磁束集中化装置
【課題】2T以上の超高磁場においても、磁束の拡散を抑えて、磁束を遠方まで維持可能とし、また、磁束を局部に集中可能とすることのできる新しい技術手段を提供する。
【解決手段】 少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置とする。
【解決手段】 少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体を用いた磁束集中化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴断層診断装置(MRI)をはじめとする医療機器と産業用機器等における磁場の利用の進展にともなって、磁場の制御の高度化への要請が高まっている。このような磁場制御の高度化は、超伝導マグネットの実用化と超高磁場の実現とともに、さらに重要な課題となっている。
【0003】
たとえば、MRI等における高均一磁場を形成するための手段として、磁石と超伝導体からなる軸方向にスリットを有する円筒とを備え、磁石の軸とこの円筒の軸とを平行となるようにすることで、円筒内部に円筒軸方向に強度可変の均一平行磁場を発生するようにした強度可変均一平行磁場発生装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この装置においては、円筒型磁石の内側に、前記の超伝導円筒体を配置する形態(たとえば図1、図5を参照)とともに、円筒型磁石の外側に同軸となるように超伝導円筒体を配置する形態(たとえば図6参照)等において、超伝導円筒体に、磁束の拡散を抑えた均一平行磁場の形成を可能としている。
【0005】
一方、以上のような均一平行磁場の形成とは異なって、磁束の拡散を抑えて、磁束を遠方まで維持し、あるいは磁束を局部的に集中可能とすることも重要な技術的課題になっている。このような課題に対しては、従来では、鉄等の強磁性体を用いて磁気回路を形成する手法が一般的に採用されてきている。
【0006】
しかしながら、このような従来の手法では、近年特に重要となっている2T(テスラ)以上の高磁場に対しては効果的でないことが明らかになってきている。このため、超高磁場を利用するためにも、磁束の拡散を抑えて、これを遠方まで維持可能とすることも、磁束を局部に集中可能とするための、新しい磁場制御手段として、実現が望まれていた。
【特許文献1】特許第3184678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のとおりの背景から、たとえば2T以上の超高磁場においても、磁束の拡散を抑えて、磁束を遠方まで維持可能とし、また、磁束を局部に集中可能とすることのできる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の特徴を有する磁束集中化装置を提供する。
【0009】
第1:少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置。
【0010】
第2:磁束誘導部材の形状が、筒状または中空円錐状であることを特徴とする上記第1の磁束集中化装置。
【0011】
第3:磁束誘導部材は、スリット部もしくは絶縁部が設けられ磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていることを特徴とする上記第2の磁束集中化装置。
【0012】
第4:スリット部の外表面に、絶縁シートおよびシート状超伝導体が貼付されていることを特徴とする上記第2または3の磁束集中化装置。
【0013】
第5:磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を隙間無く螺旋状に巻いて形成されていることを特徴とする上記第2ないし4のいずれかの磁束集中化装置。
【0014】
第6:磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を少なくとも1本含むテープ状超伝導体を隙間無く貼付して形成されていることを特徴とする上記第2ないし4のいずれかの磁束集中化装置。
【0015】
第7:磁束誘導部材は、筒状または中空円錐状で両端が開口されており、内部空間の断面積がより大きな開口に近い位置で、磁束誘導部材の外側もしくは内側に磁束発生源が配置されていることを特徴とする上記第2ないし6のいずれかの磁束集中化装置。
【0016】
第8:磁束誘導部材は、形状が筒状であって、磁束発生源の形成する磁場の中心が内部空間に含まれるよう配置され、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積は前記磁束発生源から両端部に離れるに従って各々漸減部を有していることを特徴とする上記第2ないし6のいずれかの磁束集中化装置。
【0017】
第9:磁束誘導部材の形状が筒状または中空円錐状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が同軸となるよう配置されていることを特徴とする上記第2ないし8のいずれかの磁束集中化装置。
【0018】
第10:磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていることを特徴とする上記第2ないし8のいずれかの磁束集中化装置。
【0019】
第11:磁束誘導部材の形状が、筒状体または中空円錐状体を任意の縦断面で切断した形状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、導入方向とは異なる方向の内空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする上記第1の磁束集中化装置。
【0020】
第12:磁束誘導部材の形状が、樋状であることを特徴とする上記第11の磁束集中化装置。
【0021】
第13:磁束誘導部材が、漸減部よりも先に内部空間を有していることを特徴とする上記第1ないし第13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【0022】
第14:磁束誘導部材が、軸に対称な形状であることを特徴とする上記第1ないし第13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【発明の効果】
【0023】
前記のとおりの本発明の磁束集中化装置によれば、磁束誘導部材の内部空間断面積の漸減にともなって、超伝導体からなる磁束誘導部材には、磁束誘導部材の表面に対して垂直な成分の磁場を遮蔽(制御)するように電流が流れ、結果として、磁束が磁束誘導部材の内表面に対して平行な成分のみとなる。これにより、磁束の拡散を抑えて、その内部空間が収束する内部空間断面積の最小側に磁束を集束することができる。
【0024】
また、本発明の磁束集中化装置によれば、磁束発生源と磁束誘導部材との配置関係や、該磁束誘導部材の形状等の、多様な構造の変更に伴い、例えば進行方向の変更など、磁束収束の多様な形態の実現も可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の磁束集中化装置では、前記のとおり、
<A>少なくとも磁束発生源と内部空間を有する磁束誘導部材とが備えられ、これらは、磁束発生源から発生される磁束が内部空間に導入されるような位置に配置されていること、
<B>前記磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、その内空間面積が前記磁束発生源から離れるに連れ漸減する漸減部を有すること、
<C>前記磁束誘導部材は、前記磁束の回りを周回する電流が生じないようにしてあること、
を必須の構成とするものである。
【0026】
ここで、磁束誘導部材は超伝導体からなり完全反磁性を示すため、その内表面に対して垂直な磁束成分を遮蔽(制御)するように電流(マイスナー電流)が流れる。その結果として、磁束が磁束誘導部材の内表面に対して平行な成分のみとなることで、前記構成<B>における断面積の漸減にともなう磁束の集中化を可能としている。
【0027】
また、前記構成<C>によって、磁束誘導部材の表面に対して平行な磁束成分が遮蔽(制御)されることがないようにしている。
【0028】
たとえば、図1は、本発明の磁束集中化装置の代表的な一実施形態を模式的に示した斜視図である。この図1の場合、磁束発生源1は磁石であり、磁束誘導部材2は超伝導体をもって構成されている。
【0029】
本発明において、磁束発生源1としては、磁束を発生できるものであれば特に制限されず、超伝導マグネット及び常伝導マグネット等からなる電磁石、永久磁石などの各種のものから、所望の磁場を得るのに適したものを用いることができる。
【0030】
この磁束発生源1については、単数であっても良いし、複数のものから構成されていても良い。磁束発生源1が複数のものから構成される場合には、各々を磁束発生源1と考えても良いし、それらの磁束発生源が発生する磁束密度の最も大きい点を磁場中心として、この磁場中心を磁束発生源1と見なしても良い。
【0031】
磁束誘導部材2を構成する超伝導体の素材、組成についても特に限定されるものではなく、前記の特徴を有する磁束誘導部材2を構成できるものであれば公知の各種の超伝導体を用いることができる。図1では、中空円錐状のシート状超伝導体からなる磁束誘導部材2を例示しているが、磁束誘導部材2はこのような例に限られることはない。例えば、超伝導体としては、平面上に抵抗なく電流が流れるものとして、NbTi合金/Cu多層材、薄膜系超伝導体等であってよく、さらには、図5に例示したように、超伝導物質が網目状や格子状に形成されたものや、平面の一部に空隙、欠陥等が存在したものでもよく、いずれも同様の効果が期待される。
【0032】
磁束誘導部材2については、前記のとおり、磁束が導入され誘導される内部空間を有しており、この内部空間は磁束の誘導方向に垂直な断面積の漸減が必要とされる。この点において、最も本質的に、均一平行磁場の形成を図ろうとする従来公知の技術(特許文献1)等とは相違している。この公知技術においては、磁束の集中化については何ら示唆することがない。また、磁束収束の多様な形態についても同様である。
【0033】
内部空間の断面積の漸減、すなわち断面径または断面長が漸減する構成については、たとえば図1に示した漸減部の長さ(L)、最大内径(長)(D)、最小内径(長)(d)、さらには磁束発生源1の種類と配置、磁場中心からの距離(図中では、最大内径(長)部である下方開口2Aとの距離(l)を示す)等との関係から、所要の磁束集中度および磁束誘導方向とするための選択と設計が行われてよい。
【0034】
磁束誘導部材2の厚みについても特段の制限はなく、コスト面や、使用環境における下部臨界磁場、臨界電流密度などの値を考慮して決定することができる。
【0035】
