説明

磁性中空粒子およびその製造方法

【課題】本発明は、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】正に帯電させた粒子径100nm以下の球状のテンプレート粒子の表面に対して、負に帯電させた粒子径6nm以下の磁性粒子を単層で帯電吸着させる。これを水相で圧力加熱することによって、磁性粒子が互いに強固に融着し、外殻を形成する。外殻内部の残存成分を洗浄・溶出することによって磁性中空粒子が作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性中空粒子に関し、より詳細には、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性中空粒子をマイクロカプセルとして利用することが検討されており、例えば、その中空部に薬剤を充填することによって、ドラックデリバリーの担体として用いたり、フロンなどの気体を充填することによって、超音波反射画像を撮像する際の造影剤として用いたりすることが検討されている。さらには、その磁気熱量効果を利用して、がんの温熱治療(ハイパーサーミア)の用途に適用することが検討されている。
【0003】
磁性中空粒子の製造方法については、これまで種々の方法が検討されている。特開2000−34582号公報(特許文献1)は、鉄塩の水溶液にテンプレートとして球状のポリマー粒子を分散させ、鉄塩を加水分解することによって、テンプレート粒子の表面に酸化鉄の被覆層を形成し、これを乾燥・焼成して磁性中空粒子を作製する方法を開示する。
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、中空粒子の外殻の膜厚の制御が困難であり、一般に、その膜厚は厚くなる傾向にあった。また、その中空部の形状や容積にばらつきが生じていた。さらに、その粒子径の多くは、400〜600nm程度の大きいものであった。
【0005】
一方、特開2000−203810号公報(特許文献2)は、テンプレートを使用しない別法として、金属塩の水溶液に有機溶剤を添加することによって、適切な水滴径をもつW/O型エマルジョンを形成し、当該エマルジョンを噴霧・焼成することによって、膜厚20nm以下の外殻を有する磁性中空粒子を作製する方法を開示する。特許文献2の方法によれば、膜厚が薄くなり、また、その中空部がきれいな球状になることは認められるものの、依然として、中空粒子の外殻の膜厚および粒子径を制御することは困難であり、その粒子径の多くはマイクロメータオーダーであった。
【0006】
さらに、特開平5−138009号公報(特許文献3)は、ポリマーからなるテンプレート粒子と該テンプレート粒子の粒子径の1/5以下の粒子径を有する金属粒子とを気流中で高速撹拌することによって、金属粒子をテンプレート粒子の表面に衝突させて被覆層を形成した後、これを加熱・焼成して磁性中空粒子を作製する方法を開示する。しかし、特許文献3の方法においても、中空粒子の微細化は困難であり、その粒子径の多くはマイクロメータオーダーであった。
【0007】
磁性中空粒子のさらなる応用展開を考えた場合、その粒子径の極小化は、一つの重要な懸案事項であるが、上述したように、特許文献1〜3が開示するいずれの方法によっても、粒子径100nm以下の磁性中空粒子を自在に制御して作製することは非常に困難であった。
【0008】
また、磁性中空粒子には、その用途において、高い分散性が要求されるところ、特許文献1〜3が開示する方法においては、中空粒子の外殻の強度を得るために高温で焼成する工程が必須であるため、その焼成工程において粒子同士が凝集していまい、分散性が悪化するという問題があった。加えて、従来法による磁性中空粒子には、自発磁化による凝集の問題が存在する。すなわち、磁性中空粒子の外殻の膜厚が20nm以上になると、磁性中空粒子自体が自発磁化をもつため、粒子間に磁気的な引力が働いて分散性が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−34582号公報
【特許文献2】特開2000−203810号公報
