説明

磁性体コアの製造方法およびインダクタ

【課題】インダクタンスおよび電気抵抗が小さく、かつ1mm以下といった超低背を実現することができる磁性体コアの製造方法およびこれによって得られた磁性体コアを有するインダクタを提供する。
【解決手段】磁性体粉末と有機バインダとを含む上部層、中間層および下部層のグリーンシート2〜4を成形し、中間層のグリーンシート4に、直線状の複数の溝部を互いに間隔をおいて形成して磁性体とは異なる材質からなる異材質層5を充填し、次いでこれら3層を積層して熱圧着により接着することによりグリーンシート積層体7を成形した後に、これを、中間層のグリーンシート4における異材質層5を間に挟んだ位置において切断し、得られた帯状のグリーンシート積層体7aを焼成するとともに、異材質層5を除去することにより、最終的に上記異材質層の形成位置に貫通孔が形成された磁性体コアを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状の導体を挿入するための貫通孔を備えた磁性体コアの製造方法およびこれによって得られた磁性体コアを用いたインダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種の電気機器類の電源基板等には、電圧の安定化やノイズ除去を目的としたインダクタが組み込まれている。
このインダクタは、例えば下記特許文献1に見られるような、平角銅線からなるコイルの両面に、磁性体からなる一対のE型コアを対向配置して、当該E型コアの磁心を上記コイルの中心部に挿入することによって構成されたものである。
【0003】
ところで、現在モバイルパソコンにおいては、主として消費電力の低減するために、CPUの低電圧と、これによる30〜40Aといった大電流化が進んでいる。そして、これに伴い、電源基板に組み込まれるDC−DCコンバータ用のパワーインダクタに対しても、電気抵抗が小さく、かつインダクタンスが小さいことが要求されている。
【0004】
しかしながら、上述したコイルを用いたインダクタでは、インダクタンス調整の必要性から、必然的に銅線の全長が長くなるために、直流抵抗を低減することが難しいという問題点がある。
そこで、上記コイルの素材として銀を用い、積層インダクタとして小型化を図ったインダクタも提案されているが、部品価格の高騰化を招き、現実的には使用することが難しいという問題点がある。
【0005】
これに対して、下記特許文献2においては、板状の平角銅線を、長手方向の両端が露出するように、断面U字状の磁性コアと、平板状の磁性コアとの間に組み込んだインダクタが提案されている。
このようなインダクタによれば、導体として板状の平角銅線を用いているために、電気抵抗の一層の低減と小型化を図ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−232155号公報
【特許文献2】特開2000−164431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが近年、この種のモバイルパソコンの電源基板に組み込まれるDC−DCコンバータ用のパワーインダクタにおいては、上述した低電気抵抗とともに、全体の厚さ寸法を1mm以下にするといった超低背も要求されつつある。
これに対して、小型化が図れるとする上記従来のインダクタにあっても、全体の厚さ寸法が5.5mm程度であり、また一般的に、切削加工によって磁性コアを形成する場合には、その厚さ寸法を1mm以下にすることが困難であることから、当該要請に応えるための一層の技術開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インダクタンスおよび電気抵抗が小さく、かつ1mm以下といった超低背を実現することができ、さらにはSMT化やアレイ化にも容易に対応することができる磁性体コアの製造方法およびこれによって得られた磁性体コアを有するインダクタを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の磁性体コアの製造方法は、磁性体粉末と有機バインダとを含む上部層および下部層のグリーンシートと、磁性体粉末と有機バインダとを含む少なくとも2本の帯状の磁性体層および上記磁性体粉末とは異なる材質からなる少なくとも1本の帯状の異材質層とが水平方向に交互に形成された中間層のグリーンシートを形成し、次いで、上記上部層、中間層および下部層のグリーンシートを積層して熱圧着により接着することによりグリーンシート積層体を成形した後に、このグリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける上記異材質層を間に挟んだ位置において上記磁性体層をその延在方向に沿って切断し、これにより得られた帯状の上記グリーンシート積層体を焼成するとともに、当該グリーンシート積層体の上記焼成前、焼成時または焼成後に、上記異材質層を除去することにより、最終的に上記異材質層の形成位置に貫通孔が形成された磁性体コアを得ることを特徴とするものである。
