磁場制御装置及び偏向電磁石装置
【課題】補正板の幅を低減できる渦電流磁場補正装置を提供することである。
【解決手段】渦電流磁場補正装置は、偏向電磁石磁極3間に設置された導電性の真空ダクト1と、導電性の補正板2とで構成される。補正板2は真空ダクト1よりも導電率が高い材料で作られる。補正板2は、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な真空ダクト1の断面を、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面で四領域に分割して考えたとき、一領域あたりに複数枚ずつ導電性の補正板を設置される。
【解決手段】渦電流磁場補正装置は、偏向電磁石磁極3間に設置された導電性の真空ダクト1と、導電性の補正板2とで構成される。補正板2は真空ダクト1よりも導電率が高い材料で作られる。補正板2は、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な真空ダクト1の断面を、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面で四領域に分割して考えたとき、一領域あたりに複数枚ずつ導電性の補正板を設置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変動する磁場内で使用される機器に係り、特にシンクロトロンの電磁石の磁極間で使用される機器に関する。
【背景技術】
【0002】
科学研究や医療,産業用途など様々な分野に利用されるシンクロトロンは、前段加速器より入射される荷電粒子ビームを周回させながら更に加速するものであり、前段加速器で予備加速した荷電粒子ビームを入射する入射装置と、荷電粒子ビームを偏向し一定の軌道上を周回させる偏向電磁石と、周回ビームが広がらないように水平・垂直に収束力を与える四極電磁石と、高周波加速電圧で周回ビームを所定のエネルギーまで加速する加速空洞を備える。
【0003】
シンクロトロンでは荷電粒子ビームを常に一定の軌道で周回させるために、偏向電磁石が作る磁場を加速に同期して強めていく。荷電粒子ビームは真空中を周回するため、偏向電磁石の磁極間には内部を真空にした真空ダクトがあり、真空ダクトが導電性の物質で作られる場合には、誘起された電界によって真空ダクトに渦電流が流れる。真空ダクトに流れる渦電流は、荷電粒子ビームが通過する領域に新たな磁場を生じさせる。この磁場は、荷電粒子ビームが通過する位置によって強さが異なるため、荷電粒子ビームの周回を不安定化する。
【0004】
特許文献1は、偏向電磁石の磁極間に非磁性の補正板を設置し、荷電粒子ビームが通過する領域に渦電流が作る磁場を平坦化する技術が開示されている。また、特許文献2は、加速蓄積リングの真空ダクトの厚みを中央部から端面方向に連続して厚くすることによって、真空ダクト内に形成される磁場強度の分布が乱さるのを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−78200号公報
【特許文献2】特開平3−190099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の偏向電磁石の場合、補正板の幅が広いために端部の電流密度が大きくなり、発熱量が大きくなるという恐れがあった。また、特許文献2に記載の加速蓄積リングの真空ダクトでは、荷電粒子ビームが通過する領域の磁場を平坦化するために真空ダクト自体の厚みを厚くしているため、磁極間隔が広くなり、電磁石電源に対する負荷が大きくなる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明は、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な真空ダクトの断面を、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面で四領域に分割して考えたとき、一領域あたりに複数枚ずつ導電性の補正板を設置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁場分布を平坦化するための補正板の幅を低減できるため、補正板の渦電流による発熱を軽減でき、かつ磁極間隔の増加を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置の全体構成を示す概念図である。
【図2】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置を上から見た平面図である。
【図3】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の概念図である。
【図5】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の計算結果である。
