磁気センサ素子とその製造方法及び電子方位計
【課題】小型化しても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子とその製造方法を提供し、更にはその磁気センサ素子を3個直交して配置して3軸磁気センサである電子方位計としても小型低背化となり、携帯情報端末に搭載可能な磁気センサ素子とその製造方法、およびその磁気センサ素子を搭載した電子方位計を提供すること。。
【解決手段】両端に集磁部を、当該両集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、薄膜コイルが、下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する下コイル層と上コイル層とが接続されてコイルを構成するようにした。
【解決手段】両端に集磁部を、当該両集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、薄膜コイルが、下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する下コイル層と上コイル層とが接続されてコイルを構成するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子とその製造方法およびその磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関し、特に磁気センサ素子を3個直交して配置した3軸磁気センサの構成とした電子方位計としても、携帯情報端末に搭載可能な磁気センサ素子とその製造方法、及びその磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関する。
【背景技術】
【0002】
電子方位計は、センサなどを用いて電気的に方位を表示できるという特徴を有する。一般的に、複数の磁気センサ素子を配置して電子方位計を構成する。この様に構成された平行フラックスゲート型の磁気センサ素子は、励磁した磁界と平行な磁界に対して線形な出力を示す。よって、直交配置された複数の磁気センサ素子の出力から得られたデータを演算することで、基準に決めた方向からの角度、すなわち方位角を算出することができる。この方位角から得られた方位は、アナログ、デジタルの電気信号として処理できるため、携帯電話、PDAといった携帯情報端末や腕時計、車両用方位計であるカーナビゲーション装置、航空機の姿勢検出、視覚障害者向け、ゲーム機といった様々な電子機器への応用が期待されている。
【0003】
特に近年、GPS等を利用した携帯情報端末向けの位置情報提供サービスが始まっている。このサービスによれば、利用者は現在の位置情報を端末上の画面を見ながらにして判るようになっている。この端末に電子方位計を組み合わせることで、利用者が今どの方位を向いているのか、或いは歩行中であるならばどこに向かおうとしているのかが判る。この位置情報と電子方位計に関する情報提供サービスは、今後多くの産業界に新しいビジネスを生み出すものと考えられ、また利用者に有益な情報をもたらす。
【0004】
一方、上述した携帯情報端末は、小型薄型の傾向にあり、その中に搭載される電子デバイスとしては小型低背が求められている。ここで望まれる磁気センサ素子の幅は数mm程度であり、高さとしては、特に1.5mm以下が必須であり、好ましくは1.0mm以下のサイズが求められている。
【0005】
この様な用途の磁気センサ素子として、一般的に、メッキやスパッタなどの薄膜技術を利用して薄膜磁性コア材を形成した素子を用いて素子サイズを小さくすることが知られている。しかし、平行フラックスゲート型の磁気センサ素子とするときは、コアの保磁力を測定磁界の1/10程度以下としなくては検出感度が得られないので、例えば、数百mOe程度の地磁気を検出するためには、コアの保磁力を30mOe程度とすることが必須となる。それに対して、メッキまたはスパッタリングで得られる薄膜磁性コア材では、その保磁力が1Oe程度となってしまうので、地磁気の検出は困難となる。したがって、薄膜磁性コア材を用いた磁気センサ素子の構成においては、素子を小型化とすることはできるが、正確な方位角を得ることが困難になる。
【0006】
この様な問題を解決するために、小型化が可能な短冊状の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図12に従来の磁気センサ素子を示した。本図中(a)は、この磁気センサ素子の構成例を示す斜視図を示しており、図中(b)は、この素子のサイズを示した図面であり、図中(c)は、図(a)の側面図を示している。
【0008】
この素子は、磁性コア材としてパーマロイ箔を利用しており、この磁性コア材が貼り付
けられた非磁性基台2の周回をコイルで巻回した構成とし、両端に集磁部8bを、その間に感磁部8aを、そして、非磁性基台2の両端に電極パッド16を有する構成となっている。そして、磁性コア材長手方向中央部の断面積を端部より小さくして磁束を集中させ、B−Hカーブ上での偏移量を大きくしている。この様に構成すれば、上記特性を備えたとしても、図12(b)に示す様に、長手方向に3mm、幅0.3mm程度のサイズとすることができる。
【0009】
そして、図示しないが、基台水平面上に2個の上記磁気センサ素子を直交で配置した2軸磁気センサ(電子方位計)は、幅がやや大きくなるものの、高さを1mm程度とすることができる。よって、この2軸磁気センサを有する電子方位計は、携帯情報端末への搭載が可能となる。
【0010】
また、磁気センサ素子1aを一周回させたとき、磁気センサ素子1aは正弦曲線の出力を示す。90度直交に配置された2軸磁気センサの2つの出力は90度位相の異なる出力関係となり、この出力から方位角を算出することができる。この様な平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が磁界に比例した出力を得ることが出来るのは、以下の検出原理による。
【0011】
まず、磁性コア材に巻回した励磁用コイルに三角波電流を印加する。三角波電流によって生じた三角波状の磁界により、その中の磁性コアはB−Hカーブに沿って、磁化飽和と反転を繰り返す。この磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するため、それを検出用コイルによって検出する。そして、三角波電流の周波数が変わらなければ、外部磁界の大きさに応じてそのパルス位置はシフトする。そのパルス発生の時間変化を検出回路で取り出し、外部磁界の大きさに応じた出力を得ることができるようになる。なお、上述した説明ではコイルは励磁用と検出用に分けて記載したが、1つのコイルで兼用することも可能である。
【0012】
【特許文献1】特開2004−184098号公報(第6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した機能を有する2軸磁気センサである電子方位計を備えた携帯情報端末を傾けた状態(傾斜環境下)で利用者が方位を得ようとした場合に、この電子方位計には以下の問題が生じる。
【0014】
つまり、携帯情報端末の利用者は、様々な使用方法や持ち方をすることが想定され、その際の電子方位計に内蔵された磁気センサ素子が、水平面に対して傾斜した状態で使用する場合がある。そこでこの様な環境下においては、上記の2軸磁気センサでは正確な方位角を算出することができない。したがって、3つの磁気センサ素子を用意し、これら素子を直交する3軸に対してそれぞれ配置すれば、より正確に方位角を求めることができるようになる。
【0015】
図13に特許文献1に記載された磁気センサ素子で3軸磁気センサ素子を構成した電子方位計の一構成例を示す。この様に構成すると、1つの軸の長手方向を水平2軸に配置した磁気センサ素子に対して垂直に配置する必要が生じるため、電子方位計の高さが少なくとも3mm以上(図12(b)参照)となってしまう。そのため、この様な構成のままの電子方位計を携帯情報端末に搭載することは要求される低背化の面から好ましくない。
【0016】
そこで、この従来の磁気センサ素子を更に小型化するために、素子の長手方向を短くすることが考えられる。しかし、単に素子サイズを短くすると、有効な磁束を収束させるこ
とが困難となる。つまり、この形態では、形状効果による反磁界の影響が顕著となり、集磁部8b(図12(a)参照)で集めた磁束が有効に感磁部8aに収束しなくなるからである。
【0017】
また、外部の磁束を有効に集めるために、素子の端部の幅(集磁部8bの幅)を中央部の幅(感磁部8aの幅)に比べて大きくすると、非磁性基台2の幅もそれに伴い大きくなってしまう。すると、感磁部8aを磁気飽和させるために必要な励磁電流が著しく大きくなってしまい、現実的には磁気飽和させることが不可能となる。
【0018】
さらに、磁気センサ素子の長手方向のサイズを小型化する他の手段として、磁性コア材に密接させてコイルを巻回して、非磁性基台2および磁性コア材8の中央部をくびれ形状に施すことも考えられるが、この非磁性基台2のくびれ形状等の微細加工は非常に困難である。仮に非磁性基台2にくびれ形状を施せたとしても、中央部の幅(感磁部8aの幅)が0.1mm以下としなくてはならないため、コイルを巻き回す際に容易にこのコイルが破損してしまう虞がある。
【0019】
したがって、従来の磁気センサ素子においては、素子の幅を0.3mm程度とするのが適当であり、それ以上小さくすることは地磁気検出を困難としてしまい好ましくないことが判る。
【0020】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、小型化しても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子とその製造方法、およびその磁気センサ素子を3個直交して配置して3軸磁気センサの電子方位計としても小型低背化となり、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の磁気センサ素子とその製造方法及び電子方位計は、基本的には下記記載の形態を採用する。
【0022】
本発明にかかる磁気センサ素子は、両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、薄膜コイルは、下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する下コイル層と上コイル層とがそれぞれ接続されてコイルを構成していることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明にかかる磁気センサ素子は、前述した感磁部の断面積が集磁部の断面積の1/5〜1/30となる様に構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
さらに、本発明にかかる磁気センサ素子は、前述した集磁部が、感磁部に対して厚みを厚くして形成されてなることを特徴とするものである。
【0025】
またさらに、本発明にかかる磁気センサ素子は、上絶縁層が、所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とするものである。
【0026】
本発明にかかる電子方位計は、上述した磁気センサ素子を少なくとも2個以上用いて非磁性基台上に配置されてなることを特徴とするものである。
【0027】
本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、両端に集磁部を、その両端の集磁部の間