このような磁束誘導部材2としての形状としては、筒状体(図10)または中空円錐状体(図1、図13、図14、図16)、漏斗状体(図6、図7)、つぼ状体(図8)など多様な各種の形状を例示することができ、また、これらを任意の縦断面で切断したり切欠いた、例えば樋のような形状(図15)とすることもできる。
【0036】
内部空間の漸減については、例えば図1、図10、図13、図14、図18などに例示されているように漸減の割合が一定であっても、図6〜8に例示されたように様々に変化していても差し支えない。
【0037】
なお、例えば図15に例示されているように、磁束誘導部材2が筒状体または中空円錐状体を任意の断面で切断したような形状の場合、内部空間についてもこの断面で切断された形状と考えることができる。この場合は切断された部分から磁束が拡散されるため、図14の場合に比較して磁束の集中化の効率は低下してしまう。
【0038】
なお、この内部空間に関して、本発明において「空間」とは、固体物質が何も存在しないことを意味するのではなく、磁束の進行に何らの影響をあたえない場として理解することが出来る。すなわち、例えば優れた透磁性を有する物質が充填されていても、本願発明では「空間」とすることが出来る。このような優れた透磁性を有する物質としては、例えば、弱磁性物質を考慮することができ、具体的には、銅、アルミニウムなどを例示することができる。また、おおよその目安として、磁化率χがχ<±1×10-5emu/gの物質などを考慮することができる。
【0039】
また、磁束誘導部材や内部空間の形状を表現するために用いた「円錐」状、「筒」状とは、幾何学的に厳密に「円錐」および「円筒」を示すものではなく、磁束誘導部材とその内部空間の形状の特徴からこれらをより分かりやすく表現する文言として用いている。従って、例えば図1、図13、図14に示した磁束誘導部材の形状は、厳密には、略中空円錐台形状と表現すべきであるが「中空円錐状体」のように表現している。
【0040】
そして、磁束誘導部材2を超伝導状態とするために適宜冷却手段(図示せず)等が用いられて良いことは言うまでもない。また、磁束の集中化を行う際には、磁束発生源1の発生する磁場が、磁束誘導部材2が例えば第1種超伝導体からなる場合にはその臨界磁場Hcを、第2種超伝導体からなる場合にはその臨界磁場Hc2を超えてはならない。
【0041】
なお、磁束誘導部材2において、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とするには、図1の円錐形の磁束誘導部材2を例にして説明すると、例えば軸(Z軸)に沿って、スリット2Cを設けることで実現することができる。スリット2Cを設ける場合は、磁束の周りを周回する電流が生じない限り、その幅の下限に制限はない。その他、スリット2Cを絶縁部等で代替することなどでも実現できる。このスリット2Cについても同様の観点から、さらには磁束誘導部材2の形成上の観点も加味して、その幅や配設される個数や位置が選択されてよい。図1の例においては、90°の平面角度間隔を置いて配置しているがこれに限られることはない。スリットに代えて絶縁体を用いる場合も同様である。
【0042】
図1の例では、スリット2Cを入れることで磁束のZ軸方向の成分に対する遮蔽電流を抑制したが、一方で、スリット2Cからの磁束の漏洩を抑えるために、スリット2C外表面に磁束誘導部材としての役割を果たす超伝導体をさらに配置するとより一層効果的である。
【0043】
つまり図1のような円錐形の磁束誘導部材2の場合、Z軸を周回する電流を抑制する方法としては、図4に例示したように、
(a)バルク状超伝導体からなる磁束誘導部材2にZ軸方向にスリット2Cを入れる、
(b)そのスリットの上(外表面)に絶縁シート2Dおよび超伝導体片2Eを重ね、漏洩磁束を低減する、または、
(c)テープ状超伝導体2FをZ軸方向にオーバーラップしながら配列(テープの少なくとも1本は他のテープと絶縁)する、
(d)絶縁したテープ状超伝導体2Gを隙間ができないように螺旋状に巻く(両端はオープン)、
等の各種の形態を考慮することができる。
【0044】
さらに、本発明においては、図9に示したように、たとえば絶縁したテープ状の超伝導体を用いて螺旋状に巻く等により、磁束誘導部材2の超伝導体が磁束発生源1を兼ねるようにすることもできる。
【0045】
磁束発生源1と磁束誘導部材2の配置については、磁束集中効率や集中位置を所望のものとするための選択と設計が行われてよい。例えば、<1>磁束発生源1から発生される磁場の向きと、磁束誘導部材2の軸とを同軸にすることができる。この場合には、磁束はその軸上で、内部空間に導入され、誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束されることになる。すなわち、磁束の導入方向=磁束の誘導方向である。一方で、<2>磁束発生源1から発生される磁場の向きと、磁束誘導部材2の軸とを異なるよう配置することもできる。この場合、内部空間に導入された磁束は、漸減部入口において導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。すなわち、磁束の導入方向≠磁束の誘導方向である。ここで、<2>の場合は、磁束誘導部材2の設計により、磁束の誘導方向とは異なる任意の方向に磁束を誘導することが可能となる。
【0046】
この図1の例示は上記<1>の場合であって、磁束発生源1と磁束誘導部材2とは、例えば、実質的に、設計上許容される誤差の範囲内で、図中のZ軸において同軸上に配置されている。またこの磁束誘導部材2は略中空円錐状であって、この中空部分が、磁束発生源1より発生される磁束が導入されて誘導される内部空間となっており、磁束の誘導方向(Z軸)に垂直な内部空間の断面積が磁束発生源1から離れるにつれて漸減する漸減部を有している。磁束誘導部材2は超伝導状態にあるため、内部空間に磁束が導入されると磁束誘導部材2の内表面に対して垂直な成分の磁束を遮蔽(抑制)するように電流が流れ、結果として磁束が、磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなる。そして内部空間の断面積の漸減、換言すれば内部空間の収束にともなって、上方開口2Bに向かって、磁束発生源1からの磁束の拡散が抑えられてその集中化が図られる。
【0047】
そして、このことを効果的とするために、磁束誘導部材2には、例えば軸(Z軸)に沿って、スリット2Cが設けられている。このスリット2Cは、磁束誘導部材2において、内表面に対して平行な成分の磁束を遮蔽(抑制)する電流、すなわち磁束の周りを周回する方向の電流が生じないようにするための構成である。
【0048】
また、磁束誘導部材2の内部空間と磁束の集中については、たとえば、磁石1およびその磁場中心が磁束誘導部材2の外部にある場合には、図6(a)(b)に示したように、磁石1側の下方開口2AのZ軸に直交する断面の面積S2が、上方開口2Bに向って漸減し、その断面積S1と、S1<S2の関係にあれば、上方開口2Bに向って磁束の濃縮、集中化の効果が得られる。
【0049】
さらに、図7にも示したように(a)磁石1が磁束誘導部材2の外部にある場合だけでなく、(d)磁石1が磁束誘導部材2の内部にあるようにしてもよい。後者(b)の場合には、図8(a)に示したように、開口断面積はS1<S2の関係にある必要はなく、また図8(b)のように、開口を一つとすることも可能である。
【0050】
加えて、図11、図18、図19に例示したように、磁束誘導部材2の外周方向に磁石1が配置される場合などには、磁束誘導部材2の中心付近に磁場中心が位置するため、磁束誘導部材2の内空間の断面積は、例えば中心部が最も小さく、端部に向かうにしたがって大きくすることができる。これらの場合、磁束誘導部材が、漸減部の内部空間断面積の最小部よりも先に内部空間を有しており、最小部よりも先に内部空間がない場合に比べて、磁束の拡散を抑制してより磁束を集中させることができる。
【0051】
一方で、上記<2>の磁束発生源1から発生される磁束の向きと、磁束誘導部材2の磁束の誘導方向とが異なる場合については、例えば、図13および図14により説明される。図13および図14において、図中の上方に向かう矢印は磁束の進行方向を示しており、磁束発生源1から発生された磁束が磁束誘導部材2の内部空間に図中下方から上方に導入されている。図13では、内部空間の漸減部の最大径部断面と最小径部断面とが相互に変心した位置に存在する例である。図14は、漸減部の最大径部断面と最小径部断面とが同心状に存在するものではあるが、その中心軸は、導入される磁束に対して傾斜して配置されている例である。この場合においても、磁束誘導部材2は超伝導状態にあるため、内部空間に磁束が導入されると磁束誘導部材2の内表面に対して垂直な成分の磁束を遮蔽(抑制)するように電流が流れ、結果として磁束が、磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなる。ここで、磁束誘導部材2における内部空間の断面積の漸減の方向は、磁束の導入方向とは異なるため、磁束は内表面に平行な成分になるとともに導入方向とは異なる方向に誘導され、上部開口に向かって磁束発生源1からの磁束の拡散が抑えられてその集中化が図られる。このように、磁束の向きと、磁束の誘導方向とが異なる場合には、磁束は、漸減部において内部空間に導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。
【0052】
磁束の向きを変えるという観点からは、例えば図15に示したように、磁束誘導部材2は筒状または中空円錐状に限定されることなく、例えば、これらを任意の縦断面で切断したような形状であってよい。図15は、図14に示した磁束誘導部材を中心軸で切断除去した樋状の形状の場合を例示している。このような樋状の場合、開放された部分がスリットの役目も兼ねて周方向での電流の発生を抑制するため、スリット等を設ける必要はない。そして、内部空間に磁束が導入されると、磁束は漸減部において磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなり、内部空間に導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。磁束誘導部材が筒状または中空円錐状を任意の縦断面で切断したような形状である場合は、磁束の集中効率が低下することが考慮されるものの、スペースに制約がある場合でも磁束誘導部材2を設置できる可能性が高まること、また、磁束誘導部材2の開放部側から磁束密度の高い場所にアクセス(操作、計測など)しやすいこと等の利点がある。
【0053】
さらに、磁束の向きを変える場合に、磁束誘導部材2の漸減部以外を利用することもできる。というのは、例えば、磁束誘導部材2において内部空間断面積に漸減のない管状の部分を設け、この管状の部分を例えば160°曲げて磁束が160°曲がるよう誘導した場合、管状内部で磁束密度がほぼ保存されることが計算で予測されている。曲げ角が180°以上であっても同様の結果が得られると考えられる。したがって、磁束誘導部材2の内部空間に、断面積の漸減のない管状部と漸減部とを適宜組み合わせることなどでも、磁束の向きを変え、さらにその磁束の濃縮を図ることが可能とされる。