【図6】先行発明1による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図7】先行発明1による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の概念図である。
【図8】先行発明1による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の計算結果である。
【図9】時間的に変動する磁場内に設置された導電性の薄い板の端部に流れる渦電流の密度である。
【図10】本発明の第二実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図11】本発明の第三実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図12】本発明の第四実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図13】本発明の第五実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
第一の実施形態として、偏向電磁石の磁極間に設置された真空ダクトを流れる渦電流に起因する磁場の時間変化を低減し、磁場分布を平坦化させる例としてシンクロトロンを例に説明する。シンクロトロンは、導電性の真空ダクト1と、荷電粒子ビームを所定の方向に偏向して軌道に沿って周回させる偏向電磁石と、荷電粒子ビームを加速する加速装置を備える。荷電粒子ビームが加速されるに伴って、偏向電磁石の磁場は強くなり、偏向電磁石の磁極3の間に設置された導電性の真空ダクト1には渦電流が発生する。
【0011】
以下、図1〜図8を用いて、本発明の第一実施形態による渦電流の作る磁場の制御方法及びその装置(以下、渦電流磁場補正装置とする)について説明する。
【0012】
最初に図1を用いて、本実施形態による渦電流磁場補正装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態による渦電流磁場補正装置の構成を示す概念図である。
【0013】
本実施形態の渦電流磁場補正装置は、偏向電磁石磁極3間に設置された導電性の真空ダクト1に配置された、複数の導電性の補正板2で構成される。ここで、導電性の真空ダクト1とは、偏向電磁石で生成される磁場が時間変化するときに渦電流が流れてビーム通過領域の磁場を乱すようなダクトである。本実施例1では、真空ダクト1の外周面に複数の補正板を設置することによって、真空ダクト1に流れる渦電流に起因する磁場の空間変化を低減し、磁場分布を平坦化する。補正板2は真空ダクト1よりも抵抗率が小さい材料で作られている。補正板2は、荷電粒子ビームに垂直な面で見た真空ダクト1の断面が上下・左右対象となるように、かつ一象限あたりに複数枚設置する。ここで、左右とは磁極面に平行な方向、上下とは磁極面に垂直な方向を意味する。補正板2は真空ダクト1よりも導電率が高い材料で作られる。本実施形態では一象限あたりに2枚の補正板2を設置しているが、それ以上の枚数でもよく、各象限で枚数が異なってもよい。また、本実施形態では、内側の補正板2aと比較して外側の補正板2bを厚くしているが、幅・厚み・設置位置を変化させることによって所望の磁場分布を得る。その際、上下・左右に非対象に補正板2を設置することも可能である。磁極面が平行でない偏向電磁石の場合、上下方向には、両磁極を鏡像とする対称面に対称に補正板2を設置する。
【0014】
図2に本実施形態の渦電流磁場補正装置の平面図を示す。補正板2は、真空ダクト1の形状に沿って、つまり、断面形状を一定とするように真空ダクト1の外周面に配置される。
【0015】
図3に本実施形態の渦電流磁場補正装置の断面図を示す。図3において、荷電粒子ビームは紙面に垂直な方向に通過する。以下、図中の一点鎖線A,Bの交点を真空ダクト1の中心と定義する。一点鎖線Aは、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面と紙面が交差する直線である。同様に、一点鎖線Bは、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面と紙面が交差する直線である。補正板2は一点鎖線AならびにBに対して対称に設置される。
【0016】
偏向電磁石は、Yが正となる方向に荷電粒子ビームを偏向するための磁場を生成する。
荷電粒子ビームの加速に伴い、荷電粒子ビームを偏向するための磁場が強まっていくと、磁場の時間変化に応じた電界が誘起され、真空ダクト1ならびに補正板2に渦電流が流れる。渦電流の流れる方向は、図3に示したように、真空ダクト1に関しては、ダクト中心から見てXが正となる方向では紙面手前向きに、真空ダクト1の中心から見てXが負となる方向では紙面奥へ流れる。同様に、補正板2に関しても、補正板2のX方向の中心から見てXが正となる方向では紙面手前向きに、補正板2のX方向の中心から見てXが負となる方向では紙面奥へ渦電流が流れる。
【0017】