に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子の製造方法であって、表面が絶縁された非磁性基台上に複数個の下コイル層と接続パッドを形成する工程と、この下コイル層の少なくとも一部を被覆した下絶縁層を形成する工程と、下絶縁層の表面に所定の形状の磁性コア材を配設する工程と、磁性コア材の表面に上絶縁層を形成する工程と、上絶縁層の表面に、下コイル層と接続して、磁性コア材の外周に巻き回してコイルとするための複数個の上コイル層を形成する工程とを有することを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、前述した下絶縁層を形成する工程が、下コイル層を全て覆って下絶縁層を形成するとともに、下コイル層と上コイル層との接続をするための開口部を設ける工程であることを特徴とするものである。
【0029】
さらに、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、前述した下絶縁層を磁性コア材の所定の形状よりも幅広く形成して、この下絶縁層と磁性コア材とにより段差を形成することを特徴とするものである。
【0030】
またさらに、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、磁性コア材を配設する工程が、磁性コア材の外形形状をエッチングする工程と、磁性コア材の感磁部が形成される領域を集磁部よりも薄くして形成する工程であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、小型化としても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子が得られ、更にその磁気センサ素子を3個配置して3軸磁気センサとした電子方位計を構成しても、小型低背化でき、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の磁気センサ素子は、基本的に、軟磁性体からなる磁性コア材と、下コイル層と上コイル層とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材は、中央部の感磁部と両端部の集磁部とからなる構成を採用したものである。その具体的な構成について、以下の実施例にて詳細に説明をする。
【実施例1】
【0033】
図1(a)は、本発明の基本構成である磁気センサ素子1aの概念を示した上部平面図である。図中(b)は、上部平面図における1C方向から見たときの素子の側面図である。図中(c)は、上部平面図における1A−1A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。また、図中(d)は、上部平面図における1B−1B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0034】
ここに示す磁気センサ素子1aは、図1に示す様に、磁性コア材8と、下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材8は、中央部の感磁部8aと両端部の集磁部8bとからなり、感磁部8aの断面積は集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30となる様に構成されている。その理由に付いては、後述する。
【0035】
そして、この磁気センサ素子1aは、表面が絶縁された非磁性基台2上に配置された軟磁性体からなる磁性コア材8と、感磁部8aの周囲に薄膜コイルが巻き回されて、平行フラックスゲート型の磁気センサ素子を構成している。
【0036】
さらに、この磁気センサ素子1aは、図1(b)〜(d)に示す様に、磁性コア材8の
上面および下面にそれぞれ上絶縁層10と下絶縁層6とを有し、薄膜コイルは、前述した様に下絶縁層6の下面に形成された複数個の下コイル層4の金属薄膜と、上絶縁層10の上面に形成された複数個の上コイル層12の金属薄膜により構成されて、図1(b)(c)の様に、隣接する下コイル層4と上コイル層12とが接続されてコイルを構成している。
【0037】
次に本発明の磁気センサ素子1aの形状について説明をする。
本発明の磁気センサ素子1aは、上述した様に、磁性コア材8(パーマロイ箔)が下絶縁層6上に形成され、この下絶縁層6と上絶縁層10とにより絶縁されて、下コイル層4と上コイル層12とがそれぞれ磁性コア材8に巻き回されて形成されたコイルを有する構成となっている。
【0038】
そして、この下コイル層4と上コイル層12とで形成される薄膜コイルに流れる電流をコイルの両端から印加することによって、パーマロイ箔である磁性コア材8の励磁が行われる。ここで、薄膜コイルが磁気センサ素子1aの中央部(感磁部8a)に形成されているのは、その磁性コア材8の励磁が感磁部8aのみ行われる様にするためである。また、図1(c)における下絶縁層6の厚みは約15μm程度、図1(d)における磁性コア材8と上コイル層12の間は5μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、磁性コア材8であるパーマロイ箔に有効に印加される。
【0039】
また、ある一つの方向に一定の静磁界がある環境下で、磁気センサ素子1aを一周回させたときの角度に対する磁気センサ素子1aの出力は、その静磁界と平行に同じ向きにあるときに最大となり、逆向きにあるときに最小の正弦曲線を示すことが理想的な指向性を有する特性であるとされている。そこで、本発明の磁気センサ素子1aでは、集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/17とし、素子の指向性が劣化することなく、小型化においても十分に磁界(地磁気)を検出することができるようになる。
【0040】
例えば、感磁部8aのX方向の幅を60μm、集磁部8bのX方向の幅を2000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/35程度にすると、検出したい磁気センサ素子1aがY方向以外からの磁界を拾ってしまい、指向性が劣化してしまう。更に、サイズ的にもX方向の専有面積が大きくなり、磁気センサ素子1aの小型化の点で不利となる。それに対して、感磁部8aを集磁部8bの断面積に対して1/30よりも大きくすると、上述したY方向以外からの磁界を拾い難くなり、指向性の低下を極力抑えることが出来るようになる。
【0041】
また、感磁部8aのX方向の幅を60μm、集磁部8bのX方向の幅を180μm程度とした場合、すなわち集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/3程度にすると、磁界を検出するのに必要な磁束が感磁部8aに流入しなくなる。それに対して、感磁部8aを集磁部8bの断面積に対して1/5より小さくすることで、検出したい磁束が正常に感磁部8aに流れるようになる。
【0042】
以上の事項から、本発明における磁気センサ素子1aの感磁部8aの断面積は、集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30程度に設定することが好ましいことが判る。
【0043】
この様に、本発明の構成によれば、集磁部8bに対して感磁部8aは1/17のサイズに設計され、集磁部8bが1000μm程度の大きさとなっているため、地磁気程度の磁界を有効に集磁部8bで集め、感磁部8aに収束することができるようになる。したがって、本発明の磁気センサ素子1aは、小型でありながら地磁気を検出するのに十分な感度を得ることが可能となる。
【0044】
また、本発明の構成によれば、コイルが下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルによって構成されており、従来の巻線方式とは異なる形態を有している。これにより、特に集磁部8bを幅広にした構成においても磁性コア材8を有効に励磁することができ、素子を小型化しても地磁気検出を実現することが可能となる。
【0045】
更に、本発明の構成によれば、磁性コア材8として薄膜プロセスによるスパッタ、メッキで作成されたものではなく、パーマロイ箔を利用しており、小型化での地磁気検出を行うのに適した磁気特性を有するものとなる。
【0046】
次に本発明の電子方位計について図面を用いて説明を行う。
図2は、本発明の磁気センサ素子1aを3個用い、エポキシ基台30上に実装して配置したときの概念を示した図面である。
【0047】
図2に示す通り、本発明の電子方位計20aは、x軸磁気センサ素子24、y軸磁気センサ素子26、z軸磁気センサ素子28、これら磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC22から構成される。各x軸、y軸、z軸磁気センサ素子24,26,28は互いに90度直交に配置されており、これらの出力を基に方位を演算することが可能となる。
【0048】
そして、図示はしないが、各磁気センサ素子1aの保護をするための樹脂を被せ、更に、これらの素子を載せたエポキシ基台30に磁気センサ用IC22を駆動するための電源端子、磁気センサ素子1aで検出した磁界を出力するための出力端子などを構成することで、電子方位計20aのパッケージを得ることができる。この電子方位計20aは、z軸磁気センサ素子28の高さが700μmであるため、エポキシ基台30の厚みを300μm以下にすることによって、地磁気の検出が可能であり、かつ電子方位計20aの高さを1mm以下のサイズとすることが可能となる。
【0049】
この様に、本発明の磁気センサ素子1aを3個用いた電子方位計20aを構成することにより、この電子方位計20aを小型低背化でき、携帯情報端末に搭載が可能となる。
【0050】
次に本発明の磁気センサ素子1aの製造方法について図3を用いて詳細に説明を行う。
【0051】
まず、シリコンウェハーの表面が約0.2μmの酸化膜を有する非磁性基台2を用い、更にその表面に下コイル層4及び電極パッド16となるCu膜を所定の厚さでスパッタ或いはメッキにより非磁性基台2全面に形成する。
【0052】
次に、下コイル層4と電極パッド16として残す部位をレジストで覆い、レジストで覆われていない箇所をエッチングによって除去し、図3(a)に示す様に、所望の形状の下コイル層4と電極パッド16を形成する。図中には簡易的に数ターンの薄膜コイルが示されているが、薄膜コイルの厚さは約2μm、幅5μm、ターン数は50ターンとしている。
【0053】
次に、図3(b)に示す様に、下絶縁層6となる耐熱性が150℃程度であるエポキシ系接着シート材を、全面を覆って非磁性基台2の表面に貼り付ける。なお、本図面においては、図3(a)に示した下コイル層4と電極パッド16が、ともに下絶縁層6によって被覆された状態を示したので、本図面には下コイル層4と電極パッド16は示されていない。
【0054】
次に、図3(c)に示す様に、磁性コア材8であるパーマロイ箔をこの下絶縁層6上に載せ、約1.5MPaの圧力で押さえつけながら約150℃、30分加圧接着を施す。こ
のパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔として、水素雰囲気1100℃に磁気焼鈍された厚さ10μmの箔を用いている。
【0055】
