説明

磁性酸化鉄粉末の製造方法

【課題】 凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末を簡素な構成及び低コストで得ることができる磁性酸化鉄粉末の製造方法、凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末、及びこれを用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】 溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程と、造粒された粒を乾燥する工程と、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程と、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程とにより金属粒を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めることで、所定の平均粒径、形状及び浮遊性能の磁性酸化鉄粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集磁気分離に用いられる磁性酸化鉄粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バラスト水に含まれる細菌や水生生物の影響が危惧されている。バラスト水とは、船舶が空荷のときに船体のバランスをとる目的で船内に取り込まれる海水であり、船舶が荷揚げ港で船内に取水し、荷積み港で船内から排水される。バラスト水に含まれる細菌や水生生物は、排水先の環境に定着して荷積み港での生態系を破壊し、病原菌が拡散して人体の健康に影響するおそれがある。これらの問題に対して、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、国際海事機構により船舶のバラスト水の排水管理基準が定められている。
【0003】
この排水管理基準に対応する方策として、凝集磁気分離方式が提案されている。凝集磁気分離方式は、凝集剤及び磁性酸化鉄粉末を添加してバラスト水中の細菌、水生生物等の汚物を、磁性を有する小さな塊として凝集させ、それを磁石で集めて取り除く磁性酸化鉄粉末を用いた水処理の方式である。尚、この凝集磁気分離方式は、様々な分野において注目されつつある。この凝集磁気分離方式では、細菌や水生生物との凝集特性や、磁気分離工程での分離特性を考慮して粉末の平均粒径が1〜10μm程度のマグネタイト(Fe)を主成分とする磁性酸化鉄粉末が使用されている。
【0004】
一般的なマグネタイト粉末の製造方法として、乾式法と湿式法とが知られている。乾式法は、マグネタイト鉱を粉砕して得る方法である。湿式法は、鉄を塩酸等の酸で溶解した溶液にアルカリを添加して水酸化鉄を生成させ、その後に、溶液を酸化させてマグネタイトを生成し、生成したマグネタイトを乾燥・焼結した後に粉砕する方法である。
【0005】
しかし、乾式法は、マグネタイト鉱を原料とするため、粉砕工程が大掛かりとなるという問題がある。また、1〜10μm程度の粉末サイズの粉砕歩留が低く、製造コストが高いという問題がある。湿式法は、原材料コストの高い鉄や、酸及びアルカリを大量に使うのに加えて、製造工程で排出される廃水を処理する必要があり、コスト高の問題がある。
【0006】
また、マグネタイト粉末の製造方法として、特許文献1に記載された方法がある。特許文献1に記載された方法は、鉄材からマグネタイトを主成分とする磁性酸化鉄粉末を製造するものである。電解液として中性塩溶液を用い、陰極及び陽極の電極材として鉄材を用いてフェライト化反応に必要な温度条件下で鉄材の活性溶解域の電位及び電流密度で交番電解を行って水酸化鉄を生成させる。これを酸化してマグネタイトを主成分とする磁性酸化鉄粉末を生成させ該磁性酸化鉄粉末を所定温度において凍結及び融解処理した後に固液分離し、中性塩電解液は再使用に供する。上述の方法により、平均粒径が1〜2μmの磁性酸化鉄粉末を製造する。
【0007】
しかし、特許文献1では、使用される鉄、中性塩溶液及び電極材のコストや、電解で使用される電力コストが高く、凝集磁気分離用の磁性酸化鉄粉末としては実用化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−6912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末を簡素な構成及び低コストで得ることができる磁性酸化鉄粉末の製造方法、凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末、及びこれを用いた水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁性酸化鉄粉末の製造方法は、溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程と、造粒された粒を乾燥する工程と、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程と、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程とにより金属粒を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得る。
