説明

磁気シールド体及びその角筒体

【課題】製造誤差を吸収可能なものであって、良好な磁気遮蔽性能を得ることができる磁気シールド体とその角筒体を提供することを提供すること。
【解決手段】磁性体から形成された中空角筒形状の筒状層であって、相互に同芯状に重合される複数の筒状層13、14を備える。複数の筒状層13、14は、当該筒状層13、14の中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とする4つの磁性部材を角筒状に組み合わせて構成される。2つの筒状層13、14のいずれか一方の筒状層13における4つの磁性部材の相互の隣接位置と、2つの筒状層13、14のいずれか他方の筒状層14における4つの磁性部材の相互の隣接位置を、断面の方向において相互に重合しない位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁界を遮蔽するための磁気シールド体と、この磁気シールド体に使用される角筒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁界を遮蔽するため、磁界発生源を覆うことによって、当該磁界発生源にて形成された磁界が外部に漏洩することを防止する磁気シールドルームが提案されている。この磁気シールドルームは、例えば、医療施設で用いられるMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置を設置するための部屋(以下「MRI室」)として実用化されている。この磁気シールドルームは、概略的には、壁、天井、及び床の全部又は一部に磁性材料を埋設することで構成されており、これら壁、天井、及び床に到達した磁束を磁性材料を介して迂回させることで、磁界が外部に漏洩することを防止している。
【0003】
このような磁気シールドルームは、磁界発生源を壁、天井、及び床によって囲繞しているので、この磁気シールドルームの内部空間が密閉され、入室者に圧迫感を与える可能性がある。この点を解消するため、開放型の磁気シールド体を用いて磁気シールドルームを構成することも提案されている(例えば特許文献1参照)。この開放型の磁気シールド体は、複数の筒体を枠体にて支持することで構成されている。この構造によれば、磁気シールドルームの内部と外部とが、筒体の内部空間を介して視覚的に開放されるので、入室者に対する圧迫感を低減することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の磁気シールド体は、複数の筒体を相互に線状に接触させていたので、この接触部分に対して応力集中を生じさせる等の問題があった。この点を解消するため、本願発明者等は、複数の筒体を相互に間隔を空けて非接触状に配置して構成された磁気シールド体を提案した(特許文献2参照)。図10は従来の磁気シールドルームの平面図、図11は従来の磁気シールド体の斜視図である。これら図10、11において、磁気シールド体100は、フレーム101に形成された複数の貫通孔102に、透磁性を有する複数の角筒状の筒体103を装着して構成されている。この構造によれば、筒体103への応力負荷を低減することができると共に、磁気シールド体100の組立てや解体が容易である。
【0005】
さらに、本願発明者等は、筒体を複数に分割し、これら複数の筒体を相互に間隔を空けて配置することも提案している(特許文献3参照。ただし特許文献3は本願出願時において未公開)。この構造によれば、複数の筒体の軸方向に沿った磁気抵抗を高めることで、この軸方向に沿った主方向を持つ磁力線が、複数の筒体ユニットの隣接方向に迂回することを促進でき、軸方向への磁界漏洩を低減又は防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−13781号公報
【特許文献2】特開2008−160027号公報
【特許文献3】特願2007−299548号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、磁気シールド体を構成する筒体の性能を単体で考えると、筒体に角部を形成した場合には当該角部における磁気特性が変化して磁気抵抗が大きくなることから、角部がある直方体形状や立方体形状の如き角筒形状とするより、角部がない球体形状や円筒形状とすることが性能的に好ましい。また、筒体の製作面においても、円筒形状は角筒形状よりも製作が容易であるため好ましい。しかしながら、複数の筒体を並設した場合における磁気シールド体全体の性能を考えると、円筒形状の筒体を複数並設した場合には、筒体の相互間の隙間が増大するため好ましくない。
【0008】
このため、筒体の形状は角筒形状とすることで筒体の相互間の隙間を低減すると共に、角部に生じた磁気特性の変化を何らかの方法で補うことも考えられる。例えば、二つのコ字型部材を向かい合うように配置し、その突き合わせ部分を溶接した後、角筒体全体を熱処理炉で熱処理することで、溶接による磁気特性の劣化等を修正することが考えられる。しかしながら、このように溶接による接合を行う場合には、この接合部の磁気特性が熱によって変化するため、接合部では部材を重ね合わせて厚みを増大させることとが必要になる。このように接合部の厚みを増大させた場合には、図12に正面図として示すように、角筒体の端部のデザイン性が低下し、この端部が室内に露出する開放型の磁気シールド体を構成する上では好ましくない。さらに、厚みが0.35mm〜0.7mm程度の珪素鋼板を用いて角筒体を製作する場合、複数の筒状層を重合させて所望の磁気抵抗を得る必要があるが、このように複数の筒状層を重合させた場合には、厚みを増大させた接合部において筒状層の相互間に隙間が生じ、筒状層の相互間における磁気抵抗が増大するために好ましくない。
【0009】
また、特許文献2に記載の磁気シールド体は、具体的に製作する上での困難性があった。すなわち、フレーム部材の貫通孔に角筒体を装着する必要があり、フレーム部材と角筒体との相互間に隙間が生じた場合には磁気遮蔽性能が低減してしまうため、角筒体の外寸をフレーム部材の内寸に合致させることが好ましい。しかしながら現実的には、フレーム部材や角筒体には製造誤差が生じ得るため、フレーム部材に角筒体を密着状に収容することは困難である。このような問題を回避するためには、製造誤差を吸収するための調整代を設けることが必要となる。この調整代を設けるためには、例えば、角筒体を構成する筒状層を複数の部材に分割し、これら複数の部材をフレーム部材の内部に挿入し、挿入後にこれら複数の部材を相互に溶接等にて接続することで、角筒体を形成することも考えられる。しかし、このように磁性体を接合した場合には、当該接合部分において磁化特性が大きく変化して磁気抵抗が増えることが予想されるので、筒状層を単に分割することは好ましくない。
【0010】
このため、図13に正面図として示すように、各筒状層を4枚の平板を組み合わせて構成することで、これら平板の相互間に調整代を設けることも考えられる。また、この場合には、複数の筒状層の隣接方向に迂回する磁気抵抗を低減するため、各筒状層の角部にコーナーアングル材を設置することで磁路を構成することが考えられる。しかしながら、この構造では、各筒状層の平面部の相互間にはアングル材の板厚分の隙間が発生してしまうため、図13に示すように複数の筒状層を重合させた場合には、筒状層の相互間における磁気抵抗が増大するために好ましくない。
