説明

磁気センサ、磁界検出方法

【課題】感磁体の多磁区状態における磁化の向きによらず、継続的に安定して外部磁界の測定が可能な直交フラックスゲート方式の磁気センサを提供する。
【解決手段】電源回路から出力され感磁体11に印加されるパルス電流(センス電流)は、図3の上部に示すように、ピーク電流値V1に至るパルスPの立ち上がり前に、このピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mを所定の時間だけ印加した電流波形となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁界を検出するための磁気センサ、およびこれを用いた磁界検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な磁界、例えば外部磁界を高精度に検出する磁気センサとして、アモルファスワイヤや磁性薄膜などの感磁体の近傍にコイルを配した直交フラックスゲートセンサが知られている。この直交フラックスゲートセンサは、感磁体にパルス電流や高周波電流を印加しておき、感磁体に外部磁界が加わると、この外部磁界に応じた磁化の回転が起こり、これによりコイルに生じる誘起電圧を検出する事により、外部磁界の強度を測定するものである。
【0003】
しかしながら、このような直交フラックスゲートセンサにおいて、例えば感磁体にパルス電流を印加して磁界を検出する場合、パルスの立ち上がり前とパルスの立ち下がり後とで、多磁区化した感磁体の磁区構造とそれぞれの磁区における磁化の向きが異なるため、外部磁界の測定にあたって誤差が生じやすかった。
【0004】
図10は、従来の直交フラックスゲートセンサ(磁気センサ)において、感磁体を細長い帯状に形成した場合の磁化の変化を示した模式図である。図中の上部には感磁体に印加されるパルス電流Pの電流変化を示している。帯状の感磁体101には、矢印Lに沿ってパルス電流(センス電流)が流されている。また、矢印Q方向に外部磁界が印加されているものとする。この時、パルスの電流値がピークの状態では、感磁体101の幅方向Wに沿って磁化の向きが揃っている単磁区構造となる(図中のS1参照)。
【0005】
やがて、パルスが立ち下がり、所定の電流値を超えて電流が0となると、感磁体101の磁化の向きが磁区ごとに異なる方向に向いた多磁区構造となる(図中のS2参照)。そして、次のパルスによって電流値が再びピークに達する状態では、感磁体101の幅方向Wに沿って磁化の向きが再び揃った単磁区構造となる(図中のS3参照)。
【0006】
そして、パルスが立ち下がり、所定の電流値を超えて電流が0となると、再び感磁体101の磁化の向きが磁区ごとに異なる方向に向いた多磁区構造となる(図中のS4参照)。この時、多磁区構造となった感磁体101のそれぞれの磁区における磁化の向きは、1つ前のパルスが立ち下がった後の磁化の向き(図中のS2参照)と同じになるとは限らない。即ち、パルスの前後でのそれぞれの磁区における磁化の向きは一定にならない。
【0007】
例えば、図中の多磁区状態S2からパルスP1の立ち上がりによる単磁区状態S3への移行時と、多磁区状態S4から次のパルスP2の立ち上がりによる単磁区状態S5への移行時とでは、磁化が一定方向に向くまでの回転量がパルスごとに異なってしまう。このため、磁界検出用のコイルに誘起される電圧値が外部磁界の増減に応じて正確に増減せず、感磁体101に印加される外部磁界を安定して測定できないという課題があった。
【0008】
こうした、磁界検出時の不安定性を改善するために、例えば、帰還回路を利用した測定方法や、通電電流の遮断に同期して誘起電圧を測定する方法などが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3801194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような磁気センサでは、パルスの遮断に同期して誘起電圧を測定する場合には、電流遮断により一斉に磁化の回転が起こるので、リニアリティやヒステリシスが向上すると考えられるものの、一方でパルスの立ち上がり時に誘起電圧を測定する場合は、磁化の向きが統一されていない状態から磁化が回転するため、リニアリティやヒステリシスの改善が望めないという課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、感磁体の多磁区状態における磁化の向きによらず、継続的に安定して外部磁界の測定が可能な直交フラックスゲート方式の磁気センサを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