撮像領域に、静磁場の方向が水平で、磁場強度が均一な磁場空間を生成する水平磁場型と、それらの類型に大別される。そして、本発明の磁気共鳴撮像装置に搭載される本発明の磁石装置も、本発明の磁気共鳴撮像装置の型に応じて、垂直磁場型と、水平磁場型と、それらの類型に大別される。本発明の磁場分布測定方法や磁場分布測定用治具によれば、それらのいずれの型についても最適な計測点の間隔を定めることができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、磁石装置(磁気共鳴撮像装置)の型に対応させて説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係る磁石装置8の斜視図を示す。第1の実施形態の磁石装置8は垂直磁場型の磁石装置である。磁石装置8には、一対の磁極1、2が、2本の連結柱5によって互いに離されて、(均一)磁場空間3を挟むように上下方向(z軸方向)に対向して配置されている。磁極1、2にはそれぞれ、磁場発生源(起磁力源)としての永久磁石6、7と、磁場均一度調整装置15、16としてのシムトレイとが内蔵されている。永久磁石6、7と、磁場均一度調整装置15、16と、連結柱5と、磁場均一度調整装置15と16の間の空隙部11とによって磁気回路10が構成されている。均一磁場空間3は、この空隙部11内に形成されている。均一磁場空間3の外形はどのような形状であっても構わないが、多くの場合、球状あるいは偏平な回転楕円体となり、図1では球状の場合を例示している。均一磁場空間3における磁場の向き4は、上下方向(z軸方向)に一致している。
【0019】
図2に、本発明の第1の実施形態に係る磁石装置8の縦断面図を示す。磁石装置8の中心軸13に一致するようにz軸を定義している。面対称の関係にある磁極1と2における対称面として赤道面14を定義している。赤道面14は中心軸13(z軸)と直交し、この直交に伴う交点は、磁石中心(磁石対称点)12となっている。この磁石中心12は、均一磁場空間3の外形の球状の中心に略一致している。
【0020】
均一磁場空間3の外形の表面上の任意の点のスイープ計測点M0で、磁場の強度を計測する場合を考えると、スイープ計測点M0の位置は、均一磁場空間3の外形の球状の半径rと、磁石中心12からスイープ計測点M0への方向と中心軸13(z軸)とのなす仰角θと、中心軸13(z軸)周りの角度(方位角)φとによって一意に定めることができる。
【0021】
磁場均一度調整装置(シムトレイ)15、16は、均一磁場空間3を上下に挟むように配置されている。磁場均一度調整装置(シムトレイ)15、16の形状は任意であり、その形状は本発明の本質に影響を及ぼさないが、多くの場合、図2に示すように、赤道面14と共に平行で、かつ、中心軸13を共通の中心軸とする一対の円盤形状をしている。図2では、磁性材(シム)17を磁場均一度調整装置(シムトレイ)15に配置した様子を示している。磁性材(シム)17を磁場均一度調整装置(シムトレイ)15、16に配置することで、均一磁場空間3の磁束を移動させる制御(いわゆるシミング作業)を行い、均一磁場空間3における磁場の均一度を向上できる。磁性材(シム)17には、永久磁石や鉄などを用いることができる。
【0022】
磁場均一度調整装置(シムトレイ)15、16の円盤上における磁性材(シム)17の位置は、中心軸13(z軸)上のシムトレイ中心24、25を原点とする円盤の半径方向のR座標と、前記z軸周りの角度(方位角)φとによって一意に定めることができる。図2では、磁性材(シム)17を、磁場均一度調整装置(シムトレイ)15上のR=0の位置と、R=Rの位置に配置した場合を示している。
【0023】
図3に、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置9の概略図を示す。磁気共鳴撮像装置9は、前記磁石装置8を搭載し、さらに、磁場均一度調整装置(シムトレイ)15、16の赤道面14側に傾斜磁場コイル18、19を配置し、さらに傾斜磁場コイル18、19の赤道面14側にRF送受信コイル20、21が配置されている。そして、磁石装置8の外側には、傾斜磁場コイル18、19やRF送受信コイル20、21を駆動するための駆動装置22や制御装置23が具備されている。
【0024】
図4に、磁石装置8において、1つの磁性材(シム)17を磁場均一度調整装置(シムトレイ)15のシムトレイ中心24上(R=0)とシムトレイ中心24上からR離れたところ(R=R)のそれぞれに配置した場合に、それらの磁性材17が均一磁場空間(撮像空間)3の表面上に作る磁場分布26と27を示している。これらの磁場分布26、27は、スイープ計測点M0(図2参照)で、磁場強度を計測しながら、スイープ計測点M0をθ方向に移動させることで、計測することができる。移動するスイープ計測点M0には、磁場センサを配置させる。なお、この計測に替えて、シミュレーションにより磁場分布26、27を算出してもよい。また、磁石装置8の中心軸(z軸)13回りの対称性より、これらのθ方向の磁場分布26、27の傾向は、任意の方位角φにおいて成立している。