【0011】
さらに、この問題を解決するには図14に示すような構造が考えられる。この構造では、各筒状層を4枚の平板を組み合わせて構成する点は図13の構造と同じであるが、角部のコーナーアングル材を筒状層の内部に集約することで、筒状層の平面部の相互間における隙間を低減することが可能となる。しかしながら、角部の厚みがコーナーアングル材によって増大することから、角筒体の端部のデザイン性が低下し、この端部が室内に露出する開放型の磁気シールド体を構成する上では好ましくない。また、部品点数が増えることから、角筒体の熱処理や施工に手間を要するという問題もある。
【0012】
次に施工が容易な方法として、図15に示すような構造が考えられる。この構造では、角筒体を構成する各筒状層を断面略L字状の2つの部材を組み合わせて構成している。この構造では、角筒体の端部のデザイン性が低下することはないが、元々磁気抵抗が大きい角部の板厚が、平面部の板厚の半分になってしまう。特にMRI室の磁場ような強磁場をシールドする場合には、磁気シールド材の磁気飽和を考慮しなくてはならないので、角筒体の磁気飽和により透磁率が低下すると、角筒体の隣接方向に迂回する磁気抵抗が増大し、磁気シールド体全体の遮蔽性能を低下させてしまう。
【0013】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、1)角筒体を構成する各筒状層の角部や筒状層間の隙間によって生じる磁気抵抗を低減することで、透磁率の低下の要因となる磁気飽和が生じることを回避し、良好な磁気遮蔽性能を得ることができ、2)製造誤差を吸収可能とすることや、部品点数や施工の手間等を削減することで、コストダウンを実現でき、かつ、3)端面のデザイン性も良好とすることができる、磁気シールド体と、この磁気シールド体に使用される角筒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に係る本発明は、磁性体から形成された中空角筒形状の筒状層であって、相互に同芯状に重合される複数の筒状層を備え、前記複数の筒状層の中の少なくとも2つの筒状層の各々は、当該筒状層の中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とする4つの磁性部材を角筒状に組み合わせて構成され、前記2つの筒状層のいずれか一方の筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置と、前記2つの筒状層のいずれか他方の筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置を、前記断面の方向において相互に重合しない位置とした。
【0015】
請求項2に係る本発明は、請求項1に係る本発明において、前記複数の筒状層の各々における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置が、当該各々の筒状層に隣接する他の前記筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置に対して、前記断面の方向において相互に重合しない位置となるように、前記複数の筒状層の各々を構成した。
【0016】
請求項3に係る本発明は、請求項1又は2に係る本発明において、前記2つの筒状層の少なくとも一方を、前記断面における2つの辺の長さが相互に異なる不等辺磁性部材であって、相互に同一形状の不等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成した。
【0017】
請求項4に係る本発明は、請求項1又は2に係る本発明において、前記2つの筒状層の少なくとも一方を、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の2つの第1等辺磁性部材と、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の部材であって前記第1等辺磁性部材とは辺の長さが異なる2つの第2等辺磁性部材を、交互に組み合わせて構成した。
【0018】
請求項5に係る本発明は、請求項1から4のいずれか一項に係る本発明において、前記複数の筒状層の相互間において最も内側に配置される筒状層を、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の等辺磁性部材であって、相互に同一形状の等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成した。
【0019】
請求項6に係る本発明は、請求項1から5のいずれか一項に係る本発明において、前記磁性部材をケイ素鋼板から構成した。
【0020】
請求項7に係る本発明は、前記請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気シールド体用の角筒を複数備える磁気シールド体であって、前記複数の角筒体と、前記複数の角筒体の端面が同一面内に配置されると共に、これら複数の角筒体が相互に間隔を隔てて並設されるように、前記複数の角筒体を支持する支持手段とを備える。
【発明の効果】
【0021】
請求項1又は請求項7に係る発明によれば、複数の磁性部材を組み合わせて磁性体を構成しているので、これら複数の磁性部材の相互の間隔を、支持手段や各磁性部材の製造誤差を吸収するための調整代とすることができ、アングル材も必要としないので角部での施工の手間が省け、角筒体の製造が容易になるために、角筒体の製造や施工のコストを低減することができる。また、一部の厚みのみが増大したり、アングル材のみが内面に露出することも防止できるので、デザイン性を向上する。特に、複数の筒状層の中の少なくとも2つの筒状層のうち、いずれか一方の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置と、いずれか他方の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置を、相互に重合しない位置としたために、角筒体のいずれの位置においても磁性部材を少なくとも1層配置でき、しかも隣接位置を通常磁気抵抗が大きい角部に位置しないようにしているので、磁性体における磁気飽和が生じ難い構造となり、磁気飽和に起因する透磁率の低下による磁気遮蔽性能の局所的な低下を低減することができる。しかも、元々磁気抵抗が大きくなる角部に隣接位置を設けないのでより磁気抵抗の低減に貢献できる。
【0022】
請求項2に係る本発明は、筒状層における磁性部材の相互の隣接位置が、当該筒状層に隣接する他の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置に対して重合しないように、複数の筒状層の各々を構成したので、筒状層のいずれの隣接位置においても磁性体の磁気飽和が生じ難い構造となり、磁気飽和に起因する透磁率の低下による磁気遮蔽性能の局所的な低下を低減することができる。
【0023】
請求項3に係る本発明は、相互に同一形状の不等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成しているので、磁性部材の共通化を図ることができると共に、磁性部材の管理や角筒体の製造作業が容易になるので、角筒体の製造コストを低減できると同時に、角筒体毎に層数が異なっても容易に施工できる。