図4を用いて渦電流が荷電粒子ビーム通過領域に作る磁場を説明する。本図では磁場の正の方向を、荷電粒子ビームを偏向するための磁場の方向としているため、渦電流は負方向の磁場を作る。真空ダクト1に流れる渦電流は破線のような、ダクト中心付近で強く、外側では弱くなるような磁場を作る。このような磁場が荷電粒子ビーム通過領域に存在すると、荷電粒子ビームが通過する位置に応じて偏向する力が変化するため、荷電粒子ビームの収束状態が変化し、荷電粒子ビームを損失する恐れがある。補正板2に流れる渦電流は点線のような磁場を作る。本実施形態では、内側の補正板2aと比較して外側の補正板2bが厚いため、外側の補正板2bに流れる渦電流が作る磁場は内側の補正板2aのものに対して強くなっている。真空ダクト1に流れる渦電流が作る磁場と補正板2に流れる渦電流が作る磁場を足し合わせる事で、実線で示すように、荷電粒子ビーム通過領域での磁場が平坦化される。
【0018】
図5に渦電流が作る磁場分布の計算結果を示す。図5に示すように、荷電粒子ビームが通過する領域での磁場が平坦化されている。尚、本計算体系における内側に設置された補正板2aの幅は24mm、外側に設置された補正板2bの幅は30mmである。
【0019】
図6に先行発明1(特開平8−78200号公報)における補正板4の配置を示す。本図のようにX方向に幅が広い補正板4を、荷電粒子ビームに垂直な面で見た真空ダクト1の断面が上下・左右対象となるように一象限あたりに一枚設置する。荷電粒子ビームを偏向させる磁場の方向と、渦電流の流れる方向は、図3における本実施例のものと同一である。
【0020】
図7に先行発明1における、渦電流が作る磁場を説明する。先行発明1では、真空ダクト1に流れる渦電流が作る磁場(破線)の両側に、補正板4に流れる渦電流によって幅広い磁場(点線)を足し合わせる事で、荷電粒子ビームの通過領域の磁場を平坦化する。
【0021】
図8に先行発明1を用いた場合に、渦電流が作る磁場分布の計算結果を示す。幅広い磁場を作るために補正板4の幅を広くする必要があり、本計算体系における補正板4の幅は160mmである。
【0022】
一般的に、時間的に変動する磁場内に設置された導電性の薄い板に流れる渦電流の密度は、板の中心からの位置に比例して強くなる。そのため、補正板の端部に流れる渦電流の密度は図9に示すように、補正板の幅に比例して強くなる。幅が広ければ広いほど端部の電流密度が大きくなり、発熱量も増加する。補正板4に銅のような抵抗率の非常に小さい材料を使う場合、特に発熱量が大きくなり、先行発明1では、励磁速度が速いシンクロトロンには適用不可能であった。本実施例により補正板の幅を低減することで、磁場補正の効果を保持しつつ、渦電流による発熱量の低減が可能となり、励磁速度ならびに補正板の材料選択の幅が拡がる。
【0023】
一方、先行発明2(特開平3−190099号公報)では、平坦化の為に真空ダクト自体を厚くしている。そのため、磁極間隔が広くなり、電磁石電源(図示せず)に対する負荷が大きくなる恐れがあった。本実施例によって、補正板2に真空ダクト1よりも抵抗率の小さい材料を用いることで、平坦化による磁極間隔の増加を低減可能となる。
【0024】
(実施形態2)
図10に本発明の第二実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。外側の補正板5は内側の補正板2aよりも抵抗率が小さい材料で作られている。実施形態1においては、外側の補正板2bを内側の補正板2aよりも厚く作ることで発生する渦電流量を制御していたが、本実施形態のように抵抗率の異なる材料を用いることで、発生する渦電流量を制御することが可能である。
【0025】
(実施形態3)
図11に本発明の第三実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1では、補正板2を真空ダクト1の外側(大気側)に設置していたが、本実施形態のように真空ダクト1の内側(真空側)に設置しても、渦電流が発生する磁場を制御することが可能である。尚、外側に設置した補正板2aを、内側の補正板2aよりも抵抗率が小さい材料で作られた補正板5に替えた構成であってもよい。
【0026】
(実施形態4)
図12に本発明の第四実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1,2乃至3においては、補正板2を重ねることなく並べて設置していたが、本実施形態のように補正板2を重ねることによっても、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。
【0027】
(実施形態5)
図13に本発明の第五実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1,2,3乃至4においては補正板2を左右対称に設置していた。しかし、本実施形態のように図13のように磁極3が左右非対称であるために、補正板2に誘起される渦電流がX方向の設置位置によって変化する場合、左右非対称に補正板2を設置することにより、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。図13では、補正板2の枚数ならびに設置位置を非対称としたが、厚さや抵抗率が異なる補正板を用いる事も有効である。
