説明

磁性流体潤滑剤

【課題】磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る磁性流体潤滑剤を提供する。
【解決手段】均一系磁性イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする磁性流体潤滑剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体潤滑剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、均一系磁性イオン液体を含み、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る磁性流体潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄やコバルト、ニッケルなどの磁性金属微粒子の表面を界面活性剤で処理し、これを、油類、例えば炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭化水素系オイル、シリコーン系オイルなどや、水などの媒体中にコロイド状に分散させてなる分散系磁性流体が知られている。このような磁性流体は、半導体産業、コンピュータ産業、航空産業、石油探査産業、鉱山産業などの分野において、例えば軸受の潤滑、回転軸のシール、振動系のダンパー、熱伝導、オーディオスピーカー、ノイズ制御、材料分離、磁気センサー、角度センサーや傾斜センサーなどのセンサー、部品検査などに用いられている。
そして、この磁性流体の特性を改良する研究が進められている。例えば界面活性剤を溶解させた炭化水素媒体中に、金属カルボニルを加えて加熱し、熱分解することにより、平均粒子径が7〜12nmの金属微粒子を高濃度で含む磁性流体を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、金属微粒子を含む磁性流体は、次に示す問題を有している。磁性流体中の金属微粒子は、外部の磁力に引き付けられて媒体とともに移動する。そして、その磁力が強力な場合、媒体中に均一に分散していた金属微粒子が磁力に引き付けられ、媒体中で金属微粒子の濃度勾配が生じ、その結果、磁性流体に磁気勾配が生じてしまう。また、磁性流体は重力の影響も受けるので、同様に磁
気勾配が生じることがある。その他、金属微粒子同士の引力(ファンデスワールス力)により、金属微粒子が凝集することがある。
このような問題を解決するために、安定性に優れた磁気特性を有する磁性流体を製造する技術が開示されているが(例えば、特許文献2参照)、この技術においても、有機媒体中に金属微粒子が分散してなる磁性流体を得る技術であり、前記問題を本質的に解決するものではない。
【0004】
一方、前記磁性流体を利用した磁性流体シールユニットが知られている。これは、内部が真空状態に保たれた密封容器内に大気側から延びた回転軸を駆動する場合、回転軸周りのシール部として磁性流体を利用した密封装置である。このような磁性流体を利用したシール部は、永久磁石や電磁石などの外部磁場の磁力によって、当該磁性流体中の金属微粒子が磁気吸引されることで粒子の位置を保持し得る磁性流体の特性を利用したものである。
このような磁性流体シールユニットは、高温の密封容器の密封に使用される場合がある。例えば、半導体の製造工程で使用される真空加工装置の真空シールを目的として前記磁性流体シールユニットが使用される場合、半導体の製造条件によっては、密封容器の温度を上昇させて高温状態で半導体を製造する場合がある。
このような高温の密封容器の密封に磁性流体シールユニットが使用された場合、密封容器の外壁の熱が、ハウジングを介して磁性流体シール部に伝達され、磁性流体シール部が高温状態となる。
ところが、磁性流体シール部を含む磁性流体シールユニットの耐熱性には磁性流体に含まれる有機媒体の関係から限界があり、また、磁性流体シール部を効率良く使用するためには、磁性流体シール部の温度上昇を極力抑える必要がある。
このため、磁性流体シール部の外周を囲むハウジングに冷却媒体の案内通路を設けて磁性流体シール部を冷却するように構成した磁性流体シールユニットが提案されている。しかしながら、冷却媒体の案内通路を設けて磁性流体シール部を冷却するように構成した従来の磁性流体シールユニットでは、冷却媒体の案内通路に冷却媒体を流すための配管等を設けなければならず構造が複雑となる。また、冷却媒体漏れ等冷却構造の信頼性に問題がある。
したがって、半導体分野においては、耐熱性に優れた磁性流体の開発が望まれていた。
また、従来の分散系磁性流体は、潤滑剤として各種用途に用いた場合、磁性金属微粒子の摩擦面への介在により、被潤滑材が摩耗しやすいという問題もあった。
【0005】
ところで、近年、カチオンとアニオンから構成された有機イオン性液体は、アニオンの異なる一連のエチルメチルイミダゾリウム塩が、優れた熱安定性と高いイオン伝導性を有し、空気中でも安定な液体となることが報告されて以来(例えば、非特許文献1参照)、注目され、その熱安定性(難揮発性、難燃性)、高イオン密度(高イオン伝導性)、大熱容量、低粘性などの特徴を活かして様々な用途、例えば太陽電池などの電解液(例えば、特許文献3参照)、抽出分離溶媒、反応溶媒などとして応用研究が積極的に行われている。
このイオン性液体は、分子間が分子性液体のように分子間引力で結びついているのではなく、強力なイオン結合で結びついているため、揮発し難く、難燃性であり、熱や酸化に対して安定な液体である。そのため、低粘度であっても低蒸発性で、さらに耐熱性に優れる特性を有する。
このイオン性液体の分野において、最近、均一系磁性イオン液体として塩化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムが見出されている。この磁性イオン液体は、典型的なカチオンである1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンと、典型的な磁性アニオンである塩化鉄(III)酸イオンとがイオン結合により強固に結合し、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現するイオン性液体である。
【0006】
しかしながら、均一系磁性イオン液体を潤滑剤として用いた例は、これまで知られていない。
