説明

磁性一成分トナー

【課題】長期に渡り層乱れの発生を抑制し、カブリの発生や現像濃度の低下を防止すると共に、定着性に優れた磁性一成分トナーを実現する。
【解決手段】少なくとも結着樹脂と、磁性粉と、導電性高分子とを含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、前記結着樹脂100質量部に対して、前記磁性粉の含有量Mが50〜100質量部、前記導電性高分子の含有量Rが1〜10質量部であり、かつ、含有量Mおよび含有量Rが下記式(1)を満たすことを特徴とする磁性一成分トナー。M≧80−5R ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式または静電印刷方式の画像形成装置における静電潜像の現像に用いられる磁性一成分トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、感光体の表面を一様に帯電させ、原稿情報をもとに感光体の表面を光照射によって露光して静電潜像を形成し、現像器の現像スリーブの表面に形成されたトナー薄層から、静電潜像にトナーを飛翔させて静電潜像をトナー像として現像し、該トナー像を被転写体(紙等。)に転写し、定着ローラで加熱、加圧してトナー像を被転写体に定着させ、画像を形成している。
【0003】
このような電子写真方式の画像形成装置における現像方式としては、一成分現像方式と二成分現像方式が知られており、トナーそのものを用いた一成分現像剤や、トナーとキャリアを混合した二成分現像剤が各々使用される。また、トナーに磁性粉を含有させた磁性トナーを用いた磁性現像剤も使用される。
例えば特許文献1には、一成分磁性現像剤を使用した現像装置が開示されている。特許文献1に記載の現像装置には、現像スリーブとして例えば金属やその合金、またはその化合物を円筒状に成型して基体とし、その基体表面を電解、ブラスト、ヤスリ等で所定の表面粗さになるように処理したものが用いられている。
現像スリーブの基体を構成する材料としては、通常、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなどが用いられる。
【0004】
しかし、上述した現像スリーブを用いて正帯電性トナーを帯電させる場合、トナーの帯電量の調整が困難になることがあった。特に、耐摩耗性に優れるステンレス鋼製の現像スリーブは、帯電付与力に優れるため、現像スリーブ表面近傍のトナーは非常に高い電荷を有することになり、鏡映力によって現像スリーブ表面に引きつけられやすくなり、不動層が形成されやすかった。
不動層が形成されると、トナーと現像スリーブとの摩擦の機会が減少するので、トナーは好適な電荷を付与されにくくなる。その結果、トナーが不均一に帯電されたり、過剰に帯電されたりして、均一なトナー薄層が形成されにくくなり、トナー薄層の乱れ(層乱れ)が発生したり、カブリの発生や現像濃度の低下といった現象が生じたりしやすかった。このような問題はトナーの粒子径が小さいほど、また画像形成装置が高速化になるほど起こりやすい。
【0005】
層乱れの発生を抑制するため、例えば特許文献2には、トナー粒子の表面に、表面処理剤として第3級アミノ基を有するシリカ微粉体を付着させた正帯電性現像剤が開示されている。
また、特許文献3には、特定のイミダゾール誘導体の金属化合物を電荷制御剤として用いて、帯電性を安定化させた正帯電性トナーが開示されている。
【特許文献1】特開昭57−66455号公報
【特許文献2】特開平5−66604号公報
【特許文献3】特開平11−218966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のように、表面処理剤を用いて層乱れの発生を抑制する方法では、連続して印刷を行うに連れて表面処理剤がトナー母粒子から脱離したり、トナー母粒子の表面に埋没したりして、層乱れを抑制する効果が持続しにくかった。
特許文献3に記載の正帯電性トナーでは、層乱れの発生を抑制することは必ずしも十分ではなかった。また、層乱れの発生を効果的に抑制するには、特許文献3にも記載のように、基体の表面が樹脂層で被覆された現像スリーブを用いるのがよいが、樹脂層で被覆された現像スリーブはスリーブ自体の耐久性を損なうことがあり、この傾向は画像形成装置が高速化になるほど顕著になるため、高速の装置には向かなかった。
【0007】