【0028】
また、磁極3が左右非対称でなくても、偏向電磁石の偏向半径が小さく、補正板2に誘起される渦電流がX方向の設置位置によって変化する場合も、左右非対称に補正板2を設置することにより、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 真空ダクト
2a 内側に設置された補正板
2b 外側に設置された補正板
2c 左右非対称に設置された補正板
3 磁極
4,5 補正板
【技術分野】
【0001】
本発明は、変動する磁場内で使用される機器に係り、特にシンクロトロンの電磁石の磁極間で使用される機器に関する。
【背景技術】
【0002】
科学研究や医療,産業用途など様々な分野に利用されるシンクロトロンは、前段加速器より入射される荷電粒子ビームを周回させながら更に加速するものであり、前段加速器で予備加速した荷電粒子ビームを入射する入射装置と、荷電粒子ビームを偏向し一定の軌道上を周回させる偏向電磁石と、周回ビームが広がらないように水平・垂直に収束力を与える四極電磁石と、高周波加速電圧で周回ビームを所定のエネルギーまで加速する加速空洞を備える。
【0003】
シンクロトロンでは荷電粒子ビームを常に一定の軌道で周回させるために、偏向電磁石が作る磁場を加速に同期して強めていく。荷電粒子ビームは真空中を周回するため、偏向電磁石の磁極間には内部を真空にした真空ダクトがあり、真空ダクトが導電性の物質で作られる場合には、誘起された電界によって真空ダクトに渦電流が流れる。真空ダクトに流れる渦電流は、荷電粒子ビームが通過する領域に新たな磁場を生じさせる。この磁場は、荷電粒子ビームが通過する位置によって強さが異なるため、荷電粒子ビームの周回を不安定化する。
【0004】
特許文献1は、偏向電磁石の磁極間に非磁性の補正板を設置し、荷電粒子ビームが通過する領域に渦電流が作る磁場を平坦化する技術が開示されている。また、特許文献2は、加速蓄積リングの真空ダクトの厚みを中央部から端面方向に連続して厚くすることによって、真空ダクト内に形成される磁場強度の分布が乱さるのを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−78200号公報
【特許文献2】特開平3−190099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の偏向電磁石の場合、補正板の幅が広いために端部の電流密度が大きくなり、発熱量が大きくなるという恐れがあった。また、特許文献2に記載の加速蓄積リングの真空ダクトでは、荷電粒子ビームが通過する領域の磁場を平坦化するために真空ダクト自体の厚みを厚くしているため、磁極間隔が広くなり、電磁石電源に対する負荷が大きくなる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明は、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な真空ダクトの断面を、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面で四領域に分割して考えたとき、一領域あたりに複数枚ずつ導電性の補正板を設置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁場分布を平坦化するための補正板の幅を低減できるため、補正板の渦電流による発熱を軽減でき、かつ磁極間隔の増加を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置の全体構成を示す概念図である。
【図2】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置を上から見た平面図である。
【図3】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の概念図である。
【図5】本発明の第一実施形態による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の計算結果である。
【図6】先行発明1による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図7】先行発明1による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の概念図である。
【図8】先行発明1による渦電流磁場補正装置において渦電流が作る磁場の計算結果である。
【図9】時間的に変動する磁場内に設置された導電性の薄い板の端部に流れる渦電流の密度である。