【0024】
請求項4に係る本発明は、相互に同一形状の等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成しているので、磁性部材の共通化を図ることができると共に、磁性部材の管理や角筒体の製造作業が容易になるので、角筒体の製造コストを低減できる。特に、異なる大きさのフレームに対して、少なくとも一部の磁性部材を共通化でき、磁性部材の管理や角筒体の製造作業が容易になるので、角筒体の製造コストを低減できる。
【0025】
請求項5に係る本発明は、利用者の目に触れる最も内側の角筒体の内面を、磁性部材の相互の隣接線に沿って対称な形状とすることができ、デザイン性の一層の向上を図ることができる。
【0026】
請求項6に係る本発明は、磁性部材を珪素鋼板から形成した場合には、パーマロイ等から形成する場合に比べて材料コストが安価であるため、角筒体の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係る磁気シールド体の斜視図である。
【図2】図1の角筒体の正面図である。
【図3】図1の角筒体の筒状層を構成する磁性部材の斜視図である。
【図4】実施の形態2に係る角筒体の正面図である。
【図5】実施の形態2の変形例に係る角筒体の正面図である。
【図6】実施の形態3に係る角筒体の正面図である。
【図7】実験に使用した角筒体の正面図であり、(a)は比較対象とした従来の角筒体、(b)は本発明に係る角筒体を示す。
【図8】図7の角筒体を用いて行った実験結果を示すグラフである。
【図9】実施例に係る角筒体の正面図を、当該角筒体に使用した磁性部材の構成データと共に示す図である。
【図10】従来の磁気シールドルームの平面図である。
【図11】従来の磁気シールド体の斜視図である。
【図12】コ字型部材を突き合わせて構成した角筒体の正面図である。
【図13】4枚の平板を組み合わせて構成した角筒体の正面図である。
【図14】コーナーアングル材を角筒体の内部に集約して構成した角筒体の正面図である。
【図15】断面略L字状の2つの部材を組み合わせて構成した角筒体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照して、本発明の各実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念を説明した後、〔II〕各実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念
まず各実施の形態に共通の基本的概念について説明する。各実施の形態に係る磁気シールド体は、磁界発生源の周囲に配置されることで、この磁界発生源にて発生された磁界の全部又は一部が当該磁気シールド体を介して外部に漏洩することを防止するものである。磁界発生源は任意であり、MRI装置、永久磁石、電磁コイルを含む。磁気シールドルームは、その壁、天井、又は床に磁気シールド体を配置することによって構成されるが、これら壁等の全面に磁気シールド体を配置する構造以外に、これら壁等の一部のみに磁気シールド体を配置する構造を含む。ただし、このような全体構造は、特許文献2や特許文献3と同様であるため、その説明を省略する。
【0030】
磁気シールド体は、特許文献2や特許文献3と同様に、支持手段であるフレームに形成された複数の貫通孔に、透磁性を有する複数の角筒体を装着して構成される。このような構成において、各実施の形態の基本的特徴の一つは、各角筒体を、中空角筒形状のフレームと、このフレームの内部に配置される磁性体とから構成し、磁性体は、フレームと同芯状に重合される複数の筒状層を備えている。そして、複数の筒状層の中の少なくとも2つの筒状層の各々は、前記フレームの中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とする4つの磁性部材を角筒状に組み合わせて構成され、2つの筒状層のいずれか一方の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置と、2つの筒状層のいずれか他方の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置を、断面の方向において相互に重合しない位置とした点にある。このように、各筒状層に関しては、4つの磁性部材を組み合わせて構成することで、製造誤差を吸収可能とする。また、一方の筒状層の磁性部材の相互の隣接位置と、他方の筒状層の磁性部材の相互の隣接位置とを、相互に重合しない位置とすることで、隣接位置で磁化特性が大きく変化しても、当該変化が生じた部分を一方の筒状層と他方の筒状層の異なる箇所に配置することで、当該変化の影響を低減して良好な磁気遮蔽性能を得ることができる。
【0031】
〔II〕各実施の形態の具体的内容
次に、各実施の形態の具体的内容について説明する。
【0032】
〔実施の形態1〕
最初に、実施の形態1に係る磁気シールド体及びその角筒体の具体的内容について説明する。図1は本実施の形態に係る磁気シールド体の斜視図(一部の角筒体を分解斜視図として示す)、図2は図1の角筒体の正面図、図3は図1の角筒体の筒状層を構成する磁性部材の斜視図である。以下、図1のZ方向の距離を「高さ」、Y方向の距離を「幅」、X方向の距離を「奥行き」と称する。
【0033】
(構成−磁気シールド体及び角筒体)
図1に示すように、磁気シールド体1は、複数の角筒体10をフレーム11で支持して構成されている。各角筒体10は、フレーム11の内部の貫通孔に収容された磁性体12を備えて構成されている。
【0034】
(構成−フレーム)
フレーム11は、角筒体10を支持する支持手段で、中空角筒形状に形成されている。図2には、フレーム11として、1つの磁性体12に対応する部分のみを示しているが、実際には図1に示すように、複数のフレーム11が上下及び左右に並設される。これら複数のフレーム11は、別体に形成された後で並設されてもよく、あるいは一体に形成されてもよい。一体に形成する方法としては、例えば、複数の平板材を水平方向及び垂直方向に配置して相互に井桁状に組み合わせることで、各平板材の相互間にフレーム11を形成することができる。フレーム11の材料は、磁性体12よりも十分に磁気抵抗が大きく、かつ、磁性体12を支持するための所望の強度を有する限りにおいて任意であり、例えば、木材や樹脂を用いることができる。特に、フレーム11の材料として導電性材料を用いることで、電磁波遮断効果を得ることが好ましい。
【0035】
フレーム11の中心軸に直交する断面(図1のZ−Y平面であり、図2に示す面。以下、単に「断面」という場合において同じ)における、当該フレーム11の断面形状は任意であるが、ここでは高さ及び幅が等しい正方形断面とされている。
【0036】
(構成−磁性体)