【0054】
なお、磁束誘導部材の内表面への磁束の導入角度についても考慮することができる。図19は、円筒内部を円錐形状にくりぬいて漸減部とし、内径部に若干の高さがある形状の磁束誘導部材に、図上方から磁場を印加した場合の磁束線の分布を示した断面模式図である。図から分かるように、磁束の誘導方向には、磁束誘導部材の内表面に対する磁束の入射角が大きく影響し、磁束の入射角が鋭角か鈍角かで磁束の誘導される方向が決まることがわかる。これは漸減部の断面形状が曲面の場合でも同様である。
【0055】
以上のように、本発明では、磁束集中効果を発揮しつつ、磁束の進行方向を強制的に変更することも可能とされる。本発明においては、磁束を所要の磁束集中効率および収束位置で収束させるために、磁束発生源1と磁束誘導部材2との配置および磁束の導入および誘導方向等の選択と設計が行われてよい。
【0056】
さらに、磁束誘導部材2の内部空間の形態については、磁束の集中化の様子に様々な影響を与えるため、所望の磁束の収束形態に応じて磁束誘導部材2の内部空間の形態を適切に設計することができる。
【0057】
例えば、図20(a)に示すような断面形状で、漸減部よりも先に大きく内部空間を有する磁束誘導部材2と、その下半分がない磁束誘導部材2とに磁束を導入した場合の、磁束誘導部材2の中心軸上の磁束密度の分布を(b)に示した。下半分がない場合(片側)は、磁束誘導部材の端部(軸方向位置0mm)よりも上の部分で磁束密度が収束し、磁束密度の減少が生じている。漸減部よりも先に大きく内部空間を有する場合(両側)は、そのような磁束の減少が抑制され、軸方向位置0mmで磁束密度がさらに高められるのがわかる。なお、この図20(a)に示したように、磁束誘導部材2の形状を軸方向に対称とすることで、磁束誘導部材と磁束発生源の間に生じる電磁力を抑制することが可能となる。
【0058】
また、図20(c)は、(a)の磁束誘導部材の内径部の高さ20mmを6mmに変化させたものである。赤道面(軸方向位置0mm)の磁束密度を比較すると、内径部の高さが小さい場合(c)は、磁束密度が最も高くなる磁束誘導部材の内表面近傍の磁束密度が21T以上と高いものの、磁場の径方向の磁束密度分布は極めて不均一となる。一方、内径部の高さが大きい場合(a)は、内表面近傍の磁束密度は若干低くなるものの、中心部の磁束密度分布はより均一となることがわかる。このように、ほぼ似た形状の磁束誘導部材であっても磁束密度の分布は異なってくるため、用途によって磁束誘導部材の内部空間を設計することができる。
【0059】
たとえば以上のように例示説明される本発明の磁束集中化装置については、これを医療用、産業用等の用途に応じて機器全体の構成の一部として組入れてもよい。また、装置としての形態については、磁束誘導部材2とともに、磁束発生源1についても、様々な形態のバリエーションと、配置の態様があってよい。すなわち、本発明の磁束集中化装置においては、磁場を使用する各種装置の部材配置の自由度を高めることが期待でき、その用途により適合した構成配置が可能とされる。
【実施例】
【0060】
<実施例1>
表1および表2に、図1における磁束発生源1と円錐形の磁束誘導部材2についての諸元を例示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
このような図1の例について、磁束誘導部材2を構成する超伝導体を電気抵抗零の完全導体と仮定して有限要素法により数値解析し、Z軸に沿った磁束密度の分布を計算した結果を図2に示した。比較のために示した磁石のみの場合(超伝導体無)、さらには、スリット2Cのない場合に比べても、本発明では、遠距離まで磁束が保存されていることがわかる。
【0064】
また、図3は、磁束誘導部材2の先端(Z=100mm)でのZ軸方向成分の磁束密度の分布を示したものである。スリット2Cを通して磁束が漏れているが、強い磁束密度が円錐形の磁束誘導部材2内に集中していることがわかる。
<実施例2>
(1)超伝導体部の作製
磁束誘導部材2は、新日本製鐵(株)製の円筒形状のGd−Ba−Cu−O系バルク超伝導体を2個用いて作製した。まず、それぞれの円筒形状のバルク超伝導体について、中空部分を円錐面状にくり抜いて断面積を漸減させ、さらに円筒軸面で縦方向に2分割してスリット2Cを設けるよう加工した。図10にバルク超伝導体の加工仕様の(a)上面図、(b)断面図と、加工後の図面(c)(d)を示した。また、その仕様と仕上がり寸法を表3に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
そして本実施例における磁束誘導部材2は、この2組のバルク超伝導体を、図11に示したように、同軸上で底部同士を対面させるように組み合わせて用いた。なおこの磁束誘導部材2は、本来一体的に製作する方が合理的であるが、素材の入手性、加工性を考慮して上記のように2組のパーツを組み合わせるようにした。
【0067】
本実施例では図10(b)における円錐面のなす断面角度θを約20°としている。
(2)磁束誘導部材の組み立て
作製した2組の超伝導バルク体からなる磁束誘導部材2を用いて、磁束集中化装置を組み立てた。図11に磁束誘導部材2の(a)上面と(b)縦断面の模式図を示した。
【0068】
まず、図10(a)のバルク超伝導体は、スリット2C部に、断面の三角形状にカットしたガラス繊維強化複合材料(GFRP)製のスペーサ(厚さ0.3mm)と厚さ調節用のカプトンテープを挟んで周方向に電流が流れないように電気絶縁を行うとともに、外径が29mmとなるように調整して真円性を確保した。このバルク超伝導体2組の間に断面のドーナツ形状にカットしたGFRP製のスペーサ(厚さ0.3mm)を挟み、同軸上で底部同士を対面させ、開口部が外側になるように配置した。このように2組を軸方向で対称に配置することで、軸方向の磁束の対称性の向上と、外部磁場によって磁束集中化装置に作用する電磁力の抑制が可能となる。なお、間に挟み込んだドーナツ形状のスペーサは本来必要なく、磁束の漏洩を生じる欠点があるが、2組のバルク超伝導体間で電位差が生じる可能性があることから、最低減の厚さのスペーサを挟んだ。
【0069】
また、径方向にも電磁力が作用するため、組み合わせたバルク超伝導体をSUS304のパイプ(内径30mm、外径34mm)中に挿入した。隙間には、カプトンテープを貼って厚さを約0.4mmに調整したGFRPを挟み、固定およびバルク超伝導体−パイプ間の電気絶縁を行った。なお、スリット2C部も磁束の漏洩が生じる。そのため、この箇所については、上記のGFRPではなく、テープ状の超伝導体であるSuperPower社のY−Ba−Cu−O線材(幅4mm、厚さ約0.1mm)の両側にカプトンテープを貼り電気絶縁したものを配置して、磁束漏洩の低減を図った。
【0070】
そして、実施例においては、磁束密度計測用ホール素子(F.W.Bell製BH921)の計測部が超伝導体の磁束誘導部材2の中心に一致するように配置するとともに、SUS304のパイプの中にエポキシ樹脂(ニトフィックス)を含浸し、全体を一体化した。
(3) 磁束集中化の検証
磁石1としては、市販の超伝導磁石(ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー製JSD−18T52)を用いた。製作した磁束誘導部材2を、図12に示したように挿入用SUS304パイプに取り付け、磁束密度計測用ホール素子および磁束誘導部材2の中心が磁場中心に一致するように磁石1の内側に設置し、磁束集中化装置とした。磁束誘導部材2の漸増減部を構成する超伝導体は、超伝導磁石1ごと液体ヘリウムで冷却され超伝導状態となる。なお、磁束誘導部材2の底部に取り付けた抵抗温度計(Lake Shore製Cernox Resister CX−1050−AA−4L)は、測定中4.22〜4.23 Kの温度を示していた。
【0071】
超伝導磁石1で外部磁場を形成し、その磁場を変化させたときの、磁束誘導部材2中心部の磁場を調べ、その結果を表4に示した。超伝導磁石1の磁場は、各磁場で30分以上の保持時間を設けながら、0、1、1.5、2、0Tの順に変化させた。
【0072】
なお、表中の(1)超伝導磁石の電流値は、励磁電源からの電圧(300A/10V)をデジタルボルトメーター(KEITHLEY 2000 MULTIMETER)で計測し、電流に換算した。(2)超伝導磁石により形成した外部磁場は、18 T/265.64 Aであることから比例計算して算出した。(3)ホール素子電圧は、100mAを通電し、電圧をデジタルボルトメーター(KEITHLEY 2182 NANOVOLTMETER)で計測した値とした。(4)中心部磁場は、ホール素子電圧から0.730mV/0.1Tとして換算した。
【0073】
【表4】
【0074】
中心部磁場と外部磁場の比(濃縮比)は、外部磁場が約1Tの場合で3を超えるものであった。保持時間および外部磁場の増加によって濃縮比が減少する傾向が見られるが、この出願の発明の磁束集中化装置により、磁束が濃縮、集中化が実現できることが実証された。
(4) 磁束集中化のシミュレーション
本願の磁束集中化装置の磁束集中に関するコンピュータシミュレーションについて検討した。
【0075】
超伝導体からなる磁束誘導部材の解析結果で問題となるのは、円周方向の電流をどう扱うかという点である。例えば、バルク超伝導体の中空円筒に一様な外部磁場を加えた場合、比透磁率を零に近い値(1×10-100とするが、実際には1×10-4でも問題はない)として定常問題として取り扱うと、磁束が円筒内部に入り若干の磁束濃縮効果が得られるという結果になる。しかし、実際の実験では、円筒内部の磁束を保存するように周方向に電流が流れて、中空円筒内部に磁束が入らないため、このようなシミュレーション結果は正しくない。
【0076】
そこで、実験結果を模擬するために、中空円筒の導電率を1×10100 S/mとし外部磁場を0から1Tに変化させた直後の磁束分布を過渡応答解析から求めると、中空円筒内部に磁束が入らないという、実験結果に即したシミュレーション結果が得られる。
【0077】
そこで更に、上記実験に関連して、4種類の条件で磁束集中化効果についてコンピュータシミュレーションした例を図21に示した。解析条件は、磁束誘導部材にスリット(2個としたのは対称性を利用して計算を単純化するため)がある場合とない場合、磁束誘導部材をほぼ完全導体(1×10100 S/m)として過渡応答解析する場合と磁束誘導部材を反磁性(比透磁率1×10-4)として定常解析する場合の4種類とした。なお、過渡応答解析には、OPERA-3D Ver. 11に含まれるELEKTRA-TRを使用し、定常解析にはOPERA-3D Ver. 11に含まれるTOSKAを使用した。
【0078】