【特許文献3】特開平5−138009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子につき鋭意検討した。その結果、正に帯電させた球状のテンプレート粒子の表面に対して、負に帯電させた粒子径3〜6nmの磁性粒子を単層で帯電吸着させ、これを水相で圧力加熱することによって、外殻を形成する磁性粒子が互いに強固に融着する現象を見出し、本発明に至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、磁性粒子が融着してなる外殻と球状の中空部とを備える、粒子径100nm以下の磁性中空粒子が提供される。本発明においては、前記外殻の膜厚を10nm以下にすることができ、前記中空部内に第2の磁性粒子を内包させることができる。また、本発明においては、前記中空部内に第2の磁性粒子を内包させることができ、前記磁性粒子を、マグネタイト粒子とすることができる。さらに、本発明においては、前記外殻を、前記磁性粒子の単層膜とすることができ、また、前記外殻を、前記磁性粒子の単層膜が積層された積層膜とすることができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、正に帯電させた球状のテンプレート粒子の分散液と、負に帯電させた6nm以下の粒子径を有する磁性粒子の分散液とを混合し、前記テンプレート粒子の表面に前記磁性粒子を単層で吸着させてテンプレート−磁性粒子複合体を形成する工程と、前記テンプレート−磁性粒子複合体を水相で圧力加熱する工程と、前記テンプレート粒子を溶出する工程とを含む、磁性中空粒子の製造方法が提供される。本発明においては、前記加熱する工程の加熱温度を、150℃〜200℃でとすることができる。また、本発明においては、前記テンプレート−磁性粒子複合体の分散液とカチオン性ポリマー溶液とを混合し、カチオン性ポリマーを前記テンプレート−磁性粒子複合体の表面に吸着させてテンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体を形成する工程と、前記テンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体の分散液と前記磁性粒子の分散液とを混合し、前記テンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体の表面に前記磁性粒子を単層で吸着させる工程とをさらに含むことができる。さらに、本発明においては、前記テンプレート粒子が第2のフェライト粒子を含有することができ、前記磁性粒子をマグネタイト粒子とすることができ、前記テンプレート粒子をシリカ粒子とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明によれば、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態の磁性中空粒子の製造方法を説明するための概念図。
【図2】第2の実施形態の磁性中空粒子の製造方法を説明するための概念図。
【図3】第3の実施形態の磁性中空粒子の製造方法を説明するための概念図。
【図4】サンプル1のTEM像。
【図5】サンプル2のTEM像。
【図6】サンプル3のTEM像。
【図7】サンプル3の粒径の重量換算分布を示す図。
【図8】サンプル2の磁性中空粒子の真空引き前後のTEM像。
【図9】超音波反射画像を示す図。
【図10】サンプル3の水分散液に交流磁界をかけた場合の温度変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素については同じ符号を用い、適宜その説明を省略するものとする。また、以下の説明において使用する「平均粒子径」とは、個数平均を指すものとする。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態である磁性中空粒子100の製造方法を説明するための概念図である。本実施形態においては、まず、テンプレートとして粒子径の揃った球状の粒子を用意する。図1(a)は、本実施形態におけるテンプレートである、シリカ粒子10を示す。シリカ粒子10の粒子径については適宜選択することができるが、本実施形態においては、シリカ粒子10の平均粒子径を100nm以下にすることによって、従来法ではその作製が困難であった極小磁性中空粒子を作製することができる。本実施形態においては、シリカ粒子10の平均粒子径を100nm以下にすることができ、80nm以下にすることができ、50nm以下にすることができる。
【0018】
次に、本実施形態においては、このテンプレート(シリカ粒子10)が水相中で正に帯電するようにその表面を改質する。本実施形態においては、例えば、カチオン性シランカップリング剤12でシリカ粒子10の表面を被覆することによって、その表面を改質することができる。本実施形態においては、カチオン性シランカップリング剤12として、アミノ基あるいはイミノ基を有するシランカップリング剤を挙げることができ、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。以下の説明においては、カチオン性シランカップリング剤12によって修飾されたシリカ粒子10を修飾シリカ粒子14として参照する。