また、層乱れの発生を抑制するには、磁性粉の含有量を増やせばよいが、磁性粉の含有量が増えると、トナーの定着性が低下しやすかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、長期に渡り層乱れの発生を抑制し、カブリの発生や現像濃度の低下を防止すると共に、定着性に優れた磁性一成分トナーの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性一成分トナーは、少なくとも結着樹脂と、磁性粉と、導電性高分子とを含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、前記結着樹脂100質量部に対して、前記磁性粉の含有量Mが50〜100質量部、前記導電性高分子の含有量Rが1〜10質量部であり、かつ、含有量Mおよび含有量Rが下記式(1)を満たすことを特徴とする。
M≧80−5R ・・・(1)
また、本発明の磁性一成分トナーは、ステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置にも好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁性一成分トナーによれば、長期に渡り層乱れの発生を抑制し、カブリの発生や現像濃度の低下を防止すると共に、定着性に優れる。
また、本発明の磁性一成分トナーによれば、ステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置や、高速化された画像形成装置に用いたとしても、長期に渡り層乱れの発生を抑制し、カブリの発生や現像濃度の低下を防止できる。
さらに、本発明の磁性一成分トナーによれば、粒子径が小さくなっても、層乱れの発生を抑制し、カブリの発生や現像濃度の低下を防止し、定着性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の磁性一成分トナーは、少なくとも結着樹脂と、磁性粉と、導電性高分子とを含むトナー母粒子を含有する。
【0012】
[トナー母粒子]
<結着樹脂>
結着樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等。)、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂等。)、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0013】
<磁性粉>
磁性粉としては、例えば、フェライト、マグネタイト等の、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性を示す金属や合金、またはこれらの元素を含む化合物;強磁性元素を含まないが適当な熱処理を施すことによって強磁性を示すようになる合金;二酸化クロム等が挙げられる。
磁性粉の含有量Mは、結着樹脂100質量部に対し、50〜100質量部である。含有量Mが50質量部以上であれば、層乱れの発生を抑制できる。一方、含有量Mが100質量部以下であれば、定着性が良好なものとなる。
【0014】
磁性粉は、層乱れの発生を抑制し、かつトナーに磁性を付与させる点で好適な添加剤である。磁性粉の含有量Mを増やすほど、層乱れの発生を抑制する効果を向上できる。
しかし、磁性粉の含有量Mが増えるに連れて、定着性が低下する傾向にあった。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、磁性粉と共に、導電性高分子をトナー母粒子に含有させ、かつ、両者の含有量を規定することで、層乱れの発生を抑制しつつ、定着性をも維持できることを見出した。
【0015】
<導電性高分子>
導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等の、いわゆる共役系高分子が挙げられ、透明性が高く、色味の調整が不要である点から、ポリアセチレン系の高分子が好ましい。
導電性高分子の含有量Rは、結着樹脂100質量部に対し、1〜10質量部であり、2〜8質量部が好ましい。含有量Rが1質量部以上であれば、層乱れの発生を抑制できる。一方、含有量Rが10質量部以下であれば、トナーの帯電量が良好となり、カブリの発生や現像濃度の低下を防止できる。
【0016】
また、導電性高分子の含有量R、および上述した磁性粉の含有量Mは、下記式(1)を満たす。
M≧80−5R ・・・(1)
【0017】
含有量R、および含有量Mが上記式(1)を満たせば、磁性粉と導電性高分子の含有量のバランスが良好なものとなるので、帯電安定性に優れる磁性一成分トナーが得られる。そのため、トナーが均一に帯電されやすくなり、安定したトナー薄層が形成され、層乱れの発生を抑制できる。また、必要以上に磁性粉の含有量を増やす必要がないので、定着性も維持できる。