なお、この磁性コア材8のパターン化(図1(a)に示したH型の形状)は、下コイル層4形成と同じように、パターンをレジストで覆った後、塩酸、硝酸、過酸化水素系のエッチング液で所定の形状にパターン形成して得る。この様にして形成された磁性コア材8の全体サイズは、Y方向の幅(図1(a)参照)を700μm、X方向の幅を1000μmで、中央の感磁部8aにおけるY方向の幅を400μm、X方向の幅を60μm、端部の集磁部8bにおけるY方向の幅を150μm、X方向の幅を1000μmとしている。
【0056】
更に、続けて図3(d)に示す様に、下絶縁層6である接着シート材を酸素プラズマによりアッシング除去し、下絶縁層6もパーマロイ箔と同じ形状にパターン化する。これにより下コイル層4の端部は、上コイル層12と接続するために開口する。
【0057】
次に、上絶縁層10形成のためのネガ型厚膜レジストを非磁性基台2の表面全面に均一になるようにスピンコートする。なお、このレジストの厚みは20μmを超えて形成されるため、一度にこのレジストを均一に塗布することは難しい。そのため、同一のレジスト材を2回に分けて塗布し、レジストの厚みが約25μmとなるように調整して設ける。続けて、下絶縁層6と磁性コア材8が覆われた上絶縁層10を台形状にパターン化(図1(c)(d)参照)して、図4(a)に示す構造体を得ることができる。
【0058】
更に、図4(b)に示す様に、下コイル層4と接続をして磁性コア材8の外周に巻き回されたコイルを形成するために、上コイル層12を形成する。ここでは、段差のエッジ部での配線切れの虞があるため、スパッタ装置の試料台には、自公転する機構があるものを用い、段差部にも上コイル層12となる金属材料が成膜できる様にする。
【0059】
まず、ターゲットと対向した試料保持用の治具に非磁性基台2のウェハーを取り付け、スパッタ膜が段差のエッジ部にも周り込む様に、ウェハー全面に数μmのスパッタ膜を成膜する。次に上コイル層12のパターンをフォトリソエッチング工程によって図4(b)の構造体を得る。なお、上コイル層12のパターン形成では、立体面上に均一にレジストをスプレー塗布し、投影露光によってパターンを得る方式を採用した。
【0060】
ここで得られた構造体は、図1(b)に示した通り、上コイル層12が、下コイル層4と配線の端部で接続されており、段差エッジ部での配線切れが懸念されるが、上記の方法では自公転機構のスパッタ装置を利用することで、配線パターンを段差エッジ部にも容易に形成することが可能となる。
【0061】
最後に、図4(c)に示す様に、素子を保護するための保護層14を形成し、本発明の磁気センサ素子1aが完成する。なお、保護層14には接続パッド16の部分を開口しておくようにする。そして、他の電子回路にこの平行フラックスゲート型の磁気センサ素子1aを実装して、前述した電子方位計20a(図2参照)とすることができる。
【0062】
以上の説明の如く、従来技術では、非磁性基台2の周回をコイルで巻回するマクロ的な作成方法であるのに対して、本発明では、磁性コア材8であるパーマロイ箔を非磁性基台2に貼り付けるマクロな作成プロセスと、このパーマロイ箔を貼り付けた非磁性基台2に薄膜コイルを作成するミクロな作成プロセスを併用した方法を適用した例を示した。そして、上記した本発明の製造方法を採用することによって、先に示した小型の磁気センサ素子1aを製造することができ、それを複数個配置することで、携帯情報端末に搭載可能なサイズの電子方位計20aを提供することが可能となる。
【実施例2】
【0063】
次に、本発明の第2の実施例について説明を行う。
図5(a)は、本発明の実施例2における磁気センサ素子1bの概念を示した上部平面図であり、同図(b)は、この磁気センサ素子1bを2C方向から見たときの側面図である。また、同図(c)は、上部平面図の2A−2A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。さらに、同図(d)は、上部平面図の2B−2B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0064】
なお、本発明の磁気センサ素子1bは、実施例1と同様に、軟磁性体からなる磁性コア材8と、その外周に巻き回された下コイル層4と上コイル層12とにより構成される薄膜コイルとによって基本的に構成されているが、図5(b)に示す様に、集磁部8bの厚さが感磁部8aの厚さよりも厚く構成されている点と、図5(c)に示す様に、下絶縁層6が磁性コア材8よりもX方向に広く形成されている点が、先の実施例とは異なる。他の構成要件は、実施例1と同じであるので、ここでの詳細な説明は割愛する。
【0065】
上述した様に、感磁部8aの厚さに対して集磁部8bの厚さを厚くすることで、先に示した実施例1の効果に加えて、より小型な磁気センサ素子1bとすることができる。つまり、この素子が感磁部8aにてセンシングするのは、感磁部8aの断面積に起因し、集磁部8bの断面積は特に影響しないからであり、本構成であっても十分に磁気センサ素子として機能する。
【0066】
この様に、厚さを変えて、集磁部8bの断面積を感磁部8aの断面積よりも大きく構成することで、先に実施例1に示した構成に比べて、図4に示す磁気センサ素子1bのX方向をより小型にできる。
【0067】
さらに、下絶縁層6のX方向のサイズを磁性コア材8よりも大きく形成することで、下コイル層4と接続をし、かつ下絶縁層6と磁性コア材8へ乗り上げる、上コイル層12の段差部における断線を極力抑えることができる様になる。
【0068】
この様に、上記構成では、集磁部8bを感磁部8aに比べて厚みを大きくしているが、実施例1と同様に、集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積が1/17に設計されているので、磁界検出における指向性は劣化することなく、素子サイズを小型化したとしても、十分に磁界(地磁気)を検出することができるようになる。
【0069】
なお、本実施例の場合も、磁気センサ素子1bの感磁部8aは、集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30程度になるように設計する必要がある。
【0070】
次に、本発明の磁気センサ素子1bの製造方法について図6を用いて詳細に説明を行う。
【0071】
まず、図6(a)図6(b)に示す様に、非磁性基台2には、実施例1と同じ様に下コイル層4と電極パッド16及び下絶縁層6の形成する。また、下絶縁層6の表面への磁性コア材8の貼り付けも、図6(c)に示す様に、実施例1と同様に行う。ここで用いる磁性コア材8は、実施例1と同様にパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔であるが、水素雰囲気1100℃に磁気焼鈍された厚さ20μmの箔を用いている。
【0072】
さらに、図6(d)に示すパーマロイ箔のパターン化(感磁部8aの厚みを集磁部8bの厚みよりも薄くする方法)は、2回のエッチング処理により形成する。まず、X方向(図5(a)参照)の幅が700μm、Y方向の幅が500μmであり、中央の感磁部8aにおけるX方向の幅が400μm、Y方向の幅が60μm、端部の集磁部8bにおけるX
方向の幅が150μm、Y方向の幅が500μmとなる様に、塩酸、硝酸、過酸化水素系のエッチング液で、パーマロイ箔の外形を図5(a)に示す形状にパターン形成する。
【0073】
次に、マスクとして用いたレジストを剥離した後、感磁部8aのみが開口するように再度磁性コア材8の表面をレジストで覆い、感磁部8aをエッチングする第二のエッチング処理を行い、この感磁部8aの厚みが10μmとなる様にパターン形成する。なお、前述した手法のみならず、感磁部8aの厚みを集磁部8bの厚みよりも薄くする方法として、段差レジスト予め形成して、感磁部8aと集磁部8bのエッチング開始の時間差を生じさせて、目的の形状の磁性コア材8を形成する手法を用いても構わない。
【0074】
次に、下絶縁層6の外形パターンを形成する。下絶縁層6は、実施例1においては磁性コア材8の外形と同じになるようにパターンを形成したが、ここでは、磁性コア材8の外形パターンより若干大きく、また下コイル層4と後に形成する上コイル層12の接続部が開口する様に下絶縁層6のパターンを形成する。
【0075】
具体的には、磁性コア材8が覆われ、かつ上コイル層12と下コイル層4とが接続する箇所のみが開口する様に、まずマスクとなるレジストを非磁性基台2表面に形成する。次に、酸素プラズマによるアッシング除去を行うことで、図7の(a)に示す下絶縁層6を得る。なおこの工程で、下絶縁層6が、磁性コア材8よりも大きく、かつ下コイル4が形成された領域を全て覆う形態である場合には、下コイル4を露出させる必要がある箇所のみに、開口部を設けても構わない。
【0076】
更に図7(b)に示す様に、ポジ型のレジストを用いて、磁性コア材8が全て覆われる様に上絶縁層10を形成する。このとき、上絶縁層10の段差は20μm程度となる。また、下絶縁層6を図5(c)(d)に示した形状にして段差部を階段状にすることができ、これにより、上述した様にこれに乗り上げて形成される上コイル層12の断線、または磁性コア材8と上コイル層12とのショートを極力抑えることができる様になる。
【0077】
そして、図7(c)に示す様に、上コイル層12を実施例1と同様に形成する。その形成方法は、実施例1で説明をしたスパッタとエッチングを組み合わせた方法により行っても良いし、フレームメッキ法を利用しても良い。以下の説明はフレームメッキ法による上コイル層12の形成方法を示す。
【0078】
まず、メッキの下地電極となるCu膜を図7(b)に示す構造体の表面全面に数百Åから数千Å程度スパッタリング法により形成する。そして、ここで行われる上コイル層12の配線パターニングは、段差部を含めて高低差が20μmを超えてしまうため、上コイル層12の配線の幅を揃えることが難しい。そこで、ここでは厚膜のエポキシ系レジスト材料を用いてパターニングを行う手法を採用した。なお、フォトリソ工程にて露光するときに、マスクとのコンタクトができるだけ全面均一となることが好ましく、段差部を緩和し、かつ空気溜まりを生じない様に均一にレジストを塗布することが肝要である。
【0079】
この空気溜まりが生じさせないためには、レジスト材料の溶剤となる有機溶媒を表面に薄くなじませた後に、レジストを塗布すれば良い。そして、基板表面の全面に設けられたCu膜から上コイル層12の配線パターンを形成した後、電解Cuメッキを施して、約2μmの厚さになるようにコントロールして形成する。その後、残存させるパターン以外の下地共通電極(電解メッキで用いた電極)をエッチングにより除去し、図7(c)に示した構造体を得ることができる。
【0080】
上記工程を経て、磁性コア材8が下絶縁層6と上絶縁層10とを介して、上コイル層12と下コイル層4とで挟まれた形態となる。なお、前述した通り、下絶縁層6を磁性コア
材8よりも大きく形成しているので、上絶縁層10の端部は、傾斜勾配を有する構成となり、これら一連のプロセスにおいて上コイル層12の配線が断線してしまうことを抑止することができる。
【0081】
最後に、図7(d)に示す様に、素子を保護するために保護膜14を形成して、磁気センサ素子1bが完成する。なお、実施例1と同様に、保護層14は接続パッド16の部分を開口しておくようにする。これにより電子方位計20a(図2参照)として他の回路基板に実装して、携帯情報端末に搭載することが出来るようになる。
【実施例3】
【0082】
次に、本発明の第3の実施例について説明を行う。
図8(a)は、本発明の実施例3における磁気センサ素子3cの概念を示した上部平面図であり、同図(b)は、上部平面図を3C方向から見たときの側面図である。また、同図(c)は、上部平面図の3A−3A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。さらに、同図(d)は、上部平面図の3B−3B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0083】