磁性体12は、フレーム11の内部に形成された貫通孔に配置されるもので、第1筒状層(外筒状層)13と第2筒状層(内筒状層)14を備える。第1筒状層13は、フレーム11と同芯状に配置されるもので、このフレーム11の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。また、第2筒状層14は、第1筒状層13の内部においてフレーム11と同芯状に配置されるもので、この第1筒状層13の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。なお、図2及びそれ以降の各図においては、図示の便宜上、フレーム11、第1筒状層13、及び第2筒状層14の相互間に若干の隙間を空けているが、実際には、これらは相互に密着するように配置される。
【0037】
(構成−磁性体−第1筒状層)
ここで、第1筒状層13は、図2に示すように、4つの磁性部材13A〜13Dを角筒状に組み合わせて構成されている。これら磁性部材13A〜13Dの各々は、フレーム11の中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とするL字部材であり、フレーム11とほぼ同様の奥行きになるように形成されている。ここで「L字」とは、図3に示すように、少なくとも2つの板状部材13a、13bを相互に突き合わせ状に配置して構成されたものを意味するが、この突き合わせ部分の内角θは、直角に限定されず、例えば90度未満の角度、90度を超える角度、あるいは任意曲率の丸角を含む。また、突き合わせられる2つの板状部材13a、13bの断面の長さが、相互に不均等の場合のみならず、後述する実施の形態2のように相互に均等の場合を含む。
【0038】
ただし、本実施の形態に係る磁性部材13A〜13Dは、2つの板状部材13a、13bの断面における辺の長さが相互に不均等なL字断面になるように形成されている(以下、相対的に長い方の断面を有する板状部材を「長手部材13a」、相対的に短い方の断面を有する板状部材を「短手部材13b」と称する)。すなわち、図3に示すように、長手部材13aの断面における辺の長さをL1とし、短手部材13bの断面における辺の長さをL2とすると、L1>L2となるように磁性部材13A〜13Dが形成されている。このように、断面における2つの辺の長さが相互に異なる磁性部材13A〜13Dを、必要に応じて「不等辺磁性部材」と称する。
【0039】
ここで、各磁性部材13A〜13Dは、当該磁性部材13A〜13Dの長手方向がフレーム11の長手方向に沿うような向きで当該フレーム11の内部に配置されているが、各磁性部材13A〜13Dのフレーム11の内部における配置方向は相互に異なる。具体的には、図2に示すように、磁性部材13Aの長手部材13aはフレーム11の左辺、磁性部材13Bの長手部材13aはフレーム11の上辺、磁性部材13Cの長手部材13aはフレーム11の右辺、磁性部材13Dの長手部材13aはフレーム11の下辺に、それぞれ沿うように配置されている。
【0040】
このような向きにおいて、各磁性部材13A〜13Dは、フレーム11の内面に対して、例えば図示しない両面粘着シートにより貼付されており、あるいは溶接等にて接合されていて、このフレーム11の内面に密着状に配置され、この相互間に隙間が生じた際に生じる磁気抵抗が極力小さくなるようにされている。このように各磁性部材13A〜13Dを配置した場合、フレーム11の各内面に対して、いずれか一つの磁性部材13A〜13Dの長手部材13aと、他のいずれか一つの磁性部材13A〜13Dの短手部材13bとが、両面粘着シートを介して必ず接触することとなる。ここで、フレーム11の一辺の内寸をFとし、相互に隣接する一方の磁性部材13A〜13Dの長手部材13aと他の磁性部材13A〜13Dの短手部材13bとの間隙の長さをL3とすると、F=L1+L2+L3となる(ここでは両面粘着シートの厚みは無視する)。この長さL3は、フレーム11や各磁性部材13A〜13Dの製造誤差を吸収するための調整代として機能するものであり、内寸Fや長さL1、L2の製造誤差を見込んで決定される。例えば、調整代の長さL3は1mm以上とされる。ただし、この間隙の長さは、理想的にはゼロとすることができ、あるいは、各磁性部材13A〜13Dをフレーム11の内部に配置した後、隣接する磁性部材13A〜13Dを直接的に又は図示しない継ぎ材を介して相互に溶接等してもよい。
【0041】
各磁性部材13A〜13Dは、磁性材料にて構成されており、磁束を当該磁性部材13A〜13Dの内部で迂回させることができる程度の透磁性を有する。この磁性部材13A〜13Dの具体的種類は任意であるが、例えば珪素鋼板(方向性珪素鋼板、無方向性珪素鋼板)、パーマロイ、電磁鋼板、あるいは、アモルファス板を用いることができる。特に、磁性部材13A〜13Dを珪素鋼板から形成した場合には、パーマロイ等から形成する場合に比べて材料コストが安価であるため、角筒体10の製造コストを低減することができる。より具体的には、1枚の珪素鋼板を曲げ加工したり、2枚の珪素鋼板を相互に溶接あるいは付き合わせにて接合することで、各磁性部材13A〜13Dを製造することができる。好ましくは、磁性部材13A〜13Dを、1枚の珪素鋼板を曲げ加工することにより形成し、この折り曲げ部分に焼き鈍し処理を施することで磁化特性を初期化する。なお、各磁性部材13A〜13Dの各側面には、錆び止め等のための塗装を行なってもよい。
【0042】
(構成−磁性体−第2筒状層)
一方、第2筒状層14は、4つの磁性部材14A〜14Dを角筒状に組み合わせて構成されており、各磁性部材14A〜14Dは、長手部材14aと短手部材14bから構成されている。ただし、これら各磁性部材14A〜14Dの構造、形状、配置方法、及び製造方法については、第1筒状層13の各磁性部材13A〜13Dと同様であるため、その説明を省略する。ただし、第2筒状層14は第1筒状層13の内部に配置されているため、第2筒状層14の各磁性部材14A〜14Dの断面寸法は、少なくとも第1筒状層13の各磁性部材13A〜13Dの肉厚分だけ、第1筒状層13の各磁性部材13A〜13Dの断面寸法より小さくなる。あるいは、第1筒状層13と第2筒状層14で完全に同一寸法の磁性部材13A〜13D、14A〜14Dを使用し、第1筒状層13と第2筒状層14の寸法の相違は、第1筒状層13における磁性部材13A〜13Dの相互間隔を、第2筒状層14における磁性部材14A〜14Dの相互間隔よりも少し広げることで吸収してもよい。これら各磁性部材14A〜14Dは、第1筒状層13の内面に対して、例えば図示しない両面粘着シートにより貼付されており、あるいは溶接等にて接合されていて、この第1筒状層13の内面に密着状に配置され、この相互間に隙間が生じた際に生じる磁気抵抗が極力小さくなるようにされている。
【0043】
(構成−第1筒状層と第2筒状層の配置)
ここで、図2に示すように、第1筒状層13における4つの磁性部材13A〜13Dの相互の隣接位置と、第2筒状層14における4つの磁性部材14A〜14Dの相互の隣接位置は、断面の方向(フレーム11の軸中心からフレーム11の各辺に至る方向)において、相互に重合しない位置とされている。例えば、図2に示すように、第1筒状層13の磁性部材13Aと磁性部材13Bの隣接位置P1と、第2筒状層14の磁性部材14Aと磁性部材14Bの隣接位置P2とは、相互に距離L4(ただしL4≠0)を隔てている。このような構造は、具体的には、第1筒状層13の磁性部材13A〜13Dの長手部材13aに対して第2筒状層14の磁性部材14A〜14Dの短手部材14bが接するように、かつ、第1筒状層13の磁性部材13A〜13Dの短手部材13bに対して第2筒状層14の磁性部材14A〜14Dの長手部材14aが接するように、これら各磁性部材13A〜13D、14A〜14Dの配置の位置及び向きを決定することで、達成されている。
