説明

磁気ディスクの製造方法

【課題】 磁表面に分離溝と、これより浅い凹状ピットを有する磁気ディスクの製造工程数を低減する。
【解決手段】データエリア間に形成する分離溝19とコントロール情報を記録する浅い凹状ピット23とを、スタンパ37の押圧によってディスク基板上のレジスト層63に形成する。さらにその上からエッチングをして、レジスト層63による凹凸パターンを踏襲した分離溝19と、凹状ピット23とを同時に形成する。スタンパ37の原盤は、基板上にポジ型のフォトレジスト層を形成し、これにランド部の形成部を露光し、分離溝の形成部を非露光部とし、凹状ピットの形成部を弱露光部として現像し、ランド部形成部のフォトレジスト層を除去し、凹状ピット形成部の弱露光部を一部の厚さを残存させ、分離溝19の形成部は殆ど残存させたフォトレジスト層の凹凸パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記憶装置において大容量を実現するために、より高密度化が求められている。
代表的な磁気記憶装置であるハードディスクドライブ装置においては、すでに面記録密度が、10 Gbit/inch2を超えるものが商品化されている。
図10は、通常のハードディスク概略断面図であり、このハードディスクは、例えば表面にNi層が形成されたAl基板による平坦面による基板1上に、磁性層2、保護層3、潤滑層4が順次被着形成されて成り、その中心孔5を中心に同心上に、環状の記録トラックが、平坦な連続した磁性層に配列され、隣接する記録トラック間は物理的に独立することなく、連続した領域によって形成されている。
したがって、このようなハードディスクにおいては、半径方向の密度、つまりトラックピッチは、再生信号のS/Nに影響を及ぼす。
【0003】
このように隣接する記録トラックが連続した構成による場合において、再生信号のS/Nへの影響を考慮すると、記録磁気ヘッドの磁気ギャップのトラック幅(以下単に記録磁気ヘッド幅という)Wwは、記録トラック幅Wより小(Ww<W)に選定することが必要となる。
すなわち、記録磁気ヘッドによって記録される記録マークの幅は、記録磁気ヘッドの磁気ギャップからのハードディスクの半径方向への漏洩磁界によるにじみ現象によって、実際には、記録磁気ヘッド幅Ww以上の幅となる。このため、記録マークの幅は、記録ヘッドによって形成される部分(記録ヘッド幅と同等程度の幅)と、にじみ現象によって形成される部分とからなり、このにじみ現象により形成されている記録マーク部分からは正確な再生信号を得ることはできないことになる。
したがって、記録磁気ヘッド幅Wwを記録トラック幅Wと同等程度にすると、隣接する記録トラックに対して余分な信号を書き込むことになり、隣接する記録トラックに形成されている記録マークを侵食することになる。
そして、このように記録マークの侵食が生じると、再生ヘッドによってこの記録マークからの漏れ磁界の検出、すなわち記録情報データの再生を行うと、再生信号のS/Nが劣化する。
そこで、記録ヘッドの磁気ヘッド幅Wwは、上述したように、記録トラック幅Wより小(Ww<W)に選定することが必要となる。
【0004】
一方、記録マークの漏れ磁界から高感度な再生信号を得るためには、上述した記録時のにじみ現象により形成された部分からの漏れ磁界を検出しないようにする必要があり、このため、記録マークの幅に対して再生ヘッドの幅Wrを等しいか、若しくはそれよりも狭くする必要がある。特に、再生動作時のサーボの偏差により記録トラックの中心を常にトレースできるわけではないので、その分を見込んだ再生ヘッド幅Wrに選定する必要がある。
しかし、再生ヘッドの幅Wrを狭くすると、得られる再生信号が小さくなるため、S/Nが低下してしまうことから、この幅Wrはできるだけ大とすることが望ましい。
【0005】
以上のことから、再生ヘッドの幅Wrと、記録磁気ヘッドWwと、記録トラック幅Wの関係は、
Wr<Ww<W
に選定することになる。
つまり、記録トラック幅Wのすべてを使った記録マークの形成はできないものであり、一方で、形成された記録マークの幅をすべて再生対象にできるわけではない。
【0006】
そこで、現在、ハードディスクの高密度化の技術としてDTR(Discrete Track Recording)といわれる手法が提案されている〈例えば非特許文献1参照〉。