、感磁体の多磁区状態における磁化の向きに影響されることなく、継続的に安定して外部磁界の測定を可能にする磁界検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の磁気センサは、外部磁界に応じて磁化方向が変化する感磁体と、該感磁体にセンス電流を印加する電源回路と、前記感磁体の近傍に形成された磁界検出コイルと、前記感磁体の磁化方向の変化に対応して前記磁界検出コイルから出力される電圧を検出する検出回路とを備えた直交フラックスゲート方式の磁気センサであって、前記センス電流はパルス電流、または高周波電流であり、前記センス電流の少なくとも電流変化の前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い磁化制御電流を印加することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の磁気センサは、請求項1において、前記センス電流はパルス電流であり、前記検出回路は、前記パルス電流のピーク電圧値に至るパルスの立ち上がり、および/またはピーク電流からのパルスの立ち下がりによって生じる前記感磁体の磁化方向の変化に応じて、前記磁界検出コイルに生じた誘起電圧を検出することを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の磁界検出方法は、外部磁界に応じて磁化方向が変化する感磁体と、該感磁体にセンス電流を印加する電源回路と、前記感磁体の近傍に形成された磁界検出コイルと、前記感磁体の磁化方向の変化に対応して前記磁界検出コイルから出力される電圧を検出する検出回路とを備えた直交フラックスゲート方式の磁気センサを用いた磁界検出方法であって、前記センス電流としてパルス電流、または高周波電流を用いて、前記センス電流の少なくとも電流変化の前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い磁化制御電流を印加することで、ピーク電流値に達する前後で前記感磁体の磁化方向を一定の方向に揃えておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気センサによれば、センス電流の少なくとも電流変化の前後、例えば、パルスの立ち上がり前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い電流値の磁化制御電流を印加することによって、電流変化の前後で感磁体の磁化の向きが常に一方向に揃った単磁区構造とすることができる。即ち、磁化の向きが一方向に揃った状態での磁化の回転量に基づく誘電電圧を、磁界検出コイルに生じさせることができるようになる。
【0014】
これによって、磁界検出コイルに生じる誘起電圧は、高SN、高リニアリティで外部磁界の増減を正確に反映したものとなり、磁界検出コイルに生じる誘起電圧を検出回路で検出することによって、感磁体に印加された外部磁界を正確に測定することが可能になる。
【0015】
また、本発明の磁界検出方法によれば、センス電流の少なくとも電流変化の前後、例えば、パルスの立ち上がり前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い電流値の磁化制御電流を印加することによって、電流変化の前後で感磁体の磁化の向きが常に一方向に揃った単磁区構造とすることができる。これにより、磁界検出コイルに生じる誘起電圧は、高SN、高リニアリティで外部磁界の増減を正確に反映したものとなり、感磁体に印加された外部磁界を正確に測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁気センサの一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
図1は、本発明の磁気センサの一例である直交フラックスゲートセンサを示す平面図である。磁気センサ(直交フラックスゲートセンサ)10は、細長い帯状の軟磁性体をメアンダ(つづら折れ)形状に配した感磁体11と、この感磁体11を取り巻く磁界検出コイル13とを備えている。感磁体11には、電極パッド12を介して電源回路15が接続され、感磁体11には、この電源回路15からセンス電流が印加される。このセンス電流については、後ほど詳述する。磁界検出コイル13には、電極パッド14を介して検出回路16が接続される。この検出回路16は、磁界検出コイル13に生じた誘起電圧を測定する。
【0018】