【0010】
ここで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記グリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける1本の上記異材質層を間に挟んだ位置において切断することを特徴とするものである。
【0011】
これに対して、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記グリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける2本の上記異材質層を間に挟んだ位置において切断することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記中間層のグリーンシートにおける上記異材質層に、上記上部層および下部層のグリーンシートに含まれる上記磁性体粉末と透磁率が異なる磁性体粉末が含まれていることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記異材質層として水溶性材質を用い、上記グリーンシート積層体を焼成する前に、当該グリーンシート積層体を超音波洗浄して、上記異材質層を除去することを特徴とするものである。
【0014】
一方、請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記異材質層として上記有機バインダを用い、上記グリーンシート積層体の焼成時に、上記異材質層を除去することを特徴とするものである。
【0015】
他方、請求項7に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記異材質層として上記有機バインダと粉体との混合物を用い、上記グリーンシート積層体を焼成した後に、残留した上記粉体を除去することを特徴とするものである。
【0016】
次いで、請求項8に記載のインダクタは、請求項1ないし7のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法によって得られた磁性体コアの貫通孔に、銅製の平帯板が導体として挿入されてなることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、上記磁性体コアの上記貫通孔から延出する上記導体の両端部が、上記磁性体コアの底面レベルまで屈曲されていることを特徴とするものである。
【0018】
さらに、請求項10に記載の発明は、請求項3に記載の磁性体コアの製造方法によって得られた磁性体コアの貫通孔に、それぞれ銅製の平帯板が導体として挿入されてなり、かつこれら導体間に位置する上記磁性体コアの表面に、上記導体の延在方向に沿って溝部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜7に記載の磁性体コアの製造方法によれば、磁性体粉末と有機バインダとを混練した磁性体スラリを乾燥させることにより上部層および下部層のグリーンシートを成形し、かつ上記中間層のグリーンシートには、磁性体粉末と有機バインダとを含む少なくとも2本の帯状の磁性体層および上記磁性体粉末とは異なる材質からなる少なくとも1本の帯状の異材質層を水平方向に交互に形成するとともに、これらを積層したグリーンシート積層体を焼結して、中間層の異材質層を除去することにより、最終的に異材質層の形成位置に貫通孔が形成された厚さ寸法が1mm以下といった超低背の磁性体コアを容易に製造することができる。
【0020】
この際に、請求項2に記載の発明のように、上記グリーンシート積層体を、中間層のグリーンシートにおける1本の上記異材質層を間に挟んだ位置において切断すれば、導体を挿入するための貫通孔が1本形成された断面口字状の磁性体コアを得ることができる。
【0021】
これに対して、請求項3に記載の発明によれば、上記グリーンシート積層体を、中間層のグリーンシートにおける2本の異材質層を間に挟んだ位置において切断することにより、導体を挿入するための貫通孔が磁性体層による壁部を間に介して2本形成された日字状の磁性体コアを得ることができる。この結果、インダクタのアレイ化にも容易に対応することができる。
【0022】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、中間層のグリーンシートの磁性体層に含まれる磁性体の透磁率μ1を、上部層および下部層のグリーンシートに含まれる磁性体の透磁率μ0に対して変化させることにより、請求項8〜10に記載の最終製品であるインダクタにおけるインダクタンスを、事前に適宜値に調整することができる。
【0023】