超伝導体が完全導体でスリットがないとした場合は、周方向電流のため磁束が磁束誘導部材の内部に侵入しておらず、中心部の磁束密度はほぼ零となった。完全導体でスリットがある場合と反磁性でスリットがある場合は、多少の値の違いはあるものの、ほぼ同じ結果が得られた。反磁性でスリットがない場合に中心での磁束密度が最も高くなる結果が得られたが、これは厚さ無限小のスリットにより周方向に電流が流れない理想的な場合を示した結果であると考えることができる。
【0079】
以上のことから、本発明の磁束集中化装置の磁束集中化についてコンピュータシミュレーションする場合には、周方向電流の流れない上記3通りの条件で計算することで、良好な結果が得られることがわかった。
<実施例3>
磁束発生源としての磁石と中空円錐状の超伝導体からなる磁束誘導部材より構成される磁束集中化装置の断面外略図を図16に示した。磁束発生源Aは、その軸(軸a)が磁束発生源の発生する磁束の軸と同軸上に配置されている。また、磁束誘導部材Bは、軸aから45°傾斜した軸bの方向に配置されている。表5および表6に、磁石と円錐形の磁束誘導部材についての諸元を示した。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
なお、磁束誘導部材には、スリット(図示せず)が設けられていて、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされている。
【0083】
磁束誘導部材を構成する超伝導体を反磁性(比透磁率1×10-4)でスリット無限小と仮定して数値解析し、軸aおよび軸bに沿った磁束密度の分布を計算した結果を図17に示した。
【0084】
磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置した磁束集中化装置の場合、磁束誘導部材の軸a上で、漸減部の内部空間断面積の最小部部分で、磁束が局所的に収束されることがわかった。
【0085】
また、磁束誘導部材を磁石と異なる軸上に配置した磁束集中化装置の場合にも、磁束が、磁束誘導部材の軸b上で、漸減部の内部空間断面積の最小部部分で局所的に収束されることがわかった。
【0086】
このことから、磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置することで、高効率で磁束の集中化を実現することができることがわかった。
【0087】
また、磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置しなくても、磁束を磁束誘導部材に導入すれば、磁束は漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることがわかった。
<実施例4>
磁束誘導部材の形状を図18に示したように実施例2に類似したものとし、その内径、外径、高さを変化させた場合の磁束の増幅率を計算し、併せて図18に示した。なお、磁束の増幅率は、外部磁場に対する磁束誘導部材の中心Aにおける磁束密度の比と定義した。
【0088】
Aにおける磁束密度は、磁束誘導部材が反磁性でスリットがない(スリット無限小)場合として定常解析を行い求めた。有限要素法の計算でスリットを入れるとメッシュの作成が非常に難しくなるため、このパラメータサーベイでは反磁性でスリットがないと仮定した。
【0089】
図中の黒塗り四角は、磁束誘導部材の外径を80mm、高さを126mmに固定して、内径を変化させた場合の増幅率を示したものである。また、内径と外径の比が0.5の場合については、外径を40mmに、さらに高さを63mmに変化させた場合についても計算し、それぞれ丸、三角の記号で示した。
【0090】
その結果、増幅率は、磁束誘導部材の外径と内径の比に大きく依存することがわかった。また、内径と外径の比が同じであれば、磁束誘導部材の大きさにより結果に大きな違いは見られないことがわかった。
<実施例5>
図22の(a)に示した中空円錐形状の磁束誘導部材を、一様な外部磁場1Tの中に、軸を磁場の方向に対して30°時計回りに回転させて配置させた場合の、磁束の様子を計算して(b)に示した。計算を簡便化するため、超伝導体は反磁性で無限小のスリットがあると仮定した。
【0091】
また、樋型の磁束誘導部材を模擬するため、(a)の中空円錐を90°、180°切り欠いた樋型の磁束誘導部材についても計算し、その結果をそれぞれ(c)(d)に示した。
【0092】
何れもX−Z平面に対称なため片側だけの計算結果を示した。樋型の磁束誘導部材については、その磁束の集中化の値は小さくなっているものの、磁束集中の効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明装置の一例として円錐形の磁束誘導部材を備えた場合の模式図である。
【図2】図1の場合についてZ軸方向での距離による磁束密度の関係を例示した図である。
【図3】図1の場合についてZ=100mmでの、上方開口2Bでの磁束密度の分布を例示した図である。
【図4】Z軸を周回する電流の抑制方法について例示した図である。
【図5】磁束誘導部材の超伝導体構成例について示した図である。
【図6】磁束誘導部材の形態について例示した図である。
【図7】磁束誘導部材と磁石との関係について示した図である。
【図8】磁石が磁束誘導部材の内側にある別の例を示した図である。
【図9】磁束誘導部材超伝導体が磁石を兼ねる例を示した図である。
【図10】バルク超伝導体の加工仕様の(a)上面図、(b)断面図と、加工後の写真(c)(d)の一例を示した図である。
【図11】磁束誘導部材の構成の一例を示した(a)上面と(b)縦断面の模式図である。
【図12】磁束集中化装置における磁束誘導部材と超伝導体磁石の配置の一例を示した図である。
【図13】磁束誘導部材の筒状漸増減部の別形状の例を示す縦断正面模式図である。
【図14】磁束誘導部材の筒状漸増減部の別形状の例を示す縦断正面模式図である。
【図15】磁束誘導部材の樋状漸増減部の例を示す模式図である。
【図16】本発明装置における磁束誘導部材A,Bと磁束発生源との配置関係を例示した断面模式図である。
【図17】図16の場合について軸a,b方向での距離による磁束密度の関係を例示した図である。
【図18】磁束集中化装置における磁束誘導部材の形状と導入磁束との関係の一例と、その場合の磁束の集中化の関係を示した図である。
【図19】磁束誘導部材の表面近傍での磁束線を例示した図である。
【図20】(a)(b)(c)は磁束誘導部材の形状による磁束密度分布の違いについて例示した図である。
【図21】本発明に関する磁束集中化のコンピュータシミュレーションの計算手法について説明した図である。
【図22】(a)は中空円錐形状の磁束誘導部材の形状を、(b)〜(d)はそれぞれ中空円錐形状の磁束誘導部材と、これを90°、180°切り欠いた樋型の磁束誘導部材について、磁束の集中化の様子を計算した結果を例示した図である。
【符号の説明】
【0094】
1 磁束発生源
2 磁束誘導部材
2A 下方開口
2B 上方開口
2C スリット
2D 絶縁シート
2E 超伝導体片
2F テープ状超伝導体
2G テープ状超伝導体
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体を用いた磁束集中化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴断層診断装置(MRI)をはじめとする医療機器と産業用機器等における磁場の利用の進展にともなって、磁場の制御の高度化への要請が高まっている。このような磁場制御の高度化は、超伝導マグネットの実用化と超高磁場の実現とともに、さらに重要な課題となっている。
【0003】
たとえば、MRI等における高均一磁場を形成するための手段として、磁石と超伝導体からなる軸方向にスリットを有する円筒とを備え、磁石の軸とこの円筒の軸とを平行となるようにすることで、円筒内部に円筒軸方向に強度可変の均一平行磁場を発生するようにした強度可変均一平行磁場発生装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この装置においては、円筒型磁石の内側に、前記の超伝導円筒体を配置する形態(たとえば図1、図5を参照)とともに、円筒型磁石の外側に同軸となるように超伝導円筒体を配置する形態(たとえば図6参照)等において、超伝導円筒体に、磁束の拡散を抑えた均一平行磁場の形成を可能としている。
【0005】
一方、以上のような均一平行磁場の形成とは異なって、磁束の拡散を抑えて、磁束を遠方まで維持し、あるいは磁束を局部的に集中可能とすることも重要な技術的課題になっている。このような課題に対しては、従来では、鉄等の強磁性体を用いて磁気回路を形成する手法が一般的に採用されてきている。
【0006】
しかしながら、このような従来の手法では、近年特に重要となっている2T(テスラ)以上の高磁場に対しては効果的でないことが明らかになってきている。このため、超高磁場を利用するためにも、磁束の拡散を抑えて、これを遠方まで維持可能とすることも、磁束を局部に集中可能とするための、新しい磁場制御手段として、実現が望まれていた。
【特許文献1】特許第3184678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のとおりの背景から、たとえば2T以上の超高磁場においても、磁束の拡散を抑えて、磁束を遠方まで維持可能とし、また、磁束を局部に集中可能とすることのできる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の特徴を有する磁束集中化装置を提供する。
【0009】
第1:少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置。
【0010】
第2:磁束誘導部材の形状が、筒状または中空円錐状であることを特徴とする上記第1の磁束集中化装置。
【0011】
第3:磁束誘導部材は、スリット部もしくは絶縁部が設けられ磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていることを特徴とする上記第2の磁束集中化装置。
【0012】
第4:スリット部の外表面に、絶縁シートおよびシート状超伝導体が貼付されていることを特徴とする上記第2または3の磁束集中化装置。
【0013】
第5:磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を隙間無く螺旋状に巻いて形成されていることを特徴とする上記第2ないし4のいずれかの磁束集中化装置。
【0014】
第6:磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を少なくとも1本含むテープ状超伝導体を隙間無く貼付して形成されていることを特徴とする上記第2ないし4のいずれかの磁束集中化装置。
【0015】
第7:磁束誘導部材は、筒状または中空円錐状で両端が開口されており、内部空間の断面積がより大きな開口に近い位置で、磁束誘導部材の外側もしくは内側に磁束発生源が配置されていることを特徴とする上記第2ないし6のいずれかの磁束集中化装置。
【0016】