【0025】
図4より、R=0の場合、すなわちシム17をシムトレイ中心24に置いた場合の磁場分布26は、R=Rの場合の磁場分布27に対し、ピーク位置θにおけるピーク強度が、ピーク位置θにおけるピーク強度より大きく、かつ、半値半幅dθが、半値半幅dθより狭い、鋭いピークのある磁場分布となっている。
【0026】
サンプリング定理が教えるところによれば、これらの磁場分布26、27を正確に知るには、半値半幅dθ、dθ以下の計測点間隔で、磁場分布26、27を計測しなければならない。そして、半値半幅dθ、dθは、ピーク位置θ、θによって、すなわち、シム17をシムトレイ15、16に置いた位置(R)によって、異なる値を取っている。つまり半値半幅dθ、dθは、ピーク位置θ、θやシム17の位置R=0、Rにおける計測点間隔の最大値を示していることになる。なお、ピーク位置θ、θと、シム17の位置R=0、Rとは、物理現象として一対一に対応するので、ピーク位置θ、θは、シム17の位置を表すために、R値の代用としても用いることができる。
【0027】
図5に、磁場分布のピーク位置θと、そのピーク位置θにおける均一磁場空間3の表面上の磁場分布の半値半幅dθとの関係のシミュレーション結果を示す。ピーク位置θとして0度から90度までを表示しているが、これは、シム17を上側のシムトレイ15に配置した例であるためである。本第1の実施形態では赤道面14を対称面とする上下対称の体系を例示しているから、下側のシムトレイ16にシム17を配置する例を検討する際には、ピーク位置θとして90度から180度までの範囲となる。そして、ピーク位置θが180度における半値半幅dθは、ピーク位置θが0度における半値半幅dθに略一致することは明らかである。
【0028】
図5によれば、ピーク位置θが0度近傍における半値半幅dθmin(=dθ)に対し、ピーク位置θが前記θの半値半幅dθの方が大きくなっており、さらに、90度近傍の半値半幅dθmaxの方が大きくなっていることがわかる。そして、90度近傍の半値半幅dθmaxは、0度近傍の半値半幅dθminの2倍以上で略3倍になっている。すなわち、ピーク位置θが0度から90度間で、ピーク位置θが大きくなればなる程、半値半幅dθも大きくなる増加関数になっていることがわかる。そして、計測点間隔は、サンプリング定理より、半値半幅dθを最大の計測点間隔として、それ以下に設定されるので、半値半幅dθがピーク位置θによって大きさを変えるということは、計測点間隔もピーク位置θによって大きさを変えることができることになる。そして、ピーク位置θに応じて半値半幅dθの許容範囲で、計測点間隔を大きくすることで、磁場分布の測定精度あるいは内挿演算精度を高精度に維持したまま計測点の数を減らすことができる。つまり、計測点間隔を、図5のグラフのカーブにしたがって導かれる半値半幅dθ以下になるように、ピーク位置θ(計測点に相当)に応じて計測点間隔の大きさを変えることにすれば、最適かつ最少の計測点配置により、高精度に磁場分布が測定できる。
【0029】
図6に、均一磁場空間3の表面上の磁場の計測点M1〜M4の計測点間隔dθa〜dθcを決める磁場分布測定方法の一例を示す。まず、ピーク位置θが0度(θ=0度)の位置に計測点M1を配置する。次に、ピーク位置θが0度(θ=0度)の位置における半値半幅dθa(=dθmin=dθ)を図5、6のグラフから読み取って取得し(あるいは、シミュレーションによって取得してもよい。以下、同様)、この半値半幅dθaを、計測点M1と計測点M2の間の計測点間隔(dθa)とする。具体的には、計測点M1から計測点間隔(dθa)離れた位置に、計測点M2を配置する。なお、図6では、縦軸と横軸のスケールは異なっている。
【0030】
次に、ピーク位置θが計測点M2の位置(θ=dθa)における半値半幅dθbを図5、6のグラフから読み取って取得し、この半値半幅dθbを、計測点M2と計測点M3の間の計測点間隔(dθb)とする。半値半幅dθbは、半値半幅dθaとは読み取った際のピーク位置θが異なる(dθa≠0)ので、異なった値になり(dθb≠dθa)、半値半幅dθaより大きくなる(dθb>dθa)。具体的には、計測点M2から計測点間隔(dθb)離れた位置(θ=dθa+dθb)に、計測点M3を配置する。
【0031】