この際に、上記中間層を、一層ではなく複数層のグリーンシートによって構成し、その内の一層のグリーンシートにおける磁性体層中の磁性体の透磁率を変化させることもでき、このような構成を採用することにより、より一層細かなインダクタンスの調整を行うことが可能になる。
【0024】
また、最終的に異材質層の形成位置に貫通孔を形成するための、中間層のグリーンシートに形成した当該異材質層中の異材質の除去は、焼成前、焼成時または焼成後に行うことができる。
例えば、請求項5に記載の発明のように、上記異材質層として水溶性材質を用いた場合には、上記グリーンシート積層体の焼成前に、当該グリーンシート積層体を超音波洗浄して、上記異材質を除去することができる。
【0025】
また、請求項6に記載の発明のように、上記異材質層として、例えば上部層および下部層のグリーンシートに含まれる有機バインダと同質の有機バインダ等を用いた場合には、上記グリーンシート積層体の焼成時に、上記異材質層も同時に除去することができる。この場合には、別途異材質を除去するための工程が必要で無いために、製造が容易になる。
【0026】
さらに、上部層および下部層のグリーンシートが極薄である場合には、積層時や焼結時においても全体としての形状を保持しておく必要があることから、請求項7に記載の発明のように、上記異材質層として上記磁性体粉末と一体化しない有機バインダと粉体との混合物を用いることが好ましい。この様な場合には、上記グリーンシート積層体の焼成時に、有機バインダは除去されるために、焼成後に、残留した上記粉体のみを除去することができる。
【0027】
したがって、請求項8〜10のいずれかに記載のインダクタによれば、上記請求項1〜7のいずれかに記載の発明によって得られた磁性体コアの貫通孔に銅製の平帯板を導体として挿入することにより、そのインダクタンスおよび電気抵抗が小さく、かつ1mm以下といった超低背を実現することができる。
【0028】
しかも、請求項9に記載の発明にように、上記磁性体コアの貫通孔から延出する導体の両端部を、当該磁性体コアの底面レベルまで屈曲することにより、そのまま実装端子として利用することができ、よって容易にSMT(Surface Mount Technology)化に対応することができる。
【0029】
さらに、請求項10に記載の発明のように、断面日字状の磁性体コアに並列的に形成された2本の貫通孔に、それぞれ銅製の平帯板を導体として挿入することにより、そのままインダクタアレイ部品として用いることも可能になる。しかも、2本の導体間に位置する磁性体コアの表面に、上記導体の延在方向に沿って溝部を形成すれば、当該溝部の深さや幅等を調整することにより、簡易な方法によって、両導体間の結合係数を調整して適宜値のインダクタンスを有するインダクタとすることが可能なる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るインダクタの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のインダクタの変形例を示す斜視図である。
【図3】図1の磁性体コアの製造方法を段階的に示す工程図である。
【図4】図3の製造方法における異材質層の除去を示す3種類の工程図である。
【図5】図1のインダクタのSMT化を図った変形例を示すもので、(a)は全体の斜視図、(b)はその電気部品としての回路図である。
【図6】本発明に係るインダクタの他の実施形態を示すもので、(a)は全体の斜視図、(b)はその電気部品としての回路図である。
【図7】図6のインダクタにおける磁性体コアの変形例を示す斜視図である。
【図8】図6のインダクタの他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8のインダクタにおける磁路を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
先ず、図3および図4に基づいて、本発明に係る磁性体コアの製造方法の実施形態について説明する。
この製造方法においては、例えばMn−Zn系等のフェライト粉末(磁性体粉末)と、PVB(ポリビニルブチラール)等の有機バインダとを混練してフェライトスラリ1とし、この磁性体スラリをドクターブレード法や押出成形機等のシート成型機によってシート状に成形して乾燥させることにより、所定厚さの上部層のグリーンシート2および下部層のグリーンシート3(図3(d)参照。)を製作する。
【0032】
またこれと併行して、同図(a)に示すように、フェライトとは異なる異材質からなるスラリを、同様にドクターブレード法等によってシート状に成形して乾燥させることにより、所定厚さの中間層のグリーンシート4を製作する。ここで、上記異材質スラリとしては、焼結の前後において、フェライトスラリ1または焼結フェライトと一定的に結合しない材質を含むスラリであって、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性材質のスラリや、PVB(ポリビニルブチラール)等の有機バインダ、あるいはアルミナ、シリカ、ジルコニア等の粉体と上記有機バインダ、分散材、溶剤、可塑剤を混練したスラリが適用可能である。