【図10】本発明の第二実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図11】本発明の第三実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図12】本発明の第四実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【図13】本発明の第五実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
第一の実施形態として、偏向電磁石の磁極間に設置された真空ダクトを流れる渦電流に起因する磁場の時間変化を低減し、磁場分布を平坦化させる例としてシンクロトロンを例に説明する。シンクロトロンは、導電性の真空ダクト1と、荷電粒子ビームを所定の方向に偏向して軌道に沿って周回させる偏向電磁石と、荷電粒子ビームを加速する加速装置を備える。荷電粒子ビームが加速されるに伴って、偏向電磁石の磁場は強くなり、偏向電磁石の磁極3の間に設置された導電性の真空ダクト1には渦電流が発生する。
【0011】
以下、図1〜図8を用いて、本発明の第一実施形態による渦電流の作る磁場の制御方法及びその装置(以下、渦電流磁場補正装置とする)について説明する。
【0012】
最初に図1を用いて、本実施形態による渦電流磁場補正装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態による渦電流磁場補正装置の構成を示す概念図である。
【0013】
本実施形態の渦電流磁場補正装置は、偏向電磁石磁極3間に設置された導電性の真空ダクト1に配置された、複数の導電性の補正板2で構成される。ここで、導電性の真空ダクト1とは、偏向電磁石で生成される磁場が時間変化するときに渦電流が流れてビーム通過領域の磁場を乱すようなダクトである。本実施例1では、真空ダクト1の外周面に複数の補正板を設置することによって、真空ダクト1に流れる渦電流に起因する磁場の空間変化を低減し、磁場分布を平坦化する。補正板2は真空ダクト1よりも抵抗率が小さい材料で作られている。補正板2は、荷電粒子ビームに垂直な面で見た真空ダクト1の断面が上下・左右対象となるように、かつ一象限あたりに複数枚設置する。ここで、左右とは磁極面に平行な方向、上下とは磁極面に垂直な方向を意味する。補正板2は真空ダクト1よりも導電率が高い材料で作られる。本実施形態では一象限あたりに2枚の補正板2を設置しているが、それ以上の枚数でもよく、各象限で枚数が異なってもよい。また、本実施形態では、内側の補正板2aと比較して外側の補正板2bを厚くしているが、幅・厚み・設置位置を変化させることによって所望の磁場分布を得る。その際、上下・左右に非対象に補正板2を設置することも可能である。磁極面が平行でない偏向電磁石の場合、上下方向には、両磁極を鏡像とする対称面に対称に補正板2を設置する。
【0014】
図2に本実施形態の渦電流磁場補正装置の平面図を示す。補正板2は、真空ダクト1の形状に沿って、つまり、断面形状を一定とするように真空ダクト1の外周面に配置される。
【0015】
図3に本実施形態の渦電流磁場補正装置の断面図を示す。図3において、荷電粒子ビームは紙面に垂直な方向に通過する。以下、図中の一点鎖線A,Bの交点を真空ダクト1の中心と定義する。一点鎖線Aは、偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面と紙面が交差する直線である。同様に、一点鎖線Bは、その対称面に垂直でかつ荷電粒子ビームの重心が通過する面と紙面が交差する直線である。補正板2は一点鎖線AならびにBに対して対称に設置される。
【0016】
偏向電磁石は、Yが正となる方向に荷電粒子ビームを偏向するための磁場を生成する。
荷電粒子ビームの加速に伴い、荷電粒子ビームを偏向するための磁場が強まっていくと、磁場の時間変化に応じた電界が誘起され、真空ダクト1ならびに補正板2に渦電流が流れる。渦電流の流れる方向は、図3に示したように、真空ダクト1に関しては、ダクト中心から見てXが正となる方向では紙面手前向きに、真空ダクト1の中心から見てXが負となる方向では紙面奥へ流れる。同様に、補正板2に関しても、補正板2のX方向の中心から見てXが正となる方向では紙面手前向きに、補正板2のX方向の中心から見てXが負となる方向では紙面奥へ渦電流が流れる。
【0017】
図4を用いて渦電流が荷電粒子ビーム通過領域に作る磁場を説明する。本図では磁場の正の方向を、荷電粒子ビームを偏向するための磁場の方向としているため、渦電流は負方向の磁場を作る。真空ダクト1に流れる渦電流は破線のような、ダクト中心付近で強く、外側では弱くなるような磁場を作る。このような磁場が荷電粒子ビーム通過領域に存在すると、荷電粒子ビームが通過する位置に応じて偏向する力が変化するため、荷電粒子ビームの収束状態が変化し、荷電粒子ビームを損失する恐れがある。補正板2に流れる渦電流は点線のような磁場を作る。本実施形態では、内側の補正板2aと比較して外側の補正板2bが厚いため、外側の補正板2bに流れる渦電流が作る磁場は内側の補正板2aのものに対して強くなっている。真空ダクト1に流れる渦電流が作る磁場と補正板2に流れる渦電流が作る磁場を足し合わせる事で、実線で示すように、荷電粒子ビーム通過領域での磁場が平坦化される。