同様に、ピーク位置θが計測点M3の位置(θ=dθa+dθb)における半値半幅dθcを図5、6のグラフから読み取って取得し、この半値半幅dθcを、計測点M3と計測点M4の間の計測点間隔(dθc)とする。半値半幅dθcは、半値半幅dθa、dθbとは読み取った際のピーク位置θが異なる(dθa+dθb≠0、dθa+dθb≠dθa)ので、異なった値になり(dθc≠dθa、dθc≠dθb)、半値半幅dθa、dθbより大きくなる(dθc>dθb>dθa)。具体的には、計測点M3から計測点間隔(dθc)離れた位置(θ=dθa+dθb+dθc)に、計測点M4を配置する。このように、計測点M1〜M4の配置された位置の差分は、dθa〜dθc(dθc>dθb>dθa)となるので、等差の関係にはなっていない。そして、90度近傍の半値半幅dθmaxは、0度近傍の半値半幅dθminの2倍以上で略3倍になっていることから、計測点間隔もその最小値と最大値とで、最大値を最小値の2倍以上で3倍程度に設定できる。
【0032】
図7Aに、均一磁場空間3の表面上に計測点M1〜M4を配置した一例を、二次元的に示す。計測点M1〜M4の配置の作業は、まず、計測点M1〜M4の位置が90度(θ=90度)を超えない範囲で繰り返される。そして、ピーク位置θが90〜180度の範囲は、磁石装置8の赤道面14(図2参照)に対する対称性から、図7Aに示すように設定できる。すなわち、ピーク位置θが180度(θ=180度)の位置に計測点M1を配置する。次に、計測点M1から計測点間隔(dθa)離れた位置(θ=180−dθa)に、計測点M2を配置する。次に、計測点M2から計測点間隔(dθb)離れた位置(θ=180−dθa−dθb)に、計測点M3を配置する。最後に、計測点M3から計測点間隔(dθc)離れた位置(θ=180−dθa−dθb−dθc)に、計測点M4を配置する。
【0033】
図7Bに、均一磁場空間3の表面上に計測点M1〜M4を配置した一例を、三次元的に示す。z軸まわりの計測点間隔dφは、前記で述べてきたサンプリング定理等の原理から、ピーク位置θが90度(θ=90度)での半値半幅dθ90(=dθmax、図6参照)に等しくする(dφ=dθ90)。これによれば、隣り合う計測点M2と計測点M2との計測点間隔より、隣り合う計測点M3と計測点M3との計測点間隔を長くすることができる。同様に、隣り合う計測点M3と計測点M3との計測点間隔より、隣り合う計測点M4と計測点M4との計測点間隔を長くすることができる。そして、計測点M1〜M4を最適に配置でき、計測点M1〜M4の個数を最少にできる。
【0034】
図8に、均一磁場空間3の表面上の磁場の計測点M1〜M5の計測点間隔dθa、dθe(dθe≠dθa、dθe>dθa)を決める磁場分布測定方法の、図6に示した方法とは別の一例を示す。まず、ピーク位置θが0度(θ=0度)の位置に計測点M1を配置する。次に、ピーク位置θが0度(θ=0度)の位置における半値半幅dθa(=dθmin=dθ)を図5、6のグラフから読み取って取得し、この半値半幅dθaを、所定のピーク位置θ(図8では45度)に達しない計測点M1〜M3の計測点間隔とする。具体的には、計測点M1から計測点間隔(dθa)離れた位置(θ=dθa)に、計測点M2を配置し、同様に、計測点M2から計測点間隔(dθa)離れた位置(θ=2×dθa)に、計測点M3を配置する。なお、図8では、縦軸と横軸のスケールは異なっている。
【0035】
次に、ピーク位置θが45度における半値半幅dθeを図5、6のグラフから読み取って取得し、この半値半幅dθeを、少なくとも一方の計測点M4、M5が、ピーク位置θの45度を超えている計測点M3〜M5の間の計測点間隔とする。具体的には、計測点M3から計測点間隔(dθe)離れた位置(θ=2×dθa+dθe)に、計測点M4を配置し、同様に、計測点M4から計測点間隔(dθe)離れた位置(θ=2×dθa+2×dθe)に、計測点M5を配置する。半値半幅dθeは、半値半幅dθaに等しくなく(dθe≠dθa)、半値半幅dθaより大きくなっている(dθe>dθa)。この例によっても、0〜90度のどのピーク位置θにおいても、計測点間隔は、半値半幅dθを超えていない。このため、内挿演算等の算出の精度を低下させることがない。等しい大きさの計測間隔が繰り返し計算に使われるので、計算を単純化できる。ただ、計測点の個数は図6の場合よりも多くなる。どちらを選択するかは、計測時間との兼ね合いで決定すればよい。いずれにせよ、ピーク位置θが0度(θ=0度)近傍の計測点間隔よりも、90度(θ=90度)近傍の計測点間隔を大きくすることができ、その結果、計測点間隔を等間隔に配置するよりも、計測点M1〜M5の個数を減らすことができる。
【0036】