第8:磁束誘導部材は、形状が筒状であって、磁束発生源の形成する磁場の中心が内部空間に含まれるよう配置され、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積は前記磁束発生源から両端部に離れるに従って各々漸減部を有していることを特徴とする上記第2ないし6のいずれかの磁束集中化装置。
【0017】
第9:磁束誘導部材の形状が筒状または中空円錐状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が同軸となるよう配置されていることを特徴とする上記第2ないし8のいずれかの磁束集中化装置。
【0018】
第10:磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていることを特徴とする上記第2ないし8のいずれかの磁束集中化装置。
【0019】
第11:磁束誘導部材の形状が、筒状体または中空円錐状体を任意の縦断面で切断した形状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていて、磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、導入方向とは異なる方向の内空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする上記第1の磁束集中化装置。
【0020】
第12:磁束誘導部材の形状が、樋状であることを特徴とする上記第11の磁束集中化装置。
【0021】
第13:磁束誘導部材が、漸減部よりも先に内部空間を有していることを特徴とする上記第1ないし第13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【0022】
第14:磁束誘導部材が、軸に対称な形状であることを特徴とする上記第1ないし第13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【発明の効果】
【0023】
前記のとおりの本発明の磁束集中化装置によれば、磁束誘導部材の内部空間断面積の漸減にともなって、超伝導体からなる磁束誘導部材には、磁束誘導部材の表面に対して垂直な成分の磁場を遮蔽(制御)するように電流が流れ、結果として、磁束が磁束誘導部材の内表面に対して平行な成分のみとなる。これにより、磁束の拡散を抑えて、その内部空間が収束する内部空間断面積の最小側に磁束を集束することができる。
【0024】
また、本発明の磁束集中化装置によれば、磁束発生源と磁束誘導部材との配置関係や、該磁束誘導部材の形状等の、多様な構造の変更に伴い、例えば進行方向の変更など、磁束収束の多様な形態の実現も可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の磁束集中化装置では、前記のとおり、
<A>少なくとも磁束発生源と内部空間を有する磁束誘導部材とが備えられ、これらは、磁束発生源から発生される磁束が内部空間に導入されるような位置に配置されていること、
<B>前記磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、その内空間面積が前記磁束発生源から離れるに連れ漸減する漸減部を有すること、
<C>前記磁束誘導部材は、前記磁束の回りを周回する電流が生じないようにしてあること、
を必須の構成とするものである。
【0026】
ここで、磁束誘導部材は超伝導体からなり完全反磁性を示すため、その内表面に対して垂直な磁束成分を遮蔽(制御)するように電流(マイスナー電流)が流れる。その結果として、磁束が磁束誘導部材の内表面に対して平行な成分のみとなることで、前記構成<B>における断面積の漸減にともなう磁束の集中化を可能としている。
【0027】
また、前記構成<C>によって、磁束誘導部材の表面に対して平行な磁束成分が遮蔽(制御)されることがないようにしている。
【0028】
たとえば、図1は、本発明の磁束集中化装置の代表的な一実施形態を模式的に示した斜視図である。この図1の場合、磁束発生源1は磁石であり、磁束誘導部材2は超伝導体をもって構成されている。
【0029】
本発明において、磁束発生源1としては、磁束を発生できるものであれば特に制限されず、超伝導マグネット及び常伝導マグネット等からなる電磁石、永久磁石などの各種のものから、所望の磁場を得るのに適したものを用いることができる。
【0030】
この磁束発生源1については、単数であっても良いし、複数のものから構成されていても良い。磁束発生源1が複数のものから構成される場合には、各々を磁束発生源1と考えても良いし、それらの磁束発生源が発生する磁束密度の最も大きい点を磁場中心として、この磁場中心を磁束発生源1と見なしても良い。
【0031】
磁束誘導部材2を構成する超伝導体の素材、組成についても特に限定されるものではなく、前記の特徴を有する磁束誘導部材2を構成できるものであれば公知の各種の超伝導体を用いることができる。図1では、中空円錐状のシート状超伝導体からなる磁束誘導部材2を例示しているが、磁束誘導部材2はこのような例に限られることはない。例えば、超伝導体としては、平面上に抵抗なく電流が流れるものとして、NbTi合金/Cu多層材、薄膜系超伝導体等であってよく、さらには、図5に例示したように、超伝導物質が網目状や格子状に形成されたものや、平面の一部に空隙、欠陥等が存在したものでもよく、いずれも同様の効果が期待される。
【0032】
磁束誘導部材2については、前記のとおり、磁束が導入され誘導される内部空間を有しており、この内部空間は磁束の誘導方向に垂直な断面積の漸減が必要とされる。この点において、最も本質的に、均一平行磁場の形成を図ろうとする従来公知の技術(特許文献1)等とは相違している。この公知技術においては、磁束の集中化については何ら示唆することがない。また、磁束収束の多様な形態についても同様である。
【0033】
内部空間の断面積の漸減、すなわち断面径または断面長が漸減する構成については、たとえば図1に示した漸減部の長さ(L)、最大内径(長)(D)、最小内径(長)(d)、さらには磁束発生源1の種類と配置、磁場中心からの距離(図中では、最大内径(長)部である下方開口2Aとの距離(l)を示す)等との関係から、所要の磁束集中度および磁束誘導方向とするための選択と設計が行われてよい。
【0034】
磁束誘導部材2の厚みについても特段の制限はなく、コスト面や、使用環境における下部臨界磁場、臨界電流密度などの値を考慮して決定することができる。
【0035】
このような磁束誘導部材2としての形状としては、筒状体(図10)または中空円錐状体(図1、図13、図14、図16)、漏斗状体(図6、図7)、つぼ状体(図8)など多様な各種の形状を例示することができ、また、これらを任意の縦断面で切断したり切欠いた、例えば樋のような形状(図15)とすることもできる。
【0036】
内部空間の漸減については、例えば図1、図10、図13、図14、図18などに例示されているように漸減の割合が一定であっても、図6〜8に例示されたように様々に変化していても差し支えない。
【0037】
なお、例えば図15に例示されているように、磁束誘導部材2が筒状体または中空円錐状体を任意の断面で切断したような形状の場合、内部空間についてもこの断面で切断された形状と考えることができる。この場合は切断された部分から磁束が拡散されるため、図14の場合に比較して磁束の集中化の効率は低下してしまう。
【0038】
なお、この内部空間に関して、本発明において「空間」とは、固体物質が何も存在しないことを意味するのではなく、磁束の進行に何らの影響をあたえない場として理解することが出来る。すなわち、例えば優れた透磁性を有する物質が充填されていても、本願発明では「空間」とすることが出来る。このような優れた透磁性を有する物質としては、例えば、弱磁性物質を考慮することができ、具体的には、銅、アルミニウムなどを例示することができる。また、おおよその目安として、磁化率χがχ<±1×10-5emu/gの物質などを考慮することができる。
【0039】
また、磁束誘導部材や内部空間の形状を表現するために用いた「円錐」状、「筒」状とは、幾何学的に厳密に「円錐」および「円筒」を示すものではなく、磁束誘導部材とその内部空間の形状の特徴からこれらをより分かりやすく表現する文言として用いている。従って、例えば図1、図13、図14に示した磁束誘導部材の形状は、厳密には、略中空円錐台形状と表現すべきであるが「中空円錐状体」のように表現している。
【0040】
そして、磁束誘導部材2を超伝導状態とするために適宜冷却手段(図示せず)等が用いられて良いことは言うまでもない。また、磁束の集中化を行う際には、磁束発生源1の発生する磁場が、磁束誘導部材2が例えば第1種超伝導体からなる場合にはその臨界磁場Hcを、第2種超伝導体からなる場合にはその臨界磁場Hc2を超えてはならない。
【0041】
なお、磁束誘導部材2において、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とするには、図1の円錐形の磁束誘導部材2を例にして説明すると、例えば軸(Z軸)に沿って、スリット2Cを設けることで実現することができる。スリット2Cを設ける場合は、磁束の周りを周回する電流が生じない限り、その幅の下限に制限はない。その他、スリット2Cを絶縁部等で代替することなどでも実現できる。このスリット2Cについても同様の観点から、さらには磁束誘導部材2の形成上の観点も加味して、その幅や配設される個数や位置が選択されてよい。図1の例においては、90°の平面角度間隔を置いて配置しているがこれに限られることはない。スリットに代えて絶縁体を用いる場合も同様である。
【0042】
図1の例では、スリット2Cを入れることで磁束のZ軸方向の成分に対する遮蔽電流を抑制したが、一方で、スリット2Cからの磁束の漏洩を抑えるために、スリット2C外表面に磁束誘導部材としての役割を果たす超伝導体をさらに配置するとより一層効果的である。
【0043】
つまり図1のような円錐形の磁束誘導部材2の場合、Z軸を周回する電流を抑制する方法としては、図4に例示したように、
(a)バルク状超伝導体からなる磁束誘導部材2にZ軸方向にスリット2Cを入れる、
(b)そのスリットの上(外表面)に絶縁シート2Dおよび超伝導体片2Eを重ね、漏洩磁束を低減する、または、
(c)テープ状超伝導体2FをZ軸方向にオーバーラップしながら配列(テープの少なくとも1本は他のテープと絶縁)する、
(d)絶縁したテープ状超伝導体2Gを隙間ができないように螺旋状に巻く(両端はオープン)、
等の各種の形態を考慮することができる。
【0044】
さらに、本発明においては、図9に示したように、たとえば絶縁したテープ状の超伝導体を用いて螺旋状に巻く等により、磁束誘導部材2の超伝導体が磁束発生源1を兼ねるようにすることもできる。
【0045】