本発明に係る磁性酸化鉄粉末は、溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程と、造粒された粒を乾燥する工程と、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程と、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程とにより金属粒を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めることにより得られた磁性酸化鉄粉末である。
本発明に係る水処理方法は、前記磁性酸化鉄粉末の製造方法により製造された磁性酸化鉄粉末、若しくは前記磁性酸化鉄粉末を少なくとも用い、凝集磁気分離方式によりバラスト水を処理する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末を簡素な構成及び低コストで得ることを実現する。これにより、凝集磁気分離方式による水処理を低コストで適正に行うことを実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】磁性酸化鉄粉末の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の粒子径及び粒度分布の関係を、これを比較するための湿式造粒及びマグネタイト鉱粉砕により得られた磁性酸化鉄粉末の粒子径及び粒度分布とともに示す図である。
【図3】図2の各磁性酸化鉄粉末の粉末形状を示す図である。(a)は、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(b)は、湿式造粒で得られた磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(c)は、マグネタイト鉱粉砕により得られた磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(d)は、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の1000倍に拡大した図である。(e)は、湿式造粒で得られた磁性酸化鉄粉末の15000倍に拡大した図である。(f)は、マグネタイト鉱粉砕により得られた磁性酸化鉄粉末の1000倍に拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の製造方法について説明する。当該製造方法は、凝集磁気分離用に使用される磁性酸化鉄粉末の諸問題を解決し、マグネタイトを主成分とする磁性酸化鉄粉末を低コスト且つ簡素な構成で得るものである。
【0014】
当該製造方法は、図1に示すように噴霧造粒工程S1と、乾燥工程S2と、焼き入れ工程S3と、焼き戻し工程S4とにより金属粒(以下「ショット」ともいう。)を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得る方法である。S1は、溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程である。S2は、造粒された粒を乾燥する工程である。S3は、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程である。S4は、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程である。
【0015】
ここで、鉄系の金属溶湯とは、例えば炭素の含有率が0.6〜1.0質量%、珪素の含有率が0.6〜1.0質量%、マンガンの含有率が0.6〜1.0質量%、残部が鉄および不可避的不純物からなる金属溶湯である。噴霧造粒とは、例えば鉄系の金属溶湯を円柱状に流下して、その側面からウォータージェットで円柱状の金属溶湯を粉砕微粒化する造粒方式である。乾燥とは、例えば加熱空気を用いた流動層乾燥であるとか、ロータリーキルンを用いた乾燥である。焼き入れとは、例えば790℃〜840℃の焼き入れ温度に加熱した後に、水中で100℃以下まで急冷することである。焼き戻しとは、例えば520℃〜560℃に再加熱したのちに20分〜30分程度保持することである。
【0016】