DTRによれば、上述した記録トラックのピッチに対する問題を軽減することができる。具体的には、隣接する記録トラック間に物理的な分離溝を設けて隣接する記録トラック同士をそれぞれ独立分離させ、溝内からの漏れ磁界が再生ヘッドに届かないように、すなわち再生ヘッドが漏れ磁界を検出しない程度の溝深さ及び溝形状となるように形成されたハードディスクである。
【0007】
このDTRにより、隣接する記録トラック間に分離溝が形成されてなるハードディスクにおいては、上述したにじみ現象を考慮する必要がないため、記録磁気ヘッド幅Wwは、記録トラックの分離溝間のランド幅よりも大きくすることができるものであり、記録マーク幅は、分離溝間のランド部の全幅に渡って形成することができる。
また同時に、上述したにじみ現象に対する考慮の必要がないことから、再生磁気ヘッド幅Wrは、分離溝間のランド部の全幅に渡る幅、すなわちランド幅よりも大きくすることができる。したがって、サーボの偏差があってもランド部の全幅をすべて再生することができる。
つまり、DTR構成では、記録マークの幅は、ランド部幅できまり、記録マーク幅を大きく形成できるため、トラックピッチに対するS/Nを高めることができる。
【0008】
ところで、ハードディスクにおいては、これに対して、あらかじめ記録されるサーボ信号や、アドレス信号等の情報の書き込みもS極/N極の磁気信号で記録されている。これらの情報の書き込みは、ハードディスクをセットに組み込む前に所要の書き込み装置によって行っていた。
DTRを用いたハードディスクでは、分離溝の存在によってディスク成型時に凸部として記録トラックが形成されるため、記録トラックに沿う形で、サーボ情報を書き込んでいくことが必要となる。
この情報の書き込み方法としては、外部交番磁界を用いて繰り返し信号をハードディスクに着磁することによりサーボ信号を書き込む方法の提案がなされている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】IEEE TRANSACTION ON MAGNETICS, VOL.40, NO.4, JULY 2004 PP.2510-2515
【特許文献1】特許第2863190号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、このような書き込み外部交番磁界によって、繰り返し磁化によるサーボ信号等のコントロール情報の書き込みを行う場合、高記録密度化に伴って外部交番磁界の周波数が高くなると、この交番磁界発生手段としての例えば電磁石の駆動周波数の高周波数化が必要となり、SN極の反転の急峻性が低下する。
また、記録トラックごとに情報信号の書き込みを行う作業は、長時間を要し、作業性、したがって、生産性に劣るという問題がある。
DTR構成とするための作業も煩雑である。
本発明は、DTR構成による磁気ディスクを、簡便に、高い生産性をもって製造することができる磁気ディスクの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明製造方法による磁気ディスクの製造方法においては、上述したDTR構成を有する磁気ディスクにあって、そのコントロール情報記録領域におけるコントロール情報の記録を凹状ピットとし、かつ、この凹部内の磁化の向きをその外周のランド部における磁化の向きとは逆向きとすることによって記録する磁気ディスクを製造するものであり、そのDTR構成における分離溝とコントロール情報の記録の凹状ピットとの異なる深さの凹部として形成することにより、上述した初期状態の磁化を直流磁界によって行うことができるようにし、また、これら深さを異にする凹部の形成を同一工程で形成することができるようにして、製造の簡略化をはかるものである。
【0011】
本発明による磁気ディスクの製造方法においては、データ情報記録領域と、コントロール情報記録領域とによるセクタが配置される複数の磁気記録トラックが同心的に配置される磁気ディスクの製造方法であって、上記各磁気記録トラックの上記データ情報記録領域におけるデータ書き込みがなされるデータエリア間に形成する分離溝と、上記コントロール情報記録領域のコントロール情報を記録する上記分離溝に比して浅い凹状ピットとを同時に形成する凹部の形成工程を有し、該凹部の形成工程が、スタンパ原盤の作製工程と、該スタンパ原盤からの所要数の転写によるスタンパの作製工程と、該スタンパを目的とする磁気ディスクを構成する基板上に形成されたレジスト層を押圧して該レジスト層に、上記分離溝と上記凹状ピットとを同時に成型する成型工程と、該レジスト層上から全面的にエッチングして、上記ディスク基板に上記分離溝と凹部とを同時に形成するエッチング工程を有し、上記スタンパ原盤の作製工程が、該スタンパ原盤を構成する基板上にポジ型のフォトレジスト層を形成する工程と、該フォトレジスト層に対するパターン露光工程と、現像処理工程とを有し、上記パターン露光は、上記分離溝の形成部および凹状ピット外のランド部の形成部を露光し、上記分離溝の形成部を非露光部とし、上記凹状ピットの形成部を、その周辺に対する露光からの広がり露光による弱露光部として上記現像処理に対し、上記ランド部の形成部に比しては低い所要の可溶性が生じるようにし、上記現像処理によって上記ポジ型フォトレジスト層に、上記ランド部の形成部の露光部において溶解除去し、上記凹状ピットの形成部の弱露光部において一部の厚さを残存させ、上記分離溝の形成部において殆ど残存させた上記フォトレジスト層の凹凸パターンを有する上記スタンパ原盤を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記磁性層に対し、上記凹状ピット内と、上記ランド部に互いに逆向きの磁化を行うことを特徴とする。
また、本発明は、上記逆向きの磁化が、上記ランド部と上記凹状ピット部とを一方向に磁化する第1の直流磁化処理と、該第1の磁化処理における上記磁化方向と逆向きの磁化を上記凹状ピット内の磁化を反転させることなく上記ランド部のみにおいて逆向きに反転させる第2の磁化処理とによることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記コントロール情報記録領域は、位相信号検出用のクロック信号が書き込まれるクロックエリアと、サーボ信号が書き込まれるサーボエリアと、アドレス情報ないしはID情報が書き込まれるアドレスエリアとを有し、上記クロック信号、サーボ信号、アドレス情報ないしはID情報が、上記凹状ピットとして記録されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明による磁気ディスクの製造方法によって得る磁気ディスクは、データエリア間が分離溝によって分離されたDTR構成を有することから、隣接するデータエリア間の漏洩磁束による相互の侵食を回避することができる。したがって、記録磁気ヘッドのトラック幅を、データエリアの幅より大とすることができ、データエリアの全幅に渡って記録マークを確実に形成することができる。また再生に当たっては、再生磁気ヘッドのトラック幅を、データエリア幅より大に、したがって、記録マークより大に選定することができる。
これにより、再生信号のS/Nを高めることができる。
【0015】
そして、特に、本発明においては、異なる深さの分離溝と凹状ピットとを有する凹凸面を、スタンパを用いた成型によって同時に形成するものもであり、更に、このスタンパの作製において、凹凸パターンを形成するためのフォトレジスト層を露光状態の選定によって現像処理におけるフォトレジスト層の除去量を変化させることから、これら深さを異にするパターンを同時形成することができ、製造工程数の増加を軽減して、目的とする磁気ディスクの製造を可能にするものである。
【0016】
そして、磁気ディスクの初期化状態を得るに当たっては、直流磁界によって、クロック信号、サーボ信号、アドレス情報ないしはID情報等のコントロール情報の書き込みを行うことから、交流磁界によって書き込みを行う場合にける電磁石や特別なオーバーライトヘッドを用いることなく、簡単に、かつ短時間で高い作業性をもって、各情報の書き込みを行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による磁気ディスクの製造方法の実施の形態例を説明する。しかしながら、本発明は、この実施の形態例に限定されるものではない。
先ず、本発明製造方法によって得ようとする磁気ディスクについて説明する。
図1は、本発明によって得る磁気ディスクとしてのハードディスクの概略平面図である。この磁気ディスク10は、磁気ディスクのドライブ装置(図示せず)に装着される中心孔12を有する円盤状の例えばAl、ガラス、Si等によるディスク基板11上に、中心孔12を中心としてその周囲に磁性層13が形成され、磁気記録領域部14が形成されて成る。
【0018】
磁気記録領域部14には、中心孔12を中心としてその周囲に、多数の磁気記録トラック15(図1においては1本のトラックのみを示している)が同心的に配置形成される。