一方、イオン性液体を潤滑剤に用いた例として、スリーブの軸受穴と前記軸受穴に挿入された軸との間に形成される軸受隙間に潤滑剤が充填され、前記軸受穴内面又は軸表面の少なくともいずれか一方に動圧発生溝を有するとともに前記スリーブと前記軸とが相対的に回転する液体軸受装置において、前記潤滑剤に導電性付与剤としてイオン性液体を添加してなる流体軸受装置が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この技術は、流体軸受用潤滑剤に導電性付与剤としてイオン性液体を添加したものであって、均一系磁性イオン液体を潤滑剤に用いた技術ではない。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−36907号公報
【特許文献2】特開2005−123454号公報
【特許文献3】特開2003−31270号公報
【特許文献4】特開2004−183868号公報
【非特許文献1】「J.Chem.Soc.,Chem.Commun.」965頁(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下で、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る磁性流体潤滑剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する磁性流体潤滑剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、均一系磁性イオン液体を特定の割合で含む潤滑剤が、磁性流体潤滑剤として、その目的に適合し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)均一系磁性イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする磁性流体潤滑剤、
(2)基油が、均一系磁性イオン液体50〜100質量%を含むものである上記(1)に記載の磁性流体潤滑剤、
(3)基油に用いられる均一系イオン性液体が、融点0℃以下のものである上記(2)に記載の磁性流体潤滑剤、
(4)均一系磁性イオン液体が、一般式(I)
(Zp+k・(Aq-m (I)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-アニオンを示すが、その少なくとも一方は磁性を有し、p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁性流体潤滑剤、
【0010】
(5)一般式(I)において、p、k、q及びmが、いずれも1である上記(4)に記載の磁性流体潤滑剤、
(6)均一系磁性イオン液体が、一般式(II)
+・(MXn- (II)
(式中、Z+はカチオン、MはFe(III)、Xはハロゲン原子又はOH基を示し、
nは4である。複数のXは、たがいに同一でも異なっていてもよい。)
で示される上記(5)に記載の磁性流体潤滑剤、
(7)一般式(II)において、Xがハロゲン原子である上記(6)に記載の磁性流体潤滑剤、
(8)一般式(II)において、Z+が窒素原子をイオン中心とするカチオンである上記(6)又は(7)に記載の磁性流体潤滑剤、
(9)Z+が一般式(III)
【化1】

(式中、R1〜R5は、それぞれ独立に水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のアルコキシル基を示す。)
で表されるイミダゾリウムカチオンである上記(8)に記載の磁性流体潤滑剤、及び
(10)温度40℃における動粘度が、5〜300mm2/sである上記(1)〜(9)のいずれかに記載の磁性流体潤滑剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、均一系磁性イオン液体を含み、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る磁性流体潤滑剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の磁性流体潤滑剤は、均一系磁性イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする。
本発明においては、前記均一系磁性イオン液体として、一般式(I)
(Zp+k・(Aq-m (I)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-はアニオンを示すが、その少なくとも一方は磁性を有し、p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
この均一系磁性イオン液体としては、前記一般式(I)において、p、k、q及びmが、いずれも1であるものが好ましく、例えば一般式(II)
+・(MXn- (II)
(式中、Z+はカチオン、MはFe(III)、Xはハロゲン原子又はOH基を示し、nは4である。複数のXは、たがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物を挙げることができる。
前記Z+で表されるカチオンは、対応するアニオンである(MXn-とイオン結合して、均一系磁性イオン液体を形成し得るカチオンであればよく、その種類に特に制限はない。このようなZ+としては、例えば一般式
【0013】
【化2】

(式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
で表されるものが好ましい。R1〜R12のエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基、などが挙げられる。炭素数1〜18のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プポキシ基、イソプロポキシ基、n―ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、各種ペントキシ基、各種ヘプトキシ基、各種オクトキシ基などが挙げられる。
また、Xとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子が好ましい。
本発明においては、前記カチオンの中で、窒素原子をイオン中心とするカチオンが好適であり、特にZ+として、一般式(III)
【0015】
【化3】

(式中、R1〜R5は前記と同じである。)
【0016】