【0019】
本実施形態においては、併せて、磁性中空粒子の外殻の構成要素となる磁性粒子を用意する。図1(b)は、本実施形態における磁性粒子16を示す。本実施形態においては、磁性粒子16として、マグネタイト粒子を挙げることができる。また、本実施形態においては、磁性粒子16の平均粒子径を6nm以下にすることが望ましい。この理由については、後に詳説する。
【0020】
次に、本実施形態においては、この磁性粒子16が水相中で負に帯電するようにその表面を改質する。本実施形態においては、アニオン性官能基を有する分子18で磁性粒子16の表面を被覆することによって、その表面を改質することができる。具体的には、オレイン酸などの長鎖の脂肪酸で被覆された磁性粒子の非極性溶媒分散液に対し、チオリンゴ酸などの一時被覆物質を添加して、粒子表面の脂肪酸を一時被覆物質に交換する。続いて、アニオン性官能基を有する分子の水分散液に対し、上記一時被覆物質で被覆された磁性粒子を添加して、粒子表面の一時被覆物質をアニオン性官能基を有する分子に交換することによって、表面改質を行なうことができる。なお、本実施形態における上述した表面改質の方法については、本願出願人の先の出願である特願2007−194233号に詳細に記載されている。
【0021】
本実施形態においては、アニオン性官能基を有する分子18として、低分子カルボン酸を挙げることができ、例えば、クエン酸、ジメルカプトコハク酸等を挙げることができる。以下の説明においては、アニオン性官能基を有する分子18によって修飾された磁性粒子16を修飾磁性粒子20として参照する。
【0022】
次に、本実施形態においては、上述した手順で調製した修飾シリカ粒子14および修飾磁性粒子20を水相中で混合することによって、修飾シリカ粒子14の表面に修飾磁性粒子20を帯電吸着させる。ここで、修飾シリカ粒子14の表面に存在するアミノ基等のカチオン性官能基が水相中で水素イオンを受け取ることによって、その表面が正に帯電し、修飾磁性粒子20の表面に存在するカチオン性官能基が水相中で水素イオンを放出することによって、その表面が負に帯電する。ただし、修飾シリカ粒子14の正電荷の量はpH領域が低くなるほど大きくなるのに対し、修飾磁性粒子20の負電荷の量はpH領域が高くなるほど大きくなる。そこで、本実施形態においては、両者の吸着効率を最大化するために、水相のpH領域を5〜6に調製することが好ましい。
【0023】
図1(c)は、修飾シリカ粒子14の表面に修飾磁性粒子20が均等に帯電吸着した状態を示す。本実施形態においては、図1(c)に示すように、上述した至適pH条件下においては、修飾シリカ粒子14と修飾磁性粒子20の間に生じる静電引力は最大になるため、修飾磁性粒子20は修飾シリカ粒子14の表面に強く引き寄せられて均等に吸着する。さらに、修飾磁性粒子20(すなわち、磁性粒子16)は粒子径6nm以下の微細な粒子であるため、修飾シリカ粒子14の表面に修飾磁性粒子20からなる緻密な被覆層22が形成される。また、本実施形態においては、被覆層22は、修飾磁性粒子20の単層として形成される。以下の説明においては、修飾磁性粒子20によって被覆された修飾シリカ粒子14をシリカ粒子−磁性粒子複合体30として参照する。
【0024】
次に、上述した手順で調整したシリカ粒子−磁性粒子複合体30の被覆層22を構成する磁性粒子16の粒子間を強固に融着する工程について説明する。本実施形態においては、シリカ粒子−磁性粒子複合体30を焼成することなく、これを水相中で圧力加熱することによって、磁性粒子16の粒子間を融着する。本実施形態においては、例えば、シリカ粒子−磁性粒子複合体30の水分散液が入った容器を耐圧容器内に静置して密閉し、これをオーブン等で加熱することによって圧力加熱を行うことができる。本実施形態においては、圧力加熱を行う際の温度条件を150〜200℃とすることができる。
【0025】
本実施形態において、磁性粒子16の粒子径を6nm以下にすることには、以下に説明する理由がある。仮に、磁性粒子が粒子径6nmを超える大きさになった場合、水相中の圧力加熱のみでは粒子間に十分な融着は生じず、外殻の必要十分な強度を得るためには、従来法のように、さらにこれを高温で焼成することが必要になる。しかしながら、焼成は、中空粒子同士の凝集を惹起し、その結果、分散性が悪化することは避けられない。
【0026】