図9Aに、本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定用治具32の正面図を示す。磁場分布測定用治具32は、穴31が開けられた非磁性で平板形状のホルダ28と、ホルダ28を中心軸13(z軸)まわりに回転できるように支持する座29と、ホルダ28の穴31に嵌め込まれて保持される磁場センサ30とを有している。ここで、磁場センサ30は磁場強度が測定できるものであれば何でもよいが、磁気共鳴撮像装置9では高精度な測定を要するため、例えば、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)センサなどが用いられる。
【0037】
ホルダ28には、均一磁場空間3の表面の円弧と同じ大きさの円弧に沿った前記計測点M1〜M4のそれぞれの位置に穴31が設けられている。計測点M1〜M4の計測点間隔は、前記磁場分布測定方法で説明した前記計測点間隔dθa〜dθc、dθeと同じになるように設けられている。このため、ホルダ28の隣り合う穴31の間隔は、z軸(θ=0度および180度)近傍よりも、z軸から離れた赤道面14(θ=90度)近傍の方が広くなるという外見的特徴を持っている。このような磁場分布測定用治具32を使うことで、位置θに依存して変動する前記計測点間隔dθa〜dθc、dθeで磁場分布を測定することが可能になる。
【0038】
図9Bに、磁場分布測定時に本発明の第1の実施形態に係る磁場分布測定用治具32を、磁石装置8に設置した様子を示す。磁場分布測定時には、複数の全ての穴31が、均一磁場空間3の表面上に配置されるように、磁場分布測定用治具32を磁石装置8にセッティングする。また、磁性材(シム)17はシムトレイ15、16から取り除いておく。そして、磁場センサ30を、複数の穴31に、順次、嵌めては、磁石装置8に固定された座29でホルダ28を回転させながら、方位角φの間隔dφ(図7B参照)毎に磁場強度を測定する。これにより、全ての計測点M1〜M4に対して測定が行え、高精度な磁場分布、さらには、高精度な均一度を取得することができる。この磁場分布は、シム17によらない磁場発生源(磁極)1、2によって発生させた磁場の磁場分布である。この計測結果に基づいて、1つ又は複数のシム17をシムトレイ15、16に配置し、再度、前記と同様に高精度な均一度を取得する。このようなシム17の配置と高精度な均一度の取得との繰り返しにより、前記磁場空間3内の磁場の均一度を向上させることができる。
【0039】
なお、第1の実施形態では、磁石装置8として、磁場発生源(磁極)1、2に永久磁石6、7(図2参照)を採用している例を示したが、これに限らず、永久磁石6、7に替えて、例えば、超電導磁石を採用してもよい。
【0040】
(第2の実施形態)
図10に、本発明の第2の実施形態に係る磁場分布測定用治具32を示す。第2の実施形態の磁場分布測定用治具32が、第1の実施形態の磁場分布測定用治具32と異なる点は、穴31それぞれに、磁場センサ30が嵌め込まれている点である。穴31から穴31へ磁場センサ30を差し替える必要がなく、磁場分布の測定に際して、z軸回りに1回転のみさせればよく、差し替える度に回転させる必要がない。これにより、磁場分布測定に要する時間を短縮することができる。
【0041】
また、第1の実施形態の四角形状のホルダ28に対して、第2の実施形態では、ホルダ33が半月形状になっている点が異なっている。半月形状のホルダ33の外周に沿って、穴31が設けられ、半月形状のホルダ33の外周と、均一磁場空間3の外形とは平行にセッティングされることになる。このため、セッティングを行う者は磁石装置8と磁場分布測定用治具32の位置関係を把握し易いという利点がある。第2の実施形態では半円(半月)形状の場合を例示したが、これに限らず、ホルダ33は、外周が均一磁場空間3の外形に沿い平行な円板であっても、また、球体であってもよいことは明らかである。
【0042】
(第3の実施形態)
図11Aに、本発明の第3の実施形態に係る磁石装置8の斜視図を示す。第3の実施形態の磁石装置8は、第1の実施形態の垂直磁場型の磁石装置8の類型であり、第1の実施形態の垂直磁場型の磁石装置8を横に90度倒したような構造になっている。これに伴い、z軸も90度倒して水平方向に変更している。このため、第3の実施形態の磁石装置8でも、第1の実施形態の磁石装置8と同様の議論ができ、同様の効果を得ることができる。
【0043】
図11Bに、磁場分布測定時に本発明の第3の実施形態に係る磁場分布測定用治具32を、磁石装置8に設置した様子を示す。z軸が水平になったことに伴い、第1の実施形態と同様な効果を得るために、ホルダ28もz軸の回り、すなわち、水平軸の回りに回転させる必要がある。そこで、座29を水平軸であるz軸の回りに回転可能なように変更している。第3の実施形態によっても、第1の実施形態と同様に、最適かつ最少の計測点により高精度な磁場分布を測定することができ、高精度な均一度を算出できる。
【0044】
(第4の実施形態)