なお、本図面に示す本発明の磁気センサ素子1cは、実施例1及び2と同様、磁性コア材8と、その外周に巻き回された下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルによって基本的に構成されている。そして、図8(b)に示す下絶縁層6に、実施例1で用いたエポキシ系接着シート材に代えて、耐熱性が300℃程度のポリイミド等の有機絶縁コート層を用いている点のみが、先の実施例と異なっている。
【0084】
上記構成要件を実施例1に示した構成例に新たに加えることで、下絶縁層6の厚みを薄くできる。そのため、上絶縁層10により形成される段差部をさらに小さくすることが出来るようになる。したがって、本構成を採用することにより、より容易に上コイル層12のパターン化ができる様になる。また、磁性コア材8と薄膜コイルとのギャップをより狭くできるために、薄膜コイルに流れる電流をより有効に励磁に利用することができる。
【0085】
また、図8(c)(d)により、下絶縁層6の厚み、及びパーマロイ箔からなる磁性コア材8と上コイル層12との間も数μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、より有効に磁性コア材8であるパーマロイ箔に印加することができる。よって、薄膜コイルのターン数の減少、或いは励磁電流を更に少なくすることができ、実施例1の効果に併せて、消費電流を更に少なくできるという効果を奏する。
【0086】
次に本発明の電子方位計20bについて図面を用いて説明を行う。
図9は、本発明の磁気センサ素子1cを2個用い、エポキシ基台30上に実装した2軸磁気センサである電子方位計20bの概念を示した斜視図である。
【0087】
図2で示した3軸磁気センサである電子方位計20aに代えて、本図面に示す電子方位計20bは、x軸磁気センサ素子24、y軸磁気センサ素子26、これら磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC22から構成される。x軸、y軸磁気センサ素子24,26のそれぞれは、互いに90度直交に配置されており、これらの出力を基に方位を演算することが可能となっている。
【0088】
また、ここでは図示しないが、この図9で示される構成に、各磁気センサ素子1cの保護をするための樹脂を被せ、更にこれらの素子を載せたエポキシ基台30に磁気センサ用IC22を駆動するための電源端子、磁気センサ素子1cで検出した磁界を出力するための出力端子などを構成することで、電子方位計20bのパッケージを得ることができる。この電子方位計20bは、x、y軸磁気センサ素子24,26の大きさが1mm角程度で
あるため、平面での占有面積を従来のものよりも小さくすることができる。
【0089】
次に、本発明の磁気センサ素子1cの製造方法について図10を用いて詳細に説明を行う。
【0090】
まず、図10(a)に示す様に、非磁性基台2上に設ける下コイル層4及び電極パッド16の形成を、実施例1及び2と同様に行う。
【0091】
次に、図10(b)に示す様に、下絶縁層6となるポリイミドを表面が均一になるようにスピンコートする。そして、図10(c)に示す様に、ポリイミド材中の溶剤を蒸発させた後、パーマロイ箔を上に載せ、約1.5MPaの圧力で押さえつけながら約300℃、30分加圧接着し、図10(d)に示す様に、エッチングにより所定の形状の磁性コア材8を得る。なおここで用いた磁性コア材8は、実施例1と同様にパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔である。
【0092】
その後の工程も、実施例1及び2と同様であり、図11(a)に示す様に、上絶縁層10、図11(b)に示す様に、上コイル層12、図11(c)に示す様に、保護層14をそれぞれ形成し、本発明の磁気センサ素子1cを得ることができる。
【0093】
なお、実施例1から3に示した本発明の磁気センサ素子1a〜1cにおける感磁部8aのX方向の幅は、60μmでなくとも良く、60μmからプラスマイナス数十μm程度であれば任意の値に設定することが可能である。但し、この幅を大きくした場合には、この磁気センサ素子により得られる検出パルスも大きくなるため、それに適した回路の最適化をする必要がある。
【0094】
また、先にも示した様に、感磁部8aのX方向の幅は、集磁部8bの幅に対して1/30〜1/5となる様に設定することが重要である。これは、指向性が劣化することなく、かつ十分に集磁部8bで外部の磁界を吸い上げて感磁部8aに磁束を集めるためである。
【0095】
さらに、先の実施例では、感磁部8aの厚みを10μmとした例を示したが、この感磁部8aの厚みはできるだけ薄い方が好ましい。但し、あまりに薄くし過ぎると、取り扱いをする際に、折り曲げなどによる加工歪みが発生しやすく、磁気特性が劣化してしまう虞がある。一方、感磁部8a厚くしすぎると、励磁周波数の表皮厚さよりも厚みが厚くなり、急峻な磁化反転が起こりにくくなる。よって、感磁部8aの厚みによって検出能力が低下してしまう虞があるため、励磁するための電流設定値に基づき、感磁部8aの透磁率が低下しない適切な厚みと励磁周波数を選択して形成すれば良い。
【0096】
またさらに、上記の実施例においては、説明を簡便とする為に図1、図5、図8のC方向から見た場合に、薄膜コイルの配線パターンが上コイル層12と下コイル層4でずれている形態を示して説明を行ったが、それに限定されるものではない。この構成で薄膜コイルのパターンを形成すると、感磁部8aに施せる薄膜コイルのターン数が減少してしまい、実際に小型の磁気センサ素子1a〜1cを構成する上で好ましくない。したがって、この様な問題は、薄膜コイルの配線や接続部のパターンを変えることによって、容易にずれ量を縮小することが可能となる。またそのために、上コイル層12を下コイル層4と多少斜めに配線パターンを形成することによって、上記問題を解消することも可能である。
【0097】
またさらに、本発明の磁気センサ素子の1a〜1cでは、電極パッド16を下コイル層4と同じ平面上に形成した例を示したが、これに限定されるものでなく、例えば、上コイル層12と同じ平面上で、かつ集磁部8bの上に積層されて、上絶縁層10上に形成しても構わない。
【0098】
またさらに、説明を分かりやすくするために、各図面において接続パッド16を大きくして明記したが、後の実装が行える様なサイズであれば、より小さくすることも可能である。これにより、X方向の磁気センサ素子1a〜1cのサイズを更に小さくすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の基本構成における磁気センサ素子の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における1A−1A断面図、上部平面図における1B−1B断面図を示した図面である。(実施例1)
【図2】本発明の電子方位計の概念を示した斜視図である。(実施例1)
【図3】本発明の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例1)
【図4】図3の続きの工程を示す図面である。(実施例1)
【図5】本発明の磁気センサ素子の他の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における2A−2A断面図、上部平面図における2B−2B断面図を示した図面である。(実施例2)
【図6】本発明の他の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例2)
【図7】図6の続きの工程を示す図面である。(実施例2)
【図8】本発明の磁気センサ素子のさらに他の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における3A−3A断面図、上部平面図における3B−3B断面図を示した図面である。(実施例3)
【図9】本発明の電子方位計の概念を示した斜視図である。(実施例3)
【図10】本発明のさらに他の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例3)
【図11】図10の続きの工程を示す図面である。(実施例3)
【図12】従来の磁気センサ素子の概念を示した図である。
【図13】従来の電子方位計の概念を示した図である。
【符号の説明】
【0100】
1a〜1c 磁気センサ素子
2 非磁性基台
4 下コイル層
6 下絶縁層
8 磁性コア材
8a 感磁部
8b 集磁部
10 上絶縁層
12 上コイル層
14 保護膜
16 電極パッド
20a〜20b 電子方位計
22 磁気センサ用IC
24 x軸磁気センサ素子
26 y軸磁気センサ素子
28 z軸磁気センサ素子
30 エポキシ基台
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子とその製造方法およびその磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関し、特に磁気センサ素子を3個直交して配置した3軸磁気センサの構成とした電子方位計としても、携帯情報端末に搭載可能な磁気センサ素子とその製造方法、及びその磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関する。
【背景技術】
【0002】
電子方位計は、センサなどを用いて電気的に方位を表示できるという特徴を有する。一般的に、複数の磁気センサ素子を配置して電子方位計を構成する。この様に構成された平行フラックスゲート型の磁気センサ素子は、励磁した磁界と平行な磁界に対して線形な出力を示す。よって、直交配置された複数の磁気センサ素子の出力から得られたデータを演算することで、基準に決めた方向からの角度、すなわち方位角を算出することができる。この方位角から得られた方位は、アナログ、デジタルの電気信号として処理できるため、携帯電話、PDAといった携帯情報端末や腕時計、車両用方位計であるカーナビゲーション装置、航空機の姿勢検出、視覚障害者向け、ゲーム機といった様々な電子機器への応用が期待されている。
【0003】
特に近年、GPS等を利用した携帯情報端末向けの位置情報提供サービスが始まっている。このサービスによれば、利用者は現在の位置情報を端末上の画面を見ながらにして判るようになっている。この端末に電子方位計を組み合わせることで、利用者が今どの方位を向いているのか、或いは歩行中であるならばどこに向かおうとしているのかが判る。この位置情報と電子方位計に関する情報提供サービスは、今後多くの産業界に新しいビジネスを生み出すものと考えられ、また利用者に有益な情報をもたらす。
【0004】
一方、上述した携帯情報端末は、小型薄型の傾向にあり、その中に搭載される電子デバイスとしては小型低背が求められている。ここで望まれる磁気センサ素子の幅は数mm程度であり、高さとしては、特に1.5mm以下が必須であり、好ましくは1.0mm以下のサイズが求められている。
【0005】