この点について、本発明者らは、鋭意検討を加えた結果、粒子径6nm以下の磁性粒子であれば、水相中、150℃以上の温度条件下で圧力加熱することによって、磁性粒子間に強固な融着が生じ、焼成したものと同等の強度が実現されることを見出したのである。本実施形態においては、磁性粒子16の粒子間に融着を生じさせるために、その粒子径を6nm以下にすることが望ましく、5nm以下にすることがさらに望ましい。実際には、入手可能な粒子径3〜6nmの微細な磁性粒子を使用することができる。
【0027】
上述した圧力加熱の過程においては、磁性粒子16が粒子間で強固に融着して外殻を形成するとともに、修飾シリカ粒子14を構成する成分や磁性粒子16を被覆していたアニオン性官能基を有する分子18は熱分解し、その多くは外殻の外へ溶出する。さらに、この圧力加熱工程の後、適切な溶媒を使用した洗浄工程によって内部に残存する磁性粒子16以外の成分を外部に完全に溶出することで、本実施形態の磁性中空粒子100が作製される。なお、本実施形態においては、テンプレートとしてシリカ粒子を使用しているため、粒子内部の洗浄のために有機溶媒を使用する必要がなく、残留有機溶媒について留意する必要がない。
【0028】
図1(d)は、本実施形態の磁性中空粒子100を示す。図1(d)に示されるように、磁性中空粒子100の外殻102の内部に形成された空洞である中空部104は、元のテンプレート(シリカ粒子12)の形状に対応したきれいな球状になっている。すなわち、本実施形態においては、焼成に起因する外殻の収縮・変形等が生じないため、中空部104の形状およびその容積は、元のテンプレートの形状およびその体積によって一義的に決定される。したがって、本実施形態においては、元のテンプレートの形状およびその体積を選択することによって、中空部102の形状およびその容積を制御することが可能になる。磁性中空粒子100をドラックデリバリー用のマイクロカプセルとして用いる場合、その容積が自在に制御できることは非常に有益である。
【0029】
また、本実施形態においては、図1(d)に示されるように、磁性中空粒子100の外殻102は、磁性粒子16の単層膜として形成される。よって、本実施形態においては、磁性中空粒子100の外殻102の膜厚は、磁性粒子16の粒子径によって一義的に決定される。したがって、本実施形態においては、磁性粒子16の粒子径の大きさを選択することによって、外殻102の膜厚を制御することが可能になる。さらに、本発明においては、磁性中空粒子の外殻の強度を上げるために、その膜厚がより大きくなるように制御することができる。以下、この点について、図2を参照して説明する。
【0030】
図2は、本発明の第2の実施形態である磁性中空粒子200の製造方法を説明するための概念図である。図2(a)に示すように、本実施形態においては、図1(a)〜(c)を参照して説明した上述の方法によって、シリカ粒子−磁性粒子複合体30を作製した後、これを水相中、カチオン性ポリマー32と混合する。カチオン性ポリマー32は、水相中で水素イオンを受け取って正に帯電し、同じ水相中で負に帯電しているシリカ粒子−磁性粒子複合体30の表面に帯電吸着する。その結果、図2(b)に示すように、シリカ粒子−磁性粒子複合体30の最外表面は、カチオン性ポリマー32によって覆われて正に帯電する。本実施形態においては、カチオン性ポリマー32として、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基を有する高分子を挙げることができ、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等を挙げることができる。
【0031】
本実施形態においては、さらに、このカチオン性ポリマー32によって被覆されたシリカ粒子−磁性粒子複合体30(以下、シリカ粒子−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体40として参照する)と負に帯電した修飾磁性粒子20とを水相中で混合する。その結果、図2(c)に示すように、シリカ粒子−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体40の最外表面に対して修飾磁性粒子20が帯電吸着し、第2の被覆層42が形成される。その後、これを磁性中空粒子100について上述したのと同様の方法によって圧力加熱・洗浄することによって、本実施形態の磁性中空粒子200が作製される。
【0032】
図2(d)は、本実施形態の磁性中空粒子200を示す。図2(d)に示されるように、磁性中空粒子200の外殻202は、磁性粒子16の二層膜として形成される。ここでは、磁性中空粒子200の外殻202の膜厚は、磁性粒子16の粒子径の2倍の厚さとして規定されることになる。さらに、本実施形態においては、図2(a)および(b)に示される手順を繰り返すことによって、磁性粒子16からなる単層膜を一層ずつ積層し、磁性中空粒子200の外殻202を磁性粒子16の単層膜が積層された積層膜として形成することができる。換言すれば、磁性中空粒子の外殻の膜厚を磁性粒子16の粒子径のN倍として規定することができるため、外殻の膜厚を正確に制御することができる。