【0033】
そして次に、同図(b)に示すように、このグリーンシート4に、パンチング加工等によって所定の幅寸法を有する複数本の帯状の溝部4aを、水平方向に等間隔をおいて穿設する。そして、同図(c)に示すように、各々の溝部4aに、上記フェライトスラリ1を充填して乾燥させる。これにより中間層のグリーンシート4には、水平方向に帯状の異材質層5と磁性体層6とが交互に形成されることになる。
【0034】
次いで、同図(d)に示すように、上部層のグリーンシート2と下部層のグリーンシート3との間に、中間層のグリーンシート4を配置して積層し、熱圧着によってこれらを一体化してグリーンシート積層体7を成形する。そして、このグリーンシート積層体7を、中間層のグリーンシート4における異材質層5を間に挟んで磁性体層6の中央部においてその延在方向に沿って切断することにより、複数本の帯状のグリーンシート積層体7aを製作する。
【0035】
次いで、これら帯状のグリーンシート積層体7aを焼成するとともに、グリーンシート積層体7aの焼成前、焼成時または焼成後に、異材質層5を除去することにより、最終的に上記異材質層5の形成位置に貫通孔が形成された磁性体コアを得る。
【0036】
すなわち、各々のグリーンシート2、3、4が、比較的高い強度を有している場合には、図4(a)に示すように、異材質層5としてPVA等の水溶性材質を用いことができ、この場合には、焼成前にグリーンシート積層体7aを超音波洗浄して、上記異材質層5を除去した後に、焼結炉において焼成して磁性体コアを製造することができる。
【0037】
また、図4(b)に示すように、上記異材質層5として、グリーンシート2、3の原料となるフェライトスラリ1と同様のPVB(ポリビニルブチラール)等の有機バインダを用いることもできる。この場合には、グリーンシート積層体7aを脱脂した後に、そのまま焼結炉に供給して焼結することにより、上記異材質層5が除去された磁性体コアを製造することができる。
【0038】
さらに、各々のグリーンシート2、3、4の強度が比較的低い場合には、図4(c)に示すように、焼結時までグリーンシート積層体7aの形状を保持するために、異材質層5として、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の粉体と、バインダ、分散剤、溶剤、可塑剤とを混練したスラリを用いることが好適である。この場合には、グリーンシート積層体7aを焼結炉において焼成することにより、上記異材質層5中のバインダ等が除去される。そして、焼結後に、残存した上記粉体5aを超音波洗浄によって除去することができる。
【0039】
以上の工程により製造された磁性体コアは、図4に示すように、グリーンシート2、3によって形成された天板部8、底板部9および中間層のグリーンシート4における磁性体層6によって形成された側壁部10からなり、異材質層5の形成位置に貫通孔が形成されたる断面ロ字状をなしている。そして、本発明者等による試作によれば、上記天板部8および底板部9の厚さ寸法を0.17mm、側壁部10の厚さ寸法を0.09mmにすることにより、全体としての厚さ寸法を0.43mmといった超低背に形成することが可能である。
【0040】
そして、この貫通孔に、導体11として銅製の平帯板を挿入することにより、図1に示すようなパワーインダクタ12とすることができる。
なお、図2に示すように、最終製品のパワーインダクタ13において、比較的大きなインダクタンスが必要な場合には、磁性体コア14の長さ寸法を大きくすることによって対応することができるが、当該磁性体コア14を製造する際に、図4(a)や図4(c)に示したように異材質層5として、水溶性材質や、有機バインダと粉体との混合物を用いた場合には、これらの除去を容易とするために、中間層のグリーンシートにおける磁性体層の長手方向中央部に、開口部6aを形成しておくことが好ましい。
【0041】
さらに、上記実施の形態においては、上部層のグリーンシート2、下部層のグリーンシート3および中間層のグリーンシート4の磁性体層6に含まれる磁性体として、いずれもMn−Zn系等のフェライト粉末を用いた場合について示したが、これに限らず、中間層のグリーンシート4の磁性体6層に含まれる磁性体として、Zn系、Mn系、Co系、Ni系、Zn−Ni系、Zn−Co系等の最終製品において天板部8および底板部9とは透磁率が異なる他のフェライト粉末を用いることができる。
【0042】
そして、このように中間層のグリーンシート4の磁性体粉末として、上下部層のグリーンシート2、3の磁性体粉末と、互いの透磁率が異なるものを用いることにより、最終製品であるパワーインダクタ12、13におけるインダクタンスを事前に適宜値に調整することができる。
【0043】