図2は、図1の磁気ディスク10の要部の模式的平面図で、鎖線T1,T2,T3……は、同心的に配置された互いに隣り合う一部の磁気トラック15の中心線を示す。
また、図3は、図2のA−A線の概略断面図である。
【0019】
各磁気記録トラック15は、そのデータ情報記録領域16、コントロール情報記録領域17によるセクタSが複数配置され、データ情報記録領域16が、コントロール情報記録領域17によって区分された構成を有する。
隣接する磁気記録トラック15のデータ情報記録領域16における情報データの書き込みがなされるデータエリア18間には、データエリア18の上面に対して所要の深さを有する分離溝19が形成され、これら分離溝19によってデータエリア18が短冊状パターンとされる。
【0020】
コントロール情報記録領域17は、位相信号検出用のクロック信号が書き込まれるクロックエリア20と、情報データの、再生時にトラッキング・サーボコントロール用情報を得るサーボ信号が書き込まれるサーボエリア21と、アドレス情報ないしはID情報が書き込まれるアドレスエリア22とを有する。
コントロール情報記録領域17の各クロッキングエリア20と、サーボエリア21と、アドレスエリア22には、それぞれクロック信号、サーボ信号、アドレス情報ないしはID情報が記録されるものであるが、本発明においては、これらコントロール情報信号が、図2と図3で示すように、データエリア18面すなわちランド部24の上面に対して所定の深さを有する凹状ピット23によって形成される。
【0021】
磁性層13は、少なくとも凹状ピット23内と、これら凹状ピット23や、分離溝19の形成部外のランド部24上とに形成され、この磁性層13に対し、凹状ピット23内と、ランド部24とにおいて、互いに逆向きの磁化がなされることによって、凹状ピット23のエッジにおける磁化の反転によって、各コントロール情報信号の記録再生が行われる。
すなわち、例えば図2に、白抜き矢印aで示すように、ランド部において、磁気記録トラック方向に沿う一方向の例えば面内磁化がなされる場合、白抜き矢印bで示す逆向きの磁化によってコントロール情報の記録がなされる。
【0022】
データ情報記録領域16の分離溝19の深さは、図3に示されるように、凹状ピット23の深さより十分大に選定され、分離溝19によって分離されるランド部24上のデータ情報が、このデータ情報の書込みおよび読み取り時に干渉することを阻止する深さとする。
【0023】
このようにして、図1で示す磁性層13が形成された磁気記録領域部において、多数の同心円状に形成された記録トラック15のそれぞれが、コントロール情報記録領域17を遮断部分として断続するデータ情報記録領域16による複数のセクタSによって構成される。
【0024】
この構成において、磁気ディスク10を回転させて、再生磁気ヘッドを磁気トラック15上に走行させる。このとき、磁気ヘッドによって、凹状ピット23のエッジ位置で、検出磁界が反転するため、これによってクロック、サーボ、およびアドレス信号の読み出しを行うことができるものである。
このようにして、磁気トラック15に対する磁気ヘッドのトラッキングを高精度で行って、データ情報エリア18のデータ情報を読み出すことができる。
【0025】
本発明による磁気ディスクの製造方法にあっては、分離溝19と、この分離溝19に比して浅いコントロール情報を記録する凹状ピット23とを同時に形成する。
そして、この少なくとも分離溝19と凹状ピットを有する微細凹凸面上に、磁性層13を形成し、例えば2回の直流磁化によって、凹状ピット内を一方向に磁化し、ランド部24をこれとは逆方向に磁化した初期状態を形成する。
【0026】
図4および図5の製造工程図を参照して、本発明による磁気ディスク10の製造方法の1実施形態例を説明する。
まず、スタンパ原盤の作製を行う。
図4Aに示すように、スタンパ原盤を構成する表面が平滑性にすぐれたSi基板、あるいは石英ガラス基板等による基板31を用意し、この上にポジ型のフォトレジスト層32を例えば厚さ100nmに均一に塗布する。
このフォトレジスト層32に対して電子ビーム露光あるいはレーザービーム露光によるパターン露光を行う。
【0027】