図12Aに、本発明の第4の実施形態に係る磁石装置8の斜視図を示す。第4の実施形態の磁石装置8は、水平磁場型の磁石装置であり、z軸は水平方向を向いている。磁石装置8は、中心軸がz軸に一致する円筒形状の真空容器41と、真空容器41の内側の壁に沿って配置され中心軸がz軸に一致する円筒形状の磁場均一度調整装置(シムトレイ)45と、真空容器41の上部に配置された冷凍機46とを有している。
【0045】
図12Bに、本発明の第4の実施形態に係る磁石装置8の縦断面図を示す。磁石装置8には、均一磁場空間3を囲うように配置された二重円筒状の真空容器41と、真空容器41の内側に配置された輻射シールド42と、さらに輻射シールド42の内側に配置された冷媒容器43と、その冷媒容器43の内側に配置され、主磁場を発生するための、超電導線からなる円環形状の主コイル51と、磁石装置8の外部への漏洩磁場を低減するために、主コイル51とは逆方向に通電され、超電導線からなる円環形状の遮蔽コイル52とが、それぞれの中心軸13をz軸に一致させるように同軸状に配置されている。また、冷媒容器43には、主コイル51と遮蔽コイル52を超電導に保つための極低温冷媒、例えば、液体ヘリウム44が格納されている。極低温冷媒は、冷凍機46(図12A参照)によって極低温を維持することができる。
【0046】
均一磁場空間3はどのような形状であっても構わないが、多くの場合、球状、あるいは偏平な回転楕円体である。第4の実施形態では、半径rの球状の空間を均一磁場空間3として例示している。磁場空間3における磁場の向き4に、z軸の正方向を一致させている。複数の主コイル51の点対称の対称点となる磁石中心12が、z軸上に設定され、磁石中心12を含んでz軸を法線とする平面を、赤道面14と定義している。磁石中心12は、均一磁場空間3の外形の球状の中心に略一致している。
【0047】
均一磁場空間3の外形の表面上の任意の点のスイープ計測点M0で、磁場の強度を計測する場合を考えると、スイープ計測点M0の位置は、均一磁場空間3の外形の球状の半径rと、磁石中心12からスイープ計測点M0への方向と中心軸13(z軸)とのなす仰角θと、中心軸13(z軸)周りの角度(方位角)φとによって一意に定めることができる。
【0048】
磁場均一度調整装置(シムトレイ)45は、二重円筒状の真空容器41の内周側の面に沿って配置され、円筒形状をしている。シムトレイ45には、磁性材(シム)17が螺合等により埋め込まれて保持され、シムトレイ45上の任意の場所に配置できるようになっている。シム17をシムトレイ45に配置することで、均一磁場空間3の磁束を移動させる制御(いわゆるシミング作業)を行い、均一磁場空間3における磁場の均一度を向上できる。シム17には、永久磁石や鉄などを用いることができる。
【0049】
シムトレイ45の円筒上におけるシム17の位置は、赤道面14上のシムトレイ中心24を原点(ゼロ)とする円筒の長さ方向のR座標と、前記z軸周りの角度(方位角)φとによって一意に定めることができる。図12Bでは、シム17を、シムトレイ45上のR=0(ゼロ)の位置と、R=Rの位置に配置した場合を示している。
【0050】
図13に、本発明の第4の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置9の概略図を示す。磁気共鳴撮像装置9は、第4の実施形態の磁石装置8を搭載し、さらに、磁場均一度調整装置(シムトレイ)45のz軸(中心軸13)側に傾斜磁場コイル48を配置し、さらに傾斜磁場コイル48のz軸(中心軸13)側にRF送受信コイル50が配置されている。そして、磁石装置8の外側には、傾斜磁場コイル48やRF送受信コイル50を駆動するための駆動装置22や制御装置23が具備されている。傾斜磁場コイル48は、磁場均一度調整装置(シムトレイ)45の内周側の面に沿って配置され、RF送受信コイル50は、傾斜磁場コイル48の内周側の面に沿って配置されている。シムトレイ45は、真空容器41と傾斜磁場コイル48との間の隙間に配置される例や、傾斜磁場コイル48の構造上の隙間に配置される例などがあり、どのような方法であっても本質に影響はないが、第4の実施形態(図13)では、真空容器41と傾斜磁場コイル48との隙間の領域に配置した例を図示している。
【0051】
均一磁場空間3とシムトレイ45とは、赤道面14上のそれぞれの位置で最短距離となるから、シム17がシムトレイ45と赤道面14とが交差する位置(R=0)、すなわちシムトレイ中心53(24)に配置された場合、シム17が均一磁場空間(撮像空間)3の磁場分布に与える影響が最大となる。逆に、シムトレイ端部54にシム17が配置された場合は均一磁場空間3の磁場分布に与える影響は最小となる。また、シム17が、シムトレイ中心53(24)とシムトレイ端部54の間に配置された場合は、均一磁場空間3の磁場分布に与える影響は、シムトレイ中心53(24)に配置された場合と、シムトレイ端部54に配置された場合との間の値になる。