磁束発生源1と磁束誘導部材2の配置については、磁束集中効率や集中位置を所望のものとするための選択と設計が行われてよい。例えば、<1>磁束発生源1から発生される磁場の向きと、磁束誘導部材2の軸とを同軸にすることができる。この場合には、磁束はその軸上で、内部空間に導入され、誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束されることになる。すなわち、磁束の導入方向=磁束の誘導方向である。一方で、<2>磁束発生源1から発生される磁場の向きと、磁束誘導部材2の軸とを異なるよう配置することもできる。この場合、内部空間に導入された磁束は、漸減部入口において導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。すなわち、磁束の導入方向≠磁束の誘導方向である。ここで、<2>の場合は、磁束誘導部材2の設計により、磁束の誘導方向とは異なる任意の方向に磁束を誘導することが可能となる。
【0046】
この図1の例示は上記<1>の場合であって、磁束発生源1と磁束誘導部材2とは、例えば、実質的に、設計上許容される誤差の範囲内で、図中のZ軸において同軸上に配置されている。またこの磁束誘導部材2は略中空円錐状であって、この中空部分が、磁束発生源1より発生される磁束が導入されて誘導される内部空間となっており、磁束の誘導方向(Z軸)に垂直な内部空間の断面積が磁束発生源1から離れるにつれて漸減する漸減部を有している。磁束誘導部材2は超伝導状態にあるため、内部空間に磁束が導入されると磁束誘導部材2の内表面に対して垂直な成分の磁束を遮蔽(抑制)するように電流が流れ、結果として磁束が、磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなる。そして内部空間の断面積の漸減、換言すれば内部空間の収束にともなって、上方開口2Bに向かって、磁束発生源1からの磁束の拡散が抑えられてその集中化が図られる。
【0047】
そして、このことを効果的とするために、磁束誘導部材2には、例えば軸(Z軸)に沿って、スリット2Cが設けられている。このスリット2Cは、磁束誘導部材2において、内表面に対して平行な成分の磁束を遮蔽(抑制)する電流、すなわち磁束の周りを周回する方向の電流が生じないようにするための構成である。
【0048】
また、磁束誘導部材2の内部空間と磁束の集中については、たとえば、磁石1およびその磁場中心が磁束誘導部材2の外部にある場合には、図6(a)(b)に示したように、磁石1側の下方開口2AのZ軸に直交する断面の面積S2が、上方開口2Bに向って漸減し、その断面積S1と、S1<S2の関係にあれば、上方開口2Bに向って磁束の濃縮、集中化の効果が得られる。
【0049】
さらに、図7にも示したように(a)磁石1が磁束誘導部材2の外部にある場合だけでなく、(d)磁石1が磁束誘導部材2の内部にあるようにしてもよい。後者(b)の場合には、図8(a)に示したように、開口断面積はS1<S2の関係にある必要はなく、また図8(b)のように、開口を一つとすることも可能である。
【0050】
加えて、図11、図18、図19に例示したように、磁束誘導部材2の外周方向に磁石1が配置される場合などには、磁束誘導部材2の中心付近に磁場中心が位置するため、磁束誘導部材2の内空間の断面積は、例えば中心部が最も小さく、端部に向かうにしたがって大きくすることができる。これらの場合、磁束誘導部材が、漸減部の内部空間断面積の最小部よりも先に内部空間を有しており、最小部よりも先に内部空間がない場合に比べて、磁束の拡散を抑制してより磁束を集中させることができる。
【0051】
一方で、上記<2>の磁束発生源1から発生される磁束の向きと、磁束誘導部材2の磁束の誘導方向とが異なる場合については、例えば、図13および図14により説明される。図13および図14において、図中の上方に向かう矢印は磁束の進行方向を示しており、磁束発生源1から発生された磁束が磁束誘導部材2の内部空間に図中下方から上方に導入されている。図13では、内部空間の漸減部の最大径部断面と最小径部断面とが相互に変心した位置に存在する例である。図14は、漸減部の最大径部断面と最小径部断面とが同心状に存在するものではあるが、その中心軸は、導入される磁束に対して傾斜して配置されている例である。この場合においても、磁束誘導部材2は超伝導状態にあるため、内部空間に磁束が導入されると磁束誘導部材2の内表面に対して垂直な成分の磁束を遮蔽(抑制)するように電流が流れ、結果として磁束が、磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなる。ここで、磁束誘導部材2における内部空間の断面積の漸減の方向は、磁束の導入方向とは異なるため、磁束は内表面に平行な成分になるとともに導入方向とは異なる方向に誘導され、上部開口に向かって磁束発生源1からの磁束の拡散が抑えられてその集中化が図られる。このように、磁束の向きと、磁束の誘導方向とが異なる場合には、磁束は、漸減部において内部空間に導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。
【0052】
磁束の向きを変えるという観点からは、例えば図15に示したように、磁束誘導部材2は筒状または中空円錐状に限定されることなく、例えば、これらを任意の縦断面で切断したような形状であってよい。図15は、図14に示した磁束誘導部材を中心軸で切断除去した樋状の形状の場合を例示している。このような樋状の場合、開放された部分がスリットの役目も兼ねて周方向での電流の発生を抑制するため、スリット等を設ける必要はない。そして、内部空間に磁束が導入されると、磁束は漸減部において磁束誘導部材2の内表面に対して平行な成分のみとなり、内部空間に導入された方向とは異なる方向に誘導されて、漸減部の断面積の最小部近傍で局所的に収束される。磁束誘導部材が筒状または中空円錐状を任意の縦断面で切断したような形状である場合は、磁束の集中効率が低下することが考慮されるものの、スペースに制約がある場合でも磁束誘導部材2を設置できる可能性が高まること、また、磁束誘導部材2の開放部側から磁束密度の高い場所にアクセス(操作、計測など)しやすいこと等の利点がある。
【0053】
さらに、磁束の向きを変える場合に、磁束誘導部材2の漸減部以外を利用することもできる。というのは、例えば、磁束誘導部材2において内部空間断面積に漸減のない管状の部分を設け、この管状の部分を例えば160°曲げて磁束が160°曲がるよう誘導した場合、管状内部で磁束密度がほぼ保存されることが計算で予測されている。曲げ角が180°以上であっても同様の結果が得られると考えられる。したがって、磁束誘導部材2の内部空間に、断面積の漸減のない管状部と漸減部とを適宜組み合わせることなどでも、磁束の向きを変え、さらにその磁束の濃縮を図ることが可能とされる。
【0054】
なお、磁束誘導部材の内表面への磁束の導入角度についても考慮することができる。図19は、円筒内部を円錐形状にくりぬいて漸減部とし、内径部に若干の高さがある形状の磁束誘導部材に、図上方から磁場を印加した場合の磁束線の分布を示した断面模式図である。図から分かるように、磁束の誘導方向には、磁束誘導部材の内表面に対する磁束の入射角が大きく影響し、磁束の入射角が鋭角か鈍角かで磁束の誘導される方向が決まることがわかる。これは漸減部の断面形状が曲面の場合でも同様である。
【0055】
以上のように、本発明では、磁束集中効果を発揮しつつ、磁束の進行方向を強制的に変更することも可能とされる。本発明においては、磁束を所要の磁束集中効率および収束位置で収束させるために、磁束発生源1と磁束誘導部材2との配置および磁束の導入および誘導方向等の選択と設計が行われてよい。
【0056】
さらに、磁束誘導部材2の内部空間の形態については、磁束の集中化の様子に様々な影響を与えるため、所望の磁束の収束形態に応じて磁束誘導部材2の内部空間の形態を適切に設計することができる。
【0057】
例えば、図20(a)に示すような断面形状で、漸減部よりも先に大きく内部空間を有する磁束誘導部材2と、その下半分がない磁束誘導部材2とに磁束を導入した場合の、磁束誘導部材2の中心軸上の磁束密度の分布を(b)に示した。下半分がない場合(片側)は、磁束誘導部材の端部(軸方向位置0mm)よりも上の部分で磁束密度が収束し、磁束密度の減少が生じている。漸減部よりも先に大きく内部空間を有する場合(両側)は、そのような磁束の減少が抑制され、軸方向位置0mmで磁束密度がさらに高められるのがわかる。なお、この図20(a)に示したように、磁束誘導部材2の形状を軸方向に対称とすることで、磁束誘導部材と磁束発生源の間に生じる電磁力を抑制することが可能となる。
【0058】
また、図20(c)は、(a)の磁束誘導部材の内径部の高さ20mmを6mmに変化させたものである。赤道面(軸方向位置0mm)の磁束密度を比較すると、内径部の高さが小さい場合(c)は、磁束密度が最も高くなる磁束誘導部材の内表面近傍の磁束密度が21T以上と高いものの、磁場の径方向の磁束密度分布は極めて不均一となる。一方、内径部の高さが大きい場合(a)は、内表面近傍の磁束密度は若干低くなるものの、中心部の磁束密度分布はより均一となることがわかる。このように、ほぼ似た形状の磁束誘導部材であっても磁束密度の分布は異なってくるため、用途によって磁束誘導部材の内部空間を設計することができる。
【0059】
たとえば以上のように例示説明される本発明の磁束集中化装置については、これを医療用、産業用等の用途に応じて機器全体の構成の一部として組入れてもよい。また、装置としての形態については、磁束誘導部材2とともに、磁束発生源1についても、様々な形態のバリエーションと、配置の態様があってよい。すなわち、本発明の磁束集中化装置においては、磁場を使用する各種装置の部材配置の自由度を高めることが期待でき、その用途により適合した構成配置が可能とされる。
【実施例】
【0060】
<実施例1>
表1および表2に、図1における磁束発生源1と円錐形の磁束誘導部材2についての諸元を例示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
このような図1の例について、磁束誘導部材2を構成する超伝導体を電気抵抗零の完全導体と仮定して有限要素法により数値解析し、Z軸に沿った磁束密度の分布を計算した結果を図2に示した。比較のために示した磁石のみの場合(超伝導体無)、さらには、スリット2Cのない場合に比べても、本発明では、遠距離まで磁束が保存されていることがわかる。
【0064】
また、図3は、磁束誘導部材2の先端(Z=100mm)でのZ軸方向成分の磁束密度の分布を示したものである。スリット2Cを通して磁束が漏れているが、強い磁束密度が円錐形の磁束誘導部材2内に集中していることがわかる。
<実施例2>
(1)超伝導体部の作製
磁束誘導部材2は、新日本製鐵(株)製の円筒形状のGd−Ba−Cu−O系バルク超伝導体を2個用いて作製した。まず、それぞれの円筒形状のバルク超伝導体について、中空部分を円錐面状にくり抜いて断面積を漸減させ、さらに円筒軸面で縦方向に2分割してスリット2Cを設けるよう加工した。図10にバルク超伝導体の加工仕様の(a)上面図、(b)断面図と、加工後の図面(c)(d)を示した。また、その仕様と仕上がり寸法を表3に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