このパターン露光は、例えば図6Aに示す、分離溝19および凹状ピット23を形成する場合の、露光パターンを図6Bに模式的に示すように、ランド部24に対応する部分24Eにおいては、フォトレジスト層に対する現像処理によって良好に可溶除去することができる程度に十分な露光を、電子ビームあるいはレーザービーム走査によっていわば塗りつぶすように露光し、分離溝19に対応する部分19Eにおいては、フォトレジスト層に対する現像処理で高い非可溶性を示すことができるように、非露光状態とする。
【0028】
これに対し、凹状ピット23に対応する部分23Eにおいては、露光を積極的には行わないが、この部分の周辺のランド部に対応する縁部の露光をビームのパワー等を調整することによって、凹状ピット23に対応する部分23E上に露光スポットの周辺の露光強度が弱い広がり部分でのいわゆるかぶりが生じるようにして、低い露光がなされるようにする。
【0029】
このようにして、図4Bに示すように、各部分24E,19Eおよび23Eによってそれぞれ異なる露光状態を形成する。
このフォトレジスト層32に対してこのフォトレジストに対する専用の現像液によって現像処理を行う。
このようにすると、図4Cに示すように十分な露光がなされて現像液に対して良好な可溶性を示す部分24Eにおいては、フォトレジスト層が除去されるが、露光がなされていない部分19Eにおいては、可溶性を示さないことから、フォトレジスト層が残されて例えばフォトレジスト層32の厚さに相当する100nmの高さをもって残される。そして、かぶり露光によって幾分の可溶性を有する部分23Eにおいては、ある程度の除去がなされ、領域19Eに比して、その厚みが小とされた例えば40nmの厚さで残される。
このようにして、基板31上にフォトレジスト層32によって凹凸パターンが形成されたスタンパ原盤33が構成される。
【0030】
次に、図4Dに示すように、スタンパ原盤33上に、電気メッキを可能にする下地処理を行い、Ni等を電気メッキして金属メッキ層34を形成する。
図4Eに示すように、金属メッキ層34をスタンパ原盤33から剥離してマスタスタンパ35を作製する。このマスタスタンパ35には、スタンパ原盤33のフォトレジスト層32によって形成された凹凸パターンが転写された反転パターンによる凹凸パターン35Aが形成される。
図4Fに示すように、このマスタスタンパ35上に、剥離層を介して同様に例えばNiメッキによる金属メッキ層36を形成する。
図4Gに示すように、金属メッキ層36をマスタスタンパ35から剥離してスタンパ37を形成する。
このスタンパ37には、マスタスタンパ35の凹凸パターン35Aが転写された反転パターンによる凹凸パターン37Aが形成される。
すなわち、このスタンパ37の凹凸パターン37Aは、スタンパ原盤33のフォトレジスト層32による凹凸パターンと同形状の凹凸パターンであり、したがって、分離溝19に対応する突起19Pと、これより低い凹状ピット23に対応する突起23Pが形成されて成る。
【0031】
一方、図5Aに示すようにハードディスクを構成する表面が平滑なガラス基板、Al基板、ガラス基板等によるディスク基板11上に例えばNiPから成る表面材料層62を成膜この上に、例えばスピンコートによって例えばアクリル系有機ポリマーによるレジスト層63を膜厚例えば100nmに均一に塗布する。
図5Bに示すように、このレジスト層63に対してスタンパ37の突起19Pおよび23Pを有する凹凸面を均一な圧力と熱をかけて、ホットエンボス方式(またはナノインプリント方式)によって押圧する。
図5Cに示すように、スタンパ37を剥離する。このようにすると、スタンパ37の凹凸が反転した凹凸パターンがレジスト層63に転写される。すなわち、スタンパの突起19Pおよび23Pに対応する深さの凹部19Hおよび23Hが形成さる。この凹部19Hは、例えばレジスト層63の厚さに対応する深さとすることができ、凹部23Hは、例えば50nmの深さとすることができる。
【0032】
そして、図5Dに示すように、レジスト層63上から全面的にドライエッチングを行い、図5Eに示すように、レジスト層63をエッチング除去して表面材料層62に入り込む深さまでエッチングする。
このようにして、レジスト層63による凹凸を踏襲した凹凸が形成され、分離溝19と凹状ピット23とが表面材料層62に、すなわちディスク表面に形成される。
このドライエッチングは、例えば塩素系ガス(Cl,SiCl等)と酸素(O)の混合ガスが用いられその流量比によりエッチングレートの調整を行うことができる。
凹状ピット23は、例えば30nmの深さとすることができ、分離溝19の深さは、例えば60nmとすることができる。