で表されるイミダゾリウムカチオンが好適である。
前記一般式(II)で表される均一系磁性イオン液体は、Z+が一般式(III)で表されるイミダゾリウムカチオンである場合、例えば以下に示す工程に従って製造することができる。
【0017】
【化4】

(式中、X1はフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子を示しR1〜R5は前記と同じである。)
まず、イミダゾール誘導体(IV)にR3−X1(V)を反応させてハロゲン化イミダゾリウム誘導体(VI)を得たのち、これにMX1n-1(VII)を作用させることにより、目的の均一系磁性イオン液体(II−a)を得ることができる。なお、前記「ハロゲン化」におけるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
【0018】
前記一般式(II)で表される均一系磁性イオン液体の例としては塩化鉄 (III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、フッ化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、臭化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、ヨウ化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化コバルト(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、フッ化コバルト(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、臭化コバルト(II)酸1−ブチル−3
−メチルイミダゾリウム、ヨウ化コバルト(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化ニッケル(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、フッ化ニッケル(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、臭化ニッケル(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、ヨウ化ニッケル(II)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の磁性流体潤滑剤においては、前記均一系磁性イオン液体は、基油として、あるいは添加剤として潤滑剤中に含有させることができる。基油として用いる場合には、基油中の均一系磁性イオン液体の含有量が好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%になるように加えることが望ましい。
また、均一系磁性イオン液体を基油に用いる場合、その融点は、0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。このような融点を有する均一系磁性イオン液体は、カチオンと、対応するアニオンとを適宣組み合わせることにより、あるいは二種以上の均一系磁性イオン液体の混合物を用いることにより、得ることができる。
【0020】
均一系磁性イオン液体を添加剤として潤滑剤に用いる場合、該添加剤としては、例えば帯電防止剤として機能するものを挙げることができる。この場合、潤滑剤中の均一系磁性イオン液体の含有量は、1質量%以上であればよく、その上限については特に制限はないが、潤滑剤の25℃における体積抵抗率が1×1010Ω・cm以下であれば、良好な帯電防止性能が発揮される。したがって、本発明の磁性流体潤滑剤を電子部品や磁気部品の滑り軸受に用いる場合、該潤滑剤の流動帯電による静電気の発生を抑制し、放電による電子部品、磁気部品(ハードディスクのMRヘッド)の支障を防止することができる。より好ましい体積抵抗率は1×109Ω・cm以下である。
なお、均一系磁性イオン液体は、このような添加剤として用いる場合、基油に溶解し得るものであればよく、その融点については特に制限はない。
本発明で用いる均一系磁性イオン液体は、イオン濃度(カチオン又はアニオン濃度)が1モル/dm3以上のものが好ましく、より好ましくは2モル/dm3以上であり、さらに好ましくは3モル/dm3以上である。イオン濃度が1モル/dm3以上であれば、磁性流体潤滑剤としての機能が十分に発揮される。
【0021】
本発明の磁性流体潤滑剤においては、均一系磁性イオン液体以外の基油として、前述の均一系磁性イオン液体と混和し得るものや、該均一系磁性イオン液体を溶解し得るものを用いることができる。このような基油としては、例えばポリアルキレングリコール系、モノ、ジ、ポリエーテル系、リン酸エステル系などの極性基油を挙げることができる。
本発明の磁性流体潤滑剤には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種添加剤、例えば酸化防止剤、油性剤、摩擦低減剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤及び粘度指数向上剤などを含有させることができる。
【0022】
(1)酸化防止剤の例としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジぺンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系を挙げることができ、中でもジアルキルジフェニルアミン系ものが好ましい。
【0023】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系を挙げることができる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル))プロピオネート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−メチルアミノ)フェノールなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.03〜5質量%の範囲で選定される。
【0024】
(2)油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0025】