【0044】
このような構造によれば、第1筒状層13の磁性部材13A〜13Dの相互の隣接位置において磁気遮蔽性能が低下し、かつ、第2筒状層14の磁性部材14A〜14Dの相互の隣接位置において磁気遮蔽性能が低下しても、これら磁気遮蔽性能が低下した部分が重合することを回避でき、さらに、当該部分には少なくとも第1筒状層13の磁性部材13A〜13D又は第2筒状層14の磁性部材14A〜14Dのいずれか一つが並設されて磁気遮蔽を行うことができるので、磁性体12における磁気遮蔽性能の局所的な低下の程度を低減することができる。
【0045】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、複数の磁性部材13A〜13D、14A〜14Dを組み合わせて磁性体12を構成しているので、これら複数の磁性部材13A〜13D、14A〜14Dの相互の間隔を、フレーム11や各磁性部材13A〜13D、14A〜14Dの製造誤差を吸収するための調整代とすることができ、角筒体10の製造が容易になる。
【0046】
また、第1筒状層13の4つの磁性部材13A〜13Dや、第2筒状層14の4つの磁性部材14A〜14Dを、同一形状としているので、磁性部材13A〜13D、14A〜14Dの共通化を図ることができると共に、磁性部材13A〜13D、14A〜14Dの管理や角筒体10の製造作業が容易になるので、角筒体10の製造コストを低減できる。
【0047】
また、第1筒状層13における4つの磁性部材13A〜13Dの相互の隣接位置と、第2筒状層14における4つの磁性部材14A〜14Dの相互の隣接位置を、相互に重合しない位置としているので、磁性体12における磁気遮蔽性能の局所的な低下の程度を低減することができる。
【0048】
さらに、磁性部材13A〜13D、14A〜14Dを珪素鋼板から形成した場合には、パーマロイ等から形成する場合に比べて材料コストが安価であるため、角筒体10の製造コストを低減することができる。
【0049】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2について説明する。この形態は、断面における2つの辺の長さが相互に同一の等辺磁性部材を用いた形態である。なお、実施の形態2の構成は、特記する場合を除いて実施の形態1の構成と略同一であり、実施の形態1と略同一の構成についてはこの実施の形態1で用いたものと同一の符号及び/又は名称を必要に応じて付して、その説明を省略する(後述する実施の形態3以降も同様)。
【0050】
図4は本実施の形態2に係る角筒体の正面図である。この実施の形態2に係る磁気シールド体は、角筒体20をフレーム21で支持して構成されている。フレーム21は、実施の形態1のフレーム11と同様に構成されている。角筒体20は磁性体22を備えており、この磁性体22は、第1筒状層23(外筒)と第2筒状層(内筒)24を備える。第1筒状層23は、フレーム21と同芯状に配置されるもので、このフレーム21の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。また、第2筒状層24は、第1筒状層23の内部においてフレーム21と同芯状に配置されるもので、この第1筒状層23の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。
【0051】
(構成−磁性体−第1筒状層)
ここで、第1筒状層23は、4つの磁性部材23A〜23Dを角筒状に組み合わせて構成されている。これら磁性部材23A〜23Dの各々は、フレーム21の中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とするL字部材であり、フレーム21とほぼ同様の奥行きになるように形成されている。ただし、本実施の形態に係る4つの磁性部材23A〜23Dは、その内の2つの磁性部材23A、23Cが相互に同一の断面形状であり、他の2つの磁性部材23B、23Dが相互に同一の断面形状であって、かつ、前者の2つの磁性部材23A、23Cの断面形状と後者の2つの磁性部材23B、23Dの断面形状とは相互に異なる断面形状となっている。また、各磁性部材23A、23Cを構成する2つの板状部材23a、23bの断面における辺の長さは相互に均等であり、各磁性部材23B、23Dを構成する2つの板状部材23c、23dの断面における辺の長さは相互に均等である。以下、本実施の形態では、必要に応じて、断面における2つの辺の長さが相互に均等な磁性部材を「等辺磁性部材」と総称し、断面形状の小さい方の磁性部材23A、23Cを「第1等辺磁性部材23A、23C」、断面形状の大きい方の磁性部材23B、23Dを「第2等辺磁性部材23B、23D」と称する。
【0052】
(構成−磁性体−第2筒状層)
一方、第2筒状層24は、4つの磁性部材24A〜24Dを角筒状に組み合わせて構成されている。その内の2つの磁性部材24A、24Cが相互に同一の断面形状であり、他の2つの磁性部材24B、24Dが相互に同一の断面形状であって、かつ、前者の2つの磁性部材24A、24Cの断面形状と後者の2つの磁性部材24B、24Dの断面形状とは相互に異なる断面形状となっている。また、各磁性部材24A、24Cを構成する2つの板状部材24a、24bの断面における辺の長さは相互に均等であり、各磁性部材24B、24Dを構成する2つの板状部材24c、24dの断面における辺の長さは相互に均等である。以下、本実施の形態では、必要に応じて、断面形状の小さい方の磁性部材24B、24Dを「第1等辺磁性部材24B、24D」、断面形状の大きい方の磁性部材24A、24Cを「第2等辺磁性部材24A、24C」と称する。これら各磁性部材24A〜24Dのその他の構造、形状、配置方法、及び製造方法については、第1筒状層23の各磁性部材23A〜23Dと同様であるため、その説明を省略する。ただし、第2筒状層24は第1筒状層23の内部に配置されているため、当然のことながら、第2筒状層24の各磁性部材24A〜24Dの断面寸法は、少なくとも第1筒状層23の各磁性部材23A〜23Dの肉厚分だけ、第1筒状層23の各磁性部材23A〜23Dの断面寸法より小さくなる。あるいは、第1筒状層23と第2筒状層24で完全に同一寸法の磁性部材23A〜23D、24A〜24Dを使用し、第1筒状層23と第2筒状層24の寸法の相違は、第1筒状層23における磁性部材23A〜23Dの相互間隔を、第2筒状層24における磁性部材24A〜24Dの相互間隔よりも少し広げることで吸収してもよい。
【0053】
(構成−第1筒状層と第2筒状層の配置)
ここで、図4に示すように、第1筒状層23における4つの磁性部材23A〜23Dの相互の隣接位置P3と、第2筒状層24における4つの磁性部材24A〜24Dの相互の隣接位置P4は、断面の方向において、相互に重合しない位置とされている。このような構造は、第1筒状層23の第1等辺磁性部材23A、23Cに対して第2筒状層24の第2等辺磁性部材24A、24Cが接するように、かつ、第1筒状層23の第2等辺磁性部材23B、23Dに対して第2筒状層24の第1等辺磁性部材24B、24Dが接するように、これら各磁性部材23A〜23D、24A〜24Dの配置の位置及び向きを決定することで、達成されている。