従って、トナーが過剰帯電し易いステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置に用いたとしても、本発明の磁性一成分トナーは帯電安定性に優れるので、層乱れの発生を抑制できる。よって、現像スリーブを樹脂層で被覆する必要がなく、画像形成装置を高速化することも可能になる。また、通常、トナーの粒子径が小さくなるほど層乱れは発生しやすいが、本発明の磁性一成分トナーであれば、粒子径を小さくしても帯電安定性に優れるので、層乱れの発生を抑制できる。
【0018】
なお、本発明において「導電性」とは、抵抗値が1.0×10Ω・cm以下であることを意味する。特に、導電性高分子としてポリアセチレン系の高分子を用いる場合は、抵抗値が1.0×10〜1.0×10Ω・cmであることが好ましい。
【0019】
トナー母粒子は、必要に応じて色味調整剤、離型剤、電荷制御剤などを含む。
<色味調整剤>
色味調整剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック等の黒色顔料;黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ等の黄色顔料;赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジGK等の橙色顔料;ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B等の赤色顔料;マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ等の紫色顔料;紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC等の青色顔料;クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG等の緑色顔料;亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛等の白色顔料;バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等の体質顔料等が挙げられる。
色味調整剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、0.5〜3.0質量部がより好ましい。
【0020】
<離型剤>
離型剤としては、ワックス類、低分子量オレフィン系樹脂が挙げられる。ワックス類としては、例えば、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の高級アルコールエステル、アルキレンビス脂肪酸アミド化合物、天然ワックス等が挙げられる。
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、1〜15質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0021】
<電荷制御剤>
電荷制御剤は、トナーの摩擦帯電特性を制御するためのもので、トナーの帯電極性に応じて正電荷制御用および/または負電荷制御用の電荷制御剤を用いる。
正電荷制御剤としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等のアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリーンBH/C、アジンディープブラックEW、アジンディープブラック3RL等のアジン化合物からなる直接染料;ニグロシン、ニグロシン塩、ニグロシン誘導体等のニグロシン化合物;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等のニグロシン化合物からなる酸性染料;ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩類;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロールイド等の4級アンモニウム塩;4級アンモニウム塩を有する樹脂またはオリゴマー;カルボン酸塩を有する樹脂またはオリゴマー;カルボキシル基を有する樹脂またはオリゴマー等が挙げられる。
【0022】
負電荷制御剤としては、有機金属錯体またはキレート化合物が挙げられ、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート、3,5−ジターシヤリーブチルサリチル酸クロム等が挙げられ、アセチルアセトン金属錯体、サリチル酸系金属錯体または塩が好ましい。