(3)摩擦調整剤としては、一般に油性剤又は極圧剤として用いられているものを使用することができ、特にリン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩及び硫黄系極圧剤が好ましく挙げられる。
リン酸エステルとしては、下記の一般式(VIII)〜(XII)で表されるリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルを包含する。
【0026】
【化5】

【0027】
上記一般式(VIII)〜(XII)において、R13〜R15は炭素数4〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基を示し、R13〜R15は同一でも異なっていてもよい。
リン酸エステルとしては、例えばトリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどがあり、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(エチルフェニル)フェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(プロピルフェニル)フェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどを挙げることができる。
【0028】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどを挙げることができる。
【0029】
酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどを挙げることができる。以上のリン酸エステル類の中で、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェートが好適である。
さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば、一般式(XIII)
16PNH3-P・・・(XIII)
(式中、R16は、炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基もしくは炭素数7〜30のアリールアルキル基又は炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基を示し、pは1、2又は3を示す。また、R16が複数ある場合、複数のR16は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(XIII)におけるR16のうちの炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0030】
モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができ、ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールアミンなどを挙げることができ、トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどを挙げることができる。
【0031】
硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑剤基油に溶解又は均一に分散して、極圧剤や優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このようなものとしては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。ここで、硫化油脂は硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0032】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記の一般式(XIV)
17−Sq−R18・・・(XIV)
(式中、R17は炭素数2〜15のアルケニル基、R18は炭素数2〜15のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物などを挙げることができる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、下記の一般式(XV)
19−Sr−R20・・・(XV)
(式中、R19及びR20は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基又は環状アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基又は炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、rは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物である。ここで、R19及びR20がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0033】
上記一般式(XV)におけるR19及びR20は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(XVI)
【0034】
【化6】

(式中、R21及びR22は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、f及びgは、それぞれ0〜8の整数を示す。)
【0035】
で表される1,3,4−チアジアゾール化合物、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾール化合物などが好ましく用いられる。
このチアジアゾール化合物としては、例えば、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,6−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
チオリン酸エステルとしては、アルキルトリチオフォスファイト、アリール又はアルキルアリールチオフォスフェート、ジラウリルジチオリン酸亜鉛などが挙げられ、特にラウリルトリチオフォスファイト、トリフェニルチオフォスフェートが好ましい。