この様な用途の磁気センサ素子として、一般的に、メッキやスパッタなどの薄膜技術を利用して薄膜磁性コア材を形成した素子を用いて素子サイズを小さくすることが知られている。しかし、平行フラックスゲート型の磁気センサ素子とするときは、コアの保磁力を測定磁界の1/10程度以下としなくては検出感度が得られないので、例えば、数百mOe程度の地磁気を検出するためには、コアの保磁力を30mOe程度とすることが必須となる。それに対して、メッキまたはスパッタリングで得られる薄膜磁性コア材では、その保磁力が1Oe程度となってしまうので、地磁気の検出は困難となる。したがって、薄膜磁性コア材を用いた磁気センサ素子の構成においては、素子を小型化とすることはできるが、正確な方位角を得ることが困難になる。
【0006】
この様な問題を解決するために、小型化が可能な短冊状の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図12に従来の磁気センサ素子を示した。本図中(a)は、この磁気センサ素子の構成例を示す斜視図を示しており、図中(b)は、この素子のサイズを示した図面であり、図中(c)は、図(a)の側面図を示している。
【0008】
この素子は、磁性コア材としてパーマロイ箔を利用しており、この磁性コア材が貼り付
けられた非磁性基台2の周回をコイルで巻回した構成とし、両端に集磁部8bを、その間に感磁部8aを、そして、非磁性基台2の両端に電極パッド16を有する構成となっている。そして、磁性コア材長手方向中央部の断面積を端部より小さくして磁束を集中させ、B−Hカーブ上での偏移量を大きくしている。この様に構成すれば、上記特性を備えたとしても、図12(b)に示す様に、長手方向に3mm、幅0.3mm程度のサイズとすることができる。
【0009】
そして、図示しないが、基台水平面上に2個の上記磁気センサ素子を直交で配置した2軸磁気センサ(電子方位計)は、幅がやや大きくなるものの、高さを1mm程度とすることができる。よって、この2軸磁気センサを有する電子方位計は、携帯情報端末への搭載が可能となる。
【0010】
また、磁気センサ素子1aを一周回させたとき、磁気センサ素子1aは正弦曲線の出力を示す。90度直交に配置された2軸磁気センサの2つの出力は90度位相の異なる出力関係となり、この出力から方位角を算出することができる。この様な平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が磁界に比例した出力を得ることが出来るのは、以下の検出原理による。
【0011】
まず、磁性コア材に巻回した励磁用コイルに三角波電流を印加する。三角波電流によって生じた三角波状の磁界により、その中の磁性コアはB−Hカーブに沿って、磁化飽和と反転を繰り返す。この磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するため、それを検出用コイルによって検出する。そして、三角波電流の周波数が変わらなければ、外部磁界の大きさに応じてそのパルス位置はシフトする。そのパルス発生の時間変化を検出回路で取り出し、外部磁界の大きさに応じた出力を得ることができるようになる。なお、上述した説明ではコイルは励磁用と検出用に分けて記載したが、1つのコイルで兼用することも可能である。
【0012】
【特許文献1】特開2004−184098号公報(第6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した機能を有する2軸磁気センサである電子方位計を備えた携帯情報端末を傾けた状態(傾斜環境下)で利用者が方位を得ようとした場合に、この電子方位計には以下の問題が生じる。
【0014】
つまり、携帯情報端末の利用者は、様々な使用方法や持ち方をすることが想定され、その際の電子方位計に内蔵された磁気センサ素子が、水平面に対して傾斜した状態で使用する場合がある。そこでこの様な環境下においては、上記の2軸磁気センサでは正確な方位角を算出することができない。したがって、3つの磁気センサ素子を用意し、これら素子を直交する3軸に対してそれぞれ配置すれば、より正確に方位角を求めることができるようになる。
【0015】
図13に特許文献1に記載された磁気センサ素子で3軸磁気センサ素子を構成した電子方位計の一構成例を示す。この様に構成すると、1つの軸の長手方向を水平2軸に配置した磁気センサ素子に対して垂直に配置する必要が生じるため、電子方位計の高さが少なくとも3mm以上(図12(b)参照)となってしまう。そのため、この様な構成のままの電子方位計を携帯情報端末に搭載することは要求される低背化の面から好ましくない。
【0016】
そこで、この従来の磁気センサ素子を更に小型化するために、素子の長手方向を短くすることが考えられる。しかし、単に素子サイズを短くすると、有効な磁束を収束させるこ
とが困難となる。つまり、この形態では、形状効果による反磁界の影響が顕著となり、集磁部8b(図12(a)参照)で集めた磁束が有効に感磁部8aに収束しなくなるからである。
【0017】
また、外部の磁束を有効に集めるために、素子の端部の幅(集磁部8bの幅)を中央部の幅(感磁部8aの幅)に比べて大きくすると、非磁性基台2の幅もそれに伴い大きくなってしまう。すると、感磁部8aを磁気飽和させるために必要な励磁電流が著しく大きくなってしまい、現実的には磁気飽和させることが不可能となる。
【0018】
さらに、磁気センサ素子の長手方向のサイズを小型化する他の手段として、磁性コア材に密接させてコイルを巻回して、非磁性基台2および磁性コア材8の中央部をくびれ形状に施すことも考えられるが、この非磁性基台2のくびれ形状等の微細加工は非常に困難である。仮に非磁性基台2にくびれ形状を施せたとしても、中央部の幅(感磁部8aの幅)が0.1mm以下としなくてはならないため、コイルを巻き回す際に容易にこのコイルが破損してしまう虞がある。
【0019】
したがって、従来の磁気センサ素子においては、素子の幅を0.3mm程度とするのが適当であり、それ以上小さくすることは地磁気検出を困難としてしまい好ましくないことが判る。
【0020】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、小型化しても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子とその製造方法、およびその磁気センサ素子を3個直交して配置して3軸磁気センサの電子方位計としても小型低背化となり、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の磁気センサ素子とその製造方法及び電子方位計は、基本的には下記記載の形態を採用する。
【0022】
本発明にかかる磁気センサ素子は、両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、薄膜コイルは、下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する下コイル層と上コイル層とがそれぞれ接続されてコイルを構成していることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明にかかる磁気センサ素子は、前述した感磁部の断面積が集磁部の断面積の1/5〜1/30となる様に構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
さらに、本発明にかかる磁気センサ素子は、前述した集磁部が、感磁部に対して厚みを厚くして形成されてなることを特徴とするものである。
【0025】
またさらに、本発明にかかる磁気センサ素子は、上絶縁層が、所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とするものである。
【0026】
本発明にかかる電子方位計は、上述した磁気センサ素子を少なくとも2個以上用いて非磁性基台上に配置されてなることを特徴とするものである。
【0027】
本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、両端に集磁部を、その両端の集磁部の間
に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子の製造方法であって、表面が絶縁された非磁性基台上に複数個の下コイル層と接続パッドを形成する工程と、この下コイル層の少なくとも一部を被覆した下絶縁層を形成する工程と、下絶縁層の表面に所定の形状の磁性コア材を配設する工程と、磁性コア材の表面に上絶縁層を形成する工程と、上絶縁層の表面に、下コイル層と接続して、磁性コア材の外周に巻き回してコイルとするための複数個の上コイル層を形成する工程とを有することを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、前述した下絶縁層を形成する工程が、下コイル層を全て覆って下絶縁層を形成するとともに、下コイル層と上コイル層との接続をするための開口部を設ける工程であることを特徴とするものである。
【0029】
さらに、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、前述した下絶縁層を磁性コア材の所定の形状よりも幅広く形成して、この下絶縁層と磁性コア材とにより段差を形成することを特徴とするものである。
【0030】
またさらに、本発明にかかる磁気センサ素子の製造方法は、磁性コア材を配設する工程が、磁性コア材の外形形状をエッチングする工程と、磁性コア材の感磁部が形成される領域を集磁部よりも薄くして形成する工程であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、小型化としても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子が得られ、更にその磁気センサ素子を3個配置して3軸磁気センサとした電子方位計を構成しても、小型低背化でき、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の磁気センサ素子は、基本的に、軟磁性体からなる磁性コア材と、下コイル層と上コイル層とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材は、中央部の感磁部と両端部の集磁部とからなる構成を採用したものである。その具体的な構成について、以下の実施例にて詳細に説明をする。
【実施例1】
【0033】
図1(a)は、本発明の基本構成である磁気センサ素子1aの概念を示した上部平面図である。図中(b)は、上部平面図における1C方向から見たときの素子の側面図である。図中(c)は、上部平面図における1A−1A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。また、図中(d)は、上部平面図における1B−1B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0034】
ここに示す磁気センサ素子1aは、図1に示す様に、磁性コア材8と、下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材8は、中央部の感磁部8aと両端部の集磁部8bとからなり、感磁部8aの断面積は集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30となる様に構成されている。その理由に付いては、後述する。
【0035】
そして、この磁気センサ素子1aは、表面が絶縁された非磁性基台2上に配置された軟磁性体からなる磁性コア材8と、感磁部8aの周囲に薄膜コイルが巻き回されて、平行フラックスゲート型の磁気センサ素子を構成している。
【0036】
さらに、この磁気センサ素子1aは、図1(b)〜(d)に示す様に、磁性コア材8の