【0052】
図14に、第4の実施形態の磁石装置8において、1つのシム17をシムトレイ45のシムトレイ中心24上(R=0)とシムトレイ中心24上からR離れたところ(R=R)のそれぞれに配置した場合に、それらのシム17が均一磁場空間3の表面上に作る磁場分布56と57を示している。これらの磁場分布56、57は、スイープ計測点M0(図12B参照)で、磁場強度を計測しながら、スイープ計測点M0をθ方向に移動させることで、計測することができる。移動するスイープ計測点M0には、磁場センサを配置させる。なお、この計測に替えて、シミュレーションにより磁場分布56、57を算出してもよい。また、磁石装置8の中心軸(z軸)13回りの対称性より、これらのθ方向の磁場分布56、57の傾向は、任意の方位角φにおいて成立している。
【0053】
図14より、R=0の場合、すなわちシム17をシムトレイ中心24に置いた場合の磁場分布56は、R=Rの場合の磁場分布57に対し、ピーク位置θにおけるピーク強度が、ピーク位置θにおけるピーク強度より大きく、かつ、半値半幅dθが、半値半幅dθより狭い、鋭いピークのある磁場分布となっている。図14のグラフは、第1の実施形態の図14のグラフに対し、θを90度ずらした(傾けた)ものに相当している。すなわち、第1の実施形態と同様に、サンプリング定理により、磁場分布56、57を正確に知るには、半値半幅dθ、dθ以下の計測点間隔で、磁場分布56、57を計測しなければならない。そして、半値半幅dθ、dθは、ピーク位置θ、θによって、すなわち、シム17をシムトレイ45に置いた位置(R)によって、異なる値を取っている。つまり半値半幅dθ、dθは、ピーク位置θ、θやシム17の位置R=0、Rにおける計測点間隔の最大値を示していることになる。なお、ピーク位置θ、θと、シム17の位置R=0、Rとは、物理現象として一対一に対応するので、ピーク位置θ、θは、シム17の位置を表すために、R値の代用としても用いることができる。
【0054】
図15に、磁場分布のピーク位置θと、そのピーク位置θにおける均一磁場空間3の表面上の磁場分布の半値半幅dθとの関係のシミュレーション結果を示している。さらに、均一磁場空間3の表面上の磁場の計測点M1〜M4の計測点間隔dθa〜dθcを決める磁場分布測定方法の一例を示している。図15のグラフは、ピーク位置θとして0度から90度までを表示しているが、90度から180度までについては、90度(赤道面14)に対して対称な値を取る。そうすると、この図15のグラフも第1の実施形態の図6のグラフを90度分ずらしたものになっている。なお、図15でも、縦軸と横軸のスケールは異なっている。
【0055】
図15によれば、ピーク位置θが90度近傍における半値半幅dθmin(dθa=dθ)に対し、ピーク位置θが前記θの半値半幅dθの方が大きくなっており、さらに、0度近傍の半値半幅dθmaxの方が大きくなっていることがわかる。そして、0度近傍の半値半幅dθmaxは、90度近傍の半値半幅dθminの2倍以上で略3倍になっている。すなわち、ピーク位置θが0度から90度間で、ピーク位置θが大きくなればなる程、半値半幅dθは小さくなる減少関数になっていることがわかる。そして、計測点間隔は、サンプリング定理より、半値半幅dθを最大の計測点間隔として、それ以下に設定されるので、半値半幅dθがピーク位置θによって大きさを変えるということは、計測点間隔もピーク位置θによって大きさを変えることができることになる。そして、ピーク位置θに応じて半値半幅dθの許容範囲で、計測点間隔を大きくすることで、磁場分布の測定精度あるいは内挿演算精度を高精度に維持したまま計測点の数を減らすことができる。つまり、計測点間隔を、図15のグラフのカーブにしたがって導かれる半値半幅dθ以下になるように、ピーク位置θ(計測点に相当)に応じて計測点間隔の大きさを変えることにすれば、最適かつ最少の計測点配置により、高精度に磁場分布が測定できる。
【0056】
そして、磁場分布測定方法としての均一磁場空間3の表面上の磁場の計測点M1〜M4の計測点間隔dθa〜dθcの決定方法について説明する。まず、ピーク位置θが90度(θ=90度)の位置に計測点M1を配置する。次に、ピーク位置θが90度(θ=90度)の位置における半値半幅dθa(=dθmin=dθ)を図15グラフから読み取って取得し(あるいは、シミュレーションによって取得してもよい。以下、同様)、この半値半幅dθaを、計測点M1と計測点M2の間の計測点間隔(dθa)とする。具体的には、計測点M1から計測点間隔(dθa)離れた位置に、計測点M2を配置する。
【0057】