噴霧造粒工程S1において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程S11と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程S12とにより磁性酸化鉄粉末を得る。粉砕する工程S12においては、加熱空気を用いた流動層乾燥であるとか、ロータリーキルンを用いた乾燥を行い、その後に粉砕を行う。排水の回収は、噴霧造粒工程・焼入れ工程から排出された排水を沈殿層に貯めて磁性酸化鉄粉末を沈殿させる方法であるとか、電磁石などを用いて磁気吸着分離する方法がある。粉砕工程は、例えばビーズミルなどの一般的な粉砕機を用いて行う。回収された磁性酸化鉄粉末の粒度分布によっては、乾式気流分級機などを用いて粒度分布の調整を行う。このS11及びS12は、S1〜S4の工程と並行して行ってもよいし、S1〜S4の工程が終了後に行ってもよい。
【0017】
乾燥工程S2において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程S21により磁性酸化鉄粉末を得る。この工程S21では、バグフィルタ式の集塵機で、吸引した空気と磁性酸化鉄粉末とを分離する。回収された磁性酸化鉄粉末の粒度分布によっては、乾式気流分級機などを用いて粒度分布の調整を行う。このS21は、S1〜S4の工程と並行して行ってもよいし、S1〜S4の工程が終了後に行ってもよい。
【0018】
焼き入れ工程S3において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程S31と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程S32とにより磁性酸化鉄粉末を得る。粉砕する工程S32においては、上述した粉砕工程S12と同様に、乾燥を行い、その後の粉砕を行う。このS31及びS32は、S1〜S4の工程と並行して行ってもよいし、S1〜S4の工程が終了後に行ってもよい。
【0019】
焼き戻し工程S4において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程S41により磁性酸化鉄粉末を得る。このS41は、S1〜S4の工程と並行して行ってもよいし、S1〜S4の工程が終了後に行ってもよい。
【0020】
この製造方法で得られる磁性酸化鉄粉末の平均粒径は、1〜10μmである。尚、「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法で算出した体積分布における粉体の小さい側からの積算値50%での粒子径を意味するものとし、以下では、この「平均粒径」を「D50」とも示す。また、この製造方法で得られる磁性酸化鉄粉末は、扁平形状のものが含まれ、沈みにくいという特性を有する。以下では、S1〜S4のそれぞれで発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得るものとして説明するが、S1〜S4の内少なくとも一の工程で発生するものを集めるようにすればよい。
【0021】
以上のように、当該製造方法は、溶解した鉄系の金属溶湯を水アトマイズ法で噴霧造粒する際に発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得る点に特徴を有する。
【0022】
また、当該製造方法は、表面処理用のスチールショットを製造する工程中の噴霧造粒工程、熱処理工程等で生成される、マグネタイトを主成分とする粒子サイズの小さい磁性酸化鉄粉末を原料に用いて、平均粒径で1〜10μmに粉砕して得る点に特徴を有する。
【0023】
さらに、当該製造方法は、表面処理用のスチールショットを製造する工程中の噴霧造粒工程、熱処理工程等で生成されることで、このスチールショットの表面形状に沿うように殻状に形成された磁性酸化鉄が噴霧造粒工程等で砕かれることにより、殻形状で且つ扁平形状のものが含まれる点に特徴を有する。このような形状を有することにより当該磁性酸化鉄粉末は、沈みにくいという特徴を有し、凝集磁気分離用の磁性酸化鉄粉末として凝集効果を向上させることができる。
【0024】
上述した製造方法は、高温に熱せられた表面積の大きい鉄粒子を水中で急速冷却することにより、一度に大量の磁性酸化鉄粉末を得ることを可能とする。また、磁性酸化鉄原料となる表面処理用のスチールショットを製造する工程中の鉄粒子は質量が一定であり、磁性酸化鉄が生成される際の熱量や水冷媒との接触面積などの鉄の酸化条件が安定していることから、生成した磁性酸化鉄粉末の品質が一定となるメリットがある。
【0025】
以下、本製造方法について更に具体的に説明する。溶融した鉄系の金属溶湯をS1〜S4に示す工程(水アトマイズ法)で噴霧造粒した際に生成する磁性酸化鉄や、鉄系の金属粒子の硬さや靭性を調整するために実施する焼入れや焼き戻しの熱処理工程で生成する磁性酸化鉄を集めるとともに必要に応じて粉砕して磁性酸化鉄粉末を得るものである。ここで、鉄系の粒子の直径は、例えば0.05mm〜8.0mm程度であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
まず、実施例1について説明する。溶解した鉄99.7%、炭素0.9%、シリコン0.7質量%、マンガン0.7質量%の金属溶湯を水アトマイズ法で噴霧造粒する。その後に、開き目0.05mmの篩で、鉄粒子と、生成した磁性酸化鉄粉末とを分級する。その後に、機械式粉砕機で粉砕して、「実施例1」として磁性酸化鉄粉末を製造して準備した。尚、製造した磁性酸化鉄粉末の平均粒径は、6.2μmであり、平均粒径は、2〜10μmであった。