上面および下面にそれぞれ上絶縁層10と下絶縁層6とを有し、薄膜コイルは、前述した様に下絶縁層6の下面に形成された複数個の下コイル層4の金属薄膜と、上絶縁層10の上面に形成された複数個の上コイル層12の金属薄膜により構成されて、図1(b)(c)の様に、隣接する下コイル層4と上コイル層12とが接続されてコイルを構成している。
【0037】
次に本発明の磁気センサ素子1aの形状について説明をする。
本発明の磁気センサ素子1aは、上述した様に、磁性コア材8(パーマロイ箔)が下絶縁層6上に形成され、この下絶縁層6と上絶縁層10とにより絶縁されて、下コイル層4と上コイル層12とがそれぞれ磁性コア材8に巻き回されて形成されたコイルを有する構成となっている。
【0038】
そして、この下コイル層4と上コイル層12とで形成される薄膜コイルに流れる電流をコイルの両端から印加することによって、パーマロイ箔である磁性コア材8の励磁が行われる。ここで、薄膜コイルが磁気センサ素子1aの中央部(感磁部8a)に形成されているのは、その磁性コア材8の励磁が感磁部8aのみ行われる様にするためである。また、図1(c)における下絶縁層6の厚みは約15μm程度、図1(d)における磁性コア材8と上コイル層12の間は5μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、磁性コア材8であるパーマロイ箔に有効に印加される。
【0039】
また、ある一つの方向に一定の静磁界がある環境下で、磁気センサ素子1aを一周回させたときの角度に対する磁気センサ素子1aの出力は、その静磁界と平行に同じ向きにあるときに最大となり、逆向きにあるときに最小の正弦曲線を示すことが理想的な指向性を有する特性であるとされている。そこで、本発明の磁気センサ素子1aでは、集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/17とし、素子の指向性が劣化することなく、小型化においても十分に磁界(地磁気)を検出することができるようになる。
【0040】
例えば、感磁部8aのX方向の幅を60μm、集磁部8bのX方向の幅を2000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/35程度にすると、検出したい磁気センサ素子1aがY方向以外からの磁界を拾ってしまい、指向性が劣化してしまう。更に、サイズ的にもX方向の専有面積が大きくなり、磁気センサ素子1aの小型化の点で不利となる。それに対して、感磁部8aを集磁部8bの断面積に対して1/30よりも大きくすると、上述したY方向以外からの磁界を拾い難くなり、指向性の低下を極力抑えることが出来るようになる。
【0041】
また、感磁部8aのX方向の幅を60μm、集磁部8bのX方向の幅を180μm程度とした場合、すなわち集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積を1/3程度にすると、磁界を検出するのに必要な磁束が感磁部8aに流入しなくなる。それに対して、感磁部8aを集磁部8bの断面積に対して1/5より小さくすることで、検出したい磁束が正常に感磁部8aに流れるようになる。
【0042】
以上の事項から、本発明における磁気センサ素子1aの感磁部8aの断面積は、集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30程度に設定することが好ましいことが判る。
【0043】
この様に、本発明の構成によれば、集磁部8bに対して感磁部8aは1/17のサイズに設計され、集磁部8bが1000μm程度の大きさとなっているため、地磁気程度の磁界を有効に集磁部8bで集め、感磁部8aに収束することができるようになる。したがって、本発明の磁気センサ素子1aは、小型でありながら地磁気を検出するのに十分な感度を得ることが可能となる。
【0044】
また、本発明の構成によれば、コイルが下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルによって構成されており、従来の巻線方式とは異なる形態を有している。これにより、特に集磁部8bを幅広にした構成においても磁性コア材8を有効に励磁することができ、素子を小型化しても地磁気検出を実現することが可能となる。
【0045】
更に、本発明の構成によれば、磁性コア材8として薄膜プロセスによるスパッタ、メッキで作成されたものではなく、パーマロイ箔を利用しており、小型化での地磁気検出を行うのに適した磁気特性を有するものとなる。
【0046】
次に本発明の電子方位計について図面を用いて説明を行う。
図2は、本発明の磁気センサ素子1aを3個用い、エポキシ基台30上に実装して配置したときの概念を示した図面である。
【0047】
図2に示す通り、本発明の電子方位計20aは、x軸磁気センサ素子24、y軸磁気センサ素子26、z軸磁気センサ素子28、これら磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC22から構成される。各x軸、y軸、z軸磁気センサ素子24,26,28は互いに90度直交に配置されており、これらの出力を基に方位を演算することが可能となる。
【0048】
そして、図示はしないが、各磁気センサ素子1aの保護をするための樹脂を被せ、更に、これらの素子を載せたエポキシ基台30に磁気センサ用IC22を駆動するための電源端子、磁気センサ素子1aで検出した磁界を出力するための出力端子などを構成することで、電子方位計20aのパッケージを得ることができる。この電子方位計20aは、z軸磁気センサ素子28の高さが700μmであるため、エポキシ基台30の厚みを300μm以下にすることによって、地磁気の検出が可能であり、かつ電子方位計20aの高さを1mm以下のサイズとすることが可能となる。
【0049】
この様に、本発明の磁気センサ素子1aを3個用いた電子方位計20aを構成することにより、この電子方位計20aを小型低背化でき、携帯情報端末に搭載が可能となる。
【0050】
次に本発明の磁気センサ素子1aの製造方法について図3を用いて詳細に説明を行う。
【0051】
まず、シリコンウェハーの表面が約0.2μmの酸化膜を有する非磁性基台2を用い、更にその表面に下コイル層4及び電極パッド16となるCu膜を所定の厚さでスパッタ或いはメッキにより非磁性基台2全面に形成する。
【0052】
次に、下コイル層4と電極パッド16として残す部位をレジストで覆い、レジストで覆われていない箇所をエッチングによって除去し、図3(a)に示す様に、所望の形状の下コイル層4と電極パッド16を形成する。図中には簡易的に数ターンの薄膜コイルが示されているが、薄膜コイルの厚さは約2μm、幅5μm、ターン数は50ターンとしている。
【0053】
次に、図3(b)に示す様に、下絶縁層6となる耐熱性が150℃程度であるエポキシ系接着シート材を、全面を覆って非磁性基台2の表面に貼り付ける。なお、本図面においては、図3(a)に示した下コイル層4と電極パッド16が、ともに下絶縁層6によって被覆された状態を示したので、本図面には下コイル層4と電極パッド16は示されていない。
【0054】
次に、図3(c)に示す様に、磁性コア材8であるパーマロイ箔をこの下絶縁層6上に載せ、約1.5MPaの圧力で押さえつけながら約150℃、30分加圧接着を施す。こ
のパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔として、水素雰囲気1100℃に磁気焼鈍された厚さ10μmの箔を用いている。
【0055】
なお、この磁性コア材8のパターン化(図1(a)に示したH型の形状)は、下コイル層4形成と同じように、パターンをレジストで覆った後、塩酸、硝酸、過酸化水素系のエッチング液で所定の形状にパターン形成して得る。この様にして形成された磁性コア材8の全体サイズは、Y方向の幅(図1(a)参照)を700μm、X方向の幅を1000μmで、中央の感磁部8aにおけるY方向の幅を400μm、X方向の幅を60μm、端部の集磁部8bにおけるY方向の幅を150μm、X方向の幅を1000μmとしている。
【0056】
更に、続けて図3(d)に示す様に、下絶縁層6である接着シート材を酸素プラズマによりアッシング除去し、下絶縁層6もパーマロイ箔と同じ形状にパターン化する。これにより下コイル層4の端部は、上コイル層12と接続するために開口する。
【0057】
次に、上絶縁層10形成のためのネガ型厚膜レジストを非磁性基台2の表面全面に均一になるようにスピンコートする。なお、このレジストの厚みは20μmを超えて形成されるため、一度にこのレジストを均一に塗布することは難しい。そのため、同一のレジスト材を2回に分けて塗布し、レジストの厚みが約25μmとなるように調整して設ける。続けて、下絶縁層6と磁性コア材8が覆われた上絶縁層10を台形状にパターン化(図1(c)(d)参照)して、図4(a)に示す構造体を得ることができる。
【0058】
更に、図4(b)に示す様に、下コイル層4と接続をして磁性コア材8の外周に巻き回されたコイルを形成するために、上コイル層12を形成する。ここでは、段差のエッジ部での配線切れの虞があるため、スパッタ装置の試料台には、自公転する機構があるものを用い、段差部にも上コイル層12となる金属材料が成膜できる様にする。
【0059】
まず、ターゲットと対向した試料保持用の治具に非磁性基台2のウェハーを取り付け、スパッタ膜が段差のエッジ部にも周り込む様に、ウェハー全面に数μmのスパッタ膜を成膜する。次に上コイル層12のパターンをフォトリソエッチング工程によって図4(b)の構造体を得る。なお、上コイル層12のパターン形成では、立体面上に均一にレジストをスプレー塗布し、投影露光によってパターンを得る方式を採用した。
【0060】
ここで得られた構造体は、図1(b)に示した通り、上コイル層12が、下コイル層4と配線の端部で接続されており、段差エッジ部での配線切れが懸念されるが、上記の方法では自公転機構のスパッタ装置を利用することで、配線パターンを段差エッジ部にも容易に形成することが可能となる。
【0061】
最後に、図4(c)に示す様に、素子を保護するための保護層14を形成し、本発明の磁気センサ素子1aが完成する。なお、保護層14には接続パッド16の部分を開口しておくようにする。そして、他の電子回路にこの平行フラックスゲート型の磁気センサ素子1aを実装して、前述した電子方位計20a(図2参照)とすることができる。
【0062】
以上の説明の如く、従来技術では、非磁性基台2の周回をコイルで巻回するマクロ的な作成方法であるのに対して、本発明では、磁性コア材8であるパーマロイ箔を非磁性基台2に貼り付けるマクロな作成プロセスと、このパーマロイ箔を貼り付けた非磁性基台2に薄膜コイルを作成するミクロな作成プロセスを併用した方法を適用した例を示した。そして、上記した本発明の製造方法を採用することによって、先に示した小型の磁気センサ素子1aを製造することができ、それを複数個配置することで、携帯情報端末に搭載可能なサイズの電子方位計20aを提供することが可能となる。
【実施例2】
【0063】
次に、本発明の第2の実施例について説明を行う。
図5(a)は、本発明の実施例2における磁気センサ素子1bの概念を示した上部平面図であり、同図(b)は、この磁気センサ素子1bを2C方向から見たときの側面図である。また、同図(c)は、上部平面図の2A−2A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。さらに、同図(d)は、上部平面図の2B−2B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0064】