図2は、図1に示す磁気センサのA−A線での断面図である。磁界検出コイル13の構成としては、例えば、基板18上で、感磁体11より上側の絶縁層17aに配された第1の導体層13aと、下側の絶縁層17bに配された第2の導体層13bと、第1の導体層13aの一方の端と第2の導体層13bの一方の端とを接続する貫通配線(図示せず)と、第1の導体層13aの他方の端と第2の導体層13bの他方の端とを接続する貫通配線(図示せず)とで、感磁体11の周囲を取り巻くように矩形に巻回された形状に形成すればよい。
【0019】
感磁体11は、例えば、アモルファスの軟磁性体から形成されていればよい。電源回路15は、後述する波形のパルス電流や、高周波電流を出力可能なものであれば良い。磁界検出コイルは、感磁体の近傍、例えば感磁体の上側の層または下側の層に、スパイラルコイルなどの薄膜コイルを形成したものであっても良い。感磁体11や磁界検出コイル13を形成する基板18としては、例えば酸化膜付きのシリコン(Si)基板、ガラス基板、セラミック基板等の非磁性基板を用いることができる。
【0020】
このような磁気センサ(直交フラックスゲートセンサ)10の基本的な動作としては、図1の下部に示したグラフのように、電源回路15より、例えばパルス電流(Input)が感磁体11に印加されると、磁界検出コイル13から誘起電圧(Output)が出力される。検出回路16では、入力されたパルス電流の立ち上がり波形に対応する波高値V0を測定し、感磁体11に印加された磁界強度を波高値V0に基づいて検出するものである。
【0021】
次に、感磁体に印加される、本発明の磁気センサに特有の波形をもつパルス電流と、このパルス電流による感磁体の磁化の変化を詳述する。図3は、本発明の磁気センサにおいて、帯状の感磁体の一部を拡大して磁化の変化を示した模式図である。なお、図3の上部には、感磁体に印加するパルス電流の波形を数パルス分だけ示した。
電源回路15から出力され感磁体11に印加されるパルス電流(センス電流)は、図3の上部に示すように、ピーク電流値V1に至るパルスPの立ち上がり前に、このピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mを所定の時間だけ印加した電流波形となっている。
【0022】
このような波形のパルス電流(センス電流)を感磁体11に印加した際の感磁体11の磁化の変化を図3の下部に示す。なお、帯状の感磁体11には矢印L方向に沿ってパルス電流が印加されているものとし、また、矢印Q方向に外部磁界が印加されているものとする。ピーク電流に達したパルスP1が印加された感磁体11は、磁化が幅方向Wに揃った単磁区構造となる(図3のS1参照)。
【0023】
この状態からパルスP1が立ち下がり、パルス電流の電流値が0になると、感磁体11の磁化の向きが磁区ごとに異なる方向に向いた多磁区構造となる(図3のS2参照)。そして、次のパルスP2が立ち上がる前に、パルスPのピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mが感磁体11に印加される。感磁体11に磁化制御電流Mが印加されると、感磁体11の磁化は一定の方向に揃い始め、単磁区構造を成すようになる(図3のS3参照)。この時の感磁体11の磁化の向きは、パルスPのピーク電流値V1における感磁体11の磁化の向きである幅方向Wに向く途中の角度、即ち、感磁体11の長手方向と幅方向との間の角度で磁化の向きが揃う。かつ、外部磁界Qの方向に傾く。
【0024】
磁化制御電流Mの印加によって感磁体11を単磁区構造とした後、パルスP2が立ち上がり、ピーク電流値V1に達する。パルスP2によって、感磁体11の磁化は磁化制御電流Mの印加状態での向きから更に回転し、磁化が幅方向Wに沿って揃った単磁区構造となる(図3のS4参照)。
【0025】
そして、パルスP2が立ち下がり、所定の電流値を超えて電流が0となると、再び感磁体11の磁化の向きが磁区ごとに異なる方向に向いた多磁区構造となる(図3のS5参照)。この時、多磁区構造となった感磁体11の磁区構造およびそれぞれの磁区における磁化の向きは、1つ前のパルスP1が立ち下がった後の磁区構造、および磁化の向き(図3のS2参照)と同じになるとは限らない。即ち、パルスPの前後でのそれぞれの磁区における磁化の向きは一定にならない。
【0026】
そして、次のパルスP3が立ち上がる前に、パルスPのピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mが再び感磁体11に印加される。感磁体11に磁化制御電流Mが印加されると、感磁体11の磁化は再び一定の方向に揃い始め、単磁区構造を成すようになる(図3のS6参照)。磁化制御電流Mの印加によって感磁体11を再び単磁区構造とした後、パルスP3が立ち上がり、ピーク電流値V1に達する。感磁体11の磁化は磁化制御電流Mの印加状態での向きから更に回転し、磁化が幅方向Wに沿って揃った単磁区構造となる(図3のS7参照)。