【0018】
図5に渦電流が作る磁場分布の計算結果を示す。図5に示すように、荷電粒子ビームが通過する領域での磁場が平坦化されている。尚、本計算体系における内側に設置された補正板2aの幅は24mm、外側に設置された補正板2bの幅は30mmである。
【0019】
図6に先行発明1(特開平8−78200号公報)における補正板4の配置を示す。本図のようにX方向に幅が広い補正板4を、荷電粒子ビームに垂直な面で見た真空ダクト1の断面が上下・左右対象となるように一象限あたりに一枚設置する。荷電粒子ビームを偏向させる磁場の方向と、渦電流の流れる方向は、図3における本実施例のものと同一である。
【0020】
図7に先行発明1における、渦電流が作る磁場を説明する。先行発明1では、真空ダクト1に流れる渦電流が作る磁場(破線)の両側に、補正板4に流れる渦電流によって幅広い磁場(点線)を足し合わせる事で、荷電粒子ビームの通過領域の磁場を平坦化する。
【0021】
図8に先行発明1を用いた場合に、渦電流が作る磁場分布の計算結果を示す。幅広い磁場を作るために補正板4の幅を広くする必要があり、本計算体系における補正板4の幅は160mmである。
【0022】
一般的に、時間的に変動する磁場内に設置された導電性の薄い板に流れる渦電流の密度は、板の中心からの位置に比例して強くなる。そのため、補正板の端部に流れる渦電流の密度は図9に示すように、補正板の幅に比例して強くなる。幅が広ければ広いほど端部の電流密度が大きくなり、発熱量も増加する。補正板4に銅のような抵抗率の非常に小さい材料を使う場合、特に発熱量が大きくなり、先行発明1では、励磁速度が速いシンクロトロンには適用不可能であった。本実施例により補正板の幅を低減することで、磁場補正の効果を保持しつつ、渦電流による発熱量の低減が可能となり、励磁速度ならびに補正板の材料選択の幅が拡がる。
【0023】
一方、先行発明2(特開平3−190099号公報)では、平坦化の為に真空ダクト自体を厚くしている。そのため、磁極間隔が広くなり、電磁石電源(図示せず)に対する負荷が大きくなる恐れがあった。本実施例によって、補正板2に真空ダクト1よりも抵抗率の小さい材料を用いることで、平坦化による磁極間隔の増加を低減可能となる。
【0024】
(実施形態2)
図10に本発明の第二実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。外側の補正板5は内側の補正板2aよりも抵抗率が小さい材料で作られている。実施形態1においては、外側の補正板2bを内側の補正板2aよりも厚く作ることで発生する渦電流量を制御していたが、本実施形態のように抵抗率の異なる材料を用いることで、発生する渦電流量を制御することが可能である。
【0025】
(実施形態3)
図11に本発明の第三実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1では、補正板2を真空ダクト1の外側(大気側)に設置していたが、本実施形態のように真空ダクト1の内側(真空側)に設置しても、渦電流が発生する磁場を制御することが可能である。尚、外側に設置した補正板2aを、内側の補正板2aよりも抵抗率が小さい材料で作られた補正板5に替えた構成であってもよい。
【0026】
(実施形態4)
図12に本発明の第四実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1,2乃至3においては、補正板2を重ねることなく並べて設置していたが、本実施形態のように補正板2を重ねることによっても、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。
【0027】
(実施形態5)
図13に本発明の第五実施形態による渦電流磁場補正装置の断面図を示す。実施形態1,2,3乃至4においては補正板2を左右対称に設置していた。しかし、本実施形態のように図13のように磁極3が左右非対称であるために、補正板2に誘起される渦電流がX方向の設置位置によって変化する場合、左右非対称に補正板2を設置することにより、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。図13では、補正板2の枚数ならびに設置位置を非対称としたが、厚さや抵抗率が異なる補正板を用いる事も有効である。
【0028】
また、磁極3が左右非対称でなくても、偏向電磁石の偏向半径が小さく、補正板2に誘起される渦電流がX方向の設置位置によって変化する場合も、左右非対称に補正板2を設置することにより、渦電流が作る磁場を制御することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 真空ダクト