【0033】
次に、図5Fに示すように、凹状ピット23や分離溝19による凹凸パターンが形成された基板11全体に渡り、Co、Cr、Pt等から成る磁性層13をスパッタ成膜し、更にこの上に図示しないが、DLC(Diamond Like Carbon)等の保護層や、潤滑剤層を順次積層して、磁気ディスクとしてのハードディスク10を得る。
そして、後述する直流磁化による磁化処理によってランド部24と凹状ピット23内に高いに逆向きの磁化を行う。
【0034】
上述した図4Bでおよび図6で示したフォトレジスト層32に対するパターン露光は、レーザービーム走査、あるいは電子ビーム走査によって行うことができる。
【0035】
レーザービーム露光は、いわゆるレーザービームレコーダー(LBR)を利用することができる。
このLBRは、例えば波長351nmのArレーザー、波長266nmのYAG第4高調波レーザーなどの紫外線レーザーを、音響光学変調器によってオン・オフ制御して、高速回転させた基板31上のフォトレジスト層32上を走査させて、上述した所要のパターン露光を行うことができる。
【0036】
図6は、フォトレジスト層32に対して電子ビーム露光を行う電子ビームレコーダー(EBR)の概略構成図である。
EBRは、除振テーブル51を有し、この上に、電子ビームの被照射体の配置部、すなわちレジスト層32が塗布された基板31の配置部が構成される。
基板31の配置部は、エアスライド52上に、基板31をその軸心を中心に回動させるスピンドル53を有する。
そして、エアスライド52によって、基板31の軸心と直交する面内において、互いに直交する2軸方向にスライドさせることができるようになされる。
【0037】
この電子ビームの被照射体、すなわち基板31の配置部上に、電子ビームカラム54が配置される。
この電子ビームカラム54は、電子銃55と、コンデンサーレンズ56と、ブランキング電極(ビーム変調部)57と、アパーチャー58と、ビーム偏向電極59と、フォーカス調整レンズ90と、対物レンズ91等を有して成る。
【0038】
この構成によって、電子銃55から発生した電子ビームをブランキング電極57とアパーチャー58によって、電子ビーム92のオンオフを高速で行うようになされる。
電子ビーム92は、対物レンズ91によって直径100nm以下に収束され、露光マスク基板31上の電子ビーム用レジストに集束させ、スピンドル53によって回転され、エアスライド52によって半径方向に移動する基板31上のレジスト層32に対する電子ビームのパターン照射により、所要のパターンをもって電子ビーム露光する。
【0039】
上述した磁気ディスク10すなわちハードディスクに対し、初期化の磁化処理は、第1および第2の2回の直流磁化によってなされる。
この磁化は、例えば図8に示すように、磁気ディスク10を、ターンテーブル(図示せず)上に装着し、例えば3,600rpmで回転駆動する。このように回転される磁気ディスク10の磁性層13に例えば磁気ディスクの回転による気流による浮上力が得られるスライダを有する浮上型の直流磁場書き込み用ヘッド70によって行う。
【0040】
この直流磁場による書き込み用ヘッド70は、例えば書き込み幅が1mm程度で、ヘッドを搭載するスライドがディスクの半径方向に移動するようになされる。
そして、その浮上量は、例えば50nm程度浮上させた状態で、円周方向すなわち磁気トラックに沿って単一方向の磁場を発生させ、記録領域全体に渡ってランド部24、凹状ピット部23、および分離溝19内を一方向に磁化させる。
このようにして、第1の磁化処理を行う。この第1の磁化処理は、最もヘッドからの距離が大きい分離溝19内については、必ずしも磁化される必要はないが、ランド部24と、凹状ピット23内においては、同一方向の直流磁化がなされるようにする。
【0041】
続いて、第2の磁化処理を行う。この第2の磁化処理は、上述した第1の磁化処理工程における磁化とは逆向きの直流磁場の印加によってなされる。この第2の磁化処理においても、第1の磁化処理におけると同様の書込み用磁気ヘッド70によって行うことができる。この場合、その浮上高さ、或いは磁界の強さの調節により、ランド部24のみを磁化反転させ、凹状ピット23は第1の磁化処理による磁化の向きの磁化方向が保持されるようにする。
【0042】