【0027】
このように、本発明では、ピーク電流値V1に至るパルスPの立ち上がり前に、このピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mを所定の時間だけ印加することによって、パルスPの立ち上がり直前は、感磁体11の磁化の向きが常に一方向に揃った単磁区構造とすることができる。即ち、パルスPの立ち上がり、即ち磁界強度の検出部分において、磁化の向きが一方向に揃った状態での磁化の回転量に基づく誘起電圧を、磁界検出コイル13に生じさせることができるようになる。
【0028】
これによって、多磁区構造となった感磁体11の磁区構造およびそれぞれの磁区における磁化の向きがパルスPの前後で異なっていても、パルスPの立ち上がり直前に感磁体11に磁化制御電流Mを印加して単磁区構造とすることにより、磁界検出コイル13に生じる誘起電圧が、磁区ごとの磁化の回転量の差によって変動する事を防止できる。従って、磁界検出コイル13に生じる誘起電圧は、高SN、高リニアリティで外部磁界の増減を正確に反映したものとなり、この磁界検出コイル13に生じる誘起電圧を検出回路16で検出することによって、パルスPの立ち上がりを利用して、感磁体11に印加された外部磁界Qを正確に測定することが可能になる。
【0029】
なお、磁化制御電流Mの電流値V2は、感磁体11が多磁区構造から単磁区構造に移行する最低限の電流値程度に設定されれば良い。
【0030】
このような磁化制御電流は、センス電流のパルスの立ち下がり直後に印加してもよい。図4は、帯状の感磁体の一部を拡大して磁化の変化を示した、別な実施形態を示す模式図である。なお、磁気センサの構成は図1と同様である。
電源回路15から出力され感磁体11に印加されるパルス電流(センス電流)は、図4の上部に示すように、ピーク電流値V1に達したパルスPの立ち下がり直後に、このピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mを所定の時間だけ印加した電流波形となっている。
【0031】
このような波形のパルス電流(センス電流)を感磁体11に印加した際の感磁体11の磁化の変化を図4の下部に示す。なお、帯状の感磁体11には矢印L方向に沿ってパルス電流が印加されているものとし、また、矢印Q方向に外部磁界が印加されているものとする。ピーク電流に達したパルスP1が印加された感磁体11は、磁化が幅方向Wに揃った単磁区構造となる(図4のS1参照)。
【0032】
この状態からパルスP1が立ち下がり始め、この時、パルス電流の電流値が0になるよりも前に、パルスPのピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mが感磁体11に印加される。これにより、パルスP1の立ち下がり後も磁化制御電流Mが印加されている間、感磁体11の磁化は一定の方向に揃ったままの単磁区構造が維持される。(図4のS2参照)。この時の感磁体11の磁化の向きは、パルスPのピーク電流値V1における感磁体11の磁化の向きである幅方向Wから、感磁体11の長手方向と幅方向との間の所定の角度まで回転した方向となる。かつ、外部磁界Qの方向に傾く。
【0033】
磁化制御電流Mの印加が終わり、電流が0となると、感磁体11の磁化の向きが磁区ごとに異なる方向に向いた多磁区構造となる(図4のS3参照)。以後、次のパルスP2が印加されて磁化が幅方向Wに揃った単磁区構造となり(図4のS4参照)、再びパルスP2が立ち下がり始めた直後に磁化制御電流Mが感磁体11に印加され、パルスP2の立ち下がり後も磁化制御電流Mが印加されている間、感磁体11の磁化は一定の方向に揃ったままの単磁区構造が維持される(図4のS5参照)。さらに、磁化制御電流Mの印加が終わると感磁体11は多磁区構造となり、(図4のS6参照)、次のパルスP3が印加されると単磁区構造となる(図4のS7参照)というサイクルを繰り返す。、
【0034】
このように、ピーク電流値V1からパルスPが立ち下がり、電流が0に達するよりも前、即ち、感磁体11が単磁区構造から多磁区構造に移行する最低限の電流値に達するよりも前に、このピーク電流値V1よりも低い電流値V2で、かつパルスPと同じ極性の磁化制御電流Mを所定の時間だけ印加することによって、パルスPの立ち下がりの開始と終了の間の全域で、感磁体11を単磁区構造に維持することが可能になる。
【0035】