電荷制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
【0023】
<製法>
トナー母粒子は、公知の溶融混練・粉砕法、重合法、溶融造粒法、スプレー造粒法、紡糸法等で製造することができる。例えば、溶融混練・粉砕法であれば次のような手順で製造する。結着樹脂、磁性粉、導電性高分子などの必要な原料を、ヘンシェルミキサー等のミキサーで混合し、二軸押し出し機等で溶融混練後、ターボミル等の粉砕機で粉砕する。その後、気流式分級機等の分級機で分級してトナー母粒子とする。
【0024】
[磁性一成分トナー]
本発明のトナーは、上述したトナー母粒子をそのままトナーとして用いてもよく、トナー母粒子に外添剤を添加してもよい。
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、各種脂肪酸の金属石鹸(ステアリン酸亜鉛等。)等が挙げられる。
外添剤の添加量は、トナー母粒子100質量部に対し、0.3〜5質量部が好ましい。
【0025】
[画像形成装置]
本発明の磁性一成分トナーは、電子写真方式または静電印刷方式の一般の画像形成装置において好適に使用できるが、その特性から、ステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置の使用に特に適している。ステンレス鋼の材質としては、SUS304、SUS305、SUS316などが挙げられる。また、表面における十点平均粗さ(Rz)が3.5〜5.0μmである現像スリーブを用いるのが好ましい。Rzが3.5μm以上であれば、現像スリーブの表面への本発明の磁性一成分トナーの搬送性が高くなる。一方、Rzが5.0μm以下であれば、適正なトナー量を超えたトナー薄層の形成を抑制できる。
なお、本発明における十点平均粗さ(Rz)は、JIS B0601:1994で定義される十点平均粗さである。
【0026】
ステンレス鋼製の現像スリーブは、耐摩耗性に優れるので、安定して良好な画像を形成したり、画像形成装置を長寿命化したりするのに好適である。その一方で、ステンレス鋼製の現像スリーブは帯電付与力に優れるため、現像スリーブ表面近傍のトナーは非常に高い電荷を有することになり、鏡映力によって現像スリーブ表面に引きつけられやすくなり、不動層が形成されやすかった。その結果、トナーと現像スリーブとの摩擦の機会が減少するので、トナーは好適な電荷を付与されにくくなり、トナーが不均一に帯電されたり、過剰に帯電されたりして、層乱れが発生したり、カブリの発生や現像濃度の低下といった現象が生じたりしやすかった。また、このような現象はトナーの粒子径が小さいほど、また画像形成装置が高速化になるほど起こりやすかった。
【0027】
しかし、本発明の磁性一成分トナーによれば、トナー母粒子として磁性粉と導電性高分子を含有したものを用い、かつこれら磁性粉と導電性高分子の含有量のバランスがとれるように規定しているので、帯電安定性に優れる。そのため、トナーが均一に帯電されるので、長期に渡って層乱れの発生を抑制できる。従って、ステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置に用いたとしても、層乱れが発生しにくく、カブリの発生や現像濃度の低下を防止できる。また、粒子径や画像形成装置の高速化に関係なく本発明の効果を十分に発揮できるので、特に、高速化された画像形成装置にも好適である。
さらに、本発明の磁性一成分トナーを用いれば、従来のように現像スリーブを樹脂層で被覆する必要がないので、スリーブ自体の耐久性も確保できる。このような理由からも本発明の磁性一成分トナーは、高速化された画像形成装置に好適である。
【0028】
さらに、本発明の磁性一成分トナーによれば、定着性にも優れるので、安定して良好な画像を形成できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[導電性高分子の調製]
<製造例1;モノマー(ビス(4−ブトキシフェニル)−(4−エチニルフェニル)アミン(BBEA))の合成>
p−ブトキシフェニルアニリンとp−ブトキシフェニルブロミドとを、酢酸パラジウム、助触媒である1,1’−(ビスジフェニルホスフィノ)フェロセン、ナトリウムt−ブトキシドの存在下に反応させて、ビス(4−ブトキシフェニル)アニリンを得た。
ビス(4−ブトキシフェニル)アニリンに、N−ブロムスクシンイミドを、N,N−ジメチルホルムアミドの存在下に反応させて、ビス(4−ブトキシフェニル)アニリノ−4−ブロミドを得た。