【0054】
(構成−変形例)
特に、本実施の形態では、角筒体20の全体の大きさが変わった場合にも、磁性部材23A〜23D、24A〜24Dの少なくとも一部を利用できるメリットがある。図5は本実施の形態の変形例に係る角筒体25の正面図である。この角筒体25は、図4の角筒体20の高さ及び幅を約1.2倍としたものであり、フレーム26と磁性体27を備えている。磁性体27は、第1筒状層(外筒状層)28と第2筒状層(内筒状層)29を備えている。
【0055】
ここで、第1筒状層28を構成する磁性部材28A〜28Dの中の第1等辺磁性部材28A、28Cは、図4の第1筒状層23の第1等辺磁性部材23A、23Cと同じであり、第2筒状層29を構成する磁性部材29A〜29Dの中の第1等辺磁性部材29B、29Dは、図4の角筒体24の第1等辺磁性部材24B、24Dと同じであって、第1筒状層28の第2等辺磁性部材28B、28Dと第2筒状層29の第2等辺磁性部材29A、29Cのみが図4と異なる。例えば、図4の角筒体20の高さ及び幅を10cmとし、第1等辺磁性部材23A、23C、24B、24Dの断面における辺の長さを4cm、第2等辺磁性部材23B、23D、24A、24Cの断面における辺の長さを6cmとする。これに対して、図5の角筒体25の高さ及び幅を12cmとし、第1等辺磁性部材28A、28C、29B、29Dの断面における辺の長さを4cm、第2等辺磁性部材28B、28D、29A、29Cの断面における辺の長さを8cmとする。このように、異なる大きさのフレーム21、26に対して、第1等辺磁性部材23A、23C、24B、24D、28A、28C、29B、29Dについては共通化を図り、第2等辺磁性部材23B、23D、24A、24C、28B、28D、29A、29Cの大きさのみを変えることによって、寸法調整を図ることができる(ただし、これとは逆に、第2等辺磁性部材23B、23D、24A、24C、28B、28D、29A、29Cを共通化し、第1等辺磁性部材23A、23C、24B、24D、28A、28C、29B、29Dの大きさを変えることによって、寸法調整を図ってもよい)。
【0056】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、等辺磁性部材23A〜23D、24A〜24D、28A〜28D、29A〜29Dを用いて角筒体20、25を形成することで、異なる大きさのフレーム21、26に対して、少なくとも一部の磁性部材23A、23C、24B、24D、28A、28C、29B、29Dを共通化できるため、これら磁性部材23A、23C、24B、24D、28A、28C、29B、29Dの管理や角筒体20、25の製造作業が容易になり、角筒体20、25の製造コストを低減できる。
【0057】
〔実施の形態3〕
次に、実施の形態3について説明する。この形態は、不等辺磁性部材と等辺磁性部材を交互に組み合わせて角筒体を構成した形態であり、特に、第2筒状層を等辺磁性部材にて構成した形態である。
【0058】
図6は本実施の形態3に係る角筒体の正面図である。この実施の形態3に係る磁気シールド体は、角筒体30をフレーム31で支持して構成されている。フレーム31は、実施の形態1のフレーム11と同様に構成されている。角筒体30は磁性体32を備えており、この磁性体32は、第1筒状層(外筒状層)33と第2筒状層(内筒状層)34を備える。第1筒状層33は、フレーム31と同芯状に配置されるもので、このフレーム31の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。また、第2筒状層34は、第1筒状層33の内部においてフレーム31と同芯状に配置されるもので、この第1筒状層33の内寸とほぼ合致する外寸を持つ中空の角筒形状に形成されている。
【0059】
(構成−磁性体−第1筒状層)
ここで、第1筒状層33は、4つの磁性部材33A〜33Dを角筒状に組み合わせて構成されている。これら磁性部材33A〜33Dの各々は、実施の形態1の第1筒状層13における磁性部材13A〜13Dと同様に構成されており、不等辺磁性部材として構成されている。
【0060】
(構成−磁性体−第2筒状層)
一方、第2筒状層34は、4つの磁性部材34A〜34Dを角筒状に組み合わせて構成されている。これら磁性部材34A〜34Dを構成する2つの板状部材34a、34bの断面における辺の長さは相互に均等であり、かつ、この長さはフレーム31の一辺の内寸の約半分となっている。従って、磁性部材34A〜34Dの相互の隣接位置は、フレーム31の各辺のほぼ中央位置に合致する。
【0061】
(構成−第1筒状層と第2筒状層の配置)
ここで、図6に示すように、第1筒状層33における4つの磁性部材33A〜33Dの相互の隣接位置P5と、第2筒状層34における4つの磁性部材34A〜34Dの相互の隣接位置P6は、断面の方向において、相互に重合しない位置とされている。このような構造は、第1筒状層33が不等辺磁性部材である磁性部材33A〜33Dを組み合わせて構成されているために、これら磁性部材33A〜33Dの相互の隣接位置がフレーム31の各辺の非中央位置となるのに対して、第2筒状層34の磁性部材34A〜34Dの相互の隣接位置はフレーム31の各辺のほぼ中央位置に合致することにより、達成されている。
【0062】
ここで、図6とは逆に、第1筒状層33を4つの等辺磁性部材により構成すると共に、第2筒状層34を不等辺磁性部材により構成してもよいが、図6のように構成することで、第2筒状層34の磁性部材34A〜34Dの相互の隣接位置P6を、フレーム31の各辺の中央位置に合致させることができる。従って、利用者の目に触れる第2筒状層34の内面を、これら磁性部材34A〜34Dの相互の隣接線に沿って対称な形状とすることができ、意匠性の向上を図ることができる。
【0063】
(実施の形態3の効果)
このように実施の形態3によれば、不等辺磁性部材33A〜33Dと等辺磁性部材34A〜34Dを交互に組み合わせて角筒体30を構成し、特に、第2筒状層34を相互に同一の断面形状を有する等辺磁性部材34A〜34Dにて構成することにより、利用者の目に触れる第2筒状層34の内面に関する意匠性の向上を図ることができる。
【0064】
〔実験結果〕
次に、本願発明者等による実験結果について説明する。図7は、実験に使用した角筒体の正面図であり、(a)は比較対象とした従来の角筒体、(b)は本発明に係る角筒体を示す。図7(a)に示す従来の角筒体としては、一対の等辺磁性部材を角部において突き合わせて構成した角筒体を、4層重合したものを使用した。図7(b)に示す本発明に係る角筒体としては、実施の形態1で示したように4つの不等辺磁性部材から構成した角筒体を、4層重合したものを使用した。ここでは、図7(a)の角筒体と図7(b)の角筒体の各々について、角部の形成後に熱処理を行っていないものと、角部の形成後に熱処理を行ったものとの2種類の角筒体を使用して実験を行った。いずれの角筒体も、厚みが約0.35mmの方向性珪素鋼板を用いて筒状層を構成し、全体としては、断面形状が約150mm、長さが90mmとなるように形成した。各角筒体には、4辺の各々に励磁コイルを約30回巻き付けて10Hzの磁場を印加し、いずれか1辺にコイルを約10回巻き付けて形成したBコイルにより磁束密度Bを測定し、磁束密度Bと磁界Hのカーブを測定し、比透磁率μr−磁束密度Bをグラフに示した。