これによって、パルスPの立ち下がりを利用して外部磁界の強度を測定する場合においても、磁界検出コイル13に生じる誘起電圧は、高SN、高リニアリティで外部磁界の増減を正確に反映したものとなり、この磁界検出コイル13に生じる誘起電圧を検出回路16で検出することによって、感磁体11に印加された外部磁界を正確に測定することが可能になる。
【0036】
なお、本発明の磁気センサの感磁体に印加されるセンス電流は、上述したような波形に限定されず、パルスの立ち上がり前、および/またはパルスの立ち下がり直後に、パルスのピーク電流値よりも低い電流値で、かつパルスと同じ極性の磁化制御電流が印加されるようなパルス電流、高周波電流であれば、どのようなものであってもよい。なお、図5に、感磁体に印加されるセンス電流の例として、センス電流の波形例を示す。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の直交フラックスゲート方式の磁気センサの効果を検証した実施例を示す。
[実施例1]
図1に示す構成の磁気センサを作成した。各部の仕様は以下の通りである。
・感磁体 材質:CoNbZr、L/S:30/20um、配線長:500um、膜厚:1um、1ターンメアンダ形状
・磁界検出コイル 材質:Cu、L/S:15/10um、膜厚:5um、16巻ソレノイド(感磁体の周囲に形成)
【0038】
上述した仕様の直交フラックスゲートセンサを用いて、図6左側に示す波形のように、パルスのピーク電流を200mAに固定し、また磁化制御電流を30mA,50mAにそれぞれ設定してパルスの立ち上がり前に印加したパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(本発明例1,2)。
【0039】
また、従来の比較例として、パルスのピーク電流を200mAに固定し、磁化制御電流を加えないパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(比較例1)。
【0040】
以上のような実施例1のそれぞれのパルス波形の模式図と、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係を示すグラフとを図6に示す。図6に示す測定結果によれば、磁化制御電流をパルスの立ち上がり前に印加して磁化方向を揃えて(単磁区構造にして)おくことにより、磁界検出コイルに生じる誘起電圧値のリニアリティが改善されることが確認された。特に、磁化制御電流の電流値を50mA以上にすれば、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係をほぼ直線的にすることができ、高精度に磁界強度を検出できることが確認された。
【0041】
[実施例2]
上述した実施例1と同じ構成の磁気センサを用い、図7左側に示す波形のように、パルスのピーク電流を200mAに固定し、また磁化制御電流を30mA,50mAにそれぞれ設定してパルスの立ち下がり直後に印加したパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(本発明例3,4)。
【0042】
また、従来の比較例として、パルスのピーク電流を200mAに固定し、磁化制御電流を加えないパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(比較例2)。
【0043】
以上のような実施例2のそれぞれのパルス波形の模式図と、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係を示すグラフとを図7に示す。図7に示す測定結果によれば、磁化制御電流をパルスの立ち下がり直後に印加して磁化方向を揃えて(単磁区構造にして)おくことにより、磁界検出コイルに生じる誘起電圧の電圧値のリニアリティが改善されることが確認された。特に、磁化制御電流の電流値を50mA以上にすれば、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係をほぼ直線的にすることができ、高精度に磁界強度を検出できることが確認された。
【0044】
[実施例3]
上述した実施例1と同じ構成の磁気センサを用い、図8左側に示す波形のように、磁化制御電流を50mAに固定してパルスの立ち上がり前に印加するとともに、パルスのピーク電流値を100,200,300mAにそれぞれ設定したパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(本発明例5,6,7)。
【0045】