このように第1および第2の直流磁場による磁化処理によってランド部24と凹状ピット23において、図9にその一部の破断斜視図を示すように、矢印aおよびbで示す互いに磁化方向が反転した状態を形成する。
【0043】
このようにして、凹状ピット23とその磁化によってコントロール情報の記録がなされた磁気ディスク10に対して読み取り用磁気ヘッド(図示せず)をディスク10上に走査させることにより、凹状ピット23のエッジが磁化反転に対応する信号として検出されることにより、クロック信号、トラッキング用信号、及びアドレス信号を検出し、データ情報記録領域において信号の記録再生を、従来のDTR構造を持たないハードディスクと同様に実行することができるものである。
【0044】
なお、第1の磁化処理における記録領域全体に渡る磁化は、磁気ヘッド走査によることなく、強力で大面積の電磁石を用いて全面的に直流磁場印加を行うようにして、短時間で同一向きの磁化を行うようにすることもできる。
また、分離溝19の深さを十分大にしておくことによって、第1の磁化処理による磁化が不十分とするとか、あるいは磁化されていないランダム配向の状態であっても、データ情報記録領域における信号の記録再生における、分離溝底部からの漏れ磁界の影響を無視することができる。
【0045】
以上述べた磁気ディスクの作製方法により、トラックピッチ130nmで1インチサイズのハードディスクを作製した場合、どの程度の記録容量になるかを計算すると、TPI(Track per inch)は195Kbit/inchでBPI(Bit per inch)がその7倍とすると1.37Mbit/inchとなり、面密度は約200Gbit/inchになる。1インチ径のディスクでは0.46inchの有効エリアを持つので、サーボ、アドレスピット等の領域などを考慮して効率を80%と見積もると、1枚のディスク10で片面12GB程度の記録容量となる。
【0046】
上述したように、本発明においては、DTR構成によるにもかかわらず、従来におけるような外部交番磁界を用いずに、外部直流磁界での書き込みを可能にしたことによって短時間でサーボ情報を書き込むことができ、従来に比して、格段に生産性の向上を図ることができるものである。
また縮小投影露光方式を用いたフォトリソグラフィ工程を適用することにより、直径200mm〜300mmのウェハー基板から多数の、例えば直径1.3インチ以下の例えば1インチサイズの小径磁気ディスクを量産的に製造することができ、特にモバイル用の小径ハードディスクを量産的に製造することができるものである。
【0047】
なお、上述した磁気ディスクとしての磁気ディスク構造、および初期化方法は、磁気記録をディスク表面と平行方向に磁化することによる長手磁気記録方式であるが、磁化方向をディスク表面と垂直な方向で記録する垂直磁気記録方式でも同様のパターン構造、作製プロセス、および初期化方法が適用できるものである。
【0048】
また、押圧成型に用いるスタンパを得る工程における繰り返し転写は、上述した例に限定されるものではない。
また、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施例に限定されるものではなく、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な変更、置換又はその同等のものを行うことができることはいうまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の磁気ディスクの一例の概略平面図である。
【図2】本発明の磁気ディスクの一例の要部の模式的パターン図である。
【図3】図2のA−A線の概略断面図である。
【図4】A〜Gは、本発明による磁気ディスクの製造方法に用いるマスク盤の作製方法の一例の前半の工程図である。
【図5】A〜Fは、本発明による磁気ディスクの製造方法に用いるマスク盤の作製方法の一例の後半の工程図である。
【図6】AおよびBは、本発明による磁気ディスクの製造方法におけるパターン露光の説明図である。
【図7】本発明による磁気ディスクの製造方法における縮小露光装置の一例の構成図である。
【図8】本発明による磁気ディスクの初期化磁化の説明図である。
【図9】本発明による磁気ディスクの初期化磁化状態を示す要部断面の斜視図である。