【0027】
次に、実施例2について説明する。実施例1で分級回収した鉄粒子を、830℃まで加熱した後に水を冷媒にして焼入れを行った。焼入れ工程から回収した鉄粒子及び磁性酸化鉄粉末を回収・乾燥する。その後に、開き目0.05mmの篩で鉄粒子と生成した磁性酸化鉄粉末を分級する。その後に、機械式粉砕機で粉砕して、「実施例2」として磁性酸化鉄粉末を製造して準備した。尚、製造した磁性酸化鉄粉末の平均粒径は、6.0μmであり、平均粒径は、1〜8μmであった。
【0028】
次に、比較例1について説明する。磁鉄鉱をハンマーで1次粉砕し、その後にボールミルで2次粉砕し、遊星ミルで3次粉砕して、「比較例1」として磁性酸化鉄粉末を準備した。尚、製造した磁性酸化鉄粉末の平均粒径は、20.0μmであり、平均粒径は、0.1〜50μmであった。
【0029】
次に、比較例2について説明する。電解液として中性塩溶液を用い、陰極及び陽極の電極材として鉄材を用いた。フェライト化反応に必要な温度条件下で鉄材の活性溶解域の電位及び電流密度で交番電解を行って、水酸化鉄を生成させた。これを酸化してマグネタイトを主成分とする磁性酸化鉄粉末を生成させて、特開平7−6912号公報(特許文献1)を再現し、「比較例2」として磁性酸化鉄粉末を準備した。尚、製造した磁性酸化鉄粉末の平均粒径は、1.5μmであり、平均粒径は、0.8〜2.2μmであった。
【0030】
準備した実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の磁性酸化鉄粉末を用いて、海水に含まれる汚染物質の除去を目的とした、凝集磁気分離方式による水処理を行ない汚染物質の除去率を算出した。
【0031】
算出した汚染物質の除去率ならびに、作成した磁性酸化鉄粉末の製造コスト比率を表1に示す。
【0032】
総合判定は、10〜50μmの汚染物質除去率%と50μm以上の汚染物質除去率%の両方が95%以上で且つ磁性酸化鉄粉末のコスト比が比較例2の10分の5以下である物を○、汚染物質除去率%と磁性酸化鉄粉末のコスト比のどちらかが満足した物を△、両方が基準に満たない物を×とした。
【0033】
【表1】

【0034】
以上の実験例等からも明らかなように、上述した本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の製造方法及び該製造方法により得られる磁性酸化鉄粉末は、次のような利点がある。本発明によれば、従来の乾式法(マグネタイト鉱を粉砕して得る方法)や、湿式法(鉄を塩酸等の酸で溶解した溶液にアルカリを添加して水酸化鉄を生成させた後に、溶液を酸化させてマグネタイトを生成し、生成したマグネタイトを乾燥・焼結した後に粉砕する方法)や、上述した特開平7−6912号公報(特許文献1)において問題のあった、原材料コスト、設備コスト及び電力コストを低減するとともに、所定の平均粒径、平均粒径を有する磁性酸化鉄粉末を安価に効率よく製造することができる。また、得られた磁性酸化鉄粉末は、船舶のバラスト水の廃水処理を例とする汚水の凝集磁気分離水処理に好適に使用することができる。
【0035】
すなわち、該磁性酸化鉄粉末は、凝集磁気分離方式によりバラスト水を処理する水処理方法に適している。該水処理方法は、磁性酸化鉄粉末及び凝集剤をバラスト水に添加する工程と、磁性酸化鉄粉末及び凝集剤を添加後のバラスト水を攪拌する工程と、攪拌後の液体から磁性を有する塊を磁力により取り除く工程とを有する。該磁性酸化鉄粉末を用いた水処理方法は、水処理システム全体として、低コストであるとともに、該水処理に適した磁性酸化鉄粉末を用いることにより、適切な排水処理を実現する。
【0036】
次に、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の製造方法により得られた磁性酸化鉄粉末の形状及び特性について図2及び図3を用いて説明する。まず、図2には、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末(D50=4.7μm)の粒子径と粒度分布との関係を、線分L1に示す。図2中、横軸は、粒子径(μm)を示し、縦軸は、粒度分布(体積%)を示す。また、図2には、本発明(線分L1)と比較するため、湿式造粒(D50=1.8μm)を線分L2に示し、マグネタイト鉱粉砕(D50=4.2μm)を線分L3に示す。図2に示すように、湿式造粒の例(L2)では、粒度分布が、本発明とは異なっている。すなわち、湿式造粒の場合には、得られる粉末は0.1〜2.0μm程度の範囲であるとともに、粒径が大きくなる程コスト高となる。
【0037】