以上のような実施例3のそれぞれのパルス波形の模式図と、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係を示すグラフとを図8に示す。図8に示す測定結果によれば、パルスのピーク電流値が高い、即ち、磁化制御電流の電流値とピーク電流値との差が大きいほど、図8のグラフの傾きが大きくなり、磁気センサの感度が高くなることが確認された。これにより、磁化制御電流の電流値と、パルスのピーク電流値との差を大きくする事で、磁気センサの感度をより一層高められることが判明した。
【0046】
[実施例4]
上述した実施例1と同じ構成の磁気センサを用い、図9左側に示す波形のように、磁化制御電流を50mAに固定してパルスの立ち下がり直後に印加するとともに、パルスのピーク電流値を100,200,300mAにそれぞれ設定したパルス電流を感磁体に流し、外部磁界を−15〜15(Oe)の範囲で変化させ、磁界検出コイルに生じる電圧を測定した(本発明例8,9,10)。
【0047】
以上のような実施例4のそれぞれのパルス波形の模式図と、外部磁界と磁界検出コイルに生じる電圧との関係を示すグラフとを図9に示す。図9に示す測定結果によれば、パルスのピーク電流値が高い、即ち、磁化制御電流の電流値とピーク電流値との差が大きいほど、図9のグラフの傾きが大きくなり、磁気センサの感度が高くなることが確認された。これにより、磁化制御電流の電流値と、パルスのピーク電流値との差を大きくする事で、磁気センサの感度をより一層高められることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の磁気センサの一例を示す模式図である。
【図2】図1の磁気センサのA−A線での断面図である。
【図3】本発明の磁気センサの作用を説明する説明図である。
【図4】本発明の別な構成の磁気センサの作用を説明する説明図である。
【図5】感磁体に印加するパルス電流を波形例を列記した説明図である。
【図6】本発明の検証結果を示す波形の説明図、およびグラフである。
【図7】本発明の検証結果を示す波形の説明図、およびグラフである。
【図8】本発明の検証結果を示す波形の説明図、およびグラフである。
【図9】本発明の検証結果を示す波形の説明図、およびグラフである。
【図10】従来の磁気センサの作用を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10 磁気センサ(直交フラックスゲートセンサ)、11 感磁体、13 磁界検出コイル、15 電源回路、16 検出回路。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界に応じて磁化方向が変化する感磁体と、該感磁体にセンス電流を印加する電源回路と、前記感磁体の近傍に形成された磁界検出コイルと、前記感磁体の磁化方向の変化に対応して前記磁界検出コイルから出力される電圧を検出する検出回路とを備えた直交フラックスゲート方式の磁気センサであって、
前記センス電流はパルス電流、または高周波電流であり、前記センス電流の少なくとも電流変化の前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い磁化制御電流を印加することを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記センス電流はパルス電流であり、前記検出回路は、前記パルス電流のピーク電流値に至るパルスの立ち上がり、および/またはピーク電流からのパルスの立ち下がりによって生じる前記感磁体の磁化方向の変化に応じて、前記磁界検出コイルに生じた誘起電圧を検出することを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
外部磁界に応じて磁化方向が変化する感磁体と、該感磁体にセンス電流を印加する電源回路と、前記感磁体の近傍に形成された磁界検出コイルと、前記感磁体の磁化方向の変化に対応して前記磁界検出コイルから出力される電圧を検出する検出回路とを備えた直交フラックスゲート方式の磁気センサを用いた磁界検出方法であって、
前記センス電流としてパルス電流、または高周波電流を用いて、前記センス電流の少なくとも電流変化の前後で、印加されているセンス電流と同じ極性で、かつセンス電流のピーク電流値よりも低い磁化制御電流を印加することで、ピーク電流値に達する前後で前記感磁体の磁化方向を一定の方向に揃えておくことを特徴とする磁界検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−25619(P2010−25619A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184672(P2008−184672)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】