なお、本発明の磁気センサ素子1bは、実施例1と同様に、軟磁性体からなる磁性コア材8と、その外周に巻き回された下コイル層4と上コイル層12とにより構成される薄膜コイルとによって基本的に構成されているが、図5(b)に示す様に、集磁部8bの厚さが感磁部8aの厚さよりも厚く構成されている点と、図5(c)に示す様に、下絶縁層6が磁性コア材8よりもX方向に広く形成されている点が、先の実施例とは異なる。他の構成要件は、実施例1と同じであるので、ここでの詳細な説明は割愛する。
【0065】
上述した様に、感磁部8aの厚さに対して集磁部8bの厚さを厚くすることで、先に示した実施例1の効果に加えて、より小型な磁気センサ素子1bとすることができる。つまり、この素子が感磁部8aにてセンシングするのは、感磁部8aの断面積に起因し、集磁部8bの断面積は特に影響しないからであり、本構成であっても十分に磁気センサ素子として機能する。
【0066】
この様に、厚さを変えて、集磁部8bの断面積を感磁部8aの断面積よりも大きく構成することで、先に実施例1に示した構成に比べて、図4に示す磁気センサ素子1bのX方向をより小型にできる。
【0067】
さらに、下絶縁層6のX方向のサイズを磁性コア材8よりも大きく形成することで、下コイル層4と接続をし、かつ下絶縁層6と磁性コア材8へ乗り上げる、上コイル層12の段差部における断線を極力抑えることができる様になる。
【0068】
この様に、上記構成では、集磁部8bを感磁部8aに比べて厚みを大きくしているが、実施例1と同様に、集磁部8bの断面積に対して感磁部8aの断面積が1/17に設計されているので、磁界検出における指向性は劣化することなく、素子サイズを小型化したとしても、十分に磁界(地磁気)を検出することができるようになる。
【0069】
なお、本実施例の場合も、磁気センサ素子1bの感磁部8aは、集磁部8bの断面積に対して1/5〜1/30程度になるように設計する必要がある。
【0070】
次に、本発明の磁気センサ素子1bの製造方法について図6を用いて詳細に説明を行う。
【0071】
まず、図6(a)図6(b)に示す様に、非磁性基台2には、実施例1と同じ様に下コイル層4と電極パッド16及び下絶縁層6の形成する。また、下絶縁層6の表面への磁性コア材8の貼り付けも、図6(c)に示す様に、実施例1と同様に行う。ここで用いる磁性コア材8は、実施例1と同様にパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔であるが、水素雰囲気1100℃に磁気焼鈍された厚さ20μmの箔を用いている。
【0072】
さらに、図6(d)に示すパーマロイ箔のパターン化(感磁部8aの厚みを集磁部8bの厚みよりも薄くする方法)は、2回のエッチング処理により形成する。まず、X方向(図5(a)参照)の幅が700μm、Y方向の幅が500μmであり、中央の感磁部8aにおけるX方向の幅が400μm、Y方向の幅が60μm、端部の集磁部8bにおけるX
方向の幅が150μm、Y方向の幅が500μmとなる様に、塩酸、硝酸、過酸化水素系のエッチング液で、パーマロイ箔の外形を図5(a)に示す形状にパターン形成する。
【0073】
次に、マスクとして用いたレジストを剥離した後、感磁部8aのみが開口するように再度磁性コア材8の表面をレジストで覆い、感磁部8aをエッチングする第二のエッチング処理を行い、この感磁部8aの厚みが10μmとなる様にパターン形成する。なお、前述した手法のみならず、感磁部8aの厚みを集磁部8bの厚みよりも薄くする方法として、段差レジスト予め形成して、感磁部8aと集磁部8bのエッチング開始の時間差を生じさせて、目的の形状の磁性コア材8を形成する手法を用いても構わない。
【0074】
次に、下絶縁層6の外形パターンを形成する。下絶縁層6は、実施例1においては磁性コア材8の外形と同じになるようにパターンを形成したが、ここでは、磁性コア材8の外形パターンより若干大きく、また下コイル層4と後に形成する上コイル層12の接続部が開口する様に下絶縁層6のパターンを形成する。
【0075】
具体的には、磁性コア材8が覆われ、かつ上コイル層12と下コイル層4とが接続する箇所のみが開口する様に、まずマスクとなるレジストを非磁性基台2表面に形成する。次に、酸素プラズマによるアッシング除去を行うことで、図7の(a)に示す下絶縁層6を得る。なおこの工程で、下絶縁層6が、磁性コア材8よりも大きく、かつ下コイル4が形成された領域を全て覆う形態である場合には、下コイル4を露出させる必要がある箇所のみに、開口部を設けても構わない。
【0076】
更に図7(b)に示す様に、ポジ型のレジストを用いて、磁性コア材8が全て覆われる様に上絶縁層10を形成する。このとき、上絶縁層10の段差は20μm程度となる。また、下絶縁層6を図5(c)(d)に示した形状にして段差部を階段状にすることができ、これにより、上述した様にこれに乗り上げて形成される上コイル層12の断線、または磁性コア材8と上コイル層12とのショートを極力抑えることができる様になる。
【0077】
そして、図7(c)に示す様に、上コイル層12を実施例1と同様に形成する。その形成方法は、実施例1で説明をしたスパッタとエッチングを組み合わせた方法により行っても良いし、フレームメッキ法を利用しても良い。以下の説明はフレームメッキ法による上コイル層12の形成方法を示す。
【0078】
まず、メッキの下地電極となるCu膜を図7(b)に示す構造体の表面全面に数百Åから数千Å程度スパッタリング法により形成する。そして、ここで行われる上コイル層12の配線パターニングは、段差部を含めて高低差が20μmを超えてしまうため、上コイル層12の配線の幅を揃えることが難しい。そこで、ここでは厚膜のエポキシ系レジスト材料を用いてパターニングを行う手法を採用した。なお、フォトリソ工程にて露光するときに、マスクとのコンタクトができるだけ全面均一となることが好ましく、段差部を緩和し、かつ空気溜まりを生じない様に均一にレジストを塗布することが肝要である。
【0079】
この空気溜まりが生じさせないためには、レジスト材料の溶剤となる有機溶媒を表面に薄くなじませた後に、レジストを塗布すれば良い。そして、基板表面の全面に設けられたCu膜から上コイル層12の配線パターンを形成した後、電解Cuメッキを施して、約2μmの厚さになるようにコントロールして形成する。その後、残存させるパターン以外の下地共通電極(電解メッキで用いた電極)をエッチングにより除去し、図7(c)に示した構造体を得ることができる。
【0080】
上記工程を経て、磁性コア材8が下絶縁層6と上絶縁層10とを介して、上コイル層12と下コイル層4とで挟まれた形態となる。なお、前述した通り、下絶縁層6を磁性コア
材8よりも大きく形成しているので、上絶縁層10の端部は、傾斜勾配を有する構成となり、これら一連のプロセスにおいて上コイル層12の配線が断線してしまうことを抑止することができる。
【0081】
最後に、図7(d)に示す様に、素子を保護するために保護膜14を形成して、磁気センサ素子1bが完成する。なお、実施例1と同様に、保護層14は接続パッド16の部分を開口しておくようにする。これにより電子方位計20a(図2参照)として他の回路基板に実装して、携帯情報端末に搭載することが出来るようになる。
【実施例3】
【0082】
次に、本発明の第3の実施例について説明を行う。
図8(a)は、本発明の実施例3における磁気センサ素子3cの概念を示した上部平面図であり、同図(b)は、上部平面図を3C方向から見たときの側面図である。また、同図(c)は、上部平面図の3A−3A断面を示した図であり、下コイル層4が形成されている箇所の断面を示している。さらに、同図(d)は、上部平面図の3B−3B断面を示した図であり、上コイル層12が形成されている箇所の断面を示している。
【0083】
なお、本図面に示す本発明の磁気センサ素子1cは、実施例1及び2と同様、磁性コア材8と、その外周に巻き回された下コイル層4と上コイル層12とからなる薄膜コイルによって基本的に構成されている。そして、図8(b)に示す下絶縁層6に、実施例1で用いたエポキシ系接着シート材に代えて、耐熱性が300℃程度のポリイミド等の有機絶縁コート層を用いている点のみが、先の実施例と異なっている。
【0084】
上記構成要件を実施例1に示した構成例に新たに加えることで、下絶縁層6の厚みを薄くできる。そのため、上絶縁層10により形成される段差部をさらに小さくすることが出来るようになる。したがって、本構成を採用することにより、より容易に上コイル層12のパターン化ができる様になる。また、磁性コア材8と薄膜コイルとのギャップをより狭くできるために、薄膜コイルに流れる電流をより有効に励磁に利用することができる。
【0085】
また、図8(c)(d)により、下絶縁層6の厚み、及びパーマロイ箔からなる磁性コア材8と上コイル層12との間も数μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、より有効に磁性コア材8であるパーマロイ箔に印加することができる。よって、薄膜コイルのターン数の減少、或いは励磁電流を更に少なくすることができ、実施例1の効果に併せて、消費電流を更に少なくできるという効果を奏する。
【0086】
次に本発明の電子方位計20bについて図面を用いて説明を行う。
図9は、本発明の磁気センサ素子1cを2個用い、エポキシ基台30上に実装した2軸磁気センサである電子方位計20bの概念を示した斜視図である。
【0087】
図2で示した3軸磁気センサである電子方位計20aに代えて、本図面に示す電子方位計20bは、x軸磁気センサ素子24、y軸磁気センサ素子26、これら磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC22から構成される。x軸、y軸磁気センサ素子24,26のそれぞれは、互いに90度直交に配置されており、これらの出力を基に方位を演算することが可能となっている。
【0088】
また、ここでは図示しないが、この図9で示される構成に、各磁気センサ素子1cの保護をするための樹脂を被せ、更にこれらの素子を載せたエポキシ基台30に磁気センサ用IC22を駆動するための電源端子、磁気センサ素子1cで検出した磁界を出力するための出力端子などを構成することで、電子方位計20bのパッケージを得ることができる。この電子方位計20bは、x、y軸磁気センサ素子24,26の大きさが1mm角程度で
あるため、平面での占有面積を従来のものよりも小さくすることができる。
【0089】
次に、本発明の磁気センサ素子1cの製造方法について図10を用いて詳細に説明を行う。
【0090】
まず、図10(a)に示す様に、非磁性基台2上に設ける下コイル層4及び電極パッド16の形成を、実施例1及び2と同様に行う。
【0091】
次に、図10(b)に示す様に、下絶縁層6となるポリイミドを表面が均一になるようにスピンコートする。そして、図10(c)に示す様に、ポリイミド材中の溶剤を蒸発させた後、パーマロイ箔を上に載せ、約1.5MPaの圧力で押さえつけながら約300℃、30分加圧接着し、図10(d)に示す様に、エッチングにより所定の形状の磁性コア材8を得る。なおここで用いた磁性コア材8は、実施例1と同様にパーマロイ(80%Ni−5%Mo−Fe)箔である。
【0092】
その後の工程も、実施例1及び2と同様であり、図11(a)に示す様に、上絶縁層10、図11(b)に示す様に、上コイル層12、図11(c)に示す様に、保護層14をそれぞれ形成し、本発明の磁気センサ素子1cを得ることができる。
【0093】