【0033】
本実施形態においては、用途に応じた必要十分な強度を実現することができる膜厚であって、且つ、磁性中空粒子自体が自発磁化を持たない膜厚に制御することが好ましく、例えば、磁性中空粒子の膜厚を20nm以下にすることができ、10nm以下にすることができ、5nm以下にすることもできる。以上、説明したように、本発明の磁性中空粒子は、自発磁化を持たないため分散性に優れ、且つ、強度に優れている。また、その粒子径ならびに中空部の形状および容量の大きさにばらつきが少ないため、投薬などの定量性が要求される用途に用いるのに有用である。
【0034】
次に、ハイパーサーミアの用途に適した本発明の第3の実施形態である磁性中空粒子300について、以下説明する。図3は、本発明の第3の実施形態である磁性中空粒子300の製造方法を説明するための概念図である。図3(a)は、本実施形態におけるテンプレートである、シリカ粒子50を示す。磁性中空粒子300の製造方法は、図1を参照して説明した手順において、テンプレートとなるシリカ粒子50が第2の磁性粒子52を含有して形成されている点のみが異なるものであり、それ以外については、上述したのと同様の方法によって作製することができる。
【0035】
すなわち、図3(a)に示されるように、シリカ粒子50は、カチオン性シランカップリング剤12によって表面を修飾されて修飾シリカ粒子54となったのち、水相において、修飾磁性粒子20と混合される。その結果、図3(b)に示されるように、修飾シリカ粒子54の表面に修飾磁性粒子20が帯電吸着し、被覆層22が形成される。その後、シリカ粒子−磁性粒子複合体60を圧力加熱し、洗浄することによって、本実施形態の磁性中空粒子300が作製される。
【0036】
図3(c)は、本実施形態の磁性中空粒子300を示す。図3(c)に示されるように、本実施形態の磁性中空粒子300は、外殻102の内部に形成された中空部104の中に球状の第2の磁性粒子52を遊動自在に内包する。磁性粒子52の粒子径がある程度の大きさを有することによって、ハイパーサーミアの用途に必要十分な磁気熱量効果が担保される。シリカ粒子50が含有する磁性粒子52は、外殻102を構成する磁性粒子16と同じ物質からなるものでもよく、別の物質からなるものでもよい。また、磁性粒子52の粒子径は、シリカ粒子50の粒子径の30〜70%程度にすることができ、50〜70%程度にすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の磁性中空粒子について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0038】
(1)磁性酸化鉄中空粒子の作製
(クエン酸被覆マグネタイト粒子の作製)
塩化鉄とオレイン酸ナトリウムを反応させて鉄−オレイン酸錯塩を調製し、これとオレイン酸とを混合したものを、室温でオクタデセンに溶かし、90分間一定の速度で320℃まで昇温させ、320℃で30分間反応させた後、室温まで冷却することによって、平均粒径が約6nmで粒径がよく揃ったオレイン酸被覆マグネタイト粒子を得た。このオレイン酸被覆マグネタイト粒子のトルエン分散液16mlに対して、チオリンゴ酸(東京化成工業製、Mw=150.15)0.324gをジメチルスルホキシド4mlに溶かした溶液を加え、4時間ソニケーション(超音波処理)したのち、2-メトキシエタノールで洗浄して、チオリンゴ酸被覆マグネタイト粒子を得た。
【0039】
無水クエン酸(キシダ化学製、Mw=192.13)0.415gを超純水に溶解させ、pH7に調整した溶液20mlを上記チオリンゴ酸被覆マグネタイト粒子に加え、4時間ソニケーションしたのち、1,4-ジオキサンで洗浄して、クエン酸被覆マグネタイト粒子分散液を得た。得られた粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、平均粒子径を求めた結果、約5nmの値を得た。
【0040】
(テンプレート粒子の作製)
40℃に設定したウォーターバス中において、ガラスフラスコ中で50 mlのエタノールと2.5 mlのテトラエトキシシラン(TEOS)を混合し、攪拌しながらそこに3%のアンモニア水溶液を10 ml添加した。45℃ウォーターバス中で二時間攪拌した後、反応溶液(シリカ粒子が分散)に超純水100 mlを加え、エバポレーターを用いて反応溶液中のエタノールを除いた。上述した手順で水中に置換された反応溶液を超純水で透析することによって超純水中に分散した平均粒子径50nmのシリカ粒子(以下、シリカ粒子Aとして参照する)を得た。同様の手順で(但し、撹拌温度は40℃)、平均粒子径100nmのシリカ粒子(以下、シリカ粒子Bとして参照する)を得た。