ビス(4−ブトキシフェニル)アニリノ−4−ブロミドを、テトラヒドロフランの存在下にn−ブチルリチウムおよびヨウ素で前処理した。これに、アセチレンアルコールのトリエチルアミン溶液を加え、Pd(PPh、PPh(ただし、PPhはトリフェニルホスフィンである。)、ヨウ化銅(I)の存在下に反応させた後、トルエン中で、水素化ナトリウムで処理することにより、BBEAを得た。なお、各工程は、ほぼ定量的に反応が進行するように適宜反応温度を調整した。
【0031】
<製造例2;ポリアセチレン樹脂(ポリ(ビス(4−ブトキシフェニル)−(4−エチニルフェニル)アミン)(PBBEA))の合成>
隔膜ラバーのキャップをした2つの注入口を備えたU型ガラスアンプルを用意した。
アンプルの一方の注入口に、[Rh(NBD)Cl](ただし、NBDはノルボルナジエンである。)3.3mg(7.3ミリモル)、および助触媒であるトリエチルアミン20μLを入れ、アンプルの他方の注入口に、BBEA0.3mg(7.3ミリモル)を入れた。さらに、アンプルの両方の注入口に、溶媒であるクロロホルム7.3ミリモルをそれぞれ入れ、アンプルの両側の溶液を10分間静置した後、モノマー溶液と触媒溶液とを混合して重合温度30℃で重合を開始させた。2時間後、ポリマー溶液を大量のメタノールに注いで橙色の繊維を析出させ、これをろ過し、室温で24時間真空乾燥して、PBBEAを得た。
【0032】
[実施例1]
<磁性一成分トナーの製造>
結着樹脂としてスチレン−アクリル系共重合樹脂を100質量部、磁性粉(三井金属社製、「マグネタイト」、8面体、平均粒子径:0.20μm、BET比表面積:7.1m/g、飽和磁化σs:83.5Am/g、残留磁化σr:12.1Am/g)を70質量部、導電性高分子としてポリアセチレン樹脂(PBBEA)を3質量部、電荷制御剤としてニグロシン染料(オリエント化学工業社製、「N01」)を3質量部、離型剤としてワックス(三洋化成工業社製、「ユーメックス100TS」)を3質量部用い、ヘンシェルミキサ(三井三池工業社製)にて混合し、押出機(池貝社製、PCM−30)にて混練し、ターボミル(ターボ工業社製)にて粉砕した後、エルボージェット(日鉄鉱業社製)にて分級を行ない、平均粒子径6.8μmのトナー母粒子を得た。トナー母粒子中の磁性粉および導電性高分子の含有量(ただし、結着樹脂100質量部に対する量)を表1に示す。
トナー母粒子100質量部に対し、外添剤としてシリカ微粒子(日本アエロジル社製、「RA200H」)1.0質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池工業社製)にて混合し、磁性一成分トナーを得た。
【0033】
<評価>
(1)画像濃度の評価
磁性一成分トナーを、ステンレス鋼(SUS316、Rz:4.3μm)製の現像スリーブを備えた複写機(京セラミタ社製、KM−8030(80枚機))に搭載し、複写機の電源を入れ安定直後の画像を出力し、これを初期画像とした。
ついで、常温常湿環境(温度:20℃、相対湿度65%)において1万枚の耐刷を行った。初期画像および1万枚耐刷後の画像について、反射濃度計(東京電色社製、「TC−6D」)を用いて画像濃度(ID)を測定した。判定基準は下記の通りである。結果を表1に示す。
○:IDが1.40以上。
△:IDが1.25以上、1.40未満。
×:IDが1.25未満。
【0034】
(2)カブリ発生の評価
評価(1)の画像濃度の評価と同様にして、初期画像および1万枚耐刷後の画像について、反射濃度計を用いてカブリ値(FD)を測定した。なお、カブリ値は、画像の白紙相当部の画像濃度(ID)から、ベースペーパーの画像濃度(ID)を引いた値とした。判定基準は下記の通りである。結果を表1に示す。ちなみに、カブリ値(FD)が高いほどカブリが発生しやすい。
○:FDが0.003以下。
△:FDが0.003超、0.008以下。
×:FDが0.008超。
【0035】
(3)層乱れの評価
磁性一成分トナーを、ステンレス鋼(SUS316、Rz:4.3μm)製の現像スリーブを備えた複写機(京セラミタ社製、KM−8030(80枚機))に搭載し、低温低湿環境(温度:10℃、相対湿度15%)において1万枚の白紙耐刷を行った。1万枚白紙耐刷後の現像スリーブを目視にて観察した。判定基準は下記の通りである。結果を表1に示す。ちなみに、層乱れはトナーの過剰帯電により発生するので、低温低湿環境で層乱れの発生が起こりやすい。また、白紙耐刷の場合、トナーの入れ替わりが行われないため、トナーがチャージアップされやすく、層乱れが発生しやすい。
○:1万枚白紙耐刷後、現像スリーブ上に層乱れが全く認められない。
△:1万枚白紙耐刷後、現像スリーブ上に層乱れが若干認められる。