そして本実施例における磁束誘導部材2は、この2組のバルク超伝導体を、図11に示したように、同軸上で底部同士を対面させるように組み合わせて用いた。なおこの磁束誘導部材2は、本来一体的に製作する方が合理的であるが、素材の入手性、加工性を考慮して上記のように2組のパーツを組み合わせるようにした。
【0067】
本実施例では図10(b)における円錐面のなす断面角度θを約20°としている。
(2)磁束誘導部材の組み立て
作製した2組の超伝導バルク体からなる磁束誘導部材2を用いて、磁束集中化装置を組み立てた。図11に磁束誘導部材2の(a)上面と(b)縦断面の模式図を示した。
【0068】
まず、図10(a)のバルク超伝導体は、スリット2C部に、断面の三角形状にカットしたガラス繊維強化複合材料(GFRP)製のスペーサ(厚さ0.3mm)と厚さ調節用のカプトンテープを挟んで周方向に電流が流れないように電気絶縁を行うとともに、外径が29mmとなるように調整して真円性を確保した。このバルク超伝導体2組の間に断面のドーナツ形状にカットしたGFRP製のスペーサ(厚さ0.3mm)を挟み、同軸上で底部同士を対面させ、開口部が外側になるように配置した。このように2組を軸方向で対称に配置することで、軸方向の磁束の対称性の向上と、外部磁場によって磁束集中化装置に作用する電磁力の抑制が可能となる。なお、間に挟み込んだドーナツ形状のスペーサは本来必要なく、磁束の漏洩を生じる欠点があるが、2組のバルク超伝導体間で電位差が生じる可能性があることから、最低減の厚さのスペーサを挟んだ。
【0069】
また、径方向にも電磁力が作用するため、組み合わせたバルク超伝導体をSUS304のパイプ(内径30mm、外径34mm)中に挿入した。隙間には、カプトンテープを貼って厚さを約0.4mmに調整したGFRPを挟み、固定およびバルク超伝導体−パイプ間の電気絶縁を行った。なお、スリット2C部も磁束の漏洩が生じる。そのため、この箇所については、上記のGFRPではなく、テープ状の超伝導体であるSuperPower社のY−Ba−Cu−O線材(幅4mm、厚さ約0.1mm)の両側にカプトンテープを貼り電気絶縁したものを配置して、磁束漏洩の低減を図った。
【0070】
そして、実施例においては、磁束密度計測用ホール素子(F.W.Bell製BH921)の計測部が超伝導体の磁束誘導部材2の中心に一致するように配置するとともに、SUS304のパイプの中にエポキシ樹脂(ニトフィックス)を含浸し、全体を一体化した。
(3) 磁束集中化の検証
磁石1としては、市販の超伝導磁石(ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー製JSD−18T52)を用いた。製作した磁束誘導部材2を、図12に示したように挿入用SUS304パイプに取り付け、磁束密度計測用ホール素子および磁束誘導部材2の中心が磁場中心に一致するように磁石1の内側に設置し、磁束集中化装置とした。磁束誘導部材2の漸増減部を構成する超伝導体は、超伝導磁石1ごと液体ヘリウムで冷却され超伝導状態となる。なお、磁束誘導部材2の底部に取り付けた抵抗温度計(Lake Shore製Cernox Resister CX−1050−AA−4L)は、測定中4.22〜4.23 Kの温度を示していた。
【0071】
超伝導磁石1で外部磁場を形成し、その磁場を変化させたときの、磁束誘導部材2中心部の磁場を調べ、その結果を表4に示した。超伝導磁石1の磁場は、各磁場で30分以上の保持時間を設けながら、0、1、1.5、2、0Tの順に変化させた。
【0072】
なお、表中の(1)超伝導磁石の電流値は、励磁電源からの電圧(300A/10V)をデジタルボルトメーター(KEITHLEY 2000 MULTIMETER)で計測し、電流に換算した。(2)超伝導磁石により形成した外部磁場は、18 T/265.64 Aであることから比例計算して算出した。(3)ホール素子電圧は、100mAを通電し、電圧をデジタルボルトメーター(KEITHLEY 2182 NANOVOLTMETER)で計測した値とした。(4)中心部磁場は、ホール素子電圧から0.730mV/0.1Tとして換算した。
【0073】
【表4】
【0074】
中心部磁場と外部磁場の比(濃縮比)は、外部磁場が約1Tの場合で3を超えるものであった。保持時間および外部磁場の増加によって濃縮比が減少する傾向が見られるが、この出願の発明の磁束集中化装置により、磁束が濃縮、集中化が実現できることが実証された。
(4) 磁束集中化のシミュレーション
本願の磁束集中化装置の磁束集中に関するコンピュータシミュレーションについて検討した。
【0075】
超伝導体からなる磁束誘導部材の解析結果で問題となるのは、円周方向の電流をどう扱うかという点である。例えば、バルク超伝導体の中空円筒に一様な外部磁場を加えた場合、比透磁率を零に近い値(1×10-100とするが、実際には1×10-4でも問題はない)として定常問題として取り扱うと、磁束が円筒内部に入り若干の磁束濃縮効果が得られるという結果になる。しかし、実際の実験では、円筒内部の磁束を保存するように周方向に電流が流れて、中空円筒内部に磁束が入らないため、このようなシミュレーション結果は正しくない。
【0076】
そこで、実験結果を模擬するために、中空円筒の導電率を1×10100 S/mとし外部磁場を0から1Tに変化させた直後の磁束分布を過渡応答解析から求めると、中空円筒内部に磁束が入らないという、実験結果に即したシミュレーション結果が得られる。
【0077】
そこで更に、上記実験に関連して、4種類の条件で磁束集中化効果についてコンピュータシミュレーションした例を図21に示した。解析条件は、磁束誘導部材にスリット(2個としたのは対称性を利用して計算を単純化するため)がある場合とない場合、磁束誘導部材をほぼ完全導体(1×10100 S/m)として過渡応答解析する場合と磁束誘導部材を反磁性(比透磁率1×10-4)として定常解析する場合の4種類とした。なお、過渡応答解析には、OPERA-3D Ver. 11に含まれるELEKTRA-TRを使用し、定常解析にはOPERA-3D Ver. 11に含まれるTOSKAを使用した。
【0078】
超伝導体が完全導体でスリットがないとした場合は、周方向電流のため磁束が磁束誘導部材の内部に侵入しておらず、中心部の磁束密度はほぼ零となった。完全導体でスリットがある場合と反磁性でスリットがある場合は、多少の値の違いはあるものの、ほぼ同じ結果が得られた。反磁性でスリットがない場合に中心での磁束密度が最も高くなる結果が得られたが、これは厚さ無限小のスリットにより周方向に電流が流れない理想的な場合を示した結果であると考えることができる。
【0079】
以上のことから、本発明の磁束集中化装置の磁束集中化についてコンピュータシミュレーションする場合には、周方向電流の流れない上記3通りの条件で計算することで、良好な結果が得られることがわかった。
<実施例3>
磁束発生源としての磁石と中空円錐状の超伝導体からなる磁束誘導部材より構成される磁束集中化装置の断面外略図を図16に示した。磁束発生源Aは、その軸(軸a)が磁束発生源の発生する磁束の軸と同軸上に配置されている。また、磁束誘導部材Bは、軸aから45°傾斜した軸bの方向に配置されている。表5および表6に、磁石と円錐形の磁束誘導部材についての諸元を示した。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
なお、磁束誘導部材には、スリット(図示せず)が設けられていて、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされている。
【0083】
磁束誘導部材を構成する超伝導体を反磁性(比透磁率1×10-4)でスリット無限小と仮定して数値解析し、軸aおよび軸bに沿った磁束密度の分布を計算した結果を図17に示した。
【0084】
磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置した磁束集中化装置の場合、磁束誘導部材の軸a上で、漸減部の内部空間断面積の最小部部分で、磁束が局所的に収束されることがわかった。
【0085】
また、磁束誘導部材を磁石と異なる軸上に配置した磁束集中化装置の場合にも、磁束が、磁束誘導部材の軸b上で、漸減部の内部空間断面積の最小部部分で局所的に収束されることがわかった。
【0086】
このことから、磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置することで、高効率で磁束の集中化を実現することができることがわかった。
【0087】
また、磁束誘導部材を磁石と同一軸上に配置しなくても、磁束を磁束誘導部材に導入すれば、磁束は漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることがわかった。
<実施例4>
磁束誘導部材の形状を図18に示したように実施例2に類似したものとし、その内径、外径、高さを変化させた場合の磁束の増幅率を計算し、併せて図18に示した。なお、磁束の増幅率は、外部磁場に対する磁束誘導部材の中心Aにおける磁束密度の比と定義した。
【0088】
Aにおける磁束密度は、磁束誘導部材が反磁性でスリットがない(スリット無限小)場合として定常解析を行い求めた。有限要素法の計算でスリットを入れるとメッシュの作成が非常に難しくなるため、このパラメータサーベイでは反磁性でスリットがないと仮定した。
【0089】
図中の黒塗り四角は、磁束誘導部材の外径を80mm、高さを126mmに固定して、内径を変化させた場合の増幅率を示したものである。また、内径と外径の比が0.5の場合については、外径を40mmに、さらに高さを63mmに変化させた場合についても計算し、それぞれ丸、三角の記号で示した。
【0090】
その結果、増幅率は、磁束誘導部材の外径と内径の比に大きく依存することがわかった。また、内径と外径の比が同じであれば、磁束誘導部材の大きさにより結果に大きな違いは見られないことがわかった。
<実施例5>
図22の(a)に示した中空円錐形状の磁束誘導部材を、一様な外部磁場1Tの中に、軸を磁場の方向に対して30°時計回りに回転させて配置させた場合の、磁束の様子を計算して(b)に示した。計算を簡便化するため、超伝導体は反磁性で無限小のスリットがあると仮定した。
【0091】
また、樋型の磁束誘導部材を模擬するため、(a)の中空円錐を90°、180°切り欠いた樋型の磁束誘導部材についても計算し、その結果をそれぞれ(c)(d)に示した。
【0092】
何れもX−Z平面に対称なため片側だけの計算結果を示した。樋型の磁束誘導部材については、その磁束の集中化の値は小さくなっているものの、磁束集中の効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明装置の一例として円錐形の磁束誘導部材を備えた場合の模式図である。