2a 内側に設置された補正板
2b 外側に設置された補正板
2c 左右非対称に設置された補正板
3 磁極
4,5 補正板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を荷電粒子ビームが通過する導電性の真空ダクトと、
前記荷電粒子ビームを偏向する偏向電磁石の磁極が配置される領域の前記真空ダクトに設置される複数の磁場補正板を備え、
前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な前記真空ダクトの断面を、前記偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに前記対称面に垂直でかつ前記荷電粒子ビームの重心が通過する面で四つの領域に分割した各領域に前記磁場補正板を設置し、かつ、前記磁場補正板は、前記真空ダクトの四つの領域のうち少なくとも一つの領域に複数配置され、
前記磁場補正板は、前記真空ダクトよりも低い電気抵抗率の部材で構成され、
前記磁場補正板に誘起される渦電流が作る磁場を、前記真空ダクトの渦電流が作る磁場に重畳することにより前記真空ダクト内の磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面に対して対称に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記対称面に垂直でかつ前記荷電粒子ビームの重心が通過する面に対して対称に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
それぞれの厚さが異なる複数の前記磁場補正板を前記真空ダクトに配置することで磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
電気抵抗率が異なる複数種類の前記磁場補正板を前記真空ダクトに配置することで磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記真空ダクトの内面部に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板を重ねて設置することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項1】
内部を荷電粒子ビームが通過する導電性の真空ダクトと、
前記荷電粒子ビームを偏向する偏向電磁石の磁極が配置される領域の前記真空ダクトに設置される複数の磁場補正板を備え、
前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な前記真空ダクトの断面を、前記偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面ならびに前記対称面に垂直でかつ前記荷電粒子ビームの重心が通過する面で四つの領域に分割した各領域に前記磁場補正板を設置し、かつ、前記磁場補正板は、前記真空ダクトの四つの領域のうち少なくとも一つの領域に複数配置され、
前記磁場補正板は、前記真空ダクトよりも低い電気抵抗率の部材で構成され、
前記磁場補正板に誘起される渦電流が作る磁場を、前記真空ダクトの渦電流が作る磁場に重畳することにより前記真空ダクト内の磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記偏向電磁石の両磁極が鏡像となる対称面に対して対称に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記対称面に垂直でかつ前記荷電粒子ビームの重心が通過する面に対して対称に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
それぞれの厚さが異なる複数の前記磁場補正板を前記真空ダクトに配置することで磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
電気抵抗率が異なる複数種類の前記磁場補正板を前記真空ダクトに配置することで磁場を制御することを特徴とする磁場制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板は、前記真空ダクトの内面部に設置されることを特徴とする磁場制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁場制御装置において、
前記磁場補正板を重ねて設置することを特徴とする磁場制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−119101(P2012−119101A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265899(P2010−265899)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]