次に、ピーク位置θが計測点M2の位置(θ=90−dθa)における半値半幅dθbを図15グラフから読み取って取得し、この半値半幅dθbを、計測点M2と計測点M3の間の計測点間隔(dθb)とする。半値半幅dθbは、半値半幅dθaとは読み取った際のピーク位置θが異なる(90−dθa≠90)ので、異なった値になり(dθb≠dθa)、半値半幅dθaより大きくなる(dθb>dθa)。具体的には、計測点M2から計測点間隔(dθb)離れた位置(θ=90−(dθa+dθb))に、計測点M3を配置する。
【0058】
同様に、ピーク位置θが計測点M3の位置(θ=90−(dθa+dθb))における半値半幅dθcを図15グラフから読み取って取得し、この半値半幅dθcを、計測点M3と計測点M4の間の計測点間隔(dθc)とする。半値半幅dθcは、半値半幅dθa、dθbとは読み取った際のピーク位置θが異なる(90−(dθa+dθb)≠90、90−(dθa+dθb)≠90−dθa)ので、異なった値になり(dθc≠dθa、dθc≠dθb)、半値半幅dθa、dθbより大きくなる(dθc>dθb>dθa)。具体的には、計測点M3から計測点間隔(dθc)離れた位置(θ=90−(dθa+dθb+dθc))に、計測点M4を配置する。そして、0度近傍の半値半幅dθmaxは、90度近傍の半値半幅dθminの2倍以上で略3倍になっていることから、計測点間隔もその最小値と最大値とで、最大値を最小値の2倍以上で3倍程度に設定できる。
【0059】
図16Aに、均一磁場空間3の表面上に計測点M1〜M4を配置した一例を、二次元的に示す。計測点M1〜M4の配置の作業は、まず、計測点M1〜M4の位置が90度(θ=90度)から0度(θ=0度)の範囲で繰り返される。そして、ピーク位置θが90〜180度の範囲は、磁石装置8の赤道面14(図12B参照)に対する対称性から、図16Aに示すように設定できる。すなわち、ピーク位置θが90度(θ=90度)の位置には、既に計測点M1が配置されているので、更なる計測点M1の配置は省略して、次に、計測点M1から計測点間隔(dθa)離れた位置(θ=90+dθa)に、計測点M2を配置する。次に、計測点M2から計測点間隔(dθb)離れた位置(θ=90+dθa+dθb)に、計測点M3を配置する。最後に、計測点M3から計測点間隔(dθc)離れた位置(θ=90+dθa+dθb+dθc)に、計測点M4を配置する。
【0060】
図16Bに、均一磁場空間3の表面上に計測点M1〜M4を配置した一例を、三次元的に示す。z軸まわりの計測点間隔dφは、前記で述べてきたサンプリング定理等の原理から、ピーク位置θが90度(θ=90度)での半値半幅dθ90(=dθmin、図15参照)に等しくする(dφ=dθ90)。これによれば、隣り合う計測点M4と計測点M4との計測点間隔より、隣り合う計測点M3と計測点M3との計測点間隔を長くすることができる。同様に、隣り合う計測点M3と計測点M3との計測点間隔より、隣り合う計測点M2と計測点M2との計測点間隔を長くすることができる。また、隣り合う計測点M2と計測点M2との計測点間隔より、隣り合う計測点M1と計測点M1との計測点間隔を長くすることができる。そして、計測点M1〜M4を最適に配置でき、計測点M1〜M4の個数を最少にできる。
【0061】
図17に、磁場分布測定時に本発明の第4の実施形態に係る磁場分布測定用治具32を、磁石装置8に設置した様子を示す。第4の実施形態でも第1の実施形態と同様の磁場分布測定用治具32を用いることができるが、第4の実施形態では、第3の実施形態と同様に、z軸が水平方向を向いているので、座29を水平軸であるz軸の回りに回転可能なように変更している。
【0062】
また、第4の実施形態でも、ホルダ28には、均一磁場空間3の表面の円弧と同じ大きさの円弧に沿った前記計測点M1〜M4のそれぞれの位置に穴31が設けられているが、計測点M1〜M4の計測点間隔は、第4の実施形態の磁場分布測定方法で説明した前記計測点間隔dθa〜dθcと同じになるように設けられている。このため、ホルダ28の隣り合う穴31の間隔は、z軸(θ=0度および180度)近傍よりも、z軸から離れた赤道面14(θ=90度)近傍の方が狭くなるという外見的特徴を持っている。このような磁場分布測定用治具32を使うことで、位置θに依存して変動する前記計測点間隔dθa〜dθcで磁場分布を測定することが可能になる。
【符号の説明】
【0063】
1、2 磁極
3 (均一)磁場空間(撮像領域)
4 磁場空間における磁場の向き
8 磁石装置
9 磁気共鳴撮像装置
12 磁石中心(磁石対称点)
13 中心軸
14 赤道面(磁石対称面)
15、16 磁場均一度調整装置(シムトレイ)
17 磁性材(シム)
24、25 シムトレイ中心(R=0)
28 ホルダ
29 座
30 磁場センサ
31 ホルダに設けられた穴
32 磁場分布測定用治具
33 半月板状のホルダ
44 液体ヘリウム