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(XVII)
【0036】
【化7】

(式中、R23〜R26は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、hは1〜8の整数を示す。)
【0037】
このアルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
【0038】
さらに、チオカーバメート化合物としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛を、チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を、ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。これらの中で、極圧性、摩擦特性、熱的酸化安定性などの点から、チアジアゾール化合物、ベンジルサルファイドが好適である。
これらの摩擦調整剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、効果及び経済性のバランスなどの点から、磁性流体潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%の範囲で選定される。
【0039】
(4)防錆剤としては、例えば、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、ロジンアミン、N−オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が使用可能である。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これら防錆剤の好ましい配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で0.01〜5質量%の範囲であり、0.05〜2質量%の範囲が特に好ましい。
【0040】
(5)金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が使用可能である。
これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で0.01〜0.4質量%であり、0.01〜0.2質量%の範囲が特に好ましい。
(6)消泡剤の例としては、液状シリコーンが適しており、メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレートが使用可能である。
これら消泡剤の好ましい配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で0.0005〜0.01質量%である。
(7)粘度指数向上剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が使用可能である。
これら粘度指数向上剤の好ましい配合量は、磁性流体潤滑剤全量基準で0.1〜15質量%であり、0.5〜7質量%の範囲が特に好ましい。
【0041】
本発明の磁性流体潤滑剤においては、温度40℃における動粘度は、5〜300mm2/sの範囲にあることが好ましい。この動粘度が上記範囲にあれば、蒸発損失、粘性抵抗による動力損失などを抑えることができる。温度40℃におけるより好ましい動粘度は、5〜150mm2/sである。
流動点は、低温時における粘性抵抗を抑える点から、0℃以下が好ましく、より好ましくは−10℃以下である。
粘度指数は、温度に対する粘度変化が大きくなりすぎないようにする点から、80以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
また、5%質量減温度は、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。引火点は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上が特に好ましい。
さらに、酸価は、本発明の磁性流体潤滑剤が適用される金属系部材の腐食防止の観点から、1mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
【0042】
本発明の磁性流体潤滑剤は、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得るなどの特性を有している。したがって、潤滑剤として、下記の用途に好適に用いられる。
(1)すべり軸受用
磁気ディスクや光ディスクに代表されるスピンドルモータの軸受として、近年、静粛性や耐久性付与のために、流体軸受や焼結含油軸受などのすべり軸受を採用するケースが増えてきている。これらの軸受は、軸と軸受内面を潤滑油によって隔て、軸にかかる加重を支え、軸と軸受間におこる摩擦を低減させているのが特徴である。
磁性流体を用いたすべり軸受として、例えば軸受外輪と、この軸受外輪内に軸受隙間を介して嵌まった軸のいずれか一方の軸受隙間形成面に、複数の磁極を互いに円周方向に分離して全周に設け、他方は非磁性材料からなり、上記複数の磁極により上記軸受隙間内に磁性流体を保持させた磁性流体軸受が知られている。
【0043】
図1は、前記磁性流体軸受の一例の縦断面図であって、磁性流体軸受1は、円筒状の軸受外輪2と、この軸受外輪2内に軸受隙間gを介して嵌まった軸3のうち、軸受外輪2の内周面からなる軸受隙間形成面2aに複数の磁極4を設け、軸受隙間gに磁性流体5を入れたものである。磁性流体5には潤滑性のあるものが用いられる。上記複数の磁極4は、互いに円周方向および軸方向の両方に分離されたものとし、軸受隙間成形面2aの全周に設ける。
軸受外輪2および軸3は共に非磁性材料からなる。各磁極4は、軸受外輪2に小片状の永久磁石4Aを埋め込むことにより設けられている。核磁極4の極性は、軸受形成面2a側が同一極性(同図ではS極)を持つように、永久磁石4Aの向きが定められている。磁極4の磁極形成面2aにおける表面の大きさは、磁極表面が磁性流体5の拘束力がないことから、縦横の幅がいずれも軸受隙間gと同等となる程度が好ましい。なお、上記複数の磁極4は、軸受外輪2の軸受形成面2aに設ける代わりに、軸3の外周面からなる軸受形成面に設けても良い。その場合に、軸3に永久磁石を埋め込むようにしても良い。