図3は、図2の各磁性酸化鉄粉末の粉末形状を示す図である。図3(a)は、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(b)は、湿式造粒で得られた磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(c)は、マグネタイト鉱粉砕により得られた磁性酸化鉄粉末の5000倍に拡大した図である。(d)は、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の1000倍に拡大した図である。(e)は、湿式造粒で得られた磁性酸化鉄粉末の15000倍に拡大した図である。(f)は、マグネタイト鉱粉砕により得られた磁性酸化鉄粉末の1000倍に拡大した図である。
【0038】
図3(b)及び図3(e)に示すように、湿式造粒の場合には、球形状や直方体形状に近い形状であり、しかも粒も小さい。図3(c)及び図3(f)に示すように、マグネタイト鉱粉砕の場合には、粒度分布で大きく見える粒子は、「塊状」である。これに対し、図3(a)及び図3(d)に示すように、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の場合には、大きく見える粒子は、「扁平形状」である。さらに、具体的には、曲面状とされた扁平形状であり、これは、ショット表面に形成され、これが砕けることにより得られる磁性酸化鉄固有の形状である。ここで、粉末の形状は、浮遊性能に影響を与える。扁平形状とされた図3(a)の磁性酸化鉄粉末と、塊状とされた図3(c)の磁性酸化鉄粉末とは、同じ粒度分布であるが、水中での浮遊性能が異なる。すなわち、本発明の磁性酸化鉄粉末(図3(a))は、沈みにくいため凝集性能が高い。
【0039】
次に、実際の浮遊性能の確認試験の方法と結果を説明する。この確認試験では、水中での磁性酸化鉄の浮遊性能の違いを調べた。内径Φ80mmで高さ180mmの蓋付きガラス容器に、水を800ml入れる。次に、このガラス容器に、磁性酸化鉄粉末を2.5g入れる。ここでは、図3(a)の磁性酸化鉄粉末(D50:4.7μm)又は図3(c)の磁性酸化鉄粉末(マグネタイト鉱粉砕、D50:4.2μm)を入れるものとする。図3(b)は、粒度分布が大きく異なるため、浮遊性能を同じ試験で調べることは難しいが、後述の結果から浮遊性能は低いことが予想されるし、また、湿式造粒で、図3(a)で得られる粉末と同じ程度まで粒径を大きくすることは、現状ではできない。次に、ガラス容器全体を80rpmで10分間攪拌する。攪拌終了後、30秒間静置し、ガラス容器の底から20mm以上の溶液をサイフォン管を用いて排水する。残った溶液を乾燥して沈殿物の重量を測定した結果を、表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末の場合は、比較例であるマグネタイト鉱粉砕の場合よりも沈殿量が少なく、すなわち、浮遊性能が高いことが示されている。ここで、少なくとも沈殿物が1.1g未満であれば、従来よりも浮遊性能が高い。また、沈殿物が0.7g以下であれば、その浮遊性能により、少なくとも上述の表1で確認したのと同様の汚染物質除去率を有する。
【0042】
本発明によれば、凝集磁気分離に適した磁性酸化鉄粉末を簡素な構成及び低コストで得ることを実現する。また、本発明を適用した磁性酸化鉄粉末は、浮遊性能が高いので、水処理時に水中に磁性酸化鉄粉末を均一に分布させることができるとともに、小さい攪拌力で、水中に浮遊させることができる。これにより、凝集磁気分離方式による水処理を低コストで適正に行うことを実現する。
【符号の説明】
【0043】
S1 噴霧造粒工程
S2 乾燥工程
S3 焼き入れ工程
S4 焼き戻し工程



【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程と、造粒された粒を乾燥する工程と、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程と、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程とにより金属粒を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得る磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項2】
前記噴霧造粒する工程において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程とにより磁性酸化鉄粉末を得る請求項1記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥する工程において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程により磁性酸化鉄粉末を得る請求項2記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項4】
前記焼き入れする工程において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程とにより磁性酸化鉄粉末を得る請求項3記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項5】