【0065】
このグラフを図8に示す。また、図8のグラフには、目標性能を示すため、厚みが約0.35mmの方向性珪素鋼板を平板のまま用いた場合における比透磁率μr−磁束密度Bを示す。この図8から明らかなように、平板では、磁束密度Bが0から約1.2Tに増加するまでは、磁気飽和が生じることなく比透磁率μrが10、000から60、000程度に増大し、さらに磁束密度Bを増加させた場合には、磁気飽和が生じることで比透磁率μrが緩やかに減少する。MRI室における磁気シールド体のメーカー保証値としては、一般に、磁束密度Bが約1.5Tである場合において、比透磁率μrが10、000以上であることが要望される。
【0066】
これに対して、図7(a)の角筒体を用いた場合において、熱処理を行っていない場合には、磁束密度Bが約0.3Tで磁気飽和し、熱処理を行った場合であっても、磁束密度Bが約0.7Tで磁気飽和して、それ以上の磁束密度Bにおいては比透磁率μrが急激に低下してしまい、MRI室における磁気シールド体としての作用点である磁束密度B=1.5Tでは、比透磁率μrがほとんど0に近くなり、所望の磁気遮蔽性能を得ることができない。
【0067】
一方、図7(b)の角筒体を用いた場合は、熱処理を行っていない場合と熱処理を行った場合のいずれにおいても、図7(a)の角筒体を用いた場合に比べて、磁気飽和が生じる磁束密度Bを増加させることができており、MRI室における磁気シールド体としての作用点である磁束密度B=1.5Tでは、比透磁率μr=10、000を確保できるため、所望の磁気遮蔽性能を得られることが確認された。
【0068】
〔実施例〕
次に、角筒体の実施例について説明する。図9は、実施例に係る角筒体の正面図を、当該角筒体に使用した磁性部材の構成データと共に示す図である。この実施例では、実施の形態3と同様に、4つのL字状の不等辺磁性部材を組み合わせて構成した第1筒状層と、4つの等辺磁性部材を組み合わせて構成した第2筒状層を配置した例である。ただし、第1筒状層は、単層ではなく、12層の筒状層を重合して構成している。第2筒状層と第1筒状層や、及び第1筒状層の各層は、相互に両面テープにて貼付した。以下では、第1筒状層の12層の筒状層を外側から内側に至る順に1層〜12層と称し、第2筒状層を13層と称する。角筒体の外寸法は、197mm四方とした。第1筒状層や第2筒状層における三角マークは、不等辺磁性部材や等辺磁性部材の接続位置を示している。
【0069】
また、図示右側には、第1筒状層を構成する1層〜12層の中の奇数層の磁性部材の寸法を示す。例えば、最も外側の1層は、1辺が80mmの不等辺磁性部材と、1辺が105mmの不等辺磁性部材を、12mmの隙間を空けて配置していることを示す。第1筒状層を構成する1層〜12層の中の偶数層の磁性部材の寸法は、図示右側に示した奇数層の磁性部材の寸法を上下(水平方向に沿った辺に関しては左右)に反転させたものと等しく、例えば、2層は、1辺が105mmの不等辺磁性部材と、1辺が80mmの不等辺磁性部材を、12mmの隙間を空けて配置している。また、角筒体の内部には、第2筒状層を構成する磁性部材の寸法を示す。ここでは、1辺が92mmの等辺磁性部材を、4.6mmの隙間を空けて配置していることを示す。
【0070】
さらに、図示右側には、1層〜12層を積層した際の厚み(ただし、13層である第2筒状層の厚みと、各層の相互間の両面テープの厚みを加えた数値)を示しており、例えば、1〜4層+13層の厚み=1.4mm、1〜8層+13層の厚み=2.8mm、1〜10層+13層の厚み=3.5mm、1〜12層+13層の厚み=4.55mmである。
【0071】
また、これら厚みの下方には、各位置における最薄部の積層数を示している。例えば、4層と5層の間では、1層〜4層までは不等辺磁性部材や等辺磁性部材の接続位置が相互に重合しないため、最薄部の積層数は層数の合計値に等しく、最薄部の積層数=4である。8層と9層の間でも、1層〜8層までは不等辺磁性部材や等辺磁性部材の接続位置が相互に重合しないため、最薄部の積層数は層数の合計値に等しく、最薄部の積層数=8である。これに対して、9層では不等辺磁性部材の接続位置が1層における不等辺磁性部材の接続位置に重合し、また、10層では不等辺磁性部材の接続位置が2層における不等辺磁性部材の接続位置に重合するため、10層と11層の間では、最薄部の積層数は層数の合計値−1に等しくなり、最薄部の積層数=9である。同様に、12層の外位置では、最薄部の積層数は層数の合計値−1に等しくなり、最薄部の積層数=11である。
【0072】
ここで、所望の磁気遮蔽性能を得るための総数が10層であることが実験や計算によって判っている場合には、図9のような構造を採用し、最外位置における最薄部の積層数を11(>10)とすることができ、所望の磁気遮蔽性能を確保できることが判る。このように、最薄部の積層数は、不等辺磁性部材や等辺磁性部材の接続位置により調整することができる。あるいは、第2筒状層における接続位置を、第1筒状層における接続位置のいずれにも重合しない位置とすることで、最外位置における最薄部の積層数を第2筒状層の層数(ここでは=1)だけ増加させ、最薄部の積層数を調整することもできる。
【0073】
本発明の効果は、図9に示した実施例のように、10層やそれ以上の数の層を積層した場合に特に顕著に得られ、従来のように角部にアングル材を配置した場合には当該アングル材も10層程度となって磁気遮蔽性やデザイン性を著しく低下させていた場合に比べて、磁気遮蔽性能やデザイン性を著しく向上させることができる。
【0074】
〔III〕各実施の形態に対する変形例
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0075】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
また、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0076】
(形状や数値について)
上記各実施の形態で示した形状や数値は例示であり、各寸法値は任意に変更することができる。
【0077】
(角筒体の基本構造について)
また、上記各実施の形態とは異なる基本構造を有する角筒体に、本発明を適用してもよい。例えば、上述の特許文献3のように、角筒体をその長手方向における複数位置で複数に分割し、これら複数の角筒体を相互に間隔を空けて配置する構造に、本発明を適用してもよい。すなわち、上記各実施の形態では、第1筒状層及び第2筒状層がフレームと同様の長さを有する長手構造物である場合について説明したが、第1筒状層や第2筒状層を、その長手方向の1以上の箇所において分割した上で、これら分割体を相互に間隔を空けて配置してもよい。
【0078】
(多重構造について)