この構成の磁性流体軸受1によると、磁性流体5が個々の磁極4の表面に集まって軸受隙間gに保持される。軸3に外力が作用して軸受隙間gが円周の一部で小さくなろうとしても、磁極4により保持された磁性流体5は移動することがなく、軸受隙間gは潤滑性のある磁性流体5の介在により、全周にわたって一定の大きさに保持される。すなわち、軸3は、回転時だけでなく、非回転の状態においても、軸受外輪2と非接触でかつ軸心位置に支持され、高剛性で摩擦の少ない軸受となる。したがって、例えばHDD装置の支点軸受のような振動運動部に適用した場合に、起動摩擦のない支持が行える。また、軸受隙間g内に常に潤滑性のある磁性流体5が介在するため、振動位置決めの停止時に、高い減衰機能を持つことができ、迅速にかつ高精度に位置決めが行える。
前記磁性流体として、本発明の磁性流体潤滑剤を好適に用いることができる。
【0044】
また、磁性流体を利用した焼結軸受要素としては、青銅系多孔質焼結軸受に隣接して永久磁石を配置したものや、多孔質焼結軸受に永久磁石を埋没させたもの、或いは多孔質焼結軸受のマトリックス合金中に着磁された強磁性体粒子が分散したものが知られている。
これらの焼結軸受要素は、潤滑剤が磁性流体である焼結すべり軸受要素であって、比較的に高速度荷重で用いられる音響・映像機器用モータ、走査用ポリゴンモータ、光磁気ディスク等用のスピンドルモータに利用することができる。このような焼結すべり軸受け要素に用いられる磁性流体として、本発明の磁性流体潤滑剤を好適に使用することができる。
【0045】
(2)転がり軸受用
工作機械のスピンドル等、高速で回転する軸を支持するために、転がり軸受が使用されている。このような転がり軸受を高速回転下で使用すると、遠心力による転動体と内外輪との間の接触面圧の増大や発熱によって、摩耗や焼付き等に代表される軸受損傷の危険性が高まってしまう。そのため、このような高速回転下で使用される転がり軸受に関し、潤滑条件を最適化するための研究が、各軸受メーカー等によって行われている。
従来、冷却効果を伴う転がり軸受の潤滑方法として、オイルエア潤滑法、ノズルジェット潤滑法およびアンダーレース潤滑法等が利用されている。しかし、これらの潤滑方式では、エアを用いた大掛かりな潤滑剤供給装置が必須であり、それらの設置面積を考慮すると、工作機械全体の小型化が難しい。また、これらの潤滑方式は、電力と潤滑剤を継続的に消費するため、運転経費がかさんでしまうという問題がある。
そこで、潤滑剤の供給にエアを使用することのない、省エネルギーな潤滑剤供給手段として、潤滑油貯蔵室に取り付けられたダイヤフラムを圧電素子で振動させることにより、転がり軸受の軌道面に少量の潤滑剤を直接噴射させる方法が試みられている。
また、軸受の潤滑方式としては、グリース等を封入する方式が一般的であり、このグリースの性状を変化させることにより、潤滑性を向上させる試みも行われている。
【0046】
しかしながら、前述の圧電素子を用いて潤滑剤を直接噴射する方法は、供給装置に対する最低限の維持管理が必要となってくる上、従来方式に比べコンパクト化できるものの、軸受自身がその供給装置を設置できない部位あるいは電力を供給できない部位等に配置されている場合もあり、すべての軸受にこの方式を適用できるわけではない。
また、改質したグリースを封入する方式は、グリースのせん断に起因する軸受の発熱が大きい上、封入したグリースのうちの僅かな量しか潤滑に寄与しておらず、必要以上のグリース量を充填しなければならないという問題があった。
このような問題を解決するために、複数の軌道部材の間に形成された軌道に、複数の転動体が転動自在に配置された転がり軸受装置において、前記軌道部材あるいは転動体の内の少なくとも一つが着磁されているとともに、これらの間に磁性流体を配置する技術が開発されている。
【0047】
図2は、前記転がり軸受装置の一例の軸方向断面図である。
この転がり軸受装置は、複数の軌道部材の1つである内輪側軌道溝21aを有する内輪21と、他方の軌道部材である外輪側軌道溝22aを有する外輪22と、これら内外輪の間に形成された軌道に配置された複数のボール23と、これらボール23を周方向に所定の間隔で転動自在に保持する保持器24と、内外輪から形成される環状空間の両端開口を密封するシール部材25,25とを主体として構成されている。
この玉軸受の特徴は、軌道に配置されたボール23のそれぞれが着磁されているとともに、この軸受の環状空間内に潤滑剤としての磁性流体(図示省略)が配置されている点である。この構成によって、着磁されたボール23の近傍にこの磁性流体が留まり、ボール23の表面近傍に常に潤滑剤が存在することになる。また、軸受に高い遠心力のかかる高速回転下においても、この磁性流体からなる潤滑剤は、着磁されたボール23の周辺において循環するため、軌道とボールとの相対回転による両者の接触部の油膜形成が途切れることがなくなり、少量の潤滑剤でも確実に、油膜切れに起因する軸受の損傷等を効果的に防止することができる。
この転がり軸受装置に用いられる磁性流体に、本発明の磁性流体潤滑剤を好適に使用することができる。
【0048】
(3)シール装置用
長寿命かつクリーンな高性能シール装置として、磁性流体シール装置が知られている。この磁性流体シール装置は、省メンテナンスで清浄な雰囲気が得られる軸封機構が必要とされる半導体や液晶等の製造工程や、各種コーティング・エッチング工程において、真空中へ回転駆動力の導入を行うための真空シール、軸受からのオイルミスト等がクリーンなエリアへ侵入するのを防止するための防塵シール、あるいはガスシール等に広く使用されている。
磁性流体シール装置の主要な用途として、気密容器の外部から内部に回転運動を伝達するための回転導入機構がある。気密容器の内部では、例えば、半導体関連の成膜処理などを実施するが、そのような成膜処理においては、特殊な反応ガスを使って高温で成膜するなどの特殊な環境を使うことが多い。このような特殊な環境で磁性流体シール装置を使用する場合は、そのような環境でも支障なく動作することが要求される。
【0049】
前記成膜処理に熱CVD装置を用いる場合、該熱CVD装置においては、基板の処理温度が例えば700〜1000℃程度になり、基板ホルダーはそのような高温に加熱される。その場合、基板ホルダーの回転導入機構として使われる磁性流体シール装置は、基板ホルダーからの熱の影響を受けて温度が上昇する。従来の金属微粒子含有磁性流体では、高温になると蒸発したり変質したりするので、高温環境で使用する際には、磁性流体シール装置を冷却する必要がある。これに対し、本発明の磁性流体潤滑剤は、極めて耐熱性に優れているので、磁性流体シール装置に本発明の磁性流体潤滑剤を用いることにより、該磁性流体シール装置を冷却する必要がない。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、潤滑剤の諸特性は下記の方法に従って測定した。