【0041】
(磁性粒子内包テンプレート粒子の作製)
上述したのと同様の手順で作製した平均粒子径20nmのクエン酸被覆クエン酸被覆粒子を、エタノールと水の混合液(体積比1:1)の中に分散させた。上記分散液にテトラエトキシシラン(TEOS,Si(OC)を添加し、続いて28%アンモニア水溶液を加えて室温で反応させて、クエン酸被覆されたマグネタイト粒子表面をTEOSの加水分解で生じたシリカで被覆した。その結果、平均粒子径100nmのマグネタイト粒子内包シリカ粒子(以下、シリカ粒子Cとして参照する)を得た。
【0042】
(テンプレート粒子のアミノ化)
平均粒子径50nmのシリカ粒子A 1 gを超純水20 mlに分散させた後、このシリカ粒子水分散液のpHを塩酸を用いて3以下に調整した。一方、シランカップリング剤である3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.8 mlと6Nの塩酸1.7 mlと超純水2 mlとを混合し、当該混合液を上述した手順で調製したシリカ粒子水分散液に対してゆっくりと添加しながら、強く攪拌した。
【0043】
さらに攪拌を続けながら、上記シリカ粒子水分散液に対しエタノール25 mlを添加したのち、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを5.5に調整した。このシリカ粒子水分散液を70℃のウォーターバス中に設置してさらに四時間攪拌してシリカ粒子の表面をアミノ化した。以下、この分散液を「アミノ化シリカ粒子水分散液」として参照する。
【0044】
次に、このアミノ化シリカ粒子水分散液をウォーターバスから遠心管に移し、20,000 Gで15 min.遠心分離した後、上清を捨てた。残ったアミノ化シリカ粒子の沈殿にpH 2の酢酸溶液20 mlを加えて粒子を再分散させた後、20,000 Gで15 min.遠心分離して固液分離するという酢酸溶液による洗浄作業を3回繰り返し、最終的に得られたアミノ化シリカ粒子(以下、アミノ化シリカ粒子Aとして参照する)の沈殿をpH 2の酢酸溶液に再分散させて保存した。同様の手順で、シリカ粒子Bについてもアミノ化し(以下、アミノ化シリカ粒子Bとして参照する)、マグネタイト粒子を内包したシリカ粒子Cについても、同様の手順でアミノ化した(以下、アミノ化シリカ粒子Cとして参照する)。
【0045】
(マグネタイト粒子による単層被覆)
アミノ化シリカ粒子A 50 mg分を分散した酢酸溶液を遠心管に移し、20,000 Gで15 min.遠心分離した後、上清を捨てた。残ったアミノ化シリカ粒子の沈殿に超純水1 mlを加えて粒子を再分散させ、20,000 Gで15 min.遠心分離して固液分離するという超純水による洗浄作業を3回繰り返し、最終的に得られたアミノ化シリカ粒子の沈殿を超純水35 mlに分散させ、このアミノ化シリカ粒子水分散液のpHを5に調整した。
【0046】
一方、上述した手順で作製した平均粒子径5 nmのクエン酸被覆マグネタイト粒子100 mgを超純水10 mlに分散させてpHを5に調整した。以下、この分散液を「マグネタイト粒子水分散液」として参照する。このマグネタイト粒子水分散液10 mlに対して、上述した手順で調製したアミノ化シリカ粒子水分散液を加え5 min.攪拌した後、超音波処理を30 sec.施し、さらに5 min.攪拌してから遠心管に移して20,000 Gで15 min.遠心分離した。上清を捨てて得られたマグネタイトシリカ複合粒子の沈殿を10 mlの超純水に分散させて保存した。また、アミノ化シリカ粒子Cについても同様の手順でマグネタイト粒子で被覆した。ここで、シリカ粒子Aにマグネタイト粒子を被覆したものをサンプル1とし、シリカ粒子Cにマグネタイト粒子を被覆したものをサンプル3として以下参照する。
【0047】
(マグネタイト粒子による複層被覆)
シリカ粒子B(平均粒子径100nm)にマグネタイト粒子を被覆したものの分散液10 mlに対し、分子量600のポリエチレンイミンを500 mgを超純水10 mlに溶かした溶液を加え、5 min.攪拌した後、超音波処理を30 sec.施し、さらに5 min.攪拌してから遠心管に移して20,000 Gで15 min.遠心分離した。上清を捨てて得られた沈殿を10 mlの超純水に分散させ、pHを5に調整した。
【0048】