45 磁場均一度調整装置(シムトレイ)
53 シムトレイ中心
54 シムトレイ端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源と、複数の磁性材を不均一に配置し前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での前記磁場空間の磁場分布測定方法において、
前記磁性材の前記磁場均一度調整装置に配置する位置を変えながら、前記磁性材が前記磁場空間の表面に作る磁場分布を取得し、
前記磁場分布のピーク位置に対する前記磁場分布の半値半幅の関数を設定し、
前記磁場空間の表面上に配置し前記磁場を計測する複数の計測点の間隔を、前記計測点を置いた位置に一致する前記ピーク位置から前記関数によって導かれる前記半値半幅以下になるように、前記計測点の位置によって前記間隔の大きさを変えることを特徴とする磁場分布測定方法。
【請求項2】
前記磁場空間に発生している前記磁場の向きと、前記磁場空間の中心から複数の前記計測点へのそれぞれの方向との成す複数の角度は、互いに等差の関係になっていないことを特徴とする請求項1に記載の磁場分布測定方法。
【請求項3】
前記磁場均一度調整装置は、前記磁場空間を挟むように、前記磁場の向きに対向して配置され、複数の前記磁性材を支持する一対の円板を有し、
前記角度が略0度および略180度における前記間隔よりも、前記角度が略90度における前記間隔の方が広いことを特徴とする請求項2に記載の磁場分布測定方法。
【請求項4】
前記角度が略90度における前記間隔は、前記角度が略0度および略180度における前記間隔の2倍以上であることを特徴とする請求項3に記載の磁場分布測定方法。
【請求項5】
前記磁場均一度調整装置は、複数の前記磁性材を支持し、中心軸が前記磁場の向きに平行であり、前記磁場空間を囲む円筒を有し、
前記角度が略0度および略180度における前記間隔の方が、前記角度が略90度における前記間隔よりも広いことを特徴とする請求項2に記載の磁場分布測定方法。
【請求項6】
前記角度が略0度および略180度における前記間隔は、前記角度が略90度における前記間隔の2倍以上であることを特徴とする請求項5に記載の磁場分布測定方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の磁場分布測定方法により配置された前記計測点で前記磁場発生源で発生させた磁場を計測した計測結果に基づいて、複数の磁性材を配置した前記磁場均一度調整装置によって、前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させていることを特徴とする磁石装置。
【請求項8】
磁場空間に磁場を発生させる磁場発生源と、複数の磁性材を不均一に配置し前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させる磁場均一度調整装置とを備えた磁石装置での前記磁場空間の磁場分布測定用治具において、
前記磁性材の前記磁場均一度調整装置に配置する位置を変えたときに、前記磁性材が前記磁場空間の表面に作る磁場分布を用いて設定した、前記磁場分布のピーク位置に対する前記磁場分布の半値半幅の関数を用いて、前記磁場空間の表面上に配置し前記磁場を計測する複数の計測点の間隔を、前記計測点を置いた位置に一致する前記ピーク位置から前記関数によって導かれる前記半値半幅以下になるように、前記計測点の位置によって前記間隔の大きさを変えている前記計測点に、磁場センサを固定するホルダと、
前記ホルダを、前記磁場空間における磁場の向きに平行な回転軸のまわりに回転させることが出来るように構成された座とを有することを特徴とする磁場分布測定用治具。
【請求項9】
前記ホルダには、複数の前記計測点それぞれに、前記磁場センサが配置してあることを特徴とする請求項8に記載の磁場分布測定用治具。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の磁場分布測定用治具により設定された前記計測点で前記磁場発生源で発生させた磁場を計測した計測結果に基づいて、複数の磁性材を配置した前記磁場均一度調整装置によって、前記磁場空間内の磁場の均一度を向上させていることを特徴とする磁石装置。
【請求項11】
請求項7又は請求項10に記載の磁石装置を搭載していることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−62274(P2011−62274A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214099(P2009−214099)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】