なお、実施例1から3に示した本発明の磁気センサ素子1a〜1cにおける感磁部8aのX方向の幅は、60μmでなくとも良く、60μmからプラスマイナス数十μm程度であれば任意の値に設定することが可能である。但し、この幅を大きくした場合には、この磁気センサ素子により得られる検出パルスも大きくなるため、それに適した回路の最適化をする必要がある。
【0094】
また、先にも示した様に、感磁部8aのX方向の幅は、集磁部8bの幅に対して1/30〜1/5となる様に設定することが重要である。これは、指向性が劣化することなく、かつ十分に集磁部8bで外部の磁界を吸い上げて感磁部8aに磁束を集めるためである。
【0095】
さらに、先の実施例では、感磁部8aの厚みを10μmとした例を示したが、この感磁部8aの厚みはできるだけ薄い方が好ましい。但し、あまりに薄くし過ぎると、取り扱いをする際に、折り曲げなどによる加工歪みが発生しやすく、磁気特性が劣化してしまう虞がある。一方、感磁部8a厚くしすぎると、励磁周波数の表皮厚さよりも厚みが厚くなり、急峻な磁化反転が起こりにくくなる。よって、感磁部8aの厚みによって検出能力が低下してしまう虞があるため、励磁するための電流設定値に基づき、感磁部8aの透磁率が低下しない適切な厚みと励磁周波数を選択して形成すれば良い。
【0096】
またさらに、上記の実施例においては、説明を簡便とする為に図1、図5、図8のC方向から見た場合に、薄膜コイルの配線パターンが上コイル層12と下コイル層4でずれている形態を示して説明を行ったが、それに限定されるものではない。この構成で薄膜コイルのパターンを形成すると、感磁部8aに施せる薄膜コイルのターン数が減少してしまい、実際に小型の磁気センサ素子1a〜1cを構成する上で好ましくない。したがって、この様な問題は、薄膜コイルの配線や接続部のパターンを変えることによって、容易にずれ量を縮小することが可能となる。またそのために、上コイル層12を下コイル層4と多少斜めに配線パターンを形成することによって、上記問題を解消することも可能である。
【0097】
またさらに、本発明の磁気センサ素子の1a〜1cでは、電極パッド16を下コイル層4と同じ平面上に形成した例を示したが、これに限定されるものでなく、例えば、上コイル層12と同じ平面上で、かつ集磁部8bの上に積層されて、上絶縁層10上に形成しても構わない。
【0098】
またさらに、説明を分かりやすくするために、各図面において接続パッド16を大きくして明記したが、後の実装が行える様なサイズであれば、より小さくすることも可能である。これにより、X方向の磁気センサ素子1a〜1cのサイズを更に小さくすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の基本構成における磁気センサ素子の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における1A−1A断面図、上部平面図における1B−1B断面図を示した図面である。(実施例1)
【図2】本発明の電子方位計の概念を示した斜視図である。(実施例1)
【図3】本発明の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例1)
【図4】図3の続きの工程を示す図面である。(実施例1)
【図5】本発明の磁気センサ素子の他の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における2A−2A断面図、上部平面図における2B−2B断面図を示した図面である。(実施例2)
【図6】本発明の他の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例2)
【図7】図6の続きの工程を示す図面である。(実施例2)
【図8】本発明の磁気センサ素子のさらに他の構成例を示す上部平面図、側面図、上部平面図における3A−3A断面図、上部平面図における3B−3B断面図を示した図面である。(実施例3)
【図9】本発明の電子方位計の概念を示した斜視図である。(実施例3)
【図10】本発明のさらに他の磁気センサ素子の製造工程を示した図面である。(実施例3)
【図11】図10の続きの工程を示す図面である。(実施例3)
【図12】従来の磁気センサ素子の概念を示した図である。
【図13】従来の電子方位計の概念を示した図である。
【符号の説明】
【0100】
1a〜1c 磁気センサ素子
2 非磁性基台
4 下コイル層
6 下絶縁層
8 磁性コア材
8a 感磁部
8b 集磁部
10 上絶縁層
12 上コイル層
14 保護膜
16 電極パッド
20a〜20b 電子方位計
22 磁気センサ用IC
24 x軸磁気センサ素子
26 y軸磁気センサ素子
28 z軸磁気センサ素子
30 エポキシ基台
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、前記感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、
前記磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、
前記薄膜コイルは、前記下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、前記上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する前記下コイル層と前記上コイル層とがそれぞれ接続されてコイルを構成していることを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項2】
前記感磁部の断面積が前記集磁部の断面積の1/5〜1/30となる様に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子。
【請求項3】
前記集磁部は、前記感磁部に対して厚みを厚くして形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ素子。
【請求項4】
前記上絶縁層が、所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気センサ素子を、少なくとも2個以上用いて非磁性基台上に配設されてなることを特徴とする電子方位計。
【請求項6】
両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、前記感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子の製造方法であって、
表面が絶縁された非磁性基台上に複数個の下コイル層と接続パッドを形成する工程と、
前記下コイル層の少なくとも一部を被覆した前記下絶縁層を形成する工程と、
前記下絶縁層の表面に所定の形状の前記磁性コア材を配設する工程と、
前記磁性コア材の表面に上絶縁層を形成する工程と、
前記上絶縁層の表面に、前記下コイル層と接続して、前記磁性コア材の外周に巻き回してコイルとするための複数個の上コイル層を形成する工程と、
を有することを特徴とする磁気センサ素子の製造方法。
【請求項7】
前記下絶縁層を形成する工程は、下コイル層を全て覆って前記下絶縁層を形成するとともに、前記下コイル層と前記上コイル層との接続をするための開口部を設ける工程であることを特徴とする請求項6に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項8】
前記下絶縁層を前記磁性コア材の形状よりも幅広く形成して、前記下絶縁層と前記磁性コア材とにより段差を形成することを特徴とする請求項6または7に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記磁性コア材を配設する工程が、前記磁性コア材の外形形状をエッチングする工程と、前記磁性コア材の前記感磁部が形成される領域を前記集磁部よりも薄くして形成する工程であることを特徴とする請求項7または8に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項1】
両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、前記感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子であって、
前記磁性コア材の上面および下面にそれぞれ上絶縁層と下絶縁層とを配し、
前記薄膜コイルは、前記下絶縁層の下面に形成された複数個の下コイル層の金属薄膜と、前記上絶縁層の上面に形成された複数個の上コイル層の金属薄膜により構成されて、隣接する前記下コイル層と前記上コイル層とがそれぞれ接続されてコイルを構成していることを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項2】
前記感磁部の断面積が前記集磁部の断面積の1/5〜1/30となる様に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子。
【請求項3】
前記集磁部は、前記感磁部に対して厚みを厚くして形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ素子。
【請求項4】
前記上絶縁層が、所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気センサ素子を、少なくとも2個以上用いて非磁性基台上に配設されてなることを特徴とする電子方位計。
【請求項6】
両端に集磁部を、その両端の集磁部の間に感磁部を有し、軟磁性体からなる磁性コア材と、前記感磁部の周囲に巻回された薄膜コイルとを有する平行フラックスゲート型の磁気センサ素子の製造方法であって、
表面が絶縁された非磁性基台上に複数個の下コイル層と接続パッドを形成する工程と、
前記下コイル層の少なくとも一部を被覆した前記下絶縁層を形成する工程と、
前記下絶縁層の表面に所定の形状の前記磁性コア材を配設する工程と、
前記磁性コア材の表面に上絶縁層を形成する工程と、
前記上絶縁層の表面に、前記下コイル層と接続して、前記磁性コア材の外周に巻き回してコイルとするための複数個の上コイル層を形成する工程と、
を有することを特徴とする磁気センサ素子の製造方法。
【請求項7】
前記下絶縁層を形成する工程は、下コイル層を全て覆って前記下絶縁層を形成するとともに、前記下コイル層と前記上コイル層との接続をするための開口部を設ける工程であることを特徴とする請求項6に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項8】
前記下絶縁層を前記磁性コア材の形状よりも幅広く形成して、前記下絶縁層と前記磁性コア材とにより段差を形成することを特徴とする請求項6または7に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記磁性コア材を配設する工程が、前記磁性コア材の外形形状をエッチングする工程と、前記磁性コア材の前記感磁部が形成される領域を前記集磁部よりも薄くして形成する工程であることを特徴とする請求項7または8に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−234615(P2006−234615A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50473(P2005−50473)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
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