この分散液をマグネタイト粒子水分散液10 mlに添加し、5 min.攪拌した後、超音波処理を30 sec.施し、さらに5 min.攪拌してから遠心管に移して20,000 Gで15 min.遠心分離した。上清を捨てて得られた沈殿を35 mlの超純水に分散させて保存した。これをサンプル3として以下参照する。
【0049】
(圧力加熱工程)
上述した手順で調製した各サンプル35 mlを容量40 mlのテフロン(登録商標)容器に移し、当該テフロン(登録商標)容器をステンレス製の耐圧容器にセットし、オーブンに入れて、200℃で四時間加熱した。
【0050】
(テンプレート溶出工程)
圧力加熱後、各サンプルの分散液中の粒子を磁石によって磁気回収した。粒子内部に残存するシリカを溶出すべく、回収した粒子を水酸化ナトリウム水溶液によって洗浄した。具体的には、回収した粒子を1Nの水酸化ナトリウム水溶液10 mlに分散させた後、室温で四時間攪拌し、その後粒子を磁気回収して上清を捨て、1Nの水酸化ナトリウム水溶液10 mlを加えて再び磁気回収するという工程を3回繰り返した。最終的に得られた粒子を最終サンプルとして超純水に分散させて保存した。
【0051】
(2)TEMによる撮影
本実施例の各サンプルについて磁性酸化鉄中空粒子のTEM像を観察した。図4、図5、および図6は、それぞれ、サンプル1、サンプル2、およびサンプル3のTEM像を示す。TEM像から各サンプルの平均粒子径を求めた結果、サンプル1については、図4に示すように、約50nmの揃った粒子径を有し、サンプル2および3については、図5および6に示すように、約100nmの揃った粒子径を有していた。また、サンプル1および3については、外殻がマグネタイト粒子からなる単層構造を備えており、サンプル2については、外殻がマグネタイト粒子からなる二層構造を備えていることが分かった。さらに、サンプル1〜3は、いずれも、外形および中空部がきれいな球状であった。
【0052】
(3)分散性の検証
上記サンプル3を超純水中に分散させて洗浄した後に、再度、超純水に分散して分散性の評価を行った。なお、分散性の評価は、動的光散乱法を用いた粒径の重量換算分布の測定結果に基づいて行った。粒径の重量換算分布の測定にはFPAR−1000(大塚電子株式会社)を使用した。図7は、サンプル3の粒径の重量換算分布の測定結果を示す。図7に示されるように、サンプル3は、203.9±51.7nmの範囲に単峰性の分布を示し、良好な分散性が認められた。
【0053】
(4)超音波造影効果の検証
サンプル3の水分散液を容量2 mlのエッペンドルフチューブに移し、磁性中空粒子を磁気回収して上清を捨てた。このエッペンドルフチューブを容量100 mlのセパラブルフラスコ内に立ててこれを密閉し、60℃のウォーターバスに浸しながら、フラスコの口に接続したダイアグラムポンプを一時間運転させ、フラスコ内を真空状態にして中空粒子の内部に残留した水を蒸発させた。
【0054】
ダイアグラムポンプを停止した後、ゴム栓で塞がれたフラスコの口から注射器を用いて代替フロンである2H,3H-デカフルオロペンタン1 mlを注入した。その後、セパラブルフラスコからエッペンドルフチューブを取り出し、これに超純水1 mlを加えて、中空粒子を分散させた後、Fukuda Denshi製UF-550XTDを用いて超音波造影を行った。
【0055】
図8は、サンプル2の磁性中空粒子のTEM像を示し、図8(a)は、真空引きを実施する前の磁性中空粒子のTEM像を示し、図8(b)は、真空引きを実施した後に中空部にフロンが封入された磁性中空粒子のTEM像を示す。図8に示されるように、真空引きを実施した後において、磁性中空粒子の外殻は破損しておらず、真空引きを実施する前後において、その形状に全く変化が見られなかった。この結果から、本実施例の磁性中空粒子の外殻が必要十分な強度を備えていることが示された。
【0056】
図9は、撮像された超音波反射画像を示す。図9(a)は、フロン封入処理前のサンプル2の水分散液の画像を示し、図9(b)は、フロン封入処理後のサンプル2の水分散液を示す。図9(a)、(b)を比較すると明らかなように、フロン封入処理後のサンプル2の画像には、はっきりとした造影が映っており、本実施例の磁性中空粒子の中空部にフロンが確実に封入されていることが示された。
【0057】
(5)磁気熱量効果の検証
サンプル3を超純水0.7 mlに分散させ、測定用のセルに入れ、コイル内にセットした。コイルから周波数900 kHzの交流磁界を発生させた状態で、ファイバー状の温度計をセル中の粒子分散液に差し、温度変化をモニターした。
【0058】