さらに、図5に示すように、パワーインダクタ12の磁性体コアから延出する導体11の両端部11aを、その下面が磁性体コアの底面と同一のレベルまで屈曲すれば、当該端部11aをそのまま実装端子として利用することができ、よって容易にSMT化に対応することもできる。
【0044】
次いで、図6(a)、(b)は、本発明に係る磁性体コアの製造方法の他の実施形態によって得られた磁性体コア20およびこれを用いたカップルド・インダクタ21を示すものである。
先ず、磁性体コア20の製造方法について説明すると、所定厚さの上部層のグリーンシート2、下部層のグリーンシート3および帯状の異材質層5と磁性体層6とが水平方向に交互に形成された中間層のグリーンシート4を製作し、これらを積層して熱圧着により一体化してグリーンシート積層体7を成形する工程は、図3に示したものと同様である。
【0045】
そして、本実施形態においては、グリーンシート積層体7を、中間層のグリーンシート4における2本の異材質層5を間に挟んで、その外側の磁性体層6の中央部において延在方向に沿って切断することにより、2本の異材質層5を並列的に含む複数本の帯状のグリーンシート積層体を製作する。
【0046】
次いで、図4に示したものと同様にして、帯状の上記グリーンシート積層体を焼成するとともに、グリーンシート積層体の焼成前、焼成時または焼成後に、2本の異材質層5を除去することにより、最終的に上記異材質層5の形成位置に2本の貫通孔が間隔をおいて平行に形成された磁性体コアを得る。
そして、各々の貫通孔に導体22a、22bとして、それぞれ銅製の平帯板を挿入することにより、上記カップルド・インダクタ21を得ることができる。
【0047】
ここで、上記カップルド・インダクタ21においては、図6(b)に示すように、一方の導線22aによるインダクタンス成分は、自己インダクタンスL1と、その漏れインダクタンスL1´との和になる。また、他方の導線22bによるインダクタンス成分は、自己インダクタンスL2と、その漏れインダクタンスL2´との和になる。
【0048】
そして、この種のカップルド・インダクタ21は、定常状態においては、自己インダクタンスL1、L2が主となって、インダクタンスが大きくなることから低リップルになる。これに対して、過渡状態においては、漏れインダクタンスL1´、L2´が主となって、インダクタンスが小さくなり、高速応答が可能になるという特性を有する。
加えて、上記導体22a、22bとして、銅製の平帯板を用いているために、電気抵抗が小さくなっている。
【0049】
このような、低電圧・大電流対応、低リップルおよび高速応答といった特性は、特に上述したモバイルパソコン等のデジタル機器類用の電源として要求されている特性であることから、上記構成からなるカップルド・インダクタ21は、降圧型DC−DCコンバータ用のインバータとして好適に用いることができる。
【0050】
この際に、図6(a)に示すように、導体22a、22bの磁性体コア20から延出する両端部を、その下面が磁性体コア20の底面と同一のレベルまで屈曲すれば、図5に示したものと同様に当該端部をそのまま実装端子として利用することができる。
【0051】
また、図2に示したものと同様に、磁性体コア20の長さ寸法を大きくすることによってインダクタンスを調整した場合には、貫通孔20a部分に充填されていた異材質層の除去を容易とするために、上記異材質層(貫通孔20a)間であって長手方向中央部に、当該貫通孔22aに連通する開口部23を形成しておくことが好ましい。
【0052】
さらに、この種のカップルド・インダクタ21においては、低リップルおよび高速応答という特性をバランス良く実現するには、両導体22a、22bによって構成されるコイル部分の結合係数を精度良く設定することが重要である。
【0053】
図8および図9は、このような要請に応えうる本発明に係るインダクタの他の実施形態を示すもので、このカップルド・インダクタ25は、図6に示したカップルド・インダクタ21の磁性体コア20の天板部20aおよび底板部20bであって、かつ導体22a、22b間に、これら導体22a、22bと平行に溝部24を形成したものである。
【0054】
そして、これらの溝部24の深さ寸法を適宜調整して、図9に実線矢印でしめす結合する磁路(コモン磁路)と、点線矢印で示す結合しない磁路(ノーマル磁路)の比率を変えることにより、上記結合係数を0から1の範囲内における所望の値に高い精度で設定することができる。
【0055】
なお、上記実施形態においては、磁性体粉末と有機バインダとを含む複数本の帯状の磁性体層6およびこれとは異なる材質からなる複数本の帯状の異材質層5とが水平方向に交互に形成された中間層のグリーンシート4を得るに際して、先ず異材質からなる所定厚さの中間層のグリーンシート4を製作し、これに溝部4aを形成してフェライトスラリ1を充填した場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、逆に、フェライトスラリ1によって所定厚さの中間層のグリーンシートを製作し、これに溝部を形成して上記異材質スラリを充填・乾燥させることにより、同様に水平方向に帯状の異材質層5と磁性体層6とが交互に形成された中間層のグリーンシートを製作することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