【図2】図1の場合についてZ軸方向での距離による磁束密度の関係を例示した図である。
【図3】図1の場合についてZ=100mmでの、上方開口2Bでの磁束密度の分布を例示した図である。
【図4】Z軸を周回する電流の抑制方法について例示した図である。
【図5】磁束誘導部材の超伝導体構成例について示した図である。
【図6】磁束誘導部材の形態について例示した図である。
【図7】磁束誘導部材と磁石との関係について示した図である。
【図8】磁石が磁束誘導部材の内側にある別の例を示した図である。
【図9】磁束誘導部材超伝導体が磁石を兼ねる例を示した図である。
【図10】バルク超伝導体の加工仕様の(a)上面図、(b)断面図と、加工後の写真(c)(d)の一例を示した図である。
【図11】磁束誘導部材の構成の一例を示した(a)上面と(b)縦断面の模式図である。
【図12】磁束集中化装置における磁束誘導部材と超伝導体磁石の配置の一例を示した図である。
【図13】磁束誘導部材の筒状漸増減部の別形状の例を示す縦断正面模式図である。
【図14】磁束誘導部材の筒状漸増減部の別形状の例を示す縦断正面模式図である。
【図15】磁束誘導部材の樋状漸増減部の例を示す模式図である。
【図16】本発明装置における磁束誘導部材A,Bと磁束発生源との配置関係を例示した断面模式図である。
【図17】図16の場合について軸a,b方向での距離による磁束密度の関係を例示した図である。
【図18】磁束集中化装置における磁束誘導部材の形状と導入磁束との関係の一例と、その場合の磁束の集中化の関係を示した図である。
【図19】磁束誘導部材の表面近傍での磁束線を例示した図である。
【図20】(a)(b)(c)は磁束誘導部材の形状による磁束密度分布の違いについて例示した図である。
【図21】本発明に関する磁束集中化のコンピュータシミュレーションの計算手法について説明した図である。
【図22】(a)は中空円錐形状の磁束誘導部材の形状を、(b)〜(d)はそれぞれ中空円錐形状の磁束誘導部材と、これを90°、180°切り欠いた樋型の磁束誘導部材について、磁束の集中化の様子を計算した結果を例示した図である。
【符号の説明】
【0094】
1 磁束発生源
2 磁束誘導部材
2A 下方開口
2B 上方開口
2C スリット
2D 絶縁シート
2E 超伝導体片
2F テープ状超伝導体
2G テープ状超伝導体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、
磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、
磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置。
【請求項2】
磁束誘導部材の形状が、筒状または中空円錐状であることを特徴とする請求項1記載の磁束集中化装置。
【請求項3】
磁束誘導部材は、スリット部もしくは絶縁部が設けられ磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていることを特徴とする請求項2記載の磁束集中化装置。
【請求項4】
スリット部の外表面に、絶縁シートおよびシート状超伝導体が貼付されていることを特徴とする請求項3記載の磁束集中化装置。
【請求項5】
磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を隙間無く螺旋状に巻いて形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項6】
磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を少なくとも1本含むテープ状超伝導体を隙間無く貼付して形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項7】
磁束誘導部材は、筒状または中空円錐状で両端が開口されており、内部空間の断面積がより大きな開口に近い位置で、磁束誘導部材の外側もしくは内側に磁束発生源が配置されていることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項8】
磁束誘導部材は、形状が筒状であって、磁束発生源の形成する磁場の中心が内部空間に含まれるよう配置され、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積は前記磁束発生源から両端部に離れるに従って各々漸減部を有していることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項9】
磁束誘導部材の形状が筒状または中空円錐状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が同軸となるよう配置されていることを特徴とする請求項2ないし8に記載の磁束集中化装置。
【請求項10】
磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていることを特徴とする請求項2ないし8に記載の磁束集中化装置。
【請求項11】
磁束誘導部材の形状が、筒状体または中空円錐状体を任意の縦断面で切断した形状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていて、
磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、導入方向とは異なる方向の内空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする請求項1に記載の磁束集中化装置。
【請求項12】
磁束誘導部材の形状が、樋状であることを特徴とする請求項11記載の磁束集中化装置。
【請求項13】
磁束誘導部材が、漸減部よりも先に内部空間を有していることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項14】
磁束誘導部材が、軸に対称な形状であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項1】
少なくとも磁束発生源と、磁束発生源より発生される磁束が導入され誘導される内部空間を有する磁束誘導部材とを備え、
磁束誘導部材は、超伝導体で構成されると共に、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積が前記磁束発生源から離れるに従って漸減する漸減部を有し、かつ、磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていて、
磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、漸減部の内部空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする磁束集中化装置。
【請求項2】
磁束誘導部材の形状が、筒状または中空円錐状であることを特徴とする請求項1記載の磁束集中化装置。
【請求項3】
磁束誘導部材は、スリット部もしくは絶縁部が設けられ磁束の周りを周回する電流が生じない構成とされていることを特徴とする請求項2記載の磁束集中化装置。
【請求項4】
スリット部の外表面に、絶縁シートおよびシート状超伝導体が貼付されていることを特徴とする請求項3記載の磁束集中化装置。
【請求項5】
磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を隙間無く螺旋状に巻いて形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項6】
磁束誘導部材は、絶縁したテープ状超伝導体を少なくとも1本含むテープ状超伝導体を隙間無く貼付して形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項7】
磁束誘導部材は、筒状または中空円錐状で両端が開口されており、内部空間の断面積がより大きな開口に近い位置で、磁束誘導部材の外側もしくは内側に磁束発生源が配置されていることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項8】
磁束誘導部材は、形状が筒状であって、磁束発生源の形成する磁場の中心が内部空間に含まれるよう配置され、磁束の誘導方向に垂直な内部空間の断面積は前記磁束発生源から両端部に離れるに従って各々漸減部を有していることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項9】
磁束誘導部材の形状が筒状または中空円錐状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が同軸となるよう配置されていることを特徴とする請求項2ないし8に記載の磁束集中化装置。
【請求項10】
磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていることを特徴とする請求項2ないし8に記載の磁束集中化装置。
【請求項11】
磁束誘導部材の形状が、筒状体または中空円錐状体を任意の縦断面で切断した形状であって、磁束発生源と磁束誘導部材は、磁束誘導部材の軸と磁束発生源が発生する磁束の軸が異なるよう配置されていて、
磁束発生源により発生された磁束が磁束誘導部材に導入され、漸減部内を誘導されて、導入方向とは異なる方向の内空間断面積の最小部近傍で局所的に収束されることを特徴とする請求項1に記載の磁束集中化装置。
【請求項12】
磁束誘導部材の形状が、樋状であることを特徴とする請求項11記載の磁束集中化装置。
【請求項13】
磁束誘導部材が、漸減部よりも先に内部空間を有していることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【請求項14】
磁束誘導部材が、軸に対称な形状であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の磁束集中化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図17】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図17】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−135487(P2009−135487A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287163(P2008−287163)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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