図10は、サンプル3の水分散液に交流磁界をかけた場合の温度変化を示すグラフである。図10に示されるように、サンプル3を分散させた超純水の温度は、交流磁界をかけると一気に上昇をはじめ、約800秒を経過した時点で、がん細胞が死滅するといわれる温度(42〜43℃)に達しており、本実施例の磁性酸化鉄中空粒子がハイパーサーミアに適用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上、説明したように、本発明によれば、粒子径および外殻の膜厚を自在に制御でき、且つ、分散性に優れる磁性中空粒子およびその製造方法が提供される。本発明によって、磁性中空粒子の更なる応用展開が期待される。
【符号の説明】
【0060】
10…シリカ粒子、12…カチオン性シランカップリング剤、14…修飾シリカ粒子、16…磁性粒子、18…アニオン性官能基を有する分子、20…修飾磁性粒子、22…被覆層、30…シリカ粒子−磁性粒子複合体、32…カチオン性ポリマー、40…シリカ粒子−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体、42…第2の被覆層、50…シリカ粒子、52…第2の磁性粒子、54…修飾シリカ粒子、100…磁性中空粒子、102…外殻、104…中空部、200…磁性中空粒子、202…外殻、300…磁性中空粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子が融着してなる外殻と球状の中空部とを備える、粒子径100nm以下の磁性中空粒子。
【請求項2】
前記外殻の膜厚が10nm以下である、請求項1に記載の磁性中空粒子。
【請求項3】
前記中空部内に第2の磁性粒子を内包する、請求項1または2に記載の磁性中空粒子。
【請求項4】
前記磁性粒子は、マグネタイト粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性中空粒子。
【請求項5】
前記外殻は、前記磁性粒子の単層膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性中空粒子。
【請求項6】
前記外殻は、前記磁性粒子の単層膜が積層された積層膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性中空粒子。
【請求項7】
正に帯電させた球状のテンプレート粒子の分散液と、負に帯電させた6nm以下の粒子径を有する磁性粒子の分散液とを混合し、前記テンプレート粒子の表面に前記磁性粒子を単層で吸着させてテンプレート−磁性粒子複合体を形成する工程と、
前記テンプレート−磁性粒子複合体を水相で圧力加熱する工程と、
前記テンプレート粒子を溶出する工程と、
を含む、磁性中空粒子の製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程の加熱温度は、150℃〜200℃である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記テンプレート−磁性粒子複合体の分散液とカチオン性ポリマー溶液とを混合し、カチオン性ポリマーを前記テンプレート−磁性粒子複合体の表面に吸着させてテンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体を形成する工程と、
前記テンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体の分散液と前記磁性粒子の分散液とを混合し、前記テンプレート−磁性粒子−カチオン性ポリマー複合体の表面に前記磁性粒子を単層で吸着させる工程とをさらに含む、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記テンプレート粒子が第2のフェライト粒子を含有する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記磁性粒子は、マグネタイト粒子である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記テンプレート粒子は、シリカ粒子である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の製造方法。


【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−208875(P2010−208875A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54774(P2009−54774)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】