上記各実施の形態では、第1筒状層の内部に第2筒状層を配置することで磁性部材を2重に配置しているが、第2筒状層の内部にさらに磁性部材を配置したり、第1筒状層の外部にさらに磁性部材を配置することができ、実施例に示したような13重構造や、その他の任意の層数による多重構造を取ることができる。このように複数の筒状層による多重構造を取る場合において、複数の筒状層の各々における4つの磁性部材の相互の隣接位置が、当該各々の筒状層に隣接する他の筒状層における4つの磁性部材の相互の隣接位置に対して、断面の方向において相互に重合しない位置となるように、複数の筒状層の各々を構成することが好ましい。ただし、必ずしも隣接位置の重合を許容しないものではなく、例えば、10層構造を採用する場合において、1層目から5層目の隣接位置は相互に重合しない構造とし、6層目の隣接位置は1層目の隣接位置と重合し、7層目の隣接位置は2層目の隣接位置と重合し、同様に、8層目から10層目の隣接位置は3層目から5層目の隣接位置とそれぞれ重合するようにしてもよく、この場合であっても、相互に隣接する隣接位置同士は重合しないものとすることで、磁気の迂回経路を確保し、磁気飽和を回避できる。さらに好ましくは、角筒体のいずれの箇所においても、磁性部材が最低2層設けられていることが望ましいため、この場合には、4層以上の多層構造を採用することが望ましい。
【0079】
(角筒体の組立方法について)
各実施の形態においては、支持手段であるフレームの内側に第1筒状層を貼付等して固定し、さらにこの第1筒状層の内側に第2筒状層を貼付等して固定することにより、角筒体を組み立てる例を示した。しかしながら、このようにフレームを支持枠として使用して角筒体を組み立てる以外にも、フレームとは別個に準備した支持枠を使用して角筒体を組み立てることも可能である。
【0080】
例えば、中空角筒形状の貫通孔を有する支持枠を準備し、この内側に、第1筒状層を貼付等して固定し、さらにこの第1筒状層の内側に第2筒状層を貼付等して固定することにより、角筒体を組み立てることもできる。角筒体を3層以上で構成する場合も同様に、支持枠の内側に、複数の筒状層の相互間において最も外側に配置される筒状層から最も内側に配置される筒状層に至る順に当該複数の筒状層を配置しつつ、これら複数の筒状層を相互に又は前記支持枠に固定してもよい。
【0081】
あるいは、支持枠の外側に、第2筒状層を貼付等して固定し、さらにこの第2筒状層の外側に第1筒状層を貼付等して固定することにより、角筒体を組み立ててもよい。角筒体を3層以上で構成する場合も同様に、支持枠の外側に、複数の筒状層の相互間において最も内側に配置される筒状層から最も外側に配置される筒状層に至る順に当該複数の筒状層を配置しつつ、これら複数の筒状層を相互に又は支持枠に固定してもよい。
【0082】
さらには、支持枠の内側と外側の両方に、複数の筒状層を順次配置してもよい。この場合には、支持枠を中心に、複数の筒状層を一層容易に多層化することが可能となる。
【0083】
このように支持枠を用いて角筒体を組み立てた場合には、支持枠と共に角筒体をフレームに収容してもよく、あるいは、複数の筒状層を支持枠から取り外し、複数の筒状層(すなわち角筒体)のみをフレームに収容してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1、100 磁気シールド体
10、20、25、30 角筒体
11、21、26、31、101 フレーム
12、22、27、32 磁性体
13、23、28、33 第1筒状層
13A〜13D、14A〜14D、33A〜33D 磁性部材(不等辺磁性部材)
23A、23C、24B、24D、28A、28C、29B、29D 磁性部材(第1等辺磁性部材)
23B、23D、24A、24C、28B、28D、29A、29C 磁性部材(第2等辺磁性部材)
34A〜34D 磁性部材(等辺磁性部材)
13a、14a 板状部材(長手部材)
13b、14b 板状部材(短手部材)
23a〜23d、24a〜24d、34a、34b 板状部材
14、29、34 第2筒状層
102 貫通孔
103 筒状層
P1〜P6 隣接位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体から形成された中空角筒形状の筒状層であって、相互に同芯状に重合される複数の筒状層を備え、
前記複数の筒状層の中の少なくとも2つの筒状層の各々は、当該筒状層の中心軸に直交する断面における断面形状をL字状とする4つの磁性部材を角筒状に組み合わせて構成され、
前記2つの筒状層のいずれか一方の筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置と、前記2つの筒状層のいずれか他方の筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置を、前記断面の方向において相互に重合しない位置とした、
磁気シールド体用の角筒体。
【請求項2】
前記複数の筒状層の各々における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置が、当該各々の筒状層に隣接する他の前記筒状層における前記4つの磁性部材の相互の隣接位置に対して、前記断面の方向において相互に重合しない位置となるように、前記複数の筒状層の各々を構成した、
請求項1に記載の磁気シールド体用の角筒体。
【請求項3】
前記2つの筒状層の少なくとも一方を、前記断面における2つの辺の長さが相互に異なる不等辺磁性部材であって、相互に同一形状の不等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成した、
請求項1又は2に記載の磁気シールド体用の角筒体。
【請求項4】
前記2つの筒状層の少なくとも一方を、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の2つの第1等辺磁性部材と、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の部材であって前記第1等辺磁性部材とは辺の長さが異なる2つの第2等辺磁性部材を、交互に組み合わせて構成した、
請求項1又は2に記載の磁気シールド体用の角筒体。
【請求項5】
前記複数の筒状層の相互間において最も内側に配置される筒状層を、前記断面における2つの辺の長さが相互に同一の等辺磁性部材であって、相互に同一形状の等辺磁性部材を4つ組み合わせて構成した、
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気シールド体用の角筒体。
【請求項6】
前記磁性部材をケイ素鋼板から構成した、
請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気シールド体用の角筒体。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気シールド体用の角筒体を複数備える磁気シールド体であって、
前記複数の角筒体と、
前記複数の角筒体の端面が同一面内に配置されると共に、これら複数の角筒体が相互に間隔を隔てて並設されるように、前記複数の角筒体を支持する支持手段と、
を備える磁気シールド体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−251512(P2010−251512A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99163(P2009−99163)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】