【図10】従来のハードディスクの一部の概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1……基板、2……磁性層、3……保護層、4……潤滑層、5……中心孔、11……ディスク基板、12……中心孔、13……磁性層、14……記録領域部、15……磁気トラック、16……データ情報記録領域、17……コントロール情報記録領域、18……データエリア、19……分離溝、19P……20……クロッキングエリア、21……サーボエリア、22アドレスエリア、23……凹状ピット、24……ランド部、31……基板、32……フォトレジスト層、33……スタンパ原盤、34,36……金属メッキ層、35……マスタスタンパ、37……スタンパ、51……除震テーブル、52……エアスライド、53……スピンドル、54……電子ビームカラム、55……電子銃、56……コンデンサーレンズ、57……ブランキング電極(ビーム変調部)、58……アパーチャー、59……ビーム偏向電極、62……表面材料層、63……フォトレジスト層、91……対物レンズ、92……電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ情報記録領域と、コントロール情報記録領域とによるセクタが配置される複数の磁気記録トラックが同心的に配置される磁気ディスクの製造方法であって、
上記各磁気記録トラックの上記データ情報記録領域におけるデータ書き込みがなされるデータエリア間に形成する分離溝と、上記コントロール情報記録領域のコントロール情報を記録する上記分離溝に比して浅い凹状ピットとを同時に形成する凹部の形成工程を有し、
該凹部の形成工程が、スタンパ原盤の作製工程と、該スタンパ原盤からの所要数の転写によるスタンパの作製工程と、該スタンパを目的とする磁気ディスクを構成する基板上に形成されたレジスト層を押圧して該レジスト層に、上記分離溝と上記凹状ピットとを同時に成型する成型工程と、該レジスト層上から全面的にエッチングして、上記ディスク基板に上記分離溝と凹部とを同時に形成するエッチング工程を有し、
上記スタンパ原盤の作製工程が、該スタンパ原盤を構成する基板上にポジ型のフォトレジスト層を形成する工程と、該フォトレジスト層に対するパターン露光工程と、現像処理工程とを有し、
上記パターン露光は、上記分離溝の形成部および凹状ピット外のランド部の形成部を露光し、上記分離溝の形成部を非露光部とし、上記凹状ピットの形成部を、その周辺に対する露光からの広がり露光による弱露光部として上記現像処理に対し、上記ランド部の形成部に比しては低い所要の可溶性が生じるようにし、上記現像処理によって上記ポジ型フォトレジスト層に、上記ランド部の形成部の露光部において溶解除去し、上記凹状ピットの形成部の弱露光部において一部の厚さを残存させ、上記分離溝の形成部において殆ど残存させた上記フォトレジスト層の凹凸パターンを有する上記スタンパ原盤を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
上記パターン露光を電子ビームもしくはレーザービームによって行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
上記磁性層に対し、上記凹状ピット内と、上記ランド部に互いに逆向きの磁化を行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
上記逆向き磁化が、上記ランド部と上記凹状ピット部とを一方向に磁化する第1の直流磁化処理と、該第1の磁化処理における上記磁化方向と逆向きの磁化を上記凹状ピット内の磁化を反転させることなく上記ランド部のみにおいて逆向きに反転させる第2の磁化処理とによることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
上記コントロール情報記録領域は、位相信号検出用のクロック信号が書き込まれるクロックエリアと、サーボ信号が書き込まれるサーボエリアと、アドレス情報ないしはID情報が書き込まれるアドレスエリアとを有し、上記クロック信号、サーボ信号、アドレス情報ないしはID情報が、上記凹状ピットとして記録されることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−323945(P2006−323945A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147306(P2005−147306)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】