前記焼き戻しする工程において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程により磁性酸化鉄粉末を得る請求項4記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項6】
溶解した鉄系の金属溶湯を水アトマイズ法で噴霧造粒する際に発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得る磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項7】
得られる磁性酸化鉄粉末の平均粒径が1〜10μmである請求項1乃至請求項6の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項8】
得られる磁性酸化鉄粉末には、扁平形状のものが含まれる請求項1乃至請求項6の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項9】
得られる磁性酸化鉄粉末は、2.5gの該磁性酸化鉄粉末を800mlの水に入れ、10分間攪拌し、攪拌終了後に30秒間経過した後に、底から20mmの溶液を取り除き、残った溶液を乾燥して沈殿物を得たときに、該沈殿物の重量が0.7g以下である請求項1乃至請求項6の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項10】
溶解された鉄系の金属溶湯を冷却水により噴霧造粒する工程と、造粒された粒を乾燥する工程と、乾燥された粒を冷却水により焼き入れする工程と、焼き入れされた粒を焼き戻しする工程とにより金属粒を得る際の少なくとも一の工程で発生する磁性酸化鉄粉末を集めることにより得られた磁性酸化鉄粉末。
【請求項11】
前記噴霧造粒する工程において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程とにより得られた請求項10記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項12】
前記乾燥する工程において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程により得られた請求項11記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項13】
前記焼き入れする工程において発生する磁性酸化鉄粉末を含む排水を集める工程と、該排水中の磁性酸化鉄粉末を粉砕する工程により得られた請求項12記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項14】
前記焼き戻しする工程において発生する磁性酸化鉄粉末を集塵機により集める工程により得られた請求項13記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項15】
溶解した鉄系の金属溶湯を水アトマイズ法で噴霧造粒する際に発生する磁性酸化鉄粉末を集めて得られた磁性酸化鉄粉末。
【請求項16】
平均粒径が1〜10μmである請求項10乃至請求項15の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項17】
当該磁性酸化鉄粉末には、扁平形状のものが含まれる請求項10乃至請求項15の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項18】
2.5gの当該磁性酸化鉄粉末を800mlの水に入れ、10分間攪拌し、攪拌終了後に30秒間経過した後に、底から20mmの溶液を取り除き、残った溶液を乾燥して沈殿物を得たときに、該沈殿物の重量が0.7g以下である請求項10乃至請求項15の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末。
【請求項19】
請求項1乃至請求項9の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末の製造方法により製造された磁性酸化鉄粉末、若しくは請求項10乃至請求項18の内いずれか1項に記載の磁性酸化鉄粉末を少なくとも用い、凝集磁気分離方式によりバラスト水を処理する水処理方法。
【請求項20】
前記磁性酸化鉄粉末及び凝集剤をバラスト水に添加する工程と、
前記磁性酸化鉄粉末及び凝集剤を添加後のバラスト水を攪拌する工程と、
攪拌後の液体から磁性を有する塊を磁力により取り除く工程とを有する請求項19記載の水処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224483(P2012−224483A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90818(P2011−90818)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】