インダクタンスおよび電気抵抗が小さく、かつ1mm以下といった超低背の磁性体コアの製造方法およびこれを用いたインダクタとして利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
2 上部層のグリーンシート
3 下部層のグリーンシート
4 中間層のグリーンシート
5 異材質層
6 磁性体層
7 グリーンシート積層体
7a 帯状のグリーンシート積層体
11、22a、22b 導体
11a 端部
12、13 パワーインダクタ
14、20 磁性体コア
20a 貫通孔
21、25 カップルド・インダクタ
24 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粉末と有機バインダとを含む上部層および下部層のグリーンシートと、磁性体粉末と有機バインダとを含む少なくとも2本の帯状の磁性体層および上記磁性体粉末とは異なる材質からなる少なくとも1本の帯状の異材質層とが水平方向に交互に形成された中間層のグリーンシートを形成し、
次いで、上記上部層、中間層および下部層のグリーンシートを積層して熱圧着により接着することによりグリーンシート積層体を成形した後に、このグリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける上記異材質層を間に挟んだ位置において上記磁性体層をその延在方向に沿って切断し、
これにより得られた帯状の上記グリーンシート積層体を焼成するとともに、当該グリーンシート積層体の上記焼成前、焼成時または焼成後に、上記異材質層を除去することにより、最終的に上記異材質層の形成位置に貫通孔が形成された磁性体コアを得ることを特徴とする磁性体コアの製造方法。
【請求項2】
上記グリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける1本の上記異材質層を間に挟んだ位置において切断することを特徴とする請求項1に記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項3】
上記グリーンシート積層体を、上記中間層のグリーンシートにおける2本の上記異材質層を間に挟んだ位置において切断することを特徴とする請求項1に記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項4】
上記中間層のグリーンシートにおける上記磁性体層は、上記上部層および下部層のグリーンシートに含まれる上記磁性体粉末と透磁率が異なる磁性体粉末が含まれていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項5】
上記異材質層として水溶性材質を用い、上記グリーンシート積層体を焼成する前に、当該グリーンシート積層体を超音波洗浄して、上記異材質層を除去することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項6】
上記異材質層として上記有機バインダを用い、上記グリーンシート積層体の焼成時に、上記異材質層を除去することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項7】
上記異材質層として上記有機バインダと粉体との混合物を用い、上記グリーンシート積層体を焼成した後に、残留した上記粉体を除去することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法によって得られた磁性体コアの貫通孔に、銅製の平帯板が導体として挿入されてなることを特徴とするインダクタ。
【請求項9】
上記磁性体コアの上記貫通孔から延出する上記導体の両端部が、上記磁性体コアの底面レベルまで屈曲されていることを特徴とする請求項8に記載のインダクタ。
【請求項10】
請求項3に記載の磁性体コアの製造方法によって得られた磁性体コアの貫通孔に、それぞれ銅製の平帯板が導体として挿入されてなり、かつこれら導体間に位置する上記磁性体コアの表面に、上記導体の延在方向に沿って溝部が形成されていることを特徴とするインダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−238653(P2011−238653A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106342(P2010−106342)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】