(1)動粘度
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(3)流動点
JIS K2269に準拠して測定した。
(4)全酸価
JIS K2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、電位差法により測定した。
(5)引火点
JIS K2265に準拠し、C.O.C法により測定した。
(6)5%質量減温度
示差熱分析装置を用い、温度を10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5%減少した温度を測定した。5%質量減少温度が高いほど、耐蒸発性、耐熱性に優れると言える。
(7)耐荷重性試験
ASTM D 2783に準拠して、回転数1,800rpm,室温の条件で行った。最大非焼付荷重(LNL)と融着荷重(WL)から荷重摩耗指数(LWI)を求めた。この値が大きいほど耐荷重性が良好である。
(8)耐摩耗性試験
ASTM D 2783に準拠して、荷重392N、回転数1,200rpm、油温80℃、試験時間60分の条件で行った。1/2インチ球3個の摩耗痕径を平均して平均摩耗痕径を算出した。
【0051】
実施例1〜3
第1表に示す組成の磁性流体潤滑剤を調製し、諸特性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(注)
磁性イオン液体1:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート(東京化成工業株式会社製)、分子量336.88、融点−15℃
TCP:トリクレジルホスフェート
DBDS:ジベンジルジサルファイド
アミン系酸化防止剤:4,4’−ジブチルジフェニルアミン
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の磁性流体潤滑剤は、均一系磁性イオン液体を含み、磁性金属微粒子を含まなくとも磁性を発現することができ、従来磁性金属微粒子を含有する分散系磁性流体の使用時に生じていた摩耗や沈降分離などの問題がない上、蒸気圧が低くて引火の危険性が少なく、しかも耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る特性を有する。したがって、すべり軸受や転がり軸受、シール機構などの潤滑剤として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の磁性流体潤滑剤が適用される磁性流体軸受の一例の縦断面図である。
【図2】本発明の磁性流体潤滑剤が適用される転がり軸受装置の一例の軸方向の断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1:磁性流体軸受
2:軸受外輪
2a:軸受形成面
3:軸
4:磁極
4A:永久磁石
5:磁性流体
g:軸受隙間
21:内輪
21a:内輪側軌道溝
22:外輪
22a:外輪側軌道溝
23:ボ−ル
24:保持器
25:シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一系磁性イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする磁性流体潤滑剤。
【請求項2】
基油が、均一系磁性イオン液体50〜100質量%を含むものである請求項1に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項3】
基油に用いられる均一系イオン性液体が、融点0℃以下のものである請求項2に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項4】
均一系磁性イオン液体が、一般式(I)
(Zp+k・(Aq-m (I)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-アニオンを示すが、その少なくとも一方は磁性を有し、p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項5】
一般式(I)において、p、k、q及びmがいずれも1である請求項4に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項6】
均一系磁性イオン液体が、一般式(II)
+・(MXn- (II)
(式中、Z+はカチオン、MはFe(III)、Xはハロゲン原子又はOH基を示し、nは4である。複数のXは、たがいに同一でも異なっていてもよい。)
で示される請求項5に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項7】
一般式(II)において、Xがハロゲン原子である請求項6に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項8】
一般式(II)において、Z+が窒素原子をイオン中心とするカチオンである請求項6又は7に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項9】
+が、一般式(III)
【化1】

(式中、R1〜R5は、それぞれ独立に水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のアルコキシル基を示す。)
で表されるイミダゾリウムカチオンである請求項8に記載の磁性流体潤滑剤。
【請求項10】
温度40℃における動粘度が、5〜300mm2/sである請求項1〜9のいずれかに記載の磁性流体潤滑剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81673(P2008−81673A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265794(P2006−265794)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】