×:耐刷途中で、現像スリーブ上に層乱れが認められる。
【0036】
(4)定着性の評価
磁性一成分トナーを、複写機(京セラミタ社製、KM−8030(80枚機))に搭載し、定着温度を170℃に設定し、常温常湿環境(温度:20℃、相対湿度65%)において、電源をOFFにした状態で10分間冷却した。ついで、電源を入れて、画像濃度が1.2程度になるよう調整し、定着パターンソリッド画像を連続5枚印字し、測定用画像を得た。
得られた画像に、綿布で包んだ黄銅製分銅(1kg)の荷重をかけて、10往復擦った。この操作の前後における画像濃度を、反射濃度計(東京電色社製、「TC−6D」)を用いて測定し、下記式(2)より画像濃度の比率を算出し、これを定着率とした。結果を表1に示す。なお、定着率が高いほど、定着性が良好であるものとする。
定着率(%)=操作前の画像濃度/操作後の画像濃度×100 ・・・(2)
○:定着率が95%以上。
△:定着率が90%以上、95%未満。
×:定着率が90%未満。
【0037】
[実施例2〜6]
結着樹脂100質量部に対する、磁性粉および導電性微粒子の含有量が表1に示す値になるように、磁性粉と導電性微粒子を添加した以外は、実施例1と同様にして磁性一成分トナーを製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1〜7]
結着樹脂100質量部に対する、磁性粉および導電性微粒子の含有量が表1に示す値になるように、磁性粉と導電性微粒子を添加した以外は、実施例1と同様にして磁性一成分トナーを製造し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【表1】

【0039】
表2から明らかなように、磁性粉と導電性高分子の添加量が適量であり、かつ上記式(1)を満たした実施例で得られた磁性一成分トナーは、磁性粉と導電性高分子の添加量のバランスが良好であり帯電安定性に優れるため、層乱れの発生を抑制すると共に、定着性も良好であった。また、カブリの発生や現像濃度の低下を防止できた。
【0040】
一方、比較例1、2、7で得られた磁性一成分トナーは、磁性粉と導電性高分子の添加量が上記式(1)を満たしていなかったため(すなわち、磁性粉の添加量に対して導電性高分子の添加量が少なかったため)、磁性粉と導電性高分子の添加量のバランスが悪く、トナーが過剰帯電し、層乱れが発生した。
導電性高分子を添加しなかった比較例3で得られた磁性一成分トナーは、磁性粉を十分な量(100質量部)含有しているが、本実施例および比較例では現像スリーブとしてトナーが過剰帯電し易いSUSスリーブを使用し、かつ評価機として高速の複写機を用いているので、層乱れが発生しやすい状態であった。そのため、比較例3においては、トナーの過剰帯電を軽減することが困難であり、層乱れの発生を抑制できなかった。
【0041】
比較例4で得られた磁性一成分トナーは、磁性粉と導電性高分子の添加量が上記式(1)を満たしているものの、磁性粉の添加量が少なかったため、トナーに十分な磁性が付与されず、カブリが発生しやすかった。また、1万枚の耐刷を行うと画像濃度が低下した。
比較例5で得られた磁性一成分トナーは、磁性粉と導電性高分子の添加量が上記式(1)を満たしているものの、導電性高分子の添加量が多かったため、トナーの帯電量が不足しやすく、カブリが発生した。また、1万枚の耐刷を行うと画像濃度が低下した。
比較例6で得られた磁性一成分トナーは、導電性高分子を添加せず、かつ磁性粉の添加量が多かったため、層乱れの発生は抑制できたものの、定着性が実施例に比べて劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂と、磁性粉と、導電性高分子とを含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、
前記結着樹脂100質量部に対して、前記磁性粉の含有量Mが50〜100質量部、前記導電性高分子の含有量Rが1〜10質量部であり、かつ、含有量Mおよび含有量Rが下記式(1)を満たすことを特徴とする磁性一成分トナー。
M≧80−5R ・・・(1)
【請求項2】
ステンレス鋼製の現像スリーブを備えた画像形成装置に用いられることを特徴とする請求項1に記載の磁性一成分トナー。


【公開番号】特開2009−169075(P2009−169075A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6769(P2008−6769)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】